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ロイヤルティの扱いを巡っての見解の相違~契約書の落とし穴~

2025-11-12

「ロイヤルティは販売後に支払う契約だから、関税評価には関係ないと思っていました…」これは、技術ライセンス契約に基づくロイヤルティの支払いが、課税価格の加算要素の対象になるか否かをめぐって問題となった実例です。

今回は、ロイヤルティ(使用料)の加算が問題となったケースを通じて、契約書の表現が関税実務に与える影響と、防止策を解説します。

 

1 実例:ライセンス契約が評価加算の根拠に?

ある企業は、海外ブランドのライセンスを取得し、OEM製造された商品を輸入・販売していました。

製造元とは通常の売買契約を結んでいましたが、別途、ブランドホルダーと商標使用契約を締結し、販売数量に応じたロイヤルティを支払っていました。

ところが税関は、以下の点を理由に、ロイヤルティを課税価格に加算すべきと判断しました。

①輸入商品の販売に不可欠なブランドであること

②ロイヤルティ支払が商品の販売条件とみなせる契約内容であったこと

③ライセンス契約が輸入者と第三者(ブランド権者)との間にあり、「間接的な対価」と解釈可能であったこと

その結果、過去3年分のロイヤルティ総額が関税評価に加算され、追徴課税と加算税の対象となったのです。

 

2 ロイヤルティが加算対象となる基準

関税法第4条および関税評価に関する通達では、ロイヤルティが加算されるか否かの判断基準として、次のような要素が挙げられています。

①商品の販売・輸入に不可欠な条件となっているか

②ロイヤルティの支払い先が製造者またはその関係者かどうか

③支払が、輸入者が商品を入手するための前提とされているか

加算対象とされる場合、ロイヤルティの全額または一部を、輸入価格に加えて関税を算定する必要があります。

 

3 なぜ契約書の文言が問題になるのか?

加算対象かどうかは、ロイヤルティの「実質的性格」だけでなく、契約書の条項がどのように書かれているかに大きく左右されます。

①「ロイヤルティは商品の製造・販売に対する対価とする」

②「支払がなければ商品の使用・販売を禁ずる」

といった表現である場合、 税関は「販売条件に該当」と判断しやすくなるでしょう。

他方で、

①「ロイヤルティは販売後の広告利用等に基づくものとする」

②「輸入時には支払義務が発生しない」

といった表現を使用している場合、 加算対象外とする余地が生まれるでしょう。

 

ロイヤルティの取り扱いは、契約当事者がどのような意図で締結したかだけでなく、「契約書の条文」がそのまま関税評価に影響を及ぼします。

関税法務の視点から契約内容を整備することが、評価加算トラブルを未然に防ぐ鍵です。

当事務所では、ロイヤルティ契約の評価リスク診断、税関対応、契約書レビュー、不服申立て対応まで幅広く対応しております。ぜひお気軽にご相談ください。

 

事後調査で3年分の価格修正を求められた~継続取引の落とし穴~

2025-11-07

「毎回同じ条件で輸入していたはずなのに、『過去3年分の価格が過少だ』と指摘され、追徴課税されました…」

これは、長年同じサプライヤーからの輸入を続けていた企業が、税関の事後調査で価格評価に問題があるとされ、遡及して修正を求められた実例です。

今回は、継続取引ゆえに見過ごされがちな関税評価の見直しポイントと、調査対応の注意点を解説します。

 

1 実例:割引条件の見落としで課税価格を否定

ある企業は、特定の海外メーカーから3年以上にわたって部品を継続輸入していました。

インボイスの単価は常に一定で、過去に税関から指摘を受けたこともありませんでしたが、事後調査の際、以下の点が問題視されました。

①継続取引の中で、リベート(事後的値引き)が付与されていた

②無償提供された部品の存在が一部確認された

③サプライヤーとの契約に「支払調整条項」が含まれていた

これにより、実際に支払うべき価格が申告価格より高かったとして、税関は3年分の申告価格を修正し、追徴課税および過少申告加算税を課しました。

 

2 「実際に支払うべき価格」とは?

