輸入ビジネスにおいて、商品の仕入価格と税関への申告価格が異なることは実際問題として珍しくありません。
しかし、この「乖離」があると、税関から「過少申告ではないか」、「正しい関税評価がなされていないのではないか」と疑念を持たれ、税関調査の対象や追徴課税の原因となるおそれがあります。
本記事では、仕入価格と申告価格の乖離がなぜ問題になるのか、その法的根拠と実務上のリスク、対策について解説します。
このページの目次
1 関税評価の基本ルールとは?
関税評価とは、関税を課す基礎となる価格(=課税価格)を算定する手続です。
原則として輸入取引で実際に支払ったまたは支払うべき価格が課税価格の基本となります(いわゆる現実支払価格)。
ただし、その取引価格に「加算すべき要素(ロイヤルティ、無償供与部材など)」がある場合には、それらも含めて関税評価されることになります。
2 「仕入価格」と「申告価格」が一致しない原因とは?
実務上、両者が乖離する原因にはいくつかのパターンがあります。
①複数のインボイスが存在する(プロフォーマと商業インボイス)
②値引きやリベートが実際に存在するが、申告価格に反映されていない
③輸送費・保険料等が申告に含まれていない
④サンプル品・無償品を有償価格と一緒に申告している
⑤グループ企業間で取引価格が調整されている
これらは意図的な不正でなくても、税関にとっては「価格の妥当性に疑義がある」対象として調査の引き金になるのです。
3 税関が問題視するポイント
税関は以下のような観点から乖離をチェックします。
①同種・類似品と比べて著しく価格が低い
②系列会社・関連会社間取引で価格調整が疑われる
③価格変更の理由が不明確
④過去の申告価格と継続性がない(急に下がっている)
こうした事案では、関税評価ルールに基づき「取引価格以外の方法(類似価格法、再販売価格法等)」により再評価され、追徴課税が行われる可能性があります。
4 問題を防ぐための社内チェックポイント
以下のような対策が、税関調査での指摘リスクを軽減します。
①インボイス・契約書と実際の送金額の整合性確認
②ロイヤルティや役務提供費用が含まれていないかのチェック
③同種品目の価格一覧の整備(平均単価管理)
④関連会社取引については移転価格文書の整備も検討
⑤変更があった場合は理由や経緯を記録・説明できるように
「なぜこの価格で輸入しているのか?」という説明責任を果たせる資料の準備が鍵になります。
仕入価格と申告価格が乖離していると、税関から不適正な申告と疑われ、調査や追徴課税のリスクが高まります。
申告価格の妥当性を支える証拠を日頃から整備し、取引の透明性を確保することが重要です。
当事務所では、価格評価リスクの診断、税関との交渉、修正申告や異議申立てまで、専門的に対応しております。価格関連で不安をお持ちの方は、お気軽にご相談ください。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。