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はじめに:仮の相談者から寄せられた相談事例のご紹介
本日は、輸入実務において最も盲点となりやすく、かつ税関の事後調査において巨額の追徴課税の引き金となる「ロイヤルティ(権利使用料)の加算申告漏れ」について、その法的構造から実務的な防衛策までを網羅的に解説いたします。まずは、当事務所に実際に寄せられる相談内容を模した、以下の架空事例をご覧ください。輸入価格とロイヤルティ支払いを切り離して考えていたことが、いかに法的な落とし穴となるかを理解する重要な一助となります。
【相談者】
東京都内で海外ブランドのアパレル製品および雑貨の輸入販売を行うC社 物流管理部長 D氏
【相談内容】
「当社は、フランスの有名ブランドE社とライセンス契約を締結し、E社が指定するベトナムの縫製工場から商品を継続的に輸入しております。輸入申告価格は、ベトナムの工場に支払う商品の実単価に基づいて行ってきました。一方で、ブランド使用料であるロイヤルティについては、日本国内での販売数量に応じて、四半期ごとにフランスのE社へ直接送金しております。これはあくまで国内販売活動に伴う費用であり、輸入時の貨物代金とは別物であると認識しておりました。しかし、先日の税関事後調査において、このロイヤルティは関税定率法に基づき課税価格に加算すべき要素であると指摘されました。過去三年分に遡ってロイヤルティ総額に対する関税および消費税、さらには過少申告加算税の納付を求められ、その総額は一億円を超えております。契約書の表現一つで加算の是非が決まると言われましたが、具体的にどのような対策を講じるべきだったのでしょうか」
このような事例は、知的財産権が複雑に絡み合う現代の国際取引において、極めて頻繁に発生いたします。「販売後の利益から支払うのだから関税は無関係」という思い込みは、関税評価の法理から見れば非常に危険な誤解です。本日は、ロイヤルティがなぜ関税の対象となるのか、そしてそのリスクを回避するために契約書にどのような配慮が必要かを解説いたします。
1 ロイヤルティが課税価格に含まれる法的根拠とその構成要素
輸入貨物の関税を計算する基礎となる「課税価格」は、輸入者が売手に対して支払うインボイス価格(貨物の対価)だけで決まるものではありません。関税定率法第四条は、取引価格を基礎として課税価格を決定する際、特定の費用が含まれていない場合には、これを加算しなければならないと定めています。
「輸入貨物に関連して買手により直接又は間接に支払われる特許権、意匠権、商標権その他これらに類する権利であって政令で定めるものの使用の対価(当該輸入貨物を国内において複製する権利の対価を除く。)のうち、当該輸入貨物の販売の条件として買手により直接又は間接に支払われるもの」
この条文に基づき、ロイヤルティが加算対象となるためには、以下の二つの要件を同時に満たす必要があります。第一に「輸入貨物に関連していること」、第二に「当該輸入貨物の販売の条件として支払われること」です。これらは、関税定率法基本通達4-13(使用料等の取扱い)において、さらに詳細な判断基準が示されています。実務上、多くの企業がこの二つの要件、特に「販売の条件」の解釈を見誤ることで、巨額の申告漏れを指摘されることになります。
2 「輸入貨物に関連している」か否かの判断基準
関連性の判断は、その権利が輸入貨物の製造、意匠、あるいは販売においてどの程度不可欠であるかによって決まります。例えば、輸入されるTシャツにブランドロゴが付されている場合、そのロゴを使用するための商標権料は、明らかに貨物に関連しています。また、輸入される精密機械に特定の特許技術が組み込まれている場合、その特許使用料も関連性を有します。一方で、輸入後に日本国内で行う「製造プロセス」に関する技術料や、国内でのみ使用されるシステムへのアクセス料などは、輸入時の貨物そのものには関連しないと判断される余地があります。しかし、税関は実質的な中身を重視するため、名目が「経営指導料」であっても、その実態が輸入貨物の意匠や商標の対価であれば、関連性ありとみなされます。
3 「販売の条件」という最大の争点
D氏の事例において最も重要なのが、この「販売の条件」です。これは、買手がロイヤルティを支払わなければ、売手がその貨物を販売してくれない、あるいは輸入者が貨物を入手できないという関係にあることを指します。売手(製造工場)と権利者(ライセンサー)が別法人であっても、両者の間に密接な関係がある場合や、ライセンス契約において「ロイヤルティを支払わない場合は商品の供給を停止する」旨の条項がある場合は、販売の条件に該当すると判断されます。税関は、ライセンス契約書と売買契約書の両方を精査し、ロイヤルティの不払いが輸入取引の継続にどのように影響するかを執拗に確認いたします。