関税評価においては、「実際に支払った又は支払うべき価格」が評価の基本です。

この「支払うべき価格」には、次のような要素も含まれます。

①リベートの取消し

②支払義務があるが申告に反映されていない費用

③無償供与品や技術指導などの加算要素

つまり、単に「インボイスに書かれた価格」だけでなく、実質的に取引の対価として支払うものはすべて評価対象になるという考え方です。

 

3 継続取引こそ『定期見直し』が必要

継続的な輸入であっても、以下のような変化があると、評価の見直しが必要です。

①支払条件や割引制度の変更

②販売インセンティブや目標達成ボーナスの追加

③関連会社間での価格調整

④サプライヤーとの契約改定(役務・ライセンス追加など)

こうした変更があっても、申告価格を据え置いたままだと、「過少評価」として税関に指摘される可能性が高まります。

 

4 調査対応のポイントと対策

①継続取引でも年1回は契約書・価格条件・実際の支払記録を点検

②会計記録と輸入申告データの整合性をチェック

③サプライヤーとの価格調整・リベート等のやり取りを明文化

④調査時には、税関に先回りして資料を提示・説明

⑤不安な点があれば、弁護士や通関士のレビューを受ける

 

継続的な輸入取引こそ、見直しや点検を怠ると大きなリスクにつながります。

税関は“これまで指摘されなかった”ではなく、“現在が適正かどうか”を見ているという視点を持ち、取引条件の変化に対応できる体制を構築しましょう。

当事務所では、契約・価格構成・税関評価のレビュー、調査対応支援も行っております。長期的な輸入管理に不安がある方は、ぜひご相談ください。

 

模倣品と誤認され税関で差止、廃棄処分~商標チェックと説明対応の落とし穴~

2025-11-02

「正規品のつもりで輸入したのに、“模倣品の疑いあり”として差し止められてしまった…」

これは、税関の知的財産権侵害調査で“模倣品”と判断され、商品が廃棄処分となった実例です。

本日は、輸入者が正規品だと信じていたにもかかわらず差し止めに至った事案をもとに、商標チェックの重要性と税関対応のポイントを解説します。

 

1 実例:正規仕入れのはずが「模倣品」と判定

ある企業が海外EC業者から輸入したアパレル商品に、有名ブランドのロゴが印刷されていました。

輸入者は「正規品と聞いていた」と主張しましたが、税関は商標権を保有する国内企業からの申立てを受け、輸入差止を実施。

輸入者が証明資料を十分に提出できなかったため、輸入不可と判断され、全品が廃棄処分に。関税・送料も返還されませんでした。

 

2 税関による差止のしくみ

税関は、関税法に基づき、商標権・著作権・意匠権などを侵害している疑いのある貨物を、職権で差止めることができます。

差止対象となると、以下の書類が輸入者に送付されます。

①輸入差止通知書

②意見提出・資料提出の依頼書(期限付き)

期限内に正当性を説明・証明できない場合、一方的に「侵害品」とみなされ、廃棄処分が確定してしまいます。

 

3 よくある「誤認・差止」の原因

①輸出業者が「正規品」と虚偽表示していた

②並行輸入品だが、日本では許諾が必要な商品だった

③ブランドのロゴや図柄が類似しており、税関で疑義が生じた

④商品の出所証明書や販売許諾書を入手していなかった

税関は「真正品」と「模倣品」を、外観・商標表示・製造情報・証明書類等に基づき判断します。外見が似ているだけでも、権利者が疑義を申し立てれば差止の対象になります。

 

4 実務対応と証明のポイント

①商品画像、ラベル、商標表示部を明確に示した資料を提出

②正規販売店・ブランドホルダーとの取引契約書・発注書を提示

③商標使用許諾が明文化されていることを証明書類で立証

④並行輸入品の場合は、商標権侵害にあたらない理論構成を明記

⑤回答期限内に、弁護士名義の意見書を添えることで信頼性を高める

税関とのコミュニケーションでは、感情的な反論ではなく、法的根拠と証拠に基づいた冷静な説明が求められます。

 

