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はじめに:仮の相談者から寄せられた相談事例のご紹介
輸入ビジネスを営む際、著作権法侵害のリスクを軽視することはできません。輸入する商品が知らないうちに著作権を侵害している場合、輸入した事業者が法的責任を問われることになります。本日は、具体例を交えつつ、著作権侵害のリスクを詳細にご説明いたします。まずは、当事務所に実際に寄せられる相談内容を模した、以下の架空事例をご覧ください。グローバルな取引を志す企業様にとって、非常に示唆に富む内容となっております。
【相談者】
神奈川県内でインテリア雑貨の輸入販売を行うA社 代表取締役 B氏。
【相談内容】
「当社はこの度、東南アジアの製造業者から、独特の形状をした木彫りの置物や、美しいイラストが描かれたランプシェードを大量に仕入れ、日本国内の店舗およびオンラインショップで販売する計画を立てました。現地ではこれらの製品が広く一般的に販売されており、意匠登録や特許の存在も確認されなかったため、B氏は法的に問題ないものと判断いたしました。しかし、商品を日本へ輸入しようとしたところ、税関から著作権侵害の疑いがあるとして輸入差し止めの認定手続が開始されました。聞けば、ランプシェードに描かれたイラストが、日本国内の著名な芸術家が創作した美術の著作物に酷似しているとの指摘を受けたのです。B氏は、現地で正規に購入した商品であるにもかかわらず、なぜ日本で著作権侵害を問われなければならないのか、また、もし侵害と判断された場合にどのような法的責任を負い、どのような損害が発生するのかについて、専門的な見地からの詳細な解説を求めています」
このような事例は、知的財産権の国際的な保護制度を正しく理解していない場合に、非常に多く見受けられます。現代社会はECサイトの普及によりモノの行き来が自由ですが、著作権の保護という観点から、輸入には厳格な法的チェックが存在します。本日は、著作権侵害の基本から実務的な回避策までを解説いたします。
1 著作権侵害の法的定義と「著作物」の概念
日本の著作権法は、著作者の権利を保護するため、著作物の無断使用を禁止しています。そもそも著作権侵害とは、著作権者の許諾を得ることなく、著作権の専有する権利を行使する行為を指します。具体的には、著作権法第二条第一項第一号において、「著作物」を次のように定義しています。
一 著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。
この定義に基づき、単なるデータや事実、あるいはありふれた表現は著作物には該当しませんが、そこに「創作性」が認められる場合には、法的な保護の対象となります。さらに、著作権法第十条では、著作物の例示がなされています。
一 小説、脚本、論文、講演その他の文芸上の著作物
二 音楽の著作物
三 舞踊又は無言劇の著作物
四 絵画、版画、彫刻その他の美術の著作物
(中略)
B氏の事例において問題となったランプシェードのイラストは、まさにこの「美術の著作物」に該当する可能性が高いといえます。また、実用的な製品であっても、その装飾部分に創作性が認められれば、著作権法上の保護を受ける「応用美術」として扱われることがあります。
2 輸入行為が著作権侵害とみなされる法的根拠
輸入ビジネスにおいて特に注意すべきは、実際に販売を開始する前の「輸入」という行為そのものが侵害とみなされる規定です。著作権法第百十三条第一項は、次のような場合に著作権侵害とみなすと規定しています。
一 国内において頒布する目的をもつて、輸入の時において国内で作成したとしたならば著作権、出版権若しくは著作隣接権の侵害となるべき行為によつて作成された物を輸入する行為
二 著作権、出版権若しくは著作隣接権を侵害する行為によつて作成された物(前号の輸入に係る物を含む。)を、国内において頒布する目的をもつて所持し、若しくは公衆に譲渡し、若しくは引き渡し、又は公衆に譲渡し、若しくは引き渡すことを申し出る行為
これに基づき、輸入業者が日本国内での販売や配布を目的として、著作権者の許諾なく作成された(あるいは日本国内で作れば侵害になる)商品を輸入した場合、その時点で著作権法違反とされる可能性があります。これを「みなし侵害」と呼びます。たとえ海外の現地の法律では合法的に作られたものであっても、日本国内の権利者が許諾を出していなければ、日本への輸入は違法となります。
3 具体例『海外製品の輸入と著作権の問題』の詳細分析
例えば、ある事業者が海外の市場で、アニメのキャラクターがプリントされたTシャツを仕入れ、日本国内で販売することを計画したケースを考えます。この業者は、現地では広く流通しているため問題ないと考えていました。しかし、日本国内では、そのキャラクターの著作権が特定の企業に帰属しており、許可なくそのデザインを使用することが著作権侵害に該当しました。このような場合、以下のような深刻な法的リスクが発生いたします。
(一)著作権者からの警告および差止請求
販売前であっても、著作権者から商品の輸入および販売の差止めを求められるケースがあります。これにより、仕入れた商品はすべて廃棄処分となるか、あるいは積み戻し(返送)を余儀なくされ、仕入れ代金がすべて損失となります。
(二)損害賠償請求
著作権者が損害賠償を請求し、輸入業者が損害を賠償する義務を負う可能性があります。著作権法第百十四条には、損害額の推定規定が存在し、侵害者が得た利益や、本来支払うべきライセンス料相当額が賠償額の基準となります。
(三)刑事罰
悪質な場合には、著作権法第百十九条に基づき、刑事罰が科されることもあります。
第百十九条 著作権、出版権又は著作隣接権を侵害した者(中略)は、十年以下の懲役若しくは一千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
また、法人に対しては、著作権法第百二十四条に基づき、三億円以下の罰金刑が科されるという、極めて重いペナルティが存在いたします。
4 関税法に基づく輸入差し止めと認定手続
著作権侵害物品は、関税法においても「輸入してはならない貨物」として明確に規定されています。
