「並行輸入」と「模倣品対策」

はじめに:仮の相談者から寄せられた相談事例のご紹介

本日は、輸入実務において予期せず直面し、かつ企業の存続さえ危ぶまれる事態に発展しかねない「知的財産権侵害物品の水際取締り」について、その法的構造から実務的な防衛策までを網羅的に解説いたします。輸入貨物が「真正品」であると確信していても、税関の認定手続によって輸入が差し止められる事例は、並行輸入ビジネスにおいて後を絶ちません。まずは、当事務所に実際に寄せられる相談内容を模した、以下の架空事例をご覧ください。

【相談者】

東京都内で欧州ブランドの雑貨やアパレル製品の並行輸入販売を行う株式会社M、代表取締役 N氏

【相談内容】

「当社は、イタリアの有力な独立系卸売業者から、高級ブランド『O社』の新作バッグおよびアクセサリー類を約五百点輸入いたしました。これまでも同じルートで何度も取引しており、現地の卸売業者からは真正品であることを保証する証明書も受け取っていました。ところが、成田空港の税関より、当該貨物が商標権を侵害する物品の疑いがあるとして、関税法第六十九条の十二第一項に基づき『認定手続』を開始する旨の通知が届きました。ブランド権者である日本法人の『O・ジャパン社』は、これが偽造品であると主張しており、このままでは貨物の没収・廃棄は避けられず、多額の仕入資金が水の泡となります。さらに、税関から悪質な密輸入者として刑事告発されるのではないかと不安で夜も眠れません。どのように真正品であることを立証し、差止めの危機を脱すればよいのでしょうか。また、今後の再発防止策についても専門的なアドバイスを求めています」

このような事例は、知的財産権(知財)が国境を越えて厳格に保護される現代の国際貿易において、並行輸入業者が直面する最も深刻なリスクの一つです。税関は、偽造品や海賊版の国内流入を阻止するため、極めて強力な権限を行使いたします。本日は、知財侵害を疑われた際の法的対応の急所と、並行輸入が法的に許容される要件について、関係法令を解説いたします。

1 税関による水際取締りの法的根拠と「認定手続」の構造

税関は、単に関税を徴収するだけの機関ではなく、社会悪物品の流入を阻止する役割を担っています。知的財産権侵害物品は、関税法において「輸入してはならない貨物」として明記されています。

(関税法第六十九条の十一第一項第九号 輸入してはならない貨物)

「特許権、実用新案権、意匠権、商標権、著作権、著作隣接権、回路配置利用権又は育成者権を侵害する物品」

税関がこれらの権利を侵害する疑いのある貨物を発見した場合、直ちに没収するのではなく、まず「認定手続」という行政手続を実施しなければなりません。

(関税法第六十九条の十二第一項 認定手続)

「税関長は、輸入申告された貨物(中略)のうちに、第六十九条の十一第一項第九号から第十号までに掲げる物品に該当する疑いがある貨物があるときは、当該貨物が当該物品に該当するか否かを判定するための手続(以下この条において『認定手続』という。)を執らなければならない」

この手続が開始されると、輸入者と権利者の双方に対して、証拠を提出し意見を述べる機会が与えられます。N氏の事例のように、権利者が「侵害品である」と主張し、輸入者が「真正品である」と主張する場合、税関が中立的な立場からその正否を判断いたします。

2 並行輸入が「真正品」として法的に認められるための三要件

並行輸入は、商標権者とは別のルートで真正商品を輸入する行為ですが、これが商標権侵害にならないためには、日本の最高裁判例(パーカー事件、BBS事件等)によって確立された、いわゆる「真正商品の並行輸入」の三要件を満たす必要があります。

一 当該商標が、外国における商標権者又はその許諾を受けた者により適法に付されたものであること。

二 外国における商標権者と日本の商標権者とが、同一人であるか、若しくは法律的・経済的に同一人とみなせるような関係にあること(出所表示機能の同一性)。

三 日本の商標権者が当該商品の品質管理を行い得る立場にあり、輸入品と日本の商標権者が扱う商品との間に、実質的に差異がないと認められること(品質保証機能の同一性)。

税関の認定手続において輸入者が立証すべきは、まさにこの三点です。特に三点目の「品質の差異」については、権利者側が「並行輸入品は日本国内の正規品と仕様や成分が異なるため、商標の品質保証機能を害している」と主張し、侵害を構成させようとするケースが多々あります。これに対し、輸入者はその差異が本質的なものではないこと、あるいは同一の製造ラインで生産されたものであることを証明しなければなりません。

