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税関事後調査における弁護士の役割

2025-08-19

税関事後調査が入ることに決まった際、「自社だけで対応すべきか」、「専門家に依頼するべきか」と悩む企業も多いことでしょう。

実際、輸入申告内容に関する指摘や追徴課税が発生する可能性がある調査では、対応経験のある弁護士の役割が非常に重要です。

今回は、税関調査における弁護士の具体的な役割や使い分け、専門家を活用するメリットについて解説します。

 

1 調査対応における3つのフェーズ

税関事後調査は、大まかに次のようなフェーズに分かれます。

①通知~事前準備(書類整理・体制構築)

②調査当日の対応(税関職員との質疑応答・資料提出)

③調査後の対応(指摘事項への反論・修正申告・不服申立て)

これら各段階において、弁護士が果たす役割は少しずつ異なります。

 

2 弁護士の役割

弁護士は主に、法的な観点からのリスク分析と交渉・争訟対応を担います。

①関税評価やHSコード等に関する法解釈の検討

②原産地規則の解釈、FTA・EPAの適用判断

③税関職員との交渉・説明(補足意見書の作成を含む)

④修正申告内容の精査とリスクコントロール

⑤不服申立(審査請求・訴訟)の代理人業務

税関対応において、弁護士が法的な正当性を根拠づけて反論を行うことで、追徴リスクの軽減や、調査の早期収束に貢献できます。

 

3 税理士の役割

一方、税理士は会計・帳簿・税務処理の専門家として以下のような場面で活躍します。

①仕訳帳・会計データと申告内容の整合性確認

②移転価格・ロイヤルティ等の価格構成の確認

③調査資料の整理・提出対応

④消費税との関係整理(仕入税額控除との整合性等)

特に、輸入価格に関連する社内原価や関係会社取引の説明において、税理士の支援は非常に有効です。

 

4 弁護士と税理士の連携による相乗効果

税関調査の現場では、会計・税務・法務が密接に絡み合います。

たとえば、ある契約が「ロイヤルティに該当するかどうか」という論点では、契約解釈(弁護士)と金額算定(税理士)の両方の視点が必要です。

このため、弁護士と税理士が連携して対応することで、以下のようなメリットがあります。

①税関への説得力ある説明資料の作成

②調査資料の精度向上と漏れの防止

③修正申告の範囲・方法の最適化

④将来的なリスクへの法務・税務的アドバイス

 

5 専門家を活用すべきタイミング

次のようなケースでは、早期に専門家の関与を検討することが望ましいです。

①調査通知を初めて受けたが、対応経験がない

②関税評価やHSコードの根拠に不安がある

③FTA利用に関して複雑な条件を抱えている

④税関と見解が対立している、または指摘内容が納得できない

⑤修正申告や不服申立ての可能性がある

調査の後半になるほど対応が限定されるため、初期段階での関与がもっとも有効です。

 

税関事後調査は、単なる書類確認にとどまらず、輸入ビジネス全体の信頼性が問われる重要な局面です。

弁護士・税理士といった専門家のサポートを受けることで、調査対応の質を高め、不要な追徴課税やリスク拡大を防ぐことが可能となります。

当事務所では、税関対応に特化した弁護士と連携する税理士とともに、輸入事業者の皆さまを全面的にサポートしております。お気軽にご相談ください。

 

会計帳簿との整合性が問われる場面とは?

2025-08-14

税関からの事後調査や価格申告の場面では、会計帳簿との整合性が問われることがあります。

輸入申告書に記載した課税価格と、実際の会計処理・帳簿記載内容にズレがあると、過少申告の疑いを招いたり、価格評価が否認されるリスクが高まります。

本記事では、税関が会計帳簿をチェックする理由と、整合性が問題になる典型的なケース、そして対策について解説いたします。

 

1 税関が帳簿を確認する目的とは?