模倣品と疑われた場合、たとえ正規ルートで入手したと主張しても、証明できなければ差止・廃棄のリスクは極めて高くなります。

輸入者としての慎重な確認と、税関対応の初動を誤らないことが、ダメージ最小化の鍵です。

当事務所では、税関差止対応、ブランド権利確認、意見書作成などの対応を多数手がけております。模倣品リスクに不安を感じたら、早めにご相談ください。

 

通関業者に任せきりで重加算税対象に!?~輸入者の責任と管理体制~

2025-10-28

「通関は全部、通関業者に任せていたのに、なぜ自社が重加算税を課されるのか…」

これは、通関業務を外部委託していた輸入者が、税関から“故意の過少申告”とされ、重加算税(35%)の対象とされた実例です。

今回は、通関業者任せにしたことでトラブルが拡大したケースをもとに、輸入者としての法的責任と体制整備の必要性を解説します。

 

1 実例:業者の申告ミス → 税関は輸入者の責任を指摘

ある中堅企業が、海外から定期的に化学製品を輸入していました。

通関はすべて業者に任せており、インボイスと簡単な商品説明を渡すだけの運用でした。

ある日、税関の事後調査で、HSコードの選定ミスと評価漏れが発覚。

税関は、「輸入者は適正な価格や分類で申告すべき注意義務を怠った」として、重加算税(35%)を含む追徴処分を課しました。

 

2 通関業者は『代行者』であり『免責装置』ではない

輸入申告において最終的な責任を負うのは、輸入者自身です。

誤った申告に対する責任は「申告者」にあり、たとえ通関業者が実務を担っていたとしても、輸入者が内容を確認・管理していなければ責任を免れません。

つまり、「業者が勝手にやったこと」としても、税関側は「輸入者の指示・確認が不十分だった」と判断するのです。

 

3 重加算税の適用基準とは?

税関が重加算税(35%)を課すには、以下の要件があるとされています:

①明らかに過少である価格・分類で申告した

②故意に申告価格を低く操作した

③虚偽の資料を提出した、または事実を隠蔽した

④過去に指摘を受けていたにもかかわらず再発している

このケースでは、社内で申告内容の確認体制が存在せず、同様の誤りが繰り返されていたことが重く評価されました。

 

4 実務での防止策

①通関業者との契約に申告内容の確認フローや責任範囲を明記

②インボイス・契約書・仕様書と、申告内容(HSコード・価格)を突き合わせる社内体制の整備

③通関データを一定期間ごとに定期監査・レビュー

④商品ごとに分類台帳を作成し、通関士と共有

⑤トラブル時の社内報告・改善フローの明文化

また、輸入者責任に関する教育や研修を定期的に実施することも、リスク管理上極めて有効です。

 

通関業者に申告を任せていても、最終的な責任は輸入者にあります。

通関ミスによる追徴課税を避けるためには、輸入者としてのチェック体制・契約管理・記録保存が不可欠です。

当事務所では、通関業務の委託契約レビュー、申告体制の構築支援、税関対応のサポートも行っております。業者任せに不安がある方は、ぜひご相談ください。

 

無償提供した金型が申告漏れで追徴対象に~加算要素の見落としに注意~

2025-10-23

「えっ、提供した金型の価値まで申告に含めなければならないんですか?」

これは、実際にあった金型の無償供与を申告価格に含めなかったことにより、税関から関税評価の修正と追徴課税を受けた事例です。

今回は、輸入時に見落とされがちな「加算要素」のひとつである無償供与品について、注意点と実務対応を解説します。

 

1 実例:海外委託先に提供した金型が評価漏れに

ある日系メーカーが、アジアの製造委託先に対し、製品製造用の金型を自社負担で製作・提供しました。

その後、完成品を輸入する際、インボイスには製品価格のみが記載されており、金型の提供価値は申告価格に含まれていませんでした。

税関の事後調査でこの事実が判明し、「無償供与の加算漏れ」として、関税評価額の修正と3年分の追徴課税、過少申告加算税が課されたのです。

 

2 関税評価における「加算要素」とは?

