税関事後調査に直面すると、多くの企業が「帳簿や申告がこのままで良かったのか」「再発防止の体制は必要か」といった課題に向き合うことになります。
調査は単なる「指摘の場」ではなく、企業の輸入体制を見直す契機として活用することが重要です。
今回は、税関調査をきっかけに、どのように輸入コンプライアンス体制を構築・強化すべきかを解説いたします。
このページの目次
1 税関事後調査で問われるのは『仕組み』です
税関は、単に帳簿の形式や価格の妥当性を確認しているだけではありません。
特に税関事後調査では、「どういった管理体制のもとで輸入申告が行われているか」という組織的な内部管理の有無が評価対象となります。
指摘があった場合でも、「明確な体制があり、ミスは例外的なもの」と判断されれば、課税や加算税においても一定の軽減や配慮が得られる可能性があります。
2 構築すべきコンプライアンス体制の主な要素
以下のような仕組みを整備することが、コンプライアンス強化の基本です。
①通関申告内容のチェックフローの整備
HSコード、課税価格、原産地などの事前レビュー
②社内規程やマニュアルの整備
インボイス対応、FTA活用、照会対応のルール化
③関係部門の役割分担と連携体制の構築
輸入部門、経理、法務、営業、倉庫部門などの横断的連携
④記録・証拠資料の保存ルールの整備
原産地証明、価格根拠、契約書、支払証憑などの保管ルール
⑤税関対応の窓口・エスカレーションルートの設定
3 内部監査・自己点検の実施
税関が好意的に評価するポイントの一つが、「自社で定期的に点検を行っているかどうか」です。特に次のような内部監査項目があると、信頼性の高い体制と評価されやすくなります。
①過去の申告価格・税額と帳簿の整合性確認
②FTA/EPA活用状況の点検と原産地証明の保存状況
③加算要素(ロイヤルティ、無償供与等)の有無と計上確認
④関税法違反リスクの洗い出しと改善状況の記録
4 教育・研修の継続実施
法令や運用通達は頻繁に改正されるため、担当者の教育が継続的に行われているかどうかも重要です。
次のような取り組みが推奨されます。
①新任担当者向けの通関基礎研修
②年1回の関税・FTA・税関対応に関する社内研修
③税関との意見交換会・説明会への参加
④弁護士・税理士等専門家を招いたセミナーの実施
5 弁護士の関与による体制構築支援
コンプライアンス体制の構築は、実務面だけでなく、法的リスクと制度的理解の両面からの整備が必要です。
弁護士を関与させることで、以下のようなメリットが得られます:
①税関事後調査の結果を踏まえた再発防止策の立案
②社内マニュアル・規程類の法的観点からのレビュー
③原産地証明、ロイヤルティ契約、価格決定プロセスの整備
④トラブル発生時の初動対応体制の整備支援
税関調査を「行政からの監視」として捉えるのではなく、自社の輸入体制を見直し、強化するチャンスとする視点が重要です。
継続的な体制整備と記録・教育を通じて、持続可能で信頼性の高い輸入ビジネスを実現しましょう。
当事務所では、税関事後調査対応後の体制構築、コンプライアンスマニュアル作成、従業員研修の実施などもご支援可能です。お気軽にご相談ください。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。