税関は「帳簿書類等の閲覧・提出要求」を行う権限を持っています。

これにより、単に輸入申告書類(インボイスやパッキングリスト)だけでなく、次のような社内の会計帳簿・会計システム上の記録が調査対象となり得ます。

①仕訳帳・総勘定元帳

②輸入仕入台帳

③原価計算書

④月次・年次財務諸表

⑤経費精算・支払明細書 等

税関の目的は、「申告された課税価格が、企業の実態としての取引価格と一致しているか」を確認することにあります。

 

2 整合性が問われる典型的な場面

①インボイス価格と仕訳金額の不一致

例えば、インボイスでは1万ドルと記載されているのに、帳簿には1万2000ドルと記録されている場合、差額の説明を求められます。

②会計処理上の「後日値引き」や「リベート」

会計上では値引きや割戻しが記録されていても、申告価格に反映されていなければ、追徴課税の対象になる可能性があります。

③無償供与品や役務提供費用の見落とし

原材料や技術支援が実質的に提供されているにもかかわらず、関税評価上加算していない場合、帳簿からの指摘で問題化します。

④関連会社との価格乖離(移転価格の論点)

グループ会社間で価格が意図的に低く設定されていた場合、帳簿の記録と実際の輸入価格の不一致が重視されます。

 

3 整合性が崩れるとどうなるか?

税関から見て、帳簿と申告内容の整合性に問題があると判断された場合、以下のような対応が取られることがあります。

①取引価格の否認(関税評価方法の変更)

②加算要素の追徴(ロイヤルティ、役務費用等)

③過少申告加算税の課税

④継続的な監視対象(リスク先リスト入り)

つまり、帳簿のズレが「意図的な操作」と誤解される可能性があるのです。

 

4 整合性を保つための実務対応

①インボイスと支払記録・仕訳帳の照合をルール化

②輸入申告価格と会計処理との差異がある場合は、その理由を文書で記録

③値引き・ロイヤルティ・サービス料等は社内チェックリストに含める

④会計ソフトのコードと通関データを紐づけて管理する

⑤移転価格税制対応との整合性も検討

税関から帳簿の提出を求められたとき、即時に説明できる体制を整えておくことが、最大の防御策となります。

 

税関調査では、「何を申告したか」だけでなく、「申告内容が企業の帳簿と合っているか」が厳しくチェックされます。

帳簿との整合性を保つことは、輸入ビジネスの信頼性を支える基礎であり、トラブル防止に直結します。

当事務所では、会計処理と通関申告の整合性確認、税関調査時の資料提出支援、加算税対応などを総合的にサポートしています。調査対応や事前チェックでお悩みの方は、ぜひご相談ください。

 

仕入価格と申告価格の乖離が問題視される理由

2025-08-09

輸入ビジネスにおいて、商品の仕入価格と税関への申告価格が異なることは実際問題として珍しくありません。

しかし、この「乖離」があると、税関から「過少申告ではないか」、「正しい関税評価がなされていないのではないか」と疑念を持たれ、税関調査の対象や追徴課税の原因となるおそれがあります。

本記事では、仕入価格と申告価格の乖離がなぜ問題になるのか、その法的根拠と実務上のリスク、対策について解説します。

 

1 関税評価の基本ルールとは?

関税評価とは、関税を課す基礎となる価格(=課税価格)を算定する手続です。

原則として輸入取引で実際に支払ったまたは支払うべき価格が課税価格の基本となります(いわゆる現実支払価格)。

ただし、その取引価格に「加算すべき要素(ロイヤルティ、無償供与部材など)」がある場合には、それらも含めて関税評価されることになります。

 

2 「仕入価格」と「申告価格」が一致しない原因とは?

実務上、両者が乖離する原因にはいくつかのパターンがあります。

①複数のインボイスが存在する(プロフォーマと商業インボイス)

②値引きやリベートが実際に存在するが、申告価格に反映されていない

③輸送費・保険料等が申告に含まれていない

④サンプル品・無償品を有償価格と一緒に申告している

⑤グループ企業間で取引価格が調整されている

これらは意図的な不正でなくても、税関にとっては「価格の妥当性に疑義がある」対象として調査の引き金になるのです。

 

3 税関が問題視するポイント

税関は以下のような観点から乖離をチェックします。

①同種・類似品と比べて著しく価格が低い

②系列会社・関連会社間取引で価格調整が疑われる

③価格変更の理由が不明確

④過去の申告価格と継続性がない(急に下がっている)