関税法第4条第1項では、輸入価格(課税価格)には、以下のような「加算要素」を含めるべきと定められています。

①無償供与された材料・部品・金型・設計図

②製造用の役務提供(技術指導など)

③ロイヤルティ・ライセンス料

④海上運賃・保険料などの輸送費

これらがインボイス価格に含まれていない場合でも、実質的に対価として提供されているならば加算対象となります。

 

3 無償供与品の加算要件

金型や部品が加算要素として扱われるためには、以下の要件が一般的に必要です。

①輸入者が製造委託先に直接・間接に提供していること

②提供された物が、製品の製造に用いられていること

③提供に対する対価が申告価格に含まれていないこと

金型の提供が明らかであっても、それを価格評価に反映していなければ、申告価格が過少と見なされるリスクが生じます。

 

4 実務での対応策

①金型や試作品など、製造支援物の提供有無を社内で明確に管理

②加算対象となる場合は、製造単価あたりに案分して評価価格に加算

③金型や図面の提供契約書を整備し、税関向けに説明可能な資料として保管

④不明な場合は、税関の事前教示制度や専門家の意見を活用

⑤加算漏れが判明した場合は、修正申告を検討し早期対応

 

5 加算漏れが発覚すると…

無償供与の加算漏れは、意図的でなくても過少申告加算税(10%)の対象となり得ます。

さらに、税関は過去5年(重加算事由があれば7年)にわたり遡及して追徴課税を行うことができます。

一度調査対象となった企業は、以後も継続的な監視対象になりやすいため、初動の誠実な対応と体制整備が非常に重要です。

 

「インボイスに書かれていないから申告不要」という考え方は、無償供与や役務提供が絡む取引では通用しません。

加算要素を正しく理解し、通関前に申告価格が適正かを検証する体制の構築が、トラブル回避への第一歩です。

当事務所では、関税評価のリスク分析、加算要素の整理、税関との折衝支援まで対応可能です。お気軽にご相談ください。

 

 

原産地証明書の不備でFTA適用が否認された~形式ミスが命取りに~

2025-10-18

FTA(自由貿易協定)やEPA(経済連携協定)を活用することで、本来かかる関税をゼロにできる。この魅力から、FTA制度を利用した輸入は年々増加していますが、その一方で「原産地証明書の不備」により特恵関税が適用されず、追徴課税されてしまったという事例も少なくありません。

今回は、形式的な記載ミスでFTA適用が否認された実例をもとに、輸入者が注意すべきポイントを解説いたします。

 

1 実例:日EU・EPAの特恵申請が否認されたケース

ある企業は、EUから輸入した繊維製品について、日EU・EPAに基づく0%関税の適用を受けようとしました。

提出した原産地証明書は、輸出者による自己申告方式の原産地声明(Statement on Origin)でしたが、以下のような形式不備がありました。

①文書に必要な定型文言が一部抜けていた

②日付欄が記入されていなかった

③商品明細と証明書の記載内容にズレがあった

この結果、税関は「証明書としての要件を満たさない」と判断し、特恵関税の適用を否認。通常税率(10.9%)が適用され、加算税付きで追徴課税が行われてしまいました。

 

2 よくある原産地証明の不備例

①日付・署名・文言が欠落している

②証明書とインボイスでHSコードや品目名が一致しない

③原産地基準が記載されていない、または間違っている

④コピーやスキャンデータが不鮮明

こうした形式不備は、「悪意がない」場合でも無効とされる可能性が高く、結果として高額な追徴課税が課される事例もあります。

 

