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はじめに:仮の相談者から寄せられた相談事例のご紹介
本日は、輸出実務において非常に多くの方からお問い合わせをいただく少額特例の解釈、特に複数の貨物を同時に輸出する際の総価額の算定方法について解説いたします。まずは、当事務所に実際に寄せられる相談内容に基づいた、以下の架空事例をご覧ください。グローバルな展開を志す企業様にとって、判断を一つ誤るだけで重大なコンプライアンス違反に直結する重要な局面が示されています。
【相談者】
東京都内で精密測定機器及び電子部品の輸出販売を行うA社 代表取締役 B氏。
【相談内容】
当社は今回、アメリカ合衆国の研究機関向けに、自社で取り扱っている高精度なジャイロスコープ関連部品を輸出することになりました。対象となるのは、輸出貿易管理令別表第一の7の項(2)に該当する貨物X(価額600,000円)と、同じく7の項(2)に該当する貨物Y(価額900,000円)の二種類です。B氏は、輸出実務に詳しい知人から「アメリカのようなグループAの国向けであれば、一〇〇万円以下の取引には少額特例が適用され、経済産業大臣の許可は不要である」という話を聞いていました。B氏は、貨物Xも貨物Yも、それぞれ単体で見れば一〇〇万円以下であるため、少額特例を利用して輸出許可申請手続きを省略し、迅速に出荷できると考えておりますが、果たしてこの対応は法的に適切なのでしょうか。また、もし特例を誤って適用し、無許可で輸出が行われた場合にはどのような法的責任を負うことになるのか、専門的な見地からの詳細な解説を求めています。
このような事例は、輸出ビジネスを営む企業や、大学等の研究機関において、特に複数のスペアパーツや関連機器を同時に送付する際に非常に多く見受けられます。外為法上、貨物を輸出する場合には、リスト規制、キャッチオール規制といった規制の該当性を判断しなければならないことは、貨物の輸出を業として行っている法人や個人事業主の方に広く知られていることと思います。また、大学や各種研究機関においては、共同研究や留学生の受け入れ等、外為法の規制該当性に関して非常に微妙な判断をする必要がある場面も多くあります。本日は取扱いを間違いやすい、あるいは勘違いしやすい事例として、少額特例の合算ルールについて網羅的にご紹介いたします。
1 少額特例の定義と法的根拠
少額特例とは、輸出される貨物の総価額が一定の金額以下である場合に、経済産業大臣の輸出許可を不要とする免除規定のことです。この特例の直接的な法的根拠は、輸出貿易管理令第四条第一項第四号に規定されています。
(輸出貿易管理令第四条第一項第五号)
五 別表第一の五から一三まで又は一五の項の中欄に掲げる貨物(中略)であつて、その総価額が、当該貨物の区分に応じ経済産業大臣が告示で定める額以下のものを輸出しようとするとき。
この規定に基づき、一定の機微性が比較的低いとされる汎用品(デュアルユース品)については、少額取引に限り手続きの簡素化が認められています。しかし、この特例を適用するためには、貨物の種類、総価額、そして仕向地という三つの要素をすべてクリアしなければなりません。
2 事例に対する正しい対応と解説
冒頭の事例について検討いたします。A社のB氏が輸出しようとしている貨物X及び貨物Yは、いずれも輸出令別表第一の7の項(2)に該当するものです。この場合、正しい対応は以下の通りとなります。
上記の事例では、貨物Xと貨物Yの総価額は1,500,000円ですので、少額特例を利用することは出来ません。そのため、輸出許可を取得しなければ外為法違反となりますので注意が必要です。少額特例の利用に関してはよく勘違いされる部分でもありますが、少額特例の総価額として積算すべき貨物の範囲は、輸出令別表第一の各項の中欄のうち括弧毎の貨物となります。そのため、括弧が同じであれば積算することになります。B氏のケースでは、両方の貨物が7の項(2)という同じ括弧内に分類されるため、たとえ別々の製品であっても、その価額を合計した150万円が判定基準となります。アメリカ合衆国(グループA)向けであっても、7の項の特例基準額は一〇〇万円であるため、これを超過している以上、特例の適用は受けられません。
3 総価額算定における「括弧毎」のルールの詳細
少額特例を適用する際、最も間違いが生じやすいのが、この積算範囲の考え方です。輸出令別表第一の中欄は、非常に細かく分類されていますが、法的な積算単位は以下の通りです。
(1)原則的な考え方
同一の契約に基づき、同時に輸出される貨物のうち、別表第一の中欄において同じ「号」や「括弧」で括られているものは、すべて合算して総価額を算出します。例えば、7の項(1)に該当する貨物と7の項(2)に該当する貨物を同時に送る場合は、括弧が異なるため、それぞれ単体で特例の金額判定を行います。しかし、今回の事例のように同じ7の項(2)であれば、合算が義務付けられます。
(2)仕向地による金額基準の相違
少額特例が適用される金額の閾値は、輸出先となる国によって大きく異なります。
一 グループA(旧ホワイト国)向けの輸出
特定の項番(5から13、15の項)に該当する貨物について、原則として一〇〇万円が基準となります。ただし、一部の品目では基準額が異なる場合があるため、常に最新の無償告示等を確認する必要があります。
二 グループA以外の国向けの輸出
原則として一回の取引の総価額が50,000円以下である必要があります。開発途上国や新興国向けの輸出においては、たとえ数万円の部品であってもリスト規制該当品であれば許可が必要になるケースが大半です。
(3)運用通達における補足
輸出貿易管理令の運用について(運用通達)では、分割輸出の禁止についても厳格に定められています。本来一つの契約であるものを、少額特例の枠内に収めるために意図的に二回に分けて申告するなどの行為は、事実の仮装・隠蔽とみなされ、重加算税や刑事罰の対象となります。
4 実務で役立つ少額特例判定マトリクス表
