Author Archive

身に覚えのない荷物が届いたら?

2026-04-12

はじめに:仮の相談者から寄せられた相談事例のご紹介

本日は、輸入実務に従事する企業や個人のみならず、一般の市民であっても予期せず巻き込まれる可能性がある「意図せぬ禁制品の荷受け」と、それに伴う峻烈な刑事捜査のリスクについて解説いたします。海外から届いた荷物に身に覚えのない違法薬物等が混入していた場合、その対応を一つ誤るだけで、あなたは一瞬にして「国際的な密輸組織の一員」として国家権力の追及を受けることになります。まずは、当事務所に実際に寄せられる相談内容を模した、以下の架空事例をご覧ください。

【相談者】

神奈川県在住、主婦、田中美奈子氏(仮名)

【相談内容】

「私は数ヶ月前、SNSを通じて知り合った海外在住の日本人女性と親しくなりました。彼女から『日本の家族にサプライズでプレゼントを送りたいけれど、海外からの荷物だと怪しまれるから、一度あなたの家に送らせてほしい。後で私が帰国した時に受け取りに行くか、国内便で転送してほしい』と頼まれました。報酬として数万円を支払うと言われ、軽い気持ちで承諾してしまいました。先日、実際に海外から大きな段ボール箱が届き、私が受領のサインをして家の中に入れた直後、十数名の捜査員が突入してきました。中身を確認すると、お菓子の箱の底に大量の白い粉末、すなわち覚醒剤が隠されていたのです。私は全く知らなかったと訴えましたが、現行犯逮捕され、現在は勾留されています。私はこのまま犯罪者になってしまうのでしょうか。家族や仕事はどうなるのでしょうか。法的に無実を証明する方法を教えてください」

このような事例は、近年のSNSの普及に伴い、善意や無知を逆手に取った「運び屋」として利用されるケースとして急増しております。田中氏のように、受領のサインという客観的な事実が揃ってしまうと、日本の刑事司法においては「中身を知らなかった」という内面的な事実を証明することが極めて困難になります。本日は、この恐怖の捜査手法であるコントロールド・デリバリーの仕組みと、関税法違反等の容疑をかけられた際の法的防御策について、関係法令を引用しながら掘り下げてまいります。

1 コントロールド・デリバリー(監視付き通報配達)の法的構造と捜査の目的

税関のX線検査等で違法薬物が発見された際、捜査当局が即座に没収せず、あえて受取人のもとへ配達させる手法を「コントロールド・デリバリー(CD)」と呼びます。この手法の目的は、末端の受取人を逮捕するだけでなく、その背後にいる主犯格や組織の全容を解明することにあります。CDには大きく分けて、以下の二つの形態が存在いたします。

(一)クリーン・コントロールド・デリバリー

発見された薬物をすべて、あるいは大部分を食塩や小麦粉などの無害な代替物に差し替えた上で配達させる手法です。受取人の安全や薬物の流出リスクを抑えるために採用されます。

(二)ダーティ・コントロールド・デリバリー

発見された薬物をそのままの状態で配達させる手法です。証拠能力は極めて高いものの、捜査員のミスによって薬物が市場に流出するリスクを伴うため、極めて厳重な監視下で行われます。

いずれの場合も、輸入者が荷物を受け取り、受領印を押した瞬間に「所持」または「輸入の完了」という客観的な構成要件が満たされたとみなされます。捜査当局は、この瞬間に家宅捜索および逮捕に踏み切ります。

┌──────────────────────────────────────┐

│         コントロールド・デリバリーの実施フローと法的帰結       │

├──────────┬──────────────────┬───────────┤

│   段階     │    捜査機関の動き       │  輸入者の法的状況 │

├──────────┼──────────────────┼───────────┤

│1.税関での発見  │違法薬物を特定し、裁判所から令状を得る│密輸容疑の被疑者となる │

├──────────┼──────────────────┼───────────┤

│2.追跡および監視 │配送業者を装い、荷物を目的地へ運ぶ │24時間の監視対象となる│

├──────────┼──────────────────┼───────────┤

│3.荷物の受領   │受取人がサインし、荷物を受け取る  │輸入・所持の既遂が成立 │

├──────────┼──────────────────┼───────────┤

│4.突入および逮捕 │受取直後、令状を提示し家宅捜索を実施│現行犯又は緊急逮捕される│

└──────────┴──────────────────┴───────────┘

2 関税法および麻薬特例法における重罰規定の詳解

禁制品を輸入することは、日本の国内法において最も重い罪の一つです。田中氏の事例のように覚醒剤を輸入した場合、以下の法律が重畳的に適用されます。

(一)関税法第百九条(輸入してはならない貨物を輸入する罪)

「第六十九条の十一第一項第一号から第六号まで、第九号又は第十号に掲げる貨物を輸入した者は、十年以下の懲役若しくは三千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する」

(二)覚醒剤取締法第四十一条(輸入の禁止)

「覚醒剤を、みだりに、本邦若しくは外国へ持ち込み、又は本邦若しくは外国から持ち出した者は、一年以上の有期懲役に処する。営利の目的で前項の罪を犯した者は、無期若しくは三年以上の懲役に処し、又は情状により無期若しくは三年以上の懲役及び一千万円以下の罰金に併科する」

特に「営利の目的」が認定された場合、初犯であっても実刑判決が下される可能性が極めて高く、執行猶予を勝ち取ることは至難の業です。捜査機関は、田中氏に支払われる予定だった数万円の報酬を「営利の目的」の証拠として突き付けてくることになります。

3 「知らなかった」を証明する難しさ:未必の故意の法理

刑事裁判における最大の争点は、被告人に犯罪の「故意(犯意)」があったかどうかです。

(刑法第三十八条第一項)

「罪を犯す意思がない行為は、罰しない。ただし、法律に特別の規定がある場合は、この限りでない」

田中氏は「中身を知らなかった」と主張していますが、裁判所は単なる主観的な否定を鵜呑みにはいたしません。ここで重要となるのが「未必の故意」という概念です。未必の故意とは、「中身が麻薬そのものであるという確信はなかったとしても、何らかの違法なもの、あるいは怪しいものである可能性を認識しており、それが事実であっても構わないと考えて受け入れた」状態を指します。

裁判所は、以下の客観的な状況から未必の故意を推認いたします。

一 依頼者との関係性:面識のない、あるいはSNS上だけの希薄な関係の者から高額な報酬で依頼を受けていないか。

二 報酬の妥当性:単なる荷受けや転送作業に対し、一般的な市場価格を大きく上回る報酬が設定されていないか。

三 荷物の内容説明の不自然さ:中身について具体的な説明を避ける、あるいは「サプリメント」と言いながら異様に重い、隠し場所がある等の不自然な点はないか。

四 隠匿の挙動:荷物を部屋の奥に隠す、あるいは届いた直後に中身を確認せずに誰かに連絡を入れるなどの不審な行動。

以下の表に、未必の故意を肯定する要素と否定する要素を対比いたしました。

┌──────────────────────────────────────┐

│       未必の故意の認定に係る判断基準の比較一覧表          │

├───────┬──────────────────┬───────────┤

│検討項目   │未必の故意を肯定(有罪寄り)    │未必の故意を否定(無罪寄り)│

├───────┼──────────────────┼───────────┤

│依頼の経緯  │SNSや掲示板での闇バイト的な勧誘 │長年の友人や親族からの正当な依頼│

├───────┼──────────────────┼───────────┤

│報酬の性格  │作業内容に対して不自然に高額な報酬 │無報酬、または交通費実費程度 │

├───────┼──────────────────┼───────────┤

│中身の認識  │『絶対に開けるな』との指示がある  │詳細な商品目録やカタログの送付│

├───────┼──────────────────┼───────────┤

│連絡手段   │秘匿性の高いアプリ(テレグラム等) │通常の通話やメール履歴の存在 │

├───────┼──────────────────┼───────────┤

│事後の行動  │警察突入時に荷物を隠そうとした   │堂々と受領し、リビングに置いた│

└───────┴──────────────────┴───────────┘

4 不審な荷物が届いた際の実務的な緊急対処ガイド

あなたが、あるいは貴社の社員が心当たりのない荷物に直面した際、法的な破滅を避けるために執るべき行動は以下の通りです。

(一)第一の防衛線:受取拒否の徹底

配達員が荷物を持ってきた際、心当たりがない場合は絶対にサインをしてはいけません。「受取拒否」と明確に伝え、持ち帰ってもらってください。この時点で「占有(管理)」が発生しないため、後の刑事責任を問われるリスクをほぼゼロにできます。

(二)第二の防衛線:開封後に気づいた場合の即時通報

万が一、荷物を開けてしまい、中から不審な白い粉末や植物片、大量の注射器等を発見した場合は、直ちに手を止めてください。

一 中身に触れない:指紋が付着すれば、あなたが直接その物質を扱った決定的な証拠とされてしまいます。

二 隠匿・破棄の厳禁:パニックになり、「捨ててしまおう」と考えるのが最も危険です。トイレに流したり、ゴミ捨て場に捨てたりする行為は、捜査機関からは「証拠隠滅」とみなされ、故意があったことを裏付ける最強の材料となります。

三 110番通報:その場ですぐに警察へ通報してください。「知人から預かったが中身が怪しいので警察で確認してほしい」と自ら通報した事実は、後に故意を否定する際の強力な有利事情となります。

(三)捜査員への対応

警察が突入してきた際、激しく抵抗したり、虚偽の供述をしたりすることは避けてください。自身の正当性を主張しつつも、事態の解明に協力的な姿勢を示すことが、後の保釈請求等で有利に働きます。

5 逮捕・勾留後の刑事手続の流れと弁護活動の重要性

もし、田中氏のように逮捕されてしまった場合、時間との勝負となります。

(一)逮捕から48時間:警察から検察への送致

この期間内に、捜査機関は事件を検察官に引き継ぎます。弁護士は、この段階で検察官に対し、勾留の必要がないことを主張し、釈放を求めます。

(二)勾留期間:最大20日間

裁判官が勾留を認めると、起訴・不起訴の判断が下されるまで最大二十日間にわたり身柄を拘束されます。この間、弁護士は毎日接見を行い、取り調べに対するアドバイスを行うとともに、家族や仕事関係の調整を行います。

(三)起訴後の公判

起訴された場合、刑事裁判が始まります。ここで弁護士は、依頼者が「組織の一員ではないこと」「報酬目当ての運び屋ではないこと」「真実中身を認識していなかったこと」を、膨大な証拠の中から論証いたします。

(四)保釈請求

起訴後は、裁判所に対して「保釈金」を納付することで、一時的に身柄を解放してもらうことが可能になります。これにより、日常生活を送りながら裁判に臨むことができます。

6 「知らない」を法的に立証するための弁護活動の核心

「中身を知らなかった」という内面を証明するために、当事務所では以下の高度な証拠収集活動を実施いたします。

一 通信ログの徹底解析:依頼者とのやり取りをすべて復元し、その対話内容が「友人関係の延長」や「正当な商取引」に見えることを証明します。逆に、依頼者が巧妙に中身を偽っていた証拠(嘘の説明)を見つけ出します。

二 経済状況の立証:依頼者が生活に困窮しておらず、わざわざ犯罪に手を染めて数万円を稼ぐ動機がないことを通帳や納税記録から証明します。

三 依頼者の素性調査:送り主が過去に同様の事件を起こしていないか、あるいは組織的な詐欺師でないかを調査し、依頼者が「騙された被害者」であることを強調します。

四 専門家による鑑定:梱包の形態や薬物の隠匿方法が、一般人には到底発見できない精巧なものであることを立証し、開封しても気づかなかった正当性を主張します。

7 法人における「従業員の不祥事」としての輸入トラブル対策

企業においても、社員が個人的に住所を利用させたり、あるいは会社の荷物に紛れて禁制品が送られてきたりするリスクがあります。

(関税法第百十七条 両罰規定)

「法人の代表者(中略)が、その法人又は人の業務又は財産に関し(中略)規定の違反行為をしたときは、その行為者を罰するほか、その法人又は人に対して当該各号に定める罰金刑を科する」

組織として刑事罰を避けるためには、以下の内部統制が不可欠です。

一 私物受取の禁止:オフィスへの個人的な荷物の配送を明確に禁止する規定の策定。

二 不審荷物対応マニュアルの整備:総務や受付担当者が、見覚えのない海外荷物を受けた際のフロー(受取拒否、上席報告、警察相談)の周知。

三 定期的なコンプライアンス研修:禁制品輸入がいかに重い罪であるか、従業員に対する教育。

8 まとめ

本日は、輸入実務の闇に潜む「意図せぬ禁制品輸入」と刑事事件化のリスクについて解説いたしました。田中氏のようなケースであっても、初期段階から適切な刑事弁護を行い、通信履歴や依頼の不自然さを論理的に構築すれば、不起訴処分や無罪を勝ち取る道は残されています。

刑事事件は、初動の数時間が運命を分けます。特にコントロールド・デリバリーによる逮捕は、国が周到に準備した「罠」に嵌められた状態であり、独力で抜け出すことは不可能です。取調べで一度「怪しいと思っていた」と口を滑らせれば、それが「未必の故意」の自白として固定され、二度と覆すことはできません。

正しい法令知識を持ち、不審な荷物には毅然とした態度で臨むこと。そして、万が一の際には沈黙を守り、即座に刑事弁護のプロに連絡すること。それが、あなたと、あなたの大切な人々を守る唯一の方法です。

【お問合せは、こちらから】

・・・・・・・・・・・

執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら

(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定

本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

通関士資格を持つ弁護士が解説|税関事後調査対応ガイド

2026-04-05

【相談事例】「ベテラン通関業者に任せていたのに…」突然の税関事後調査通知

「有森先生、大変なことになりました。税関から『税関事後調査を実施します』という通知書が届いたんです…」

先日、当事務所に駆け込んでこられたのは、都内で海外ブランドの家具を輸入販売している会社のA社長でした。長年、通関手続きはベテランの通関業者に一任しており、これまで何も問題はなかったと言います。

「うちはインボイス通りに真面目に申告しています。何か問題があるはずがないと思っていたのですが…」

しかし、A社長の話を詳しく伺うと、一つ気になる点がありました。海外のブランドホルダーに対し、売上の一部をロイヤリティとして支払っているというのです。

「まさかとは思いますが、このロイヤリティの支払いが、今回の調査と関係しているのでしょうか?通関業者からは特に何も言われたことはありませんでした。もしこれが原因で多額の追徴課税なんてことになったら、会社の経営が立ち行かなくなってしまいます…」

長年信頼してきたパートナーである通関業者。その言葉を信じて実直にビジネスを続けてきたにもかかわらず、突然突きつけられた「税関事後調査」という現実。A社長は、どこに相談すれば良いのかもわからず、途方に暮れていました。

この記事は、A社長のように、突然の税関事後調査に直面し、深刻な不安を抱えている経営者・実務担当者の皆様に向けて、その解決策を提示するものです。

なぜ通関業者だけでは対応が難しい場合があるのか?弁護士との役割の違い

A社長のように「通関業者に任せていれば大丈夫」と考えている方は少なくありません。しかし、税関事後調査という局面においては、その体制だけでは極めて脆弱であると言わざるを得ません。なぜなら、通関業者と弁護士とでは、その使命と役割が根本的に異なるからです。

このテーマの全体像については、輸入ビジネスの法的リスク管理で体系的に解説しています。

通関士の使命:「適正な申告」と税関との協調

まず、通関士および通関業者の役割は、通関業法の趣旨に照らし、通関手続の代理・代行や通関書類の作成等を通じて、関税の申告納付その他の通関手続が適正かつ迅速に実施されるよう支えることにあります。彼らは、税関から営業許可を得て事業を行っているため、税関との良好な関係を維持することが事業継続の生命線となります。このため、税関からの指摘に対し、輸入者の利益を最大限に代弁して強く反論することが、構造的に難しい立場にあるのです。

彼らの役割は、あくまで中立的な立場で「適正な申告」を実現することであり、輸入者の代理人として税関と対峙することではありません。この通関業者の役割と業務範囲を理解することが、事後調査対応の第一歩となります。

弁護士の使命:「依頼者の利益の最大化」と法的防御

一方、弁護士の使命は、弁護士法に基づき、徹頭徹尾「依頼者(輸入者)の権利と利益を守ること」にあります。税関事後調査は、単なる事務手続きではなく、法解釈を巡る「交渉・紛争」の場です。私たちは、税関の指摘が法的に本当に正しいのかをゼロベースで検証し、解釈に疑義があれば、法律、政令、通達、さらには過去の判例といった法的根拠に基づいて徹底的に反論・交渉を行います。

依頼者との間には厳格な守秘義務があり、どんな些細な懸念でも安心してご相談いただけます。税関事後調査での弁護士対応とは、行政機関である税関に対し、依頼者の立場から法的根拠に基づいて主張・交渉を行い、その利益の最大化を目指す「代理人」として支援することです。