3 輸入者が取るべき実務対応

①仕入先(輸出者)に対して、証明書の記載方法を明確に指示

②受領した証明書は、輸入前に社内での内容チェックを徹底

③商品と証明書の内容(品名・数量・価格)を照合・記録保存

④複数ロット・複数商品に共通の証明書を用いる場合の整合性確認

⑤不明点があれば、税関や専門家へ事前確認を依頼

また、定期的に原産地証明に関する社内研修やチェックリスト整備を行うことも、トラブル予防に有効です。

 

FTA/EPAの活用はコスト削減に直結しますが、原産地証明書の不備によって「制度を使ったつもりが使えていなかった」という事態は決して珍しくありません。

形式ミスひとつで大きな損失につながるからこそ、証明書の確認と社内管理体制の構築が不可欠です。

当事務所では、FTA・EPAの活用支援、原産地証明書のレビュー、税関からの指摘対応まで一貫してご支援しております。ご不安な際はお気軽にご相談ください。

 

HSコードの違いで税率が3倍に!?~分類ミスによるリスクと事前教示の活用~

2025-10-13

「同じ商品なのに、税関から『これは別の分類になる』と指摘され、関税率が3倍に引き上げられました…」

これは実際にあった、HSコード(関税分類)のミスによって大きな追徴課税を受けた事例です。

今回は、関税分類の誤りが招くリスクと、トラブルを未然に防ぐ「事前教示制度」の活用法を解説いたします。

 

1 HSコードとは?

HSコード(Harmonized System Code)は、国際的な商品の分類番号です。

日本では「関税率表」に基づき、6桁(国際共通)+3桁(国内)=合計9桁で構成され、これにより関税率・輸入規制の対象が決まります。

輸入申告の際には、正確なHSコードを付けて申告しなければなりません。

 

2 なぜ分類ミスが起きるのか?

①商品が技術的に複雑で、分類基準が曖昧

②類似商品との線引きが難しい

③過去の申告を踏襲しており、根拠の再確認がされていない

④通関業者に任せきりで、社内で分類根拠を把握していなかった

分類は、税関がインボイスやカタログだけで判断するとは限らず、実物の構造や機能に基づくため、申告者側の理解と準備が重要です。

 

3 事前教示制度の活用

税関では、申告前に「この商品はどのHSコードに該当するのか?」を確認できる事前教示制度を提供しています。

申請時には以下の情報を添付します。

①製品写真・仕様書・図面・カタログ

②用途・構成部品・販売方法等の説明

③必要に応じてサンプルの提出

教示の内容は文書で通知され、一定期間有効な税関の判断として活用可能です。これにより、申告時のリスクを大きく下げられます。

 

4 実務対応のポイント

①商品ごとに社内で分類根拠台帳(HSコード、関税率、過去申告実績)を整備

②新製品や仕様変更時には、必ず再確認を実施

③通関業者任せにせず、輸入者として自ら分類を把握・理解

④分類が不明確な場合は、早めに事前教示を依頼

⑤誤りが判明した場合は、修正申告の要否とリスクを弁護士等に相談

 

HSコードの誤りは、関税額の大幅な変動や加算税の対象となるリスクを含んでいます。

「なんとなくこれでいいだろう」という感覚的な申告ではなく、分類の根拠とルールに基づく判断を徹底することが、税関トラブルを防ぐ第一歩です。

当事務所では、HSコードの分類判断、事前教示の申請支援、税関との見解対立時の対応など、幅広くご支援しております。分類に不安がある場合は、お気軽にご相談ください。

 

インボイスの記載ミスで申告価格が否認された!

2025-10-08

ある日、税関からの連絡でこう告げられました。

「申告されたインボイスの価格が実際の支払価格と一致しておらず、課税価格として認められません」

これは、ある中小輸入業者が取引先から受け取ったインボイスの誤記に気付かないまま申告を行った結果、税関から関税評価の否認と追徴課税を受けた事例です。

今回はこの実例をもとに、インボイス記載ミスのリスクと実務対応の要点を解説します。

 

1 インボイスのどこが問題だったのか?

