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関税評価(加算要素)の申告漏れを防御する
税関事後調査において、最も多額の追徴課税が発生し、かつ調査官が最も重点的にチェックする項目をご存知でしょうか。それは「関税評価(課税価格の決定)」です。
輸入申告における「価格」とは、単にインボイス(送り状)に記載された金額を指すのではありません。日本の関税法では、インボイス価格に加えて、輸入者が別途負担した特定の費用を「加算要素」として合算した金額(課税価格)に対して関税・消費税を課すと定めています。
「インボイス通りに申告しているから大丈夫」という思い込みが、事後調査で数千万円単位の追徴課税を招くケースは実際に多数存在します。今回は、通関士資格を持つ弁護士が、事後調査で狙われる「加算要素」の急所と、その防衛策を解説します。
1 調査官がチェックする「4つの加算要素」
事後調査当日、調査官は輸入者の「総勘定元帳」や「海外送金記録」を輸入許可書、インボイスと照合します。そこでインボイス価格以外の送金が見つかると、以下の項目に該当しないか厳密にチェックされていきます。
①ロイヤリティ・ライセンス料(関税定率法第4条第1項第4号)
海外の権利者に対し、商標権や特許権の使用料を支払っている場合、それが「輸入貨物に関連し」かつ「輸入取引の条件」となっているならば、課税価格に算入しなければなりません。
【チェックポイント】
ライセンス契約書に「本契約を締結しなければ貨物を購入できない」旨の条項があるかどうか。
②無償提供資材(アシスト)の費用(同法第1項第3号)
輸入者が海外の製造メーカーに対し、材料、部品、金型、デザイン、考案などを無償または安価で提供している場合、その作成費用や入手費用を申告価格に加算する必要があります。
【チェックポイント】
日本で購入して送った「金型」の代金や、デザイナーに支払った「設計費」が漏れていないかどうか。
③運賃・保険料(同法第1項第1号)
原則として、輸入港に到着するまでの運賃・保険料は課税対象です。
【チェックポイント】
EXW(工場渡し)やFOB条件で輸入している際、日本側で支払った国内運送費ではなく「海外から日本までの国際運賃」が正しく加算されているか。
④買付手数料以外の各種手数料
「買付手数料(Buying Commission)」は非課税ですが、それ以外の販売手数料や仲介手数料は加算対象です。
【チェックポイント】
契約上の名目が「コンサルティング料」であっても、実態が仲介手数料であれば否認の対象となります。
2 なぜ「事前準備」が重要なのか?実務上のリスク
関税評価の論点は、法解釈が非常に複雑です。調査官から指摘を受けた際、その場で「これは加算対象ではない」と論理的に反論するのは至難の業です。
また、常に「隠蔽・仮装」と疑われるリスクが伴う部分でもあります。
意図的に隠したつもりがなくても、多額の送金記録が帳簿にあり、それが申告から漏れていた場合、税関から「悪質な隠蔽」とみなされるリスクがあります。そうなれば、35%~40%という極めて重い「重加算税」が課せられ、さらにコンプライアンスの低い企業として税関の「ブラックリスト」に載ってしまうおそれもあります(輸入時に区分3が多発することは避けたいところです)。
加えて、一度「加算漏れ」が認定されると、調査官は過去5年分の同様の取引すべてを遡って詳細に計算し直します。これが、追徴課税額が膨れ上がる最大の理由です。
3 通関士資格を有する弁護士が教える「日常の備え」チェックフロー
事後調査で間違いを指摘されないためには、日常から以下のフローで点検を行っておくことが重要です。
①送金名目の全件把握
経理部門と連携し、海外への送金のうち「商品の代金(インボイス代金)」以外の名目(Royalty, Mold cost, Commission等)をすべてリストアップする。
②契約書のリーガルチェック
支払いが発生している費用について、契約書上の定義が「関税法上の加算要素」に該当するか、弁護士の視点で精査する。
③通関業者への正確な情報提供
「今回の輸入には、別途支払った金型代の按分額が含まれる」といった情報を、申告前に通関業者へ書面で伝達する。
4 もし「申告漏れ」に気づいたら―自主修正申告のすすめ
事後調査の通知が届く前に、自らミスに気づいて修正申告を行えば、過少申告加算税(10%~15%)は免除されます。当事務所では、調査通知が来る前の「模擬調査(内部監査)」を推奨しております。通関士資格を有し事後調査の対応経験も豊富な弁護士の知見を通して通関手続上のミスを見つけ出し、法的なリスクを整理した上で自主的に修正を行うことで、企業の金銭的・社会的ダメージを最小限に抑えることが可能です。
5 まとめ
関税評価は、税関事後調査における「最大の主戦場」です。
調査官の指摘に全てしたがって過大な税金を支払う必要はありませんが、そのためには「理論武装」と「証拠書類の整理」が欠かせません。
「海外への別途送金があるが、関税に関係するか不安だ」、「過去の契約書を一度チェックしてほしい」といったお悩みがあれば、事後調査の通知が来る前に、ぜひお気軽にご相談ください。
お問合せは、こちらからどうぞ。
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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(プロフィールは、こちら)

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。
RCEP・TPP11活用時の落とし穴
はじめに:仮の相談者から寄せられた相談事例のご紹介
本日は、輸入実務において劇的なコスト削減を可能にする一方で、一歩間違えれば企業の財務基盤を揺るがすほどの破壊力を持つ「EPA(経済連携協定)の原産性否認リスク」について、その法的構造から実務的な防衛策までを網羅的に解説いたします。RCEP、TPP11、日EU・EPAといった大型の経済連携協定が次々と発効したことで、特恵税率を適用させて輸入コストを削減する企業が急速に増えています。しかし、その恩恵を享受する裏側には、税関による厳しい事後調査のリスクが常に潜んでいることを忘れてはいけません。まずは、当事務所に実際に寄せられる相談内容を模した、以下の架空事例をご覧ください。
【相談者】
神奈川県内で精密電子機器の輸入卸売を行う株式会社A、代表取締役、佐藤氏(仮名)
【相談内容】
「当社は、RCEPを活用してベトナムの製造メーカーB社から電子部品を継続的に輸入しております。現地からは公式な原産地証明書(フォームRCEP)を毎回の輸入時に受け取っており、関税無税で申告してきました。ところが、輸入開始から2年が経過した先日、税関から『検認(Verification)』の通知が届きました。税関がB社に対して原産性を証明する資料の提出を求めたところ、B社は『企業秘密である部品表(BOM)は出せない』と回答を拒否してしまいました。その結果、日本の税関は原産性が確認できないとして、過去2年分の輸入貨物すべてについてEPAの適用を否認し、本来の実行最恵国(MFN)税率との差額である関税三千万円と、消費税、さらに過少申告加算税の納付を命じられました。当社は現地の証明書を信じていただけなのに、なぜこれほどのペナルティを背負わなければならないのでしょうか。法的な救済措置や、今後の対策について切実な相談をさせていただきます」
このような事例は、グローバルなサプライチェーンにおいて原産地の証明が複雑化する中で、日本国内の輸入者が常に晒されている深刻なリスクを象徴しています。本日は、この原産地規則の論理と、事後調査での否認という最悪の事態を防ぐための実務的要諦を解説いたします。
1 EPA特恵税率適用の法的根拠と輸入者の証明責任
EPAに基づく特恵関税の適用は、関税法および各協定の実施に関する法律によって規定されています。特恵税率の適用を受けるためには、その貨物が協定上の「原産品」であることを輸入者が証明しなければなりません。
「税関長は、経済連携協定の規定に基づき関税の譲許の便益を受ける貨物について(中略)当該貨物が当該経済連携協定の規定に基づき当該締約国の原産品とされるものであることを確認するために必要な資料の提出を求めることができる。」
この条文が示す通り、税関は輸入者に対し、いつでも原産性の証拠を求める権限を有しています。日本の輸入者は、輸出者が発行した証明書を提出するだけでなく、その内容が正しいことを担保する責任を負います。これを「輸入者の立証責任」と呼びます。佐藤氏の事例のように、輸出者が資料提供を拒否した場合であっても、日本の税関に対する納税義務は輸入者に帰属するため、輸出者の不協力はそのまま輸入者の追徴リスクに直結いたします。さらに、経済連携協定に基づく特恵関税の適用に関する政令等により、原産地を証明する書類の保存義務(通常5年から7年)も厳格に定められています。
2 原産地規則の基礎知識と主要な判定基準の法的要件
原産地規則とは、貨物が特定の国で「生産」されたとみなされるための法的な基準です。大きく分けて以下の三つの類型が存在いたします。
(一)完全生産品(Wholly Obtained Goods)
当該国で完全に獲得、または生産された貨物を指します。例えば、当該国の領土内で採掘された鉱物、収穫された農産物、領海内で漁獲された水産物などがこれに該当いたします。
(二)実質的変更基準(Substantial Transformation Criterion)
二カ国以上にわたって製造が行われる場合、最終的に「実質的な変更」が加えられた国を原産国とする基準です。具体的には以下の二つの手法が用いられます。
一 関税分類変更基準(CTC:Change in Tariff Classification)
使用された非原産材料のHSコードと、完成品のHSコードが、協定で定められたレベル(2桁、4桁、または6桁)で変化していることを求める基準です。
二 付加価値基準(VA:Value Added Content)
完成品の価格のうち、原産国で付加された価値(材料費、労務費、経費等)の割合が一定水準(多くの協定では40パーセント以上)であることを求める基準です。
(三)加工工程基準(Specific Processing Criterion)
特定の化学反応や複雑な組立工程など、あらかじめ協定で定められた特定の加工が行われた場合に原産性を認める基準です。
実務上、製造業において最もトラブルになりやすいのが、佐藤氏の事例でも問題となった「付加価値基準」です。計算方法には、非原産材料の価格を差し引く「控除方式」と、原産材料や経費を積み上げる「積上げ方式」があり、協定ごとに計算式が厳格に定められています。
以下の表に、原産地規則の主要な基準とその特徴を整理いたしました。
┌──────────────────────────────────────┐
│ 経済連携協定(EPA)における原産地判定基準の比較表 │
├────────┬─────────────────┬───────────┤
│ 判定基準の名称│ 判定の論理と定義 │ 実務上の留意事項 │
├────────┼─────────────────┼───────────┤
│完全生産品 │一国のみで採取、生産された物品 │原材料まで遡る証明が必要│
│(WO) │ │ │
├────────┼─────────────────┼───────────┤
│関税分類変更基準│加工によりHSコードが変化 │全材料のHSコード特定│
│(CTC) │(2桁・4桁・6桁の変更) │が必須となる │
├────────┼─────────────────┼───────────┤
│付加価値基準 │域内の付加価値額が一定比率以上 │為替や原材料価格の変動│
│(VA) │(通常FOB価格の40%以上等) │によるリスクがある │
├────────┼─────────────────┼───────────┤
│加工工程基準 │特定の化学反応や高度な加工工程 │製造工程の詳細な記録と│
│(SP) │が原産国内で行われたこと │図面が必要となる │
└────────┴─────────────────┴───────────┘
3 検認(Verification)の実務フローと否認の法的プロセス
EPA実務において、輸入許可はあくまで「仮の通過点」に過ぎません。真の試練は、輸入から数年経って実施される「検認」です。これは、日本の税関が輸出国の当局や輸出者に対し、原産性の正当性を直接照会する手続きです。
(一)検認の種類
一 直接検認:日本の税関が、直接海外の輸出者や生産者に質問状を送り、回答を求める形式。
二 間接検認:日本の税関が、輸出国の税関等の当局を通じて調査を依頼する形式。
(二)否認の論理
税関からの照会に対して、以下の事態が発生した場合、特恵税率の適用は遡及的に否認されます。
一 輸出者または生産者が期限内に回答しなかった場合。
二 回答内容が不十分で、原産地規則を満たしていることが確認できない場合。
三 提出された資料に虚偽があることが判明した場合。
佐藤氏の事例では、輸出者による回答拒否が「一」に該当し、自動的に否認処分が下されました。否認が確定すると、関税法第14条に基づき、法定納期限から5年を経過するまで税額の更正が可能です。また、過少申告加算税(10パーセントから15パーセント)に加え、延滞税も重くのしかかります。
以下の表に、検認において税関から提出を求められる主要な資料をまとめました。
┌──────────────────────────────────────┐
│ 検認(原産地調査)において必要となる証拠資料一覧表 │
├────────┬─────────────────┬───────────┤
│ 書類の名称 │ 証明すべき具体的内容 │ 保存のポイント │
├────────┼─────────────────┼───────────┤
│部品構成表 │全原材料の名称、原産地、価格、 │最新の製造実態を反映し│
│(BOM) │および個々のHSコード │ていること │
├────────┼─────────────────┼───────────┤
│製造工程図 │原材料から完成品に至るまでの │加工地が原産国内である│
│(フロー図) │具体的な加工プロセスの詳細 │ことを証明する │
├────────┼─────────────────┼───────────┤
│原価計算書 │付加価値基準を計算するための │客観的な会計帳簿と整合│
│(コスト表) │材料費、労務費、経費の内訳 │していること │
├────────┼─────────────────┼───────────┤
│直接運送の証拠 │積替えがある場合、第三国で │通し船荷証券(TBL)│
│(BL等) │非加工であることの証明書類 │を常に確保する │
└────────┴─────────────────┴───────────┘
4 自己申告制度(自己証明)における輸入者の重い責任
近年の主要な協定(TPP11、日EU・EPA、RCEPの一部等)では、商工会議所などの第三者機関が発行する証明書ではなく、輸入者や輸出者が自ら作成する「原産地申告書」で足りる「自己申告制度」が採用されています。これは手続きの簡素化を目的としていますが、法的なリスクの所在を劇的に変化させました。
(一)申告責任の転換
自己申告制度においては、輸入者が「私はこの貨物が原産品であることを確認しました」と宣言して申告を行うため、税関からの疑義に対して、輸入者自身がその根拠を提示しなければなりません。輸出者が発行した書類を単に右から左へ流すだけでは、輸入者の注意義務を果たしたとはみなされません。
(二)「知らない」が通用しない法的現実
輸入者は、輸出者との間で、事前に原産性を確認するための情報のやり取りを行っておくことが法的に求められます。「輸出者が正しいと言ったから」という抗弁は、過少申告加算税を免れるための「正当な理由」には該当しないとするのが、これまでの裁判例や行政不服審査の確立した見解です。
(三)累積規定(Cumulation)の活用と注意
累積規定とは、相手国での製造に使用された日本産の材料や、域内他国の原産材料を、自国の材料とみなして計算できる救済措置です。しかし、これを利用する場合、それらの材料が本当に日本産または域内産であることを証明する「サプライヤー証明書」の入手が不可欠であり、管理の難易度はさらに高まります。
5 サプライヤーとの国際契約における関税補償条項の戦略的意義
佐藤氏の事例で最も悔やまれるのは、輸出者との売買契約において、原産地証明の不備に伴う損害を補償させる条項が欠落していたことです。当事務所では、輸入者がサプライヤーに対して以下の義務を負わせる契約スキームを提案しております。
一 原産地規則の遵守および正確な資料提供の義務化。輸出者は、日本税関による照会に対し、合理的期間内に正確な証拠資料を提出することを確約しなければなりません。
二 税関による検認が発生した際の全面的な協力義務。輸出者は、機密情報を理由に回答を拒否してはならず、必要であれば税関への直接提出等の手段を講じなければなりません。
三 原産性が否認され、輸入者が追徴課税や加算税を課された場合、輸出者がその損害の全額(関税差額、消費税、加算税、延滞税、および弁護士費用等)を輸入者に補償する旨のインデムニティ条項の導入。
このような条項があることで、サプライヤーに対して適正な管理を強いることができ、万が一の際の経済的損失を相手方に法的に転嫁することが可能となります。
6 専門家(弁護士・通関士)による高度なリーガルサポートの必要性
EPAの活用は、単なる貿易実務ではなく、関税法、各国協定、会計、そして製造実務が交差する「高度な法務ガバナンス」の領域です。輸入者が独力で、あるいは通関業者に「丸投げ」の状態で進めることには、法的な死角が多すぎます。当事務所は、代表弁護士が輸出入に関する唯一の国家資格である通関士資格を保有しており、法務と物流実務の双方から貴社を強力に守ります。
