ある日突然、税関から「税関事後調査実施のお知らせ」が届いた、輸入事業者にとっては緊張の走る瞬間ですが、焦って不用意に動くことが、かえってリスクを高める場合もあります。
本記事では、税関事後調査の通知を受けた際に、輸入事業者として冷静に取るべき初動対応について、実務の流れと法的観点から解説いたします。
このページの目次
1 税関からの通知内容を正確に確認する
まず最初にすべきことは、「税関からの通知文書」の内容をしっかり確認することです。
通知書には以下のような情報が記載されています。
①調査対象期間(通常は過去5年間)
②調査対象貨物(すべての輸入か、特定品目か)
③調査予定日(訪問日またはオンライン調査の日程)
④提出を求められる資料の一覧
この時点で、不明点や曖昧な記載がある場合は、税関担当官に確認を取ることが重要です。
2 調査対象期間のデータ・帳簿を整理する
調査では、主に以下の資料が求められます。
①インボイス、パッキングリスト、B/L、契約書
②輸入申告書(NACCS記録)、課税価格計算資料
③会計帳簿(仕訳帳、元帳など)
④関連会社間取引の価格設定根拠
⑤原産地証明書(FTA利用がある場合)
これらを調査対象期間分、迅速かつ正確に提示できる体制が求められます。
電子保存している場合は、検索性や閲覧環境の確認も行いましょう。
3 社内での対応体制を整える
調査は輸入部門だけの問題ではありません。調査が始まる前に、次のような体制整備を行っておくことが重要です。
①調査窓口担当者の決定(輸入実務・経理・総務などの連携)
②資料提出・回答の社内フローを明確化
③過去の申告・契約の担当者と連絡が取れる体制を構築
また、過去の修正申告や税関とのやり取りがある場合は、その経緯も事前に整理しておきましょう。
4 弁護士や専門家への相談を検討する
事後調査の結果、申告ミスや誤解に基づく指摘を受けることがあります。
特に、以下のようなケースでは弁護士や貿易専門家の早期関与が有効です。
①FTAの適用要件が複雑な場合
②関連会社取引での価格設定が問題になりそうな場合
③既に税関と見解が分かれている論点がある場合
④修正申告や争いの可能性がある場合
専門家が調査前から関与していることで、税関への説明も整理され、結果的に調査の円滑化・軽微な指摘に留める可能性が高まります。
5 してはいけない「初動対応」
①税関からの通知を無視・放置する
②不正確な資料を慌てて提出する
③調査目的を誤解し、「隠す」意識で対応してしまう
④関係部署間の連携が不十分なまま担当者任せにする
これらは、調査が長期化・深刻化する要因となるため、避けなければなりません。
税関事後調査は、冷静に準備し、誠実かつ適切に対応すれば、大きな問題に発展するリスクを大きく下げることができます。
通知を受けたらまずは落ち着いて、社内体制の整備と資料準備を進め、必要に応じて専門家の助言を仰ぐことが重要です。
当事務所では、調査通知への対応支援、税関との折衝サポート、修正申告や異議申立てまで幅広く対応可能です。お困りの際はお気軽にご相談ください。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。