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三六協定に基づかない残業命令の有効性について

2023-02-06

会社の業務の繁閑に応じて、従業員には残業を命じる必要がある場合も多いものと思います。
もっとも、このような残業命令については、無制約で行うことができるわけではありませんので注意が必要です。
本日は、三六協定に基づかない残業命令の有効性が問題となった裁判例をご紹介いたします。
ご参照いただけますと幸いです。

 

1 宝製鋼所事件(東京地判昭25・10・10民集1・5・766)

【判示の概要】
従業員が割増賃金要求のための、交渉をなすことについては、組合において明示の承認を与えていたのであるから、申請人等が、その要求貫徹のためになした行為は、もとより正当な組合活動である。
もつとも、申請人等が、被申請人会社との交渉をもつことなく、直ちに産業拒否の態度に出たことは、信義則に背くといえないこともないが、その残業は、被申請人会社と前記労働組合との協定に基くものではなく、会社の慣行によつて行われてきたものであるから、申請人等に法律上そのような残業を強制するということはできないのであつて、それゆえ、残業拒否を違法とする前提要件を欠いているというベきであり、七の信義則違反ということも問題とならない。

上記裁判例はやや古いものですが、仮に会社内で慣行として残業命令が行われ、従業員が従っていたとしても、三六協定がない以上は、法律上強制力をもつ形で残業命令を行うことはできないと判示しており、当然といえば当然ではありますが、改めて念頭に置いておくべき重要な裁判例であるものといえます。

 

2 弁護士へのご相談をご希望の方へ

当事務所は、人事労務に関するご相談を幅広くお受けしております。
弁護士に相談をした方がよいかお悩みの方もいらっしゃるものと思いますが、お悩みをご相談いただくことで、お悩み解消の一助となることもできます。
日々の業務の中で発生する人事労務に関するご相談や、新しい労働関連法規の成立、修正により自社にどのような影響が生じているかを確認したいといった場合まで、人事労務に関してご不明な点やご不安な点等ございましたら、お気軽に当事務所までご相談ください。

みなし労働時間制の適用が認められるかどうかが問題となった裁判例

2023-01-30

本コラムにおいては、労働者の労働時間に関する裁判例をいくつかご紹介してまいりました。
本日は、みなし労働時間制の適用が認められるかどうかが問題となった裁判例をご紹介いたします。
ご参照いただけますと幸いです。

 

1 ハイクリップス事件(大阪地判平20・3・7労判971・72)

【判示の概要】
みなし労働時間制は、単に労働者が事業場外で業務に従事しただけでなく、労働時間を算定し難い場合に適用されるところ(労働基準法38条の2第1項本文)、被告は、タイムシートを従業員に作成させ、始業時刻や終業時刻を把握していただけでなく、どのような業務にどのくらいの時間従事したかも把握していたこと、に電子メール等の連絡手段を通じて業務上の連絡を密にとっていたものと認められること、タイムシートには、みなし労働時間制の適用を前提とした画一的な始業時刻と終業時刻を記載するよう指示するのではなく、原則として実際の始業時刻と終業時刻を記載するよう指示していたことからすると、原告について、労働時間を算定し難い状況があったとは認められない。
よって、みなし労働時間制、(労働基準法38条の2)の適用はない。

以上のとおり、本裁判例においては、労働時間を算定しがたい状況にあったといえるかどうかを、客観的な資料、状況を踏まえて判断し、結論としてみなし労働時間制の適用を否定いたしました。
他の事案でも考え方が参考となる裁判例といえます。

 

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賃金制度の変更と黙示の承諾について

2023-01-23

本コラムにおいては、労働者の賃金に関する裁判例をいくつかご紹介してまいりました。
本日は、会社が歩合給制を導入した後に、退職した従業員から歩合給制への変更は無効であり、変更前の賃金制度に基づく退職金の請求がなされた事案に関する裁判例をご紹介いたします。
ご参照いただけますと幸いです。

 

1 大阪地判平14・7・19(労判833・22)

