特許品の国内複製権と関税評価

1 はじめに―相談事例

【相談者】

千葉県内で機械部品の輸入販売および精密機器の製造支援を行っているTさん。

Tさんは、欧州の先端技術メーカーと提携し、特定の特許技術が組み込まれた精密加工機の「マスター機」を一台輸入し、そのマスター機の構造を基に、日本国内の自社工場で同等の機械を複数台複製・生産するプロジェクトを開始されました。

【相談内容】

「これまでは完成品を輸入して販売するだけでしたが、今回は提携先から『マスター機』を一基だけ輸入し、それを使って日本国内で同じものを製造する許可を得ました。これに伴い、日本で一台製造するごとに一定のロイヤルティ(ライセンス料)を海外の権利者に支払う契約を結んでいます。輸入するマスター機自体の価格はそれほど高額ではありませんが、今後日本で何百台と複製していく中で支払うライセンス料の総額は、膨大な金額になります。この『日本で複製するために支払うライセンス料』は、輸入するたった一台のマスター機の課税価格に加算しなければならないのでしょうか。もし加算が必要となると、関税や輸入消費税が大変な額になってしまいます。法律上の明確なルールを教えてください」

このようなTさんの悩みは、技術導入やライセンス生産を行う日本の製造業者にとって、避けては通れない重要な論点です。

2 課税価格の基本原則と加算要素としてのロイヤルティ

輸入貨物に対して課される関税の計算の基礎となる金額、すなわち「課税価格」を決定するにあたっては、関税定率法第四条の規定が適用されます。原則として、現実支払価格(商品代金)に、特定の「加算要素」を加えたものが取引価格となります。

ロイヤルティやライセンス料がこの加算要素に該当するかどうかについては、関税定率法第四条第一項第4号に規定されています。

関税定率法第四条(課税価格の決定の原則)第一項第四号

次に掲げる費用のうち、買手により負担されるもの

ロ 輸入貨物に係る特許権、実用新案権、意匠権、商標権、著作権、著作隣接権、回路配置利用権又は育成者権(以下この号において「特許権等」という。)の使用に伴う対価であつて、買手により直接又は間接に支払われるもの(当該輸入貨物を本邦において複製する権利の使用に伴う対価を除く。)のうち、取引の状況その他の事情からみて当該輸入貨物の輸入取引をするために支払われるもの

この条文から、ロイヤルティが加算されるためには、以下の二つの条件を同時に満たす必要があることが分かります。

1.当該ロイヤルティが「輸入貨物に係る」ものであること(関連性)

2.当該ロイヤルティの支払いが「輸入取引をするために」行われるものであること(取引の条件)

しかし、Tさんの事例で最も注目すべきは、この条文の中にカッコ書きで示されている「当該輸入貨物を本邦において複製する権利の使用に伴う対価を除く」という除外規定です。

3 本邦において複製する権利(複製権)の定義と除外の趣旨

関税定率法において、なぜ国内での複製権に係るライセンス料が課税価格から除外されるのでしょうか。それは、関税が「輸入される貨物そのものの価値」に対して課されるべきものであり、輸入後に日本国内で行われる製造活動によって付加される価値(複製によって生じる価値)は、輸入貨物そのものの価値とは別個のものとみなされるからです。

ここで言う「輸入貨物を本邦において複製する権利」とは、どのようなものを指すのでしょうか。関税定率法基本通達4―13において、その詳細な定義がなされています。

関税定率法基本通達4―13(本邦において複製する権利の使用に伴う対価)

法第四条第一項第二号ロに規定する「輸入貨物を本邦において複製する権利」とは、輸入貨物に化体され、又は表現されている考案、創作等を本邦において複製する権利(当該輸入貨物(例えば、マスターテープ、マスターディスク等)を用いて、当該輸入貨物と同じ貨物を製造する権利をいう。)をいう。

具体的な例としては、以下のようなケースが該当します。

・特許発明に基づいた機械を一台輸入し、それを手本として日本国内で同じ機械を製造する権利

・ビデオテープやCD、DVD、あるいはデジタルデータのマスター版を輸入し、日本国内でそれをコピーして大量生産する権利

・金型を輸入し、それを用いて日本国内で部品を大量に成形する権利(ただし、金型そのものの使用料と、それによる複製権の区分には注意が必要)

Tさんの事例では、まさに「マスター機」を輸入し、それと同じものを日本で製造するための対価を支払うわけですから、この「複製権」の規定に合致する可能性が極めて高いと言えます。

4 複製権に該当するための要件と判断基準

実務上、支払われるライセンス料が本当に「複製権」に基づくものとして非課税(非加算)となるかどうかは、契約書の内容を精査し、客観的な証拠に基づいて判断されます。以下の表は、ライセンス料が複製権に該当するかどうかを判定するためのチェックポイントを整理したものです。

【国内複製権に係るライセンス料の判定チェックリスト】

判定項目名称|具体的な確認内容の詳細説明

契約上の名目|ライセンス契約書に「複製権(Reproduction Right)」の許諾が明記されているか

対価の算出根拠|輸入個数ではなく、日本国内で製造・販売した数量に基づいて計算されているか

輸入貨物の役割|輸入される貨物が、国内製造のための「マスター(原本)」としての役割を果たしているか

技術の化体状況|輸入貨物そのものに、国内で複製されるべき特許技術やデザインが体現されているか

権利の帰属|複製された製品に付される権利の対価が、輸入時の支払いとは別に設定されているか

Tさんの場合、日本国内で一台製造するごとに支払うという「ランニング・ロイヤルティ」の形式を採っている点は、複製権としての性質を強く示唆する要素となります。しかし、もし契約の中で「マスター機の代金の一部としてロイヤルティを支払う」といった構成になっていると、税関から加算の指摘を受けるリスクが生じます。