【当事務所が提供できる具体的なEPA支援内容】
一 貴社のサプライチェーンに基づく「最適EPA活用戦略」の策定。どの協定のどの基準(CTCかVAか)を適用するのが最も安全かつ有利かを法的に判定いたします。
二 輸出者が作成した原産地証明根拠資料のリーガルチェック。提出されたBOMや工程図が、日本の税関の「検認耐性」を備えているかを事前に検証いたします。
三 税関事後調査や検認に対する、論理的な主張書面の作成および交渉代理。税関の指摘に対して、協定の解釈に基づいた有効な反論を行い、不当な否認を防ぎます。
四 不当な否認処分に対する「再調査の請求」および「審査請求」の手続代理。行政不服審査法に基づき、税関長や財務大臣に対して処分の取り消しを求めます。
五 国際間売買契約における「関税リスク分配条項」の起案および交渉サポート。海外サプライヤーとの間で、貴社に有利な補償条項を導入するための支援を行います。
六 包括的な事前教示の申請および税関当局との窓口折衝。原産地の判断が複雑な場合に、あらかじめ税関から公式な文書回答を得ておくことで、将来の追徴リスクをゼロにいたします。
7 まとめ
本日は、輸入ビジネスの利益を左右するEPA活用の恩恵と、その裏に潜む原産地否認の法的リスクについて解説いたしました。株式会社Aの佐藤氏のようなケースであっても、当初から契約書に補償条項を盛り込み、B社の原産性管理体制を事前にリーガルチェックしていれば、三千万円という巨額の追徴金を自社で負担する事態は回避できたはずです。
企業にとって、EPAは「攻め」のツールであると同時に、慎重な「守り」の体制が求められる両刃の剣です。証明書の存在を盲信するのではなく、その背後にある「原産性の真実」を法的に担保し続ける姿勢を持ってください。インボイスの数字だけを信じるのではなく、その根拠となる契約、工程、原価のすべてを俯瞰する視点こそが、真の輸入コンプライアンスです。
【お問合せは、こちらから】
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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら)
(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定
本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。
電気用品安全法と輸入ビジネス
はじめに:仮の相談者から寄せられた相談事例のご紹介
本日は、輸入実務において最も身近でありながら、一歩間違えれば重大な火災事故や数億円規模の損害賠償、さらには刑事罰の対象となる「電気用品安全法(PSE法)」の規制について、その法的構造から実務的な防衛策までを網羅的に解説いたします。中国などの海外工場から、安価でデザイン性に優れた家電製品やモバイルバッテリー、ACアダプター等を輸入し、Amazonや楽天といったECプラットフォームで販売するビジネスは非常に魅力的です。しかし、そこには「輸入者は国内における製造者と同一の責任を負う」という、極めて重い法的現実が存在いたします。まずは、当事務所に実際に寄せられた相談内容を模した、以下の架空事例をご覧ください。
【相談者】
埼玉県内でスマートフォン関連アクセサリーのEC販売を営む個人事業主、上田氏(仮名)
【相談内容】
「私は一年ほど前から、中国の工場で見つけた最新型の高速充電器と大容量モバイルバッテリーを輸入し、Amazonで販売しております。工場側からは『PSEは取得済みだ』と言われ、製品本体にもPSEマークが印刷されていたため、それを信じて出品していました。ところが先日、購入者の一人から『充電中に煙が出た』との連絡があり、その直後にAmazonから安全性の証明書類を提出しなければ出品を停止するという通告を受けました。慌てて工場に資料を請求したのですが、送られてきたのは不鮮明なテストレポート一枚だけで、経済産業省への届出書類もありませんでした。現在、私のアカウントは凍結され、数百万円分の在庫が販売不能になっています。さらに、火災被害への賠償請求も示唆されており、途方に暮れています。私は単に仕入れただけなのに、なぜこれほどまでの責任を負わなければならないのでしょうか。法的にどのように対処すべきでしょうか」
このような事例は、近年の越境ビジネスにおいて、適切な法務知識を持たずに参入した事業者の間で頻発しております。上田氏の「工場が言っているから大丈夫」という認識は、日本の電気用品安全法の前では一切通用いたしません。本日は、輸入事業者が直面するPSE法の四つの義務と、万が一の事故が発生した際のPL法(製造物責任法)上のリスクについて、関係法令を詳細に引用しながら解説いたします。
1 電気用品安全法における「輸入者」の法的な定義と立ち位置
まず輸入者が最初に理解しなければならないのは、日本の法律において、海外製品を日本国内に持ち込む者は単なる「転売屋」ではなく「製造事業者」と同等の扱いを受けるという点です。電気用品安全法第二条では、この法律が適用される「電気用品」を定義していますが、その規制対象となる事業活動について、同法第三条で以下のように規定されています。
「電気用品の製造又は輸入の事業を行おうとする者は、経済産業省令で定める電気用品の区分ごとに、次に掲げる事項を経済産業大臣に届け出なければならない」
この条文から明らかな通り、輸入者は製造者と並んで規定されており、法的な義務の内容もほぼ同一です。日本国内に製造拠点を持たない海外メーカーに代わり、その製品を日本に持ち込む者が、日本国内における安全性の最終責任を負うという構造になっています。したがって、海外工場がどれほど「安全だ」と主張したとしても、その主張が日本の技術基準に適合していることを法的に証明し、届出を行うのは輸入者である貴社自身の義務となります。
2 輸入者が履行すべき「4つの義務」の法的詳細
PSEマークを製品に貼付し、適法に販売を継続するためには、以下の四つの義務を一つたりとも欠かすことなく完遂しなければなりません。これらは電気用品安全法に明文で定められた強制規定です。
(一)事業届出の義務(法第三条)
電気用品の輸入事業を開始した日から三十日以内に、経済産業省(各地域の経済産業局)に対して「電気用品輸入事業届出書」を提出しなければなりません。これを怠ったまま販売を続けることは、無届営業として処罰の対象となります。
(二)技術基準適合義務(法第八条)
輸入者は、輸入する電気用品が、経済産業省令で定める技術上の基準に適合するようにしなければなりません。
(電気用品安全法第八条第一項)
「届出事業者は、第三条の規定による届出に係る電気用品を製造し、又は輸入する場合においては、当該電気用品を経済産業省令で定める技術上の基準に適合するようにしなければならない」
実務上は、海外工場から提供された「テストレポート(試験成績書)」の内容が、最新の日本の技術基準(別表第八や、IEC基準との整合性を図った別表第十二など)を網羅しているかを確認する必要があります。翻訳の不備や試験項目の不足がある場合、この義務を履行したとはみなされません。
(三)検査及び記録の保存義務(法第九条)
これが最も多くの輸入事業者が遵守できていない、かつ事後調査で致命的な指摘を受けるポイントです。届出事業者は、製品を輸入するたびに検査を行い、その記録を作成し、保存しなければなりません。
「届出事業者は、その製造又は輸入に係る前条第一項の電気用品(中略)について、経済産業省令で定めるところにより、検査を行い、その検査記録を作成し、これを保存しなければならない」
多くの事業者が「工場で検査しているはずだ」と考えますが、法律は「輸入者(届出事業者)による検査」を求めています。輸入者は、ロットごとに外観、通電、絶縁耐力等の検査を自ら実施するか、あるいは工場に対して「日本の法律に基づくロット検査」を委託し、その詳細な記録を入手して三年間保存しなければなりません。
(四)表示の義務(法第十条)
上記の義務をすべて果たした上で、初めて製品にPSEマークを表示することができます。
「届出事業者は、その届出に係る電気用品について、第八条第一項の義務を履行し、かつ、前条第一項の規定による検査を行い、その検査記録を保存しているときは、当該電気用品に経済産業省令で定める方式による表示を付することができる」
表示には、PSEマーク(ひし形または丸形)、届出事業者名(輸入者の名称)、および定格電圧等の仕様が含まれます。これらの表示が欠けていたり、誤った名称が記載されていたりする場合、それは不適正表示として販売停止の原因となります。
3 電気用品の区分:特定電気用品とそれ以外の電気用品の比較表
電気用品は、その危険度に応じて二つのカテゴリーに分類されます。特に「特定電気用品(ひし形PSE)」については、登録検査機関による適合性検査証明書の取得が必須となります。
┌──────────────────────────────────────┐
│ 特定電気用品(ひし形)と特定以外の電気用品(丸形)の法的比較表 │
├───────┬──────────────────┬───────────┤
│比較項目 │特定電気用品(ひし形PSE) │特定以外の電気用品(丸形PSE)│
├───────┼──────────────────┼───────────┤
│製品の例 │ACアダプター、電線、ヒューズ、 │モバイルバッテリー、電気掃除機、│
│ │マッサージ器等(全116品目) │テレビ受像機等(全341品目)│
├───────┼──────────────────┼───────────┤
│第三者機関検査│登録検査機関による適合性検査が必須 │不要(自主検査のみで可) │
├───────┼──────────────────┼───────────┤
│証明書の有効期│3年、5年、7年等(品目による) │特になし │
├───────┼──────────────────┼───────────┤
│検査記録の保存│必須(3年間) │必須(3年間) │
├───────┼──────────────────┼───────────┤
│違反時のリスク│販売停止命令、刑事罰(法人は1億円)│販売停止命令、刑事罰等 │
└───────┴──────────────────┴───────────┘
特定電気用品を輸入する場合、輸入者は経済産業大臣が認めた登録検査機関から発行された「適合性検査証明書」の原本または写しを保有していなければなりません。多くの海外工場はこの証明書の取得に多額の費用がかかるため、虚偽の報告をしたり、有効期限が切れた証明書を提出したりすることがあります。これを見抜くのも輸入者の法的な責任です。
4 製造物責任法(PL法)に基づく無限の損害賠償リスク
電気用品安全法の遵守はあくまで行政上のルールですが、実際に製品事故が発生した際に直面するのが製造物責任法(PL法)です。この法律は、製品の欠陥によって消費者の生命、身体または財産に損害が生じた場合、製造者(輸入者)に対して過失の有無を問わず損害賠償責任を負わせる「無過失責任」を規定しています。
(製造物責任法第三条 製造物責任)
「製造業者等は、その製造、加工又は輸入をした製造物(中略)の欠陥により他人の生命、身体又は財産を侵害したときは、これによって生じた損害を賠償する責めに任ずる」
輸入者は、PL法上の「製造業者等」に該当いたします。したがって、たとえ輸入手続きを完璧にこなしていたとしても、製品そのものに設計上の欠陥があった場合には、被害者に対して損害賠償を行わなければなりません。特にリチウムイオン電池を搭載した製品(モバイルバッテリー等)の発火事故は、木造家屋の全焼といった甚大な被害をもたらす可能性があり、賠償額が数億円に達することも稀ではありません。
5 不適切なPSE運用が招く刑事罰と行政処分の詳細
電気用品安全法の違反は、単なる是正指導で終わるほど甘いものではありません。経済産業省は、不適切な表示や手続きの不備が発見された場合、強力な行政権限を行使いたします。
(一)販売停止命令および回収命令
「経済産業大臣は(中略)電気用品が技術基準に適合していないと認める場合において、災害の発生を防止するため特に必要があると認めるときは、届出事業者に対し、その製造又は輸入に係る当該電気用品の回収を図ることその他必要な措置をとるべきことを命ずることができる」
一度回収命令(リコール)が下されれば、販売済みのすべての製品の回収費用、新聞等への告発広告費用、顧客への返金対応が発生し、中小企業は即座に資金ショートを引き起こし倒産に追い込まれます。
(二)重い刑事罰の規定
電気用品安全法の罰則は、法人に対して極めて厳しく設定されています。
個人に対しては一年以下の懲役もしくは百万円以下の罰金が科されるほか、法人に対しては「一億円以下の罰金」という巨額の刑罰が規定されています。これは、安全を疎かにして利益を追求する事業者に対する国家の断固たる姿勢の表れです。
6 輸入事業者が構築すべきコンプライアンス・チェックリスト
不測の事態を回避し、健全な輸入ビジネスを継続するために、実務担当者が最低限チェックすべき項目を整理いたしました。
┌──────────────────────────────────────┐
│ 電気用品輸入ビジネスにおける法的安全性チェックリスト │
├───────┬──────────────────────────────┤
│チェック項目 │実務上の具体的な確認事項(全角表記) │
├───────┼──────────────────────────────┤
│品目の特定 │輸入製品が特定電気用品か特定以外か、HSコードと照合したか │
├───────┼──────────────────────────────┤
│工場の信頼性 │ISO認証だけでなく、日本市場向けの出荷実績があるか │
├───────┼──────────────────────────────┤
│レポートの精査│テストレポートが最新の「J基準」または「国際整合基準」か │
├───────┼──────────────────────────────┤
│証明書の原本性│特定電気用品の場合、登録検査機関発行の証明書が有効期間内か │
├───────┼──────────────────────────────┤
│自主検査の計画│輸入ロットごとの全数検査または抽出検査のフローが決まっているか│
├───────┼──────────────────────────────┤
│PL保険の加入│万が一の賠償事故に備え、輸入者向けのPL保険を契約しているか│
└───────┴──────────────────────────────┘
7 専門家(弁護士・通関士)による包括的サポートの重要性
電気用品安全法の解釈は、単なる技術的な理解に留まらず、行政庁との折衝や法的な責任の分配といった「高度な法務ガバナンス」の領域です。当事務所は、弁護士としての法的知見と、通関実務の現場感覚を融合させ、貴社を強力にバックアップいたします。
【当事務所が提供できる具体的な解決ソリューション】
一 輸入予定製品の「電気用品安全法該当性判定」および「技術基準適合性の予備審査」
二 経済産業省に対する「事業届出」および「例外承認」等の申請代理
三 海外サプライヤーとの「品質保証契約」および「損害賠償・求償条項」の策定
四 万が一の製品事故発生時における「リコール対応」および「被害者交渉」の代行
五 社内輸入管理規定(ICP)の構築および役職員向けのコンプライアンス研修
六 Amazon等のプラットフォームから求められる「安全性証明書類」の作成支援
特に、上田氏の事例のようなアカウント凍結問題については、早期に法的な意見書を提出し、手続きの適正性を主張することで、再開の可能性を最大化いたします。
8 まとめ
本日は、成長著しい家電輸入ビジネスの陰に潜む、電気用品安全法とPL法の法的リスクについて解説いたしました。上田氏のようなケースであっても、当初からPSE法の四つの義務を正しく理解し、工場のレポートを鵜呑みにせず、自社で検査体制を構築していれば、アカウントの凍結や火災事故の恐怖に怯えることはなかったはずです。
輸入ビジネスにおいて、安全は「コスト」ではなく「投資」です。目先の利益を優先して安全確認を疎かにすることは、企業の未来をギャンブルに投じるのと同じです。正しい法令知識に基づき、透明性の高い申告と安全確認を行うこと。その誠実な姿勢こそが、消費者の信頼を勝ち取り、ビジネスを長期的に繁栄させる唯一の道です。
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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら)
(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定
本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。
食品・化粧品・器具の輸入リスク管理
はじめに:仮の相談者から寄せられた相談事例のご紹介
本日は、海外の魅力的な食品や美容健康関連製品を日本国内に導入しようとする際、関税法以上に大きな障壁として立ちはだかる「厚生労働省(検疫所)による厳しい審査」について、その法的構造から実務的な防衛策までを網羅的に解説いたします。輸入ビジネスにおいて、関税の手続きを終えても、厚生労働省管轄の法令をクリアできなければ、貨物は一点たりとも国内に引き取ることはできません。まずは、当事務所に実際に寄せられる相談内容を模した、以下の架空事例をご覧ください。
【相談者】
東京都内で欧米のオーガニック製品の輸入販売を新規事業として立ち上げた株式会社S、事業部長、T氏(仮名)
【相談内容】
