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輸入販売におけるPL法リスクと回避策
海外から仕入れた商品を日本国内で販売する場合、たとえ製造していなくても、輸入者が製造物責任(PL)を問われる可能性があることをご存じでしょうか?
製造物責任法(いわゆる「PL法」)により、製造者だけでなく、輸入者や販売者にも法的責任が及ぶケースがあるため、注意が必要です。
今回は、輸入販売におけるPL法のリスクと、それに対する予防策をわかりやすく解説いたします。
1 PL法とは?
製造物責任法は、欠陥のある製品により消費者が生命・身体・財産に被害を受けた場合に、製造業者等が損害賠償責任を負うことを定めた法律です。
「過失の有無にかかわらず責任が発生する」という点が、通常の債務不履行や不法行為責任と異なる特徴です。
2 輸入者にも責任が及ぶ?
PL法第2条3号では、「製造業者等」に以下のような者が含まれると規定されています。
①製造業者・加工業者
②製造業者として商品に氏名・商号・商標等を表示した者
③輸入した製造物を業として譲渡する者
つまり、輸入販売を行う企業は、外国の製造者に代わって責任を負う立場にあるのです。
被害者から見て、「誰が製造したのか分からない」場合でも、輸入者が明確であれば、その者が製造物責任を問われます。
3 想定されるPLリスクの事例
①海外製の電化製品が発火し、火災被害が生じた
②化粧品やサプリメントで肌荒れ・アレルギー等の健康被害が出た
③ベビー用品の破損により乳児が負傷した
④誤表示・誤組立により使用中に事故が発生した
いずれも、欠陥(設計上の問題、製造ミス、警告不足等)が認定されれば、輸入者が損害賠償を請求されることになります。
4 回避策:契約で責任分担を明記する
仕入先との契約書には、以下の条項を盛り込むことでリスク移転が可能です。
①製品に欠陥があった場合の損害賠償責任の負担明記
②製造者による保険加入の義務付け
③日本国内での販売に適合する品質基準や規格遵守の確認
④製造元の情報・工程・素材等の開示義務
英語での契約書でも、PL条項(Product Liability Clause)を適切に盛り込むことで、将来的なトラブルに備えることができます。
輸入販売においては、「製造していないから責任はない」という認識は通用しません。
万一の事故に備え、契約、検査、保険、表示の4点を柱としたPLリスク管理を徹底することが、事業継続の要となります。
当事務所では、輸入販売に関する契約書チェック、PL条項の見直し、事故発生時の対応まで幅広く対応可能です。リスク管理の強化をご検討の方は、ぜひご相談ください。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。
課税価格における『無償供与』の取り扱いと加算要素
関税評価において、輸入価格(課税価格)の計算は単にインボイス金額だけでは完結しません。
特に重要な論点の一つが、輸入者が輸出者に無償または安価で提供した物品・サービス(無償供与)です。これは、関税評価において「加算要素」として申告価格に加えなければならないケースがあります。
今回は、無償供与とは何か、どのような場合に加算が必要か、具体的な実務上の取り扱いについて解説します。
1 無償供与とは?
無償供与とは、輸入者が輸出者に対して提供する以下のような物やサービスを指します。
①製造に必要な部品・材料
②金型・型枠・試作品
③設計図・技術資料
④技術指導・役務提供など
これらが無償または実費程度の対価で提供されたにもかかわらず、最終的な輸入品の価格に反映されていない場合、関税評価上の「取引価格」に加算しなければなりません。
2 なぜ加算が必要なのか?
