海外メーカーと取引を開始したものの、「納期が守られない」、「商品が仕様と違う」、「代金を払ったのに発送されない」といったトラブルに悩まされる輸入事業者は少なくありません。
こうした契約トラブルの多くは、契約書が存在しない、もしくは不十分な内容のまま取引を開始してしまったことに原因があります。
今回は、輸入取引における海外メーカーとの契約トラブルと、トラブルを回避・解決するためのポイントを解説いたします。
このページの目次
1 典型的な契約トラブルのパターン
以下のようなケースが特に多く発生しています。
①納期遅延:予定納期より数週間、ひどいときには数か月遅れて商品が届く
②仕様不一致:注文した仕様と異なる素材・サイズ・パッケージの製品が納入される
③数量不足・破損:インボイス上の数量と実物が一致しない。あるいは不良品が混入
④代金支払い後の音信不通:前払いを済ませたのに発送連絡がないまま連絡不能に
これらはいずれも「契約書があれば回避または解決しやすい」類型のトラブルです。
2 口頭・メールベースの合意の限界
日本では、「相手が信頼できる」「長年の付き合いがある」といった理由で、契約書なしでの取引が続けられることも少なくありません。
しかし、海外メーカーとの取引では法的文化や商習慣が異なり、口頭合意やメールのやり取りだけでは証拠として不十分とされる場合があります。
また、言語の壁、タイムゾーンの違い、商慣習の違いにより、トラブル発生時にスムーズな交渉ができず、解決が困難になることも多く見られます。
3 争いになった場合の準拠法・裁判管轄の考え方
紛争が発生した際、「どこの国の法律で」、「どこの裁判所で」争うかが重要になります。
契約書にこの点が定められていない場合、以下のような問題が生じます。
①相手国の法律が適用され、日本の法律と全く違う解釈がされる
②相手国で訴訟を起こす必要があるが、現地に弁護士もおらず対応困難
③証拠書類が現地語で作成されており、反論ができない
事前に準拠法・管轄裁判所を日本と定めておくことが、重要なリスク管理となります。
4 トラブル発生時の対応
①まずはメール等で冷静に事実確認・要請
②支払い記録・契約書・やり取り履歴の整理
③通信が途絶えた場合は内容証明郵便(国際郵便)や弁護士通知の検討
④国際仲裁条項がある場合は、仲裁機関に申し立て
⑤最終的には日本または相手国での訴訟提起を視野に
トラブルの初期段階から弁護士の関与によって、交渉力を強化し、実害拡大を防ぐことが可能です。
海外メーカーとの契約トラブルは、事前の契約内容の整備と証拠確保によって、大きくリスクを軽減することができます。
輸入ビジネスの安定化のためには、「契約書はビジネスの保険」として、法的整備を怠らないことが重要です。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。