税関からの事後調査や価格申告の場面では、会計帳簿との整合性が問われることがあります。
輸入申告書に記載した課税価格と、実際の会計処理・帳簿記載内容にズレがあると、過少申告の疑いを招いたり、価格評価が否認されるリスクが高まります。
本記事では、税関が会計帳簿をチェックする理由と、整合性が問題になる典型的なケース、そして対策について解説いたします。
このページの目次
1 税関が帳簿を確認する目的とは?
税関は「帳簿書類等の閲覧・提出要求」を行う権限を持っています。
これにより、単に輸入申告書類(インボイスやパッキングリスト)だけでなく、次のような社内の会計帳簿・会計システム上の記録が調査対象となり得ます。
①仕訳帳・総勘定元帳
②輸入仕入台帳
③原価計算書
④月次・年次財務諸表
⑤経費精算・支払明細書 等
税関の目的は、「申告された課税価格が、企業の実態としての取引価格と一致しているか」を確認することにあります。
2 整合性が問われる典型的な場面
①インボイス価格と仕訳金額の不一致
例えば、インボイスでは1万ドルと記載されているのに、帳簿には1万2000ドルと記録されている場合、差額の説明を求められます。
②会計処理上の「後日値引き」や「リベート」
会計上では値引きや割戻しが記録されていても、申告価格に反映されていなければ、追徴課税の対象になる可能性があります。
③無償供与品や役務提供費用の見落とし
原材料や技術支援が実質的に提供されているにもかかわらず、関税評価上加算していない場合、帳簿からの指摘で問題化します。
④関連会社との価格乖離(移転価格の論点)
グループ会社間で価格が意図的に低く設定されていた場合、帳簿の記録と実際の輸入価格の不一致が重視されます。
3 整合性が崩れるとどうなるか?
税関から見て、帳簿と申告内容の整合性に問題があると判断された場合、以下のような対応が取られることがあります。
①取引価格の否認(関税評価方法の変更)
②加算要素の追徴(ロイヤルティ、役務費用等)
③過少申告加算税の課税
④継続的な監視対象(リスク先リスト入り)
つまり、帳簿のズレが「意図的な操作」と誤解される可能性があるのです。
4 整合性を保つための実務対応
①インボイスと支払記録・仕訳帳の照合をルール化
②輸入申告価格と会計処理との差異がある場合は、その理由を文書で記録
③値引き・ロイヤルティ・サービス料等は社内チェックリストに含める
④会計ソフトのコードと通関データを紐づけて管理する
⑤移転価格税制対応との整合性も検討
税関から帳簿の提出を求められたとき、即時に説明できる体制を整えておくことが、最大の防御策となります。
税関調査では、「何を申告したか」だけでなく、「申告内容が企業の帳簿と合っているか」が厳しくチェックされます。
帳簿との整合性を保つことは、輸入ビジネスの信頼性を支える基礎であり、トラブル防止に直結します。
当事務所では、会計処理と通関申告の整合性確認、税関調査時の資料提出支援、加算税対応などを総合的にサポートしています。調査対応や事前チェックでお悩みの方は、ぜひご相談ください。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。