関税評価の原則は「輸入取引における実質的な経済的価値を反映した価格」を基準にすることです。
無償供与がある場合、それを考慮しないと「安く仕入れているように見える」だけで、本来支払うべき正当な価値より低く課税されてしまうため、調整が求められるのです。
3 加算すべき典型例
①日本の輸入者が、海外工場に自社製の金型を送って製造させた
②図面や設計情報を無償提供して、その指示に従って製造が行われた
③無償提供した電子部品を組み込んだ完成品を輸入した
④技術者を海外に派遣して製造工程を管理・監修した(役務供与)
これらの「提供価値」が関税評価に含まれていなければ、税関から追徴対象とされる可能性があります。
4 評価額の算定と配分
無償供与分の加算額は、提供物・役務の実際の価額(取得価格)をベースに算定されます。
ただし、輸入品が多数にわたる場合は、個々の商品に適切に按分して評価する必要があります。
例:1,000万円の金型を使って10万個の商品を製造・輸入 → 1個あたり100円の加算
この按分方法については、税関と事前に協議・教示を受けることが推奨されます。
無償供与は見落とされやすい関税評価のリスク項目です。輸入者が意図せず申告価格を過少にしてしまい、税関からの追徴や加算税の対象になることもあります。
実際の提供価値を正しく反映させることで、適正な申告と法令遵守が実現されます。
当事務所では、無償供与の該当性判断、加算評価の方法、税関対応まで一貫して支援しております。評価に不安がある方は、ぜひお気軽にご相談ください。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。
商品の模倣品・偽物を輸入してしまった場合
海外から商品を輸入したところ、実はそれが模倣品(偽物)だった、このようなトラブルは、輸入ビジネスにおける重大なリスクのひとつです。
知らずに輸入したとしても、法的責任やブランド権利者からの差止・損害賠償請求に発展する可能性があるため、迅速かつ慎重な対応が求められます。
今回は、模倣品を輸入してしまった場合の法的整理と、現実的な対処法について解説いたします。
1 模倣品・偽物とは何か?
模倣品とは、商標権や意匠権、著作権などの知的財産権を侵害する商品を指します。
特に以下のようなケースが典型例です。
①ブランドロゴを無断使用したバッグや衣類
②キャラクター画像を印刷したグッズ
③有名メーカー品と外観・機能が酷似した家電製品
見た目が「そっくり」でも、正式なライセンスや製造許可を得ていない場合は、権利侵害と判断される可能性が高くなります。
2 税関での差止とその影響
模倣品は、税関での輸入差止の対象となります。
差止が行われると、輸入者には以下の通知が届きます。
①知的財産権侵害物品の確認通知書
②意見書・証拠資料の提出依頼(期限付き)
この段階で何も対応しない場合、商品は没収または廃棄処分となり、関税・消費税も返還されない可能性があります。
3 「知らなかった」では済まされない
輸入者が「偽物とは思わなかった」、「海外では普通に流通していた」と主張しても、法的には通用しない場合がほとんどです。
特に、以下のような状況では、過失があったとされ、損害賠償請求や刑事罰の対象となることもあります。
①著名ブランドと酷似していることが一目で分かる
②サンプル品や画像だけで大量発注した
③異常に安価な価格設定だった
4 実務上の対応フロー
模倣品疑いの通知が届いた場合は、次のように対応します。
①商品の正当性の確認
契約書、インボイス、メーカーの許諾証明などを確認・収集します。
②権利者との連絡
正規品であると主張できる場合は、ブランド権利者やライセンシーと直接連絡を取り、輸入許可や和解交渉を行います。
③税関への意見書提出
弁護士等のサポートを受け、期限内に資料と主張を整えて提出します。
④廃棄・返送の決断
正規性を証明できない場合は、商品を返送または自発的に廃棄する判断も重要です。