税関事後調査、最大の争点「課税価格」と弁護士の役割

税関事後調査において、最も追徴課税額が大きくなりやすく、かつ法解釈が複雑で争点となりやすいのが「課税価格」の問題です。特に、A社長の事例にあったロイヤリティのような「加算要素」の申告漏れは、調査官が最も重点的にチェックする項目です。この専門領域こそ、法律の専門家である弁護士の真価が問われる分野といえるでしょう。

多くの事業者が、加算要素の申告漏れリスクという重大なリスクを認識しないまま輸入を続けてしまっているのが実情です。

「インボイス価格≠課税価格」という最大の落とし穴

輸入ビジネスにおける最大の誤解の一つが、「インボイス(仕入書)に記載された価格で申告していれば問題ない」という思い込みです。関税法が定める「課税価格」とは、原則としてインボイス価格に、輸入貨物と関連する特定の費用(加算要素)を足し合わせた金額を指します。

具体的には、以下のような費用が加算要素として指摘される典型例です。

  • ロイヤリティ、ライセンス料:特許権、商標権などの使用料
  • 金型代、設計開発費:海外の製造委託先で使う金型や、製品開発にかかった費用
  • 無償提供資材:海外の工場に無償で提供した原材料や部品の費用
  • 販売手数料、仲介料:買付けにかかる手数料など

これらの費用は、本来、製品の価値の一部を構成すると考えられるため、課税対象に含める必要があるのです。この課税価格の決定方法を正しく理解していなければ、意図せずとも過少申告の状態に陥ってしまいます。

通関士資格を持つ弁護士による「法的・実務的」防御戦略

この複雑な加算要素の問題に対し、「通関士資格を持つ弁護士」は、他にはない独自の防御戦略を展開できます。

まず、通関士としての実務知識を活かし、契約書、送金記録、会計帳簿といった膨大な資料の中から、加算要素に該当しうる取引を迅速かつ正確に洗い出します。どの資料のどこに着目すればリスクを発見できるかという「勘所」は、通関実務経験があってこそ培われるものです。

次に、弁護士としての法的知見を駆使し、洗い出された費用が、関税法の条文、関連通達、そして過去の判例に照らして、法的に本当に「加算要素」に該当するのかを多角的に分析します。例えば、ロイヤリティの支払い一つとっても、それが輸入貨物の「取引条件」として支払われているか否かなど、契約内容の法的な解釈によって結論が大きく変わることがあります。

そして最終段階、税関との交渉においては、これら二つの知見を融合させた主張を組み立てます。単に「前例がない」と主張するのではなく、「本件の契約内容は、関連法令・通達や過去の裁判例の考え方に照らしても、課税価格への算入要件を満たさない。したがって、加算要素には該当しない」といった、法的根拠に裏打ちされた具体的な反論を展開し、依頼者の利益を最大化するのです。

参照:税関「1404 原則的な課税価格の決定方法以外の方法」

「費用対効果」で考える弁護士への依頼タイミング

弁護士への依頼を検討する際、多くの方が費用を懸念されます。しかし、税関事後調査対応は、単なるコストではなく「投資」と捉えるべきです。追徴課税や事業停止のリスクを考えれば、適切なタイミングで専門家を活用することが、結果的に最も費用対効果の高い経営判断となります。

①【最も推奨】調査通知前の「予防法務」としての依頼

最も費用対効果が高いのは、税関から通知が来る前の「平時」にご相談いただくことです。この段階であれば、攻めの対策を打つことが可能です。

例えば、「模擬税関調査」を実施し、契約書や取引フローを精査して潜在的なリスクを事前に洗い出します。問題点が見つかれば、将来の調査で指摘を受けないような契約内容への見直しや、社内体制の構築を支援します。仮に過去の申告漏れが判明した場合でも、税関からの指摘前に自主的に修正申告を行うことで、ペナルティである加算税を回避できる可能性が高まります。

これは、将来発生し得たであろう数百万、数千万円の追徴課税という「負債」を未然に防ぐ、最も賢明な投資と言えるでしょう。

②【次善の策】調査通知後~調査開始前の「事前準備」としての依頼

調査通知が届いてしまった場合でも、諦めるのは早計です。調査が開始されるまでの期間は、防御を固めるための非常に重要な時間です。

この段階でご依頼いただければ、弁護士が過去の申告内容や関連資料を迅速に精査し、税関から指摘されうる問題点を特定します。その上で、税関担当者からの質問に対する想定問答集を作成し、説明ロジックを構築するなど、万全の準備を整えて調査に臨むことができます。

また、この段階で申告漏れが判明した場合、調査開始前に自主的な修正申告を行えば、過少申告加算税が課されない、あるいは軽減される可能性があります。ダメージを最小限に食い止めるための、次善の策です。

③【緊急対応】調査中・指摘後の「交渉代理」としての依頼

すでに調査が開始され、税関から具体的な指摘を受けてしまった後でも、弁護士に依頼する価値は十分にあります。この段階からの対応はいわば「火消し」であり、より困難な交渉が予想されますが、専門家を入れずに自社だけで対応するのに比べ、結果は大きく変わる可能性があります。

税関の指摘が、必ずしも法的に100%正しいとは限りません。事実認定や法解釈に誤りがあるケースも散見されます。私たちは、税関が提示する根拠を法的な観点から徹底的に吟味し、反論の余地があれば、粘り強く交渉を行います。万が一、更正処分等に納得がいかない場合は、不服申立て(審査請求)という法的な対抗手段に進むことも可能です。最後まで諦めずに最善の道を探ることが重要です。

まずは自社の状況をチェック!税関事後調査リスク簡易診断

ご自身のビジネスに潜むリスクを客観的に把握するため、以下の項目をチェックしてみてください。一つでも「はい」がつく場合は、税関事後調査で指摘を受ける可能性があります。

税関事後調査リスク 簡易診断チェックリスト

  1. 海外の取引先に、商品代金とは別にロイヤリティやライセンス料を支払っている。
  2. 海外の製造工場に、金型や工作機械を無償または値引きして提供したことがある。
  3. 海外の製造工場に、原材料や部品を無償で提供したことがある。
  4. 海外で商品の設計や開発を行い、その費用を日本で負担している。
  5. インボイス価格以外で、海外の取引先に何らかの送金をしている。
  6. 海外の売手との間で、輸入後の売上収益の一部を送金する契約がある。
  7. 買付け代理店などに、インボイスとは別枠で手数料を支払っている。
  8. 輸入貨物に特殊な容器や包装が使われており、その費用を別途負担している。
  9. 運賃や保険料を、インボイス価格に含めず別途支払っている。
  10. 過去の取引で、価格の修正や値引きの清算を事後的に行ったことがある。

診断結果:一つでも「はい」があった場合、専門家への相談を強くお勧めします。

有森FA法律事務所にご相談いただく際の流れ

実際に当事務所にご相談いただく際の、具体的なステップをご案内いたします。私たちは、依頼者の皆様が安心してご相談いただけるよう、透明性の高いプロセスを心がけております。

  1. お問い合わせ:まずはお電話またはウェブサイトのお問い合わせフォームからご連絡ください。事案の概要を簡単にお伺いし、ご相談の日程を調整いたします。
  2. 初回ご相談(対面/オンライン):通関士資格を持つ代表弁護士が直接お話を伺います。契約書や通関書類などの関連資料をご準備いただけますと、より具体的なアドバイスが可能です。現状のヒアリング、法的な論点の整理、考えられるリスクについてご説明します。
  3. 方針のご提案とお見積り:ご相談内容に基づき、当事務所として取りうる対応方針と、それに伴う弁護士費用のお見積りを複数プランご提案いたします。ご納得いただけるまで、丁寧にご説明いたします。
  4. ご契約:方針と費用にご納得いただけましたら、委任契約を締結いたします。
  5. 業務開始:ご契約後、直ちに具体的な業務に着手します。資料の精査、税関への対応、交渉戦略の立案など、依頼者の利益を最大化するために、専門家として全力を尽くします。

まとめ:最良の備えは「通関士資格を持つ弁護士」への早期相談

税関事後調査は、単なる事務的な確認手続きではありません。その対応を誤れば、数千万円単位の追徴課税が課されることも珍しくなく、企業の存続そのものを揺るがしかねない重大な法的リスクです。

特に、輸入申告における「課税価格」は評価概念であり、単に貨物の代金を申告すればよいという単純なものではありません。ロイヤリティをはじめとする様々な加算要素を適切に評価し、申告に含めなければ、それは誤った申告となってしまいます。このリスクに日常的に備えることが何よりも重要であり、調査で指摘されてから対応しようとしても、交渉は極めて困難になります。

この複雑かつ専門的な問題に立ち向かうためには、通関実務の知見と、法律の専門知識、そして依頼者の利益を守り抜く交渉力が必要です。これら全てを兼ね備えた「通関士資格を持つ弁護士」こそ、この難局における皆様の最良のパートナーとなり得ると確信しております。

もしあなたが、税関事後調査に一抹の不安でも感じているのであれば、どうか一人で悩まず、できるだけ早い段階で私たち専門家にご相談ください。事前準備こそが、あなたの会社と未来を守る最善の策なのです。

【お問合せは、こちらから】

・・・・・・・・・・・

執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら

(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定

本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

関税法違反で「刑事告発」されたら?

2026-04-02

はじめに:仮の相談者から寄せられた相談事例のご紹介

本日は、輸入実務において最も深刻かつ企業の存続を直接的に脅かす事態である、関税法違反に伴う刑事事件化のリスクについて、その法的構造から実務的な防御策までを網羅的に解説いたします。輸入トラブルは、単なる過少申告加算税といった行政処分の範囲に留まらず、悪質性が高いと判断された場合には、警察や税関の犯則調査部門による強制捜査を経て、検察庁への告発、さらには起訴へと発展する恐れがあります。まずは、当事務所に実際に寄せられる相談内容を模した、以下の架空事例をご覧ください。

【相談者】

東京都内で海外の健康食品や雑貨の輸入卸売業を営む株式会社Z、代表取締役、田中氏(仮名)。

【相談内容】

「当社は、東南アジアの取引先から、現地で合法的に販売されているハーブティーを継続的に輸入しておりました。ところが、先日輸入した貨物について、税関の検査で『指定薬物』に該当する成分が含まれていると指摘され、貨物が差し押さえられました。それだけではなく、翌朝には税関の犯則事務調査官と警察官が会社と私の自宅に現れ、裁判所の令状に基づいてパソコンや書類、スマートフォンをすべて押収していきました。私は、当該製品に日本の法律で規制されている成分が含まれているとは全く知りませんでした。調査官からは『密輸の疑いがある』と言われ、逮捕されるのではないかと極度の不安の中にあります。また、過去の輸入において、取引先から送られてきたインボイスの価格が実際の送金額より低かったことも、意図的な脱税(アンダーバリュー)ではないかと追及されています。私は今後どうなるのでしょうか。会社を守るために、法的にどのような手を打てばよいのでしょうか。」

このような事例は、近年の薬物規制の強化や、税関による脱税摘発の高度化に伴い、決して他人事ではなくなっています。田中氏のように「知らなかった」という主張が法的にどのように評価されるのか、そして国家権力による強大な調査権限に対し、いかにして適正な防御権を行使すべきか。本日は、関税法違反の刑事罰の全容と、最悪の事態を回避するための弁護活動について、関係法令を詳細に引用しながら詳説いたします。

1 関税法違反における重罰化の現状と主要な罪状の法的解釈

関税法は、国の経済秩序を維持し、国民の安全を守るために、違反行為に対して極めて重い刑罰を規定しています。事後調査(行政調査)とは異なり、刑事罰を目的とした犯則調査の対象となった場合、以下の条文が直接の適用対象となります。

(一)輸入してはならない貨物を輸入する罪(密輸罪)

(関税法第百九条第一項)

「第六十九条の十一第一項第一号から第六号まで、第九号又は第十号に掲げる貨物を輸入した者は、十年以下の懲役若しくは三千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。」

この条文にいう「輸入してはならない貨物」には、麻薬、覚醒剤、指定薬物(薬機法関連)、銃火器、さらには知的財産権侵害物品が含まれます。田中氏の事例のように、指定薬物が含まれる製品を輸入した場合は、この密輸罪の容疑がかけられます。法定刑に「十年以下の懲役」が含まれていることから、非常に重大な犯罪として扱われることがわかります。

(二)関税を免れる罪(脱税罪・不当低価申告)

(関税法第百十条第一項第一号)

「偽りその他不正の行為により関税(中略)を免れた者は、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。」

いわゆるアンダーバリュー(価格の過少申告)が「偽りその他不正の行為」と認定された場合に適用されます。この罪の恐ろしい点は、罰金額の特則です。同条第二項により、免れた関税額の十倍が、一千万円を超える場合には、罰金はその免れた関税額の十倍以下まで引き上げられます。例えば一億円の脱税であれば、最大十億円の罰金が科される可能性があるのです。

(三)無許可輸入罪

(関税法第百十一条第一項第一号)

「第六十七条(輸出又は輸入の許可)の規定に違反して貨物を輸入した者は、五年以下の懲役若しくは一千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。」

他法令(薬機法や食品衛生法等)の許可を得ていないことを隠して輸入を強行した場合や、申告自体を回避して貨物を引き取った場合に適用されます。

以下の表に、関税法における主要な犯罪類型と罰則の対比を整理いたしました。

┌──────────────────────────────────────┐

│       関税法違反における刑事罰の種類と法定刑の一覧表        │

├───────┬──────────────────┬───────────┤

│罪状の名称  │主な違反内容(該当条文)      │法定刑(最高刑)   │

├───────┼──────────────────┼───────────┤

│禁制品輸入罪 │麻薬、指定薬物、拳銃等の密輸入   │10年以下の懲役又は │

│(密輸)   │(関税法第109条)        │3000万円以下の罰金│

├───────┼──────────────────┼───────────┤

│関税脱税罪  │アンダーバリュー等の不正な価格申告 │10年以下の懲役又は │

│(価格操作) │(関税法第110条)        │脱税額の10倍の罰金 │

├───────┼──────────────────┼───────────┤

│無許可輸入罪 │他法令の許可を得ずに輸入を強行   │5年以下の懲役又は  │

│(手続違反) │(関税法第111条)        │1000万円以下の罰金│

├───────┼──────────────────┼───────────┤

│法人処罰   │従業員の違反に対する会社の責任   │上記各号の罰金刑を  │

│(両罰規定) │(関税法第117条)        │会社組織に対しても科す│

└───────┴──────────────────┴───────────┘

2 逮捕・勾留という身体拘束のリスクと社会的制裁

関税法違反、特に密輸容疑においては、捜査機関は極めて強力な姿勢で臨みます。刑事訴訟法の原則に基づき、罪を犯したと疑うに足りる相当な理由があり、かつ「証拠隠滅」や「逃亡」の恐れがあると判断されれば、逮捕・勾留の対象となります。

(一)身体拘束のプロセス

逮捕されると、警察や税関による取り調べが行われ、四十八時間以内に検察庁へ送致されます。その後、検察官が勾留を請求し、裁判官がこれを認めれば、原則として十日間、さらに延長されれば最大二十日間にわたり身柄を拘束されます。田中氏のような経営者が長期間不在となれば、会社の決済は止まり、従業員や取引先への説明もままならず、ビジネスは実質的に崩壊の危機に直面いたします。

(二)メディア露出と実名報道

関税法違反は「社会悪」としての側面が強調されやすいため、逮捕の段階で実名報道がなされるリスクが非常に高いです。インターネット上に一度拡散された情報は消去が困難であり、無罪を勝ち取った後であっても、企業のブランドイメージを回復させるのは至難の業となります。

(三)AEO制度等の認定取消し

刑事事件化された事実は、税関のコンプライアンス評価に致命的な影響を与えます。認定通関業者や認定輸入者としての資格は即座に剥奪され、今後のすべての取引において厳格な全量検査を課されるなどの不利益を被ることになります。

3 刑事裁判における最大の争点:故意(犯意)の存否と挙証責任

刑事事件において、検察側が有罪を立証するためには、被告人に「故意(わざと行ったこと)」があったことを証明しなければなりません。

(一)「知らなかった」という抗弁の限界

田中氏の事例において、「指定薬物だとは知らなかった」という主張は、法的には「事実の錯誤」として争点となります。しかし、単に主観的に知らなかったと言うだけでは足りません。

(刑法第三十八条第一項)

「罪を犯す意思がない行為は、罰しない。ただし、法律に特別の規定がある場合は、この限りでない。」

関税法違反においても、未必の故意(犯罪になるかもしれないが、それでも構わないという認識)があれば有罪となります。例えば、海外のセラーから「このお茶は日本で流行るが、成分の詳細は秘密だ」と言われていた場合や、インボイス価格が異常に低いことを認識しながらあえて確認しなかった場合には、未必の故意ありと判断される可能性が高いのです。

