輸入取引の認定基準と実務的留意点

はじめに:仮の相談事例のご紹介

本日は、輸入ビジネスにおいて最も基本的でありながら、最も判断が難しいとされる輸入取引の考え方について解説いたします。まずは、当事務所に実際に寄せられる相談内容を模した、以下の架空事例をご覧ください。輸入実務に携わる企業様にとって、非常に示唆に富む内容となっております。

【相談者】

東京都内で海外製品の輸入代理店を営む株式会社グローバルエッジ 代表取締役 佐藤氏

【相談内容】

「当社は今回、アメリカの製造メーカーであるA社から、特殊な産業用ドローンを輸入することになりました。しかし、取引の構造は少し複雑です。当社はまず、香港にある商社B社と売買契約を締結し、B社がアメリカのA社に発注をかけるという形をとっています。貨物はアメリカのA社から日本の当社の倉庫へ直送されますが、代金の支払いは香港のB社に対して行います。

佐藤氏は、インボイス(仕入書)の発行元が香港のB社であるため、B社との契約価格を輸入申告価格(課税価格)とすればよいと考えていました。しかし、通関業者からは、実質的な価格決定権がどこにあるのか、また誰が製品の不具合等のリスクを負っているのかによって、輸入取引の該当性が変わる可能性があると指摘されました。

もし申告価格の根拠となる取引を間違えてしまった場合、意図せずとも脱税とみなされるリスクがあるのではないかと不安に感じています。法的な根拠に基づいた、正しい輸入取引の特定方法を教えてください。」

このような事例は、複数の国や企業が介在する現代のサプライチェーンにおいて非常に多く見受けられます。適正な輸入申告価格を把握するためには、まずは輸入取引がどの取引に該当するかを検討することが出発点となります。特に複数の取引が関係する場合には、輸入取引に該当する取引を正確に把握することは難しく、慎重な検討が必要です。以下、詳しく解説いたします。

1 輸入取引を定義する法的な根拠と必須の規定について

輸入取引を検討する上において、必須となる規定を整理いたします。これらは、税関が事後調査などで申告の妥当性を判断する際の絶対的な基準となります。

(1)課税価格決定の原則

関税定率法(以下「法」といいます。)第四条第一項において、輸入貨物の課税価格は、当該輸入貨物に係る輸入取引がされた場合において、当該輸入取引に関し買手により売手に対し又は売手のために、当該輸入貨物につき現実に支払われた又は支払われるべき価格に、その含まれていない限度において運賃等の額を加えた価格とすると規定されています。

ここでいう取引価格の基礎となるのが現実支払価格ですが、これについては関税定率法基本通達において詳細に規定されています。

(2)輸入取引の意義

関税定率法基本通達(以下「通達」といいます。)において、「輸入取引」とは、本邦に拠点を有する者が買手として貨物を本邦に到着させることを目的として売手との間で行った売買であって、現実に当該貨物が本邦に到着することとなったものをいい、通常、現実に貨物を輸入することとなる売買がこれに該当するとされています。

(3)複数取引が存在する場合の判定

通達四-一(二)において、貨物が輸入されるまでに当該貨物について複数の取引が行われている場合には、現実に当該貨物が本邦に到着することとなった売買が「輸入取引」となるとされています。

(4)買手及び売手の実質的な定義

通達四-一(三)において、輸入取引における「買手」及び「売手」とは、実質的に自己の計算と危険負担の下に輸入取引をする者をいい、具体的には、自ら輸入取引における輸入貨物の品質、数量、価格等について取り決め、瑕疵、数量不足、事故、不良債権等の危険を負担する者とされています。

2 実質的な買手と売手の認定における具体的判断要素

通達四-一(三)に規定される自己の計算と危険負担という概念は、実務上極めて重要です。単に契約書に買手として名前が記載されているだけでは不十分であり、以下の要素を総合的に考慮して判断されます。

(一)品質、数量、価格の決定権

誰が海外の輸出者と直接交渉し、商品の仕様や単価を決定したかという点です。代行業者が中間に介在していても、最終的な決定権が日本国内の依頼主にあるならば、その依頼主が実質的な買手となります。

(二)瑕疵担保責任(契約不適合責任)の帰属

届いた商品に不具合があった場合、誰が輸出者に対してクレームを入れ、損害賠償を請求する権利を有しているかという点です。また、その損害を最終的に誰が被るのかというリスクの所在が問われます。

