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知的財産侵害品の輸入差止め、他人事ではありません
ECサイトの運営や小売業では、海外から商品を仕入れて国内で販売する場面があります。しかし、取扱商品の権利関係を十分に確認しないまま輸入すると、「知的財産の侵害」という法的リスクに直面することがあります。特に、海外ブランド品や人気キャラクターをあしらった商品を扱う際には、細心の注意が求められます。
「取引先は『ライセンスは問題ない』と言っているから大丈夫だろう」
「ノベルティとして少量輸入するだけだから、大ごとにはならないはず」
こうした少しの油断が、税関での輸入差止めという深刻な事態を招きかねないのです。貨物が税関で止められれば、納期遅延、顧客対応、在庫管理、仕入費用の損失など、事業運営に大きな影響が生じる可能性があります。そのため、輸入事業者にとって事前の確認は重要です。特に近年、海外プラットフォームからの仕入れに伴う模倣品リスクが活発化する中で、そのリスクはより身近なものとなっています。
この記事では、通関・貿易法務に注力する弁護士の立場から、知的財産侵害品の輸入差止めに関する税関の手続き、企業が事前に取るべき具体的な注意点、そして万が一の事態に直面した際の対応策まで、事業主の皆様が知っておくべき知識を分かりやすく解説します。
税関による輸入差止めの現状:最新データから見る傾向
「知的財産侵害品の輸入差止め」と聞いても、具体的にどれくらいの規模で発生しているのか、イメージが湧きにくいかもしれません。しかし、財務省が公表する統計データを見ると、これが決して稀なケースではないことが分かります。
税関では、商標権や著作権、特許権などの知的財産権を侵害する物品の輸入を水際で差し止めるための取締りを日々行っています。公表されている最新の統計によれば、輸入差止めの件数・点数は依然として高い水準で推移しており、特にECサイトなどを通じた小口貨物での摘発が目立ちます。

差し止められる品目としては、従来から多いバッグ類や衣類、スマートフォンケースといった商標権を侵害する、いわゆる「模倣品」に加え、近年では人気アニメやゲームのキャラクターを使用したフィギュア、キーホルダーといった著作権侵害物品の割合が増加傾向にあります。これは、日本のコンテンツが海外で高い人気を博していることの裏返しとも言え、キャラクターグッズを扱う事業者にとっては特に注意が必要な状況です。こうした状況は、並行輸入と模倣品対策の境界線をより複雑にしています。
これらの客観的なデータは、知的財産侵害が一部の悪質な業者だけの問題ではなく、正規のビジネスを行っている事業者でさえ、知識不足から意図せず巻き込まれてしまうリスクがあることを示唆しています。
その商品、本当に大丈夫?輸入前のライセンス確認が重要
税関での輸入差止めという最悪の事態を回避するために、最も重要かつ効果的な対策は、言うまでもなく「輸入前のライセンス確認」です。この確認を怠ると、輸入差止めや権利者対応など、事業上の大きなリスクにつながる可能性があります。
特に危険なのが、海外の取引先が発する「ライセンスは取得済みなので問題ない」という言葉を鵜呑みにしてしまうケースです。取引を円滑に進めたいという思いから、つい相手の言葉を信じてしまいがちですが、法的な観点からは極めてリスクの高い判断です。なぜなら、その「ライセンス」が日本の法律上、本当に有効なものかを検証しなければ、何の意味もなさないからです。
万が一、そのライセンスが無効なものであったり、そもそも存在しなかったりした場合、税関での差止めはもちろん、国内での販売後に権利者から損害賠償請求を受けるなど、事業に大きな損害を与える可能性があります。安全な海外業者との契約のためにも、事前の確認は不可欠です。
キャラクター商品の輸入で特に注意すべき著作権・商標権
キャラクター商品を輸入する際には、特に「著作権」と「商標権」という二つの権利が複雑に絡み合うため、より一層の注意が必要です。
