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はじめに:仮の相談者から寄せられた相談事例のご紹介
本日は、輸入実務において頻繁に発生し、かつ解決が困難になりがちな「輸入品の破損」に関する法的処理と、実務的なクレーム対応について詳述いたします。まずは、当事務所に実際に寄せられる相談内容を模した、以下の架空事例をご覧ください。国際物流の複雑さと、証拠収集の重要性を理解する上で非常に示唆に富む内容となっております。
【相談者】
神奈川県内でヨーロッパ製高級陶磁器の輸入卸売業を営むA社 代表取締役 B氏
【相談内容】
「当社はこの度、ドイツの著名な工房から一点数十万円もする花瓶や食器セットを約五百点仕入れ、コンテナで輸入いたしました。取引条件はFOBハンブルク港であり、輸送中のリスクに備えて貨物海上保険(オール・リスク条件)にも加入しておりました。ところが、横浜港の倉庫でコンテナを開封したところ、全体の三割にあたる製品が木っ端微塵に砕けていたり、亀裂が入っていたりしたのです。梱包に使用されていた緩衝材は十分とは言えず、また輸送中の揺れが激しかった可能性も考えられます。B氏は直ちにドイツの輸出者へ再送を求めましたが、『本船に積み込むまでは無傷だった。FOB条件なのだから、それ以降の損害は輸入者の責任だ』と突っぱねられました。一方で、保険会社からは『梱包不良による破損は免責事由に該当する可能性があるため、即座に支払いはできない。まずは輸送業者(船会社)の責任を追及せよ』と言われ、責任の押し付け合いになっています。B氏は、誰に対して、どのような法的根拠を持って損害賠償を請求すべきなのか、専門的な見地からの詳細な解説を求めています」
このような事例は、輸入ビジネスにおいて避けては通れない重大な経営リスクです。海外から輸入した商品が到着したものの、一部が破損していた、または全体的に損傷していたというケースは少なくありません。このような事態に直面したとき、輸入者として「誰に、どのように責任を求めるべきか」、「はたして損害補償は受けられるのか」といった問題に直面することになります。本日は、輸入品の破損が発生した場合の法的整理と実務上の対応策について、関連法令の条文を交えながら解説いたします。
1 輸入品破損の原因究明と法的責任の発生根拠
輸入品の破損は、単一の原因ではなく、複数の要因が複雑に絡み合って発生することが一般的です。主な原因としては、輸送中の物理的衝撃、荷役作業中の事故、梱包不良、通関検査時の不適切な取り扱い、保管中の環境不備などが挙げられます。法的には、これらの原因がどの段階で発生したかにより、責任を追及すべき相手が異なります。
(一)輸出者(売主)の責任
梱包が国際輸送に耐えうる強度を持っていなかった場合、売主の「契約不適合責任」が問われます。
(国際物品売買契約に関する国際連合条約(CISG)第三十五条)
1 売主は、契約に定める数量、品質及び種類に適合し、かつ、契約に定める方法で容器に入れられ又は包装された物品を引き渡さなければならない。
(中略)
2(d) 物品は、その物品を保持し及び保護するために通常の方法で、又は通常の方法がない場合にはその物品を保持し及び保護するのに適した方法で、容器に入れられ又は包装されていること。
日本とドイツは共にCISGの締約国であるため、B氏の事例では、この条文に基づき「不適切な梱包」が契約違反であることを主張する道が開かれます。
(二)運送人(船会社・フォワーダー)の責任
輸送中の事故や不適切な積付けに起因する場合、運送人の債務不履行責任が問題となります。
運送人は、自己又はその使用する者が運送品の受取、船積み、積付け、運送、保管、揚出し及び引渡しにつき注意を怠ったことにより生じた運送品の滅失、損傷又は延着について、賠償の責任を負う。
ただし、国際条約(ヘーグ・ビスビー・ルールズ)に基づき、運送人の責任には「パッケージ・リミテーション(責任限度額)」が設けられていることが多く、全額の補償を受けるのが難しい場合がある点に留意が必要です。
2 インコタームズによる危険負担の移転時期と法的整理
国際取引における「インコタームズ(Incoterms)」は、単なる費用の分担だけでなく、商品の損傷に対する「危険負担(Risk)」がいつ売主から買主に移転するかを定めるものです。
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主要インコタームズにおける危険負担の移転ポイント比較表