一 (中略)
三 特許権、実用新案権、意匠権、商標権、著作権、著作隣接権、回路配置利用権又は育成者権を侵害する物品
税関は輸入申告の際、著作権侵害の疑いがある貨物を発見すると「認定手続」を開始いたします。この手続きでは、権利者と輸入者の双方が意見を述べる機会が与えられますが、著作権の有無や創作性の判断は非常に高度な専門知識を要します。輸入者が「知らなかった」と主張しても、客観的に侵害品であると認定されれば、輸入は許可されません。
5 輸入ビジネスにおける著作権リスクの整理
輸入業者が直面するリスクを以下の比較表にまとめました。ワードデータ等に貼り付けて社内管理にご活用ください。
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輸入取引における著作権侵害リスク一覧表
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リスク区分|具体的な影響|根拠となる法令
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水際阻止リスク|税関での没収、廃棄、積み戻し命令|関税法第六十九条の十一
民事賠償リスク|侵害利益の返還、ライセンス料の支払い|著作権法第百十四条
業務停止リスク|販売禁止の仮処分、ECサイトの閉鎖|著作権法第百十二条
刑事罰リスク|代表者の懲役刑、法人への高額罰金|著作権法第百十九条、百二十四条
信用喪失リスク|取引先からの解約、社名公表による損害|民法(不法行為)、契約書条項
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6 リスク回避のための実務的ポイントと防衛策
著作権侵害リスクを防ぐために、以下の対策を講じることを強くお勧めいたします。
(1)丁寧な事前調査の実施
輸入予定の商品が日本国内で著作権を侵害しないことを確認することが重要です。特にキャラクター、ロゴ、イラスト、さらには独創的なテキスタイル(布地の模様)が含まれる商品は細心の注意が必要です。インターネットでの画像検索や、過去の類似裁判例の調査が有効です。
(2)正規のライセンスの確認と証拠収集
輸入元の業者や製造元が、正規のライセンスを取得しているかどうかを確認しましょう。必要であれば、ライセンス契約書の写しや、権利者からの製造・販売承諾書の提示を求めるべきです。また、これらを税関に提示できるよう、書面で保管しておくことが不可欠です。
(3)契約書の見直しと責任分担
輸入業者として、取引先との契約書に「著作権侵害が判明した場合の責任分担」について明記しておくことも有効です。具体的には、製造元が第三者の知的財産権を侵害していないことを保証し、万が一侵害が発生した場合には製造元がすべての損害(弁護士費用を含む)を補償するという「インデムニティ(補償)」条項を設けるべきです。
(4)専門家によるリーガルチェック
著作権の問題は、商標権のように登録制ではない(無方式主義)ため、誰が本当の権利者であるかを判断することが非常に複雑です。輸入予定の商品について不安がある場合は、著作権に詳しい弁護士や通関士に相談することで、リスクを事前に評価できます。当事務所は、代表弁護士が通関士資格を有しており、法務と実務の両面から強力なサポートを提供することが可能です。
7 輸入実務におけるコンプライアンス・チェックリスト
B氏のような経営者が、日々の業務で活用できる確認表を提示いたします。
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輸入貨物著作権セルフチェック表
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確認項目|判定の基準|実施状況
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デザインの独創性|他社の既存作品を模倣したものではないか|
権利の帰属先|デザイナーやイラストレーターとの契約は適正か|
ライセンスの有効性|日本国内での販売権が含まれているか|
税関への疎明資料|真正品であることを証明する書類は揃っているか|
契約上の補償規定|サプライヤーによる知的財産保証があるか|
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8 知的財産権侵害貨物の輸入に関する厳格な注意喚起
著作権侵害は、輸入業者にとって見過ごせない重大なリスクです。海外で合法的に取引された商品であっても、日本国内では著作権を侵害する場合があるため、慎重な対応が求められます。
企業としては、輸入する貨物の内容や取引相手に支払う代金のみを気にしておけばよく、それ以外の手続面のことはほとんど気にしていない場合も多いものと思われます。しかしながら、このような姿勢には大きなリスクがあると言わざるを得ません。通関手続きや法的権利の確認について、専門家に任せることは非常に有用ですが、企業としてもそれらの点について最低限の知識を持ち、各手続において重要な点については逐一確認をとる等の対応が必要です。
正しい法令知識に基づき、一つひとつの取引を精査すること。その地道な努力が、貴社のグローバルビジネスを安定させ、不測の事態から会社を守ることに繋がります。当事務所は、貴社の良きパートナーとして、その専門性を最大限に発揮して、安定した海外展開をサポートし続けます。適正な通関こそが、グローバルビジネスを安定させる唯一の道です。
【お問合せは、こちらから】
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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら)
(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定
本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。