(三)数量不足や輸送事故の危険負担

船積みから到着までの間に貨物が滅失したり損傷したりした場合の損害を、誰が自己の責任として引き受けているかという点です。

(四)代金の支払義務と不良債権のリスク

輸出者に対する送金義務を負い、かつ資金調達の責任を負っているのは誰か。また、転売先が倒産した場合などにその代金回収不能の損害を直接受けるのは誰かという点です。

3 輸入取引を正確に判定するための実務表

以下の表は、複数の当事者が介在する取引において、輸入取引の当事者を特定するためのチェックリストです。ワードデータ等に貼り付けてそのままご活用いただける形式で作成いたしました。

【輸入取引当事者の実質的認定チェック表】

項 目|確 認 す べ き 実 態|判定のポイント

--------|----------------|------------

価格決定権|商品の単価を最終的に合意したのは誰か|計算の主体

品質・仕様の指定|製品のスペックを詳細に指示したのは誰か|計算の主体

瑕疵担保責任|不良品発生時の損害を最終的に負うのは誰か|危険負担

輸送中の事故リスク|保険を付保し、事故の損失を負うのは誰か|危険負担

決済の最終責任|海外への送金原資を負担しているのは誰か|計算の主体

在庫リスク|販売先が決まる前に在庫を抱えるのは誰か|危険負担

これらの要素を検討した結果、中間業者が単に手数料を受け取るだけでリスクを負っていない場合には、その中間業者は買手ではなく、中間業者を飛ばした直接の売買が輸入取引と認定されることになります。

4 複数取引が連鎖する場合の輸入取引の特定

通達四-一(二)に示される複数取引の連鎖は、近年のグローバルな転売ビジネスにおいて頻繁に問題となります。例えば、以下のようなケースを考えてみましょう。

一 海外の製造業者A社が、同じく海外の卸売業者B社に販売する。

二 B社が日本国内の輸入商社C社に転売する。

三 C社が日本国内の小売業者D社に販売し、貨物はA社からD社へ直送される。

この場合、どの売買が日本に貨物を到着させる直接の原因となった輸入取引になるでしょうか。原則として、日本に拠点を有する買手が関与し、その契約によって貨物が日本に向けて発送されることとなった売買が輸入取引となります。

もし、C社がB社から購入した時点で貨物の仕向け地が日本に確定しており、その契約に基づいて日本への輸送が開始されたのであれば、B社とC社の間の売買が輸入取引となります。一方で、C社が輸入者としての名義のみを貸しており、実質的な価格決定やリスク負担をD社が行っている場合には、B社とD社の間の売買、あるいはA社とD社の間の売買が輸入取引と認定される可能性が生じます。

5 輸入申告価格の算定を誤った場合の深刻なリスク

間違った輸入申告価格を申告してしまうと、つまるところ脱税と同じ状況となってしまいますので輸入申告価格は慎重に算定することが必要です。このような検討を経ることなく間違ってしまうと、多大な不利益を被ることになります。

(一)過少申告加算税

事後調査等により、本来の課税価格よりも低く申告していたことが発覚した場合、不足税額の十パーセントから十五パーセントにのぼる過少申告加算税が課されます。

(二)重加算税

事実を隠蔽したり、仮装したりしたとみなされた場合には、三十五パーセントから四十パーセントという極めて重い重加算税が課されます。輸入取引の当事者を意図的に偽る行為は、この隠蔽・仮装に該当すると判断されるリスクが非常に高いといえます。

(三)延滞税

本来の納期限から修正申告の日までの期間に応じて、利息に相当する延滞税が徴収されます。

(四)刑事罰

悪質な脱税行為とみなされた場合には、関税法違反として刑事事件化される可能性があります。

(関税法第百十条 関税を免れる罪)

偽りその他不正の行為により、関税を免れ、又は関税の還付を受けた者は、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

このように、輸入取引の特定を誤ることは、単なる事務的なミスでは済まされない重大な経営リスクに直結いたします。

6 関税評価における加算要素の重要性

輸入取引を特定した後は、その取引価格に加算すべき要素がないかを精査しなければなりません。取引価格には含まれていないが、買手が別途負担している以下の費用は、課税価格に算入しなければなりません。

一 輸入港までの運賃及び保険料

二 買手により負担される仲介料その他の手数料(買付手数料を除く)