5 「輸入貨物に係るロイヤルティ」との区別

ここで、混同しやすい「輸入貨物に係るロイヤルティ(加算対象)」と「国内複製権のロイヤルティ(非加算対象)」の違いを明確にする必要があります。

(1)加算対象となるケース:製品そのものの使用料

例えば、既に特許技術が組み込まれた完成品の精密機械を100台輸入し、その機械を日本国内で「使用」したり「転売」したりするために支払うライセンス料は、原則として加算対象となります。この場合、価値は輸入された貨物そのものに備わっており、日本国内で新たに「複製」が行われているわけではないからです。

(2)非加算対象となるケース:複製を目的とした権利

一方で、Tさんのように一台の「マスター」を輸入し、それを使って国内で新たな個体を増殖させるための権利は、輸入貨物の価値そのものではなく、輸入後の「製造行為」に対する対価とみなされます。

以下の表は、実務で頻発する事例を基に、加算と非加算の区分を整理したものです。

【ライセンス料の課税価格加算・非加算の事例対照表】

事例の概要説明|加算の要否|判断の根拠となる理由

海外メーカーのブランド品を輸入して転売するための商標使用料|原則加算|輸入貨物と商標権が密接に関連し、取引の条件となっているため

特許技術が使われた部品を輸入し、国内で組み立てるための特許料|原則加算|輸入された部品そのものが特許発明の主要部分を構成しているため

マスターDVDを輸入し、国内で1万枚コピーして販売する権利料|非加算|国内での「複製」という行為に対する対価であり、複製権の除外規定が適用されるため

試作機を輸入し、国内で同等の機械を100台量産するためのライセンス料|非加算|輸入された試作機は複製の原図としての役割であり、国内製造の対価とみなされるため

ソフトウェアのライセンスキー(物理的な媒体なし)を別途購入する場合|非加算|貨物の輸入を伴わない役務の提供、あるいは複製権の行使とみなされることが多いため

6 税関事後調査における留意点とリスク管理

特許料やライセンス料は、税関の事後調査において最も重点的に確認される項目の一つです。なぜなら、インボイス(仕入書)に記載されている商品代金とは別に支払われるため、意図的でなくとも申告漏れが発生しやすいからです。Tさんのように「複製権だから非課税だ」と自己判断して申告しなかった場合でも、事後調査で否認されると、以下のペナルティが課される可能性があります。

・不足関税および輸入消費税の徴収

・過少申告加算税(原則として不足税額の10パーセントから15パーセント)

・延滞税(納付期限からの日数に応じた利息相当分)

特に「複製」の定義を巡っては、税関と輸入者の間で解釈の相違が生じることがあります。例えば、輸入した貨物に一部手を加えるだけの「加工」にとどまるのか、あるいはゼロから新しい個体を作り出す「複製」なのかという境界線は、非常に繊細です。

リスクを回避するためのポイントを整理しました。

・ライセンス契約書の内容を精査し、複製権の範囲を明確にする

・ロイヤルティの計算書と、国内での生産記録を紐付けて保存しておく

・不安な場合は、輸入申告前に税関の「事前教示制度」を活用し、書面で回答を得ておく

7 専門家としての法的視点とサポート体制

ライセンス料の加算要否の判断は、関税定率法だけでなく、特許法や著作権法、さらには国際的な関税評価協定(WTO関税評価協定)にまで遡る高度な専門知識を必要とします。当事務所では、代表弁護士が通関士の資格を有しており、法的な権利関係の分析と、税関実務の両面から強力にサポートいたします。

1.ライセンス契約書のリーガルチェックと修正提案

Tさんのようなケースにおいて、税関から「複製権」として認められやすい契約条項のドラフト作成や、既存契約の修正アドバイスを行います。言葉の定義一つで、関税負担が数千万円変わることも珍しくありません

2.課税価格の算定シミュレーション

支払われるロイヤルティのうち、どの部分が加算対象で、どの部分が非加算対象(複製権分)であるかを合理的に案分する計算モデルを構築します

3.税関事後調査への立ち会いと法的抗弁

既に税関から指摘を受けている場合や、調査が予定されている場合に、法令および基本通達に基づいた正当な主張を展開し、不当な追徴課税を防ぎます

4.グローバルなロイヤルティ管理の最適化

多国籍企業における移転価格税制と関税評価の整合性など、より広範な税務リスクを考慮した総合的なコンサルティングを提供します

弁護士をパートナーとして活用することで、Tさんは複雑な税金計算の不安から解放され、日本国内での製造活動と技術革新に専念することが可能となります。

8 結論:適正な関税申告がビジネスの安定を支える

「日本で複製するためのライセンス料は加算不要」という規定は、技術立国である日本において、海外からの高度な技術導入を促進するための重要な制度的配慮と言えます。しかし、その適用を受けるためには、関税定率法第四条第一項第4号の除外規定に該当することを、輸入者自らが論理的に証明できなければなりません。

Tさんのように、マスター機を基に国内で量産を行うビジネスモデルは、日本の産業競争力を高める素晴らしい挑戦です。その挑戦を確固たるものにするためには、足元の関税実務において、一分の隙もない適正な申告を行うことが不可欠です。

もし、支払っているロイヤルティの性質について迷いがある場合や、税関から問い合わせを受けて困惑されている場合は、お一人で悩まずにぜひ当事務所へご相談ください。輸出入と通関、そして知的財産権の専門知識を持つ弁護士が、皆様のビジネスが法的に健全な形で成長していくために全力を尽くします。

お悩みをご相談いただくことで、不透明なコストリスクを排除し、安心して事業を推進していただくことができます。皆様からのお問い合わせを、心よりお待ちしております。

【お問合せは、こちらから】

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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら

(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定

本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

 

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