【判示の概要】
歩合給制の導入には合理的な理由があり、またこれの導入によって賃金額が上がった従業員もおり、歩合給制の導入が直ちに従業員に不利益な賃金体系であるということもできないし、歩合給制が導入され、これに基づく賃金が支給された後も原告らを含む従業員から苦情や反対意見が述べられたとの事情はうかがわれず、むしろ、営業社員の中には成果主義導入を歓迎する者もいた(被告本人兼被告会社代表者松岡)のであるから、原告らは歩合給制導入を認識し、歩合給制に基づいて計算された賃金を受領することにより歩合給制の導入を黙認していたというべきである。
また、平成12年11月の基本給減額についても、賃金を使用者が一方的に減額することは認められるものではないが、原告らはいずれも減額された賃金を受領しており、基本給の減額については黙示に承諾していたものというべきである。
この点、原告らは、生活のために賃金を受領していたにすぎない旨主張するが、原告らが基本給減額時に被告会社に抗議した等減額を拒絶した等の事情を認めるに足りる証拠は全くない。
したがって、歩合給制導入及びその後の基本給減額が無効であるとの原告らの主張は採用できない。

 

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賃金支払確保法における基準退職日について

2023-01-16

以前のコラムにおいて、賃金支払確保法における未払賃金の立替払制度をご紹介いたしました。
この点関連して、基準退職日に関する判断を示した裁判例をご紹介いたします。
ご参照いただけますと幸いです。

 

1 豊中管財・茨木労働基準監督署長事件(大阪地判平10・7・29労判747・45)

【判示の概要】
未払賃金立替制度は、労災保険の適用事業に該当する事業の事業主が破産の宣告を受け、その他賃確令で定める事由に該当することとなった場合において、当該事業に従事する労働者で、賃確令で定める期間内に当該事業を退職した者に係る未払賃金を一定の範囲内で国が労働者に対して支払う制度である。

そして、企業倒産等に伴う労働者の保護という賃確法の立法趣旨からするときは、右基準退職日の退職とは、契約期間満了による自然退職や労働者の意思に基づく任意退職のみならず、解雇その他により雇用契約が終了する場合や、法律上は雇用契約の明確な終了原因が存しない場合であっても労働者が事実上就労しなくなった場合も含まれると解すべきである。けだし、このような場合には、労務提供の受領拒絶は事業主の責に帰すべき事由によるものであるから、労働者が自ら解約の申出をしない限り、未払賃金は増大してゆくのであって、これを全て立替払の対象にすることは、現に就労していない労働者の保護として明らかに行き過ぎであり、ひいては未払賃金立替払制度の健全な運営を阻害することとなるからである。

 

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年次有給休暇の自由利用の原則について

2023-01-09

本日は、年次有給休暇の自由利用の原則に関する判例をご紹介いたします。
年次有給休暇は、労働者にとって非常に重要な制度ですので、経営者の方は、年次有給休暇を適切に労働者に取得させることが現在では求められております。
以下、ご参照いただけますと幸いです。

 

1 林野庁白石営林署事件(最判昭48・3・2労判171・10)

【判示の概要】
年次有給休暇の権利は、労基法三九条一、二項の要件の充足により、法律上当然に労働者に生ずるものであつて、その具体的な権利行使にあたつても、年次休暇の成立要件として「使用者の承認」という観念を容れる余地はない(労基法の適用される事業場において、事実上存することのある年次休暇の「承認」または「不承認」が、法律上は、使用者による時季変更権の不行使または行使の意思表示にほかならないことは、原判決説示のとおりである)。年次休暇の利用目的は労基法の関知しないところであり、休暇をどのように利用するかは、使用者の干渉を許さない労働者の自由である、とするのが法の趣旨であると解するのが相当である。

 

繰り返しになりますが、年次有給休暇は労働者にとって非常に重要な制度であり、適切に取得させない会社は、インターネット上等で非難を受ける等、企業の評判、ひいてはびじねすそのものにまで大きな悪影響を与える可能性がある問題といえますので、対応には十分注意することが必要です。

 

2 弁護士へのご相談をご希望の方へ

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特殊な形態の関税について

2023-01-02

これまで本コラムにおいて、様々な関税の種類をご紹介してまいりました。
本日は、関税の種類の内、特殊な形態の関税についてご紹介いたします。
貨物の輸入をビジネスとして行っている方にとっては、関税の種類は重要なものですので、是非ご参照いただけますと幸いです。

 

