輸入許可前引取制度(BP通関)の留意点

1 はじめにー相談事例

本日は、輸入実務において重要な役割を果たす「輸入許可前引取制度」について、具体的な活用場面や法的根拠を解説いたします。まずは、この制度の利用を検討すべき典型的な相談事例を見てみましょう。

【相談者】

化学薬品商社 B社 物流管理部長

【相談内容】

「当社では、国内の製薬メーカーから急ぎの注文を受け、特殊な試薬を欧州から輸入しました。貨物は既に成田空港に到着し、輸入申告を済ませております。しかし、当該試薬が新開発のものであり、税関から『成分分析が必要である』との連絡を受けました。税関での分析には1週間から10日ほど要する見込みとのことです。

一方で、納入先の製薬メーカーからは、研究スケジュールの都合上、どうしても3日以内に納品してほしいと強く要請されています。輸入許可が下りるのを待っていては納期に間に合いません。許可が下りる前に、合法的に貨物を国内に引き取り、顧客へ配送する方法はないでしょうか。また、その際にどのような条件が必要になるのか教えてください」

このような「許可を待てない緊急事態」において、救済策の一つとなるのが輸入許可前引取制度(通称:BP通関=Before Permit)です。この制度は、貨物の迅速な流通を確保しつつ、税関の適正な審査や税金の確保を両立させるための仕組みです。以下、その詳細について解説します。

2 輸入許可前引取制度の法的根拠と概要

輸入許可前引取制度とは、輸入申告後、輸入許可が下りる前の段階で、関税額に相当する担保を提供することを条件に、税関長の承認を得て貨物を引き取ることができる制度です。

この制度の根拠法は、関税法第73条第1項です。条文には以下のように規定されています。

「外国貨物(特例申告貨物を除く。)を輸入申告の後輸入の許可前に引き取ろうとする者は、関税額(過少申告加算税並びに第十二条の四第一項、第三項及び第四項(同条第一項の重加算税に係る部分に限る。)(重加算税)の重加算税に相当する額を除く。)に相当する担保を提供して税関長の承認を受けなければならない。」

また、関税法施行令第63条後段では、この承認を受けるための手続きについて定められています。

「法第73条第1項(輸入許可前引取)の承認を受けようとする者は、次に掲げる事項を記載した申請書を税関長に提出しなければならない」

この制度を利用することで、貨物は法的には「輸入許可前」の状態を維持しながら、物理的には「国内への引き取り」が可能となります。ただし、あくまで「許可前」であるため、後に税関の審査結果に基づいて正式な輸入許可が下りるまでは、輸入手続きが完了したことにはなりません。

3 輸入許可前引取が認められる具体的な事情

この制度は、単に「早く引き取りたい」という主観的な希望だけで認められるものではありません。関税法基本通達等の指針により、認められるべき「相当な理由」が定義されています。大きく分けて、税関側の事情と輸入者側の事情の2つのパターンがあります。

(1)税関側の事情により輸入の許可が遅延する場合

税関の審査や手続きに物理的な時間を要し、輸入者に責任がないにもかかわらず許可が遅れるケースです。

主な具体例

・新規輸入品や複雑な構成の貨物であり、課税標準(申告価格)の審査に日時を要する場合

・貨物の成分分析や鑑定、検定が必要であり、関税率表の番号(HSコード)の決定に時間を要する場合

・減免税の適用要件の確認や、事後調査等に関連した詳細な審査が行われる場合

・税関の電算システム(NACCS)の障害や、その他の行政上の都合により審査が停滞する場合

(2)輸入申告者側において特に引取りを急ぐ理由がある場合

輸入者のビジネス上の都合であっても、その必要性が客観的に認められるケースです。

主な具体例

・輸入原材料の在庫が底を突き、工場の操業停止や生産ラインの混乱が予見される場合

・展示会、見本市、国際会議などへの出品が予定されており、開催日までの時間的制約が極めて厳しい場合

・生鮮食料品や変質しやすい物品であり、保管の長期化が貨物の価値を著しく損なう恐れがある場合

・仕入書(インボイス)が仮のもの(プロフォーマ)であったり、契約条件が特殊なために価格確定に時間を要するが、商流上、早期の引き取りが不可欠な場合

以下に、これらの事情を整理した比較表を掲載します。

【輸入許可前引取の承認が検討される主な事由】

区分 具体的な状況の例 留意点
税関側の審査遅延 分析鑑定を要する専門的な貨物 鑑定結果が出る前に引き取り可能
税関側の審査遅延 価格審査に時間を要する取引 評価申告の審査中であっても利用可
輸入者の緊急性 工場等の原材料在庫の枯渇 在庫証明や工程表の提示を求められる場合あり
輸入者の緊急性 展示会やイベントへの出品期限 開催要領等の資料による疎明が必要
輸入者の緊急性 季節商品や腐敗しやすい物品 貨物の特性を具体的に説明すること

4 担保の提供と手続きの流れ

輸入許可前引取制度を利用するためには、原則として「関税額(及び内国消費税額)に相当する担保」を税関に提供しなければなりません。これは、貨物を先に引き渡す代わりに、後日確定する税金の徴収を確実にするための保証金のような役割を果たします。