「当社は、米国で大流行している美容成分配合のプロテイン飲料と、自宅で簡単に肌のキメを整えることができる家庭用美顔器を輸入いたしました。メーカーからは安全性の証明書も受け取っており、米国の基準では全く問題のない製品です。ところが、成田空港の検疫所に食品等輸入届出書を提出したところ、プロテイン飲料に含まれる一部の着色料が日本では認可されていない『指定外添加物』に該当する可能性があると指摘されました。さらに、美顔器については、その販売サイトの広告表現に『細胞を活性化させる』という文言があることから、法的には単なる雑貨ではなく『医療機器』に該当する疑いがあるとして、薬機法に基づく業許可の提示を求められています。現在、貨物は保税地域に留め置かれたままであり、一日ごとに多額の保管料が発生しております。最悪の場合、全量廃棄と言われておりますが、法的にどのように釈明し、事態を打開すべきでしょうか」
このような事例は、海外と日本の規制の差異を十分に調査せずに輸入を開始した事業者の間で、極めて頻繁に発生しております。T氏のように「米国で安全なのだから日本でも大丈夫だろう」という認識は、日本の食品衛生法や薬機法の厳格な規格基準の前では一切通用いたしません。本日は、輸入事業者が直面する二大法令の「壁」について、関係法令を詳細に引用しながら、その法的性質と回避策を詳説いたします。
1 食品衛生法が規定する輸入届出義務と成分規制の法的峻別
日本国内で販売、または営業上使用する目的で食品、食品添加物、器具、容器包装、あるいは乳幼児向け玩具を輸入する場合、食品衛生法第二十七条に基づき、厚生労働大臣への届出が義務付けられています。
「販売の用に供し、又は営業上使用する食品、食品添加物、器具若しくは容器包装を輸入しようとする者は、厚生労働省令で定めるところにより、その都度厚生労働大臣に届け出なければならない」
この届出を受けた検疫所の食品監視員は、当該製品が日本の規格基準に適合しているかを厳格に審査いたします。ここで輸入者が直面する最大のハードルが、同法第十条に規定される添加物の制限です。
「人の健康を損なうおそれのない場合として厚生労働大臣が定めた場合を除き、添加物(天然香料及び一般に飲食に供される物であつて添加物として使用されるものを除く)並びにこれを含む製剤及び食品は、これを販売し、販売の用に供するために製造し、輸入し、加工し、使用し、貯蔵し、又は陳列してはならない」
日本には「指定添加物リスト」が存在し、これに掲載されていない添加物、すなわち「指定外添加物」が微量でも含まれている食品は、法的に輸入が禁止されます。欧米では一般的に使用されている特定の着色料(赤色〇〇号など)や保存料(安息香酸の特定の用途など)であっても、日本で未認可であれば、例外なく「全量廃棄」または「積み戻し」となります。また、残留農薬についても「ポジティブリスト制度」により、基準値を超えて検出されれば、即座に不適正貨物として扱われます。
2 器具及び容器包装における材質規格と溶出試験の義務
食品そのものだけでなく、食品に接触する「食器」や「調理器具」、さらには「乳幼児向け玩具」も食品衛生法第十八条に基づく規格基準の対象となります。
「厚生労働大臣は、公衆衛生の見地から、販売の用に供する器具若しくは容器包装若しくはこれらの原材料につき規格を定め、又はこれらの製造方法につき基準を定めることができる」
例えば、海外製のセラミック食器から基準値を超える鉛やカドミウムが溶出したり、プラスチック製品から特定の可塑剤が検出されたりする場合、それらは同法に抵触いたします。輸入者は、現地のメーカーから「製造工程表」や「原材料表」を入手するだけでなく、厚生労働省の登録検査機関において「試験成績書」を発行してもらい、それを届出時に添付することが実務上不可欠です。事前の分析を怠り、検疫所のモニタリング検査で不適合が判明した場合、その後のすべての輸入が「検査命令」の対象となり、多額の検査費用と時間を恒久的に負担することになります。
以下に、食品衛生法における主な規制対象と確認事項を整理いたしました。
┌──────────────────────────────────────┐
│ 食品衛生法に基づく輸入規制対象および重要確認ポイント一覧表 │
├───────┬──────────────────┬───────────┤
│規制のカテゴリー│具体的な該当製品例(全角表記) │主な法的確認事項 │
├───────┼──────────────────┼───────────┤
│一般食品 │菓子、飲料、調味料、加工食品全般 │指定外添加物、残留農薬│
│ │ │アレルゲン表示の整合性│
├───────┼──────────────────┼───────────┤
│食品添加物 │香料、着色料、保存料、酸化防止剤 │成分規格、純度試験結果│
│ │ │使用制限の遵守状況 │
├───────┼──────────────────┼───────────┤
│器具・容器包装│食器、カトラリー、調理家電、水筒 │材質試験、溶出試験 │
│ │哺乳瓶、食品用梱包資材 │着色料の溶出の有無 │
├───────┼──────────────────┼───────────┤
│乳幼児向け玩具│6歳未満の乳幼児が口に接触する恐れ │特定の可塑剤の有無 │
│ │がある玩具全般 │重金属の含有量 │
└───────┴──────────────────┴───────────┘
3 薬機法によるライセンスと定義の壁:医療機器・医薬品への該当性
T氏の事例でもう一つの深刻な問題となっているのが、薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)です。この法律は、食品衛生法以上に複雑であり、かつ刑事罰の適用も厳格です。
この条文では、医薬品や医療機器の定義がなされています。重要なのは、製品そのものの構造だけでなく、その「目的」や「効能効果の標榜」によって、法的な分類が決まるという点です。
(一)医療機器としての「みなし」規制
単なる健康グッズや美容機器として販売するつもりであっても、その製品が「身体の構造若しくは機能に影響を及ぼすこと」を目的とするものであれば、法的には医療機器とみなされます。例えば、美顔器であっても「リフトアップする」「細胞を活性化させる」「シワを改善する」といった表現を使用すれば、それは薬機法上の医療機器に該当いたします。医療機器を輸入販売するには、薬機法第十二条に基づく「製造販売業」の許可および第十三条に基づく「製造業」の登録が不可欠です。
(二)未承認医薬品の輸入禁止
サプリメント(健康食品)として輸入しようとする製品に、日本で「医薬品成分」として指定されている物質が含まれている場合、それは「未承認医薬品」とみなされます。
(薬機法第六十八条 承認前の医薬品等の広告の禁止)
「何人も、第十四条第一項(中略)に規定する医薬品、医療機器又は再生医療等製品であつて、まだ承認(中略)を受けていないものについて、その名称、製造方法、効能、効果又は性能に関する広告をしてはならない」
未承認医薬品の輸入は、税関および検疫所によって厳しく差し止められます。特に海外のダイエットサプリや精力増強剤には、日本の医薬品成分が含まれていることが多く、意図せぬ薬機法違反を招く典型例となっています。
4 薬機法における業許可の種類と輸入者の義務比較表
輸入者が、どの程度のライセンスを必要とするかを整理した比較表を以下に示します。
┌──────────────────────────────────────┐
│ 薬機法における輸入販売に必要な業許可と法的義務の比較表 │
├───────┬──────────────────┬───────────┤
│製品の分類 │必要な業許可(ライセンス) │主な義務・ハードル │
├───────┼──────────────────┼───────────┤
│一般雑貨 │特になし(届出不要) │効能効果を謳えない │
│(健康器具等)│ │医療機器との誤認防止 │
├───────┼──────────────────┼───────────┤
│化粧品 │化粧品製造販売業許可 │総括製造販売責任者の置│
│ │化粧品製造業許可(包装等のみも含む)│品質管理基準の遵守 │
├───────┼──────────────────┼───────────┤
│医療機器 │医療機器製造販売業許可(クラス別) │製品ごとの承認・認証 │
│ │医療機器修理業許可等 │保守点検体制の整備 │
├───────┼──────────────────┼───────────┤
│医薬品 │医薬品製造販売業許可 │極めて厳しい品質管理 │
│ │医薬品製造業許可 │高度な専門知識の保有 │
└───────┴──────────────────┴───────────┘
5 輸入ビジネスにおける「通関不能」が招く経済的損失の構造
T氏の事例のように、保税地域で貨物が差し止められた場合、企業が負う損失は単なる仕入代金だけに留まりません。その被害の構造を以下の表に可視化いたしました。
┌──────────────────────────────────────┐
│ 輸入不許可(食品衛生法・薬機法違反)に伴う損失コスト一覧表 │
├───────┬──────────────────┬───────────┤
│コストの項目 │具体的な内容(全角表記) │経営への影響度 │
├───────┼──────────────────┼───────────┤
│商品代金没収 │廃棄または積み戻しによる原価の全損 │直接的な営業損失 │
├───────┼──────────────────┼───────────┤
│保税保管料 │検疫所との交渉期間中に発生する倉庫代│日を追うごとに増大 │
├───────┼──────────────────┼───────────┤
│全量廃棄費用 │産業廃棄物としての処理コストの負担 │不測の現金支出 │
├───────┼──────────────────┼───────────┤
│社会的信用失墜│不適切輸入による法令違反実績の記録 │今後の審査が厳格化 │
├───────┼──────────────────┼───────────┤
│刑事罰・過料 │悪質な未承認品輸入に対する制裁金 │逮捕、実名報道のリスク│
└───────┴──────────────────┴───────────┘
6 リスク管理の徹底と弁護士による予防法務の戦略的意義
これらの過酷な事態を避けるためには、貨物が日本に到着してから慌てるのではなく、契約締結前の段階で「法的適合性チェック」を完了させておく必要があります。
(一)事前適合性チェック(リーガルチェック)の法理
当事務所では、輸入予定の製品の原材料一覧(全成分表示)や製造工程図を、日本の食品衛生法や薬機法の最新のネガティブリスト、ポジティブリストと照合いたします。これにより、輸入後に発覚する「指定外添加物」や「医薬品成分」の混入リスクを水際でゼロにいたします。
(二)広告・表示の法的監修
パッケージに記載される「名称」や「成分表示」、さらには販売サイトの「キャッチコピー」が、薬機法や景品表示法に抵触しないかを精査いたします。T氏の事例のような「細胞を活性化」といった文言を、いかに薬機法に抵触させずに「美しさを引き出す」といった適切な表現に変換するか、代替案の提案を含めた法的アドバイスを行います。
(三)行政対応およびトラブル解決の代理
万が一、検疫所や自治体の薬務課から行政指導を受けた場合、あるいは貨物が差し止められた場合、弁護士が速やかに窓口となり、行政庁との折衝を行います。事実関係を整理した釈明書の作成、試験成績書の再提出、あるいは一部修正による輸入許可の獲得など、法的な実務を通じて被害を最小限に食い止めます。
7 「知らなかった」が通用しない法的自己責任の原則
関税法第七十条では、他の法令の規定により輸入に関して許可や承認を必要とする貨物については、輸入申告の際にその証明をしなければならないと定めています。
「他の法令の規定により輸入に関して許可、承認その他の行政庁の処分(中略)を必要とする貨物については、輸入申告の際、当該許可、承認等を受けていることを税関に証明しなければならない」
この条文に基づき、税関は検疫所の「食品等輸入届出済証」がなければ、輸入を許可いたしません。輸入者が「海外のサプライヤーに騙された」と主張しても、日本の法令を遵守して申告する責任は輸入者自身にあります。故意がなくても、過失による法令違反は、行政処分としての製品回収(リコール)や営業停止、さらには社会的制裁へと直結いたします。
8 輸入事業者が備えておくべき「厚生労働省対策」重要書類リスト
事後調査や検疫所での審査に耐えうるために、輸入者が日常的に管理すべき書類を以下の表にまとめました。
┌──────────────────────────────────────┐
│ 食品・化粧品・医療機器輸入における必須管理書類リスト │
├───────┬──────────────────────────────┤
│書類の種類 │管理すべき具体的な内容(全角表記) │
├───────┼──────────────────────────────┤
│成分分析表 │全原材料(1%以下の添加物含む)の名称とCAS番号 │
├───────┼──────────────────────────────┤
│製造工程フロー│各工程での温度、圧力、添加のタイミング、殺菌条件の記録 │
├───────┼──────────────────────────────┤
│試験成績書 │登録検査機関による重金属、細菌、残留農薬の検査結果 │
├───────┼──────────────────────────────┤
│業許可証写し │製造販売業等のライセンス有効期限および責任者情報の管理 │
├───────┼──────────────────────────────┤
│表示ラベルドラ│法定表示事項(名称、期限、保存方法、製造者等)の原稿 │
└───────┴──────────────────────────────┘
9 専門家(弁護士・通関士)による高度な防御体制の重要性
食品衛生法や薬機法は、数年ごとに改正が行われ、また行政の運用方針も常に変化しています。最新の法改正情報を把握し、実務に反映させることは一企業だけの力では困難です。当事務所は、弁護士としての法的知見と、通関実務の現場感覚を融合させ、貴社が不測の事態に陥ることを未然に防ぎます。
【当事務所が提供できる具体的な解決ソリューション】
一 輸入予定製品の「成分・標榜効能リーガル監査」の実施
二 検疫所および自治体薬務課に対する「事前照会」の代理および折衝
三 輸入販売契約における「品質不適合時の損害賠償・返品条項」の策定
四 不適切輸入が判明した際の「製品回収・公表」に関するクライシス・マネジメント
五 役職員向けの「食品衛生法・薬機法コンプライアンス研修」の実施
六 税関事前教示制度と連動した、関税評価と他法令規制の統合的アドバイス
10 まとめ
本日は、輸入ビジネスにおける最大の「壁」である食品衛生法と薬機法の規制について、詳細に解説いたしました。T氏のようなケースであっても、当初から成分表のリーガルチェックを行い、広告表現を薬機法に適合させていれば、数千万円の貨物を失う恐怖に怯えることはなかったはずです。
輸入者にとって、これらの法令は単なる事務手続きではなく、消費者の生命と健康を守るための「国家との契約」です。海外の基準を妄信するのではなく、日本の厳格なルールを前提とした戦略的な輸入体制を構築すること。その地道なコンプライアンスの積み重ねこそが、貴社のグローバルビジネスの信頼性を高め、持続可能な成長を実現するための唯一の道です。
当事務所は、貴社の良きパートナーとして、その専門性を最大限に発揮し、法令の迷宮から貴社を救い出し、安定した海外展開を強力にサポートし続けます。
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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら)
(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定
本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。
希少動植物製品とワシントン条約
はじめに:仮の相談者から寄せられた相談事例のご紹介
本日は、輸入ビジネスにおいて関税法や知的財産権と並んで細心の注意を払わなければならない絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約、通称ワシントン条約(CITES)を巡るトラブルについて解説いたします。この条約は、生きている動植物のみならず、それらを使用したバッグ、時計のベルト、楽器、家具、さらには漢方薬や化粧品といった加工品までを広範囲に規制しており、輸入者が該当性を認識せずに輸入しようとして水際で差し止められる事例が後を絶ちません。まずは、当事務所に実際に寄せられる相談内容を模した、以下の架空事例をご覧ください。
【相談者】
静岡県内でヴィンテージ楽器および海外製高級家具の輸入販売を行う株式会社M、代表取締役、T氏(仮名)
【相談内容】
「当社は、長年米国や欧州から希少な木材を使用した楽器や家具を輸入しております。先日、ブラジル産のローズウッド(ブラジリアン・ローズウッド)を使用した1960年代製のヴィンテージギター五本を、現地のコレクターから買い付け、日本へ輸入いたしました。輸出者からは『古いものだから問題ない』と言われており、私も条約のことは知っていましたが、アンティーク品であれば規制対象外だと思い込んでいました。ところが、成田空港の税関より、当該貨物がワシントン条約附属書Iに該当する物品であるとして、輸入が差し止められました。経済産業省による輸入承認を受けていないため、このままでは貨物の没収、廃棄は免れず、さらには無許可輸入として刑事罰の対象になると警告されています。当社は悪意があったわけではなく、単に知識が不足していただけです。どのように対応すれば貨物を取り戻せるのでしょうか。また、刑事告発を避けるために法的にどのような主張が可能でしょうか」
