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はじめに:仮の相談者から寄せられた相談事例のご紹介
本日は、個人事業主から中小企業まで、多くの事業者が参入している輸入ビジネスにおいて、直面しがちな法的トラブルとその回避策について詳述いたします。まずは、当事務所に実際に寄せられる相談内容を模した、以下の架空事例をご覧ください。グローバルな取引を志す事業者様にとって、非常に重要な示唆が含まれています。
【相談者】
神奈川県内でアパレルおよび雑貨の輸入販売を行うA社 代表取締役 B氏
【相談内容】
「当社はこれまで、フランスのセレクトショップから小規模にバッグや化粧品を仕入れ、自社のECサイトで販売してまいりました。現地ではもちろん正規に流通している真正品であり、仕入れ価格も適正でした。しかし、今回の輸入に際して税関から、バッグについては日本国内での商標権侵害の疑いがあるとして『認定手続』が開始され、化粧品については『薬機法に基づく製造販売業の許可がないため、輸入を認められない』との指摘を受け、全貨物が差し止められてしまいました。B氏は、現地で合法的に購入したものがなぜ日本では違法とされるのか、また、もし輸入が認められない場合にどのような金銭的損害や法的責任を負うことになるのかについて、専門的な見地からの詳細な解説を求めています」
このような事例は、輸入実務における基礎知識の不足が原因で、非常に多く発生しております。個人事業主から中小企業まで、インターネットを活用して海外の商品を仕入れ、日本国内で販売する輸入ビジネスは広く行われていますが、このビジネスには特有の法的リスクがあります。事前に正しい知識を持たずに参入すると、税関での差止め、追徴課税等の行政処分に加え、最悪の場合には、罰金、懲役といった刑事責任にまで発展するおそれがあります。本日は、輸入ビジネスを始めるにあたり、最低限知っておくべき主要な法律とそのポイントを、具体的な条文と共に解説いたします。
1 関税法および関税定率法に基づく適正な申告義務
輸入ビジネスの根幹を成すのが、関税法と関税定率法です。これらは、海外から商品を輸入する際の申告方法、税率の決定、不正な申告に対する罰則などの基礎的な内容を定めています。
貨物を輸出し、又は輸入しようとする者は、政令で定めるところにより、当該貨物の品名並びに数量及び価額その他必要な事項を税関長に申告し、当該申告に係る検査が必要と認められるものについては、その検査を受け、その許可を受けなければならない。
第一項 輸入貨物の課税価格は、当該輸入貨物に係る輸入取引がされた時の価格に、その価格に含まれていない限度において、次に掲げる費用の額を加算した価格とする。(以下、運賃・保険料等の規定)
実務上、特に注意すべきは「アンダーバリュー(過少申告)」です。貨物の価格を故意に低く申告し、関税や輸入消費税の支払いを免れようとする行為は、関税法第百十条等に基づき、厳重に処罰されます。
偽りその他不正の行為により関税を免れ、又は関税の還付を受けた者は、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
また、意図的な不正でない場合でも、不適切な申告が税関事後調査(輸入許可後数年以内に行われる税務調査に相当するもの)によって指摘された場合、不足税額に加えて「過少申告加算税(十から十五パーセント)」や「重加算税(三十五から四十パーセント)」、さらに「延滞税」が課されることになり、キャッシュフローに甚大な打撃を与えます。
2 知的財産権関連法(商標法・著作権法)と並行輸入の適法性
見落とされがちなのが、商標権や著作権などの知的財産権です。たとえ海外では合法に流通している商品であっても、日本国内に同一の商標登録がある場合、その商品を無断で輸入・販売することは権利侵害とされる可能性があります。
この法律で標章について「使用」とは、次に掲げる行為をいう。(中略)二 商品又は商品の包装に標章を付したものを譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、又は電気通信回線を通じて提供する行為
B氏の事例のように、ブランド品を輸入する場合、いわゆる「並行輸入」の要件を満たす必要があります。最高裁判所の判例によれば、以下の三つの条件をすべて満たしている場合に限り、商標権侵害とはならないとされています。
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真正商品の並行輸入適法性判定チェック表
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確認要件|具体的な判断内容|留意点
