貨物の保管料と課税価格の算定

1 はじめに―相談事例

【相談者】

千葉県内で輸入雑貨のセレクトショップを経営されているTさん。

Tさんは、欧州からアンティーク家具をコンテナ単位で輸入されていますが、現地の港湾ストライキや船便のスケジュールの都合により、貨物が輸出国の倉庫に長期間留め置かれる事態に直面されました。

【相談内容】

「これまで数多くの輸入を行ってきましたが、今回は少し特殊なケースで悩んでいます。現地の輸出者から貨物を引き渡される前に、船の遅延が決まったため、輸出者が手配した倉庫で二ヶ月間貨物を保管してもらいました。この保管料について、輸出者から『商品の代金とは別に保管料として五十万円支払ってほしい』という請求が届いています。私はこの五十万円を商品の対価とは別の『維持費』のようなものだと考えているのですが、輸入申告の際、この保管料も『課税価格』に含めて関税を支払わなければならないのでしょうか。また、日本に到着した後に、通関を待つ間、保税蔵置場で発生した保管料についてはどう取り扱えば良いのでしょうか。保管料が発生したタイミングや支払先によって、税金の計算が変わるのか、法令に基づいた正確なルールを教えてください」

このようなTさんの悩みは、物流が不安定な現代の国際貿易において、非常に多くの事業者が直面する課題です。貨物の保管料は、その発生時期や支払いの性質によって、課税価格に含まれるかどうかが厳格に分かれます。

2 課税価格決定の原則と現実支払価格の定義

輸入貨物に対して課される関税の計算の基礎となる金額、すなわち「課税価格」を決定するにあたっては、関税定率法第四条の規定が適用されます。原則として、課税価格は「取引価格」に基づいて決定されます。

まず、根拠となる関税定率法第四条第一項の条文を確認しましょう。

関税定率法第四条(課税価格の決定の原則)第一項

輸入貨物の課税価格は、当該輸入貨物に係る輸入取引がされた場合において、当該輸入取引につき買手が売手に対し又は売手のために、当該輸入貨物の対価として実際に支払つた又は支払うべき価格(以下「現実支払価格」という。)に、その含まれていない限度において次に掲げる運賃等の額を加えた価格(以下「取引価格」という。)によるものとする。

この条文が示す通り、課税価格の核となるのは「現実支払価格」です。現実支払価格とは、輸入貨物の対価として買手が売手に対して、あるいは売手のために直接または間接に支払うすべての金額を指します。Tさんの事例における「保管料」が、この現実支払価格に含まれるか、あるいは加算要素となるかが論点となります。

3 課税価格に含まれる保管料の具体的ケース

保管料が課税価格に算入される(関税の対象となる)のは、主に「輸入取引の条件」として支払われる場合です。具体的には、以下の二つのパターンが挙げられます。

(1)貨物代金の一部として支払われる場合

輸入取引が成立した時点で、貨物が既に輸出国の倉庫に保管されており、その保管料が商品の販売価格に含まれている場合です。これは当然ながら現実支払価格の一部を構成するため、課税価格に含まれます。

(2)売手の指示に基づき別途支払われる場合

Tさんの事例のように、貨物代金とは別に請求される場合であっても、それが「輸入取引をするための条件」として支払われるのであれば、現実支払価格に含まれます。関税定率法基本通達4―2(現実支払価格)において、その考え方が示されています。

関税定率法基本通達4―2(現実支払価格)

(1)「実際に支払つた又は支払うべき価格」とは、輸入貨物の対価として買手が売手に対し、又は売手のために直接又は間接に支払つた又は支払うべき総額をいう。

(2)「売手のために支払う」とは、買手が売手の債務を弁済する場合(例えば、売手が負担すべき保管料、検査料、広告料等を買手が支払う場合)等をいう。

Tさんのケースで、もし輸出者が「この保管料を支払わなければ貨物を出荷しない(船に乗せない)」という立場を採っているならば、その保管料の支払いは「輸入取引を完結させるための不可欠な支払い」とみなされます。この場合、名目が保管料であっても、実質的には貨物の対価の一部と判断され、課税価格に算入しなければなりません。

4 課税価格に含まれない保管料の具体的ケース

一方で、保管料が課税価格に含まれない(関税の対象外となる)ケースも存在します。ポイントは「誰の計算で、いつ発生したか」という点です。

(1)売手から買手への引渡し後に発生した費用

輸入取引に基づき、貨物のリスクと費用負担が売手から買手へ移転した後に、買手が自らの判断と責任で倉庫に保管した場合です。例えば、EXW(出荷場渡し)条件で契約しており、買手が現地の工場で貨物を受け取った後、自分の都合で船の予約日まで倉庫に預けたようなケースが該当します。

この場合の保管料は、買手が自らのために支払う費用であり、売手に対して、あるいは売手のために支払うものではないため、現実支払価格には含まれません。

(2)日本国内に到着した後の保管料

貨物が日本の港に到着した後、輸入申告を行うまでの間に保税蔵置場(保税倉庫)に保管されることがあります。この際にかかる保管料についても、輸入港(日本の港)に到着した後の費用であるため、課税価格には含まれません。

関税定率法第四条第一項第一号には、加算要素として「輸入港に到着するまでの運送に要する運賃等」が挙げられていますが、到着後の費用については規定されていません。したがって、日本到着後の保管料は、輸入者の国内的な経費として処理されます。

