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1 はじめにー相談事例の紹介
まずは、輸出実務の現場で実際に起こり得る具体的な相談事例をみてみましょう。
【相談者】
機械部品製造業 A社 海外営業部担当者
【相談内容】
「当社では、東南アジアの顧客に向けて精密機械部品の輸出を計画し、既に税関から輸出許可を取得しました。貨物は現在、港の保税地域(コンテナヤード)に搬入されており、明日の船便で出港する予定です。ところが、先ほど先方の担当者から連絡があり、現地の工場の設備トラブルにより、急遽注文をキャンセルしたいとの申し出がありました。
貨物を国内の自社工場に戻したいと考えておりますが、一度輸出許可を受けてしまった貨物を引き取るには、どのような手続きが必要になるのでしょうか。また、一度外国貨物扱いになったものを国内に戻す際、改めて関税や消費税を支払わなければならないのでしょうか。手続きの流れと注意点について詳しく教えてください」
このような状況は、国際取引においては決して珍しいことではありません。輸出許可を受けた後に、何らかの事情で貨物を取り戻す必要が生じた場合、適切な法的手続きを踏まなければ、貨物を国内に引き取ることができなくなります。本記事では、輸出取止めに伴う手続きの全体像を詳しく解説します。
2 輸出許可を受けた貨物の法的性質
輸出の許可を受けた貨物は、日本の法律上、どのような状態にあるのでしょうか。ここが理解の出発点となります。
関税法第2条第1項第3号では、外国貨物の定義について以下のように規定しています。
「輸出の許可を受けた貨物及び外国から本邦に到着した貨物(外国の船中にあるものを含む。)で輸入が許可される前のものをいう。」
つまり、国内で生産された貨物であっても、税関に対して輸出申告を行い、輸出の許可を受けた瞬間に、その貨物は法律上「外国貨物」へと性質が変化します。貨物が物理的に日本国内の保税地域に留まっていたとしても、それは日本の内国貨物ではなく、外国にある貨物と同じ扱いを受けることになります。
したがって、輸出許可後にその貨物を取り戻して国内に流通させる(内国貨物に戻す)ためには、たとえ自社製品であっても、外国から貨物を輸入する場合と同様に「輸入手続き」を行わなければなりません。
3 輸出取止めに伴う再輸入手続きの基本
輸出の許可を受けた貨物を、船積みせずに、または一度船積みした後に国内に引き戻すことを、実務上「輸出取止め再輸入」と呼びます。この際の手続きの根拠となるのが、関税法基本通達67-1-15(輸出取止め貨物の輸入申告等)です。
同通達では、輸出許可を受けた貨物を輸出しないこととした場合には、原則として輸入申告が必要である旨が定められています。
(1)輸入(納税)申告書の提出
輸出を取り止める際には、税関長に対し、通常の輸入と同様に「輸入(納税)申告書」を提出し、輸入の許可を受けなければなりません。この手続きを行うことで、外国貨物となった貨物を再び内国貨物へと戻すことが可能になります。
(2)手続きの簡素化
通常の輸入手続きと異なる点は、この貨物が「もともと日本から輸出しようとしたもの」であるという点です。そのため、輸出許可時の情報と照らし合わせることで、審査や検査が効率化される場合があります。
4 関税及び内国消費税の免税制度
一度輸出許可を受けた貨物を再輸入する際、最も懸念されるのが「関税や消費税を二重に支払う必要があるのか」という点です。結論から申し上げますと、一定の要件を満たすことで、これらの税金は免除されます。
(1)関税の免除
関税定率法第14条(無条件免税)第10号には、以下の規定があります。
「本邦から輸出された貨物で、その輸出の許可の際の性質及び形状が変わらないまま本邦に再輸入されるもの」
輸出取止めによって戻ってくる貨物は、輸出許可時と性質や形状が変わっていないことが一般的ですので、この規定により関税が免除されます。
(2)内国消費税の免除
輸入品に対する内国消費税の徴収等に関する法律第13条第1項第1号には、以下の規定があります。
「関税定率法第14条第10号(再輸入免税)の規定により関税が免除される貨物」
関税が免除される貨物については、内国消費税(消費税及び地方消費税)も同様に免除される仕組みとなっています。これにより、輸出取止めに伴う経済的な負担を最小限に抑えることが可能です。
5 船積み前と船積み後における手続きの相違
貨物の状態が「船積み前」か「船積み後」かによって、実務上の対応が若干異なります。以下の表にその違いをまとめました。
【船積み前後の手続き比較】
| 区分 | 船積み前の輸出取止め | 船積み後の輸出取止め |
| 貨物の所在 | 港湾等の保税地域内 | 本船内、または一度出港した後 |
| 必要な書類 | 輸入申告書、輸出許可書 | 輸入申告書、仕入書(インボイス)、船荷証券(B/L)等 |
| 貿易管理上の適用 | 輸出許可の取消し・修正的側面 | 輸入貿易管理令の適用(要確認) |
| 税関への説明 | 船積みされなかった理由の疎明 | 一度積載された後の陸揚げ理由 |
(1)輸出許可を受けて船積みする前の輸出取止め
貨物がまだ船や航空機に積載されていない状態であれば、手続きは比較的スムーズです。税関に対して「輸入申告書」を提出する際、既に交付されている「輸出許可書」を添付します。これにより、当該貨物が輸出許可済みのものであることを証明し、同一性を確認させます。
(2)輸出許可を受けて船積みした後の輸出取止め