三 輸入貨物の生産に関連して、買手により無償で、又は値引きして提供された物品又は役務の費用(アシスト費用)

四 輸入貨物に係る特許権、商標権等の使用の対価(ロイヤリティ)

特にロイヤリティやアシスト費用は、輸入取引の当事者が誰であるかという問題と密接に関わります。実質的な買手が誰であるかによって、誰が支払っている費用を加算すべきかが変わるため、取引構造の全体像を正確に把握することが不可欠です。

7 輸入代行取引における売手・買手の認定

近年、個人事業主や中小企業が輸入代行業者を利用して海外製品を仕入れるケースが増えています。この場合、税関は誰を輸入者(納税義務者)として見ているのでしょうか。

通達四-二(一)によれば、輸入取引の売手及び買手とは、実質的に自己の計算と危険負担に基づいて当該輸入取引を行う者をいうとされています。

輸入代行業者が、単に注文を取り次ぎ、配送の手配を代行しているだけで、商品の品質不良によるリスクを一切負わず、在庫も持たない場合には、代行業者は買手とは認められません。この場合、実質的な買手は代行業者に依頼した国内の個人や企業であり、その依頼主が輸入申告価格の適正性について全責任を負うことになります。

8 税関事後調査への備えと専門家によるリーガルチェック

税関事後調査は、輸入許可から数年が経過した後に、突然行われることが一般的です。その際、税関職員は契約書、仕入書、銀行の送金記録、電子メールの履歴などを詳細に調査し、申告価格の根拠となった取引の実態を解明しようとします。

当事務所が推奨するコンプライアンス対策は以下の通りです。

一 取引開始時のスキーム診断

新しい商流を構築する際に、誰が実質的な買手・売手であるかを法的に整理し、申告の根拠を明確にしておくこと。

二 契約書の整備

危険負担の所在や、価格の決定方法を契約書に明文化し、実態と契約に齟齬がないようにしておくこと。

三 事前教示制度の活用

判断が難しい複雑な取引については、事前に税関に対して公式な見解を求めること。

四 定期的な自主点検

過去の輸入申告について、加算要素の漏れや取引の特定に誤りがないかを内部監査すること。

9 弁護士へのご相談をご希望の方へ

当事務所は、輸出入や貿易関連のトラブル、事前教示制度の利用や税関事後調査をはじめとする税関対応等を幅広く取り扱っております。

代表弁護士は、輸出入や通関に関する国家資格である通関士資格を有しており、法務と実務の両面から強力なサポートを提供することが可能です。弁護士でありながら通関実務の深い知識を持つことで、単なる法令の解釈に留まらず、税関当局がどのような視点で調査を行い、どのような証拠書類を重視するかという実践的なアドバイスを提供することができます。

輸入申告価格を正確に把握することが難しい場合等、少しでも不安がある場合には、まずはご相談ください。

当事務所が提供できる具体的なサービス

一 輸入取引スキームの適法性診断および関税評価のアドバイス

二 輸入代行契約、売買契約書等のリーガルチェックおよび作成

三 税関事後調査への立ち会い、および当局との法的な交渉

四 不当な課税処分や重加算税に対する不服申立て、税関訴訟の代理

結びに代えて:適正な通関こそがビジネスを安定させる唯一の道

輸入ビジネスにおけるコンプライアンスは、単なる守りではありません。正しい法的知識に基づき、適正な申告を継続することは、税関からの信頼を獲得し、ひいては円滑な物流を実現することに繋がります。

企業としては、輸入する貨物の内容や取引相手に支払う代金のみを気にしておけばよく、それ以外の手続面のことはほとんど気にしていない場合も多いものと思われます。しかしながら、このような姿勢には大きなリスクがあると言わざるを得ません。

通関手続きや貨物の運送などの手続き面について、専門家に任せることは非常に有用ですが、企業としてもそれらの点について最低限の知識を持ち、各手続において重要な点については逐一確認をとる等の対応が必要です。

正しい法令知識に基づき、一つひとつの取引を精査すること。その地道な努力が、貴社のグローバルビジネスを安定させ、不測の事態から会社を守ることに繋がります。当事務所は、貴社の良きパートナーとして、その専門性を最大限に発揮して、安定した海外展開をサポートし続けます。

適正な通関こそが、グローバルビジネスを安定させる唯一の道です。

【お問合せは、こちらから】

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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら

(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定

本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

 

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