このような事例は、ワシントン条約の仕組みと日本の国内法である外国為替及び外国貿易法(外為法)や関税法の連携を正しく理解していない場合に発生する典型的なトラブルです。T氏の事例が示す通り、たとえアンティーク品であっても、その証明が法的な要件を満たしていなければ、税関は輸入を許可いたしません。本日は、ワシントン条約の法的構造と、輸入者が負うべき厳格な義務について、関係法令を引用しながら解説いたします。
1 ワシントン条約の法的構造と附属書による規制区分
ワシントン条約は、絶滅のおそれのある野生動植物の国際取引を規制することで、それらの種の生存を保護することを目的とした国際条約です。日本では、この条約を遵守するために、外為法に基づく輸入割当制や輸入承認制を実施しています。条約では、規制の厳しさに応じて動植物を三つの附属書に分類しており、それぞれ輸入手続が決定的に異なります。
(一)附属書I(絶滅のおそれのある種で取引により影響を受けているもの)
最も厳しい規制が敷かれている区分であり、商業目的の取引は原則として禁止されています。パンダ、トラ、象牙、一部の希少なサボテンや、T氏の事例にあるブラジリアン・ローズウッドなどが該当いたします。学術研究目的等で例外的に輸入する場合でも、輸出国政府の発行する輸出許可書(Export Permit)に加え、日本政府(経済産業省)が発行する輸入承認書が必要となります。
(二)附属書II(現在は絶滅のおそれはないが、取引を厳重に規制しなければ絶滅のおそれがある種)
商業目的の取引は可能ですが、輸出国の管理当局が発行した輸出許可書等を税関に提出する必要があります。ワニ革、ニシキヘビ、一部のラン、ローズウッド(附属書I以外の種)などが含まれます。輸入者は、申告時に現物の書類を提示しなければなりません。
(三)附属書III(特定の締約国が自国内の種の保護のため、他国の協力を必要とする種)
当該国から輸入する場合には輸出許可書が必要となり、それ以外の国からの輸入には原産地証明書等が必要となります。
輸入ビジネスにおいて最も恐ろしいのは、附属書IやIIの対象であることを知らずに「無許可」で輸入しようとすることです。税関は、NACCS(輸出入・港湾関連情報処理システム)と経済産業省のシステムを連携させており、書類の不備は即座に判明いたします。
2 外為法および関税法における水際取締りの法的根拠
ワシントン条約該当物品を無許可で輸入しようとすることは、日本の国内法においても重大な違法行為を構成いたします。まず、外為法第四十八条および第五十二条により、特定の貨物の輸入には政府の承認を受ける義務が課されています。
「価格、数量その他の事項について、貨物の輸入の承認を受ける義務を課することができる」
この規定に基づき、ワシントン条約該当物品は経済産業大臣の承認を受けなければ輸入できない「輸入制限貨物」に指定されています。さらに、関税法第六十九条の十一では、他法令の規制をクリアしていない貨物は「輸入してはならない貨物」として定義されています。
(関税法第六十九条の十一第一項第十一号 輸入してはならない貨物)
「他の法令の規定により輸入してはならないものとされている貨物(中略)で政令で定めるもの」
T氏の事例のように、輸入承認を得ずに附属書Iの物品を輸入しようとすることは、関税法上の輸入禁止物品を密輸入しようとしたことと同義とみなされます。税関長は、このような貨物を発見した場合、認定手続を経て、没収、廃棄、または積み戻しを命じる権限を有しています。
3 ワシントン条約該当物品の典型例と実務上のリスク比較表
輸入者が「これも規制対象なのか」と驚くような、意外な該当物品を以下の表に整理いたしました。
┌──────────────────────────────────────┐
│ ワシントン条約該当物品の分類と輸入時に必要となる主な書類 │
├───────┬──────────────────┬───────────┤
│物品のカテゴリー│具体的な該当例(全角表記) │輸入に必要となる書類 │
├───────┼──────────────────┼───────────┤
│皮革製品 │ワニ、ヘビ、トカゲ、オーストリッチ等│輸出国発行の輸出許可書│
│ │の革を使用したバッグ、靴、ベルト │(CITES許可書) │
├───────┼──────────────────┼───────────┤
│木材・楽器 │ローズウッド(紫檀)、マホガニー、 │輸出許可書又は │
│ │黒檀等を使用したギター、バイオリン │アンティーク証明書 │
├───────┼──────────────────┼───────────┤
│漢方薬・化粧品│ジャコウ、虎骨、熊胆、アロエ、 │成分分析表および │
│ │チョウザメ(キャビア)等の成分含有品│経済産業省の輸入承認書│
├───────┼──────────────────┼───────────┤
│装飾品・宝石 │象牙の彫刻、サンゴのネックレス、 │条約適用前取得証明書 │
│ │ベッコウ(ウミガメ)の櫛、クジャク │(プレ・コンベンション)│
└───────┴──────────────────┴───────────┘
4 「事後提出」および「後出し」の厳禁という法的鉄則
ワシントン条約の手続において、輸入者が最も注意しなければならないのが、書類の「同時提出義務」です。日本の税関実務において、ワシントン条約の許可書を輸入申告後に後から提出することは、原則として一切認められません。
「他の法令の規定により輸入に関して許可、承認その他の行政庁の処分(中略)を必要とする貨物については、輸入申告の際(中略)税関にこれを証明しなければならない」
この条文にある「輸入申告の際」という文言は、時間的に極めて厳格に解釈されます。例えば、海外のセラーが許可書を入れ忘れたり、電子データだけで原本を送っていなかったりした場合、その時点で申告は「不備」となり、貨物は直ちに差し止められます。T氏のように「アンティークだから後で証明できる」という主張も、輸入申告時に有効な証明書が添付されていなければ、税関は受理を拒否し、貨物の法的地位は「密輸入品」に準ずるものとして扱われます。一度差し止められた貨物について、後から海外から取り寄せた許可書を提示して「これで許可してほしい」と求めても、経済産業省および税関は「遡及的な有効性」を認めない運用を徹底しています。
5 絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律(種の保存法)との関係
ワシントン条約に該当する物品を輸入した後は、国内での取引についても別の法律による制約を受けます。それが、種の保存法です。
(絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律第十二条第一項)
「国内希少野生動植物種(中略)及び国際希少野生動植物種の個体(中略)は、譲渡し、又は譲受けをしてはならない」
附属書Iに該当する物品、例えば象牙やブラジリアン・ローズウッドの製品を国内で転売しようとする場合、事前に一般財団法人自然環境研究センター等に登録し、登録票を備え付ける義務があります。T氏がギターを輸入できたとしても、この登録を行わずに販売すれば、種の保存法違反として更なる刑事罰の対象となります。
6 無許可輸入が招く刑事罰と社会的制裁の深刻さ
ワシントン条約に違反して輸入を強行しようとした場合、単なる貨物の没収では済みません。関税法および外為法に基づき、非常に重い罰則が科されます。
(一)関税法違反(無許可輸入罪)
(関税法第百十一条第一項第一号)
「第七十条第一項(他の法令の規定による許可、承認等の証明)の規定に違反して貨物を輸入した者は、五年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する」
(二)外為法違反(輸入承認義務違反)
(外国為替及び外国貿易法第七十一条)
「第五十二条の規定による輸入の承認を受けないで貨物を輸入した者は、五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する」
(三)過失犯の処罰
T氏のように「知らなかった」と主張しても、関税法第百十一条第二項により、過失であっても罰金刑が科される可能性があります。さらに、法人の業務として行われた場合には、行為者を罰するだけでなく、法人に対しても多額の罰金が科される両罰規定が存在いたします。刑事告発がなされれば、企業の信用は地に落ち、銀行融資の停止や取引先からの契約解除といった壊滅的なダメージを受けることになります。
以下の表に、ワシントン条約違反に伴う主な法的リスクと制裁を整理いたしました。
┌──────────────────────────────────────┐
│ ワシントン条約該当物品の不法輸入に伴う制裁およびペナルティ │
├───────┬──────────────────┬───────────┤
│処分の種類 │算定根拠および法的な性質 │負担・制裁の目安 │
├───────┼──────────────────┼───────────┤
│行政処分 │関税法第69条の11に基づく没収 │貨物の全額損失および │
│ │および経済産業省による輸入禁止命令 │廃棄費用の自己負担 │
├───────┼──────────────────┼───────────┤
│刑事罰(個人)│関税法第111条、外為法第71条等 │5年以下の懲役又は │
│ │(懲役、罰金の併科もあり) │1000万円以下の罰金│
├───────┼──────────────────┼───────────┤
│刑事罰(法人)│関税法第117条(両罰規定) │行為者と同等の罰金刑 │
│ │ │および社会的信用の失墜│
├───────┼──────────────────┼───────────┤
│追徴課税 │輸入が認められないことによる │過少申告加算税等の賦課│
│ │不適切な税額申告へのペナルティ │(申告内容による) │
└───────┴──────────────────┴───────────┘
7 不測の事態を防ぐための輸入コンプライアンス戦略
ワシントン条約該当物品を扱う輸入者が、法的な破滅を避けるためには、以下の三つの戦略的アクションを徹底しなければなりません。
(一)輸入前の徹底的な該当性調査
仕入れを検討している製品の原材料を学名(ラテン語名)レベルで特定し、ワシントン条約の最新の附属書と照合してください。ローズウッドのように、近年規制が強化された種も多いため、過去の知識に頼るのは危険です。経済産業省野生動植物貿易審査室や、税関の事前照会窓口を積極的に活用すべきです。
(二)輸出国側での「適法な証明書」の確約と事前送付
売買契約書において、「ワシントン条約に基づく有効な輸出許可書(原本)を提供できない場合は、契約を解除し損害賠償を求める」旨を明記してください。また、貨物を発送する前に、許可書のコピーをPDF等で送付させ、その内容(種名、数量、有効期限、署名等)に誤りがないかを、日本の専門家や当局に確認してもらうステップを挟むべきです。
(三)内部輸入管理規定(ICP)の構築
特定の担当者の「勘」に頼るのではなく、社内規定として「木材、皮革、動植物成分を含む製品を輸入する際は、必ず条約該当性チェックシートを起案し、法務部門の承認を得る」といったプロセスを義務化してください。
8 弁護士および専門家による高度なリーガルサポートの必要性
ワシントン条約を巡るトラブルは、一度税関で差し止められると、行政手続の段階で解決することは極めて困難です。しかし、専門の弁護士が介入することで、以下の道が開ける場合があります。
一 「条約適用前(プレ・コンベンション)」の立証支援:貨物が条約の規制開始日以前に製造・取得されたものであることを、当時の製造記録や輸出国の公的資料を用いて論理的に証明し、例外的な輸入許可(アンティーク特例等)を勝ち取る。
二 該当性に関する法的意見書の作成:税関が「該当する」と疑っている種について、生物学的、専門的な見地から「非該当」であることを主張する意見書を提出し、差し止めを解除させる。
三 刑事告発回避に向けた税関交渉:故意がなかったことを客観的な状況証拠から論証し、刑事告発を見送らせ、行政処分(任意放棄や積み戻し)の範囲に留めるよう折衝する。
四 不服申立ての代理:税関による不当な没収処分に対し、行政不服審査法に基づく審査請求や、処分取消訴訟を提起する。
当事務所は、代表弁護士が通関士資格を保有しており、楽器や家具、皮革製品の輸入におけるワシントン条約の実務に深く通じております。
9 まとめ
本日は、輸入ビジネスにおける見えない地雷である「ワシントン条約」のリスクについて解説いたしました。T氏のようなケースであっても、当初からブラジリアン・ローズウッドの規制の厳しさを理解し、輸入前に経済産業省の承認を得るか、あるいは適法なアンティーク証明を完璧に揃えていれば、数千万円の貨物を失い、刑事罰の恐怖に怯える事態は回避できたはずです。
輸入者にとって、ワシントン条約は単なる自然保護のルールではなく、外為法や関税法と直結した「輸入禁止の壁」です。「みんなやっているから」「お土産感覚だから」という甘い認識は、プロのビジネスの世界では通用いたしません。
正しい法令知識に基づき、一つひとつの素材にまで目を配り、法的な根拠をもって輸入に臨むこと。その慎重な姿勢こそが、貴社のビジネスの継続性を保証し、絶滅のおそれのある野生動植物を保護するという国際社会の責任を果たすことにも繋がります。
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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら)
(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定
本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。
真正品の並行輸入における法的有効性
はじめに:仮の相談者から寄せられた相談事例のご紹介
本日は、輸入実務において高い収益性を期待できる一方で、常に知的財産権侵害という深刻なリーガルリスクと隣り合わせにある真正商品の並行輸入について、その法的構造から実務的な防衛策までを網羅的に解説いたします。並行輸入とは、日本の商標権者による正規の輸入ルートとは別に、海外で適法に販売されている真正品を輸入する行為を指します。しかし、税関の現場では偽造品や海賊版の流入を阻止するための水際対策が極めて厳格化されており、たとえ本物であっても、その正当性を法的に証明できなければ没収、廃棄という最悪の事態を招きかねません。まずは、当事務所に実際に寄せられる相談内容を模した、以下の架空事例をご覧ください。
【相談者】
大阪府内で欧州高級時計の並行輸入販売を行う株式会社R、代表取締役、S氏(仮名)
【相談内容】
「当社は、長年イタリアの信頼できる正規代理店から高級腕時計を仕入れ、日本国内の顧客へ並行輸入品として販売しております。仕入先からは真正品であることを証明するインボイスを毎回受け取っており、これまでの取引で一度もトラブルはありませんでした。ところが、先日輸入した腕時計百本について、税関から関税法に基づく認定手続開始通知書という書類が届きました。内容を確認すると、日本国内の商標権を有するメーカー側が、当社の輸入貨物を商標権侵害の疑いがあるとして差し止めを申し立てたとのことです。私は本物だと確信して仕入れていますが、もし侵害品と認定されれば商品はすべて没収、廃棄されてしまうのでしょうか。また、多額の仕入資金を失うだけでなく、悪質な密輸入者として罰せられるのではないかと不安でなりません。どのように真正品であることを立証し、貨物を取り戻せばよいのでしょうか」
このような事例は、知的財産権が国境を越えて厳格に保護される現代の国際貿易において、並行輸入業者が直面する最も深刻なリスクの一つです。税関は、偽造品や海賊版の流入を阻止するため、関税法の規定に基づき厳格な手続を進行させます。本日は、知財侵害を疑われた際の法的対応の急所と、適法な並行輸入として認められるための要件について、関係法令を詳細に引用しながら解説いたします。
1 真正商品の並行輸入が適法とされる法的根拠と判例法理
日本の商標法および関税法において、商標権を侵害する物品を輸入することは禁止されています。
「この法律で商標とは、人の知覚によって認識することができるもののうち、文字、図形、記号、立体的形状若しくはこれらの結合又はこれらと色彩との結合(中略)であって、次に掲げるものをいう。一 業として商品を生産し、証明し、又は譲渡する者がその商品について使用をするもの」
「商標権者は、指定商品又は指定役務について登録商標の使用をする権利を専有する。」
このように、商標権者は登録された商標を独占的に使用する権利を有しており、第三者が無断でその商標を付した物品を輸入することは原則として権利侵害となります。しかし、並行輸入については、それが真正な商品である場合には、商標が持つ出所表示機能(誰が作ったかを示す役割)および品質保証機能(一定の品質を保証する役割)を害さないため、実質的違法性がないと判断されます。この法理を確立したのが、昭和45年のパーカー事件大阪地裁判決、および平成15年の最高裁判決(フレッドペリー事件)です。最高裁は、以下の三つの要件(いわゆる真正商品の並行輸入の三要件)をすべて満たす場合には、商標権侵害には当たらないという判断を下しました。
(一)真正性の保証
輸入商品に付された商標が、外国における商標権者又はその許諾を受けた者により、当該商品に適法に付されたものであること。