4 契約書の表現が関税評価に与える影響とリスク分析
ライセンス契約書における特定の文言は、税関が「販売の条件」に該当するかどうかを判断する決定的な証拠となります。以下の表に、リスクが高い表現と、リスクを低減できる可能性がある表現を整理いたしました。
┌──────────────────────────────────────┐
│ 契約書の文言による関税評価リスクの比較対照表 │
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│比較項目 │リスクが高い表現(加算の蓋然性高) │リスクが低い表現の例 │
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│支払の前提条件│本契約上の支払が履行されない場合、 │本契約は輸入後の国内販│
│ │商品の製造及び出荷を停止する。 │売活動のみを対象とする。│
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│製造者の指定 │ライセンサーが指定する工場以外から │ライセンシーは製造者を│
│ │の輸入は一切認めない。 │自由に選択できる。 │
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│ロイヤルティの│輸入価格(CIF価格)に一定率を │国内における純利益額を│
│算出根拠 │乗じて算出する。 │基準として算出する。 │
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│権利の性質 │商品の製造に必要なノウハウ及び │商品の輸入後に行う二次│
│ │商標の一体的な使用許諾。 │的広告・販促のみの対価。│
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B氏の事例では、ライセンス契約書の中に「ロイヤルティの支払いが遅延した場合、ライセンサーは製造委託先への製造承認を取り消すことができる」という条項が含まれていました。これが、ロイヤルティの支払いが「輸入のための不可欠な条件」であると認定される直接的な原因となったのです。
5 加算額の計算方法と按分実務
ロイヤルティが加算対象となる場合でも、支払総額のすべてを加算しなければならないとは限りません。一つの契約の中に、加算対象となる「貨物関連の権利」と、加算対象外となる「国内活動(広告宣伝、経営指導、複製権等)」が含まれている場合、その対価を客観的な証拠に基づいて区分(按分)することが認められています。
(関税定率法施行令第一条の四 権利使用料の額の算出方法)
この施行令では、輸入貨物に関連する部分とそうでない部分が混在する場合の計算方法が定められています。しかし、実務上は契約書において一括して「売上の十パーセント」などと定められていることが多く、区分が困難な場合には、税関から全額加算を求められるのが通例です。これを防ぐためには、契約の段階で「商標権料として五パーセント、国内マーケティング指導料として五パーセント」といった形で明確に内訳を規定し、それぞれの業務実態を証明する資料を保存しておく必要があります。
6 「これまで指摘されなかった」が通用しない事後調査の厳しさ
多くの企業が、「過去数年の事後調査では何も言われなかった」あるいは「税関はインボイスを毎回確認しているはずだ」と主張されます。しかし、輸入許可時の審査と、数年に一度の事後調査では、審査の深さが全く異なります。
(一)形式審査と実質審査のギャップ
輸入時の通関審査は、主に貨物の分類(HSコード)や他法令の規制確認に重点が置かれ、ライセンス契約書の中身まで詳細に確認されることは稀です。これに対し、事後調査では、専門の調査官が数日間にわたって企業の経理帳簿、海外送金履歴、そして各種契約書を徹底的に精査いたします。そこで初めてロイヤルティの支払いが発覚し、数年分の申告漏れが一挙に指摘されるという構図です。
(二)自己責任原則と信顧の原則
関税法は申告納税方式を採用しており、適正な申告を行う責任は一義的に輸入者にあります。過去に税関が見逃していたという事実は、法的に「現在の申告が正しい」ことを保障するものではありません。D氏のケースでも、この「自己責任原則」により、過失があったとみなされ、多額の付帯税が課される結果となりました。
7 事後調査で課されるペナルティの法的構造
申告漏れが指摘された場合、納付すべきは不足していた関税と消費税だけではありません。以下のような重い付帯税が課されます。
一 過少申告加算税(関税法第十二条の二):不足税額の十パーセント(または十五パーセント)。
二 重加算税(関税法第十二条の三):事実を隠蔽または仮装したと判断された場合、三十五パーセントから四十パーセント。