(1)担保の種類

提供できる担保には、関税法第9条の2の規定に基づき、以下のような種類があります。

・金銭(現金)

・国債及び地方債

・税関長が確実と認める社債その他の有価証券

・土地

・建物

・税関長が確実と認める保証人の保証(銀行等による保証)

実務上は、現金の納付や、銀行による「関税等包括保証」を利用するケースが一般的です。

(2)手続のステップ

制度を利用する際のおおまかな流れは以下の通りです。

【輸入許可前引取(BP通関)の手続きフロー】

1.輸入申告の実施

(税関への申告書類提出)

2.審査遅延や緊急事態の発生

(税関からの分析通告や輸入者からの早期引取要望)

3.輸入許可前引取承認申請書の提出

(関税法第73条に基づく申請)

4.担保の提供

(関税額・消費税額に相当する額を担保として提供)

5.税関長による承認

(BP承認の通知)

6.貨物の引き取り

(保税地域から国内への搬出)

7.(後日)税関による審査完了

(分析結果の判明や価格の確定)

8.正式な輸入許可

(担保が充当され、または還付される)

5 実務上のメリットとリスク

この制度を活用することには大きなメリットがありますが、同時に注意すべき点も存在します。

(1)活用のメリット

・納期の遵守:リードタイムの短縮により、商機を逃さず、取引先との信頼関係を維持できます。

・保管料の削減:港湾や空港の保税地域での保管料(デマレージ等)の発生を抑制できます。

・生産効率の維持:原材料の早期調達により、工場の稼働率を下げずに済みます。

(2)留意すべきリスクとコスト

・担保提供の手間:現金の用意や保証枠の設定など、財務面での負担が生じます。

・法令遵守(コンプライアンス):BP承認を受けた後、万が一その貨物に輸入禁止事項が判明したり、他法令(食品衛生法や植物防疫法など)の不合格が判明したりした場合、既に国内に流通してしまっていると、回収命令等の厳しい行政処分を受けるリスクがあります。

・関税額の変動:BP通関申請時の見込み税額と、最終的な許可時の税額が異なる場合、差額の調整手続きが必要となります。

6 他法令との関係

輸入許可前引取制度は、あくまで「関税法」上の制度です。食品衛生法、植物防疫法、家畜伝染病予防法、外為法などの「他法令」によって輸入が規制されている貨物については、それらの法令に基づく検査の合格や輸入承認が済んでいなければ、たとえ関税法上のBP承認があっても、貨物を引き取ることはできません。

この点については、関税法第70条(証明又は確認)において、「他の法令の規定により輸入に関して検査又は許可、承認その他の処分を必要とする貨物については、その検査の完了又は許可等を受けている旨を税関長に証明しなければならない」と定められています。したがって、BP制度を利用する場合でも、これらの他法令のクリアが前提条件となることに十分注意してください。

7 弁護士へのご相談をご希望の方へ

通関手続きにおけるトラブルや、輸入許可前引取制度の活用判断は、高度な専門知識を要します。税関との交渉や、適切な担保提供の判断、さらには他法令との整合性の確認など、法的な検討事項は多岐にわたります。

当事務所は、代表弁護士が輸出入や通関に関する国家資格である通関士資格を保有しております。弁護士としての法的知見に加え、通関実務の感覚を兼ね備えていることが当事務所の大きな強みです。

以下のようなお悩みをお持ちの方は、ぜひ一度ご相談ください。

・税関の審査が長引いており、BP制度を利用したいが手続きがわからない

・税関から提示された担保額が不当に高いと感じる

・他法令との兼ね合いで引き取りが制限されており、法的な解決策を探したい

・将来的な税関事後調査を見据え、適切な申告体制を整えたい

「弁護士に相談すべき内容かどうかわからない」といった段階でも構いません。お話を伺うことで、現在の状況が整理され、最適な解決への道筋が見えてくるはずです。輸出入や通関に関するトラブル、税関対応でお悩みの場合には、どうぞご遠慮なく当事務所までお問い合わせください。

8 おわりに

輸入許可前引取制度は、ビジネスのスピードを落とさないための極めて強力なツールです。関税法第73条の規定を正しく理解し、必要な手続きを迅速に踏むことで、不測の事態においても円滑な物流を維持することが可能になります。

一方で、担保の提供や他法令との整合性など、専門的な判断が求められる場面も少なくありません。本記事でご紹介した具体的な事情や手続きの流れを参考に、自社の輸入実務において本制度をどのように活用できるか、今一度検討してみてはいかがでしょうか。

当事務所では、企業の皆様が安心して国際貿易に従事できるよう、法務と実務の両面から強力にサポートいたします。

輸入許可前引取制度の活用に関するポイントのまとめ

・本制度は関税法第73条に基づく緊急的な引取制度である

・利用には関税額相当の担保提供が必要となる

・税関側の審査都合と輸入者側の緊急事態の両面で認められる可能性がある

・他法令の確認が済んでいることが大前提となる

・事後的なリスクを避けるためにも専門家への相談が有効である

以上の内容が、貴社のスムーズな輸入業務の一助となれば幸いです。複雑な通関実務にお困りの際は、いつでも専門家を頼ることをお勧めいたします。

【お問合せは、こちらから】

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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら

(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定

本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

 

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