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1 「税関留置」はなぜ起きる?緊急時の正しい初動
輸入手続の過程で、税関が特定の貨物に対して「検査」を行うことを決定し、輸入者のもとに「検査通知書」やその旨の連絡が届くことがあります。
この通知は、単なる通関の遅延ではなく、貨物の輸入が許可されないかもしれないという深刻なトラブルの始まりを示すサインともいえます。
貨物が税関で留め置かれる(留置される)主な理由は、以下のいずれかに該当する疑いがあるためです。
①輸入禁制品・規制貨物:覚醒剤、武器、ワシントン条約対象物、食品衛生法、薬機法などの他法令に違反する疑い。
②知的財産権侵害の疑い:商標権、著作権などを侵害する模倣品(ニセモノ)である疑い(水際取締り)。
③申告内容の確認:申告されたHSコード(品目分類)や関税評価(価格)が適正であるか、現物を検査して確認する必要がある場合。
2 検査通知書が届いた時の冷静な対処法
輸入貨物に関する検査通知書を受け取ったら、まずは焦らず以下のステップで対応を進める必要があります。
ステップ1:通知内容の確認と事実把握
通知書には、どの法律(関税法、知財法、他法令など)に基づいて留置されているのか、そして留置の理由(疑い)が記載されています。
これらの情報を正確に把握することが、その後の対応方針を決定する出発点となります。
ステップ2:税関への情報提供と主張の準備
税関は、輸入者に対し、貨物に関する追加資料の提出や質問への回答を求めてきます。この情報提供が、最終的な税関の判断を左右します。
①知財侵害の疑いの場合:貨物が真正品であり、適法な並行輸入であることを裏付ける、海外の正規ルートからの仕入れを証明する書類(契約書、インボイス、ライセンス証など)を迅速かつ論理的に整理します。
②品目分類・価格の疑いの場合:申告したHSコードや価格の妥当性を裏付ける、製品仕様書、製造工程資料、価格決定の根拠となる契約書などを提出します。
3 弁護士への相談タイミングと役割
「検査通知書」が届いた時点、または税関から検査を予告する連絡があった時点こそ、弁護士に相談すべき最適なタイミングです。
(1)知的財産権侵害の疑いの場合
知財侵害の判断は、特許法や商標法といった専門的な法律知識が必要です。弁護士は以下の役割を担います。
①迅速な意見書作成:税関の定める短い意見提出期間内に、知的財産権の解釈に基づいた法的根拠のある意見書を作成し、輸入が適法である旨を主張します。
(2)品目分類や評価額の確認の場合
弁護士(通関士)は、関税評価やHSコードの専門知識に基づき、申告内容の正当性を主張します。
①法的論点の整理:貨物の特性や取引条件について、関税法上の解釈通則や規定を引用しながら、税関の疑問を解消する法的・技術的な説明を行います。
②今後の行政処分への備え:検査の結果、税関が輸入許可を与えない処分(関税法上の違法審査や事後調査への移行など)を下した場合に備え、後の再調査の請求や行政訴訟を見据えた戦略的な対応を行います。
輸入貨物の留置は、ビジネスの機会損失に直結します。不安な状況で単独で対応するのではなく、関税法、知財法、そして実務に精通した弁護士を「水際の防御壁」として活用し、迅速かつ最善の解決を目指しましょう。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。

