ある日、税関からの連絡でこう告げられました。
「申告されたインボイスの価格が実際の支払価格と一致しておらず、課税価格として認められません」
これは、ある中小輸入業者が取引先から受け取ったインボイスの誤記に気付かないまま申告を行った結果、税関から関税評価の否認と追徴課税を受けた事例です。
今回はこの実例をもとに、インボイス記載ミスのリスクと実務対応の要点を解説します。
このページの目次
1 インボイスのどこが問題だったのか?
問題となったインボイスには、以下のような誤りが含まれていました。
①実際の契約価格よりも10%安い価格が記載されていた
②商品の型番が一部省略されており、申告品目との整合性が取れなかった
③通貨の単位(USDとHKD)の記載が混在していた
このままの内容で輸入申告を行ったため、税関は「実際の支払価格とは異なる虚偽の価格で申告された」と判断し、課税価格が否定されました。
2 関税評価への影響とは?
関税法上、輸入申告の評価は「実際に支払った、または支払うべき価格(現実支払価格)」を基準にします。
インボイスがその根拠資料となるため、金額や商品名、条件等の誤記があると、評価の信頼性が損なわれることになります。
3 なぜミスが見過ごされたのか?
①海外サプライヤーが作成したインボイスをそのまま使用
②社内での価格確認や内容チェックのフローが未整備
③輸入担当者が英語表記や通貨表示に不慣れだった
こうした体制の弱さが、結果的に重大な税関トラブルへとつながったのです。
4 実務での防止策
以下のような対応でリスクを軽減できます。
①インボイスの内容(価格・通貨・数量・品目)と契約書を突き合わせて確認
②通関前に、会計部門・仕入担当とのクロスチェックフローを設定
③インボイスのひな形や記載ルールについて、取引先と明文化しておく
④インボイスに疑義がある場合は、修正依頼か補足文書(サイドレター)を用意
加えて、税関とのトラブルを防ぐため、必要に応じて事前教示制度(HSコードや関税評価の照会)を活用するのも有効です。
インボイスは輸入取引における『生命線』ともいえる書類です。
わずかな記載ミスでも、税関からの評価否認や追徴課税につながる重大なトラブルとなりかねません。
「単純な誤記」が命取りにならないよう、社内チェック体制と仕入先との明確なルールづくりを意識しておくことが大切です。
当事務所では、税関トラブル予防のための書類チェック体制構築や、インボイストラブル対応のアドバイスも行っております。ご不安な方はお気軽にご相談ください。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。