(二)客観的証拠(エビデンス)による立証

故意の有無を判断するために、捜査機関は押収したメール、LINEのやり取り、送金履歴、仕入先との契約書を徹底的に解析いたします。弁護活動においては、逆にこれらの客観的資料の中から、「輸入者が真摯に法令遵守に努めていたこと(適正価格の確認や成分調査の依頼など)」を示す証拠を抽出し、犯意を否定するロジックを構築する必要があります。

以下の表に、故意の有無を判断する際の税関・検察のチェックポイントをまとめました。

┌──────────────────────────────────────┐

│     関税法違反における「故意」の認定に係る判断基準一覧表       │

├───────┬──────────────────┬───────────┤

│検討要素   │故意(未必の故意を含む)を疑われる例│故意を否定し得る事情の例│

├───────┼──────────────────┼───────────┤

│価格設定の経緯│実際の送金額とインボイス価格が乖離し│相場価格との整合性を示す│

│       │ていることを認識していた      │資料や価格交渉の記録 │

├───────┼──────────────────┼───────────┤

│成分・品質確認│取引先から『税関を通りにくい』等の │第三者機関による事前検査│

│       │隠語や注意点を聞かされていた    │や成分表の提供要請記録│

├───────┼──────────────────┼───────────┤

│隠蔽工作の有無│貨物を他の物品の中に隠して梱包したり│通常の梱包形態で輸入し、│

│       │虚偽の品名を記載したりした     │品名も正確に記載していた│

├───────┼──────────────────┼───────────┤

│過去の指導歴 │過去に同様の不備で税関から厳重な  │過去に指摘を受けた際、 │

│       │警告を受けていたが改善しなかった  │即座に再発防止策を講じた│

└───────┴──────────────────┴───────────┘

4 犯則調査という特殊手続の峻烈さと法的防御の必要性

関税法に規定される「犯則調査」は、一般の税務調査とは全く異なる次元の強制的続きです。

(一)税関調査官の強大な権限

関税法第百十九条以下の規定に基づき、税関の犯則事務調査官は、裁判所の許可を得て、臨検、捜索、差押えを行う権限を有しています。

(関税法第百二十一条 臨検、捜索又は差押え)

「税関職員は、犯則事件を調査するため必要があるときは、その所属官署の所在地を管轄する地方裁判所(中略)の裁判官が発する許可状により、臨検、捜索又は差押えをすることができる。」

これは実質的に「関税警察」としての活動であり、被疑者は極限の心理的プレッシャーに晒されます。調査官による取り調べは、時に早朝から深夜に及び、密室での執拗な追及が行われることもあります。

(二)供述調書の決定的な重み

犯則調査の結果、作成される「供述調書」は、後の刑事裁判において最強の証拠となります。被疑者が一度「はい、脱税の意図がありました」や「成分が怪しいとは薄々感じていました」と認め、署名・押印してしまえば、それを後から「無理やり言わされた」と覆すことは、日本の司法制度においては極めて困難です。

(三)弁護士による早期介入のメリット

犯則調査の初期段階から弁護士が介入することには、以下の決定的なメリットがあります。

一 取り調べに対する法的アドバイス:憲法で保障された黙秘権(憲法第三十八条)をどのように行使すべきか、誘導的な質問にいかに対応すべきかを具体的に指導いたします。

二 不当な取り調べの監視:違法な長時間拘束や強迫的な言辞があれば、直ちに抗議し、捜査の適正化を求めます。

三 釈放および保釈の請求:逮捕・勾留された場合でも、速やかに裁判所に対して準抗告や保釈請求を行い、一日も早い身柄解放を目指します。

四 告発回避に向けた税関交渉:事案がそれほど悪質でない場合や、輸入者の過失が明白な場合には、検察庁への告発を見送らせ、行政処分(反則金の納付等)の範囲で解決するよう当局と粘り強く折衝いたします。

五 証拠の早期収集:捜査機関に押収される前に、無実を証明するためのメールや内部資料を保全し、防御のための武器を整えます。

5 企業を襲う「両罰規定」と組織としての防衛策

関税法違反は、実行した社員個人だけでなく、その法人に対しても罰則が及びます。

(関税法第百十七条 両罰規定)

「法人の代表者(中略)が、その法人又は人の業務又は財産に関し、次の各号に掲げる規定の違反行為をしたときは、その行為者を罰するほか、その法人又は人に対して当該各号に定める罰金刑を科する。」

この規定により、会社全体が犯罪者集団としての烙印を押され、多額の罰金によって倒産に追い込まれるリスクがあります。組織としての防御策としては、以下の三点が不可欠です。

一 コンプライアンス・プログラム(ICP)の構築:個人の独断による違反を許さない内部統制システムを整備すること。

二 定期的監査の実施:海外の取引先との連絡内容や送金状況を法務部門がチェックする体制を持つこと。

三 緊急対応マニュアルの策定:万が一、税関が家宅捜索に現れた際に、どの弁護士に連絡し、どのような初期対応をすべきかを事前に決めておくこと。

以下の表に、犯則調査における一般的な進行フローと各段階での重要事項を整理いたしました。

┌──────────────────────────────────────┐

│     関税法犯則調査の進行プロセスと法的アクションの要点        │

├───────┬──────────────────┬───────────┤

│手続の段階  │具体的な捜査の内容         │弁護士が行う防御活動 │

├───────┼──────────────────┼───────────┤

│家宅捜索・差押│会社や自宅に調査官が入り、資料を押収│令状の範囲の確認、  │

│       │物理的な証拠をすべて確保される   │押収品目録の精査   │

├───────┼──────────────────┼───────────┤

│取調べ・聴取 │被疑者として呼び出され、事実関係の │調書内容の事前確認、 │

│       │認否を執拗に追及される       │黙秘権行使の助言   │

├───────┼──────────────────┼───────────┤

│身体拘束判断 │逮捕・勾留が行われるかどうかの決定 │勾留阻止、勾留理由開示│

│       │                  │準抗告の申立て    │

├───────┼──────────────────┼───────────┤

│検察庁への告発│税関長が検察官に対し、刑事訴追を  │告発を差し控えるよう │

│       │求める公式な手続き         │意見書の提出・折衝  │

├───────┼──────────────────┼───────────┤

│起訴・公判  │刑事裁判の開始。有罪・無罪や    │公判での無罪主張、  │

│       │量刑(執行猶予)の争い       │情状立証による減刑活動│

└───────┴──────────────────┴───────────┘

6 不測の事態を防ぐための日常的輸入ガバナンス

刑事事件化を防ぐための最良の策は、日常の業務において「不自然な点」を見逃さない誠実な体制です。

(一)インボイスの真正性確認

海外のサプライヤーに対し、「日本の関税法を遵守するため、一円の狂いもなく正確なインボイスを発行すること」を契約書(MOU)等で確約させてください。安易な値引き交渉の記録が、後に「脱税の共謀」と疑われないよう、正当な価格設定の根拠を常に文書化しておくことが肝要です。

(二)成分分析の徹底

特にハーブ、サプリメント、化学製品を扱う場合は、海外の証明書を鵜呑みにせず、輸入前に自らサンプルを取り寄せ、日本の登録検査機関で成分分析を実施してください。この「輸入前の確認作業」を行っているという事実こそが、万が一規制成分が混入していた際の「故意の否定」を支える最強の証拠となります。

(三)弁護士による定期的レビュー

当事務所では、輸入ビジネスを営む企業様に対し、事後調査や犯則調査を想定した「リーガル・シミュレーション」を実施しております。過去のメールのやり取りや契約書が、捜査機関の目から見てどのように映るかを事前に分析することで、致命的な脆弱性を修正することが可能です。

7 まとめ

本日は、輸入実務において最悪の事態とされる「関税法違反の刑事事件」について、その詳細を解説いたしました。田中氏のようなケースであっても、初期段階から弁護士が介入し、成分分析の依頼履歴や価格交渉の正当なプロセスを論理的に提示できていれば、刑事告発を回避し、過失による行政処分の範囲で事態を収束させることが可能でした。

刑事事件は、一度動き出すと国家の巨大な歯車によって個人や企業の力が及ばないところまで運ばれてしまいます。「自分は悪いことをしていないから大丈夫」という確信が、必ずしも法的な安全を保証するものではありません。

正しい法令知識に基づき、万全の準備を整えること。そして、万が一の際には迷わず専門家の門を叩くこと。その決断が、貴社の未来と大切な従業員の人生を守ることに繋がります。

【お問合せは、こちらから】

・・・・・・・・・・・

執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら

(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定

本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

HSコード(品目分類)の誤認リスク

2026-03-31

はじめに:仮の相談者から寄せられた相談事例のご紹介

本日は、輸入実務において最も盲点となりやすく、かつ税関の事後調査において巨額の追徴課税の引き金となる品目分類(HSコード)の不備について、その法的構造から実務的な防衛策までを網羅的に解説いたします。輸入申告におけるHSコードの選択は、単なる事務作業ではなく、関税率を決定する高度な法的判断そのものです。まずは、当事務所に実際に寄せられる相談内容を模した、以下の架空事例をご覧ください。長年の慣行がいかに法的な落とし穴となるかを理解する重要な一助となります。

【相談者】

東京都内でIT関連機器およびオフィス家具の輸入卸売を行う株式会社テックパーツ、代表取締役、山田氏(仮名)

【相談内容】

「当社は、過去五年にわたり海外からスマートデスク用の特殊な取付金具を継続的に輸入しております。輸入に際しては、通関業者と相談の上、コンピュータの周辺機器の一部として第8473.30号(関税無税)を適用して申告を繰り返してきました。税関からも一度も指摘を受けたことはなく、適正に納税していると信じて疑いませんでした。ところが、先日行われた税関の事後調査において、当該貨物はコンピュータの部品ではなく、家具の一部として機能しているため第9403.90号(関税率3.8%)に分類すべきであるとの指摘を受けました。税関からは、過去五年分の輸入実績に遡って差額関税と消費税、さらには過少申告加算税を合わせて五千万円以上の支払いを求められる可能性があると言われています。通関業者は『解釈の変更なので仕方がない』と消極的な態度ですが、当社としては到底納得できません。法的にどのように反論し、この巨額の追徴を回避すべきでしょうか」

このような事例は、技術の進歩に伴い製品の多機能化が進む現代の貿易実務において、極めて頻繁に発生いたします。山田氏の「今まで一度も止められなかった」という主張は、関税法の厳格な原則の前では通用いたしません。本日は、HSコードを巡る税関事後調査の論理と、調査官の指摘を覆すための法的技術を詳説いたします。

1 「輸入許可」が正当性を保証しない法的理由と申告納税方式の構造

日本の関税制度は、納税義務者が自ら税額を計算して申告する「申告納税方式」を採用しています。

(関税法第7条第1項 申告)

「貨物を輸入しようとする者は、税関長に対し、当該貨物の品名、数量及び価額その他必要な事項を申告しなければならない。」

この制度の下では、適正な申告を行う責任は一義的に輸入者にあります。輸入申告時に税関が許可を出したとしても、それはあくまで形式的な不備がないことを確認したに過ぎず、その内容が法的に正しいことを公的に認めたわけではありません。これを「形式的審査」と呼びます。これに対し、事後調査は「実質的審査」の場です。

(関税法第105条 職員の権限)

税関職員は、事後調査において帳簿、書類、あるいは現物の検査を行う権限を有しており、輸入許可から数年が経過した後であっても、その内容を法的に再検証することができます。もし誤りがあれば、関税法第14条の規定に基づき、税額を訂正する「更正」が行われます。

(関税法第14条第1項 更正、決定等の期間制限)

「更正、決定又は賦課決定は、その法定納期限の翌日から五年を経過した日以後は、することができない。」

つまり、事後調査によってHSコードの誤りが判明した場合、税関は最長で五年前まで遡って関税を徴収することができるのです。山田氏の事例で数千万円という巨額の追徴金が発生するのは、この「五年の遡及」という法的効果によるものです。

2 品目分類(HSコード)の論理:関税率表の解釈に関する通則の適用

HSコードの決定は、国際的な統一ルールである「商品の名称及び分類についての統一システムに関する国際条約(HS条約)」に基づきます。日本では、これを「関税率表の解釈に関する通則」として国内法に取り入れています。HSコードの判定において、調査官は以下の通則を駆使して分類の変更を迫ります。

(通則1)

「分類は、項の規定及びこれに関係する部又は類の注の規定により決定する。」

これが最も基本となるルールです。しかし、製品が多機能である場合、複数の項に該当する可能性が生じます。その際には、以下の通則が重要となります。

(通則3(b))

「混合物、異なる材料から成る物品、異なる構成要素から成る物品及び小売用のセットにした物品であつて、通則3(a)の規定により分類することができないものは、この規定を適用することができる限度において、当該物品に重要な特性を与えている材料又は構成要素から成るものとして分類する。」

山田氏の事例では、当該金具が「コンピュータ(第84類)」と「家具(第94類)」のどちらに「重要な特性(Essential Character)」を与えているかが争点となりました。税関は、金具がデスクの構造を支えている点を重視し、第94類への分類を主張しています。これに対し、輸入者側は「当該金具がなければコンピュータの特定の機能が発揮されない」といった論理を構築し、通則に基づいた反論を行う必要があります。

以下の表に、事後調査で争点となりやすい分類の比較例を整理いたしました。

┌──────────────────────────────────────┐

│     税関事後調査において品目分類(HSコード)が争点となる典型例   │

├───────┬──────────────────┬───────────┤

│ 貨物の名称 │ 輸入者の主張(低率・無税のコード)│ 税関の主張(高率コード)│

├───────┼──────────────────┼───────────┤

│多機能電子機器│第84類:自動データ処理機械の部品 │第85類:その他の電気機器│

│(センサー等)│(関税率:無税)          │(関税率:3.9%等)│

├───────┼──────────────────┼───────────┤

│工業用素材  │第39類:プラスチック製の板    │第39類:プラスチック製品│

│(半製品)  │(関税率:無税〜低率)       │(形状により高率)  │

├───────┼──────────────────┼───────────┤

│複合製品   │第90類:光学機器の一部      │第94類:家具の一部  │

│(取付金具等)│(関税率:無税)          │(関税率:3.8%等)│

├───────┼──────────────────┼───────────┤

│繊維製品   │第63類:その他の製品       │第61・62類:衣類  │

│(機能性布) │(関税率:4.4%等)       │(関税率:8〜10%)│

└───────┴──────────────────┴───────────┘

3 注意すべき「品目分類」の三つの落とし穴と指摘のメカニズム

税関の調査官は、単に「名前が違う」というレベルの指摘は行いません。彼らは、法的な解釈の「隙」を突いてきます。

(一)「用途」か「材質」かという決定的な矛盾

通則の解釈において、ある物品が「特定の機械の専用部品」として認められるか、あるいは「単なるプラスチックや鉄の製品」として扱われるかは、紙一重の差です。関税率表の各類には「この類には〇〇は含まない」という「除外規定(類注)」が存在します。調査官は、輸入者が依拠している項の注に隠された除外規定を見つけ出し、「この類注があるため、あなたの分類は法的に不可能です」という論理を展開します。

(二)セット製品における「主たる特性」の恣意的解釈

通則3(b)の適用において、主たる特性を決定する要素は、容積、数量、重量、価格、あるいは役割の重要性など多岐にわたります。税関は「この製品の付加価値は〇〇にあるため、税率の高い方の項に分類すべきだ」という主張を好んで用います。これに対し、輸入者は製造原価構成や技術的な核心部分を立証できなければ、税関のペースに巻き込まれることになります。

(三)過去の運用や「乙仲任せ」による情報の陳腐化

HSコードの分類は、世界税関機構(WCO)によるHS条約の改正や、日本税関による「分類事例(コンピレーション)」の更新、あるいは財務省からの通達によって絶えず変化しています。通関業者が五年前の知識で申告し続けていた場合、その間に変更された最新の解釈との間に「ズレ」が生じます。このズレこそが、事後調査における格好の攻撃材料となります。

4 追徴課税のシミュレーションと付帯税の重層的賦課

山田氏の事例を基に、実際にどのような金銭的打撃が生じるのかを試算いたします。

┌──────────────────────────────────────┐

│     品目分類(HSコード)変更に伴う追徴課税額の試算例(5年分)   │

├──────────────┬───────────────────────┤

│ 項目(単位:円)     │ 金額および算出根拠(全角表記)       │

├──────────────┼───────────────────────┤

│年間輸入額         │200,000,000(五年間で十億円)   │

├──────────────┼───────────────────────┤

│本来の関税額(3.8%)  │7,600,000(年間)       │

├──────────────┼───────────────────────┤

│五年間累計の不足関税(本税)│38,000,000(五年分一括請求)   │

├──────────────┼───────────────────────┤

│過少申告加算税(10%)  │3,800,000(不注意への行政罰)   │

├──────────────┼───────────────────────┤

│延滞税(年率換算)     │約5,000,000(過去五年分の遅延利息)│

├──────────────┼───────────────────────┤

│輸入消費税の差額分     │約4,000,000(関税額増に伴う連動分)│

├──────────────┼───────────────────────┤

│   追徴総額       │約50,800,000         │

└──────────────┴───────────────────────┘

ここで注目すべきは、不足していた関税だけでなく、「過少申告加算税」と「延滞税」が加算される点です。

(関税法第12条の2第1項 過少申告加算税)