B氏のような実務担当者が、現場で迅速に判断を下すための判定基準表を提示いたします。ワードデータ等に貼り付けて社内管理にご活用ください。
【少額特例の適用要件および積算基準一覧】
確認すべき項目|具体的な判断基準|留意点
--------|----------------|------------
輸出貨物の項番|5から13、15の項に該当するか|1から4、14項は適用不可
積算の単位|別表第一中欄の「括弧」が同一か|同一括弧内は全額合算が必要
仕向地の区分|グループA(旧ホワイト国)か否か|グループにより一〇〇万か五万か
総価額の計算|同一契約、同時輸出の合算額|FOB価格を基準とする
用途の確認|大量破壊兵器等の開発目的ではないか|懸念があれば特例適用不可
需要者の確認|外国ユーザーリストに掲載がないか|掲載があれば特例適用不可
5 外為法に基づく安全保障貿易管理の厳格性
貨物を輸出する場合(及び技術を国際間で移転、提供する場合)には、外為法上の厳格な規制が存在します。日本国内で購入したものであるから、海外に輸出しても問題ないと安易に考えることは非常に危険であり、日本国内で一般に販売されている物品であっても、海外に輸出する際には規制対象となる品目は多数存在します。
(1)転用リスクの遍在
日用品として用いる小さな機械製品であっても、大量破壊兵器や一般兵器に転用することが可能な場合は多数存在します。例えば、今回事例に挙げた7の項のジャイロスコープは、民生用のドローンやカメラの安定装置に使われる一方で、ミサイルの誘導装置や戦闘機の姿勢制御システムの核心部品となり得るものです。
(2)特例適用のリスク
外為法上の許可を取得することが煩雑であることから、安易に特例の適用があると判断することは非常にリスクの高い行為であるといわざるを得ません。B氏のように、積算ルールを正しく理解せずに「単体価格」で判断してしまうことは、実務上の典型的な失敗例です。税関での事後調査や、輸出時の書類審査においてこれが発覚した場合、言い逃れはできません。
(3)法の不知は免責されず
外為法を含む様々な法規制について知らなかったでは済まされません。規制に違反してしまうと重大な犯罪行為となってしまい、違反した場合には重い刑事罰等も存在します。安全保障貿易管理は、単なる国内の事務手続きではなく、国際社会の平和と安全を守るための国際的な枠組みに基づく責任であることを忘れてはなりません。
6 外為法違反に伴う深刻なペナルティ
もし、B氏のA社が無許可輸出を行ってしまった場合、以下のような極めて厳しい処分が科されることとなります。
一 刑事罰
(外国為替及び外国貿易法第六十九条の六)
第四十八条第一項(輸出の許可)に違反した者は、十年以下の懲役若しくは三千万円以下の罰金、またはその併科。なお、対象貨物の価格の五倍が三千万円を超える場合には、その価格の五倍以下の罰金が科されるという「罰金の多額の特例」が存在します。
二 行政処分
経済産業大臣により、一定期間(最長で三年間)の輸出禁止処分や技術提供の禁止処分が下されることがあります。製造業を営む企業にとって、三年の輸出禁止は事実上の倒産宣告に等しい重みがあります。
三 社会的制裁
法令違反の事実は公表され、金融機関からの融資停止や、既存の取引先からの契約解除を招くことになります。一度損なわれた国際的な信用を回復するには、膨大な時間と労力が必要となります。
7 専門家による法的サポートの重要性
貨物を輸出する場合(及び技術を国際間で移転、提供する場合)において、外為法の規制内容に少しでも不安がある場合には、事前にご相談いただくことを強くお勧めいたします。特例の適用可否を判断するには、製品の精密な技術的仕様の把握のみならず、最新の法令、告示、運用通達を横断的に理解しなければなりません。
当事務所は、代表弁護士が輸出入や通関に関する唯一の国家資格である通関士資格を有しており、法務と実務の両面から強力なサポートを提供することが可能です。
【当事務所が提供できる主な支援内容】
一 製品の精密な該否判定支援および少額特例適用の妥当性診断。
二 社内輸出管理規定(ICP:内部輸出管理プログラム)の策定および運用指導。
三 経済産業省に対する輸出許可申請および役務取引許可申請の代行。
四 外国ユーザーリストや懸念取引に関するリスク審査のアドバイス。
五 万が一の無許可輸出発覚時の当局への自主申告および事後対応支援。
六 外為法や関税法に関する社内勉強会の講師派遣。
8 まとめ:適正な輸出管理がグローバルビジネスの安定を支える鍵
本日は、少額特例における総価額の積算ルールについて解説いたしました。B氏のようなケースにおいても、当初から「同じ括弧内は合算する」という基本ルールを認識していれば、適正に輸出許可を申請し、法的なリスクを回避してビジネスを展開することができました。
企業としては、輸出する貨物の内容や取引相手の意向のみを気にしておけばよく、それ以外の手続面のことはほとんど気にしていない場合も多いものと思われます。しかしながら、このような姿勢には大きなリスクがあると言わざるを得ません。
正しい法令知識に基づき、一つひとつの取引を精査すること。その地道な努力が、貴社のグローバルビジネスを安定させ、不測の事態から会社を守ることに繋がります。当事務所は、貴社の良きパートナーとして、その専門性を最大限に発揮して、安定した海外展開をサポートし続けます。
適正な通関こそが、グローバルビジネスを安定させる唯一の道です。
【お問合せは、こちらから】
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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら)
(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定
本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。