三 延滞税(関税法第十二条):本来の納期限からの日数に応じて年利換算で計算される利息的性質の税。
特に、ロイヤルティの支払いは多額かつ継続的であるため、数年分の不足税額にこれらの付帯税が加わると、企業のキャッシュフローに甚大なダメージを与えます。場合によっては、金融機関からの格付けに影響を及ぼし、事業継続そのものが危ぶまれる事態にもなりかねません。
8 ロイヤルティ加算トラブルを未然に防ぐための三つの具体的対策
このようなリスクを管理し、健全な貿易実務を継続するためには、以下の三つのアクションが不可欠です。
(一)評価申告制度(包括評価申告)の活用
ロイヤルティのように、輸入時点で金額が確定しない、あるいは加算の是非が複雑な要素については、事前に税関に対して「包括評価申告」を行うことができます。あらかじめ計算方法を税関に届け出て承認を得ておくことで、事後調査での不意の指摘を回避し、納税額の予見可能性を高めることが可能です。
(二)事前教示制度の利用
具体的な契約書案を税関に提示し、加算の対象になるかどうかの公式な見解を求める制度です。書面による回答を得ていれば、原則として税関はその回答に拘束されるため、将来の追徴リスクに対する強力な保険となります。
(三)ICP(輸入コンプライアンス・プログラム)の整備
物流部門だけでなく、経理部門と法務部門が連携し、海外へのすべての支払いが輸入申告に適切に反映されているかを定期的にチェックする体制を構築してください。特に、新しいライセンス契約を締結する際には、必ず関税評価の視点でのリーガルチェックを通すルール作りが重要です。
9 専門家による高度な法的サポートの重要性
関税評価は、税理士が扱う内国税の知識だけでは対応できません。また、一般的な通関業者は「言われた通りの金額で申告する」のが基本であり、契約書に潜む法的な加算リスクを自発的に指摘してくれることは稀です。当事務所は、関税法に精通した弁護士が、企業の契約実務と通関実務の橋渡しを行い、最適な解決策を提示いたします。
【当事務所の支援内容一覧表】
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│ 当事務所が提供する関税法務ソリューション │
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│契約書レビュー│ライセンス契約における加算リスク文言の特定と修正案の提示 │
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│事後調査対応 │税関調査当日の立ち会い、当局との法的見解の調整、主張書面作成│
├───────┼──────────────────────────────┤
│不服申立て │不当な更正処分に対する再調査の請求、審査請求の代理 │
├───────┼──────────────────────────────┤
│包括評価申告 │煩雑な包括評価申告書の作成代行および税関窓口との折衝 │
├───────┼──────────────────────────────┤
│社内研修 │購買・経理・物流部門を対象とした関税評価リスク管理セミナー │
└───────┴──────────────────────────────┘
最後に、ロイヤルティの関税評価は、一度トラブルになるとその修正には多大な労力とコストを要します。しかし、契約締結前のわずかな配慮と、法令に基づいた適切な申告手続きを行うだけで、そのリスクの大部分はコントロール可能です。
「この支払いは本当に関税に関係ないのか」という疑問を常に持ち、専門家の知見を活用することが、グローバルビジネスを成功させるための鍵となります。
D氏のような苦い経験をしないためにも、貴社の現状の契約内容や申告体制に少しでも不安がある場合は、早急に専門家への相談を検討されることを強くお勧めいたします。
当事務所は、関税法務のスペシャリストとして、貴社の適正な貿易実務を全力でサポートし、不測の税務リスクから企業価値を守り抜くことをお約束いたします。
正確な知識に基づいた健全なコンプライアンス体制こそが、国際競争力を高める真の土台となります。
本稿が、貴社のグローバル展開における一助となれば幸いです。
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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら)
(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定
本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。