「申告納税方式が適用される貨物について、更正(中略)があった場合(中略)税関長は、当該納税義務者から、過少申告加算税を徴収する。」

さらに、もし税関が「輸入者は家具の一部であることを知っていながら、意図的に無税のコードで隠蔽していた」と判断した場合、第12条の4に基づき「重加算税(35%〜40%)」が課されます。これは企業にとって致命的なダメージとなります。

5 弁護士が教える、事後調査当日の「論理的防衛術」と証拠収集

調査官から「このHSコードは誤りです」と断定的な指摘を受けた際、どのように立ち振る舞うべきでしょうか。

(一)WCOの「HS品目別解説(EN)」への依拠

HSコードの分類において、世界で最も権威のある解釈指針は、世界税関機構(WCO)が発行する「関税率表解説(Explanatory Notes)」です。これには、各項に含まれる物品と含まれない物品が詳細に記述されています。調査官の主張がこの解説と矛盾していないかを即座に検証し、国際基準に基づいた反論を展開することが最優先となります。

(二)客観的な証拠(エビデンス)の提示と「機能」の立証

「この製品は〇〇類です」と口で言っても説得力はありません。

一 設計図面と仕様書:当該部品がコンピュータシステムの中でどのような電気的・信号的役割を果たしているかを技術的に証明します。

二 成分分析表:材質基準が争点となる場合、公的機関による成分分析結果を提示します。

三 販売カタログと使用実態:エンドユーザーがどのように当該製品を使用しているかを示す証拠(SNSの投稿や設置写真等)を整理し、用途の正当性を証明します。

(三)調査報告書(質問応答記録書)の精査

調査官は、調査の最後に輸入者の供述をまとめた記録書を作成します。ここで不用意に「当社のミスでした」という文言が含まれると、後から不服申立てを行う際に「自白」として扱われてしまいます。弁護士が立ち会うことで、「意図的な隠蔽ではなく、法解釈の相違である」ことを明確に記録に残し、重加算税の賦課を全力で阻止いたします。

6 日常から取り組むべき「品目分類コンプライアンス」と事前教示の重要性

事後調査での不測の事態を防ぐための最強の手段は、関税法第7条の3に規定される「事前教示制度」の活用です。

「税関長は(中略)輸入者その他の関係者から照会があったときは、書面により、当該事項について教示することができる。」

この制度に基づき、輸入前に税関から「このHSコードで間違いありません」という文書回答を得ておけば、それは事後調査において絶対的な効力を持ちます。

一 法的拘束力:書面による回答は原則として三年間有効であり、税関はその判断を覆して追徴を行うことができません。

二 予見可能性の確保:正確な関税率が確定するため、事業計画上のコスト計算が狂うことがありません。

三 通関の迅速化:申告時に事前教示の回答を提示することで、現場での検査や審査が大幅に簡素化されます。

判断が分かれそうな新製品や多機能製品を輸入する際は、通関業者に「適当に決めておいて」と頼むのではなく、戦略的に事前教示を申請すべきです。

7 「乙仲任せ」からの脱却と専門家による内部監査(HS監査)

多くの企業は、HSコードの選定を通関業者(乙仲)に完全に委ねています。しかし、通関業者はあくまで「代行業者」であり、間違った申告を行った際の最終的な責任(納税と罰金)を負うのは輸入者自身です。

(関税法第117条 両罰規定)

法人の業務に関して違反行為があった場合、行為者のみならず、その法人に対しても罰金刑が科されます。この重い責任を自覚し、社内で以下の体制を構築することが重要です。

一 通関業者への「判断根拠」の書面要求:なぜそのHSコードを選んだのか、適用した通則や注を明記したレポートを提出させ、社内で保管します。

二 定期的な外部監査の実施:年に一度、通関士資格を持つ弁護士や専門家に過去の申告データをレビューさせ、「隠れたリスク」を洗い出します。

三 輸入管理規定(ICP)の整備:HSコードの決定プロセスをマニュアル化し、担当者が変わっても一貫した分類が行われるようにします。

8 まとめ:不当な追徴課税を防ぐために

HSコードを巡る争いは、最終的には「言葉の定義」と「法の適用」の戦いです。税関の調査官は、関税徴収という目的を持って調査に臨みますが、彼らもまた「法の支配」の下にある行政官です。適正な証拠と論理的な法解釈を提示できれば、不当な分類変更を食い止めることは十分に可能です。

山田氏の事例のように、五千万円という追徴金は、一企業の存立を揺るがす数字です。しかし、通関士資格を有するとともに、弁護士として法の論理を構築できる専門家が介在することで、税関の主張に正面から立ち向かい、妥当な解決を導くことができます。

「税務署の調査とは違う、税関特有のロジック」に対応できる準備はできていますか?HSコードの分類に一抹の不安がある、あるいはすでに税関事後調査の通知が届いてしまったという場合は、手遅れになる前に、弊事務所までご相談いただき、事前診断の実施をご検討ください。

正しい法令知識に基づき、誠実かつ戦略的に税関と向き合うこと。その姿勢こそが、貴社のグローバルビジネスを安定させ、不測の事態から会社を守ることに繋がります。当事務所は、貴社の良きパートナーとして、その専門性を最大限に発揮し、安全な海外展開を強力にサポートし続けます。

【お問合せは、こちらから】

・・・・・・・・・・・

執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら

(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定

本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

税関事務管理人(ACP)の活用と注意点

2026-03-23

はじめに:仮の相談者から寄せられた相談事例のご紹介

本日は、越境ECビジネスの拡大に伴い、海外の事業者が日本国内に拠点を置かずに商品を展開する際、必ず直面する「輸入者の資格」と「税関事務管理人(ACP)」という制度について、法務的な視点から詳細に解説いたします。日本市場への参入は大きな機会をもたらしますが、関税法という独自の法体系を理解せずに進めることは、予期せぬ輸入差し止めや多額の追徴課税、さらにはアカウントの閉鎖といった致命的なリスクを伴います。まずは、当事務所に実際に寄せられた相談内容をベースにした、以下の架空事例をご覧ください。

【相談者】

米国カリフォルニア州に本拠を置く、フィットネス関連製品の開発販売会社「X社」、CEO、ジョン・スミス氏(仮名)

【相談内容】

「当社は、日本のアマゾンFBA(フルフィルメント・バイ・アマゾン)を活用して、新型のスマートフィットネス機器を日本国内で直接販売する計画を立てました。日本に法人や支店はないため、現地の配送業者から『インポーター(輸入者)が必要だ』と言われ、便宜上、提携している物流会社Y社の名前を輸入者として借りて申告を行いました。ところが、最初のロットを輸入した際、税関から『実質的な輸入者はX社であり、居住者ではないY社を輸入者として申告するのは不適正である』と厳しく指摘されました。さらに、このままでは輸入時に支払った一〇パーセントの輸入消費税を、将来的に還付(仕入税額控除)を受けることもできないと言われ、パニックになっています。日本に拠点がない海外法人が、法的に正しく自らの名義で輸入を行うにはどうすればよいのでしょうか。また、ACPという制度を使えば解決すると聞きましたが、具体的な手続きと注意点を教えてください。」

このような事例は、アマゾンや楽天といったプラットフォームを通じて日本進出を狙う海外企業において、現在、最も頻繁に発生しているトラブルの一つです。ジョン・スミス氏のように「名義だけ借りれば良い」という安易な認識は、日本の関税法および消費税法の厳格な適用の前では通用いたしません。本日は、この複雑な非居住輸入の法的構造と、ACP制度の活用、そして名義貸しに潜む法的リスクについて、関係法令を具体的に引用しながら徹底的に解説してまいります。

一 関税法における輸入者の定義と非居住者の制限

まず、日本の関税法において、誰が「輸入者」になれるのかという根本的なルールを整理する必要があります。関税法第六十七条は、貨物を輸入しようとする者の申告義務を定めています。

(関税法第六十七条 輸出又は輸入の申告)

「貨物を輸出・輸入しようとする者は、税関長に対し、当該貨物の品名、数量、価額その他必要な事項を申告し、必要な検査を経て、その許可を受けなければならない。」

この条文にいう「輸入しようとする者」とは、原則として、貨物を本邦に引き取る法的権利と責任を有する者を指します。しかし、税関実務上、日本国内に住所や主たる事務所を持たない者、すなわち「非居住者」が単独で輸入申告を行うことには大きな制限があります。なぜなら、輸入申告は単なる手続きではなく、関税や消費税の納税義務の発生(関税法第六条)、および他法令(薬機法や食品衛生法、電気用品安全法等)の遵守責任を伴う行為だからです。日本国内に責任の所在がない非居住者が勝手に輸入を繰り返せば、万が一の事故や納税漏れの際に、税関が行政権を行使できなくなってしまいます。そのため、関税法第九十五条では、日本国内に拠点を持たない者が税関手続きを行うための「代理人」の選任を義務付けています。

(関税法第九十五条 税関事務管理人)

「税関長に対して申告、届出、申告の受領その他税関の手続(中略)をすべき者で、日本国内に住所又は居所(法人にあつては、その主たる事務所)を有しないものは、日本国内に住所又は居所を有する者でこれらの事項を処理させるのに適当なものを税関事務管理人として定めなければならない。」

この「税関事務管理人」こそが、いわゆる「ACP(Attorney for Customs Procedures)」の正体です。つまり、海外のX社のような非居住者が日本で輸入ビジネスを行うためには、このACPを日本国内で選任し、税関に対して「非居住者に代わって、この管理人がすべての税関事務を処理します」という届け出を行うことが法的な大前提となります。

二 ACP(税関事務管理人)制度の具体的な機能と手続き

ACPは、非居住者に代わって以下の業務を代理いたします。

一 輸入申告書、輸出申告書その他の税関への書類作成・提出。

二 税関からの通知や書類の受領。

三 検査が行われる際の立ち会い。

四 関税、輸入消費税、その他の公課の納付。

五 過誤納金の還付請求および還付金の受領。

六 事後調査における税関との質疑応答。

ここで重要なのは、ACPは「手続きを代理する者」であり、「貨物の所有者」や「経済的なリスクを負う主体」である必要はないという点です。これにより、海外のX社は、日本に子会社を設立しなくても、適正にACPを選任さえすれば、自社(非居住者名義)で日本への輸入を行い、アマゾンFBAに納品することが可能になります。

手続きとしては、まず「税関事務管理人届出書」を、輸入を予定している港や空港を管轄する税関に提出します。この届出書には、非居住者の基本情報、ACPの氏名または名称、および委任する業務の範囲を記載します。また、非居住者が実在することを証明する現地の公的書類(登記簿謄本や居住者証明書)の提出も求められます。届出が受理されると、税関から受理番号が付与され、それ以降の輸入申告においてACP経由での申告が可能となります。

三 名義貸し輸入(IOR転嫁)に潜む法的な落とし穴とリスク

相談事例のスミス氏が直面したように、かつては日本の物流会社や通関業者が「輸入者(IOR:Importer of Record)」として名義を貸し、輸入申告を代行する手法が横行していました。しかし、二〇二〇年以降、財務省および税関は「真の輸入者」の定義を厳格化し、名義貸しに対する取り締まりを劇的に強化しています。

(一)輸入者の定義に関する通達の変更

現在、日本の税関は、輸入申告における「輸入者」を「輸入取引を成立させた者」と定義しています。もし、海外のX社が日本の消費者に直接販売する目的で貨物を輸入し、その販売利益をX社が享受するのであれば、輸入者はあくまでX社でなければなりません。日本の物流会社Y社が、在庫リスクも負わず、単に配送を請け負うだけで「輸入者」として申告することは、不実の申告とみなされます。

(二)輸入消費税の還付(仕入税額控除)の喪失

これが実務上、最も深刻な経済的打撃となります。日本国内でアマゾン等を通じて商品を販売する場合、売上から「仕入れにかかった消費税」を差し引いて納税する「仕入税額控除」という仕組みがあります。

(消費税法第三十条 仕入れに係る消費税額の控除)

輸入消費税の控除を受けるためには、当該輸入消費税を支払った者が「輸入者」本人でなければなりません。もし物流会社Y社の名義で輸入を行い、消費税を納税した場合、納税証明書上の名義はY社となります。この場合、海外のX社が日本で消費税の確定申告を行っても、名義が異なるため、輸入時に支払った一〇パーセントの消費税を一切差し引くことができず、二重課税の状態となってしまいます。ACP制度を利用し、X社名義で輸入を行えば、納税証明書はX社の名前で発行されるため、適正に還付や控除を受けることが可能になります。

(三)名義を貸した側(国内業者)の法的責任

名義を貸した日本の会社も、単なる親切心では済まされない重い責任を負います。輸入申告の内容がアンダーバリュー(不当な低価格申告)であった場合や、知的財産権を侵害する偽造品であった場合、税関は名目上の輸入者である日本の会社に対して、関税法違反としての制裁を科します。さらに、薬機法等の他法令違反があった場合には、その法人の営業停止処分や罰金刑、さらには刑事罰の対象ともなり得ます。当事務所では、安易な名義貸しがいかに法人の存立を危うくするか、日本の事業者様に対しても強く警告を発しております。

以下の表に、ACP(税関事務管理人)を利用した場合と、名義貸し(IOR代行)を利用した場合の決定的な違いを整理いたしました。

┌──────────────────────────────────────┐

│      非居住者による輸入形態の比較:ACP方式対名義貸し方式     │

├────────┬─────────────────┬───────────┤

│比較項目    │ACP(税関事務管理人)方式   │名義貸し(IOR)方式│

├────────┼─────────────────┼───────────┤

│輸入者の名義  │海外法人の本人名義        │日本の物流会社等の名義│

├────────┼─────────────────┼───────────┤

│関税法上の適法性│完全に適法(関税法95条準拠)  │不適正申告となるリスク│

├────────┼─────────────────┼───────────┤

│消費税の還付  │可能(本人名義で納税するため)  │不可能(二重課税発生)│

├────────┼─────────────────┼───────────┤

│他法令の責任  │海外法人が負う(ACPは窓口)  │名義を貸した日本法人が│

│       │                 │すべての法的責任を負う│

├────────┼─────────────────┼───────────┤

│事後調査の対応 │ACPが税関の窓口として対応   │日本法人が対応せざるを│

│       │                 │えず業務が麻痺する  │

└────────┴─────────────────┴───────────┘

四 ACP(税関事務管理人)の選任における法的注意点と業務の範囲

関税法上、ACPになるための特別な公的資格(通関士等)は、必ずしも必要とされていません。「日本国内に住所を有し、事務を処理するのに適当な者」であれば、個人であっても法人であっても選任可能です。しかし、実務上は、関税法や関連法規に精通していない者がACPになると、かえってトラブルを拡大させる結果となります。ACPが負うべき法的な役割と、実務上のチェックポイントを以下に整理いたします。

(一)関税評価(課税価格)の適正な算出

ACPは単に書類を提出するだけでなく、海外法人のインボイス価格が、関税定率法第四条に照らして適正であるかを確認しなければなりません。ロイヤルティの加算や、無償提供された金型等の「加算要素」が漏れていないかを精査することが求められます。ACPがこの確認を怠ると、後の事後調査で多額の不足税額が発覚し、海外法人は予期せぬ過少申告加算税を課されることになります。

(二)他法令(経済産業省・厚生労働省関連)の確認

輸入される製品が、PSE(電気用品安全法)、食品衛生法、薬機法等の規制を受ける場合、ACPはそれらの法令に基づき、適切な届出や承認が得られているかを確認する窓口となります。非居住者はこれらの法律を理解していないことが多いため、ACP側で「この商品は輸入できません」と事前に助言できる能力が必須となります。

(三)帳簿の備付けおよび保存義務の代行

関税法第九十四条では、輸入者に対し、輸入に関する帳簿や書類を七年間保存することを義務付けています。海外法人は日本に場所を持たないため、ACPが日本国内でこれらの重要書類を保管する義務を負います。

(関税法第九十四条 帳簿の備付け等)