模倣品を輸入してしまった場合、「知らなかった」「悪気はなかった」では済まされません。
輸入者としての責任を問われる可能性があるため、初期対応の正確さと、仕入先・契約内容の慎重な管理が極めて重要です。
当事務所では、模倣品差止対応、権利者との交渉、損害対応、契約レビューなどを専門的にサポートしております。お困りの際は、お早めにご相談ください。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。
詐欺業者からの仕入れと損害回収の可否
輸入ビジネスでは、インターネットを通じて簡単に海外業者と取引ができるようになった反面、詐欺的な業者との取引による被害も増加しています。
「代金を支払ったのに商品が届かない」、「粗悪品や全く異なる商品が送られてきた」などのケースでは、損害回収が可能なのかどうかが大きな関心事となります。
今回は、詐欺的業者との輸入取引において、法的にどのような対応が可能か、そして損害回収の現実的な可能性について解説します。
1 詐欺的取引の典型例
以下のようなケースは、実務上しばしば確認される詐欺的な取引パターンです。
①海外のB2Bサイトで見つけた業者に前金を振込後、音信不通になる
②契約書を交わさず口頭やメールだけで取引開始し、商品が届かない
③正規ブランド品と信じて注文したら、粗悪な模倣品だった
④インボイスと異なる品物が届いたが、返品も交換も応じてもらえない
特に、中国・東南アジア・中東などの業者との初回取引において、このようなトラブルが多く報告されています。
2 詐欺被害に該当するかの判断基準
日本の刑法上の「詐欺罪」に該当するためには、以下の要件が必要です(刑法第246条)。
①相手方に虚偽の事実を述べさせるなどして錯誤に陥らせた
②その錯誤により財産的利益を得た(例:代金を騙し取った)
③故意(騙す意図)が認められる
ただし、民事上の「契約不履行」や「債務不履行」に該当する場合も多く、詐欺であることを立証するのは難しい場合もあるため、実務では損害賠償請求との併用が検討されます。
3 被害発生時の対応と証拠保全
被害に気づいた時点で、以下の対応を速やかに行いましょう。
①メール・チャット履歴、契約書、インボイス、支払証明書などを保存
②発送されなかった商品について、運送会社・税関への確認を行う
③海外業者との連絡内容を記録し、再交渉の試みを文書で残す
④可能であれば、現地代理人や大使館・JETRO等を通じた現地調査も検討
証拠を的確に収集しておくことが、損害回収や訴訟提起の際に極めて重要となります。
4 予防策:契約・調査・決済方法の工夫を
①契約書に管轄裁判所・準拠法・仲裁条項を必ず明記する
②初回取引では信用調査(過去実績、口コミ、JAPANブランド登録等)を行う
③決済は信用状(L/C)やエスクローサービス、後払条件などリスク分散を図る
④少額サンプル取引を経てから本格的な取引に進む
海外業者との取引で詐欺被害に遭った場合、損害回収の道は簡単ではありませんが、証拠保全と専門家の助言によって可能性を広げることはできます。
また、契約段階からのリスク管理が最大の防止策となります。
当事務所では、海外取引の契約チェック、トラブル発生時の交渉・訴訟、詐欺対応の相談まで幅広く対応しております。ご不安な点がある方は、早めにご相談ください。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。
不服申立・審査請求の手続と戦略
税関からの事後調査の結果、追徴課税や申告内容の否認などの処分を受けた場合でも、必ずしもその判断を受け入れる必要はありません。
関税法上、輸入者には「不服申立て」を行う権利が認められており、正当な理由と証拠があれば処分が取り消されることもあります。
今回は、税関の判断に対する不服申立手続と、その戦略的な活用法について解説いたします。
1 不服申立とは何か?