こうした事案では、関税評価ルールに基づき「取引価格以外の方法(類似価格法、再販売価格法等)」により再評価され、追徴課税が行われる可能性があります。

 

4 問題を防ぐための社内チェックポイント

以下のような対策が、税関調査での指摘リスクを軽減します。

①インボイス・契約書と実際の送金額の整合性確認

②ロイヤルティや役務提供費用が含まれていないかのチェック

③同種品目の価格一覧の整備(平均単価管理)

④関連会社取引については移転価格文書の整備も検討

⑤変更があった場合は理由や経緯を記録・説明できるように

「なぜこの価格で輸入しているのか?」という説明責任を果たせる資料の準備が鍵になります。

 

仕入価格と申告価格が乖離していると、税関から不適正な申告と疑われ、調査や追徴課税のリスクが高まります。

申告価格の妥当性を支える証拠を日頃から整備し、取引の透明性を確保することが重要です。

当事務所では、価格評価リスクの診断、税関との交渉、修正申告や異議申立てまで、専門的に対応しております。価格関連で不安をお持ちの方は、お気軽にご相談ください。

 

過少申告加算税と重加算税の違いと防止策

2025-08-04

税関からの調査の結果、追徴課税が発生した際、多くの輸入者が驚くのが「関税とは別に加算税も課される」という点です。

加算税は、輸入申告の誤りに対して課される追加的な税金であり、悪質性の有無によりその税率や評価が大きく変わります。

今回は、「過少申告加算税」と「重加算税」の違いと、それらを防ぐために企業として講じるべき対策について解説いたします。

 

1 加算税とは何か?

加算税とは、関税法上の申告ミスに対して科される行政的なペナルティであり、主に以下の2種類が存在します。

①過少申告加算税(10%):単なるミスや過失によって課税価格等が低く申告されていた場合

②重加算税(35%):意図的に虚偽申告や隠蔽を行ったとされる場合

いずれも、関税・消費税に加えて課税されるため、事実上の「追徴金額」はかなりの金額に膨らむ可能性があります。

 

2 過少申告加算税の適用場面

過少申告加算税は、以下のような「過失に基づく誤り」が典型例です。

①HSコードの誤適用(類似品と取り違えた)

②インボイス価格の入力ミス

③原産地証明書の形式不備

④複雑な関税評価方法の理解不足による申告ミス

申告内容に明確な虚偽や隠蔽の意図がない場合でも、「結果的に関税が不足していた」として加算税の対象となります。

 

3 重加算税の適用場面

重加算税は、より重大な違反があった場合に適用されます。具体的には、

①故意にインボイス価格を低く改ざん

②複数のインボイスを使い分けて虚偽申告(いわゆる「二重価格」)

③本来の原産地を偽って関税を免れようとした

④税関調査時に帳簿や資料を隠蔽、破棄した

これらの行為は、税関側から「隠蔽または仮装行為」と認定され、通常よりも厳しい税率(35%)が課されるほか、刑事告発の可能性も生じます。

 

4 防止策:社内体制と申告チェックの強化

加算税を回避・軽減するためには、日頃から以下のような取り組みが有効です。

①商品ごとのHSコードと関税率の社内台帳整備

②原産地・インボイスの内容と申告価格の照合ルール化

③輸入部門と経理部門の連携強化

④定期的な専門家(弁護士・通関士)によるレビュー

⑤税関からの照会に対する速やかな対応

特に、重大な問題になる前に自主的な修正申告を検討することも非常に重要です。

 

過少申告加算税と重加算税は、どちらも企業にとって大きな経済的・信用的ダメージとなります。

ただし、その発生には明確な違いがあり、適切な社内管理と早期対応によって、十分に防止・軽減が可能です。

当事務所では、申告ミスのリスク診断、加算税対応、修正申告支援、不服申立てなどを一貫してサポートしております。税関からの指摘や加算税の通知にお困りの際は、ぜひ早めにご相談ください。

税関事後調査の際の資料提出~どこまで準備する必要があるか?