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条件名|正式名称|危険負担の移転時期|破損時の基本的な考え方
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EXW|工場渡し|売主の施設で買主に提供時|輸送中の全リスクを買主が負う
FOB|本船甲板渡し|輸出港で船に積み込まれた時|積込後の事故は買主の責任
CIF|運賃保険料込み|輸出港で船に積み込まれた時|積込後の事故は買主の責任だが保険が付保される
CPT|輸送費込み|最初の運送人に引き渡した時|引渡後の事故は買主の責任
DAP|仕向地持込渡し|指定された輸入地で提供時|輸入地到着までのリスクを売主が負う
DDP|関税込持込渡し|輸入者の施設等で提供時|輸入者の手元に届くまでの全リスクを売主が負う
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B氏の事例のようにFOB条件の場合、船の欄干(レール)を貨物が通過した時点でリスクは買主に移転いたします。したがって、輸送中の揺れによる破損であれば、原則としてB氏(買主)が損害を被ることになりますが、その破損の原因が「積込前の不適切な梱包」にあるならば、遡って売主の責任を追及することが可能となります。
3 貨物海上保険の活用と保険金請求の実務
輸送中の破損に備えて加入する「貨物海上保険」は、輸入者にとって最大の防御策となります。しかし、保険会社から確実に支払いを受けるためには、厳格な手続きと証拠の提示が求められます。
(一)保険条件の確認
最も広範な補償を受けられる「ICC(A)」条件(いわゆるオール・リスク)であっても、免責事由が存在いたします。
(貨物海上保険約款における主な免責事由)
一 被保険者の故意または重過失
二 貨物の固有の瑕疵または性質
三 梱包の不完全または不適当
四 航海、輸送の遅延
B氏の事例で保険会社が支払いを渋っているのは、第三号の「梱包の不完全」に該当する可能性があるからです。これを覆すためには、梱包が国際基準を満たしていたことを証明するか、あるいは輸送中に通常では考えられない異常なG(衝撃)が加わったことを証明しなければなりません。
(二)事故発生時の実務フロー
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輸入品破損発見時の緊急対応フローチャート
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ステップ一:現状保存と記録
コンテナ開封時から破損箇所、梱包状態を写真・動画で多角的に撮影する
ステップ二:異常通知(Notice of Claim)の送付
船会社やフォワーダーに対し、即座に「荷抜き・破損通知」を書面で送付する
ステップ三:保険会社への事故報告
保険証券番号を伝え、クレームの受付を行う
ステップ四:サーベイヤー(損害鑑定人)の立会依頼
高額な損害の場合、独立した鑑定人を呼び、客観的な「サーベイレポート」を作成させる
ステップ五:関係書類の収集
B/L(船荷証券)、インボイス、パッキングリスト、保険証券、事故報告書を揃える
ステップ六:代位権の行使への協力
保険金受領後、保険会社が運送人へ求償するための権利移転手続きに協力する
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4 運送人に対する損害賠償請求の法的限界
海上輸送の場合、日本の商法や国際条約に基づき、運送人の責任は大幅に制限されています。
運送人の責任は、受取人が異議をとどめないで運送品を受け取ったときは、消滅する。ただし、運送品に直ちに発見することができない損傷又は一部滅失があった場合において、引渡しの日から二週間以内に運送人に対してその通知を発したときは、この限りでない。
この「二週間以内」という期間は極めて短いため、到着時の検品が遅れると、法的な賠償請求権自体を失う恐れがあります。また、責任限度額についても、一包あたり一定の金額(例えば一箱あたり六六六.六七SDR等)に制限されるため、B氏の高級陶磁器のような高額品の場合、実損の数パーセントしか補償されないという事態も起こり得ます。
5 海外メーカー(売主)への責任追及と国際商事仲裁
保険も運送人も免責となった場合、最終的には売主との直接交渉になります。
(一)契約不適合責任の追及
