従業員は企業の一員として業務を行っている以上、企業側の都合に応じて従業員を転勤させることは企業側の自由であると勘違いされているケースが時折ございます。
そこで、本日は、企業が従業員に対して行う転勤命令権の限界についてご紹介いたします。
まず、前提として、企業がある従業員に転勤を命令する場合、労働契約や就業規則上、企業が従業員に対して転勤を命令することができる旨の規定が存在することが必要です。
例えば、労働契約や就業規則の規定内容として、「会社は、業務上必要がある場合、従業員に対して職場もしくは職務の変更、転勤、出向、転籍及びその他人事上の異動を命じることができる」といった内容の規定が設けられている場合も多いのではないでしょうか。
このような規定が存在することを前提にすると、企業は、従業員に対して転勤を命令することが出来ますが、最判昭和61・7・14(判時1198・149)では、転勤命令権の限界、すなわち転勤命令が違法となる場合として、
「当該転勤命令につき業務上の必要性が存しない場合又は業務上の必要性が存する場合であっても、当該転勤命令が他の不当な動機・目的をもってなされたものであるとき若しくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき等」
と判示しました。
では、ここでいう「通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせる」ということは具体的にどのような場合かというと、当該転勤の必要性の程度、従業員が受ける不利益の程度、 企業側がなした従業員への配慮およびその程度等の諸事情を総合的に検討して判断されることになります。
要するに、ケースバイケースで各企業における具体的な事情を踏まえて判断することとなりますので、企業としては従業員の転勤にあたっては十分な注意を払うことが必要です。なお、違法な転勤命令を受けた従業員が、企業に対して不法行為に基づく慰謝料請求を行い、認められた例もありますので(大阪地判平成19・3・28労判946・130等)、企業側としては、転勤命令が違法無効となった場合には、そのような損害賠償義務を負担することになるリスクも踏まえた対応が必要となります。
当事務所では、人事労務を幅広く取り扱っておりますので、従業員への転勤命令に関して、ご不安な点やご不明な点等ありましたら、お気軽にご相談ください。