ワシントン条約の概要と注意点

はじめに:仮の相談者から寄せられた相談事例のご紹介

本日は、グローバルなビジネス展開において見落としがちな、絶滅のおそれのある動植物やその製品の取扱い、いわゆるワシントン条約(CITES)に基づく輸出規制について詳しく解説いたします。まずは、当事務所に実際に寄せられる相談内容を模した、以下の架空事例をご覧ください。環境保護への意識が高まる現代において、意図せぬ法令違反を防ぐための重要な示唆が含まれています。

【相談者】

東京都内で高級家具の製造販売および輸出入を行うA社 代表取締役 B氏。

【相談内容】

「当社はこの度、東南アジア諸国連合の富裕層向けに、希少な木材であるローズウッド(ツルサイカチ属)を贅沢に使用した特注の高級ダイニングテーブルと椅子のセットを輸出する計画を立てました。当該木材は、数十年前に国内の材木商から正当に買い付けた在庫であり、国内での製造・販売には何ら問題のないものです。B氏は、既に国内にある製品を海外へ送るだけであり、かつ数十年も前の古い木材を使用しているため、特別な許可は不要であると考えていました。しかし、船積みの直前になって、通関業者から『ワシントン条約の規制対象品目に該当する可能性があり、経済産業省の輸出許可証がなければ税関を通せない』と指摘を受け、輸出がストップしてしまいました。B氏は、なぜ国内で自由に流通しているものが輸出の際には厳格に規制されるのか、また、古い在庫であることを証明すれば許可なしで輸出できるのかについて、専門的な見地からの詳細な解説を求めています」

このような事例は、楽器や家具、宝飾品などを扱う事業者において非常に多く見受けられます。絶滅のおそれのある動植物やその製品の取扱いについては「ワシントン条約(CITES)」を踏まえた規制が設けられております。ワシントン条約の概要と注意点について、法令の条文を交えながら詳細にご説明いたします。

1 ワシントン条約(CITES)の目的と法的枠組み

ワシントン条約(正式名称:「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約」)は、絶滅の危機に瀕した野生動植物の種が国際取引によって過度に利用されるのを防ぐことを目的とした国際条約です。一九七三年にワシントンD.C.で採択され、日本も一九八〇年に加盟いたしました。本条約は、対象となる動植物の個体だけでなく、その卵、種子、あるいはそれらの一部を使用した加工品(皮革製品、家具、漢方薬、楽器など)も広く規制の対象としています。

(ワシントン条約第二条 基本原則)

第一項 附属書一には、絶滅のおそれのある種であって取引による影響を受けており又は受けるおそれのあるすべての種を掲げる。これらの種の標本の取引は、それらの種の存続を更に危うくすることのないよう特に厳格に規制しなければならず、また、極めて例外的な場合にのみ許可されるものとする。

第二項 附属書二には、次のすべての種を掲げる。

(a)現在においては必ずしも絶滅のおそれはないが、それらの種の存続を危うくするような利用を避けるためにその標本の取引を厳格に規制しなければ、絶滅のおそれのある種となるおそれのあるすべての種

日本国内においては、この国際条約を誠実に履行するため、外国為替及び外国貿易法(以下、外為法といいます。)に基づき、輸出入の管理が行われています。

2 外為法における輸出規制の具体的根拠

貨物を輸出する際、ワシントン条約の対象品目は、外為法第四十八条第一項および輸出貿易管理令(以下、輸出令といいます。)に基づき、経済産業大臣の許可を要するものとされています。

(外国為替及び外国貿易法第四十八条第一項)

国際的な平和及び安全の維持を妨げることとなると認められるものとして政令で定める特定の地域を仕向地とする特定の種類の貨物を輸出しようとする者又は国際的な平和及び安全の維持を妨げることとなると認められるものとして政令で定める特定の種類の貨物を輸出しようとする者は、政令で定めるところにより、経済産業大臣の許可を受けなければならない。

(輸出貿易管理令第一条第一項)