不服申立とは、税関の処分(追徴課税、関税評価の決定など)に対して異議を申し立て、再検討を求める制度です。
関税法に基づき、以下の2つの手続があります。
①異議申立:税関長に対して処分の見直しを求める手続。
②審査請求:財務大臣に対して再度の判断を求める行政審査手続。
なお、異議申立を経ずに直接審査請求をすることも可能です。
2 不服申立の対象となる処分例
①関税評価の否認(価格構成の加算等)
②HSコードの変更(関税率引上げ)
③原産地規則の不適用(FTA特恵税率の否認)
④過少申告加算税・重加算税の賦課
⑤ロイヤルティ・役務提供費用の加算処理
これらについて、合理的な反論が可能な場合には、不服申立によって是正が図られる可能性があります。
3 不服申立で重視されるポイント
不服申立が認められるかどうかは、主に以下の観点から判断されます。
①法令・通達・判例に照らして処分が違法であるか
②実務的な処理との整合性があるか
③具体的な事実・証拠に基づいて主張がなされているか
④税関の評価方法に合理性がないと認められるか
単なる感情的な異議ではなく、論理的・法律的に整理された主張が不可欠です。
4 実務上の戦略:専門家の活用と段階的交渉
不服申立にあたっては、弁護士を代理人とし、主張書面や資料を専門的に整備することで、審理側の印象や理解を大きく左右します。
また、次のような戦略的な対応が有効です。
①処分の前段階で税関と見解を共有し、調整・妥協の余地を探る
②不服申立書に「代替評価案」や「修正スキーム」を提示する
③必要に応じて、国税不服審判所への再審査請求、行政訴訟へのステップを見据える
事前の税関交渉と、後日の不服申立の準備を並行して進める体制が、結果に大きな差を生みます。
税関による処分に納得がいかない場合、正当な根拠があれば不服申立によって判断の見直しを求めることができます。
申立は期限や形式に厳格なルールがあり、内容も法的に精緻であることが求められるため、専門家と連携した対応が効果的です。
当事務所では、税関処分への異議申立・審査請求の書面作成・証拠整理・交渉代理まで、専門的に対応しております。判断に疑問を感じた際は、ぜひ一度ご相談ください。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。
税関事後調査における弁護士の役割
税関事後調査が入ることに決まった際、「自社だけで対応すべきか」、「専門家に依頼するべきか」と悩む企業も多いことでしょう。
実際、輸入申告内容に関する指摘や追徴課税が発生する可能性がある調査では、対応経験のある弁護士の役割が非常に重要です。
今回は、税関調査における弁護士の具体的な役割や使い分け、専門家を活用するメリットについて解説します。
1 調査対応における3つのフェーズ
税関事後調査は、大まかに次のようなフェーズに分かれます。
①通知~事前準備(書類整理・体制構築)
②調査当日の対応(税関職員との質疑応答・資料提出)
③調査後の対応(指摘事項への反論・修正申告・不服申立て)
これら各段階において、弁護士が果たす役割は少しずつ異なります。
2 弁護士の役割
弁護士は主に、法的な観点からのリスク分析と交渉・争訟対応を担います。
①関税評価やHSコード等に関する法解釈の検討
②原産地規則の解釈、FTA・EPAの適用判断
③税関職員との交渉・説明(補足意見書の作成を含む)
④修正申告内容の精査とリスクコントロール
⑤不服申立(審査請求・訴訟)の代理人業務
税関対応において、弁護士が法的な正当性を根拠づけて反論を行うことで、追徴リスクの軽減や、調査の早期収束に貢献できます。
3 税理士の役割
一方、税理士は会計・帳簿・税務処理の専門家として以下のような場面で活躍します。
①仕訳帳・会計データと申告内容の整合性確認
②移転価格・ロイヤルティ等の価格構成の確認
③調査資料の整理・提出対応
④消費税との関係整理(仕入税額控除との整合性等)
特に、輸入価格に関連する社内原価や関係会社取引の説明において、税理士の支援は非常に有効です。
4 弁護士と税理士の連携による相乗効果
税関調査の現場では、会計・税務・法務が密接に絡み合います。
たとえば、ある契約が「ロイヤルティに該当するかどうか」という論点では、契約解釈(弁護士)と金額算定(税理士)の両方の視点が必要です。
このため、弁護士と税理士が連携して対応することで、以下のようなメリットがあります。
①税関への説得力ある説明資料の作成
②調査資料の精度向上と漏れの防止
③修正申告の範囲・方法の最適化
④将来的なリスクへの法務・税務的アドバイス
5 専門家を活用すべきタイミング
次のようなケースでは、早期に専門家の関与を検討することが望ましいです。
①調査通知を初めて受けたが、対応経験がない
②関税評価やHSコードの根拠に不安がある
③FTA利用に関して複雑な条件を抱えている
④税関と見解が対立している、または指摘内容が納得できない
⑤修正申告や不服申立ての可能性がある
調査の後半になるほど対応が限定されるため、初期段階での関与がもっとも有効です。
税関事後調査は、単なる書類確認にとどまらず、輸入ビジネス全体の信頼性が問われる重要な局面です。
弁護士・税理士といった専門家のサポートを受けることで、調査対応の質を高め、不要な追徴課税やリスク拡大を防ぐことが可能となります。
当事務所では、税関対応に特化した弁護士と連携する税理士とともに、輸入事業者の皆さまを全面的にサポートしております。お気軽にご相談ください。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。
会計帳簿との整合性が問われる場面とは?
