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0 はじめに
まずは、当事務所に寄せられた具体的な相談事例をご紹介いたします。
「私は、海外にある関連会社で特別に設計された特殊工作機械を輸入しようとしています。この機械は受注生産品であるため、本邦において同種の貨物や類似の貨物の輸入実績が全くありません。また、輸入後の国内販売価格を基礎とした計算を行おうにも、自社で直接使用する設備であるため、国内での転売予定もありません。このような場合、どのような方法で課税価格を算定すべきでしょうか。海外の生産者からは製造原価に関する詳細なデータ提供を受けることが可能ですが、これを利用した申告は認められるのでしょうか。また、その際の具体的な計算方法や法的根拠についても詳しく教えてください」
輸入貨物の課税価格は、原則として買手が実際に支払う価格に基づきますが、相談者のように原則的な方法が適用できない局面は多々あります。
本日は、そのような際の例外的な算定方法の一つである、製造原価に基づく課税価格の決定方法について解説いたします。
1 製造原価に基づく課税価格の決定方法の概要
輸入貨物の課税価格を決定する際、原則的な方法(関税定率法第4条)や、同種・類似の貨物を用いる方法(同法第4条の2)、国内販売価格に基づく方法(同法第4条の3第1項)によっても決定できない場合に検討されるのが、製造原価に基づく方法です。
この方法は、関税定率法第4条の3第2項に規定されています。実務上、この手法は「構成価格による評価」とも呼ばれ、生産コストを積み上げて価値を算出する非常に客観性の高い手法といえます。
2 国内販売価格に基づく方法との適用順位
関税評価のルールには、適用すべき順番が法律で定められています。
関税定率法第4条の3の規定によれば、原則として「国内販売価格に基づく方法」が「製造原価に基づく方法」よりも優先されます。
しかし、同条第3項には重要な例外規定があります。
輸入しようとする者が税関長に対して、製造原価に基づく方法を優先して適用したい旨を申し出た場合には、その順位を逆転させることが可能です。相談事例のように、国内での転売予定がなく国内販売価格の把握が困難な一方で、製造原価のデータが明確である場合には、この順位逆転の申し出を行うことが実務上有効な選択肢の一つとなります。
【表1 課税価格決定方法の適用順位と選択】
方法の名称/基本的な適用順位/選択の可否
国内販売価格に基づく方法(第4条の3第1項)/第四順位(優先適用)/原則通り
製造原価に基づく方法(第4条の3第2項)/第五順位(後位適用)/輸入者の申し出により優先可
3 製造原価に基づく算定の具体的な構成要素
製造原価に基づく方法では、以下の要素をすべて合算して課税価格を算出いたします。この計算式は関税定率法第4条の3第2項の規定を基礎としています。
【表2 製造原価に基づく課税価格の計算構成要素】
要素の区分/具体的な内容/算出の根拠
(A)製造原価 原材料費、労務費、容器・包装費、補助的な物品の費用等 生産者の商業帳簿
(B)利益・経費 生産国における同類の貨物の販売に係る通常の利潤及び一般経費 生産国の標準的数値
(C)輸送費用等 輸入港までの運賃、保険料その他運送に関連する費用 実際の支払費用
(1)製造原価(A)の範囲
製造原価には、単なる材料費だけでなく、輸入貨物の容器の費用や包装に要する費用が含まれます。さらに、関税定率法第4条第1項第3号に規定される、買手が無償または低価格で提供した金型、工具、原材料などの「アシスト」に要する費用も、生産者が負担している場合には算入しなければなりません。
また、本邦で開発された技術、設計、意匠等の費用であっても、生産者がこれを負担した場合には、当該負担額も原価の一部として構成されます。これらの数値は、原則として生産者の商業帳簿に基づいて確認されることとなります。
(2)通常の利潤及び一般経費(B)
これには、輸入貨物が属する「同類の貨物」について、生産国において本邦への輸出のために販売される際に通常付加される利益と経費が含まれます。ここでいう「同類の貨物」は、輸入貨物と同一の国から輸入されたものに限定されます。
(3)運賃等(C)
最後に、当該貨物が本邦の輸入港に到着するまでの運賃及び保険料を加算いたします。これにより、輸入港に到着した時点での貨物の総価値が確定されます。
4 実務上の留意点と証拠書類の重要性
製造原価に基づく方法は、生産者の協力が不可欠な手法です。税関は申告の妥当性を確認するため、生産者の商業帳簿や会計資料の提示を求めることがあります。
もし、生産者が企業秘密を理由にデータの提供を拒んだり、提供された資料が国際的に認められた会計原則に合致していなかったりする場合には、この方法を採用することは認められません。そのため、事前の契約段階から、関税評価のために必要な情報提供を受けられる体制を整えておくことが肝要です。
5 弁護士へのご相談をご希望の方へ
当事務所の代表弁護士は、法律の専門家であると同時に、輸出入や通関手続きに関する唯一の国家資格である通関士資格を保有しております。
製造原価に基づく課税価格の算定は、関税法や関税定率法のみならず、会計実務や国際的な関税評価協定への深い理解が求められる専門性の高い領域です。当事務所では、以下のような高度な法的サービスを提供しております。
①国内販売価格法と製造原価法のどちらが有利か、または適用可能かの法的検討
②税関長に対する適用順位逆転の申し出に関する手続き代行
③海外生産者から提供された原価データの妥当性検証と税関への説明
④製造原価に含めるべきアシスト費用の正確な按分計算の助言
⑤税関による事後調査において、算定根拠を論理的に防衛するための法的サポート
輸出入や通関上のトラブル、特に特殊な貨物の価格評価でお悩みがある場合には、当事務所までお気軽にご相談ください。通関士の視点と弁護士の知見を融合させ、貴社の円滑な通関と適正な納税を全面的に支援いたします。
【お問合せは、こちらから】
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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら)
(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定
本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。