「納税義務者は、輸入貨物の課税価格の決定に必要な書類、輸入許可証、その他政令で定める書類を、その輸入許可の日の翌日から七年間保存しなければならない。」

ACPは、この保存義務の履行場所として機能し、税関から閲覧を求められた際には、速やかにこれに応じる体制を整えておく必要があります。

以下の表に、ACPが日常的に処理すべき実務項目と、その重要性をまとめました。

┌──────────────────────────────────────┐

│     ACP(税関事務管理人)が担当すべき主要な業務チェックリスト   │

├────────┬─────────────────┬───────────┤

│業務の項目   │具体的な作業内容(全角表記)   │法的な重要度     │

├────────┼─────────────────┼───────────┤

│届出手続き   │税関へのACP選任届出の作成・提出│極めて高い(輸入の前提│

│       │委任状および現地の登記書類の確認 │条件である)     │

├────────┼─────────────────┼───────────┤

│課税価格チェック│インボイス価格の妥当性確認    │高い(事後調査での  │

│       │ロイヤルティ等加算要素の有無確認 │追徴を回避するため) │

├────────┼─────────────────┼───────────┤

│納税・還付管理 │輸入消費税等の納付および納税証明書│高い(消費税の還付  │

│       │の管理・海外法人への送付     │を受けるために不可欠)│

├────────┼─────────────────┼───────────┤

│他法令の審査  │薬機法、食品衛生法、PSE、   │極めて高い(不許可や │

│       │JIS規格等の該当性確認     │差し止めを防ぐため) │

├────────┼─────────────────┼───────────┤

│書類保存   │輸入許可証、契約書、価格根拠資料の│高い(関税法上の   │

│       │国内における7年間の保管     │保存義務を果たすため)│

└────────┴─────────────────┴───────────┘

五 ACP制度を利用した輸入における「輸入消費税」の戦略的取り扱い

海外法人が日本でビジネスを行う上で、最大の関心事は「コスト」です。名義貸し輸入を選んでしまう理由の一つに、ACPの報酬を嫌うという点がありますが、これは法的な「節税機会」を自ら捨てているに等しい行為です。

日本の消費税法では、事業者は「売上時に預かった消費税」から「仕入れ時に支払った消費税」を差し引いた額を納税します。海外法人がアマゾンで売上を上げた場合、日本の税務署に対して消費税を納税する義務(または還付を受ける権利)が発生します。

一 ACP方式での還付メカニズム

X社がACPを通じて、自らの名義で商品を輸入すれば、輸入時に支払った一〇パーセントの消費税は、X社の「仕入税額」として認められます。たとえX社が日本で免税事業者であったとしても、課税事業者を選択することで、支払った輸入消費税の還付を受けることが可能になります。一億円の商品を輸入していれば、一〇〇〇万円のキャッシュが戻ってくる計算になります。

二 納税管理人(TR)との連携

ACPはあくまで「税関」の窓口ですが、消費税の確定申告を行うには、国税局(税務署)に対する「納税管理人(Tax Representative)」の選任も必要となります。当事務所では、ACP業務と納税管理人業務を一体的に提供し、海外企業が日本の複雑な税制・法規に惑わされることなく、適正な還付を受けられるスキームを構築しております。

六 名義貸しが発覚した際の税関および行政の対応

もし、名義貸しによって輸入を繰り返していることが税関の事後調査やデータ分析で発覚した場合、以下のような厳しい事態が予想されます。

(一)遡及的な更正と加算税

「真の輸入者」への変更を求められ、過去の申告すべてが不適正とみなされます。これにより、名義上の輸入者が受けていた税制上のメリットはすべて否定され、不足税額とともに一〇パーセントから一五パーセントの過少申告加算税、さらに年率数パーセントの延滞税が課されます。

(二)輸出入禁止や制限

悪質な名義貸しを繰り返した海外法人および国内の名義貸し業者は、税関から「信用できない事業者」としてマークされます。その後の輸入は全量開梱検査の対象となり、ビジネスの継続が困難になります。

(三)アマゾン等のプラットフォームからの追放

大手プラットフォームは、日本の当局からの指導に極めて敏感です。関税法違反の疑いがある事業者に対しては、予告なしのアカウント停止や、売上金の凍結といった措置を講じることが規約で定められています。

七 専門家(弁護士・通関士)をACPに選任する決定的なメリット

ACPの選任において、単なる「場所貸し」や「格安代行業者」を選ぶことは、長期的にはリスクを増大させます。当事務所のように、関税法に精通した弁護士(通関士)をACPに選任することには、以下の三つの決定的なメリットがあります。

一 高度な法務コンプライアンスの担保

関税評価の論理、HSコードの分類、他法令の規制判定など、法的な解釈が必要な局面で、弁護士としての正確な助言を提供いたします。これにより、税関からの照会に対して、論理的かつ法的根拠のある回答を行うことができ、不当な指摘を未然に防ぎます。

二 税関事後調査に対する防御

輸入から数年後に実施される税関事後調査において、ACPとして立ち会い、税関調査官と対等に法的な論戦を行うことができます。過去の判例や行政不服審査の事例に基づき、貴社の申告がいかに正当であるかを主張し、追徴課税のリスクを最小限に抑えます。

三 総合的なビジネス・ガバナンスの支援

単なる輸入代行に留まらず、日本進出における契約書の作成、知的財産権の保護、製造物責任法(PL法)への対応など、法務全般のサポートが可能です。海外企業にとって、日本における「法務のコンシェルジュ」としての役割を果たします。

八 まとめ

本日は、非居住者が日本で輸入ビジネスを適法かつ効率的に行うための生命線である「税関事務管理人(ACP)」制度について、詳細に解説いたしました。X社のジョン・スミス氏のようなケースであっても、当初から名義貸しという危うい手法に頼らず、ACPを選任して自社名義で輸入を行っていれば、税関から指摘を受けることもなく、輸入消費税の還付という大きなメリットを享受できていたはずです。

海外の事業者様にとって、日本市場は非常に魅力的ですが、その門を叩くには関税法という独自の鍵が必要です。名義貸しという「裏口」から入ろうとすれば、必ず将来、重い代償を支払うことになります。正しい手続きを経て、正門から堂々とビジネスを展開すること。それが、グローバル・リーダーとしての誇りであり、持続可能な成功への唯一の道です。

 

【お問合せは、こちらから】

・・・・・・・・・・・

執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら

(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定

本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

関税評価(加算要素)の申告漏れを防御する

2026-03-21

税関事後調査において、最も多額の追徴課税が発生し、かつ調査官が最も重点的にチェックする項目をご存知でしょうか。それは「関税評価(課税価格の決定)」です。

輸入申告における「価格」とは、単にインボイス(送り状)に記載された金額を指すのではありません。日本の関税法では、インボイス価格に加えて、輸入者が別途負担した特定の費用を「加算要素」として合算した金額(課税価格)に対して関税・消費税を課すと定めています。

「インボイス通りに申告しているから大丈夫」という思い込みが、事後調査で数千万円単位の追徴課税を招くケースは実際に多数存在します。今回は、通関士資格を持つ弁護士が、事後調査で狙われる「加算要素」の急所と、その防衛策を解説します。

1 調査官がチェックする「4つの加算要素」

事後調査当日、調査官は輸入者の「総勘定元帳」や「海外送金記録」を輸入許可書、インボイスと照合します。そこでインボイス価格以外の送金が見つかると、以下の項目に該当しないか厳密にチェックされていきます。

①ロイヤリティ・ライセンス料(関税定率法第4条第1項第4号

海外の権利者に対し、商標権や特許権の使用料を支払っている場合、それが「輸入貨物に関連し」かつ「輸入取引の条件」となっているならば、課税価格に算入しなければなりません。

【チェックポイント】

ライセンス契約書に「本契約を締結しなければ貨物を購入できない」旨の条項があるかどうか。

②無償提供資材(アシスト)の費用(同法第1項第3号

輸入者が海外の製造メーカーに対し、材料、部品、金型、デザイン、考案などを無償または安価で提供している場合、その作成費用や入手費用を申告価格に加算する必要があります。

【チェックポイント】

日本で購入して送った「金型」の代金や、デザイナーに支払った「設計費」が漏れていないかどうか。

③運賃・保険料(同法第1項第1号

原則として、輸入港に到着するまでの運賃・保険料は課税対象です。

【チェックポイント】

EXW(工場渡し)やFOB条件で輸入している際、日本側で支払った国内運送費ではなく「海外から日本までの国際運賃」が正しく加算されているか。

④買付手数料以外の各種手数料

「買付手数料(Buying Commission)」は非課税ですが、それ以外の販売手数料や仲介手数料は加算対象です。

【チェックポイント】

契約上の名目が「コンサルティング料」であっても、実態が仲介手数料であれば否認の対象となります。

2 なぜ「事前準備」が重要なのか?実務上のリスク

関税評価の論点は、法解釈が非常に複雑です。調査官から指摘を受けた際、その場で「これは加算対象ではない」と論理的に反論するのは至難の業です。

また、常に「隠蔽・仮装」と疑われるリスクが伴う部分でもあります。

意図的に隠したつもりがなくても、多額の送金記録が帳簿にあり、それが申告から漏れていた場合、税関から「悪質な隠蔽」とみなされるリスクがあります。そうなれば、35%~40%という極めて重い「重加算税」が課せられ、さらにコンプライアンスの低い企業として税関の「ブラックリスト」に載ってしまうおそれもあります(輸入時に区分3が多発することは避けたいところです)。

加えて、一度「加算漏れ」が認定されると、調査官は過去5年分の同様の取引すべてを遡って詳細に計算し直します。これが、追徴課税額が膨れ上がる最大の理由です。

3 通関士資格を有する弁護士が教える「日常の備え」チェックフロー

事後調査で間違いを指摘されないためには、日常から以下のフローで点検を行っておくことが重要です。

①送金名目の全件把握

経理部門と連携し、海外への送金のうち「商品の代金(インボイス代金)」以外の名目(Royalty, Mold cost, Commission等)をすべてリストアップする。

②契約書のリーガルチェック

支払いが発生している費用について、契約書上の定義が「関税法上の加算要素」に該当するか、弁護士の視点で精査する。

③通関業者への正確な情報提供

「今回の輸入には、別途支払った金型代の按分額が含まれる」といった情報を、申告前に通関業者へ書面で伝達する。

4 もし「申告漏れ」に気づいたら―自主修正申告のすすめ

事後調査の通知が届く前に、自らミスに気づいて修正申告を行えば、過少申告加算税(10%~15%)は免除されます。当事務所では、調査通知が来る前の「模擬調査(内部監査)」を推奨しております。通関士資格を有し事後調査の対応経験も豊富な弁護士の知見を通して通関手続上のミスを見つけ出し、法的なリスクを整理した上で自主的に修正を行うことで、企業の金銭的・社会的ダメージを最小限に抑えることが可能です。

5 まとめ

関税評価は、税関事後調査における「最大の主戦場」です。

調査官の指摘に全てしたがって過大な税金を支払う必要はありませんが、そのためには「理論武装」と「証拠書類の整理」が欠かせません。

「海外への別途送金があるが、関税に関係するか不安だ」、「過去の契約書を一度チェックしてほしい」といったお悩みがあれば、事後調査の通知が来る前に、ぜひお気軽にご相談ください。

お問合せは、こちらからどうぞ。

・・・・・・・・・・・・・・・

執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(プロフィールは、こちら

RCEP・TPP11活用時の落とし穴

2026-03-13

はじめに:仮の相談者から寄せられた相談事例のご紹介

本日は、輸入実務において劇的なコスト削減を可能にする一方で、一歩間違えれば企業の財務基盤を揺るがすほどの破壊力を持つ「EPA(経済連携協定)の原産性否認リスク」について、その法的構造から実務的な防衛策までを網羅的に解説いたします。RCEP、TPP11、日EU・EPAといった大型の経済連携協定が次々と発効したことで、特恵税率を適用させて輸入コストを削減する企業が急速に増えています。しかし、その恩恵を享受する裏側には、税関による厳しい事後調査のリスクが常に潜んでいることを忘れてはいけません。まずは、当事務所に実際に寄せられる相談内容を模した、以下の架空事例をご覧ください。

【相談者】

神奈川県内で精密電子機器の輸入卸売を行う株式会社A、代表取締役、佐藤氏(仮名)

【相談内容】

「当社は、RCEPを活用してベトナムの製造メーカーB社から電子部品を継続的に輸入しております。現地からは公式な原産地証明書(フォームRCEP)を毎回の輸入時に受け取っており、関税無税で申告してきました。ところが、輸入開始から2年が経過した先日、税関から『検認(Verification)』の通知が届きました。税関がB社に対して原産性を証明する資料の提出を求めたところ、B社は『企業秘密である部品表(BOM)は出せない』と回答を拒否してしまいました。その結果、日本の税関は原産性が確認できないとして、過去2年分の輸入貨物すべてについてEPAの適用を否認し、本来の実行最恵国(MFN)税率との差額である関税三千万円と、消費税、さらに過少申告加算税の納付を命じられました。当社は現地の証明書を信じていただけなのに、なぜこれほどのペナルティを背負わなければならないのでしょうか。法的な救済措置や、今後の対策について切実な相談をさせていただきます」

このような事例は、グローバルなサプライチェーンにおいて原産地の証明が複雑化する中で、日本国内の輸入者が常に晒されている深刻なリスクを象徴しています。本日は、この原産地規則の論理と、事後調査での否認という最悪の事態を防ぐための実務的要諦を解説いたします。

1 EPA特恵税率適用の法的根拠と輸入者の証明責任

EPAに基づく特恵関税の適用は、関税法および各協定の実施に関する法律によって規定されています。特恵税率の適用を受けるためには、その貨物が協定上の「原産品」であることを輸入者が証明しなければなりません。

(関税法第68条 提出書類)

「税関長は、経済連携協定の規定に基づき関税の譲許の便益を受ける貨物について(中略)当該貨物が当該経済連携協定の規定に基づき当該締約国の原産品とされるものであることを確認するために必要な資料の提出を求めることができる。」

この条文が示す通り、税関は輸入者に対し、いつでも原産性の証拠を求める権限を有しています。日本の輸入者は、輸出者が発行した証明書を提出するだけでなく、その内容が正しいことを担保する責任を負います。これを「輸入者の立証責任」と呼びます。佐藤氏の事例のように、輸出者が資料提供を拒否した場合であっても、日本の税関に対する納税義務は輸入者に帰属するため、輸出者の不協力はそのまま輸入者の追徴リスクに直結いたします。さらに、経済連携協定に基づく特恵関税の適用に関する政令等により、原産地を証明する書類の保存義務(通常5年から7年)も厳格に定められています。

2 原産地規則の基礎知識と主要な判定基準の法的要件

原産地規則とは、貨物が特定の国で「生産」されたとみなされるための法的な基準です。大きく分けて以下の三つの類型が存在いたします。

(一)完全生産品(Wholly Obtained Goods)

当該国で完全に獲得、または生産された貨物を指します。例えば、当該国の領土内で採掘された鉱物、収穫された農産物、領海内で漁獲された水産物などがこれに該当いたします。

(二)実質的変更基準(Substantial Transformation Criterion)

二カ国以上にわたって製造が行われる場合、最終的に「実質的な変更」が加えられた国を原産国とする基準です。具体的には以下の二つの手法が用いられます。

一 関税分類変更基準(CTC:Change in Tariff Classification)

使用された非原産材料のHSコードと、完成品のHSコードが、協定で定められたレベル(2桁、4桁、または6桁)で変化していることを求める基準です。

二 付加価値基準(VA:Value Added Content)

完成品の価格のうち、原産国で付加された価値(材料費、労務費、経費等)の割合が一定水準(多くの協定では40パーセント以上)であることを求める基準です。

(三)加工工程基準(Specific Processing Criterion)

特定の化学反応や複雑な組立工程など、あらかじめ協定で定められた特定の加工が行われた場合に原産性を認める基準です。

実務上、製造業において最もトラブルになりやすいのが、佐藤氏の事例でも問題となった「付加価値基準」です。計算方法には、非原産材料の価格を差し引く「控除方式」と、原産材料や経費を積み上げる「積上げ方式」があり、協定ごとに計算式が厳格に定められています。

以下の表に、原産地規則の主要な基準とその特徴を整理いたしました。

┌──────────────────────────────────────┐

│       経済連携協定(EPA)における原産地判定基準の比較表     │

├────────┬─────────────────┬───────────┤

│ 判定基準の名称│    判定の論理と定義     │  実務上の留意事項 │

├────────┼─────────────────┼───────────┤

│完全生産品   │一国のみで採取、生産された物品  │原材料まで遡る証明が必要│

│(WO)    │                 │           │

├────────┼─────────────────┼───────────┤

│関税分類変更基準│加工によりHSコードが変化    │全材料のHSコード特定│

│(CTC)   │(2桁・4桁・6桁の変更)    │が必須となる     │

├────────┼─────────────────┼───────────┤

│付加価値基準  │域内の付加価値額が一定比率以上  │為替や原材料価格の変動│

│(VA)    │(通常FOB価格の40%以上等) │によるリスクがある  │

├────────┼─────────────────┼───────────┤

│加工工程基準  │特定の化学反応や高度な加工工程  │製造工程の詳細な記録と│

│(SP)    │が原産国内で行われたこと     │図面が必要となる   │

└────────┴─────────────────┴───────────┘

3 検認(Verification)の実務フローと否認の法的プロセス

EPA実務において、輸入許可はあくまで「仮の通過点」に過ぎません。真の試練は、輸入から数年経って実施される「検認」です。これは、日本の税関が輸出国の当局や輸出者に対し、原産性の正当性を直接照会する手続きです。