3 認定手続における実務上の進行と輸入者の対応事項一覧

輸入者が税関から認定手続の通知を受けた際、どのようなスケジュールで何を行うべきかを以下の表に整理いたしました。

====================================

知的財産権侵害疑い貨物に係る認定手続の進行フローと輸入者の実務対応表

========================----------==

手続の段階|具体的な内容と期限|輸入者が執るべき法的アクション

-----|----------------|------------

認定手続開始通知|税関から書面で通知される|速やかに専門の弁護士へ相談し、方針を決定

意見提出の機会|通知から原則10日以内|真正品である証拠資料を集約し、意見書を作成

権利者による申立て|権利者が証拠を提示する|相手方の主張内容を精査し、反論資料を準備

専門委員の助言|高度な判断を要する場合に実施|技術的、専門的見地から意見を補充

税関による認定|侵害か真正品かの最終判定|認定に不服がある場合は、取消訴訟等を検討

貨物の処理|侵害なら没収廃棄、真正なら許可|認定結果に基づき、速やかに保税状態を解消

========================----------==

4 真正品立証のために必要となる証拠資料(チェーン・オブ・タイトル)

N氏の事例で最も重要なのは、「このバッグが間違いなくO社の正規の流通ルートから出たものである」という証拠(チェーン・オブ・タイトル)の提示です。税関や権利者を納得させるためには、単なる請求書だけでなく、以下の資料を重層的に積み上げる必要があります。

(一)仕入先との基本契約書および取引履歴:仕入先がその国において正規の卸売ライセンスを有していること、あるいは正規店から買い付けた実績があることを示す書類。

(二)真正品であることを証明する鑑定書・保証書:製造メーカーが発行したホログラム付きのタグ、シリアル番号、ICチップの読み取り結果など。

(三)物流経路の透明性:製造国から日本に到着するまでの運送書類(船荷証券等)をすべて開示し、途中で不審な荷抜きや積み替えが行われていないことを証明する。

(四)品質の同一性証明:日本国内の正規品との比較写真、成分分析結果、パッケージの仕様比較などを通じ、消費者に誤認を与えるような品質低下がないことを示す。

5 権利者側が執る「輸入差止申立て」制度とその影響力

輸入者にとってのリスクを理解するためには、権利者がどのような武器を持っているかを知る必要があります。権利者は、関税法第六十九条の十三に基づき、あらかじめ税関長に対して、自分の権利を侵害する物品が輸入されようとした場合に差し止めるよう申し立てることができます。

(関税法第六十九条の十三第一項 輸入差止申立て)

「知的財産権の権利者は、その権利を侵害すると認める物品(中略)が輸入されようとする場合において、当該物品を輸入してはならない貨物として認定するための手続を執るべきことを税関長に申し立てることができる」

この申立てが受理されると、税関のデータベースに侵害疑い物品のリストとして登録されます。これにより、税関職員による開梱検査の確率が飛躍的に高まり、輸入者にとっては「常時監視されている」状態となります。並行輸入業者がビジネスを開始する前には、対象商品についてこのような申立てがなされているか、また過去にどのような認定事例があるかを調査することが不可欠です。

6 「不当な差止め」に対する救済手段と権利者の賠償責任

権利者の主張が誤りであり、税関が「真正品」であると認定した場合、輸入者は滞留していた貨物を引き取ることができます。しかし、認定手続に数ヶ月を要した場合、季節商品の価値低下や保管料の増大といった損害が発生します。関税法第六十九条の十三第十項では、不当な差止めによる輸入者の損害を担保するため、権利者に対して供託金を命じる制度があります。

(関税法第六十九条の十三第十項 供託金の命令)

「税関長は、輸入差止申立てをした者に対し、当該申立てに係る貨物が侵害物品に該当しないと判定された場合に輸入者が被るおそれがある損害の賠償を担保するため、相当と認める額の金銭を供託すべきことを命ずることができる」

もし権利者が悪意又は過失により、真正品であることを知りながら不当に差し止めた場合には、輸入者は民法第七百九条(不法行為)に基づき、損害賠償を請求することが可能です。当事務所では、このような不当な差止めに対する反撃の訴訟についても強力にサポートいたします。

7 「個人使用」を装った輸入に対する規制強化の現状

近年、模倣品の輸入は「個人使用目的」を隠れ蓑にして行われることが増えてきました。これに対応するため関税法が改正され、海外の事業者が日本の個人に対して郵送等で送る模倣品は、個人使用目的であっても「輸入してはならない貨物」として没収の対象となりました。