法第四十八条第一項の規定による許可を受けなければならない貨物は、別表第一の中欄に掲げる貨物とする。

ワシントン条約対象品目は、輸出令別表第一の二の項(二)や、その他の省令によって具体的に指定されています。これにより、たとえ国内で合法的に購入したものであっても、国境を越える際には経済産業大臣の厳格な審査が必要となるのです。

3 ワシントン条約における三つの附属書と規制区分

条約では、希少性の度合いに応じて動植物を三つのカテゴリー(附属書)に分類しています。B氏のような実務者が最も注視すべきは、自社の製品がどの附属書に該当するかという点です。

(1)附属書一:絶滅のおそれのある種で取引による影響を受けているもの。商業目的の輸出入は原則として全面的に禁止されています。学術研究目的などの極めて例外的な場合に限り、輸出国の輸出許可証と輸入国の輸入許可証の両方が必要となります。

(2)附属書二:現在は必ずしも絶滅のおそれはないが、取引を厳格に規制しなければ絶滅のおそれが出てくるもの。商業目的の取引は可能ですが、輸出国の政府が発行する輸出許可証(または再輸出証明書)が必須となります。B氏の事例にあるローズウッドの多くは、この附属書二に掲載されています。

(3)附属書三:特定の締約国が自国内の資源保護のために国際的な協力を求めているもの。当該国からの輸出には輸出許可証が必要となり、それ以外の国からの輸出には原産地証明書等が必要となります。

4 実務上の確認フローと輸出許可申請の手続

貨物を輸出する際、次の点に注意して実務を進める必要があります。

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ワシントン条約該否判定および輸出実務フロー

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一 貨物の原材料・成分の特定

製品に使用されている動植物の学名(属名・種名)を確認する

二 附属書の該当性確認

条約の最新の附属書リスト、または経済産業省のウェブサイトで該否を判定する

三 例外規定の確認

条約適用前(プレ・コンベンション)の取得証明が可能か等を検討する

四 書類の整備

輸入元や国内仕入先からのインボイス、製造証明書、学名を記した書類を揃える

五 経済産業省への申請

輸出許可申請書、原材料を特定する書類、附属書該当性を疎明する資料を提出する

六 輸出許可証の発行

経済産業大臣よりワシントン条約輸出許可証の発行を受ける

七 税関への申告

輸出許可証を税関へ提示し、現品との相違がないか検査を受け、許可を得る

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B氏の事例のように、古い在庫(条約適用前に取得したもの)を輸出する場合であっても、自動的に免除されるわけではありません。経済産業省に対して「条約適用前取得(プレ・コンベンション)」であることを証明する客観的な資料を提出し、許可証を得る必要があります。この証明ができない場合、たとえ「古いものだ」と主張しても輸出は認められません。

5 ワシントン条約規制品目のカテゴリー別一覧

以下に、ビジネスにおいて誤って取り扱いやすい代表的な規制対象品目を整理いたしました。

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ワシントン条約主要規制対象品目一覧表

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カテゴリー|対象となる代表的な例|主な製品形態

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哺乳類|ゾウ、サイ、トラ、クジラ|象牙の印鑑・装飾品、毛皮、骨格標本

爬虫類|ワニ、ヘビ、トカゲ、カメ|皮革製バッグ、靴、時計ベルト、鼈甲細工

鳥類|オウム、タカ、フクロウ、羽根|装飾用羽毛、ペット用生体

魚類・貝類|チョウザメ、シャコガイ、サンゴ|キャビア、宝飾品、インテリア

植物(木材)|ローズウッド、マホガニー、黒檀|家具、バイオリン等の楽器、床材

植物(その他)|ラン、サボテン、アロエ、沈香|化粧品原材料、香木、盆栽、植物エキス

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6 輸出時の落とし穴:製品の一部に使用されている場合

知らずに対象となる原材料や部品が使用されている製品を輸出し、税関で没収される事例が増えています。

一 楽器に使用されている素材

バイオリンの弓に使用されるフェルナンブコや、ギターの指板に使用されるローズウッド、あるいは装飾に使われる白蝶貝などは、製品のごく一部であっても規制の対象となります。