- 著作権:キャラクターのイラストやデザインそのものは「著作物」として、著作権法によって保護されています。これを無断で複製(商品を製造すること)し、輸入・販売する行為は著作権侵害にあたります。
- 商標権:キャラクターの名称やロゴ、特定の決めポーズなどが「商標」として特許庁に登録されている場合があります。商標権は、その商品がどの企業から提供されているかを示す「目印」としての機能を保護する権利です。無断で登録商標を使用した商品を輸入・販売すれば、商標権侵害となります。
例えば、あるアニメキャラクターのTシャツを輸入するケースを考えてみましょう。Tシャツに描かれたキャラクターのイラストを使用するには「著作権者」の許諾が必要です。同時に、そのキャラクター名がロゴとしてデザインされ、アパレル分野で商標登録されていれば、「商標権者」の許諾も必要になります。著作権者と商標権者が同じであるとは限りません。どちらか一方の許諾しか得られていない場合、適法なライセンス品とは言えず、輸入差止めの対象となる可能性があります。安易な判断は、輸入ビジネスにおける商標権侵害という深刻な法的リスクを招きます。地方自治体によっては、産業財産権の取得支援事業などを通じて権利保護の重要性を啓発しています。
海外取引先の「ライセンス」を信じる前に確認すべき5つのこと
では、具体的に何をどのように確認すれば、取引の安全性を高めることができるのでしょうか。海外の取引先から「ライセンスは万全だ」と説明を受けた際に、必ず確認していただきたい5つの実践的なチェック項目を以下に示します。

- ライセンス許諾元の正式名称と連絡先を確認する
「どの会社」からライセンス許諾を受けているのか、その企業の正式名称と所在地、連絡先を具体的に確認しましょう。曖昧な回答しか得られない場合は注意が必要です。 - 許諾されている商品カテゴリーと販売地域を確認する
ライセンス契約は、通常、特定の商品(例:アパレル、文房具など)や販売地域(例:アジア地域限定、日本国内を除くなど)に限定されています。自社が輸入しようとしている商品と、販売を予定している日本が、許諾の範囲に含まれているかを厳密に確認する必要があります。 - ライセンス契約書の提示を(可能な範囲で)依頼する
守秘義務などを理由に契約書そのものの開示は難しい場合も多いですが、許諾範囲が明記された部分の抜粋など、客観的な証拠の提示を求めてみましょう。誠実な取引先であれば、何らかの形で協力してくれるはずです。 - 製品に正規品の証(ホログラムシール等)があるか確認する
正規のライセンス商品は、偽造防止のためにホログラムシールや固有のシリアルナンバーが付与されていることが多くあります。現物や写真でこれらが存在するかを確認するのも有効な手段です。 - 許諾元企業の公式サイトで正規ライセンシーか確認する
権利者である企業の公式サイトなどでは、正規のライセンス契約を結んでいる企業(ライセンシー)のリストを公開していることがあります。取引先がそのリストに掲載されているかを確認することは、極めて信頼性の高い検証方法です。
これらの確認作業は、時に手間がかかり、取引先に不快に思われるのではないかと躊躇するかもしれません。しかし、これは自社のビジネスを守るための当然の権利であり、義務でもあります。これらの確認を怠った結果、将来的に発生しうる損害の大きさを考えれば、決して無駄なコストではありません。特に貿易契約におけるリスク管理の一環として、徹底することが求められます。
もし税関から「認定手続開始通知書」が届いたら
万全の対策を講じていても、予期せぬトラブルに見舞われる可能性はゼロではありません。もし、あなたの会社宛てに税関から「認定手続開始通知書」という書面が届いたら、それは輸入しようとした貨物が知的財産侵害の疑いがあるとして、税関で保留されていることを意味します。このような事態に陥ると、荷物が税関で止まってしまうことになります。