2025-07-30

税関事後調査では、申告の正確性を確認するために、多くの資料提出が求められます。

しかし、輸入事業者からすると「どこまで出す必要があるのか」、「資料を準備するには非常に手間があるので出来るだけ手間を省きたいが」といった不安も少なくありません。

今回は、税関に対する資料提出の範囲と対応上の注意点について、実務と法的視点の両面から解説いたします。

 

1 資料提出の根拠と調査の目的

税関は事後調査の一環として輸入者に対し、輸入に関係する帳簿・書類等の提出を求めることができます。

提出を求められるのは、輸入申告に用いた資料だけでなく、価格設定・原産地・契約関係に関する社内資料等も含まれる場合があります。

税関の目的は、主に以下の3点です。

①適正な関税額が申告・納付されているかの確認

②原産地申告(FTA・EPA利用含む)の正確性の検証

③過少申告や不正申告の有無の調査

 

2 提出を求められる代表的な資料

調査通知時に「提出をお願いしたい資料一覧」が提示されます。一般的には以下のような資料が該当します。

①インボイス、パッキングリスト、B/L(船荷証券)

②契約書(売買契約、委託製造契約など)

③支払明細、送金証明(TT送金書等)

④関税評価計算書・価格根拠資料

⑤原産地証明書、製造工程表(FTA関連)

⑥関連会社間の取引価格設定の社内資料

⑦会計帳簿(仕訳帳・元帳・総勘定元帳)

その他、税関から追加的にメールや社内資料の提示を求められることもあります。

 

3 任意提出であっても協力義務はある

税関調査は任意の行政調査であり、強制調査ではありませんが、調査への協力を拒否したり、資料の提出を怠った場合、好ましくない状況となる可能性があります。

そのため、合理的な範囲で協力しつつ、自社の立場を明確にし、誤解を避ける書面作成が重要です。

 

4 弁護士を介した対応のメリット

①提出範囲が妥当かを法的に精査

②誤解を防ぐための説明文の作成

③税関との交渉(口頭説明・書面やり取り)の代理

④自社に不利な主張に対する法的反論の構築

税関対応は「専門用語」「法律論」「税務知識」が複雑に絡むため、弁護士が資料整理のアドバイザーとして関与することは、実務上非常に有効です。

 

税関への資料提出は、「何でも出せばよい」というわけではありません。

提出範囲を明確に整理し、必要に応じて補足説明や弁護士の関与を通じて、誤解のない対応を行うことが、調査結果を左右する鍵となります。

当事務所では、事後調査対応の総合的サポートを行っております。事前準備や初動対応でお困りの際は、ぜひご相談ください。

 

税関事後調査の通知が届いたときにすべき初動対応

2025-07-25

ある日突然、税関から「税関事後調査実施のお知らせ」が届いた、輸入事業者にとっては緊張の走る瞬間ですが、焦って不用意に動くことが、かえってリスクを高める場合もあります。

本記事では、税関事後調査の通知を受けた際に、輸入事業者として冷静に取るべき初動対応について、実務の流れと法的観点から解説いたします。

 

1 税関からの通知内容を正確に確認する

まず最初にすべきことは、「税関からの通知文書」の内容をしっかり確認することです。
通知書には以下のような情報が記載されています。

①調査対象期間(通常は過去5年間)

②調査対象貨物(すべての輸入か、特定品目か)

③調査予定日(訪問日またはオンライン調査の日程)

④提出を求められる資料の一覧

この時点で、不明点や曖昧な記載がある場合は、税関担当官に確認を取ることが重要です。

 

2 調査対象期間のデータ・帳簿を整理する

調査では、主に以下の資料が求められます。

①インボイス、パッキングリスト、B/L、契約書

②輸入申告書(NACCS記録)、課税価格計算資料

③会計帳簿(仕訳帳、元帳など)

④関連会社間取引の価格設定根拠

⑤原産地証明書(FTA利用がある場合)

これらを調査対象期間分、迅速かつ正確に提示できる体制が求められます。

電子保存している場合は、検索性や閲覧環境の確認も行いましょう。

 

3 社内での対応体制を整える

調査は輸入部門だけの問題ではありません。調査が始まる前に、次のような体制整備を行っておくことが重要です。

①調査窓口担当者の決定(輸入実務・経理・総務などの連携)

②資料提出・回答の社内フローを明確化

③過去の申告・契約の担当者と連絡が取れる体制を構築

また、過去の修正申告や税関とのやり取りがある場合は、その経緯も事前に整理しておきましょう。

 