二 時計やバッグの皮革

クロコダイルやリザードなどの皮革を使用した製品は、その部位や種によって附属書一または二に分類されます。

三 伝統工芸品

三味線の撥に使われる象牙や、和家具に使われる希少木材などは、日本の伝統文化であっても、国際取引の場ではワシントン条約が優先されます。

四 化粧品や漢方薬

アロエベラ(一部を除く)や沈香、麝香などの成分が含まれる製品は、成分表に基づいて厳格に判定されます。

これらの品目について、事前の該否判定を怠り「一般に売られているものだから」という思い込みで輸出を試みることは、極めて高いリスクを伴います。

7 外為法違反に伴う重い罰則と社会的責任

ワシントン条約の規制対象品目を無許可で輸出した場合、外為法に基づき、刑事罰および行政処分の対象となります。これは単なる事務的なミスではなく、重大な国際法違反として扱われます。

(行政処分)

経済産業大臣は、外為法違反者に対して、一定期間(最長で三年間)の輸出入の禁止処分を科すことができます。貿易を主軸とする企業にとって、三年の業務停止は事実上の倒産宣告に近い重みを持つことになります。

知らなかったでは済まされず、重大な犯罪行為(ひいては国際的な平和を損なう行為にもなりかねないことはくれぐれも気を付けるべきです。)となってしまいます。自社の信頼を守るためにも、厳格なコンプライアンス体制が求められます。

8 適切な輸出管理のための社内体制構築のポイント

B氏のような事態を未然に防ぎ、適正な輸出管理を継続するためには、以下の三つの柱を確立することが重要です。

一 社内の確認体制の強化

ワシントン条約対象の製品・原材料リストを常に最新の状態(附属書は数年ごとに更新されます)に保ち、輸出前には製造担当、購買担当、法務担当などの複数名でクロスチェックを行うフローを構築してください。

二 通関業者との緊密な連携

税関申告時に通関業者と正確な情報のやり取りを行うことがポイントとなります。使用されている木材の学名や、取得時期の証拠書類を事前に共有しておくことで、税関検査の際のトラブルを回避できます。

三 専門家への相談

対象品かどうか不明な場合や、経済産業省への許可証取得の手続きに不安がある場合は、ワシントン条約に精通した弁護士や専門家に相談することが重要です。

当事務所は、代表弁護士が輸出入や通関に関する唯一の国家資格である通関士資格を有しており、法務と実務の両面から強力なサポートを提供することが可能です。弁護士でありながら通関実務の深い知見を持つことで、単なる法令の解釈に留まらず、当局がどのような視点で調査を行い、どのような証拠書類を重視するかという実践的なアドバイスを提示することができます。

9 まとめ:適正な管理こそが持続可能なビジネスの基盤

ワシントン条約に基づく輸出規制は、絶滅危惧種や希少な動植物を保護するために非常に重要な制度です。対象製品の輸出は事前の許可の取得が必須であり、違反した場合には重い罰則が科せられます。企業としては、輸出する貨物の内容や取引相手の意向のみを気にしておけばよく、それ以外の手続面のことはほとんど気にしていない場合も多いものと思われます。しかしながら、このような姿勢には大きなリスクがあると言わざるを得ません。

通関手続きや貨物の運送などの手続き面について、専門家に任せることは非常に有用ですが、企業としてもそれらの点について最低限の知識を持ち、各手続において重要な点については逐一確認をとる等の対応が必要です。正しい法令知識に基づき、一つひとつの取引を精査すること。その地道な努力が、貴社のグローバルビジネスを安定させ、不測の事態から会社を守ることに繋がります。

当事務所は、貴社の良きパートナーとして、その専門性を最大限に発揮して、安定した海外展開をサポートし続けます。適正な通関こそが、グローバルビジネスを安定させる唯一の道です。

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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら

(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定

本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

 

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