問題となったインボイスには、以下のような誤りが含まれていました。

①実際の契約価格よりも10%安い価格が記載されていた

②商品の型番が一部省略されており、申告品目との整合性が取れなかった

③通貨の単位(USDとHKD)の記載が混在していた

このままの内容で輸入申告を行ったため、税関は「実際の支払価格とは異なる虚偽の価格で申告された」と判断し、課税価格が否定されました。

 

2 関税評価への影響とは?

関税法上、輸入申告の評価は「実際に支払った、または支払うべき価格(現実支払価格)」を基準にします。

インボイスがその根拠資料となるため、金額や商品名、条件等の誤記があると、評価の信頼性が損なわれることになります。

 

3 なぜミスが見過ごされたのか?

①海外サプライヤーが作成したインボイスをそのまま使用

②社内での価格確認や内容チェックのフローが未整備

③輸入担当者が英語表記や通貨表示に不慣れだった

こうした体制の弱さが、結果的に重大な税関トラブルへとつながったのです。

 

4 実務での防止策

以下のような対応でリスクを軽減できます。

①インボイスの内容(価格・通貨・数量・品目)と契約書を突き合わせて確認

②通関前に、会計部門・仕入担当とのクロスチェックフローを設定

③インボイスのひな形や記載ルールについて、取引先と明文化しておく

④インボイスに疑義がある場合は、修正依頼か補足文書(サイドレター)を用意

加えて、税関とのトラブルを防ぐため、必要に応じて事前教示制度(HSコードや関税評価の照会)を活用するのも有効です。

 

インボイスは輸入取引における『生命線』ともいえる書類です。

わずかな記載ミスでも、税関からの評価否認や追徴課税につながる重大なトラブルとなりかねません。

「単純な誤記」が命取りにならないよう、社内チェック体制と仕入先との明確なルールづくりを意識しておくことが大切です。

当事務所では、税関トラブル予防のための書類チェック体制構築や、インボイストラブル対応のアドバイスも行っております。ご不安な方はお気軽にご相談ください。

 

税関事後調査を踏まえた輸入コンプライアンス体制の構築法

2025-10-03

税関事後調査に直面すると、多くの企業が「帳簿や申告がこのままで良かったのか」「再発防止の体制は必要か」といった課題に向き合うことになります。

調査は単なる「指摘の場」ではなく、企業の輸入体制を見直す契機として活用することが重要です。

今回は、税関調査をきっかけに、どのように輸入コンプライアンス体制を構築・強化すべきかを解説いたします。

 

1 税関事後調査で問われるのは『仕組み』です

税関は、単に帳簿の形式や価格の妥当性を確認しているだけではありません。

特に税関事後調査では、「どういった管理体制のもとで輸入申告が行われているか」という組織的な内部管理の有無が評価対象となります。

指摘があった場合でも、「明確な体制があり、ミスは例外的なもの」と判断されれば、課税や加算税においても一定の軽減や配慮が得られる可能性があります。

 

2 構築すべきコンプライアンス体制の主な要素

以下のような仕組みを整備することが、コンプライアンス強化の基本です。

①通関申告内容のチェックフローの整備

HSコード、課税価格、原産地などの事前レビュー

②社内規程やマニュアルの整備

インボイス対応、FTA活用、照会対応のルール化

③関係部門の役割分担と連携体制の構築

輸入部門、経理、法務、営業、倉庫部門などの横断的連携

④記録・証拠資料の保存ルールの整備

原産地証明、価格根拠、契約書、支払証憑などの保管ルール

⑤税関対応の窓口・エスカレーションルートの設定

 

3 内部監査・自己点検の実施

税関が好意的に評価するポイントの一つが、「自社で定期的に点検を行っているかどうか」です。特に次のような内部監査項目があると、信頼性の高い体制と評価されやすくなります。