(二)同一人性の保証
外国における商標権者と日本の商標権者とが、同一人であるか、若しくは法律的、経済的に同一人とみなせるような関係にあるため、当該商標が示す商品の出所が同一であること。
(三)品質管理性の保証
日本の商標権者が、当該商品に対して品質管理を行い得る立場にあり、輸入品と日本の商標権者が扱う商品との間に、実質的に差異がないと認められること。
輸入者は、税関から侵害の疑いをかけられた際、これら三つの要件を客観的な証拠に基づいて証明しなければなりません。
2 税関による認定手続の構造と進行プロセス
税関が輸入貨物の中に知的財産権を侵害している疑いがある物品を発見した場合、直ちに没収するのではなく、まず認定手続という行政手続を開始します。この手続は、輸入者と権利者の双方に意見を述べる機会を与えるものです。
(関税法第六十九条の十一第一項第九号 輸入してはならない貨物)
「特許権、実用新案権、意匠権、商標権、著作権、著作隣接権、回路配置利用権又は育成者権を侵害する物品」
(関税法第六十九条の十二第一項 認定手続)
「税関長は、輸入申告された貨物(中略)のうちに、第六十九条の十一第一項第九号から第十号までに掲げる物品に該当する疑いがある貨物があるときは、当該貨物が当該物品に該当するか否かを判定するための手続(以下この条において認定手続という。)を執らなければならない。」
手続が開始されると、輸入者と権利者の双方に認定手続開始通知書が届きます。ここから、概ね十執務日という極めて短い期間内に、輸入者は自らの正当性を立証する意見書と証拠を提出しなければなりません。S氏の事例のように、権利者(ブランドメーカー)が事前に輸入差止申立て(関税法第六十九条の十三)を行っている場合、税関は高い確率で認定手続を開始いたします。この通知を放置すると、反論がないものとみなされ、貨物は自動的に侵害品として認定され、廃棄処分へと進むことになります。
3 適法性を証明するための具体的証拠と商流の立証
並行輸入の抗弁において最も重要なのは、その商品がどのようなルートを辿って貴社の手元に届いたのかを示す商流の証明です。単に本物に見えるという主張は法的な証拠にはなりません。以下の表に、真正品であることを証明するために準備すべき書類と、その重要度をまとめました。
┌──────────────────────────────────────┐
│ 真正商品の並行輸入立証のための必要証拠書類一覧表 │
├───────┬──────────────────┬───────────┤
│書類の名称 │立証すべき内容(全角表記) │証拠としての重要度 │
├───────┼──────────────────┼───────────┤
│基本売買契約書│仕入先との継続的な取引関係および │高(商流の根拠となる)│
│ │真正品保証条項の有無 │ │
├───────┼──────────────────┼───────────┤
│インボイス │具体的な品番、個数、単価、および │極めて高(必須書類) │
│(仕入書) │輸出者の名称と所在地 │ │
├───────┼──────────────────┼───────────┤
│正規店レシート│現地正規代理店や直営店で購入した │極めて高(出所の証明)│
│ │ことを示す具体的な決済記録 │ │
├───────┼──────────────────┼───────────┤
│輸送書類 │製造国から日本までの運送経路に │高(荷抜きの否定) │
│(BL等) │不自然な点がないことの証明 │ │
├───────┼──────────────────┼───────────┤
│製品写真・鑑定│現物のシリアル番号、ロゴの刻印、 │中(補足的な立証) │
│資料 │素材の質感、ICチップの反応等 │ │
└───────┴──────────────────┴───────────┘
4 並行輸入における法的リスクの三段階構造
並行輸入事業者が直面するリスクは、単なる貨物の没収に留まらず、民事、行政、刑事の三方面にわたります。
(一)行政的リスク
関税法に基づき、侵害品と認定された貨物は没収、廃棄されます。また、一度でも認定手続で侵害と判定されると、当該輸入者は税関のブラックリストに登録され、今後のすべての輸入貨物が厳格な検査(A線検査)の対象となり、ビジネスのスピードが著しく低下いたします。
(二)民事的リスク
商標法に基づき、国内の商標権者から差止請求や損害賠償請求を受ける可能性があります。
「商標権者又は専用使用権者は、自己の商標権又は専用使用権を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。」
権利者が被ったとされる損害額は、侵害品の販売数量に正規品の利益を乗じる等の方法で高額に推定されることが多く、中小企業にとっては致命的な負担となります。
(三)刑事的リスク
故意に侵害品を輸入したと判断された場合、関税法および商標法の規定に基づき、重い刑事罰が科されます。
(関税法第百九条第一項 輸入してはならない貨物を輸入する罪)
「第六十九条の十一第一項第九号(中略)に掲げる貨物を輸入した者は、十年以下の懲役若しくは三千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。」
「商標権又は専用使用権を侵害した者(中略)は、十年以下の懲役若しくは一千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。」
法人の場合には、その行為者を罰するほか、法人に対しても三億円以下の罰金刑が科される両罰規定(商標法第八十二条)が存在いたします。
5 適法な並行輸入を維持するための実務的チェックリスト
並行輸入ビジネスを安全に継続し、税関の認定手続にも即座に対応できる体制を構築するためには、以下の項目を日常的に実施する必要があります。
┌──────────────────────────────────────┐
│ 並行輸入事業者のための法的リスク管理チェックリスト │
├───────┬──────────────────────────────┤
│チェック項目 │具体的な確認内容および対応 │
├───────┼──────────────────────────────┤
│商標権の調査 │特許庁のデータベース(J-PlatPat)で日本の権利者を │
│ │特定し、海外権利者との同一人性を確認しているか。 │
├───────┼──────────────────────────────┤
│仕入先の審査 │仕入先が当該国で正規の卸売権限を有していることを、契約書や │
│ │証明書により確認しているか。 │
├───────┼──────────────────────────────┤
│品質の同一性 │日本国内で流通している正規品と、輸入品の仕様、パッケージ、 │
│ │成分等に実質的な差異がないか検証しているか。 │
├───────┼──────────────────────────────┤
│証憑書類の保存│インボイス、送金記録、輸送書類を関税法に基づき七年間厳重に │
│ │保存しているか。 │
├───────┼──────────────────────────────┤
│契約上の補償 │仕入先との契約に、侵害品であった場合の損害賠償や返品に関す │
│ │る条項が盛り込まれているか。 │
└───────┴──────────────────────────────┘
6 弁護士による高度な法的サポートの重要性
認定手続開始通知が届いた際、輸入者に与えられた時間は極めて限定的です。ここで適切な初動を行えるかどうかが、貨物の運命を左右します。当事務所は、関税法と知的財産権法の双方に精通した専門家として、以下のサポートを提供いたします。
(一)論理的な意見書の作成
単に本物ですと主張するのではなく、パーカー事件やフレッドペリー事件の判例理論に基づき、本件がなぜ適法な並行輸入と言えるのかを法的に論証した意見書を税関長に提出いたします。
(二)権利者(ブランド側)との直接交渉
権利者が過剰な権利主張を行っている場合や、誤解に基づき差し止めを行っている場合には、弁護士名での警告や交渉を行うことで、認定手続の取り下げを促します。
(三)証拠収集の指導と整理
海外の仕入先との連携を含め、税関が認める形式での証拠書類(チェーン・オブ・タイトル)の収集を的確に指示し、説得力のある立証資料を構築いたします。
(四)不服申立ておよび訴訟対応
万が一、税関から侵害品との認定を受けた場合でも、行政不服審査法に基づく審査請求や、更正処分取消訴訟を通じて、認定の覆しを目指します。
(五)予防法務としての契約レビュー
将来のトラブルを防ぐため、海外仕入先との売買契約書に関税法および知財法の観点から補償条項を組み込み、貴社の損害を最小限に抑えるスキームを構築いたします。
7 不当な輸入差止申立てに対する対抗措置
日本の商標権者が、並行輸入品の排除を目的に不当な内容で税関に差し止めを申し立てている場合、輸入者はそれに対抗する手段を有しています。
(一)供託金制度の活用
関税法第六十九条の十五に基づき、税関長は権利者に対し、輸入者が被るおそれがある損害の賠償を担保するための供託を命じることができます。これを促すことで、権利者に対して安易な差し止めを思い止まらせる心理的抑止力となります。
(二)不正競争防止法に基づく対応
権利者が、並行輸入品が偽物であるという虚偽の事実を流布して営業を妨害している場合、不正競争防止法に基づき、営業誹謗行為として差止や損害賠償を請求することが可能です。
8 知的財産権侵害を巡る最新の法改正と実務への影響
関税法改正により、海外の事業者が郵便等を利用して日本国内の個人に送付する模倣品についても、個人使用目的であっても輸入してはならない貨物として没収の対象となりました。
これにより、個人輸入を装った小規模な転売ビジネスであっても、税関の取締りは一層厳格化されています。事業として並行輸入を行う場合には、規模に関わらず完全な法的コンプライアンスが求められる時代となったのです。
9 輸入者が保存すべき商流証明書類の具体的詳細
事後調査や認定手続において、税関から最も重視されるのは、貨物の同一性を証明する客観的記録です。以下の書類が欠けている場合、真正品であっても侵害品と認定されるリスクが高まります。
一 注文書(Purchase Order):いつ、誰が、何を注文したかの記録
二 送金指図書(Payment Advice):実際に代金が支払われた銀行の証明
三 荷渡指図書(Delivery Order):貨物の引き渡しに関する記録
四 商品のシリアル番号リスト:一点ごとに管理されている個体識別番号の控え
これらを一点の曇りもなく提示できる体制こそが、並行輸入事業者の真の実力です。
10 まとめ
本日は、並行輸入ビジネスの死活問題である知的財産権侵害と税関の認定手続について解説いたしました。S氏のようなケースであっても、当初から並行輸入の三要件を深く理解し、商流を証明する資料を完備した上で、税関からの通知に対して即座に専門家の意見書を提出できていれば、貨物を取り戻し、ビジネスを守ることが可能です。
企業としては、並行輸入が適法であるという原則に甘んじることなく、その適法性を常に法的に証明し続けなければならないという厳しい現実を直視してください。インボイスの数字だけでなく、その背後にある権利の連鎖を管理すること。それが、グローバル・リーダーとしての企業の品格であり、真のコンプライアンス経営の姿です。
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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら)
(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定
本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。
弁護士と通関業者の役割の違い
はじめに:仮の相談者から寄せられた相談事例のご紹介
本日は、輸入実務に従事する多くの企業が陥りやすい「税関対応における専門家選択の誤解」について、その法的構造から実務的な防衛策までを網羅的に解説いたします。輸入申告という日常的な事務の延長線上にある事後調査において、誰が真に貴社の味方となり、法的な盾となるのかを理解することは、企業の財務的損失を最小限に抑える上で極めて重要です。まずは、当事務所に実際に寄せられる相談内容を模した、以下の架空事例をご覧ください。通関業者への過度な依存がいかに深刻な経営判断の誤りを招くか、その現実を理解する重要な一助となります。
【相談者】
東京都内で欧州製のアウトドア用品の輸入販売を行う株式会社アルペン貿易、代表取締役、佐々木氏(仮名)
【相談内容】
「当社は、過去二十年にわたり国内の大手通関業者B社にすべての輸入申告を委託しております。先日、税関による三日間の事後調査が実施されました。調査官からは、海外の親会社へ支払っているマーケティング支援費が、実態として輸入貨物の価格に加算すべき『ロイヤルティ(関税定率法第4条第1項第4号)』に該当するため、過去五年分に遡って三千万円の追徴を行うとの指摘を受けました。当社の立場としては、この費用は国内での広告宣伝に対する対価であり、貨物の輸入とは無関係であると主張しました。しかし、長年信頼してきた通関業者の担当者からは『税関の見解を否定して争うと、今後の通関審査が厳しくなり、荷物が止まるリスクがあります。ここは穏便に修正申告に応じましょう』と強く説得されました。納得がいかないまま修正申告の準備を進めていますが、本当に反論の余地はないのでしょうか。法的な専門家としての見解を伺いたい。」
このような事例は、日本の通関実務の現場において日常的に発生しております。佐々木氏のように、通関業者の助言を「唯一の正解」として受け入れてしまうことは、法的な観点からは極めて危険な判断と言わざるを得ません。本日は、通関業者と弁護士の役割が法的にどのように異なり、事後調査という極限状態においてどのようなタッグを組むべきか、関係法令を詳細に引用しながら解説いたします。
1 通関業者(通関士)の法的地位と実務上の限界
まず理解すべきは、通関業者が負うべき法的な義務とその性質です。通関業者は、通関業法という法律に基づき、税関長から許可を受けて営業を行う事業者です。
「通関業務 他人の依頼に応じ、その者の代理人として税関に対し、関税法その他の貨物の輸出入に関する法令の規定に基づく申告(中略)を行うことをいう。」
通関業者の使命は、適正かつ迅速な通関手続きの遂行にあります。しかし、彼らの立ち位置には、輸入者の利益を守る上で決定的な「三つの限界」が存在いたします。
第一に、監督官庁との心理的・組織的関係です。通関業者は税関から営業許可を受けており、その業務は税関の監督下にあります(通関業法第34条)。通関業者にとって税関は「絶対的な審査官」であり、業務停止処分等のリスクを考慮すると、法解釈を巡って税関と真っ向から対立することは、自社の営業基盤を危うくする行為と映ります。これが、佐々木氏の事例のように「税関の言う通りにしておきましょう」という安易な妥協を招く構造的な要因です。
第二に、業務範囲の限定性です。通関士の専門領域は、HSコードの分類や申告書類の作成といった「実務的手続き」に特化しています。しかし、事後調査で争点となるのは、契約書の文言解釈や、WTO関税評価協定に基づく高度な法理、あるいは「隠蔽・仮装」の存否といった純粋な法律論争です。これらは通関業法の範囲を超えた、司法判断の領域に属するものです。
第三に、インセンティブの欠如です。通関業者の報酬は、通常、申告一件あたりの手数料として設定されています。事後調査で数ヶ月にわたる法的な論争を行い、追徴税額を減らしたとしても、通関業者に成功報酬が発生する契約構造は一般的ではありません。そのため、複雑な論争を避け、早期に事案を終結させることに力学が働きます。
2 弁護士の役割:独立した法的守護者としての機能
一方、弁護士の役割は、通関業者とは根本的に異なります。弁護士法第1条に基づき、弁護士は「基本的人権の擁護」と「社会正義の実現」を使命としており、行政当局からは完全に独立した存在です。
「弁護士は、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とする。」
事後調査において弁護士が提供する価値は、以下の点に集約されます。
一 ゼロベースでの法解釈の検証。税関が提示する「更正の理由」が、関税定率法や基本通達、さらには行政手続法に照らして正当であるかを徹底的に検証いたします。税関の主張に論理的な飛躍や事実誤認があれば、それを法的書面(意見書)として突き付け、不当な課税を阻止いたします。
二 秘匿特権の保障。弁護士には厳格な守秘義務(弁護士法第23条)があり、相談内容が税関に漏れることは万に一つもありません。これにより、輸入者は自社のリスクや過去の経緯を包み隠さず相談し、最適な防御戦略を練ることが可能となります。
三 事実認定のコントロール。特に「重加算税(関税法第12条の3)」が示唆される局面において、弁護士は、輸入者の行動が「隠蔽や仮装」には当たらないことを、客観的な証拠に基づいて主張いたします。これは事実の評価という高度な法的実務であり、弁護士が最も真価を発揮する領域です。
┌──────────────────────────────────────┐
│ 通関業者と弁護士の事後調査対応における機能比較一覧表 │
├────────┬─────────────────┬───────────┤
│ 比較項目 │ 通関業者(通関士)の対応 │ 弁護士の対応 │
├────────┼─────────────────┼───────────┤
│ 法的立ち位置 │ 税関から許可を得た代行業者 │ 行政から独立した擁護者│