以下の表は、保管料の課税価格への算入可否を整理したものです。この表はワード等の文書作成ソフトへそのまま貼り付けて使用可能です。

【保管料の課税価格算入判定一覧表】

保管料の発生タイミング|費用の負担者と支払先|課税価格への算入要否

引渡し前の輸出国での保管|買手が売手(又はその指定先)へ支払う|原則として算入する

引渡し後の輸出国での保管|買手が自己の責任で倉庫会社へ支払う|原則として算入しない

海上輸送中の延滞料|船会社に対して買手が支払う|運賃の一部として算入する

日本到着後の保税蔵置料|買手が国内の倉庫会社へ支払う|算入しない

輸入許可後の国内倉庫料|買手が国内の倉庫会社へ支払う|算入しない

Tさんの事例に当てはめると、もし船の遅延による保管が「輸出者の管理下」で行われ、輸出者がその費用を回収しようとしているのであれば、それは「輸入取引の条件」となりやすく、算入が必要となる可能性が高いと言えます。

5 物流上の遅延に伴う諸費用の取り扱い

保管料に関連して、実務上よく問題となるのが「デマレージ(超過保管料)」や「デテンション(返却延滞料)」です。これらも一種の保管・滞留に関わる費用ですが、課税価格との関係では注意が必要です。

(1)デマレージ(Demurrage)

コンテナが輸入港に到着した後、無料保管期間(フリータイム)を過ぎても引き取られない場合に船会社から請求される費用です。これは、原則として「日本到着後の費用」であるため、課税価格には含まれません。

(2)デテンション(Detention)

空コンテナを船会社に返却するのが遅れた場合に発生する費用です。これも同様に、到着後の物流過程で生じるものであるため、課税価格には含まれません。

ただし、これらの費用が「輸出港(海外)」で発生した場合は話が変わります。輸出港での積み込みが遅れ、船会社からデマレージが請求され、それを買手が負担した場合、それは「輸入港に到着するまでの運送に関連する費用」として、関税定率法第四条第一項第一号に基づき加算要素となる可能性が高まります。

6 税関事後調査における保管料のチェックポイント

税関の事後調査では、インボイス(仕入書)に記載された金額以外の支払いがないか、会計帳簿(諸掛費、保管料、雑費勘定など)が精査されます。保管料に関して、税関職員が注目するのは主に以下の点です。

・インボイスの価格と契約条件(インコタームズ)の整合性

・貨物代金とは別に、海外の輸出者やフォワーダーに対して送金された記録の有無

・倉庫会社からの請求書の日付と、船積書類(B/L)の日付の前後関係

・保管料の支払いがない場合でも、輸出者が無償で保管を提供しているか(低廉譲渡の疑い)

もし、算入すべき保管料を漏らしていた場合、過少申告加算税や延滞税の対象となります。Tさんのように、一回あたりの保管料が数十万円であっても、年間で数回重なれば、修正申告時の負担は非常に重くなります。

7 専門家としての法的視点とサポート体制

保管料の取り扱いは、契約の実態や貨物の所有権移転のタイミング、さらにはインコタームズの解釈など、多角的な検討を必要とします。当事務所では、代表弁護士が通関士の資格を有しており、以下のような高度に専門的なサポートを提供しております。

1.保管料の該否判定と法的アドバイス

Tさんのようなケースに対し、契約書や請求書を精査し、その保管料が法的に「現実支払価格」を構成するのか、あるいは「加算要素」となるのかを明確に判定します

2.税関事後調査への備えと対応

過去の取引を振り返り、保管料の申告漏れがないかを事前に監査します。万が一、調査で指摘を受けた場合でも、法令に基づいた適切な弁論を行い、不当な追徴を防ぎます

3.最適なインコタームズの提案

物流の遅延が予想される地域からの輸入に際し、保管料のリスクを最小化し、かつ税務処理を簡素化できる契約条件(条件交渉)のアドバイスを行います

4.事前教示制度の活用支援

判断が難しい特殊な保管形態については、あらかじめ税関に書面で照会し、将来のリスクを確定させる手続きを代行します

弁護士であり、かつ通関実務のに精通しているからこそ、単なる理論に留まらない、現場の物流に即した解決策を提示することが可能です。

8 結論:適正な関税申告による健全な経営

貨物の保管料は、一見すると「物流の付随費用」に過ぎないように思えますが、関税法上の課税価格の決定においては、その支払いの性質が厳密に問われます。Tさんのように、予期せぬ物流トラブルに見舞われた際こそ、場当たり的な判断ではなく、法令に立ち返った適正な処理が求められます。

関税定率法第四条の原則を正しく理解し、現実支払価格に含まれるべき保管料を漏れなく申告することは、企業の社会的信頼を維持し、将来的な税務リスクを回避するための最良の手段です。

輸出・輸入や通関に関するトラブル、課税価格の算定方法、保管料や運賃の取り扱い等でお悩みの場合には、ご遠慮なく当事務所までご相談ください。通関実務と法律の両面に精通した専門家として、皆様のビジネスが揺るぎない基盤の上に成長していくための強力なパートナーとして、全力を尽くします。

お悩みをご相談いただくことで、不透明な税務リスクを排除し、確固たる自信を持って事業を推進していただくことができます。皆様からのお問い合わせを、心よりお待ちしております。

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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら

(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定

本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

 

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