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0 はじめに:相談事例
まずは、輸入ビジネスへの参入を検討されている事業者の方から寄せられた、具体的な相談事例をご紹介いたします。
【相談者】
東京都内でライフスタイルショップを多角的に展開する株式会社Aの代表B氏
【相談事例】
「当社ではこれまで、国内の卸売業者から仕入れた商品を販売してきましたが、利益率の改善と独自性の確保を目指し、自社による直接輸入を開始することにしました。北欧で見つけたデザイン性の高い電気ケトルや、東南アジア産の陶磁器製の食器、さらには子供向けの木製玩具などをコンテナ単位で輸入する計画です。通関業者からは、関税の支払いや通関手続きについては説明を受けましたが、実際にこれらの商品を日本国内で販売するにあたり、どのような国内法を守らなければならないのかが判然としません。万が一、販売後に不具合や事故が発生した場合、輸入者としてどのような法的責任を負うのでしょうか。また、具体的な条文に基づいた、遵守すべきルールの全体像を把握したいと考えています」
B代表のような悩みは、初めて輸入業務に携わる事業者の多くが直面する課題です。輸入貨物を日本国内で販売・使用する際には、関税法や外国為替及び外国貿易法といった水際での法律だけでなく、国内での流通を規制する多種多様な法令を遵守しなければなりません。本稿では、事業者が特に留意すべき主要な法令とその具体的な条文、そして実務上の対応策について詳しく解説してまいります。
1 輸入貨物と国内関連法令の関係性
日本国内において貨物を販売・使用する目的で輸入する場合、その貨物は「日本国内で製造された製品」と同等の安全基準や品質表示が求められます。特に注目すべきは、輸入者が国内法上、しばしば「製造者」とみなされる点です。これにより、製品の安全性確保や表示に関する責任は、海外の輸出者ではなく、日本の輸入者が負うことになります。
主要な法令と具体的な条文、そして対象となる貨物の詳細は以下の通りです。
(1)電気用品安全法(PSE法)
家庭用電化製品などを輸入する際に最も重要な法律の一つが電気用品安全法です。
この法律は、電気用品による危険及び障害の発生を防止することを目的としています。
例えば、電気用品安全法第3条(事業の届出)では、電気用品の製造又は輸入の事業を行おうとする者は、経済産業省令で定める区分に従い、事業開始の日から三十日以内に、電気用品の型式の区分その他経済産業省令で定める事項を経済産業大臣に届け出なければならない、と規定されております。
事業者は、輸入する製品が「特定電気用品」か「特定電気用品以外の電気用品」かを判別し、技術基準への適合性を確認(電気用品安全法第8条)した上で、所定の検査を行い、PSEマークを表示しなければなりません。これを怠って販売した場合、回収命令や罰則の対象となるだけでなく、事故発生時の賠償責任も極めて重くなります。
(2)消費生活用製品安全法(PSC法)
消費者の生命又は身体に対する危害を防止するため、特定の製品について安全基準を設けている法律です。
例えば、消費生活用製品安全法第6条(事業の届出)においては、特定製品の製造又は輸入の事業を行おうとする者は、経済産業省令で定める区分に従い、一定事項を経済産業大臣に届け出なければならない、と規定されております。
特に不備があった際の被害が甚大である製品について、厳格な適合性検査が義務付けられています。
(3)食品衛生法
食品そのものだけでなく、食器や調理器具、乳幼児向けのおもちゃなどを輸入する場合にも適用される重要な法律です。
例えば、食品衛生法第27条(輸入の届出)においては、販売の用に供し、又は営業上使用する食品、添加物、器具又は容器包装を輸入しようとする者は、厚生労働省令で定めるところにより、その都度厚生労働大臣に届け出なければならない、と規定されております。
より具体的には、B氏が相談された陶磁器製の食器であれば、鉛やカドミウムなどの有害物質が溶け出さないかといった基準をクリアしなければなりません。