1 差額関税について

差額関税とは、輸入品の価格と政策的な一定水準の価格との差額を税額とする関税で、輸入品の価格が一定の水準を下回ったとしても、その水準以下で国内市場に出回ることを防ぐことができます。例えば、豚肉などに適用されます。

 

2 スライド関税について

現在、たまねぎ、銅の塊、鉛の塊など国際市況の変動の激しい物品については、輸入品の価格が低下すれば、適当な関税を課す一方で、輸入品の価格が上昇すれば無税とすることにより、国内生産者と国内需要者の利害調整を図る仕組みが取られています。この関税は無税となる付近で、輸入品の価格が高くなるにつれて関税額が減少していくような部分を有するので、一般にスライド関税と呼ばれております。

 

3 季節関税

季節関税とは、輸入される時期によって適用する税率を異にする関税です。
季節関税の目的は、国産品の出回り期が、季節的に偏っている場合、その期間にこれと競合する輸入品に対し高い関税を課すことにより国産品の保護を図り、その他の季節に葉低い関税を課すことにより消費者の要望に個足ることにあります。例えば、バナナやオレンジ等について適用されております。

 

4 弁護士へのご相談をご希望の方へ

当事務所は、代表弁護士が輸出入や通関に関する唯一の国家資格である通関士資格を有しており、輸出・輸入や通関上のトラブルに関するご相談を幅広くお受けしております。
弁護士に相談をした方がよいかお悩みの方もいらっしゃるものと思いますが、お悩みをご相談いただくことで、お悩み解消の一助となることもできます。
輸出・輸入や通関に関するトラブル、税関事後調査を含む税関対応等でお悩みの場合には、ご遠慮なく当事務所までご相談ください。

 

退職勧奨が適法であると判断された裁判例

2022-12-26

本日は、退職勧奨が適法であると判断された裁判例についてご紹介いたします。
ご参照いただけますと幸いです。

 

1 日本IBM事件(東京地判平23・12・28労経速2133・3)

【判示の概要】
退職勧奨は、勧奨対象となった労働者の自発的な退職意思の形成を働きかけるための説得活動であるが、これに応じるか否かは対象とされた労働者の自由な意思に委ねられるべきものである。したがって、使用者は、退職勧奨に際して、当該労働者に対してする説得活動について、そのための手段・方法が社会通念上相当と認められる範囲を逸脱しない限り、使用者による正当な業務行為としてこれを行い得るものと解するのが相当であり、労働者の自発的な退職意思を形成する本来の目的実現のために社会通念上相当と認められる限度を超えて、当該労働者に対して不当な心理的圧力を加えたり、又は、その名誉感情を不当に害するような言辞を用いたりすることによって、その自由な退職意思の形成を妨げるに足りる不当な行為ないし言動をすることは許されず、そのようなことがされた退職勧奨行為は、もはや、その限度を超えた違法なものとして不法行為を構成することとなる。
被告は、退職勧奨の対象となった社員がこれに消極的な意思を表明した場合であっても、それをもって、被告は、直ちに、退職勧奨のための説明ないし説得活動を終了しなければならないものではない。
本件における具体的な事実関係を踏まえると、本件退職勧奨が違法であるとは認められない。

 

2 弁護士へのご相談をご希望の方へ

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退職勧奨を断った従業員に対する子会社への出向命令が無効であると判断された裁判例

2022-12-19

本日は、退職勧奨を断った従業員に対する子会社への出向命令が無効であると判断された裁判例についてご紹介いたします。
ご参照いただけますと幸いです。

 

1 リコー退職勧奨拒否事件(東京地判平25・11・12労判1085・19)

【判示の概要】
そもそも、業務上支障のない余剰人員の割合を六%とする客観的、合理的な根拠自体が明らかとはいえない。各部門一律に同じ割合で余剰人員を人選するよう割り振られていることからみても、六%という割合は、事業実績や将来の経営予測に基づくきめ細やかな検討によって算出されたものではなく、競合他社と比較した、売上げに対する人件費率の目標値から機械的にはじき出された数値であることがうかがわれる。
余剰人員の人選が、人事グループによる依頼後わずか一か月強で終了していること、一般の従業員が第一七次中計の大規模な人員削減方針を知った時点では、既に余剰人員の人選が相当程度進行していたと思われること等も併せ鑑みれば、被告における余剰人員の人選が、基準の合理性、過程の透明性、人選作業の慎重さや緻密さに欠けていたことは否めない。
以上の点及びその他の事情を踏まえると、余剰人員の人選は、会社側が主張するような事業内製化を一次的な目的とするものではなく、退職勧奨の対象者を選ぶために行われたものとみるのが相当である。
したがって、本件出向命令は、人事権の濫用として無効というほかない。