4 弁護士や専門家への相談を検討する

事後調査の結果、申告ミスや誤解に基づく指摘を受けることがあります。

特に、以下のようなケースでは弁護士や貿易専門家の早期関与が有効です。

①FTAの適用要件が複雑な場合

②関連会社取引での価格設定が問題になりそうな場合

③既に税関と見解が分かれている論点がある場合

④修正申告や争いの可能性がある場合

専門家が調査前から関与していることで、税関への説明も整理され、結果的に調査の円滑化・軽微な指摘に留める可能性が高まります。

 

5 してはいけない「初動対応」

①税関からの通知を無視・放置する

②不正確な資料を慌てて提出する

③調査目的を誤解し、「隠す」意識で対応してしまう

④関係部署間の連携が不十分なまま担当者任せにする

これらは、調査が長期化・深刻化する要因となるため、避けなければなりません。

 

税関事後調査は、冷静に準備し、誠実かつ適切に対応すれば、大きな問題に発展するリスクを大きく下げることができます。

通知を受けたらまずは落ち着いて、社内体制の整備と資料準備を進め、必要に応じて専門家の助言を仰ぐことが重要です。

当事務所では、調査通知への対応支援、税関との折衝サポート、修正申告や異議申立てまで幅広く対応可能です。お困りの際はお気軽にご相談ください。

税関事後調査とは?対象企業になる条件と頻度

2025-07-20

「税関から事後調査実施の通知が届いた」、「過去3年分の帳簿を提出するよう求められた」、こうした連絡を受けた輸入事業者の中には、突然のことに戸惑う方も少なくありません。

税関事後調査は、輸入ビジネスを行う企業にとって避けられないリスク管理の一環です。本記事では、税関事後調査の概要と、どのような企業が調査対象となるのか、調査の頻度や傾向について解説いたします。

 

1 税関事後調査とは何か?

税関事後調査とは、輸入申告の内容が正確であったかどうかを、輸入通関後に税関が企業を訪問して確認する調査です。

税関は、申告時点でのインボイス・契約書・価格資料の内容だけでなく、企業が保有する帳簿、会計資料、メールなどの実態をもとに申告の正確性を検証します。

調査対象となるのは、法人・個人事業主を問わず、一定の輸入実績があるすべての事業者です。

 

2 調査の目的

税関が事後調査を行う主な目的は以下のとおりです。

①関税の適正な納付状況を確認すること

②過少申告・申告漏れ・不正申告の有無を把握すること

③FTA・EPA等の原産地申告の適正性を確認すること

調査の結果、申告ミスや法令違反が判明した場合、追徴課税(関税・消費税)や加算税、場合によっては刑事処分がなされる可能性があります。

 

3 調査対象となる企業の特徴

税関は、全事業者を一律に調査するわけではなく、リスクに応じて優先度を判断しています。

以下のような特徴のある企業は調査対象となりやすいとされています。

①輸入金額が一定規模以上(年間数千万円以上)

②同種商品の申告価格が著しく安い

③HSコードが不安定、または頻繁に変更されている

④FTA・EPAの利用申告が多い

⑤過去に申告ミスや修正申告歴がある

⑥関連会社取引(移転価格)の比率が高い

また、近年はデータ分析によるスクリーニングの精度が高まっており、初めての調査でも詳細な調査が行われる傾向にあります。

 

4 調査頻度と実施の流れ

税関事後調査は、数年に一度のペースで実施されるケースが一般的です。

調査は次のような流れで進行します。

①調査実施通知書の送付(1〜2か月前)

②事前ヒアリング(調査対象期間・業務内容など)

③税関職員による訪問調査(通常1〜3日)

④追完資料の提出依頼・質疑応答

⑤調査結果通知(指摘事項と是正内容の提示)

 

5 調査対象期間とリスクの広がり

原則として、調査対象期間は過去5年間ですが、重大な不正が見つかった場合には最大7年間に遡って追徴課税されることがあります(重加算税の対象)。

また、一度の調査で問題が発覚した企業は、その後も継続的にチェック対象となる傾向があります。

 