(4)製造物責任法(PL法)
輸入貨物の不具合により消費者が損害を被った場合、輸入者はこの法律に基づき賠償責任を負います。
製造物責任法第3条(製造物責任)において、製造業者等は、引き渡した製造物の欠陥により他人の生命、身体又は財産を侵害したときは、これによって生じた損害を賠償する責めに任ずる、と規定されております。
ここで言う「製造業者等」には、輸入業者も含まれます(同法第2条第3項第1号)。つまり、海外メーカーの製造ミスであっても、日本の消費者は輸入者に対して損害賠償を請求できる仕組みとなっています。
2 代表的な貨物と関連法令の一覧表
輸入を検討する際に、どの法律が関係するのかを整理した表が以下になります。
| 貨物のカテゴリー | 具体的な貨物の例 | 主な該当法令 | 事業者の主な義務 |
| 電気製品・機械 | 家庭用電熱器具、A Cアダ
プター、パソコン、照明器具 |
電気用品安全法(P S E)、電波法、消費生活用製品安全法 | 事業届出、技術基準適合、適合性検査、PS Eマーク表示 |
| 一般消費財・雑貨 | 衣類、タオル、カーテン、陶磁器製の食器、6歳未満用のおもちゃ | 家庭用品品質表示法、有害物質を含有すする家庭用品の規制に関する法律、食品衛生法、消費生活用製品安全法 | 品質表示、有害物質規制適合、輸入届出、PSCマーク表示 |
| 化粧品・医療機器 | 化粧品、石鹸、マッサージ器 | 医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法) | 製造販売業許可、外国製造業者登録、製品登録、法定表示 |
| 乗り物・部品 | 自動車、自動ニ輪車、乗車用ヘルメット、自動車用部品 | 道路運送車両法、計量法、消費生活用製品安全法 | 形式指定、保安基準適合、計量器検定、PSCマーク表示 |
| 化学物質・農薬 | 洗剤、殺虫剤、農薬、化学物質一般 | 農薬取締法、化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(化審法)、消防法、毒物及び劇物取締法 | 農薬登録、化審法届出、危険物取扱、毒劇物届出 |
| 食品・飲料 | 食品、飲料、食品添加物 | 食品衛生法、農林物質の規格化及び品質表示の適正化に関する法律、景品表示法 | 輸入届出、衛生基準適合、」A S規格適合、原産地表示、誇大広告禁止 |
| 通信機器 | スマートフォン、ワイヤレスイヤホン | 電波法、電気通信事業法 | 技術基準適合証明(技適マーク)、端末機器適合認定 |
| 全商品共通 | すべての輸入貨物 | 製造物責任法、不当景品類及び不当表示防止法(景品表示法) | 欠陥による損害賠償責任、適正な広告表示 |
3 事業者が留意すべき実務上のポイント
輸入ビジネスを円滑に進め、リーガルリスクを最小化するためには、以下の3つの視点が不可欠です。
(1)事前の法令調査の徹底
輸入しようとする貨物が、前述のどの法律の対象になるのかを事前に特定しなければなりません。同じ「ライト」であっても、家庭用の照明器具なら電気用品安全法ですが、自転車用なら道路交通法に関連する基準があり、船舶用なら船舶安全法が関係します。用途と構造、材質を詳細に把握し、関係省庁や専門家に確認する作業が重要です。
(2)海外輸出者との契約によるリスクヘッジ
日本の国内法は日本の輸入者が守るべきものですが、そのための技術データや検査結果は海外のメーカーから提供を受ける必要があります。売買契約を締結する際に、「日本国内の諸法令(PSE、食品衛生法等)に適合していることの保証」や「適合確認に必要な情報の提供義務」を明文化しておくことが望ましい対応と言えます。
(3)適正な表示の実施
家庭用品品質表示法や景品表示法に基づき、消費者に対して正確な情報を提供しなければなりません。例えば、繊維製品であれば組成表示や洗濯表示を全角文字で正しく記載する必要があります。誤った表示や誇大広告は、消費者庁による措置命令の対象となるだけでなく、顧客からの信頼を失墜させる原因となります。