この通知を受け取ると、多くの方はパニックに陥ってしまうかもしれません。しかし、ここで最も重要なのは、冷静に、そして迅速かつ適切に対応することです。認定手続は、輸入者に反論の機会を与えるための法的なプロセスです。この段階での対応を誤ると、本来であれば輸入できたはずの貨物まで失うことになりかねません。
認定手続の具体的な流れについては、税関のウェブサイトでも情報が公開されています。
参照:税関の認定手続
輸入者として取るべき初動対応と意見書の提出
「認定手続開始通知書」を受け取ったら、まず以下の3点を確認してください。
- 対象となっている貨物の内容
- 侵害が疑われている知的財産権(商標権、著作権など)と権利者の名称
- 意見及び証拠を提出できる期限
特に「期限」は厳守する必要があります。この期限内に、輸入者として「当該貨物は知的財産権を侵害しない」と主張するための「意見書」と、その主張を裏付ける「証拠」を税関に提出することができます。
もし、輸入しようとした商品が正規のライセンス品であると確信している場合、証拠として以下のような資料が有効です。
- 海外取引先との間で締結したライセンス契約書
- 権利者からの許諾を証明する書類
- 取引の経緯がわかるメールや発注書
- 正規品であることを示すカタログや仕様書
意見書の作成や証拠の収集は、法的な専門知識を要する場面も多く、自社だけで対応するのは困難な場合があります。特に、真正品の並行輸入における法的有効性を主張するような複雑なケースでは、説得力のある意見書を作成するために高度な法的議論が求められます。この段階で、通関・貿易に精通した弁護士に相談し、対応を依頼することが、事態を有利に進めるための有効な選択肢となります。
非該当の主張が認められない場合の流れと貨物の行方
提出した意見書や証拠によっても侵害の疑いが晴れず、税関が最終的に「知的財産侵害物品に該当する」と認定した場合、輸入者はその貨物を国内に引き取ることはできません。
認定された貨物は、関税法に基づき「没収」され、原則として税関によって廃棄処分されることになります。これは、仕入れにかかった費用が全額損失となることを意味します。さらに、悪質なケースと判断された場合には、関税法違反として刑事罰(懲役や罰金)の対象となる可能性もゼロではありません。
知的財産侵害物品と認定された場合、仕入費用の損失だけでなく、取引先や顧客からの信用にも影響する可能性があります。そのため、トラブル発生後の対応だけでなく、輸入前の権利確認や契約条項の整備など、予防的な対応を行うことが重要です。
輸入ビジネスを守るための予防法務と弁護士の活用
ここまで見てきたように、知的財産侵害品に関するトラブルは、一度発生するとその影響は甚大です。大切なのは、問題が起きてから場当たり的に対処する「臨床法務」ではなく、そもそも問題が起きないような仕組みを構築する「予防法務」という視点です。
具体的には、以下のような取り組みが考えられます。
- 新規取引先との契約時には、知的財産権の保証に関する条項を盛り込む。
- 仕入れ担当者向けに、ライセンス確認の社内マニュアルを作成し、定期的に研修を行う。
- 疑わしい点があれば、取引を進める前に必ず法務担当者や顧問弁護士に確認するプロセスをルール化する。
こうした体制を自社だけで構築するのは容易ではないかもしれません。特に、複雑な国際契約書のレビューや、海外取引先の信用調査、そして税関との折衝には、高度な専門知識と経験が不可欠です。このような場面で、通関・貿易実務に精通した弁護士は、契約内容の確認、税関対応、権利関係の整理などを通じて、輸入ビジネスのリスク管理を支援できます。輸入貨物の国内流通に関する法的な注意点を含め、ビジネスのあらゆる段階でリスクを洗い出し、適切な対策を講じるお手伝いができます。
トラブルを未然に防ぐ体制を整えることは、専門家に相談する主なメリットの一つです。知的財産に関するリスク管理でお悩みの際は、ぜひ一度、当事務所にご相談ください。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。