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第一要件|海外の商標権者等により適法に商標が付された製品であること|偽造品(コピー品)は対象外
第二要件|海外の商標権者と日本の商標権者が同一または密接な関係にあること|日本国内の独自の商標保有者がいる場合は注意
第三要件|製品の品質が日本の商標権者が管理するものと実質的に差異がないこと|仕様やアフターサービスの有無による品質差
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もし日本国内の商標権者が、海外のメーカーとは全く無関係の第三者である場合、たとえ本物であっても輸入は差し止められます。関税法第六十九条の十一に基づき、知的財産権侵害物品は「輸入してはならない貨物」として没収・廃棄の対象となります。
3 輸入品に関する個別法令(薬機法・食品衛生法等)の遵守
特定のカテゴリーの貨物については、関税法以外の「他法令」の規制をクリアしなければ輸入許可が下りません。
他の法令の規定により輸出又は輸入に関して許可、承認その他の処分又は検査、検定その他の手続を必要とする貨物については、第六十七条の申告の際、当該許可、承認等を受けていること又は当該検査、検定等を終了していることを税関に証明し、その確認を受けなければならない。
代表的な個別法令は以下の通りです。
(1)医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)
化粧品、サプリメント(成分により医薬品とみなされるもの)、コンタクトレンズ、美顔器などは、薬機法上の「製造販売業」の許可を得ていなければ、販売目的での輸入は一切認められません。B氏が輸入しようとした化粧品も、成分分析や法定ラベルの貼付が必要であり、それらを行える体制がないまま輸入することは違法となります。
(2)食品衛生法
食品、食器、乳幼児用のおもちゃなどは、厚生労働省への「食品等輸入届出書」の提出が必要です。
(食品衛生法第二十七条)
販売の用に供し、又は営業上使用する食品、添加物、器具又は容器包装を輸入しようとする者は、厚生労働省令で定めるところにより、その都度厚生労働大臣に届け出なければならない。
(3)電気用品安全法(PSE法)
コンセントから直接電源を取る電化製品などは、PSEマークの表示が義務付けられており、輸入事業者は「事業届出」や「技術基準適合確認」の義務を負います。これらを怠ると、販売停止命令だけでなく、刑事罰の対象ともなり得ます。
4 輸入ビジネスにおける主な法的リスクと罰則の一覧表
事業者が把握しておくべきリスクの全体像を整理いたしました。
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輸入ビジネス主要法律・リスク対照表
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適用法律|対象となる物品・行為|発生し得るリスク・ペナルティ
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関税法|すべての輸入貨物、価格申告|追徴課税、重加算税、懲役(十年以下)
商標法|ブランド品、ロゴ付商品|差止請求、損害賠償、刑事罰(十年以下)
著作権法|キャラクター、イラスト、書籍|没収、廃棄、刑事罰(十年以下)
薬機法|化粧品、サプリ、医療機器|販売停止、許可取消、刑事罰(三年以下)
食品衛生法|食品、食器、調理器具|廃棄、積み戻し、刑事罰(三年以下)
電波法|Wi-Fi機器、無線機、スマホ|電波利用停止、懲役(一年以下)
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5 トラブルを未然に防ぐための実務的対応策
輸入ビジネスにおけるトラブルの多くは、「知らなかった」「海外では大丈夫だった」等という根拠のない思い込みから始まります。税関対応や行政調査が発生した場合、その場で適切な法的対応が取れるかどうかで、事業継続に大きな影響が出ます。以下の三点を徹底することが、安定した事業運営への第一歩です。
(一)輸入前の徹底的な法的調査(リーガル・スクリーニング)
取り扱う商品の成分、機能、ブランド名、意図される用途などを詳細に把握し、前述の各法律に抵触しないかを事前に精査します。特に海外のサプライヤーは日本の法律を熟知していないことが多いため、サプライヤーの言葉を鵜呑みにせず、輸入者自身が法的な責任を負う覚悟を持つ必要があります。
(二)適正な契約書の作成