4 違反した場合の不利益と社会的責任
万が一、国内法に違反した状態で商品を流通させてしまった場合、事業者には以下のような厳しい現実が待ち受けています。
【不利益その1】行政処分と社名公表
各法律に基づき、商品の回収命令(リコール)や改善命令が出されます。これらの処分内容は行政機関のウェブサイトで公開されることが多く、ブランドイメージに深刻な打撃を与えます。
【不利益その2】刑事罰の適用
悪質な違反や重大な事故につながる違反の場合、懲役刑や罰金刑が科される可能性があります。これは事業者個人のみならず、法人としての会社にも両罰規定として適用される場合がほとんどです。
【不利益その3】民事上の損害賠償
PL法に基づき、被害者に対して多額の賠償金を支払う義務が生じます。輸入した製品が原因で火災が発生したり、健康被害が出たりした場合、その賠償額は一企業の存続を危うくするほど巨額になるケースも珍しくありません。
5 知っておきたいその他の関連法規
上記以外にも、貨物によっては以下のような法律が関与します。
【不当景品類及び不当表示防止法(景品表示法)】
自己の供給する商品又は役務の取引について、次の各号のいずれかに該当する表示をしてはならない。
一 商品の内容について、実際のものよりも著しく優良であると示す表示
二 商品の価格その他の取引条件について、実際のものよりも著しく有利であると誤認される表示
三 輸入元の国を偽って表示したり、根拠のない性能を謳ったりすることは厳格に禁止されています。
6 事業者がとるべき具体的なステップのまとめ
最後に、輸入貨物の適法性を確保するための実務フローを整理します。
①ステップ1
貨物の詳細スペックの入手 材質、電圧、出力、用途、製造工程などの情報を海外メーカーから取り寄せます。
②ステップ2
該当法令のリストアップ 本稿の表や条文を参照し、どの法律の規制を受けるかを確認します。
③ステップ3
関係省庁への事前相談 不確かな場合は、経済産業省、厚生労働省、消費者庁などの各窓口や、専門の通関士、弁護士へ相談を行います。
④ステップ4
適合性試験と認証の取得 必要に応じて、公的検査機関での試験を実施し、証明書を取得します。
⑤ステップ5
適正なラベル作成と貼付 日本語による品質表示ラベル、安全マーク(PSE、PSC等)を適切に表示します。
⑥ステップ6
流通後のアフターフォロー体制 万が一の事故やクレームに備え、連絡窓口の設置や生産物賠償責任保険(PL保険)への加入を検討します。
以上のプロセスを丁寧に行うことが、持続可能な輸入ビジネスの基盤となります。
輸入ビジネスは、世界中の魅力的な商品を国内に届けるという大きな夢と可能性を秘めています。しかし、その背後には「日本の消費者の安全を守る」という事業者としての重い法的責任が伴います。法律を単なる「障壁」と捉えるのではなく、自社の製品の品質を証明し、競合他社との差別化を図るための「信頼の証」として活用していく姿勢が求められます。
本稿でご紹介した各法令の条文や対象貨物の情報は、あくまで基本的な指針です。法改正や技術基準の更新は頻繁に行われるため、常に最新の情報を収集し、専門的な知見を取り入れることが不可欠です。
特に、代表弁護士が通関士資格を有する当事務所では、輸入手続きの川上から川下まで、法的観点に基づいた一貫したサポートを提供しております。輸入貨物の法適合性に関する精査や、万が一の法的トラブル、さらにはコンプライアンス体制の構築について、お困りのことがございましたら、ご相談ください。
【お問合せは、こちらから】
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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら)
(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定
本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。