税関からの事後調査や価格申告の場面では、会計帳簿との整合性が問われることがあります。
輸入申告書に記載した課税価格と、実際の会計処理・帳簿記載内容にズレがあると、過少申告の疑いを招いたり、価格評価が否認されるリスクが高まります。
本記事では、税関が会計帳簿をチェックする理由と、整合性が問題になる典型的なケース、そして対策について解説いたします。
1 税関が帳簿を確認する目的とは?
税関は「帳簿書類等の閲覧・提出要求」を行う権限を持っています。
これにより、単に輸入申告書類(インボイスやパッキングリスト)だけでなく、次のような社内の会計帳簿・会計システム上の記録が調査対象となり得ます。
①仕訳帳・総勘定元帳
②輸入仕入台帳
③原価計算書
④月次・年次財務諸表
⑤経費精算・支払明細書 等
税関の目的は、「申告された課税価格が、企業の実態としての取引価格と一致しているか」を確認することにあります。
2 整合性が問われる典型的な場面
①インボイス価格と仕訳金額の不一致
例えば、インボイスでは1万ドルと記載されているのに、帳簿には1万2000ドルと記録されている場合、差額の説明を求められます。
②会計処理上の「後日値引き」や「リベート」
会計上では値引きや割戻しが記録されていても、申告価格に反映されていなければ、追徴課税の対象になる可能性があります。
③無償供与品や役務提供費用の見落とし
原材料や技術支援が実質的に提供されているにもかかわらず、関税評価上加算していない場合、帳簿からの指摘で問題化します。
④関連会社との価格乖離(移転価格の論点)
グループ会社間で価格が意図的に低く設定されていた場合、帳簿の記録と実際の輸入価格の不一致が重視されます。
3 整合性が崩れるとどうなるか?
税関から見て、帳簿と申告内容の整合性に問題があると判断された場合、以下のような対応が取られることがあります。
①取引価格の否認(関税評価方法の変更)
②加算要素の追徴(ロイヤルティ、役務費用等)
③過少申告加算税の課税
④継続的な監視対象(リスク先リスト入り)
つまり、帳簿のズレが「意図的な操作」と誤解される可能性があるのです。
4 整合性を保つための実務対応
①インボイスと支払記録・仕訳帳の照合をルール化
②輸入申告価格と会計処理との差異がある場合は、その理由を文書で記録
③値引き・ロイヤルティ・サービス料等は社内チェックリストに含める
④会計ソフトのコードと通関データを紐づけて管理する
⑤移転価格税制対応との整合性も検討
税関から帳簿の提出を求められたとき、即時に説明できる体制を整えておくことが、最大の防御策となります。
税関調査では、「何を申告したか」だけでなく、「申告内容が企業の帳簿と合っているか」が厳しくチェックされます。
帳簿との整合性を保つことは、輸入ビジネスの信頼性を支える基礎であり、トラブル防止に直結します。
当事務所では、会計処理と通関申告の整合性確認、税関調査時の資料提出支援、加算税対応などを総合的にサポートしています。調査対応や事前チェックでお悩みの方は、ぜひご相談ください。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。
仕入価格と申告価格の乖離が問題視される理由
輸入ビジネスにおいて、商品の仕入価格と税関への申告価格が異なることは実際問題として珍しくありません。
しかし、この「乖離」があると、税関から「過少申告ではないか」、「正しい関税評価がなされていないのではないか」と疑念を持たれ、税関調査の対象や追徴課税の原因となるおそれがあります。
本記事では、仕入価格と申告価格の乖離がなぜ問題になるのか、その法的根拠と実務上のリスク、対策について解説します。
1 関税評価の基本ルールとは?