├────────┼─────────────────┼───────────┤
│ 守るべき利益 │ 通関実務の円滑化と自社の免許 │ 依頼者の権利と経済的利益│
├────────┼─────────────────┼───────────┤
│ 得意とする領域│ 書類作成、HSコードの選定 │ 法解釈、証拠評価、交渉│
├────────┼─────────────────┼───────────┤
│ 税関への姿勢 │ 協調的・指導を受け入れる傾向 │ 対等・論理的・批判的 │
├────────┼─────────────────┼───────────┤
│ 不服申立て │ 消極的(関係悪化を懸念) │ 積極的(権利行使の手段)│
└────────┴─────────────────┴───────────┘
3 事後調査で弁護士の介入が不可欠となる具体的局面
事後調査が単なる事務確認の域を超え、以下の三つの局面に入った場合、もはや通関業者だけでは貴社を守ることはできません。
(一)「加算要素」を巡る法解釈の争い
関税定率法第4条第1項は、課税価格の決定について極めて難解な規定を置いています。ロイヤルティ、金型費用、あるいは仲介手数料といった「別途支払い」が、法的に貨物の対価(取引価格)に含まれるか否かは、契約書の実質的な内容に依存いたします。税関は往々にして、支払いのすべてを貨物に紐付けようとしますが、弁護士は、当該支払いが輸入取引の「条件」となっていないことを、国際売買契約の理論や会計基準を援用して論証いたします。
(二)「隠蔽・仮装」の認定と重加算税の回避
税関が重加算税を課そうとする際、彼らは輸入者が「わざと過少に申告した」というストーリーを構築します。
「納税義務者が、関税の課税標準の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し(中略)たときは、税関長は(中略)重加算税を徴収する。」
この「隠蔽・仮装」の認定は、主観的な意図を客観的な事実から推認するプロセスであり、刑事事件に近い緻密な反論が求められます。弁護士は、調査官の誘導尋問から役職員を保護し、不用意な自白を防ぐとともに、適切な事実関係を記録(質問応答記録書)に反映させます。
(三)刑事事件化および告発のリスク
禁制品の輸入や悪質な脱税の疑いがある場合、事後調査は「犯則調査」へと切り替わり、家宅捜索や逮捕の可能性が生じます。この段階では、もはや通関実務の知識は無力であり、刑事弁護の経験豊富な弁護士による身体拘束の阻止や、検察官への告発を回避するための高度な交渉が必要となります。
4 「通関業者+弁護士」による最適タッグの構築
誤解してはならないのは、通関業者が不要であると言っているわけではないという点です。むしろ、理想的なのは、現場の実態を熟知している通関士と、法の論理を司る弁護士が協力する体制です。
(一)情報共有の円滑化
弁護士が事後調査に立ち会う際、通関業者から過去の申告経緯や税関とのこれまでのやり取りについて詳細なヒアリングを行います。通関業者が持つ「現場感覚」は、弁護士が反論を構成するための重要な材料となります。
(二)役割の明確化
HSコードの分類や関税率の計算といったテクニカルな部分は通関業者に任せ、弁護士は全体の交渉戦略、契約書の法的評価、および不利益処分に対する不服申立ての準備に専念いたします。この「静」と「動」の使い分けが、税関に対する最も効果的なプレッシャーとなります。
(三)通関士資格を有する弁護士の強み
当事務所のように、代表弁護士が輸出入の唯一の国家資格である通関士資格を保有している場合、通関士と弁護士の視点を一人の人間の中で統合することが可能です。これにより、通関実務の細部を理解した上で、税関の論理的弱点を即座に見抜き、一貫性のある強力な法的防御を展開できるという、他に類を見ないメリットを提供できます。
5 「乙仲任せ」が招く長期的な経営リスク
事後調査での不適切な対応は、単発の追徴課税に留まらない、連鎖的な不利益を企業にもたらします。
一 AEO(認定事業者)認定の取消し。コンプライアンス上の不備が認定されると、特定輸入者としての優遇措置を失い、すべての貨物について開梱検査を受けるなど、物流リードタイムが大幅に悪化いたします。
二 社会的信用の失墜。多額の脱税や重加算税の賦課が公表された場合、取引先や金融機関からの評価は地に落ちます。
三 事後調査の頻度上昇。一度「不適正」のラベルを貼られた企業には、税関は通常三年の周期を短縮して再調査に訪れます。
これらのリスクを考慮すれば、調査の初期段階から弁護士を関与させるコストは、企業を守るための極めて合理的な「経営保険」であると言えます。
6 不服申立ての法理:税関の処分は絶対ではない
もし税関長による更正処分に納得がいかない場合、輸入者には行政不服審査法および関税法に基づく不服申立ての権利が保障されています。
(行政不服審査法第2条)
更正処分を知った日の翌日から三カ月以内に「再調査の請求」を行い、それでも解決しない場合は財務大臣に対して「審査請求」を行うことができます。これらの手続きは、通関業者の範疇を完全に超えた、法的な紛争解決実務です。弁護士は、これらの審理過程において、過去の裁決事例や最高裁判例を引用した膨大な主張書面を作成し、処分の取り消しを求めて戦います。
┌──────────────────────────────────────┐
│ 税関の更正処分に対する不服申立て手続の進行図 │
├───────────┬───────────────┬──────────┤
│ 手続の名称 │ 判断機関 │ 弁護士の役割 │
├───────────┼───────────────┼──────────┤
│1.再調査の請求 │ 処分を下した税関長 │ 請求書の起案・立証│
├───────────┼───────────────┼──────────┤
│2.審査請求 │ 財務大臣(関税等不服審査会)│ 口頭意見陳述・反論│
├───────────┼───────────────┼───────────┤
│3.取消訴訟 │ 地方裁判所(司法権) │ 訴訟代理人としての活動│
└───────────┴───────────────┴──────────┘
7 専門家(弁護士)による事後調査シミュレーションの重要性
実際に税関の通知が届いてから慌てるのではなく、日常の業務において「リーガル・デューデリジェンス」を実施しておくことが最善の防御です。当事務所では、貴社の過去の輸入申告データと会計帳簿を突き合わせ、税関が指摘しそうなポイントをあらかじめ洗い出すサービスを提供しております。
一 加算要素の再検証。ロイヤルティや技術援助料の支払いが漏れていないか。
二 HSコードの再定義。最新の分類事例に照らして誤りがないか。
三 契約書の整備。将来の調査において有利な解釈ができる文言への修正。
このような事前の備えがあれば、事後調査の当日は、あらかじめ用意した正当な論理を提示するだけで済み、佐々木氏のように通関業者の「泣き寝入り」の助言に惑わされることはありません。
8 まとめ:自社の権利を守るための断固たる決意
本日は、税関事後調査における通関業者と弁護士の決定的な役割の違いについて解説いたしました。佐々木氏のようなケースであっても、当初から弁護士が立ち会い、マーケティング支援費が「販売の条件」ではないことを法的に論証できていれば、三千万円という巨額の追徴を回避できた可能性は十分にあります。
企業にとって、税関は公正な行政サービスを提供する機関である一方、多額の税金を徴収する権力的主体でもあります。通関業者という「手続きの専門家」を過信せず、弁護士という「権利の守護者」を傍らに置くこと。それが、不確実なグローバルビジネスにおいて自社の利益を守り抜き、健全な経営を維持するための唯一の道です。
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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら)
(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定
本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。
越境ECビジネスの留意点
はじめに:仮の相談者から寄せられた相談事例のご紹介
本日は、近年急速に拡大している越境ECや転売ビジネスにおいて、最も多くの事業者が陥りやすく、かつ税関の事後調査において深刻な法的責任を問われる「個人輸入の仮装」および「アンダーバリュー(低価申告)」の問題について、その法的構造から実務的な防衛策までを網羅的に解説いたします。海外のサイトから手軽に商品を仕入れ、国内のプラットフォームで販売するビジネスモデルは魅力的ですが、関税法という国家の門番が課すルールを軽視することは、将来の利益をすべて吐き出すだけでなく、刑事罰という取り返しのつかない事態を招きかねません。まずは、当事務所に実際に寄せられる相談内容を模した、以下の架空事例をご覧ください。
【相談者】
都内で海外製サプリメントや化粧品の並行輸入販売を個人事業として営むK氏(仮名)
【相談内容】
「私は数年前から、米国のECサイトで安く仕入れた商品を日本のフリマアプリや自身のネットショップで販売しております。商品はすべて自宅を配送先にしており、一回あたりの仕入れ額もそれほど大きくなかったため、配送業者からは個人輸入として扱われ、関税も安く済んでいました。ところが、先日税関から事後調査の通知が届き、過去三年にわたる輸入実績を精査されました。税関の指摘によれば、宛先が個人名であっても、輸入された数量や頻度、および実際に国内で販売している事実から、これらはすべて個人輸入ではなく『商用輸入』とみなすべきであるとのことです。また、一部のインボイスにおいて海外セラーが価格を低く記載していたことも『意図的な低価申告』と疑われています。関税の不足分に加え、多額の加算税を請求されており、アカウントの停止も不安です。法的にどのように対応し、今後はどのような体制を築くべきでしょうか」
このような事例は、副業感覚で輸入ビジネスを始めた個人や小規模事業者の間で、極めて頻繁に発生しております。K氏の「個人名なら個人輸入で通るだろう」という安易な認識は、関税法の厳格な定義の前では通用いたしません。本日は、越境EC事業者が必ず知っておくべき関税法の原則と、摘発を避けるための適正な申告実務を詳細に解説いたします。
1 関税法における「輸入」の定義と納税義務の法的所在
まず、輸入ビジネスを行う者が認識すべきは、自らが国家に対する納税義務者であるという自覚です。関税法では、輸入について以下のように定義されています。
「輸入 外国から本邦に到着した貨物(中略)を本邦に引き取ることをいう。」
そして、貨物を輸入しようとする者は、自らの責任において適正な申告を行う義務を負います。
「貨物を輸入しようとする者は、税関長に対し、当該貨物の品名、数量及び価額その他必要な事項を申告しなければならない。」
日本の関税制度は、納税者が自ら税額を計算して申告する「申告納税方式」を採用しています。K氏のように、配送業者(クーリエ)に申告を任せている場合でも、法的な納税義務者は輸入者であるK氏本人です。したがって、提供された情報に誤りがあれば、その責任はすべて輸入者が負うことになります。
2 「個人輸入特例」と「商用輸入」の法的峻別
越境EC事業者が最も誤解しやすいのが、個人輸入における課税価格の計算特例です。一般的に「60%特例」と呼ばれるこの制度は、あくまで「自己の個人的な使用」を目的とする場合にのみ許容されるものです。
個人が自分自身で使用するために輸入する貨物については、卸売価格(海外小売価格の約6割程度)を課税価格とみなすという運用がなされています。具体的には、海外小売価格に0.6を乗じた金額を課税価格とし、そこに関税率を適用します。一方、販売目的、すなわちビジネスとして輸入する場合は、この特例は一切適用されません。
商用輸入の場合、課税価格は「輸入取引の対価として実際に支払った又は支払われるべき価格」に、運賃や保険料を加算した総額(CIF価格)となります。
以下の表に、個人輸入と商用輸入の決定的な違いを整理いたしました。
┌──────────────────────────────────────┐
│ 個人輸入と商用輸入(ビジネス目的)の法的比較一覧表 │
├───────┬──────────────────┬───────────┤
│比較項目 │個人輸入(自己使用目的) │商用輸入(販売・業務目的)│
├───────┼──────────────────┼───────────┤
│課税価格の算定│海外小売価格×0.6(特例適用) │仕入価格+運賃+保険料│
├───────┼──────────────────┼───────────┤
│輸入消費税 │上記課税価格に基づき算出 │実額に基づき算出 │
├───────┼──────────────────┼───────────┤
│他法令の規制 │薬機法等の数量制限緩和あり │厳格な許可・届出が必要│
├───────┼──────────────────┼───────────┤
│税関の判断基準│数量、頻度、職業、過去の履歴 │営利性、反復継続性の有無│
├───────┼──────────────────┼───────────┤
│指摘時のリスク│差額関税の追徴、過少申告加算税 │無許可輸入による刑事罰│
└───────┴──────────────────┴───────────┘
K氏のように、販売目的であるにもかかわらず個人輸入として申告し続ける行為は、関税を不当に免れる「不実の申告」とみなされます。税関は、特定の住所に大量の貨物が届いている、あるいは同一人物が短期間に何度も同じカテゴリーの商品を輸入しているといったデータをNACCS(輸出入・港湾関連情報処理システム)で完全に把握しており、逃げ隠れは不可能です。
3 アンダーバリュー(低価申告)の誘惑と法的制裁
越境EC実務において、もう一つの深刻な問題がアンダーバリューです。これは、インボイス(仕入書)に記載する金額を実際の決済額よりも低く記載させ、関税や消費税を圧縮する行為を指します。
(一)インボイス価格の真正性
海外のセラーが「税金を安くしてやる」と言って勝手に低価格を記載したり、「GIFT(贈り物)」や「Sample(見本品)」として発送したりすることがあります。しかし、輸入者には適正な価格で申告する法的義務があります。
輸入者は、インボイスの価格が実際の決済額と異なることに気づいた場合、速やかにその旨を通関業者に伝え、正しい価格で申告を修正しなければなりません。
(二)意図的なアンダーバリューに対する重罰
もし税関が、輸入者が意図的に価格を低く見せかけたと認定した場合、それは単なるミスではなく「隠蔽または仮装」とみなされます。
「納税義務者が、関税の課税標準の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき申告書を提出したときは、税関長は、加算税に代え、不足税額の三十五パーセント(過去に同様の罰がある場合は四十パーセント)に相当する重加算税を徴収する」
この重加算税は、通常の過少申告加算税(10%〜15%)に比べて極めて重く、企業の利益を一瞬で消失させる威力があります。
(三)刑事事件への発展
さらに、悪質なアンダーバリューは、関税法第百十条に規定される「脱税罪」に該当いたします。
「偽りその他不正の行為により関税を免れた者は、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する」
「海外業者が勝手にやったことだ」という抗弁は、実際の送金記録やメールのやり取りなどの証拠によって容易に覆されます。また、輸入者がセラーに対して低価格記載を依頼していた場合は、明確な共同正犯または教唆として厳しく処罰されます。
4 ECプラットフォームのアカウント凍結と企業信用の失墜
現代のECビジネスにおいて、関税法違反は単なる税金の問題に留まりません。Amazon、楽天市場、ヤフーショッピングといった大手プラットフォームは、コンプライアンスの遵守を厳格に求めており、税関から「不正な輸入者」として特定された場合、その情報はプラットフォーム側にも共有される可能性があります。
一 アカウントの永久停止:規約違反により、それまでの売上金が留保されたままアカウントが削除されるリスクがあります
二 社会的信用の喪失:刑事罰を受けた場合、実名報道がなされれば、ビジネスの継続は不可能となります
三 物流の停滞:一度「要注意事業者」としてブラックリストに載ると、その後のすべての輸入貨物が全量開梱検査の対象となり、リードタイムが大幅に遅延いたします
5 適正な輸入申告体制を構築するための五つの具体的防衛策
転売ビジネスを健全な「事業」として継続するためには、以下の防衛策を即座に実施することを強く推奨いたします。
(一)「商用輸入」としての正当な申告
販売目的であれば、最初から商用輸入(貨物代金の100%を課税価格とする申告)を行ってください。これにより、事後調査での「個人輸入の仮装」という指摘を完全に封じ込めることができます。
(二)決済エビデンスの厳重管理
インボイスの金額と、クレジットカードや銀行振込の実際の決済額が一致していることを常に確認してください。差異がある場合は、決済画面のキャプチャやPayPalの支払い明細などを保存し、通関業者に「これが真実の価格である」と提示できるようにしておく必要があります。
(三)セラーに対する「適正記載」の徹底要請
海外セラーに対し、「価格を安く書かないでください」「必ず決済実額を記載してください」と書面(メール等)で明確に指示を出してください。この指示の記録があることが、万が一セラーが勝手にアンダーバリューを行った際の、輸入者側の「善意(無過失)」を証明する重要な証拠となります。
(四)修正申告の自発的実施