①過去の申告価格・税額と帳簿の整合性確認

②FTA/EPA活用状況の点検と原産地証明の保存状況

③加算要素(ロイヤルティ、無償供与等)の有無と計上確認

④関税法違反リスクの洗い出しと改善状況の記録

 

4 教育・研修の継続実施

法令や運用通達は頻繁に改正されるため、担当者の教育が継続的に行われているかどうかも重要です。

次のような取り組みが推奨されます。

①新任担当者向けの通関基礎研修

②年1回の関税・FTA・税関対応に関する社内研修

③税関との意見交換会・説明会への参加

④弁護士・税理士等専門家を招いたセミナーの実施

 

5 弁護士の関与による体制構築支援

コンプライアンス体制の構築は、実務面だけでなく、法的リスクと制度的理解の両面からの整備が必要です。

弁護士を関与させることで、以下のようなメリットが得られます:

①税関事後調査の結果を踏まえた再発防止策の立案

②社内マニュアル・規程類の法的観点からのレビュー

③原産地証明、ロイヤルティ契約、価格決定プロセスの整備

④トラブル発生時の初動対応体制の整備支援

 

税関調査を「行政からの監視」として捉えるのではなく、自社の輸入体制を見直し、強化するチャンスとする視点が重要です。

継続的な体制整備と記録・教育を通じて、持続可能で信頼性の高い輸入ビジネスを実現しましょう。

当事務所では、税関事後調査対応後の体制構築、コンプライアンスマニュアル作成、従業員研修の実施などもご支援可能です。お気軽にご相談ください。

 

申告価格の修正申告をすべき場合・しない方がいい場合

2025-09-28

輸入申告を行った後、「あの価格は正しかったのか?」、「ロイヤルティや無償供与を入れるべきだったのでは?」と不安になることもあるかと思います。

こうしたケースでは、修正申告(いわゆる自主的な申告訂正)を検討することになりますが、すべき場合と慎重に検討すべき場合があるため注意が必要です。

今回は、修正申告の判断基準と、実務上の対応ポイントについて解説いたします。

 

1 修正申告とは?

輸入申告後に申告内容に誤りがあったことが判明した場合、輸入者はその旨を税関に申告し、修正することができるとされています。

特に、課税価格や数量に誤りがあった場合に用いられる制度で、税関から指摘を受ける前に自ら訂正することで、加算税が軽減または免除される可能性があります。

 

2 修正申告をすべき典型的なケース

以下のような場合には、速やかに修正申告を行うことが推奨されます。

①課税価格にロイヤルティ、無償供与などの加算要素を含めていなかった

②インボイス価格の誤記や入力ミスがあった

③関税評価の基礎となる契約が事後的に変更された(値引き取消等)

④HSコードに誤りがあり、関税率が過小適用されていた

これらは明確なミスであり、事実関係が整理できる場合が多く、自主的な修正が有効です。

 

3 修正申告を慎重に検討すべきケース

一方で、以下のようなケースでは、即座に修正申告せず、専門的判断を要する場合があります。

①制度解釈に争いがある場合(例:ロイヤルティの加算該当性)

②FTA適用の有無について、原産地判断が微妙な場合

③税関との見解の相違があるまま調査中である

④間違いがあることは理解できるが、資料がそろっておらずどのような間違いか正確には把握できていない

 

4 修正申告の実務手続き

修正申告を行う際は、以下のような手順で対応します。

①関係書類(インボイス、契約書、支払記録等)を再確認

②修正内容を記載した申告書(修正申告書)を作成

③税関に提出し、追納すべき税額を計算・納付

④税関からの照会に備えて、説明文書を添付することが望ましい

 

修正申告は、制度上認められた重要なリスク回避手段です。
ただし、「すべき場合」と「慎重に検討すべき場合」があるため、内容の法的評価と実務的影響を見極めた上での判断が不可欠です。

当事務所では、修正申告の要否判断、税関との交渉支援、説明書作成、税務リスクの分析までトータルで対応しております。お困りの際は、ぜひご相談ください。

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