 

2 弁護士へのご相談をご希望の方へ

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仲介料と課税価格の関係性について

2022-12-12

本日は、課税価格に加算する仲介料について、ご紹介いたします。
課税価格への加算要素については、貨物の輸入をビジネスとして行っている方にとっては非常に重要な問題です。
特に、加算要素として加算すべき費用を課税価格に加算していない場合には、事後的に加算税などを課される可能性がありますので、注意が必要です。
以下、ご参照いただけますと幸いです。

 

1 仲介料と課税価格の関係性について

仲介料その他の手数料(関税定率法4条1項)に該当するか否かの判断は、契約書等における名称のみによるものではなく、手数料を受領する者が輸入取引において果たしている役割及び提供している役務の性質を顧慮して行うものとし、買付手数料に該当する場合を除く、以下の手数料は、課税価格に加算する必要があります。

①売手及び買手のために輸入取引の成立のための仲介業務を行う者に対して買手が支払う手数料

②輸入貨物の売手による販売に関し当該売手に代わり業務を行う者に対し買手が支払う手数料(この場合において、「売手に代わり業務を行う者」とは、売手の管理の下で、売手の計算と危険負担により以下の業務を行う者をいいます。)

(i)契約の成立までの業務(例えば、買手を探し、買手から注文を取る業務)
(ii)商品の引き渡しに関する業務(例えば、貨物を保管し、配送を手配する業務)
(iii)その他(例えば、クレーム処理に関する交渉を行う業務)

買付手数料と仲介料のいずれであるかによって、課税価格に加算する必要があるかどうかが異なりますので注意が必要です。

 

2 弁護士へのご相談をご希望の方へ

当事務所は、代表弁護士が輸出入や通関に関する唯一の国家資格である通関士資格を有しており、輸出・輸入や通関上のトラブルに関するご相談を幅広くお受けしております。
弁護士に相談をした方がよいかお悩みの方もいらっしゃるものと思いますが、お悩みをご相談いただくことで、お悩み解消の一助となることもできます。
輸出・輸入や通関に関するトラブル、税関事後調査を含む税関対応等でお悩みの場合には、ご遠慮なく当事務所までご相談ください。

退職願の撤回が認められた裁判例について

2022-12-05

先日のコラムにおいて、退職願の撤回が認められない場合に関する裁判例をご紹介いたしました。
本日は、これとは反対に、退職願の撤回が認められた裁判例をご紹介いたします。
併せてご参照いただけますと幸いです。

 

1 山陽電機軌道事件(岡山地判平3・11・19労判613・70)

被用者による雇用契約の合意解約の申込みは、これに対して使用者が承諾の意思表示をし、雇用契約終了の効果が発生するまでは、使用者に不測の損害を与えるなど信義に反すると認められるような特段の事情がない限り、被用者は自由にこれを撤回することができるものと解するのが相当である。
原告(被用者のこと。以下同様。)の撤回届が本件退職届提出から一週間経過して到達しているが、その間、常務や営業部長には原告の退職届の撤回について打診があり、また、労働組合が原告の撤回の意思を伝えて被告と団体交渉を継続していたことが認められ、結局、本件退職届による雇用契約の合意解約申入れの意思表示は、被告の承諾以前に撤回されたものといえる。
なぜなら、原告が本件退職願を提出するに至った経過に照らしてみれば、常務が専務取締役との協議を経ることなく単独で即時退職承認の可否を決し、その意思表示をなしえたということはできないからである。

上記の裁判例では、退職願を受理した常務が、当該従業員についての人事権を有していなかったことから、退職願の撤回が認められました。
先日ご紹介した裁判例と同様に、退職願を受理したものが、当該従業員の人事権を有しているか否かが重要な判断基準となるものと考えられます。

 

2 弁護士へのご相談をご希望の方へ

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