過去の申告に誤りを発見した場合は、税関の事後調査を受ける前に、自発的に修正申告を行ってください。
調査の通知がある前に自発的に修正を行えば、過少申告加算税は課されません。この「正直な対応」が、将来的な税関との信頼関係を維持する鍵となります。
(五)他法令(薬機法、食品衛生法等)の遵守
商用輸入に切り替える際、サプリメントや化粧品、食器類などは、関税だけでなく他法令の規制対象となります。これらをクリアせずに輸入することは「無許可輸入」となり、別の深刻なリスクを招きます。必ず専門家のリーガルチェックを受けてください。
6 専門家(弁護士・通関士等)による高度なリーガルサポートの重要性
越境ECや転売ビジネスは、一見すると参入障壁が低いように見えますが、その実態は「国際法務」の塊です。輸入者が独力で、あるいは通関業者に任せきりの状態で進めることには、法的な死角が多すぎます。当事務所は、代表弁護士が通関士資格を保有しており、法務と実務の双方から貴社を強力に守ります。
【当事務所が提供できる具体的な支援内容一覧表】
┌──────────────────────────────────────┐
│ EC事業者向け:関税リスク・ソリューション一覧 │
├───────┬──────────────────────────────┤
│業務内容 │具体的な支援と法的なメリット(全角表記) │
├───────┼──────────────────────────────┤
│輸入形態診断 │現状の取引が「個人」か「商用」か、関税法に基づき適正に判定 │
├───────┼──────────────────────────────┤
│事後調査対応 │税関調査当日の立ち会い、当局との法的見解の調整、主張書面作成│
├───────┼──────────────────────────────┤
│修正申告支援 │過去の誤りを精査し、加算税免除のための自発的修正をサポート │
├───────┼──────────────────────────────┤
│セラー交渉代理│海外業者に対する適正申告の要請および補償条項付き契約書の作成│
├───────┼──────────────────────────────┤
│他法令チェック│薬機法や食品衛生法等の「輸入の壁」を突破するための法的助言 │
└───────┴──────────────────────────────┘
弁護士が介入することで、税関に対して「本事業者はコンプライアンスを重視している」という強力なメッセージを伝えることができ、結果として不当な疑念や過度な追及を避けることが可能となります。
7 まとめ
本日は、成長著しい越境ECや転売ビジネスに潜む「個人輸入の仮装」と「アンダーバリュー」のリスクについて解説いたしました。K氏のような事例であっても、当初から商用輸入として適正に納税し、インボイス価格の妥当性を常にチェックしていれば、数千万円の追徴金や刑事罰の恐怖に怯える必要はなかったのです。
ビジネスとして継続的に輸入を行うのであれば、関税は「避けるべきコスト」ではなく「適切に管理すべきリスク」です。目先のわずかな関税をケチることで、将来の巨大な富を生むプラットフォームや自身の自由を失うことは、経営として全く割に合いません。
正しい法令知識に基づき、透明性の高い申告体制を構築すること。それが、グローバル・マーケットで戦い続けるための真のパスポートとなります。
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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら)
(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定
本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。
海外サプライヤーに起因する追徴課税リスク
はじめに:仮の相談者から寄せられた相談事例のご紹介
本日は、輸入実務において最もコントロールが困難でありながら、一度問題が発生すれば甚大な財務的打撃を免れない「サプライヤー・リスク」について、その法的構造から実務的な防衛策までを網羅的に解説いたします。日本の輸入者は、自らが関税の納税義務者である以上、海外の売手(輸出者)から提供された情報の不備や誤謬であっても、そのすべての責任を税関に対して負わなければならないという厳しい現実があります。まずは、当事務所に実際に寄せられた相談内容を模した、以下の架空事例をご覧ください。
【相談者】
福岡県内で環境関連機器の輸入販売を行う株式会社W、代表取締役、X氏
【相談内容】
「当社は、東南アジアの製造メーカーY社から、EPA(経済連携協定)を活用して太陽光発電関連の部品を無税で輸入しております。Y社からは、当該貨物は現地の原材料を主に使用しており、協定上の原産地規則を満たしているとの確約を得ておりました。ところが、先日行われた税関の事後調査において、Y社が作成した原産地証明の基礎となる原価計算書(BOM)に重大な誤りがあることが判明しました。実際には、域外の第三国から輸入された高額なコア部品が多数使用されており、付加価値基準を全く満たしていなかったのです。税関からは、過去三年にわたるEPA適用の否認と、本来の関税率に基づいた追徴課税、さらに過少申告加算税を合わせて五千万円以上の支払いを命じられました。当社はY社を信頼して情報をそのまま申告しただけであり、意図的な不正は一切ありません。なぜ輸出者のミスを日本の輸入者がすべて背負わなければならないのでしょうか。また、Y社に対してこの損害を賠償請求することは可能でしょうか」
このような事例は、グローバル・サプライチェーンが複雑化する中で、日本国内の輸入者が常に晒されている構造的なリスクを象徴しています。本日は、このサプライヤーに起因する関税リスクの法的背景と、契約書による防御、そして実務的なリスクヘッジの手法について、法令の条文を交えながら詳細に解説いたします。
1 輸入者の申告納税義務とサプライヤー依存の構造的リスク
日本の関税制度は、関税法第七条に規定される通り、納税義務者が自ら税額を計算して申告する「申告納税方式」を原則としています。
「貨物を輸入しようとする者は、税関長に対し、当該貨物の品名、数量及び価額その他必要な事項を申告しなければならない」
この規定により、輸入者は申告内容の正確性について最終的な法的責任を負います。しかし、現実の輸入実務において、輸入貨物の詳細な構成、正確な製造原価、あるいはロイヤルティの支払条件といった「課税価格」や「原産地」を決定するための一次情報は、すべて海外のサプライヤーが握っています。輸入者はサプライヤーから提供されたインボイスや原産地証明書を「正しいもの」と信じて申告せざるを得ません。ここに、輸入者の預かり知らないところで「過少申告」が発生する構造的なリスクが存在します。税関は、輸入者がサプライヤーに騙されていたとしても、あるいはサプライヤーが単に計算を間違えただけであっても、納税義務者である輸入者に対して容赦なく追徴課税(更正処分)を行います。この際、輸入者の「善意(知らなかったこと)」は、本税の徴収を免れる理由にはなりません。
2 輸出者のミスが引き起こす追徴課税の具体的なメカニズム
輸出者側での情報の不備や誤りが、どのような法的プロセスを経て輸入者のリスクに転換されるのか、主要な三つのケースを掘り下げます。
(一)関税評価(価格)における情報の非対称性
関税定率法第四条では、輸入貨物の課税価格を「取引価格」に基づき決定することを定めています。
「輸入貨物の課税価格は、当該輸入貨物に係る輸入取引がされた時の価格(買手が輸入貨物の輸入取引に関連して売手に対し又は売手のために、当該輸入貨物の対価として実際に支払った又は支払われるべき価格)に、その価格に含まれていない限度において次に掲げる費用の額を加算した価格とする」
ここで、サプライヤーが「別の名目」で買手から金銭を受け取っている場合が問題となります。例えば、輸出者がインボイス価格とは別に、第三者の権利者へ支払われるべきロイヤルティを輸入者に肩代わりさせていたり、製造に必要な金型の費用を別途請求していたりする場合です。輸出者がこれらの費用を「貨物の価格には関係ない」と誤認して輸入者に伝え、輸入者が加算せずに申告した場合、事後調査において関税定率法第四条第一項各号の「加算要素」として指摘され、遡及的な追徴を受けることになります。
(二)原産地情報の誤りとEPAの否認
X氏の事例のように、EPA(経済連携協定)の適用を受けるためには、貨物が協定上の原産地規則を満たしている必要があります。
税関長は、経済連携協定の規定に基づき関税の譲許の便益を受ける貨物について(中略)当該貨物が当該経済連携協定の規定に基づき当該締約国の原産品とされるものであることを確認するために必要な資料の提出を求めることができる。
輸出者が発行する「特定原産地証明書」は、輸出者側の自己申告に基づいています。もし輸出者の原価計算が杜撰であったり、使用部材の原産地を偽っていたりした場合、輸入申告時には受理されても、数年後の事後調査や「検認(Verification)」において、その原産性が否定されます。この場合、輸入者は過去に遡って免除されていた関税をすべて一括で支払わなければならず、キャッシュフローに致命的な打撃を与えます。
(三)貨物情報の不備によるHSコードの誤分類
HSコード(品目分類)の決定には、貨物の材質、機能、用途に関する極めて詳細な技術情報が必要です。輸出者が提供した製品仕様書が不十分であったり、誤った用途を伝えていたために、輸入者が低い関税率のコードを選択してしまった場合、税関から関税法第十四条に基づく更正を受けます。HSコードの相違は、単に関税率の差だけでなく、輸入禁止物品への該当性や他法令の規制にも波及するため、企業コンプライアンス上の重大な瑕疵とみなされます。
3 サプライヤーリスクを視覚化するリスク分析表
実務において、どのようなサプライヤーの挙動が輸入者のリスクに直結するのかを、以下の表にまとめました。
┌──────────────────────────────────────┐
│ サプライヤー起因の関税リスクと輸入者への影響比較表 │
├───────┬──────────────────┬───────────┤
│リスクの種類 │サプライヤー側の不備の内容 │輸入者への法的帰結 │
├───────┼──────────────────┼───────────┤
│関税評価リスク│ロイヤルティや金型費等の加算要素を │関税定率法4条違反 │
│ │インボイスから除外し別名目とする │不足税額の遡及追徴 │
├───────┼──────────────────┼───────────┤
│原産地リスク │原価計算のミスや非原産材料の混入を │EPA適用の否認 │
│ │隠蔽して原産地証明書を発行する │免税分の全額徴収 │
├───────┼──────────────────┼───────────┤
│品目分類リスク│製品の成分や作動原理に関する正確な │HSコードの訂正 │
│ │技術情報を輸入者に提供しない │高率関税への強制変更 │
├───────┼──────────────────┼───────────┤
│事務的リスク │インボイスの品名や数量の記載ミスを │不実申告の疑い │
│ │繰り返す(ケアレスミス) │事後調査の頻度上昇 │
└───────┴──────────────────┴───────────┘
4 サプライヤーリスクを最小限に抑えるための三つの防御策
輸入者が、自らコントロールできないサプライヤーのミスから身を守るためには、「契約」と「監査」という法的なガバナンスを構築することが不可欠です。
(一)防御策1:国際売買契約書への関税コンプライアンス条項の導入(予防法務)
海外のサプライヤーとの間で締結する契約書(Sales Agreement等)は、単なる商取引の合意書ではなく、関税リスクを分配するための「防壁」でなければなりません。具体的には、以下の三つの条項を必ず盛り込むべきです。
一 関税情報提供義務:サプライヤーは、日本の関税法に基づく課税価格の決定およびHSコードの分類に必要なすべての技術情報、原価計算データ、知的財産権の支払い状況等を、輸入者の要求に応じて迅速かつ正確に開示する義務を負う旨を規定します。
二 EPA原産性に関する表明および保証:EPAを適用する場合、サプライヤーは「貨物が該当する協定上の原産地規則を完全に満たしていること」を表明し、かつ保証します。また、税関による検認が発生した際には、サプライヤーの責任と費用において、直接税関に対して必要な証拠資料を提出することを義務付けます。
三 包括的な補償条項(インデムニティ条項):サプライヤーが提供した情報の誤り、虚偽、または資料提供の遅延等により、輸入者が追徴課税、過少申告加算税、延滞税、その他の罰金や損害を被った場合、サプライヤーはその一切の損害を直ちに輸入者に対して補償する義務を負うことを明記します。これにより、X氏の事例のように、輸出者のミスによる損害を相手方に法的に転嫁することが可能となります。
(二)防御策2:定期的監査とデューデリジェンスの実施
特にEPAによる免税額が大きい重要なサプライヤーに対しては、契約に基づき、定期的な現地監査(関税デューデリジェンス)を実施することが有効です。輸入者自らが、あるいは専門家を派遣して、サプライヤーの原価計算ソフトの設定や原材料の調達ルートを確認することで、事後調査での「爆弾」を事前に発見することが可能となります。
(三)防御策3:複数サプライヤー戦略と文書管理の高度化
特定の一社に依存することは、そのサプライヤーの法務的レベルが輸入者のリスクに直結することを意味します。可能であれば、異なる国や地域の複数のサプライヤーを確保し、関税リスクを分散させる戦略が求められます。また、サプライヤーから受け取ったすべての資料は、関税法第九十四条に基づく保存義務(原則七年)を果たすだけでなく、将来の税関との交渉において「輸入者として最善の注意を払っていた」ことを証明する証拠となるよう、デジタルアーカイブ化して厳重に管理すべきです。
5 契約書に盛り込むべき具体的な条項案のチェックリスト
以下は、当事務所が推奨する、サプライヤーに対する関税リスク対策条項の要点です。
┌──────────────────────────────────────┐
│ 対サプライヤー:関税リスク回避のための契約条項チェックリスト │
├───────┬──────────────────────────────┤
│条項の種類 │盛り込むべき具体的な内容 │
├───────┼──────────────────────────────┤
│情報提供義務 │HSコード分類、原価構成、ロイヤルティ等に関する正確な資料 │
│ │を輸入者の要求から14日以内に提供すること │
├───────┼──────────────────────────────┤
│原産性保証 │適用されるEPAの原産地基準を充足することを表明・保証し、 │
│ │税関の直接的又は間接的な検認に全面的に協力すること │
├───────┼──────────────────────────────┤
│損害補償 │サプライヤーの情報不備に起因する追徴税、加算税、延滞税、 │
│ │弁護士費用等の全額をサプライヤーが輸入者に支払うこと │
├───────┼──────────────────────────────┤
│通知義務 │製造プロセス、原材料の調達先、または価格構成に変更が生じた │
│ │場合は、輸入者に対して直ちに書面で通知すること │
├───────┼──────────────────────────────┤
│監査権限 │輸入者又はその指定する専門家が、サプライヤーの製造施設や │
│ │帳簿を合理的な範囲で閲覧・監査することを認めること │
└───────┴──────────────────────────────┘
6 サプライヤーのミスに対する輸入者の「過失」の法的判断
事後調査において追徴課税がなされる際、輸入者が最も恐れるのが「過少申告加算税(関税法第十二条の二)」に加えて、悪質な隠蔽があったとされる「重加算税(関税法第十二条の三)」の賦課です。
(関税法第十二条の二第一項 過少申告加算税)
「申告納税方式が適用される貨物について、更正があった場合において、当該更正等に際し、正当な理由があると認められる場合を除き、税関長は、当該納税義務者から過少申告加算税を徴収する」
ここでいう「正当な理由」が認められれば、加算税は免除されます。しかし、最高裁判例等の解釈によれば「取引先が間違ったから」という理由は、原則として正当な理由には当たらないとされています。輸入者には、サプライヤーから提供された情報が正しいかどうかを、合理的範囲で確認すべき「善管注意義務」があると考えられているからです。前述の契約書の整備や定期的な確認作業を行っていることは、万が一の際に「輸入者として尽くすべき注意を尽くしていた」ことを証明し、重加算税の回避や、過少申告加算税の減免を勝ち取るための重要な法的材料となります。
7 サプライヤーへの損害賠償請求の実務的課題と対策
実際にサプライヤーのミスで損害を被った際、日本の民法や準拠法に基づき賠償請求を行うことになります。しかし、海外企業相手の訴訟は時間とコストがかかるため、実務的には以下の二点が重要となります。
一 仲裁条項の活用:訴訟よりも迅速な解決が期待できる国際仲裁(JCAA等)を利用する旨を契約書に記載しておきます。
二 支払代金との相殺:契約書に「サプライヤーの帰責事由により輸入者が被った関税上の損害額を、今後支払うべき商品代金と相殺できる」旨の条項を盛り込んでおくことで、実効性のある損害回復が可能となります。
8 専門家による高度なサプライヤー管理サポートの重要性