税関事後調査は、輸入ビジネスにおける納税義務の適正性を確認する重要な行政調査です。

突然の通知に慌てないよう、日頃から帳簿や契約書の管理体制を整備しておくことが極めて重要です。

当事務所では、税関事後調査の初動対応、調査準備、対応支援、追徴課税への対応、異議申立てまで幅広く対応しております。ご不安な方は、ぜひ早めにご相談ください。

海外メーカーと輸入業者間の契約トラブル

2025-07-15

海外メーカーと取引を開始したものの、「納期が守られない」、「商品が仕様と違う」、「代金を払ったのに発送されない」といったトラブルに悩まされる輸入事業者は少なくありません。

こうした契約トラブルの多くは、契約書が存在しない、もしくは不十分な内容のまま取引を開始してしまったことに原因があります。

今回は、輸入取引における海外メーカーとの契約トラブルと、トラブルを回避・解決するためのポイントを解説いたします。

 

1 典型的な契約トラブルのパターン

以下のようなケースが特に多く発生しています。

①納期遅延:予定納期より数週間、ひどいときには数か月遅れて商品が届く

②仕様不一致:注文した仕様と異なる素材・サイズ・パッケージの製品が納入される

③数量不足・破損:インボイス上の数量と実物が一致しない。あるいは不良品が混入

④代金支払い後の音信不通:前払いを済ませたのに発送連絡がないまま連絡不能に

これらはいずれも「契約書があれば回避または解決しやすい」類型のトラブルです。

 

2 口頭・メールベースの合意の限界

日本では、「相手が信頼できる」「長年の付き合いがある」といった理由で、契約書なしでの取引が続けられることも少なくありません。

しかし、海外メーカーとの取引では法的文化や商習慣が異なり、口頭合意やメールのやり取りだけでは証拠として不十分とされる場合があります。

また、言語の壁、タイムゾーンの違い、商慣習の違いにより、トラブル発生時にスムーズな交渉ができず、解決が困難になることも多く見られます。

 

3 争いになった場合の準拠法・裁判管轄の考え方

紛争が発生した際、「どこの国の法律で」、「どこの裁判所で」争うかが重要になります。

契約書にこの点が定められていない場合、以下のような問題が生じます。

①相手国の法律が適用され、日本の法律と全く違う解釈がされる

②相手国で訴訟を起こす必要があるが、現地に弁護士もおらず対応困難

③証拠書類が現地語で作成されており、反論ができない

事前に準拠法・管轄裁判所を日本と定めておくことが、重要なリスク管理となります。

 

4 トラブル発生時の対応

①まずはメール等で冷静に事実確認・要請

②支払い記録・契約書・やり取り履歴の整理

③通信が途絶えた場合は内容証明郵便(国際郵便)や弁護士通知の検討

④国際仲裁条項がある場合は、仲裁機関に申し立て

⑤最終的には日本または相手国での訴訟提起を視野に

トラブルの初期段階から弁護士の関与によって、交渉力を強化し、実害拡大を防ぐことが可能です。

 

海外メーカーとの契約トラブルは、事前の契約内容の整備と証拠確保によって、大きくリスクを軽減することができます。

輸入ビジネスの安定化のためには、「契約書はビジネスの保険」として、法的整備を怠らないことが重要です。

輸入品が破損していた場合の法的責任と対応策

2025-07-10

海外から輸入した商品が到着したものの、一部が破損していた、または全体的に損傷していたというケースは少なくありません。

このような事態に直面したとき、輸入者として「誰に、どのように責任を求めるべきか」、「はたして損害補償は受けられるのか」といった問題に直面することになります。

そこで、本日は、輸入品の破損が発生した場合の法的整理と実務上の対応策について解説いたします。

 

1 輸入品破損の主な原因

輸入品の破損は、以下のような複数の原因が考えられます。

①輸送中の物理的衝撃・振動

②荷役作業中の事故(積み下ろしミスなど)

③梱包不良(海外メーカー側の原因)

④通関・検査時の取り扱い不備

⑤保管中の湿気・温度管理の不備

原因の特定が不明確な場合もありますが、損害の責任の所在を巡って複数の関係者(輸出者、輸送業者、保険会社等)が絡むため、法的・契約上の整理が必要です。

 