海外の取引先との契約において、製品の品質保証や知的財産権の非侵害保証(表明保証)、および万が一トラブルが発生した際の責任分担を明確に定めておきます。これにより、税関で差し止められた際の返品・返金交渉や、国内での権利侵害訴訟における求償がスムーズになります。
(三)専門家によるバックアップ体制の構築
関税評価(加算要素の算定)や薬事該当性の判断は、高度に専門的な知識が必要です。当事務所では、輸入前の契約チェックから、税関対応、知財リスクの精査、事後調査対応まで、ワンストップでサポートしております。代表弁護士が通関士資格を保有しているため、法律の解釈に留まらず、税関当局がどのような視点で調査を行い、どのような証拠書類を重視するかという実践的なアドバイスを提示することが可能です。
6 不祥事発生時の緊急対応と自浄作用
万が一、輸入後に申告価格の間違いや、他法令への抵触が判明した場合には、放置せずに「修正申告」や「自主報告」を行うべきです。
一 修正申告。過少申告に気づいた際、税関の調査前に自主的に申告を行うことで、過少申告加算税が免除される場合があります。
二 更正の請求。逆に税金を多く払いすぎた場合には、輸入許可から五年以内に限り、払いすぎた分を返してもらう手続きが可能です。
三 当局への相談。薬事法や食品衛生法の違反が疑われる場合も、隠蔽は最大の悪手となります。専門家を介して当局と誠実に折衝し、被害の拡大防止(リコール等)に努めることが、法人の社会的責任を果たすことに繋がります。
7 輸入ビジネスにおける他法令の具体的な実務ポイント
他法令の中でも、特に中小事業者が陥りやすいポイントを深掘りします。
(一)電波法の「技適マーク」
海外製の無線機、Bluetooth搭載機器、スマートフォンなどを輸入する場合、日本の電波法に定める技術基準に適合していることを示す「技適マーク」が必須です。これが付いていない機器を販売・使用させることは、公共の電波を乱す行為として厳しく規制されます。
(二)消費生活用製品安全法(PSCマーク)
登山用ロープ、乳幼児用ベッド、レーザーポインター、圧力なべ、ヘルメットなどは、消費者の生命を保護するため、特定の安全基準への適合が求められます。輸入業者は自らがメーカーと同等の責任を負う「特定製造事業者」としての立場になることを自覚しなければなりません。
(三)PL法(製造物責任法)
海外から輸入した製品に欠陥があり、消費者が怪我をした場合、PL法に基づき輸入業者が損害賠償責任を負います。
(製造物責任法第二条第三項)
この法律において「製造業者等」とは、次のいずれかに該当する者をいう。(中略)二 当該製造物を輸入した者
このように、輸入者は単なる中継ぎではなく、法的には「製造者」として扱われます。したがって、適切な損害保険(PL保険)への加入も、重要な法的リスク管理の一環となります。
8 まとめ:適正な知識がグローバルビジネスの信頼を支える
本日は、輸入ビジネスにおける主要な法規制とそのリスクについて解説いたしました。B氏のようなケースであっても、当初から正しい法令知識に基づき、製品のカテゴリーを判定し、必要な業許可や商標権の確認を行っていれば、法的リスクを回避しつつ、最新のトレンドを安全に日本市場へ届けることが可能でした。
企業としては、輸入する貨物の内容や取引相手に支払う代金のみを気にしておけばよく、それ以外の手続面のことはほとんど気にしていない場合も多いものと思われます。しかしながら、このような姿勢には大きなリスクがあると言わざるを得ません。通関手続きや貨物の運送などの手続き面について、専門家に任せることは非常に有用ですが、企業としてもそれらの点について最低限の知識を持ち、各手続において重要な点については逐一確認をとる等の対応が必要です。
正しい法令知識に基づき、一つひとつの取引を精査すること。その地道な努力が、貴社のグローバルビジネスを安定させ、不測の事態から会社を守ることに繋がります。当事務所は、貴社の良きパートナーとして、その専門性を最大限に発揮して、安定した海外展開や新事業の立ち上げをサポートし続けます。
適正な通関こそが、グローバルビジネスを安定させる唯一の道です。
【お問合せは、こちらから】
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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら)
(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定
本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。