(一)検認の種類

一 直接検認:日本の税関が、直接海外の輸出者や生産者に質問状を送り、回答を求める形式。

二 間接検認:日本の税関が、輸出国の税関等の当局を通じて調査を依頼する形式。

(二)否認の論理

税関からの照会に対して、以下の事態が発生した場合、特恵税率の適用は遡及的に否認されます。

一 輸出者または生産者が期限内に回答しなかった場合。

二 回答内容が不十分で、原産地規則を満たしていることが確認できない場合。

三 提出された資料に虚偽があることが判明した場合。

佐藤氏の事例では、輸出者による回答拒否が「一」に該当し、自動的に否認処分が下されました。否認が確定すると、関税法第14条に基づき、法定納期限から5年を経過するまで税額の更正が可能です。また、過少申告加算税(10パーセントから15パーセント)に加え、延滞税も重くのしかかります。

以下の表に、検認において税関から提出を求められる主要な資料をまとめました。

┌──────────────────────────────────────┐

│       検認(原産地調査)において必要となる証拠資料一覧表      │

├────────┬─────────────────┬───────────┤

│  書類の名称 │    証明すべき具体的内容   │   保存のポイント │

├────────┼─────────────────┼───────────┤

│部品構成表   │全原材料の名称、原産地、価格、  │最新の製造実態を反映し│

│(BOM)   │および個々のHSコード      │ていること      │

├────────┼─────────────────┼───────────┤

│製造工程図   │原材料から完成品に至るまでの   │加工地が原産国内である│

│(フロー図)  │具体的な加工プロセスの詳細    │ことを証明する    │

├────────┼─────────────────┼───────────┤

│原価計算書   │付加価値基準を計算するための   │客観的な会計帳簿と整合│

│(コスト表)  │材料費、労務費、経費の内訳    │していること     │

├────────┼─────────────────┼───────────┤

│直接運送の証拠 │積替えがある場合、第三国で    │通し船荷証券(TBL)│

│(BL等)   │非加工であることの証明書類    │を常に確保する    │

└────────┴─────────────────┴───────────┘

4 自己申告制度(自己証明)における輸入者の重い責任

近年の主要な協定(TPP11、日EU・EPA、RCEPの一部等)では、商工会議所などの第三者機関が発行する証明書ではなく、輸入者や輸出者が自ら作成する「原産地申告書」で足りる「自己申告制度」が採用されています。これは手続きの簡素化を目的としていますが、法的なリスクの所在を劇的に変化させました。

(一)申告責任の転換

自己申告制度においては、輸入者が「私はこの貨物が原産品であることを確認しました」と宣言して申告を行うため、税関からの疑義に対して、輸入者自身がその根拠を提示しなければなりません。輸出者が発行した書類を単に右から左へ流すだけでは、輸入者の注意義務を果たしたとはみなされません。

(二)「知らない」が通用しない法的現実

輸入者は、輸出者との間で、事前に原産性を確認するための情報のやり取りを行っておくことが法的に求められます。「輸出者が正しいと言ったから」という抗弁は、過少申告加算税を免れるための「正当な理由」には該当しないとするのが、これまでの裁判例や行政不服審査の確立した見解です。

(三)累積規定(Cumulation)の活用と注意

累積規定とは、相手国での製造に使用された日本産の材料や、域内他国の原産材料を、自国の材料とみなして計算できる救済措置です。しかし、これを利用する場合、それらの材料が本当に日本産または域内産であることを証明する「サプライヤー証明書」の入手が不可欠であり、管理の難易度はさらに高まります。

5 サプライヤーとの国際契約における関税補償条項の戦略的意義

佐藤氏の事例で最も悔やまれるのは、輸出者との売買契約において、原産地証明の不備に伴う損害を補償させる条項が欠落していたことです。当事務所では、輸入者がサプライヤーに対して以下の義務を負わせる契約スキームを提案しております。

一 原産地規則の遵守および正確な資料提供の義務化。輸出者は、日本税関による照会に対し、合理的期間内に正確な証拠資料を提出することを確約しなければなりません。

二 税関による検認が発生した際の全面的な協力義務。輸出者は、機密情報を理由に回答を拒否してはならず、必要であれば税関への直接提出等の手段を講じなければなりません。

三 原産性が否認され、輸入者が追徴課税や加算税を課された場合、輸出者がその損害の全額(関税差額、消費税、加算税、延滞税、および弁護士費用等)を輸入者に補償する旨のインデムニティ条項の導入。

このような条項があることで、サプライヤーに対して適正な管理を強いることができ、万が一の際の経済的損失を相手方に法的に転嫁することが可能となります。

6 専門家(弁護士・通関士)による高度なリーガルサポートの必要性

EPAの活用は、単なる貿易実務ではなく、関税法、各国協定、会計、そして製造実務が交差する「高度な法務ガバナンス」の領域です。輸入者が独力で、あるいは通関業者に「丸投げ」の状態で進めることには、法的な死角が多すぎます。当事務所は、代表弁護士が輸出入に関する唯一の国家資格である通関士資格を保有しており、法務と物流実務の双方から貴社を強力に守ります。

【当事務所が提供できる具体的なEPA支援内容】

一 貴社のサプライチェーンに基づく「最適EPA活用戦略」の策定。どの協定のどの基準(CTCかVAか)を適用するのが最も安全かつ有利かを法的に判定いたします。

二 輸出者が作成した原産地証明根拠資料のリーガルチェック。提出されたBOMや工程図が、日本の税関の「検認耐性」を備えているかを事前に検証いたします。

三 税関事後調査や検認に対する、論理的な主張書面の作成および交渉代理。税関の指摘に対して、協定の解釈に基づいた有効な反論を行い、不当な否認を防ぎます。

四 不当な否認処分に対する「再調査の請求」および「審査請求」の手続代理。行政不服審査法に基づき、税関長や財務大臣に対して処分の取り消しを求めます。

五 国際間売買契約における「関税リスク分配条項」の起案および交渉サポート。海外サプライヤーとの間で、貴社に有利な補償条項を導入するための支援を行います。

六 包括的な事前教示の申請および税関当局との窓口折衝。原産地の判断が複雑な場合に、あらかじめ税関から公式な文書回答を得ておくことで、将来の追徴リスクをゼロにいたします。

7 まとめ

本日は、輸入ビジネスの利益を左右するEPA活用の恩恵と、その裏に潜む原産地否認の法的リスクについて解説いたしました。株式会社Aの佐藤氏のようなケースであっても、当初から契約書に補償条項を盛り込み、B社の原産性管理体制を事前にリーガルチェックしていれば、三千万円という巨額の追徴金を自社で負担する事態は回避できたはずです。

企業にとって、EPAは「攻め」のツールであると同時に、慎重な「守り」の体制が求められる両刃の剣です。証明書の存在を盲信するのではなく、その背後にある「原産性の真実」を法的に担保し続ける姿勢を持ってください。インボイスの数字だけを信じるのではなく、その根拠となる契約、工程、原価のすべてを俯瞰する視点こそが、真の輸入コンプライアンスです。

【お問合せは、こちらから】

・・・・・・・・・・・

執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら

(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定

本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

電気用品安全法と輸入ビジネス

2026-03-08

はじめに:仮の相談者から寄せられた相談事例のご紹介

本日は、輸入実務において最も身近でありながら、一歩間違えれば重大な火災事故や数億円規模の損害賠償、さらには刑事罰の対象となる「電気用品安全法(PSE法)」の規制について、その法的構造から実務的な防衛策までを網羅的に解説いたします。中国などの海外工場から、安価でデザイン性に優れた家電製品やモバイルバッテリー、ACアダプター等を輸入し、Amazonや楽天といったECプラットフォームで販売するビジネスは非常に魅力的です。しかし、そこには「輸入者は国内における製造者と同一の責任を負う」という、極めて重い法的現実が存在いたします。まずは、当事務所に実際に寄せられた相談内容を模した、以下の架空事例をご覧ください。

【相談者】

埼玉県内でスマートフォン関連アクセサリーのEC販売を営む個人事業主、上田氏(仮名)

【相談内容】

「私は一年ほど前から、中国の工場で見つけた最新型の高速充電器と大容量モバイルバッテリーを輸入し、Amazonで販売しております。工場側からは『PSEは取得済みだ』と言われ、製品本体にもPSEマークが印刷されていたため、それを信じて出品していました。ところが先日、購入者の一人から『充電中に煙が出た』との連絡があり、その直後にAmazonから安全性の証明書類を提出しなければ出品を停止するという通告を受けました。慌てて工場に資料を請求したのですが、送られてきたのは不鮮明なテストレポート一枚だけで、経済産業省への届出書類もありませんでした。現在、私のアカウントは凍結され、数百万円分の在庫が販売不能になっています。さらに、火災被害への賠償請求も示唆されており、途方に暮れています。私は単に仕入れただけなのに、なぜこれほどまでの責任を負わなければならないのでしょうか。法的にどのように対処すべきでしょうか」

このような事例は、近年の越境ビジネスにおいて、適切な法務知識を持たずに参入した事業者の間で頻発しております。上田氏の「工場が言っているから大丈夫」という認識は、日本の電気用品安全法の前では一切通用いたしません。本日は、輸入事業者が直面するPSE法の四つの義務と、万が一の事故が発生した際のPL法(製造物責任法)上のリスクについて、関係法令を詳細に引用しながら解説いたします。

1 電気用品安全法における「輸入者」の法的な定義と立ち位置

まず輸入者が最初に理解しなければならないのは、日本の法律において、海外製品を日本国内に持ち込む者は単なる「転売屋」ではなく「製造事業者」と同等の扱いを受けるという点です。電気用品安全法第二条では、この法律が適用される「電気用品」を定義していますが、その規制対象となる事業活動について、同法第三条で以下のように規定されています。

(電気用品安全法第三条 事業の届出)

「電気用品の製造又は輸入の事業を行おうとする者は、経済産業省令で定める電気用品の区分ごとに、次に掲げる事項を経済産業大臣に届け出なければならない」

この条文から明らかな通り、輸入者は製造者と並んで規定されており、法的な義務の内容もほぼ同一です。日本国内に製造拠点を持たない海外メーカーに代わり、その製品を日本に持ち込む者が、日本国内における安全性の最終責任を負うという構造になっています。したがって、海外工場がどれほど「安全だ」と主張したとしても、その主張が日本の技術基準に適合していることを法的に証明し、届出を行うのは輸入者である貴社自身の義務となります。

2 輸入者が履行すべき「4つの義務」の法的詳細

PSEマークを製品に貼付し、適法に販売を継続するためには、以下の四つの義務を一つたりとも欠かすことなく完遂しなければなりません。これらは電気用品安全法に明文で定められた強制規定です。

(一)事業届出の義務(法第三条)

電気用品の輸入事業を開始した日から三十日以内に、経済産業省(各地域の経済産業局)に対して「電気用品輸入事業届出書」を提出しなければなりません。これを怠ったまま販売を続けることは、無届営業として処罰の対象となります。

(二)技術基準適合義務(法第八条)

輸入者は、輸入する電気用品が、経済産業省令で定める技術上の基準に適合するようにしなければなりません。

(電気用品安全法第八条第一項)

「届出事業者は、第三条の規定による届出に係る電気用品を製造し、又は輸入する場合においては、当該電気用品を経済産業省令で定める技術上の基準に適合するようにしなければならない」

実務上は、海外工場から提供された「テストレポート(試験成績書)」の内容が、最新の日本の技術基準(別表第八や、IEC基準との整合性を図った別表第十二など)を網羅しているかを確認する必要があります。翻訳の不備や試験項目の不足がある場合、この義務を履行したとはみなされません。

(三)検査及び記録の保存義務(法第九条)

これが最も多くの輸入事業者が遵守できていない、かつ事後調査で致命的な指摘を受けるポイントです。届出事業者は、製品を輸入するたびに検査を行い、その記録を作成し、保存しなければなりません。

(電気用品安全法第九条第一項)

「届出事業者は、その製造又は輸入に係る前条第一項の電気用品(中略)について、経済産業省令で定めるところにより、検査を行い、その検査記録を作成し、これを保存しなければならない」

多くの事業者が「工場で検査しているはずだ」と考えますが、法律は「輸入者(届出事業者)による検査」を求めています。輸入者は、ロットごとに外観、通電、絶縁耐力等の検査を自ら実施するか、あるいは工場に対して「日本の法律に基づくロット検査」を委託し、その詳細な記録を入手して三年間保存しなければなりません。

(四)表示の義務(法第十条)

上記の義務をすべて果たした上で、初めて製品にPSEマークを表示することができます。

(電気用品安全法第十条第一項)

「届出事業者は、その届出に係る電気用品について、第八条第一項の義務を履行し、かつ、前条第一項の規定による検査を行い、その検査記録を保存しているときは、当該電気用品に経済産業省令で定める方式による表示を付することができる」

表示には、PSEマーク(ひし形または丸形)、届出事業者名(輸入者の名称)、および定格電圧等の仕様が含まれます。これらの表示が欠けていたり、誤った名称が記載されていたりする場合、それは不適正表示として販売停止の原因となります。

3 電気用品の区分:特定電気用品とそれ以外の電気用品の比較表

電気用品は、その危険度に応じて二つのカテゴリーに分類されます。特に「特定電気用品(ひし形PSE)」については、登録検査機関による適合性検査証明書の取得が必須となります。

┌──────────────────────────────────────┐

│     特定電気用品(ひし形)と特定以外の電気用品(丸形)の法的比較表  │

├───────┬──────────────────┬───────────┤

│比較項目   │特定電気用品(ひし形PSE)    │特定以外の電気用品(丸形PSE)│

├───────┼──────────────────┼───────────┤

│製品の例   │ACアダプター、電線、ヒューズ、  │モバイルバッテリー、電気掃除機、│

│       │マッサージ器等(全116品目)   │テレビ受像機等(全341品目)│

├───────┼──────────────────┼───────────┤

│第三者機関検査│登録検査機関による適合性検査が必須 │不要(自主検査のみで可)   │

├───────┼──────────────────┼───────────┤

│証明書の有効期│3年、5年、7年等(品目による)  │特になし           │

├───────┼──────────────────┼───────────┤

│検査記録の保存│必須(3年間)           │必須(3年間)        │

├───────┼──────────────────┼───────────┤

│違反時のリスク│販売停止命令、刑事罰(法人は1億円)│販売停止命令、刑事罰等    │

└───────┴──────────────────┴───────────┘

特定電気用品を輸入する場合、輸入者は経済産業大臣が認めた登録検査機関から発行された「適合性検査証明書」の原本または写しを保有していなければなりません。多くの海外工場はこの証明書の取得に多額の費用がかかるため、虚偽の報告をしたり、有効期限が切れた証明書を提出したりすることがあります。これを見抜くのも輸入者の法的な責任です。

4 製造物責任法(PL法)に基づく無限の損害賠償リスク

電気用品安全法の遵守はあくまで行政上のルールですが、実際に製品事故が発生した際に直面するのが製造物責任法(PL法)です。この法律は、製品の欠陥によって消費者の生命、身体または財産に損害が生じた場合、製造者(輸入者)に対して過失の有無を問わず損害賠償責任を負わせる「無過失責任」を規定しています。

(製造物責任法第三条 製造物責任)

「製造業者等は、その製造、加工又は輸入をした製造物(中略)の欠陥により他人の生命、身体又は財産を侵害したときは、これによって生じた損害を賠償する責めに任ずる」

輸入者は、PL法上の「製造業者等」に該当いたします。したがって、たとえ輸入手続きを完璧にこなしていたとしても、製品そのものに設計上の欠陥があった場合には、被害者に対して損害賠償を行わなければなりません。特にリチウムイオン電池を搭載した製品(モバイルバッテリー等)の発火事故は、木造家屋の全焼といった甚大な被害をもたらす可能性があり、賠償額が数億円に達することも稀ではありません。

5 不適切なPSE運用が招く刑事罰と行政処分の詳細

電気用品安全法の違反は、単なる是正指導で終わるほど甘いものではありません。経済産業省は、不適切な表示や手続きの不備が発見された場合、強力な行政権限を行使いたします。

(一)販売停止命令および回収命令

(電気用品安全法第十一条)

「経済産業大臣は(中略)電気用品が技術基準に適合していないと認める場合において、災害の発生を防止するため特に必要があると認めるときは、届出事業者に対し、その製造又は輸入に係る当該電気用品の回収を図ることその他必要な措置をとるべきことを命ずることができる」

