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はじめに:仮の相談者から寄せられた相談事例のご紹介
本日は、輸出実務において非常に多く発生する、故障した貨物の修理や交換に伴う再輸出の取り扱いについて解説いたします。まずは、当事務所に実際に寄せられる相談内容を模した、以下の架空事例をご覧ください。海外展開を積極的に行う企業様にとって、日常的に起こり得る重要な論点が示されています。
【相談者】
東京都内で精密測定機器の製造販売を行うA社 代表取締役 B氏
【相談内容】
当社は半年前、タイの取引先に対して自社製の高精度測定装置を輸出いたしました。その際は、当該装置が外為法のリスト規制に該当するため、経済産業大臣から正式な輸出許可を取得した上で手続きを完了しております。しかし先日、当該装置が現地で故障したとの連絡があり、修理のために一度日本へ戻しました。検査の結果、主要基板の損傷が激しく修理が不可能であったため、当社としては、当初輸出したものと全く同じ機種・同じ性能の新品を交換品として無償で送ることを検討しております。B氏は、一度輸出許可を得ている製品の交換品であれば、改めて許可を得る必要はないと考えていますが、法的にはどのような手続きが必要になるのでしょうか。もし許可が必要であるにもかかわらず無許可で送ってしまった場合、どのような罰則を受ける可能性があるのか、専門的な見地からの詳細な解説を求めています。
このような事例は、輸出後のアフターサービスを重視する企業において非常に頻繁に見受けられます。外為法上、貨物を輸出する場合には、リスト規制、キャッチオール規制といった規制の該当性を判断しなければならないことは、貨物の輸出を業として行っている法人や個人事業主の方に広く知られていることと思います。また、大学や各種研究機関においては、共同研究や留学生の受け入れ等、外為法の規制該当性に関して非常に微妙な判断をする必要がある場面も多くあります。本日は、特に実務上の判断を間違いやすい、あるいは勘違いしやすい事例として、修理・交換品の再輸出に関する特例規定をご紹介いたします。
1 修理・交換に伴う再輸出の具体的事例
日本法人A社は、自社で製造した機械Xについて、タイへの輸出許可(外国為替及び外国貿易法第四十八条第一項)を取得し、タイ法人Bに対して輸出し、無事に通関を完了いたしました。ところが、輸出後半年後に機械Xが現地で故障したため、日本で修理をするためにいったん本邦に戻しました。しかし、国内の工場で確認したところ修理が不可能であったため、当初の機械Xと同じ機種、かつ同じ性能の物を交換品としてタイ法人Bに対して無償で輸出しようと考えています。この場合、改めて経済産業大臣の輸出許可を取得する必要があるのか、あるいは何らかの特例が適用されるのか、という点が実務上の大きな争点となります。
通常、貨物を輸出する際には、一回の取引ごとに許可を得るのが原則です。しかし、一度許可を得て輸出したものが故障し、そのメンテナンスとして再度送り出す場合にまで、毎回数週間を要する許可申請を求めることは、企業の円滑な経済活動を妨げることになります。そのため、外為法関連法令には「無償」で行われる特定の輸出について、許可を不要とする特例が設けられています。
2 正しい法的手続きと特例の適用要件
上記の事例では、結論から申し上げますと、無償告示第一号(一)に規定する修理等に該当するため、一定の要件を満たす限りにおいて改めての輸出許可は不要です。この特例は、正式には「輸出貿易管理令に基づき、経済産業大臣が告示で定める貨物を輸出する場合の免除」と呼ばれており、実務上は「無償告示」と通称されています。
二 次に掲げる貨物を輸出しようとするとき。
ホ 前各号に掲げるもののほか、無償で輸出し、又は無償で輸入して無償で輸出する貨物であつて、経済産業大臣が告示で定めるもの
この規定を受けた具体的な告示の内容を確認しましょう。
(無償告示第一号(一))
本邦から輸出された貨物であつて、その修理のため本邦に輸入されたもの又は当該貨物の修理に代えてこれと同一の機種の貨物と交換するために本邦に輸入されたものを無償で輸出する場合。ただし、当該貨物が輸出貿易管理令(以下「令」という。)別表第一の一の項に掲げるものであるときは、経済産業大臣が告示で定めるものに限る。
本特例を適用するためには、以下の厳格な条件をすべて満たす必要があります。
第一に、当初の輸出が適正に行われていること。すなわち、前回の輸出の際、必要な許可を適正に得ているか、あるいは当時も特例等に基づき適法に輸出されていたことが前提となります。
第二に、無償での輸出であること。修理代金や交換品代金を徴収する場合は、本特例の対象外となり、通常の輸出許可が必要となります。
第三に、同一の機種、同一の性能であること。ここが実務上最も間違いやすいポイントです。運用通達四-一-二(五)(イ)において、この詳細が定められています。機種や性能などが少しでも異なる物である場合には、代替品であったとしても輸出許可を再度取得する必要がある点には注意が必要です。例えば、当初輸出した機種が既に廃盤となっており、後継機種を送る場合、たとえ無償であっても特例の範囲外となります。
(運用通達四-一-二(五)(イ))
(イ)「同一の機種」とは、原則として、型式番号が同一であることをいう。ただし、製造中止等の理由により、同一の型式番号の貨物が入手不可能な場合には、当初輸出された貨物の性能等と同等のものを含むものとする。
このように、やむを得ない事情がある場合には同等品も認められる余地がありますが、その判断を誤ると無許可輸出に直結するため、極めて慎重な法解釈が求められます。
3 実務で役立つ修理・交換品の輸出判定一覧表
B氏のような経営者が、現場で迅速に判断を下すためのチェックリストを作成いたしました。ワードデータ等に貼り付けて、社内の輸出管理マニュアルの付録としてご活用ください。
【修理・交換品の再輸出における許可要否判定基準】