2 インコタームズによる危険負担の分担

国際取引における「インコタームズ(Incoterms)」により、商品の損傷に対する危険負担の所在が定められます。

①FOB(Free on Board):本船積込時点で買主にリスクが移転

②CIF(Cost, Insurance and Freight):保険付き、港到着時点でリスク移転

③DDP(Delivered Duty Paid):輸入者の手元に届くまで売主が責任を負う

契約書でどのインコタームズが適用されているかにより、どの時点で破損が発生したかが責任を判断する際の出発点になります。

 

3 輸送保険(貨物海上保険)の確認

多くの輸入取引では、万一の破損に備え「貨物海上保険」が付保されています。

この保険によって補償される場合、以下の手続きが必要となります。

①到着時にすぐに破損の有無を確認(写真・動画記録)

②船会社やフォワーダーに「事故報告書」提出

③保険会社に「損害証明書(サーベイレポート)」を依頼

④補償請求に必要な書類(B/L、インボイス、保険証券等)を準備

破損品を廃棄・転売する前に、保険会社の指示を受けることが重要です。

 

4 契約相手への責任追及

破損の原因が海外メーカー側(梱包不備等)にあると判断される場合、売主に対して契約上の瑕疵担保責任(契約不適合責任)、債務不履行責任を追及することを検討することになります。

交渉が難航する場合には、弁護士による通知書送付や、仲裁・訴訟手続を視野に入れる必要もあります。

 

輸入品の破損は、放置すれば大きな損失となり、トラブルの長期化にもつながります。

契約内容・保険・インコタームズなどを正確に把握し、原因ごとに適切な対応を取ることが必要です。

 

輸入通関手続における検査に時間がかかる理由とその対処法

2025-07-05

輸入通関手続においては、スムーズに終わる場合もあれば、「検査のために時間がかかる」との連絡を通関業者から受けることがあります。

予定していた納品や販売に支障が出る場合もあり、事業者にとっては頭の痛い問題です。

本日は、税関検査に時間がかかる主な理由と、輸入者として取りうる対策について解説します。

 

1 税関検査には「書類審査」と「貨物検査」がある

税関での検査は、大きく以下の2段階に分かれます。

①書類審査:インボイス、パッキングリスト、輸入申告書などの内容を確認する

②貨物検査:必要に応じて、実際にコンテナや商品を開封して中身を確認する

貨物検査が実施される場合、検査予約・開披・検査立ち会い・結果待ち等といった工程が発生し、数日から1週間以上かかることもあります。

 

2 税関検査が実施される典型的な理由

①ランダム抽出

一定割合でランダムに選ばれるもので、問題がなくても検査対象となることがあります。

②商品・価格に不審点がある

インボイス記載内容が曖昧、同種商品の平均価格より極端に安い、商品名が抽象的(例:”accessory”)など

③規制品目や過去にトラブルのあった品目

薬機法や電波法などの規制対象品目は、内容確認のため優先的に検査されやすくなります。

④過去に誤申告や違反歴がある業者

一度指摘を受けた輸入者や貨物は、リスク要注意先としてマークされる可能性があり、以後の検査頻度が上がることがあります。

 

3 検査が長引いた場合の輸入者の対応

①通関業者との密な連絡

進捗状況を逐一把握し、必要書類があれば速やかに提出

②納期への影響の社内共有・得意先への説明
遅延が予想される場合、あらかじめ取引先に説明して信頼関係を保つ

③検査立会や資料提出の準備

税関から問い合わせがあった際に即応できる体制を整えておく

 

税関検査の遅延は、輸入ビジネスにとって避けがたいリスクのひとつです。

しかし、正確な申告とリスク管理の体制を整えておくことで、検査の発生頻度を減らし、対応の効率化を図ることが可能です。

また、トラブルが発生した場合にはその都度適切な対応を取る必要がありますので、何かトラブルが発生した場合には速やかに対応を取ることができるように万一の際のシュミレーションを日常的に行うことも重要です。

当事務所では、輸入ビジネスにおける通関リスクや税関対応に関するアドバイスを行っております。事前の備えやトラブル発生時の対応について、お気軽にご相談ください。

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