関税評価とは、関税を課す基礎となる価格(=課税価格)を算定する手続です。
原則として輸入取引で実際に支払ったまたは支払うべき価格が課税価格の基本となります(いわゆる現実支払価格)。
ただし、その取引価格に「加算すべき要素(ロイヤルティ、無償供与部材など)」がある場合には、それらも含めて関税評価されることになります。
2 「仕入価格」と「申告価格」が一致しない原因とは?
実務上、両者が乖離する原因にはいくつかのパターンがあります。
①複数のインボイスが存在する(プロフォーマと商業インボイス)
②値引きやリベートが実際に存在するが、申告価格に反映されていない
③輸送費・保険料等が申告に含まれていない
④サンプル品・無償品を有償価格と一緒に申告している
⑤グループ企業間で取引価格が調整されている
これらは意図的な不正でなくても、税関にとっては「価格の妥当性に疑義がある」対象として調査の引き金になるのです。
3 税関が問題視するポイント
税関は以下のような観点から乖離をチェックします。
①同種・類似品と比べて著しく価格が低い
②系列会社・関連会社間取引で価格調整が疑われる
③価格変更の理由が不明確
④過去の申告価格と継続性がない(急に下がっている)
こうした事案では、関税評価ルールに基づき「取引価格以外の方法(類似価格法、再販売価格法等)」により再評価され、追徴課税が行われる可能性があります。
4 問題を防ぐための社内チェックポイント
以下のような対策が、税関調査での指摘リスクを軽減します。
①インボイス・契約書と実際の送金額の整合性確認
②ロイヤルティや役務提供費用が含まれていないかのチェック
③同種品目の価格一覧の整備(平均単価管理)
④関連会社取引については移転価格文書の整備も検討
⑤変更があった場合は理由や経緯を記録・説明できるように
「なぜこの価格で輸入しているのか?」という説明責任を果たせる資料の準備が鍵になります。
仕入価格と申告価格が乖離していると、税関から不適正な申告と疑われ、調査や追徴課税のリスクが高まります。
申告価格の妥当性を支える証拠を日頃から整備し、取引の透明性を確保することが重要です。
当事務所では、価格評価リスクの診断、税関との交渉、修正申告や異議申立てまで、専門的に対応しております。価格関連で不安をお持ちの方は、お気軽にご相談ください。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。
過少申告加算税と重加算税の違いと防止策
税関からの調査の結果、追徴課税が発生した際、多くの輸入者が驚くのが「関税とは別に加算税も課される」という点です。
加算税は、輸入申告の誤りに対して課される追加的な税金であり、悪質性の有無によりその税率や評価が大きく変わります。
今回は、「過少申告加算税」と「重加算税」の違いと、それらを防ぐために企業として講じるべき対策について解説いたします。
1 加算税とは何か?