前述のCISGに基づき、代金減額請求、代替品交付請求、あるいは損害賠償請求を行います。B氏の事例では、梱包の仕様書や過去の無事な到着実績と比較し、今回の梱包が「通常期待される水準」を下回っていたことを論理的に主張する必要があります。
(二)準拠法と裁判管轄の壁
売買契約書において「準拠法(どこの国の法律を適用するか)」および「紛争解決条項(どこの裁判所を使うか)」がどのように定められているかが決定的に重要です。ドイツの裁判所での訴訟となれば、多大な費用と時間がかかります。そのため、当事務所では、機動性の高い「国際商事仲裁(JCAAなど)」の利用や、弁護士による英文警告書の送付による示談交渉を推奨しております。
6 輸入ビジネスにおける他法令と破損貨物の取り扱い
破損した貨物であっても、それが「輸入」された事実に変わりはなく、関税法上の問題が生じます。
(一)関税の還付・減免
輸入許可後に破損が判明した場合、あるいは輸入許可前に破損していたことが判明した場合、関税の払い戻しを受けられる可能性があります。
輸入申告後、輸入許可前に災害等により損傷した貨物については、その価値の減少分に応じて関税を軽減することができる。
(二)廃棄処分の手続き
使い物にならない破損品を国内で廃棄する場合、税関の承認を得て廃棄しなければ、勝手に処分したとして関税法違反を問われるリスクがあります。
適正な通関こそが、グローバルビジネスを安定させる唯一の道です。
7 専門家による法的サポートの重要性と当事務所の役割
輸入品の破損トラブルは、物流、保険、売買契約、そして各国特有の法律が複雑に交差する難問です。輸入者が独力で海外メーカーや大手損害保険会社、船会社と渡り合うのは極めて困難です。当事務所は、代表弁護士が輸出入や通関に関する唯一の国家資格である通関士資格を併せ持っており、法務と実務の両面から強力なサポートを提供することが可能です。
【当事務所が提供できる主な支援内容】
一 インコタームズおよびCISGに基づいた、責任の所在に関する精緻な法的鑑定。
二 保険会社に対する保険金支払い交渉、および免責事由への法的な反論。
三 船会社、フォワーダーに対する事故通知書(Notice of Claim)の作成代行。
四 海外メーカーに対する英文での損害賠償請求、および代替品要求の代理交渉。
五 関税の減免申請や、破損貨物の適正な廃棄手続きに関する税関へのアドバイス。
六 将来のトラブルを未然に防ぐための、国際売買契約書のリーガルチェックおよび修正。
弁護士でありながら通関実務の深い知見を持つことで、単なる法令の解釈に留まらず、物流現場でどのような証拠(写真、温度記録、サーベイレポート等)が決定的な意味を持つかを熟知しております。
8 まとめ:適正なリスク管理こそがビジネスの安定を支える
本日は、輸入品の破損という予期せぬトラブルに際し、輸入者が取るべき法的手段と実務的な備えについて解説いたしました。B氏のようなケースであっても、当初から梱包基準を契約で明確にし、到着直後の証拠収集を徹底し、専門家を介して論理的なクレームを展開していれば、損失を最小限に抑えることが可能でした。
企業としては、輸入する貨物の内容や取引相手に支払う代金のみを気にしておけばよく、それ以外の手続面のことはほとんど気にしていない場合も多いものと思われます。しかしながら、このような姿勢には大きなリスクがあると言わざるを得ません。通関手続きや貨物の運送などの手続き面について、専門家に任せることは非常に有用ですが、企業としてもそれらの点について最低限の知識を持ち、各手続において重要な点については逐一確認をとる等の対応が必要です。
正しい法令知識に基づき、一つひとつの取引を精査すること。その地道な努力が、貴社のグローバルビジネスを安定させ、不測の事態から会社を守ることに繋がります。当事務所は、貴社の良きパートナーとして、その専門性を最大限に発揮して、安定した海外展開や新規事業の立ち上げをサポートし続けます。適正な通関こそが、グローバルビジネスを安定させる唯一の道です。
【お問合せは、こちらから】
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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら)
(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定
本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。