(関税法第二条第一項第一号の二 輸入の定義の拡張)

この改正により、「商売ではないから大丈夫」という理屈は通用しなくなりました。並行輸入業者としては、小口輸入であっても事業性を疑われれば、直ちに認定手続の対象となることを覚悟しなければなりません。

8 知的財産権侵害を巡る刑事罰と加算税のリスク

知財侵害物品の輸入は、行政的な没収に留まらず、深刻な刑事罰の対象となります。

(関税法第百九条第一項 輸入してはならない貨物を輸入する罪)

「第六十九条の十一第一項第一号から第六号まで、第九号又は第十号に掲げる貨物を輸入した者は、十年以下の懲役若しくは三千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する」

故意に偽造品を輸入したと判断されれば、警察への告発も免れません。また、たとえ故意がなくても、侵害物品であることを理由に輸入が不許可となれば、関税の申告そのものが虚偽であったとみなされ、過少申告加算税や重加算税に相当するペナルティを課される可能性もあります。

9 並行輸入事業者が構築すべきコンプライアンス・チェックリスト

知財リスクを最小化し、税関とのトラブルを回避するために、日常実務で実施すべき項目を整理いたしました。

┌──────────────────────────────────────┐

│     並行輸入における知的財産権コンプライアンス・チェックリスト    │

├───────┬──────────────────────────────┤

│確認項目   │実務上の具体的な点検内容                  │

├───────┼──────────────────────────────┤

│商標権の調査 │特許庁のデータベース(J-PlatPat)で権利者を特定 │

├───────┼──────────────────────────────┤

│真正品の定義 │「パーカー三要件」に照らして自社の輸入品が適法か評価    │

├───────┼──────────────────────────────┤

│サプライヤー │仕入先の登記、販売ライセンス、過去の取引実績をデューデリ  │

├───────┼──────────────────────────────┤

│サンプル検査 │本輸入前に少量を輸入し、自ら正規品と比較して品質を確認   │

├───────┼──────────────────────────────┤

│緊急時連絡網 │認定手続開始通知を受けた際、24時間以内に弁護士へ繋ぐ体制 │

├───────┼──────────────────────────────┤

│反論資料の備蓄│インボイス、L/C、船荷証券、仕入先証明書を7年間保存   │

└───────┴──────────────────────────────┘

10 専門家(弁護士・通関士)による高度な防御体制の重要性

税関から認定手続の通知が届いた際、輸入者に与えられた時間は極めて限定的です。ここで適切な法的反論を行えるかどうかが、貨物の運命を左右します。当事務所は、弁護士としての高度なリーガルスキルと、通関実務の現場感覚を融合させ、貴社の権利を強力に守ります。

【当事務所が提供できる具体的な知財防衛サービス】

一 認定手続における税関への「真正品立証意見書」の作成および提出

二 権利者側との示談交渉、あるいは不当な差止めに対する損害賠償請求

三 新規取り扱い商品の知財リスク診断(真正商品の並行輸入要件の該当性評価)

四 税関に対する「認定手続の不服申立て」および「輸入差止申立ての取消請求」

五 海外サプライヤーに対する法的なデューデリジェンスおよび契約書への補償条項の策定

六 社内知財管理規定の整備および役職員向けのリーガル・トレーニング

特に、認定手続における「意見書」は、単なる感情的な主張ではなく、過去の判例や特許庁の解釈、さらには実物の鑑定結果に基づいた論理的な構成が求められます。当事務所は、税関当局との粘り強い折衝を通じ、数多くの不当な差止め事例を覆してきた実績がございます。

11 まとめ

本日は、輸入実務において最も予見が困難でありながら、発生時のインパクトが甚大な「知的財産権侵害物品の認定手続」について解説いたしました。N氏のようなケースであっても、当初から仕入先の信頼性を客観的な資料で裏付け、税関からの通知に対して即座に論理的な反論資料を提示できていれば、事態の長期化を防ぎ、損害を最小限に抑えることが可能でした。

企業としては、知財トラブルを単なる運の悪さと捉えるのではなく、契約、物流、申告の各フェーズにおける法的なリスク管理の一環として捉え直す必要があります。模倣品の流通は世界的に拡大しており、税関の目も年々厳しくなっています。真正品を扱っているという誇りがあるからこそ、その正当性を法的に証明できる「武装」を怠らないでください。

【お問合せは、こちらから】

・・・・・・・・・・・

執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら

(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定

本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

 

無料相談ご予約・お問い合わせ

 

ページの上部へ戻る

トップへ戻る

03-5877-4099電話番号リンク 問い合わせバナー