輸入者による帳簿記載及び書類保存

1 はじめに 相談事例

輸入ビジネスを継続的に行う上で、避けて通れないのが税関による事後調査への備えです。まずは、実際に起こり得る具体的な相談事例をご紹介いたします。

【相談者】

アパレル輸入販売業 C社 法務・コンプライアンス担当者

【相談内容】

「当社は海外のブランドから衣類を継続的に輸入し、国内で販売しております。先日、税関から『事後調査を実施したい』との連絡が入りました。対象となるのは過去5年分の取引とのことです。

慌てて当時の記録を確認したところ、3年ほど前に担当者が交代しており、それ以前の仕入書や契約書が電子メールの履歴も含めてどこに保存されているか正確に把握できていないことが判明しました。また、日々の取引をまとめた帳簿についても、会計ソフト上にはデータがあるものの、税関が求める形式で網羅されているか不安があります。

もし、書類や帳簿が不足していた場合、どのような法的ペナルティを受ける可能性があるのでしょうか。また、法律上、どのような書類をいつまで保存しておかなければならないのか、最新のルールを教えてください」

このような状況は、組織の変更や担当者の離職に伴い、多くの企業で発生しがちな課題です。しかし、関税法では輸入者に対して厳格な保存義務を課しており、これに違反した場合には厳しい処分が待っています。本記事では、輸入者が遵守すべき記帳及び保存義務の詳細について解説いたします。

2 輸入者の記帳及び帳簿保存義務の全体像

申告納税方式が適用される貨物を業として輸入する者は、法律に基づき、適切な記録を残し、それを一定期間保存することが義務付けられています。この義務は単なる事務的な手続きではなく、税関が適正な納税が行われているかを事後的に確認するための極めて重要な法的根拠となります。

(1)対象となる輸入者

「業として輸入する者」が対象となります。つまり、営利を目的として継続的に輸入を行う法人や個人事業主は、すべてこの義務を負うことになります。

(2)義務の根拠規定

主要な根拠となるのは、関税法第94条(帳簿の備付け等)です。

同条第1項では以下のように規定されています。

「申告納税方式が適用される貨物を業として輸入する者は、当該貨物の品名、数量及び価格、仕出人の氏名(法人にあつては、その名称)その他財務省令で定める事項を記載した帳簿を備え付け、これを保存しなければならない」

この規定により、輸入者は取引の都度、必要な事項を帳簿に記録し、適切に管理・保存する公法上の義務を負うことになります。

3 帳簿の記載事項と保存期間の詳細

(1)帳簿への記載事項

関税法第94条第1項及び関税法施行令第83条第1項に基づき、帳簿には以下の事項を遅滞なく記載しなければなりません。

・輸入の許可の年月日及び輸入許可番号

・貨物の品名、数量及び価格

・貨物の仕出人の氏名または名称

・貨物の輸入取引に係る契約の相手方の氏名または名称及び住所

・貨物の輸入申告の日、輸入許可の日、輸入許可の年月日

・その他、課税標準の決定に際して必要となる事項

これらは、税務会計上の帳簿とは別に、関税法上の要件を満たす形で整理されている必要があります。

(2)帳簿の保存期間と場所

帳簿の保存期間については、関税法施行令第83条第6項に定められています。

「法第94条第1項に規定する帳簿の保存期間は、当該貨物の輸入の許可の日の翌日から7年間とする」

保存場所については、原則として輸入者の本店、主たる事務所、または当該輸入取引に係る事務所となります。実務上は、税関の事後調査が行われる際に、迅速に提示できる状態で管理されていることが求められます。

4 書類の保存義務とその範囲

帳簿とは別に、取引の証拠となる各種書類についても保存義務があります。

(1)保存すべき書類の種類

関税法施行令第83条第2項及び第3項に基づき、以下の書類が対象となります。

・仕入書(インボイス)

・輸入取引に係る契約書(基本契約書、個別契約書等)

・運賃明細書、保険料明細書

・仕出人との間で交わされた価格交渉等に関する書簡(電子メールを含む)

・その他、貨物の価格を証明するために必要な書類(価格表、原価計算書等)

(2)書類の保存期間

書類の保存期間は、原則として「輸入の許可の日の翌日から5年間」となります。

ただし、後述する電子取引に係る電磁的記録については、帳簿と同様に7年間の保存が必要となる場合があるため注意が必要です。

なお、関税法第94条第1項ただし書きの規定により、輸入申告の際に関税法第68条の規定に基づき既に税関へ提出した書類については、重ねて保存することを要しません。しかし、実務上は一連の取引資料として自社でもコピーを保管しておくことが一般的です。

5 電子帳簿保存法との関係と電磁的記録の保存

現代の貿易実務では、紙の書類よりも電子データによるやり取りが主流です。これに対応するため、関税法第94条第3項では、電子帳簿保存法の規定を準用しています。

(1)電子取引データの保存義務

電子メールで受信したインボイスや、ウェブサイトからダウンロードした契約書などの「電子取引」を行った場合、その電磁的記録を保存しなければなりません。

関税法第94条第3項において準用する電子帳簿保存法第10条(電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存)に基づき、改ざん防止措置を講じた上で、検索可能な状態で保存することが求められます。