関税法務は、単なる貿易実務ではなく、国際法、税法、そして各国の商習慣が交差する「高度な法務ガバナンス」の領域です。輸入者が独力で、あるいは通関業者に「丸投げ」の状態で進めることには、サプライヤーの不備を見抜くという点において限界があります。当事務所は、代表弁護士が通関士資格を保有しており、法務と実務の双方から貴社を強力に守ります。
【当事務所が提供できる具体的な支援内容】
一 既存サプライヤーとの契約書の関税法的観点からの徹底レビューおよび修正案の提示
二 EPA適用のためのサプライヤー向け「原産性証明ガイドライン」の策定
三 サプライヤーの原価計算書や製造工程図の妥当性チェック
四 税関による検認が発生した際の、サプライヤーとの情報調整および回答支援
五 追徴課税が発生した際の、サプライヤーに対する損害賠償請求および交渉の代理
六 包括的な社内輸入管理規定の構築支援
弁護士が契約交渉の段階から介入することで、サプライヤーに対して「関税コンプライアンスを軽視することは許されない」という強力なメッセージを伝えることができ、結果として情報の精度が飛躍的に向上いたします。
9 サプライヤー起因の関税法違反と罰則のリスク
関税法第百十条等では、偽りその他不正の行為により関税を免れた者に対する罰則が定められています。
「第百八条の四第一項又は第百八条の五第一項に規定する貨物以外の貨物について、偽りその他不正の行為により関税を免れた者は、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する」
輸入者がサプライヤーと共謀して低価格申告を行っていた場合はもちろん、サプライヤーの不正を「未必の故意(不正かもしれないが構わないという認識)」で放置していた場合も、刑事責任を問われるリスクが生じます。企業としての社会的信用を守るためにも、サプライヤーの適正管理は単なる税務対策を超えた「リスクマネジメント」そのものです。
10 まとめ
本日は、輸入事業者が抱える最大の死角である「サプライヤー起因の関税リスク」について解説いたしました。X氏のようなケースであっても、当初から契約書に厳格な表明保証と補償条項を盛り込み、Y社の原価計算の仕組みを定期的に確認していれば、五千万円という巨額の追徴金を自社で負担する事態は回避できた、あるいは少なくとも相手方に転嫁することが可能でした。
輸入ビジネスにおいて、サプライヤーを信頼することは美徳ですが、法務の世界においては「信頼しても確認せよ」が鉄則です。インボイスの数字を鵜呑みにせず、その背後にある情報の正当性を契約と監査で担保すること。その地道なコンプライアンス体制こそが、不測の事態から会社を守り、持続可能な国際貿易を実現するための真の土台となります。
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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら)
(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定
本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。
「非原産品」と「加工工程」の留意点
はじめに:仮の相談者から寄せられた相談事例のご紹介
本日は、輸入実務において最も複雑かつ専門的な判断を要し、かつ税関の事後調査において最も厳格に追及される「EPA(経済連携協定)における原産地規則と実質的変更基準」について解説いたします。関税の免除や削減という大きなメリットを享受するためには、単に証明書を提出するだけでなく、その貨物が法的な「原産品」としての資格を真に備えていることを、客観的な証拠に基づいて証明しなければなりません。まずは、当事務所に実際に寄せられた相談内容を模した、以下の架空事例をご覧ください。
【相談者】
愛知県内で産業用電子機器の輸入および卸売を行う株式会社G、代表取締役、H氏(仮名)
【相談内容】
「当社は、ベトナムの製造メーカーI社から、日・ASEAN包括的経済連携協定(AJCEP)を活用して制御ユニットを継続的に輸入しております。I社からは、現地の商工会議所が発行した特定原産地証明書を受け取っており、関税無税で申告してきました。ところが、先日行われた税関の事後調査において、当該製品に使用されている一部の主要基板が中国製であり、ベトナムでの加工が『実質的な変更』にあたらないのではないかという疑義を持たれました。税関はベトナムの輸出者に対して直接的な調査(検認)を開始する準備を進めており、もし原産性が否定されれば、過去三年分の関税差額と過少申告加算税で数千万円の追徴を受ける可能性があると言われました。公的な証明書があるのになぜこのような事態になるのでしょうか。また、法的にどのように『実質的変更』を立証すべきでしょうか」
このような事例は、複数の国から部材を調達して組み立てを行う現代の製造業において、極めて頻繁に発生しております。H氏のように「公的な証明書さえあれば安泰である」という認識は、関税法および各協定の規定に照らせば、非常に危うい誤解と言わざるを得ません。本日は、原産地規則の核心である「実質的変更基準」の法的構造と、否認を回避するための実務的要諦を詳細に解説いたします。
1 原産地規則と実質的変更基準の法的定義
輸入貨物がEPAの特恵税率の適用を受けるためには、その貨物が協定上の「原産品」である必要があります。原産品の認定基準は、関税法および各経済連携協定に基づく特恵関税の適用に関する政令等に詳細に定められています。
税関長は、経済連携協定の規定に基づき関税の譲許の便益を受ける貨物について(中略)当該貨物が当該経済連携協定の規定に基づき当該締約国の原産品とされるものであることを確認するために必要な資料の提出を求めることができます。
多くの工業製品のように、非原産材料(協定域外の国の材料)を使用して製造される貨物の場合、原産地規則を満たすためには、その非原産材料に対して、原産国内で「実質的な変更」を加える加工が行われていなければなりません。実質的変更基準とは、非原産材料を使用して生産された物品について、その生産により、新たな特性が付与されるような重要な加工が行われた場合に、その国を原産地として認めるルールです。
2 実質的変更を証明するための二大基準の詳解
実質的変更が行われたかどうかの判定には、主に以下の二つの基準が用いられます。どちらの基準を適用すべきかは、完成品のHSコード(品目分類番号)ごとに、各協定の付属書(品目別規則:PSR)によって厳格に指定されています。
(一)関税分類変更基準(CTC:Change in Tariff Classification)
この基準は、使用された非原産材料のHSコードと、完成品のHSコードを比較し、一定のレベルで番号が変化していることをもって「実質的変更」があったとみなすものです。
イ 類(上二桁)の変更(CC):非原産材料と完成品の部類が異なる必要がある最も厳しい基準
ロ 項(上四桁)の変更(CTH):材料と完成品の項番号が異なることを要件とする一般的な基準
ハ 号(上六桁)の変更(CTSH):材料と完成品の号番号が異なることで足りる比較的緩やかな基準
(二)付加価値基準(VA:Value Added)
この基準は、完成品の価格のうち、原産国内で生じた付加価値(原産材料費、人件費、製造経費、適正利益等)の割合が、一定の水準(多くの協定では40%以上)を満たしていることを要件とするものです。
以下の表に、それぞれの基準の概要と実務上の留意点を整理いたしました。
┌──────────────────────────────────────┐
│ 実質的変更基準(CTC基準・VA基準)の法的特性比較表 │
├───────┬──────────────────┬───────────┤
│基準の種類 │判断の根拠となる指標 │実務上の主なリスク │
├───────┼──────────────────┼───────────┤
│関税分類変更 │HSコードの番号変化(類・項・号) │非原産材料のHSコード│
│基準(CTC)│外形的な変化で判定が比較的明確 │特定ミスによる判定誤り│
├───────┼──────────────────┼───────────┤
│付加価値基準 │価格に占める原産価値の割合(%) │為替変動や原材料高騰に│
│(VA) │会計データに基づく数値的な判定 │よる比率の事後的低下 │
└───────┴──────────────────┴───────────┘
3 非違指摘を回避するための製造工程管理と立証責任
税関の事後調査において「実質的変更」が否定されるケースの多くは、輸出者側での製造実態の記録不足や、輸入者による確認の甘さに起因します。EPAの適用において、輸入者は「立証責任」を負っていることを強く意識しなければなりません。
(一)CTC基準におけるトレーサビリティの確保
CTC基準を適用する場合、すべての非原産材料のHSコードを正確に特定しなければなりません。調査官は、一部の部材のHSコードが完成品と同じ項に分類されるのではないかと疑い、その場合、分類変更が行われていないとして原産性を否定します。これを防ぐためには、部品表(BOM)において、個々の部材の材質、機能、HSコード、および調達先を網羅的に管理し、製造工程図(フローチャート)によって、それらがどのように結合・加工され、新たなHSコードを持つ製品へと変貌したかを論理的に説明できる資料を揃えておく必要があります。
(二)VA基準における原価計算の正確性と継続的監視
VA基準を適用する場合、計算方法の誤りが致命的な結果を招きます。協定ごとに「控除方式(ビルドダウン方式)」や「積上げ方式(ビルドアップ方式)」といった計算式が指定されており、一円単位の誤差が判定を左右します。特に、H氏の事例のように、非原産材料(中国製基板等)の価格を正しく把握していなかったり、為替相場の変動により非原産材料の円貨換算額が上昇し、結果として付加価値率が規定ラインを下回ったりすることがあります。企業は、輸入の都度、あるいは定期的に原価構成を再検証し、判定基準に対して十分な余裕(バッファ)があることを確認し続けなければなりません。
(三)証憑書類の七年間保存義務
関税法第九十四条に基づき、輸入者は申告の根拠となった書類を七年間保存する義務があります。EPA適用の場合は、原産地証明書だけでなく、その根拠となった部品表や原価計算書も保存対象に含まれると解釈すべきです。輸出者が「企業秘密」を理由に資料を提供しない場合であっても、税関の調査時に提出できなければ、原産性は否定されます。
4 「軽微な加工」という法的陥穽への注意
実質的変更基準を検討する際、最も注意すべきなのが「軽微な加工(不十分な作業)」の規定です。多くのEPAには、たとえHSコードが変化し、あるいは付加価値基準を満たしていたとしても、それだけでは「実質的変更」とは認められない作業のリスト(ネガティブリスト)が定められています。
(経済連携協定に基づく特恵関税の適用等に関する政令別表)
これに該当する主な加工例は以下の通りです。
一 輸送中又は保存中に貨物を良好な状態に保つための乾燥、冷凍等の保存作業
二 単なる選別、仕分け、洗浄、切断、研磨
三 包装の変更、荷分、荷合わせ
四 簡単な組立て(単にネジで留めるだけのような作業)
五 動物の屠殺
六 これらの二以上の組み合わせ
H氏の事例においても、基板を筐体に入れるだけの「簡単な組立て」に過ぎないと判断されれば、ベトナム産としての原産性は認められません。加工工程において、製品に本質的な特性を付与するような「重要な工程(例えば複雑なはんだ付け、プログラムの書き込み、校正作業等)」が含まれていることを、工場の設備概要や作業手順書を用いて詳細に立証することが、否認を免れるための鍵となります。
5 検認(Verification)と遡及追徴のプロセス
原産性に疑義がある場合、税関は「検認」という強力な調査手続を実施します。これには、輸入者に対する質問、輸出者に対する直接的な照会、さらには輸出国当局を通じた現地工場への立入調査までもが含まれます。
(一)直接検認と間接検認
協定により、日本の税関が直接輸出者に資料を求める「直接検認」と、輸出国の当局を通じて調査を行う「間接検認」があります。いずれの場合も、輸出者が期限内に回答しなかったり、資料が不十分であったりすれば、その時点で原産性は否認されます。
(二)遡及的な否認と付帯税の賦課
検認の結果、原産性が否定された場合、過去の輸入分すべてに遡って特恵関税の適用が取り消されます。関税法第十四条に基づき、更正の期間制限である五年前まで遡及されるリスクがあります。また、関税法第十二条の二に規定される「過少申告加算税(10%〜15%)」および第十二条に規定される「延滞税」が加算されます。意図的な虚偽があったとみなされれば、第十二条の四に基づく「重加算税(35%〜40%)」という極めて重い制裁が下されます。
以下の表に、否認された場合の財務的影響を整理いたしました。
┌──────────────────────────────────────┐
│ EPA原産地否認に伴う追徴課税・制裁金の構造一覧表 │
├───────┬──────────────────┬───────────┤
│項目の名称 │算定根拠および法的な性質 │負担の目安・税率 │
├───────┼──────────────────┼───────────┤
│本税(関税差額)│実行最恵国税率と特恵税率の差額 │過去3〜5年分の全額 │
│ │(関税法第14条の期間制限内) │ │
├───────┼──────────────────┼───────────┤
│輸入消費税差額│関税額の増加に伴う消費税の再計算分 │本税額の10%相当額 │
├───────┼──────────────────┼───────────┤
│過少申告加算税│適正な申告を怠ったことへの行政罰 │不足税額の10% │
│ │(関税法第12条の2) │(高額時は15%) │
├───────┼──────────────────┼───────────┤
│延滞税 │本来の納期限からの遅延利息 │年率数%(日割計算) │
│ │(関税法第12条) │ │
└───────┴──────────────────┴───────────┘
6 「予防法務」としての三つの防衛戦略
EPAの活用において、事後調査で致命的な打撃を避けるためには、以下の三つの戦略的アプローチが不可欠です。
(一)輸出者との契約における関税コンプライアンス条項の整備
海外のサプライヤーとの間で締結する売買契約書において、以下の義務を明確に負わせる必要があります。
一 正確な原産地証明根拠資料の提供および七年間の保存義務。
二 税関による検認が発生した際の全面的な協力義務。
三 輸出者の提供した情報の誤りにより、輸入者が追徴課税を受けた場合の損害補償(インデムニティ)条項。
(二)定期的な原産地デューデリジェンスの実施
特に免税額が大きい重要製品については、年に一度程度、専門家を交えて部品表や原価計算書を再点検し、判定基準を満たしているかを監査する体制を構築すべきです。
(三)事前教示制度の積極的活用
原産地の判定が複雑な貨物や、軽微な加工に該当する懸念がある場合は、輸入前に税関に対して「事前教示」を申請し、公式な文書回答を得ておくことが最大の防衛策となります。関税法第七条の三に基づく事前教示回答書を保持していれば、事実関係に相違がない限り、税関はその判断を覆すことはできません。
7 専門家(弁護士・通関士)による高度なリーガルサポートの重要性
原産地規則の適用は、単なる貿易実務ではなく、関税法、各国協定、会計、そして製造実務が交差する「高度な法務ガバナンス」の領域です。輸入者が独力で、あるいは通関業者に「丸投げ」の状態で進めることには、法的な死角が多すぎます。当事務所は、代表弁護士が通関士資格を保有しており、法務と物流実務の双方から貴社を強力に守ります。
【当事務所が提供できる具体的なEPA支援内容】
一 貴社の製造プロセスに基づく「最適原産地判定スキーム」の構築と判定根拠の作成。
二 輸出者から入手した資料が税関の要求水準(検認耐性)を満たしているかの法的検証。
三 税関事後調査や検認に対する、論理的な主張書面の作成および交渉代理。
四 不当な否認処分に対する「再調査の請求」および「審査請求」の代理。
五 国際間売買契約における「関税リスク分配条項」の起案および交渉サポート。
六 包括的な事前教示の申請および税関当局との窓口折衝。
弁護士が介入することで、税関の硬直的な解釈を解きほぐし、実態に基づいた適正な原産地認定を勝ち取ることが可能となります。
8 まとめ
本日は、輸入ビジネスの利益を左右する「実質的変更基準」と原産地規則の法的リスクについて解説いたしました。H社の事例のような悲劇を繰り返さないために、そして安定したEPAの恩恵を享受し続けるために、今一度、貴社の輸入貨物の原産性を支える「証拠の鎖(チェーン・オブ・エビデンス)」を再点検してください。
企業にとって、EPAは強力な武器ですが、それを使いこなすためには相応の法務的武装が不可欠です。インボイスや証明書の表面的な記載だけを信じるのではなく、その背後にある製造の実態と、法的な要件の充足性を厳格に管理する姿勢を持ってください。
正しい法令知識に基づき、最善の準備をもって輸入に臨むこと。その努力が、貴社のグローバルビジネスの信頼性を高め、不測の事態から会社を守ることに繋がります。
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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら)
(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定
本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。