一度回収命令(リコール)が下されれば、販売済みのすべての製品の回収費用、新聞等への告発広告費用、顧客への返金対応が発生し、中小企業は即座に資金ショートを引き起こし倒産に追い込まれます。

(二)重い刑事罰の規定

電気用品安全法の罰則は、法人に対して極めて厳しく設定されています。

(電気用品安全法第五十七条、第五十九条 罰則)

個人に対しては一年以下の懲役もしくは百万円以下の罰金が科されるほか、法人に対しては「一億円以下の罰金」という巨額の刑罰が規定されています。これは、安全を疎かにして利益を追求する事業者に対する国家の断固たる姿勢の表れです。

6 輸入事業者が構築すべきコンプライアンス・チェックリスト

不測の事態を回避し、健全な輸入ビジネスを継続するために、実務担当者が最低限チェックすべき項目を整理いたしました。

┌──────────────────────────────────────┐

│     電気用品輸入ビジネスにおける法的安全性チェックリスト       │

├───────┬──────────────────────────────┤

│チェック項目 │実務上の具体的な確認事項(全角表記)           │

├───────┼──────────────────────────────┤

│品目の特定  │輸入製品が特定電気用品か特定以外か、HSコードと照合したか │

├───────┼──────────────────────────────┤

│工場の信頼性 │ISO認証だけでなく、日本市場向けの出荷実績があるか    │

├───────┼──────────────────────────────┤

│レポートの精査│テストレポートが最新の「J基準」または「国際整合基準」か  │

├───────┼──────────────────────────────┤

│証明書の原本性│特定電気用品の場合、登録検査機関発行の証明書が有効期間内か │

├───────┼──────────────────────────────┤

│自主検査の計画│輸入ロットごとの全数検査または抽出検査のフローが決まっているか│

├───────┼──────────────────────────────┤

│PL保険の加入│万が一の賠償事故に備え、輸入者向けのPL保険を契約しているか│

└───────┴──────────────────────────────┘

7 専門家(弁護士・通関士)による包括的サポートの重要性

電気用品安全法の解釈は、単なる技術的な理解に留まらず、行政庁との折衝や法的な責任の分配といった「高度な法務ガバナンス」の領域です。当事務所は、弁護士としての法的知見と、通関実務の現場感覚を融合させ、貴社を強力にバックアップいたします。

【当事務所が提供できる具体的な解決ソリューション】

一 輸入予定製品の「電気用品安全法該当性判定」および「技術基準適合性の予備審査」

二 経済産業省に対する「事業届出」および「例外承認」等の申請代理

三 海外サプライヤーとの「品質保証契約」および「損害賠償・求償条項」の策定

四 万が一の製品事故発生時における「リコール対応」および「被害者交渉」の代行

五 社内輸入管理規定(ICP)の構築および役職員向けのコンプライアンス研修

六 Amazon等のプラットフォームから求められる「安全性証明書類」の作成支援

特に、上田氏の事例のようなアカウント凍結問題については、早期に法的な意見書を提出し、手続きの適正性を主張することで、再開の可能性を最大化いたします。

8 まとめ

本日は、成長著しい家電輸入ビジネスの陰に潜む、電気用品安全法とPL法の法的リスクについて解説いたしました。上田氏のようなケースであっても、当初からPSE法の四つの義務を正しく理解し、工場のレポートを鵜呑みにせず、自社で検査体制を構築していれば、アカウントの凍結や火災事故の恐怖に怯えることはなかったはずです。

輸入ビジネスにおいて、安全は「コスト」ではなく「投資」です。目先の利益を優先して安全確認を疎かにすることは、企業の未来をギャンブルに投じるのと同じです。正しい法令知識に基づき、透明性の高い申告と安全確認を行うこと。その誠実な姿勢こそが、消費者の信頼を勝ち取り、ビジネスを長期的に繁栄させる唯一の道です。

【お問合せは、こちらから】

・・・・・・・・・・・

執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら

(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定

本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

食品・化粧品・器具の輸入リスク管理

2026-03-03

はじめに:仮の相談者から寄せられた相談事例のご紹介

本日は、海外の魅力的な食品や美容健康関連製品を日本国内に導入しようとする際、関税法以上に大きな障壁として立ちはだかる「厚生労働省(検疫所)による厳しい審査」について、その法的構造から実務的な防衛策までを網羅的に解説いたします。輸入ビジネスにおいて、関税の手続きを終えても、厚生労働省管轄の法令をクリアできなければ、貨物は一点たりとも国内に引き取ることはできません。まずは、当事務所に実際に寄せられる相談内容を模した、以下の架空事例をご覧ください。

【相談者】

東京都内で欧米のオーガニック製品の輸入販売を新規事業として立ち上げた株式会社S、事業部長、T氏(仮名)

【相談内容】

「当社は、米国で大流行している美容成分配合のプロテイン飲料と、自宅で簡単に肌のキメを整えることができる家庭用美顔器を輸入いたしました。メーカーからは安全性の証明書も受け取っており、米国の基準では全く問題のない製品です。ところが、成田空港の検疫所に食品等輸入届出書を提出したところ、プロテイン飲料に含まれる一部の着色料が日本では認可されていない『指定外添加物』に該当する可能性があると指摘されました。さらに、美顔器については、その販売サイトの広告表現に『細胞を活性化させる』という文言があることから、法的には単なる雑貨ではなく『医療機器』に該当する疑いがあるとして、薬機法に基づく業許可の提示を求められています。現在、貨物は保税地域に留め置かれたままであり、一日ごとに多額の保管料が発生しております。最悪の場合、全量廃棄と言われておりますが、法的にどのように釈明し、事態を打開すべきでしょうか」

このような事例は、海外と日本の規制の差異を十分に調査せずに輸入を開始した事業者の間で、極めて頻繁に発生しております。T氏のように「米国で安全なのだから日本でも大丈夫だろう」という認識は、日本の食品衛生法や薬機法の厳格な規格基準の前では一切通用いたしません。本日は、輸入事業者が直面する二大法令の「壁」について、関係法令を詳細に引用しながら、その法的性質と回避策を詳説いたします。

1 食品衛生法が規定する輸入届出義務と成分規制の法的峻別

日本国内で販売、または営業上使用する目的で食品、食品添加物、器具、容器包装、あるいは乳幼児向け玩具を輸入する場合、食品衛生法第二十七条に基づき、厚生労働大臣への届出が義務付けられています。

(食品衛生法第二十七条 輸入の届出)

「販売の用に供し、又は営業上使用する食品、食品添加物、器具若しくは容器包装を輸入しようとする者は、厚生労働省令で定めるところにより、その都度厚生労働大臣に届け出なければならない」

この届出を受けた検疫所の食品監視員は、当該製品が日本の規格基準に適合しているかを厳格に審査いたします。ここで輸入者が直面する最大のハードルが、同法第十条に規定される添加物の制限です。

(食品衛生法第十条 添加物の指定)

「人の健康を損なうおそれのない場合として厚生労働大臣が定めた場合を除き、添加物(天然香料及び一般に飲食に供される物であつて添加物として使用されるものを除く)並びにこれを含む製剤及び食品は、これを販売し、販売の用に供するために製造し、輸入し、加工し、使用し、貯蔵し、又は陳列してはならない」

日本には「指定添加物リスト」が存在し、これに掲載されていない添加物、すなわち「指定外添加物」が微量でも含まれている食品は、法的に輸入が禁止されます。欧米では一般的に使用されている特定の着色料(赤色〇〇号など)や保存料(安息香酸の特定の用途など)であっても、日本で未認可であれば、例外なく「全量廃棄」または「積み戻し」となります。また、残留農薬についても「ポジティブリスト制度」により、基準値を超えて検出されれば、即座に不適正貨物として扱われます。

2 器具及び容器包装における材質規格と溶出試験の義務

食品そのものだけでなく、食品に接触する「食器」や「調理器具」、さらには「乳幼児向け玩具」も食品衛生法第十八条に基づく規格基準の対象となります。

(食品衛生法第十八条 規格及び基準)

「厚生労働大臣は、公衆衛生の見地から、販売の用に供する器具若しくは容器包装若しくはこれらの原材料につき規格を定め、又はこれらの製造方法につき基準を定めることができる」

例えば、海外製のセラミック食器から基準値を超える鉛やカドミウムが溶出したり、プラスチック製品から特定の可塑剤が検出されたりする場合、それらは同法に抵触いたします。輸入者は、現地のメーカーから「製造工程表」や「原材料表」を入手するだけでなく、厚生労働省の登録検査機関において「試験成績書」を発行してもらい、それを届出時に添付することが実務上不可欠です。事前の分析を怠り、検疫所のモニタリング検査で不適合が判明した場合、その後のすべての輸入が「検査命令」の対象となり、多額の検査費用と時間を恒久的に負担することになります。

以下に、食品衛生法における主な規制対象と確認事項を整理いたしました。

┌──────────────────────────────────────┐

│     食品衛生法に基づく輸入規制対象および重要確認ポイント一覧表    │

├───────┬──────────────────┬───────────┤

│規制のカテゴリー│具体的な該当製品例(全角表記)   │主な法的確認事項   │

├───────┼──────────────────┼───────────┤

│一般食品   │菓子、飲料、調味料、加工食品全般  │指定外添加物、残留農薬│

│       │                  │アレルゲン表示の整合性│

├───────┼──────────────────┼───────────┤

│食品添加物  │香料、着色料、保存料、酸化防止剤  │成分規格、純度試験結果│

│       │                  │使用制限の遵守状況  │

├───────┼──────────────────┼───────────┤

│器具・容器包装│食器、カトラリー、調理家電、水筒  │材質試験、溶出試験  │

│       │哺乳瓶、食品用梱包資材       │着色料の溶出の有無  │

├───────┼──────────────────┼───────────┤

│乳幼児向け玩具│6歳未満の乳幼児が口に接触する恐れ │特定の可塑剤の有無  │

│       │がある玩具全般           │重金属の含有量    │

└───────┴──────────────────┴───────────┘

3 薬機法によるライセンスと定義の壁:医療機器・医薬品への該当性

T氏の事例でもう一つの深刻な問題となっているのが、薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)です。この法律は、食品衛生法以上に複雑であり、かつ刑事罰の適用も厳格です。

(薬機法第二条第一項、第四項 定義)

この条文では、医薬品や医療機器の定義がなされています。重要なのは、製品そのものの構造だけでなく、その「目的」や「効能効果の標榜」によって、法的な分類が決まるという点です。

(一)医療機器としての「みなし」規制

単なる健康グッズや美容機器として販売するつもりであっても、その製品が「身体の構造若しくは機能に影響を及ぼすこと」を目的とするものであれば、法的には医療機器とみなされます。例えば、美顔器であっても「リフトアップする」「細胞を活性化させる」「シワを改善する」といった表現を使用すれば、それは薬機法上の医療機器に該当いたします。医療機器を輸入販売するには、薬機法第十二条に基づく「製造販売業」の許可および第十三条に基づく「製造業」の登録が不可欠です。

(二)未承認医薬品の輸入禁止

サプリメント(健康食品)として輸入しようとする製品に、日本で「医薬品成分」として指定されている物質が含まれている場合、それは「未承認医薬品」とみなされます。

(薬機法第六十八条 承認前の医薬品等の広告の禁止)

「何人も、第十四条第一項(中略)に規定する医薬品、医療機器又は再生医療等製品であつて、まだ承認(中略)を受けていないものについて、その名称、製造方法、効能、効果又は性能に関する広告をしてはならない」

未承認医薬品の輸入は、税関および検疫所によって厳しく差し止められます。特に海外のダイエットサプリや精力増強剤には、日本の医薬品成分が含まれていることが多く、意図せぬ薬機法違反を招く典型例となっています。

4 薬機法における業許可の種類と輸入者の義務比較表

輸入者が、どの程度のライセンスを必要とするかを整理した比較表を以下に示します。

┌──────────────────────────────────────┐

│     薬機法における輸入販売に必要な業許可と法的義務の比較表     │

├───────┬──────────────────┬───────────┤

│製品の分類  │必要な業許可(ライセンス)     │主な義務・ハードル  │

├───────┼──────────────────┼───────────┤

│一般雑貨   │特になし(届出不要)        │効能効果を謳えない  │

│(健康器具等)│                  │医療機器との誤認防止 │

├───────┼──────────────────┼───────────┤

│化粧品    │化粧品製造販売業許可        │総括製造販売責任者の置│

│       │化粧品製造業許可(包装等のみも含む)│品質管理基準の遵守  │

├───────┼──────────────────┼───────────┤

│医療機器   │医療機器製造販売業許可(クラス別) │製品ごとの承認・認証 │

│       │医療機器修理業許可等        │保守点検体制の整備  │

├───────┼──────────────────┼───────────┤

│医薬品    │医薬品製造販売業許可        │極めて厳しい品質管理 │

│       │医薬品製造業許可          │高度な専門知識の保有 │

└───────┴──────────────────┴───────────┘

5 輸入ビジネスにおける「通関不能」が招く経済的損失の構造

T氏の事例のように、保税地域で貨物が差し止められた場合、企業が負う損失は単なる仕入代金だけに留まりません。その被害の構造を以下の表に可視化いたしました。

┌──────────────────────────────────────┐

│     輸入不許可(食品衛生法・薬機法違反)に伴う損失コスト一覧表    │

├───────┬──────────────────┬───────────┤

│コストの項目 │具体的な内容(全角表記)      │経営への影響度    │

├───────┼──────────────────┼───────────┤

│商品代金没収 │廃棄または積み戻しによる原価の全損 │直接的な営業損失   │

├───────┼──────────────────┼───────────┤

│保税保管料 │検疫所との交渉期間中に発生する倉庫代│日を追うごとに増大  │

├───────┼──────────────────┼───────────┤

│全量廃棄費用 │産業廃棄物としての処理コストの負担 │不測の現金支出   │

├───────┼──────────────────┼───────────┤

│社会的信用失墜│不適切輸入による法令違反実績の記録 │今後の審査が厳格化  │

├───────┼──────────────────┼───────────┤

│刑事罰・過料 │悪質な未承認品輸入に対する制裁金  │逮捕、実名報道のリスク│

└───────┴──────────────────┴───────────┘

6 リスク管理の徹底と弁護士による予防法務の戦略的意義

これらの過酷な事態を避けるためには、貨物が日本に到着してから慌てるのではなく、契約締結前の段階で「法的適合性チェック」を完了させておく必要があります。

(一)事前適合性チェック(リーガルチェック)の法理

当事務所では、輸入予定の製品の原材料一覧(全成分表示)や製造工程図を、日本の食品衛生法や薬機法の最新のネガティブリスト、ポジティブリストと照合いたします。これにより、輸入後に発覚する「指定外添加物」や「医薬品成分」の混入リスクを水際でゼロにいたします。

(二)広告・表示の法的監修

パッケージに記載される「名称」や「成分表示」、さらには販売サイトの「キャッチコピー」が、薬機法や景品表示法に抵触しないかを精査いたします。T氏の事例のような「細胞を活性化」といった文言を、いかに薬機法に抵触させずに「美しさを引き出す」といった適切な表現に変換するか、代替案の提案を含めた法的アドバイスを行います。

(三)行政対応およびトラブル解決の代理

万が一、検疫所や自治体の薬務課から行政指導を受けた場合、あるいは貨物が差し止められた場合、弁護士が速やかに窓口となり、行政庁との折衝を行います。事実関係を整理した釈明書の作成、試験成績書の再提出、あるいは一部修正による輸入許可の獲得など、法的な実務を通じて被害を最小限に食い止めます。

7 「知らなかった」が通用しない法的自己責任の原則

関税法第七十条では、他の法令の規定により輸入に関して許可や承認を必要とする貨物については、輸入申告の際にその証明をしなければならないと定めています。

(関税法第七十条第一項 証明又は確認)

「他の法令の規定により輸入に関して許可、承認その他の行政庁の処分(中略)を必要とする貨物については、輸入申告の際、当該許可、承認等を受けていることを税関に証明しなければならない」

この条文に基づき、税関は検疫所の「食品等輸入届出済証」がなければ、輸入を許可いたしません。輸入者が「海外のサプライヤーに騙された」と主張しても、日本の法令を遵守して申告する責任は輸入者自身にあります。故意がなくても、過失による法令違反は、行政処分としての製品回収(リコール)や営業停止、さらには社会的制裁へと直結いたします。