(2)電子計算機による作成と承認

帳簿や書類を最初から電子計算機(コンピュータ)を使用して作成し、保存する場合、以前はあらかじめ税関長の承認が必要でしたが、近年の規制緩和(電子帳簿保存法の改正に伴う準用規定の変化)により、一定の要件を満たせば承認なしでの保存が可能となっています。ただし、保存要件(真実性及び可視性の確保)を満たしていない場合、法的な保存義務を果たしているとはみなされないリスクがあります。

6 保存期間及び対象事項の早見表

以下に、実務で活用できる保存期間の早見表を作成いたしました。

【輸入関係書類の保存期間一覧表】

分類 保存対象項目 保存期間 根拠法令
帳簿 品名、数量、価格、取引先等を記載したもの 7年間 関税法第94条
書類 仕入書(インボイス) 5年間 関税法施行令第83条
書類 運賃明細書、保険料明細書 5年間 関税法施行令第83条
書類 契約書、価格交渉の記録(メール等) 5年間 関税法施行令第83条
電子取引 電子メール等で授受した取引データ 7年間 電子帳簿保存法準用

注1:保存期間はいずれも「輸入許可の日の翌日」から起算します

注2:消費税法等、他法令との兼ね合いで7年間の保存が推奨される場合があります

7 義務違反に対するペナルティと事後調査のリスク

帳簿の備付けを行わなかったり、書類を破棄・紛失したりした場合、輸入者は多大な不利益を被ることになります。

(1)罰則規定

関税法第115条等では、帳簿の備付け義務違反や虚偽記載、書類の隠蔽等に対して、罰金刑が定められています。

(2)推計課税のリスク

事後調査において、価格を証明する書類が提示できない場合、税関長は関税定率法の規定に基づき、類似貨物の価格等を用いて課税標準を「推計」で決定することができます。その結果、本来よりも高い関税や加算税が課される事態になりかねません。

(3)コンプライアンス評価の低下

適切な保存が行われていない企業は、税関から「コンプライアンス(法令遵守)意識が低い」とみなされ、その後の輸入検査の頻度が高まったり、簡易的な通関手続きの利用が制限されたりする等の事実上の不利益を受けることになります。

8 弁護士へのご相談をご希望の方へ

輸入者の保存義務は、関税法、関税法施行令、財務省令、さらには電子帳簿保存法まで多岐にわたる法令を横断的に理解する必要があります。特に、電子データの保存要件については近年の法改正も激しく、自社の運用が現在の法律に合致しているか不安を感じている企業様も多いのが実情です。

当事務所は、代表弁護士が輸出入や通関に関する国家資格である通関士資格を有しており、法律と実務の両面から高度なアドバイスを提供することが可能です。弁護士に相談すべきか迷われている場合でも、まずはお話をお聞かせください。

以下のような課題をお持ちの方は、ぜひ当事務所にご相談ください。

・税関事後調査の通知が届き、過去の書類整備に不安がある場合

・社内の文書管理規程が関税法の要件を満たしているかリーガルチェックを受けたい場合

・電子帳簿保存法への対応を含めた、貿易実務のデジタル化を進めたい場合

・過去の輸入申告に誤りが見つかり、自主的な修正申告を検討している場合

弁護士にご相談いただくことで、法的なリスクを早期に洗い出し、適切な対策を講じることができます。税関対応やコンプライアンス体制の構築は、企業の信頼性を守るための重要な投資です。輸出・輸入や通関に関するトラブル、事後調査への対応等でお悩みの場合には、ご遠慮なく当事務所までお問い合わせください。

9 まとめ

輸入者の帳簿記載及び書類保存義務は、適正な通関を実現するための基盤となるものです。関税法第94条の規定に基づき、帳簿は7年間、重要書類は5年間(電子取引データは7年間)という保存期間を厳守しなければなりません。

事後調査は、ある日突然行われます。その時に「書類が見当たりません」という言い訳は通用しません。日頃から法的要件を満たした管理体制を整えておくことが、予期せぬ追徴課税や罰則から自社を守る唯一の方法です。

本記事の内容を参考に、今一度自社の保存状況を確認し、必要であれば専門家の助言を得て体制を強化されることをお勧めいたします。当事務所は、貿易実務に精通した弁護士として、皆様の円滑なビジネス運営を全力でサポートしてまいります。

帳簿及び書類保存のポイント再確認

・帳簿の保存期間は輸入許可の日の翌日から7年間

・契約書やインボイス等の書類の保存期間は5年間

・電子メール等による取引データ(電子取引)は適切に7年間保存

・保存場所は原則として輸入者の事務所等

・義務違反は罰則や推計課税のリスクを招く

適正な記録管理を通じて、盤石な輸入コンプライアンス体制を築いていきましょう

【お問合せは、こちらから】

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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら

(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定

本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

 

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