加算税とは、関税法上の申告ミスに対して科される行政的なペナルティであり、主に以下の2種類が存在します。
①過少申告加算税(10%):単なるミスや過失によって課税価格等が低く申告されていた場合
②重加算税(35%):意図的に虚偽申告や隠蔽を行ったとされる場合
いずれも、関税・消費税に加えて課税されるため、事実上の「追徴金額」はかなりの金額に膨らむ可能性があります。
2 過少申告加算税の適用場面
過少申告加算税は、以下のような「過失に基づく誤り」が典型例です。
①HSコードの誤適用(類似品と取り違えた)
②インボイス価格の入力ミス
③原産地証明書の形式不備
④複雑な関税評価方法の理解不足による申告ミス
申告内容に明確な虚偽や隠蔽の意図がない場合でも、「結果的に関税が不足していた」として加算税の対象となります。
3 重加算税の適用場面
重加算税は、より重大な違反があった場合に適用されます。具体的には、
①故意にインボイス価格を低く改ざん
②複数のインボイスを使い分けて虚偽申告(いわゆる「二重価格」)
③本来の原産地を偽って関税を免れようとした
④税関調査時に帳簿や資料を隠蔽、破棄した
これらの行為は、税関側から「隠蔽または仮装行為」と認定され、通常よりも厳しい税率(35%)が課されるほか、刑事告発の可能性も生じます。
4 防止策:社内体制と申告チェックの強化
加算税を回避・軽減するためには、日頃から以下のような取り組みが有効です。
①商品ごとのHSコードと関税率の社内台帳整備
②原産地・インボイスの内容と申告価格の照合ルール化
③輸入部門と経理部門の連携強化
④定期的な専門家(弁護士・通関士)によるレビュー
⑤税関からの照会に対する速やかな対応
特に、重大な問題になる前に自主的な修正申告を検討することも非常に重要です。
過少申告加算税と重加算税は、どちらも企業にとって大きな経済的・信用的ダメージとなります。
ただし、その発生には明確な違いがあり、適切な社内管理と早期対応によって、十分に防止・軽減が可能です。
当事務所では、申告ミスのリスク診断、加算税対応、修正申告支援、不服申立てなどを一貫してサポートしております。税関からの指摘や加算税の通知にお困りの際は、ぜひ早めにご相談ください。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。
税関事後調査の際の資料提出~どこまで準備する必要があるか?
税関事後調査では、申告の正確性を確認するために、多くの資料提出が求められます。
しかし、輸入事業者からすると「どこまで出す必要があるのか」、「資料を準備するには非常に手間があるので出来るだけ手間を省きたいが」といった不安も少なくありません。
今回は、税関に対する資料提出の範囲と対応上の注意点について、実務と法的視点の両面から解説いたします。
1 資料提出の根拠と調査の目的
税関は事後調査の一環として輸入者に対し、輸入に関係する帳簿・書類等の提出を求めることができます。
提出を求められるのは、輸入申告に用いた資料だけでなく、価格設定・原産地・契約関係に関する社内資料等も含まれる場合があります。
税関の目的は、主に以下の3点です。
①適正な関税額が申告・納付されているかの確認
②原産地申告(FTA・EPA利用含む)の正確性の検証
③過少申告や不正申告の有無の調査
2 提出を求められる代表的な資料
調査通知時に「提出をお願いしたい資料一覧」が提示されます。一般的には以下のような資料が該当します。
①インボイス、パッキングリスト、B/L(船荷証券)
②契約書(売買契約、委託製造契約など)
③支払明細、送金証明(TT送金書等)
④関税評価計算書・価格根拠資料
⑤原産地証明書、製造工程表(FTA関連)
⑥関連会社間の取引価格設定の社内資料
⑦会計帳簿(仕訳帳・元帳・総勘定元帳)
その他、税関から追加的にメールや社内資料の提示を求められることもあります。
3 任意提出であっても協力義務はある
税関調査は任意の行政調査であり、強制調査ではありませんが、調査への協力を拒否したり、資料の提出を怠った場合、好ましくない状況となる可能性があります。
そのため、合理的な範囲で協力しつつ、自社の立場を明確にし、誤解を避ける書面作成が重要です。
4 弁護士を介した対応のメリット
①提出範囲が妥当かを法的に精査
②誤解を防ぐための説明文の作成
③税関との交渉(口頭説明・書面やり取り)の代理
④自社に不利な主張に対する法的反論の構築
税関対応は「専門用語」「法律論」「税務知識」が複雑に絡むため、弁護士が資料整理のアドバイザーとして関与することは、実務上非常に有効です。
税関への資料提出は、「何でも出せばよい」というわけではありません。
提出範囲を明確に整理し、必要に応じて補足説明や弁護士の関与を通じて、誤解のない対応を行うことが、調査結果を左右する鍵となります。
当事務所では、事後調査対応の総合的サポートを行っております。事前準備や初動対応でお困りの際は、ぜひご相談ください。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。