取引の状況|許可の要否|適用の根拠・留意点
--------|----------|----------------
国内で修理し、現物を再輸出|不要|無償告示第一号(一)の適用
同一機種の新品と交換して輸出|不要|同上(型式番号が同一であること)
性能が向上した新モデルと交換|必要|特例対象外。改めてリスト規制判定が必要
有償で修理用部品を輸出|必要|無償ではないため通常の許可が必要
修理が間に合わず、他機種を代替機として貸出|必要|「同一機種」に該当しないため特例不可
キャッチオール規制対象国への輸出|要注意|仕向地によっては特例適用に制限がある場合あり
4 外為法及び安全保障貿易管理の重要性
貨物を輸出する場合(及び技術を国際間で移転、提供する場合)には、外為法上の厳格な規制が存在します。日本国内で購入したものであるから、海外に輸出しても問題ないと安易に考えることは非常に危険であり、日本国内で一般に販売されている物品であっても、海外に輸出する際には規制対象となる品目は多数存在します。
安全保障貿易管理の観点からは、たとえ民生用の機械であっても、その内部に使用されている高度なセンサーや半導体、あるいは構造材料が、大量破壊兵器の製造やミサイルの誘導装置に転用される恐れがあるため、国境を越える移動はすべて厳重な監視下に置かれています。日用品として用いる小さな機械製品であっても、大量破壊兵器や一般兵器に転用することが可能な場合は多数存在します。
B氏のような経営者が最も注意すべきは、法令の「特例」を拡大解釈してしまうリスクです。外為法上の許可を取得することが煩雑であることから、安易に特例の適用があると判断することは非常にリスクの高い行為であるといわざるを得ません。修理・交換だから大丈夫という先入観が、重大な不祥事を招く原因となります。
5 無許可輸出に伴う深刻なペナルティ
知らなかったでは済まされず、重大な犯罪行為(ひいては国際的な平和を損なう行為にもなりかねないことはくれぐれも気を付けるべきです。)となってしまい、違反した場合には重い刑事罰等も存在します。
(1)刑事罰の内容
第四十八条第一項の規定による許可を受けないで、輸出令別表第一の一の項から十五の項までの中の特定の貨物を輸出した者は、十年以下の懲役若しくは三千万円以下の罰金に処し、又はこれらを併科する。
また、対象となる貨物の価格の五倍が三千万円を超える場合には、その価格の五倍以下の罰金に処せられるという規定もあり、企業の財政基盤を揺るがす甚大な打撃となります。
(2)行政処分
経済産業大臣により、一定期間(最長で三年間)の輸出禁止処分が下されることがあります。製造業を営むA社にとって、三年の輸出禁止は、海外顧客のすべてを失うことを意味し、事実上の倒産宣告に等しいものです。
(3)社会的信用の失墜
法令違反の事実は公表され、金融機関からの融資停止や、既存の取引先からの契約解除を招くことになります。コンプライアンスを重視する現代のグローバルサプライチェーンにおいて、一度失った信頼を回復することは極めて困難です。
6 専門家によるリーガルチェックの重要性
貨物を輸出する場合(及び技術を国際間で移転、提供する場合)において、外為法の規制内容に少しでも不安がある場合には、事前にご相談いただくことを強くお勧めいたします。特例の適用可否を判断するには、製品の技術的仕様、当初の輸出経緯、仕向地の情勢、そして最新の告示の内容を総合的に分析しなければなりません。
当事務所は、代表弁護士が輸出入や通関に関する国家資格である通関士資格を有しており、法務と実務の両面から強力なサポートを提供することが可能です。弁護士でありながら通関実務の深い知見を持つことで、単なる法令の解釈に留まらず、税関当局や経済産業省がどのような視点で調査を行い、どのような証拠書類を重視するかという実践的なアドバイスを提示することができます。
【当事務所が提供できる具体的な支援内容】
一 修理・交換品の再輸出に係る特例適用の該否判定および法的な意見書の作成。
二 経済産業省に対する輸出許可申請および役務取引許可申請の代行。
三 社内輸出管理規定(ICP:内部輸出管理プログラム)の策定および運用指導。
四 外国ユーザーリストや懸念取引に関するリスク審査のアドバイス。
五 万が一の無許可輸出発覚時の当局への自主申告および事後対応支援。
六 外為法や関税法に関する社内勉強会の講師派遣。
7 まとめ:適正な輸出管理がグローバルビジネスの安定を支える鍵
本日は、輸出後のトラブル対応としての修理・交換における外為法上の留意点について解説いたしました。B氏のようなケースにおいても、当初の貨物と同一であることを証明する資料を整え、特例の要件を正確に満たしていることを確認すれば、法的リスクを回避して円滑にアフターサービスを提供することが可能です。
企業としては、輸入する貨物の内容や取引相手の意向のみを気にしておけばよく、それ以外の手続面のことはほとんど気にしていない場合も多いものと思われます。しかしながら、このような姿勢には大きなリスクがあると言わざるを得ません。
正しい法令知識に基づき、一つひとつの取引を精査すること。その地道な努力が、貴社のグローバルビジネスを安定させ、不測の事態から会社を守ることに繋がります。当事務所は、貴社の良きパートナーとして、その専門性を最大限に発揮して、安定した海外展開をサポートし続けます。
適正な通関こそが、グローバルビジネスを安定させる唯一の道です。
【お問合せは、こちらから】
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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら)
(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定
本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。