8 輸入事業者が備えておくべき「厚生労働省対策」重要書類リスト

事後調査や検疫所での審査に耐えうるために、輸入者が日常的に管理すべき書類を以下の表にまとめました。

┌──────────────────────────────────────┐

│     食品・化粧品・医療機器輸入における必須管理書類リスト       │

├───────┬──────────────────────────────┤

│書類の種類  │管理すべき具体的な内容(全角表記)           │

├───────┼──────────────────────────────┤

│成分分析表  │全原材料(1%以下の添加物含む)の名称とCAS番号     │

├───────┼──────────────────────────────┤

│製造工程フロー│各工程での温度、圧力、添加のタイミング、殺菌条件の記録   │

├───────┼──────────────────────────────┤

│試験成績書  │登録検査機関による重金属、細菌、残留農薬の検査結果   │

├───────┼──────────────────────────────┤

│業許可証写し │製造販売業等のライセンス有効期限および責任者情報の管理   │

├───────┼──────────────────────────────┤

│表示ラベルドラ│法定表示事項(名称、期限、保存方法、製造者等)の原稿    │

└───────┴──────────────────────────────┘

9 専門家(弁護士・通関士)による高度な防御体制の重要性

食品衛生法や薬機法は、数年ごとに改正が行われ、また行政の運用方針も常に変化しています。最新の法改正情報を把握し、実務に反映させることは一企業だけの力では困難です。当事務所は、弁護士としての法的知見と、通関実務の現場感覚を融合させ、貴社が不測の事態に陥ることを未然に防ぎます。

【当事務所が提供できる具体的な解決ソリューション】

一 輸入予定製品の「成分・標榜効能リーガル監査」の実施

二 検疫所および自治体薬務課に対する「事前照会」の代理および折衝

三 輸入販売契約における「品質不適合時の損害賠償・返品条項」の策定

四 不適切輸入が判明した際の「製品回収・公表」に関するクライシス・マネジメント

五 役職員向けの「食品衛生法・薬機法コンプライアンス研修」の実施

六 税関事前教示制度と連動した、関税評価と他法令規制の統合的アドバイス

10 まとめ

本日は、輸入ビジネスにおける最大の「壁」である食品衛生法と薬機法の規制について、詳細に解説いたしました。T氏のようなケースであっても、当初から成分表のリーガルチェックを行い、広告表現を薬機法に適合させていれば、数千万円の貨物を失う恐怖に怯えることはなかったはずです。

輸入者にとって、これらの法令は単なる事務手続きではなく、消費者の生命と健康を守るための「国家との契約」です。海外の基準を妄信するのではなく、日本の厳格なルールを前提とした戦略的な輸入体制を構築すること。その地道なコンプライアンスの積み重ねこそが、貴社のグローバルビジネスの信頼性を高め、持続可能な成長を実現するための唯一の道です。

当事務所は、貴社の良きパートナーとして、その専門性を最大限に発揮し、法令の迷宮から貴社を救い出し、安定した海外展開を強力にサポートし続けます。

【お問合せは、こちらから】

・・・・・・・・・・・

執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら

(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定

本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

希少動植物製品とワシントン条約

2026-02-26

はじめに:仮の相談者から寄せられた相談事例のご紹介

本日は、輸入ビジネスにおいて関税法や知的財産権と並んで細心の注意を払わなければならない絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約、通称ワシントン条約(CITES)を巡るトラブルについて解説いたします。この条約は、生きている動植物のみならず、それらを使用したバッグ、時計のベルト、楽器、家具、さらには漢方薬や化粧品といった加工品までを広範囲に規制しており、輸入者が該当性を認識せずに輸入しようとして水際で差し止められる事例が後を絶ちません。まずは、当事務所に実際に寄せられる相談内容を模した、以下の架空事例をご覧ください。

【相談者】

静岡県内でヴィンテージ楽器および海外製高級家具の輸入販売を行う株式会社M、代表取締役、T氏(仮名)

【相談内容】

「当社は、長年米国や欧州から希少な木材を使用した楽器や家具を輸入しております。先日、ブラジル産のローズウッド(ブラジリアン・ローズウッド)を使用した1960年代製のヴィンテージギター五本を、現地のコレクターから買い付け、日本へ輸入いたしました。輸出者からは『古いものだから問題ない』と言われており、私も条約のことは知っていましたが、アンティーク品であれば規制対象外だと思い込んでいました。ところが、成田空港の税関より、当該貨物がワシントン条約附属書Iに該当する物品であるとして、輸入が差し止められました。経済産業省による輸入承認を受けていないため、このままでは貨物の没収、廃棄は免れず、さらには無許可輸入として刑事罰の対象になると警告されています。当社は悪意があったわけではなく、単に知識が不足していただけです。どのように対応すれば貨物を取り戻せるのでしょうか。また、刑事告発を避けるために法的にどのような主張が可能でしょうか」

このような事例は、ワシントン条約の仕組みと日本の国内法である外国為替及び外国貿易法(外為法)や関税法の連携を正しく理解していない場合に発生する典型的なトラブルです。T氏の事例が示す通り、たとえアンティーク品であっても、その証明が法的な要件を満たしていなければ、税関は輸入を許可いたしません。本日は、ワシントン条約の法的構造と、輸入者が負うべき厳格な義務について、関係法令を引用しながら解説いたします。

1 ワシントン条約の法的構造と附属書による規制区分

ワシントン条約は、絶滅のおそれのある野生動植物の国際取引を規制することで、それらの種の生存を保護することを目的とした国際条約です。日本では、この条約を遵守するために、外為法に基づく輸入割当制や輸入承認制を実施しています。条約では、規制の厳しさに応じて動植物を三つの附属書に分類しており、それぞれ輸入手続が決定的に異なります。

(一)附属書I(絶滅のおそれのある種で取引により影響を受けているもの)

最も厳しい規制が敷かれている区分であり、商業目的の取引は原則として禁止されています。パンダ、トラ、象牙、一部の希少なサボテンや、T氏の事例にあるブラジリアン・ローズウッドなどが該当いたします。学術研究目的等で例外的に輸入する場合でも、輸出国政府の発行する輸出許可書(Export Permit)に加え、日本政府(経済産業省)が発行する輸入承認書が必要となります。

(二)附属書II(現在は絶滅のおそれはないが、取引を厳重に規制しなければ絶滅のおそれがある種)

商業目的の取引は可能ですが、輸出国の管理当局が発行した輸出許可書等を税関に提出する必要があります。ワニ革、ニシキヘビ、一部のラン、ローズウッド(附属書I以外の種)などが含まれます。輸入者は、申告時に現物の書類を提示しなければなりません。

(三)附属書III(特定の締約国が自国内の種の保護のため、他国の協力を必要とする種)

当該国から輸入する場合には輸出許可書が必要となり、それ以外の国からの輸入には原産地証明書等が必要となります。

輸入ビジネスにおいて最も恐ろしいのは、附属書IやIIの対象であることを知らずに「無許可」で輸入しようとすることです。税関は、NACCS(輸出入・港湾関連情報処理システム)と経済産業省のシステムを連携させており、書類の不備は即座に判明いたします。

2 外為法および関税法における水際取締りの法的根拠

ワシントン条約該当物品を無許可で輸入しようとすることは、日本の国内法においても重大な違法行為を構成いたします。まず、外為法第四十八条および第五十二条により、特定の貨物の輸入には政府の承認を受ける義務が課されています。

(外国為替及び外国貿易法第五十二条 輸入の承認)

「価格、数量その他の事項について、貨物の輸入の承認を受ける義務を課することができる」

この規定に基づき、ワシントン条約該当物品は経済産業大臣の承認を受けなければ輸入できない「輸入制限貨物」に指定されています。さらに、関税法第六十九条の十一では、他法令の規制をクリアしていない貨物は「輸入してはならない貨物」として定義されています。

(関税法第六十九条の十一第一項第十一号 輸入してはならない貨物)

「他の法令の規定により輸入してはならないものとされている貨物(中略)で政令で定めるもの」

T氏の事例のように、輸入承認を得ずに附属書Iの物品を輸入しようとすることは、関税法上の輸入禁止物品を密輸入しようとしたことと同義とみなされます。税関長は、このような貨物を発見した場合、認定手続を経て、没収、廃棄、または積み戻しを命じる権限を有しています。

3 ワシントン条約該当物品の典型例と実務上のリスク比較表

輸入者が「これも規制対象なのか」と驚くような、意外な該当物品を以下の表に整理いたしました。

┌──────────────────────────────────────┐

│     ワシントン条約該当物品の分類と輸入時に必要となる主な書類     │

├───────┬──────────────────┬───────────┤

│物品のカテゴリー│具体的な該当例(全角表記)     │輸入に必要となる書類 │

├───────┼──────────────────┼───────────┤

│皮革製品   │ワニ、ヘビ、トカゲ、オーストリッチ等│輸出国発行の輸出許可書│

│      │の革を使用したバッグ、靴、ベルト  │(CITES許可書) │

├───────┼──────────────────┼───────────┤

│木材・楽器  │ローズウッド(紫檀)、マホガニー、 │輸出許可書又は    │

│      │黒檀等を使用したギター、バイオリン │アンティーク証明書  │

├───────┼──────────────────┼───────────┤

│漢方薬・化粧品│ジャコウ、虎骨、熊胆、アロエ、   │成分分析表および   │

│      │チョウザメ(キャビア)等の成分含有品│経済産業省の輸入承認書│

├───────┼──────────────────┼───────────┤

│装飾品・宝石 │象牙の彫刻、サンゴのネックレス、  │条約適用前取得証明書 │

│      │ベッコウ(ウミガメ)の櫛、クジャク │(プレ・コンベンション)│

└───────┴──────────────────┴───────────┘

4 「事後提出」および「後出し」の厳禁という法的鉄則

ワシントン条約の手続において、輸入者が最も注意しなければならないのが、書類の「同時提出義務」です。日本の税関実務において、ワシントン条約の許可書を輸入申告後に後から提出することは、原則として一切認められません。

(関税法第七十条第一項 証明又は確認)

「他の法令の規定により輸入に関して許可、承認その他の行政庁の処分(中略)を必要とする貨物については、輸入申告の際(中略)税関にこれを証明しなければならない」

この条文にある「輸入申告の際」という文言は、時間的に極めて厳格に解釈されます。例えば、海外のセラーが許可書を入れ忘れたり、電子データだけで原本を送っていなかったりした場合、その時点で申告は「不備」となり、貨物は直ちに差し止められます。T氏のように「アンティークだから後で証明できる」という主張も、輸入申告時に有効な証明書が添付されていなければ、税関は受理を拒否し、貨物の法的地位は「密輸入品」に準ずるものとして扱われます。一度差し止められた貨物について、後から海外から取り寄せた許可書を提示して「これで許可してほしい」と求めても、経済産業省および税関は「遡及的な有効性」を認めない運用を徹底しています。

5 絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律(種の保存法)との関係

ワシントン条約に該当する物品を輸入した後は、国内での取引についても別の法律による制約を受けます。それが、種の保存法です。

(絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律第十二条第一項)

「国内希少野生動植物種(中略)及び国際希少野生動植物種の個体(中略)は、譲渡し、又は譲受けをしてはならない」

附属書Iに該当する物品、例えば象牙やブラジリアン・ローズウッドの製品を国内で転売しようとする場合、事前に一般財団法人自然環境研究センター等に登録し、登録票を備え付ける義務があります。T氏がギターを輸入できたとしても、この登録を行わずに販売すれば、種の保存法違反として更なる刑事罰の対象となります。

6 無許可輸入が招く刑事罰と社会的制裁の深刻さ

ワシントン条約に違反して輸入を強行しようとした場合、単なる貨物の没収では済みません。関税法および外為法に基づき、非常に重い罰則が科されます。

(一)関税法違反(無許可輸入罪)

(関税法第百十一条第一項第一号)

「第七十条第一項(他の法令の規定による許可、承認等の証明)の規定に違反して貨物を輸入した者は、五年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する」

(二)外為法違反(輸入承認義務違反)

(外国為替及び外国貿易法第七十一条)

「第五十二条の規定による輸入の承認を受けないで貨物を輸入した者は、五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する」

(三)過失犯の処罰

T氏のように「知らなかった」と主張しても、関税法第百十一条第二項により、過失であっても罰金刑が科される可能性があります。さらに、法人の業務として行われた場合には、行為者を罰するだけでなく、法人に対しても多額の罰金が科される両罰規定が存在いたします。刑事告発がなされれば、企業の信用は地に落ち、銀行融資の停止や取引先からの契約解除といった壊滅的なダメージを受けることになります。

以下の表に、ワシントン条約違反に伴う主な法的リスクと制裁を整理いたしました。

┌──────────────────────────────────────┐

│     ワシントン条約該当物品の不法輸入に伴う制裁およびペナルティ    │

├───────┬──────────────────┬───────────┤

│処分の種類  │算定根拠および法的な性質      │負担・制裁の目安   │

├───────┼──────────────────┼───────────┤

│行政処分   │関税法第69条の11に基づく没収  │貨物の全額損失および │

│      │および経済産業省による輸入禁止命令 │廃棄費用の自己負担  │

├───────┼──────────────────┼───────────┤

│刑事罰(個人)│関税法第111条、外為法第71条等 │5年以下の懲役又は  │

│      │(懲役、罰金の併科もあり)     │1000万円以下の罰金│

├───────┼──────────────────┼───────────┤

│刑事罰(法人)│関税法第117条(両罰規定)    │行為者と同等の罰金刑 │

│      │                  │および社会的信用の失墜│

├───────┼──────────────────┼───────────┤

│追徴課税   │輸入が認められないことによる    │過少申告加算税等の賦課│

│      │不適切な税額申告へのペナルティ   │(申告内容による)  │

└───────┴──────────────────┴───────────┘

7 不測の事態を防ぐための輸入コンプライアンス戦略

ワシントン条約該当物品を扱う輸入者が、法的な破滅を避けるためには、以下の三つの戦略的アクションを徹底しなければなりません。

(一)輸入前の徹底的な該当性調査

仕入れを検討している製品の原材料を学名(ラテン語名)レベルで特定し、ワシントン条約の最新の附属書と照合してください。ローズウッドのように、近年規制が強化された種も多いため、過去の知識に頼るのは危険です。経済産業省野生動植物貿易審査室や、税関の事前照会窓口を積極的に活用すべきです。

(二)輸出国側での「適法な証明書」の確約と事前送付

売買契約書において、「ワシントン条約に基づく有効な輸出許可書(原本)を提供できない場合は、契約を解除し損害賠償を求める」旨を明記してください。また、貨物を発送する前に、許可書のコピーをPDF等で送付させ、その内容(種名、数量、有効期限、署名等)に誤りがないかを、日本の専門家や当局に確認してもらうステップを挟むべきです。

(三)内部輸入管理規定(ICP)の構築

特定の担当者の「勘」に頼るのではなく、社内規定として「木材、皮革、動植物成分を含む製品を輸入する際は、必ず条約該当性チェックシートを起案し、法務部門の承認を得る」といったプロセスを義務化してください。

8 弁護士および専門家による高度なリーガルサポートの必要性

ワシントン条約を巡るトラブルは、一度税関で差し止められると、行政手続の段階で解決することは極めて困難です。しかし、専門の弁護士が介入することで、以下の道が開ける場合があります。

一 「条約適用前(プレ・コンベンション)」の立証支援:貨物が条約の規制開始日以前に製造・取得されたものであることを、当時の製造記録や輸出国の公的資料を用いて論理的に証明し、例外的な輸入許可(アンティーク特例等)を勝ち取る。

二 該当性に関する法的意見書の作成:税関が「該当する」と疑っている種について、生物学的、専門的な見地から「非該当」であることを主張する意見書を提出し、差し止めを解除させる。

三 刑事告発回避に向けた税関交渉:故意がなかったことを客観的な状況証拠から論証し、刑事告発を見送らせ、行政処分(任意放棄や積み戻し)の範囲に留めるよう折衝する。

四 不服申立ての代理:税関による不当な没収処分に対し、行政不服審査法に基づく審査請求や、処分取消訴訟を提起する。

当事務所は、代表弁護士が通関士資格を保有しており、楽器や家具、皮革製品の輸入におけるワシントン条約の実務に深く通じております。

9 まとめ

本日は、輸入ビジネスにおける見えない地雷である「ワシントン条約」のリスクについて解説いたしました。T氏のようなケースであっても、当初からブラジリアン・ローズウッドの規制の厳しさを理解し、輸入前に経済産業省の承認を得るか、あるいは適法なアンティーク証明を完璧に揃えていれば、数千万円の貨物を失い、刑事罰の恐怖に怯える事態は回避できたはずです。

輸入者にとって、ワシントン条約は単なる自然保護のルールではなく、外為法や関税法と直結した「輸入禁止の壁」です。「みんなやっているから」「お土産感覚だから」という甘い認識は、プロのビジネスの世界では通用いたしません。

正しい法令知識に基づき、一つひとつの素材にまで目を配り、法的な根拠をもって輸入に臨むこと。その慎重な姿勢こそが、貴社のビジネスの継続性を保証し、絶滅のおそれのある野生動植物を保護するという国際社会の責任を果たすことにも繋がります。

【お問合せは、こちらから】

・・・・・・・・・・・

執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら

(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定

本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

« Older Entries

トップへ戻る

03-5877-4099電話番号リンク 問い合わせバナー