一度船積みされた後に、何らかの理由(例えば、本船の故障による引き返しや、積地での荷役ミス等)で貨物を陸揚げし、国内に戻す場合は、より厳格な書類作成が求められます。
輸入申告書に加え、仕入書(インボイス)やその他所要の書類(船荷証券など)の添付が必要です。
また、重要な点として、輸出貿易管理令の取り扱いがあります。実務上、船積みが行われた時点で「輸出が完了した」とみなされる傾向にあるため、船積み後の引き戻しについては、新規の輸入と同等の厳格なチェックが行われることがあります。特に、輸入制限がある品目の場合には、輸入貿易管理令に基づき、輸入承認が必要になるケースも否定できませんので、事前の確認が不可欠です。
6 実務上の留意事項とトラブル防止策
輸出取止め再輸入の手続きを進めるにあたっては、以下の点に注意が必要です。
(1)貨物の同一性の証明
再輸入免税を適用するためには、輸出時と輸入時の貨物が同一であることを税関に確信させる必要があります。製品番号(シリアルナンバー)がある場合は、それを活用して証明します。そうでない場合は、写真やカタログ、梱包明細書(パッキングリスト)などを活用し、性質及び形状に変更がないことを客観的に証明する準備をしておきましょう。
(2)他法令の確認
関税法以外の法律(例えば、家畜伝染病予防法や植物防疫法、薬機法など)による規制を受ける貨物の場合、再輸入時にもそれらの法令に基づく検査や申請が必要になることがあります。輸出時に検査をクリアしていても、一度外国貨物扱いになった以上、改めて国内への持ち込みが可能かどうかの審査が行われます。
(3)NACCSでの処理
現在の通関実務は、電子通関システム(NACCS)を利用して行われます。輸出取止めの処理についても、システム上でのコード入力や操作が必要となります。通関業者に依頼する場合は、輸出時の申告番号を正確に伝え、連携を密にすることが早期解決の鍵となります。
7 図解による手続きの流れ
以下に、輸出許可後から再輸入までの一般的な流れを整理します。
【輸出取止め再輸入のフロー図】
1.輸出許可の取得
(貨物が内国貨物から外国貨物へ変化)
↓
2.トラブルの発生(注文キャンセル、貨物の瑕疵発覚等)
↓
3.輸出取止めの意思決定
↓
4.貨物の所在確認(船積み前か、船積み後か)
↓
5.書類の準備
(輸出許可書、インボイス、理由書、同一性確認資料等)
↓
6.税関への輸入申告
(関税定率法第14条第10号の適用申請を併せて行う)
↓
7.税関による審査・検査
(必要に応じて保税地域での現物確認)
↓
8.輸入許可の取得
(貨物が外国貨物から内国貨物へ戻る)
↓
9.貨物の引き取り・国内搬送
8 弁護士へのご相談をご希望の方へ
輸出入や通関に関する手続きは、関税法を筆頭に、関税定率法、外為法、輸入貿易管理令など、多岐にわたる専門的な法令が複雑に絡み合っています。今回解説した「輸出取止め再輸入」についても、単に書類を提出すれば済むというわけではなく、法的なロジックに基づいた適切な疎明(説明)が求められます。
特に、以下のような場合には、専門家への相談を強く推奨いたします。
・輸出貿易管理令のリスト規制に該当する貨物を取り戻したい場合
・税関から同一性について疑義を持たれ、免税の適用が認められないと言われた場合
・船積み後の引き返しで、輸入の法的要件を満たしているか不安な場合
・事後調査において、過去の輸出取止め手続きの不備を指摘された場合
当事務所は、代表弁護士が輸出入や通関に関する国家資格である通関士資格を有しております。弁護士としての法的知識と、通関実務の知見を掛け合わせることで、輸出・輸入や通関上のトラブルに関するご相談を幅広く、かつ専門的にお受けしております。
「弁護士に相談するほどのことだろうか」と迷われる方も多いかと存じますが、初期段階で適切な法的アドバイスを受けることは、長期的なリスク回避や、スムーズな事業継続に直結します。
お悩みをご相談いただくことで、法的な見通しが立ち、不安の解消につながることも多々あります。輸出・輸入のトラブル、税関対応、事後調査への備えなど、通関実務に関連するお困りごとがございましたら、どうぞご遠慮なく当事務所までお問い合わせください。経験豊富な弁護士が、貴社のビジネスを法的な側面から全力でバックアップいたします。
9 まとめ
一度輸出の許可を得た貨物は、法的には「外国」にあるものと同じ扱いです。これを国内に戻すには、法律の定めに従い、正しく輸入手続きを行う必要があります。関税法や関税定率法といった関係法令を正しく理解し、税関に対して適切な申告を行うことが重要です。
船積み前であれば輸出許可書を、船積み後であればさらに詳細な貿易関係書類を準備し、迅速に対応しましょう。また、免税規定を正しく適用させることで、余計なコストを抑えることも可能です。
不測の事態に備え、日頃から通関実務の法的根拠を把握しておくことは、貿易に携わる企業にとって極めて重要なリスク管理の一環と言えます。もし手続きに迷いが生じた際は、迷わず専門家を頼るようにしてください。
【お問合せは、こちらから】
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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら)
(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定
本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。

