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0 はじめに
まずは、当事務所に実際に寄せられる相談内容に基づいた、架空の事例をご紹介いたします。輸入実務を日常的に行っている企業様にとって、非常に示唆に富む内容となっております。
【相談者】
神奈川県内に拠点を置く、欧州家具の輸入販売を行う株式会社X 代表取締役 Y氏
【相談内容】
「当社は10年以上、イタリアやフランスのメーカーから高級家具を輸入し、国内のセレクトショップへ卸しています。通関業務や国際輸送については、長年付き合いのある大手フォワーダーにすべて委託しており、これまで一度もトラブルはありませんでした。ところが先日、税関から『税関事後調査』の実施通知が届きました。慌てて過去の書類を確認したところ、家具の輸入価格(インボイス価格)とは別に、現地のデザイナーに対してデザインの使用料、いわゆるロイヤリティを毎月送金していることが判明しました。また、昨年からは製品の品質を高めるため、日本からクッション材を無償でメーカーへ送り、それを家具に組み込んでもらっています。フォワーダーに相談したところ、『それらの費用は輸入申告の際に加算すべき要素だった可能性があるが、指示を受けていなかったのでインボイスの金額だけで申告していた』と言われてしまいました。もし多額の追徴課税が発生した場合、当社の経営に深刻な影響が出かねません。どのような法的準備をすべきでしょうか。」
このような事例は、決して珍しいものではありません。
輸入者が「実務はプロに任せている」と盲信している間に、法的義務である適正申告が漏れてしまっているケースは多々存在します。
1 輸入通関手続の適正さを日々精査することが重要な理由
輸入取引をビジネスの中心とする場合、通常は、通関手続きや貨物の運送などは、フォワーダー等の専門家に依頼すればよいので、基本的には、ビジネスを行う者はそれらの手続面を気にする必要はないのが実情といえます。
企業としては、輸入する貨物の内容や取引相手に支払う代金のみを気にしておけばよく、それ以外の手続面のことはほとんど気にしていない場合も多いものと思われます。しかしながら、このような姿勢には大きなリスクがあると言わざるを得ません。
通関手続きや貨物の運送などの手続き面について、専門家に任せることは非常に有用ですが、企業としてもそれらの点について最低限の知識を持ち、各手続において重要な点については逐一確認をとる等の対応が必要です。なぜなら、輸入申告の責任は、代行した通関業者ではなく、輸入者本人に帰属するからです。
関税法第7条等では、輸入者の義務を明確に定めています。
要約すると、貨物を輸入しようとする者は、当該貨物の品名及び数量並びに価格その他必要な事項を税関長に申告しなければならない、と規定されております。
ここにある「価格」とは、単に相手に支払った金額を指すのではなく、関税法上の「課税価格」としてのルールに基づいた計算結果を指します。この計算こそが、輸入ビジネスにおける最大の落とし穴となります。
2 税関事後調査という制度の実態
というのも、税関事後調査という制度があり、貨物を輸入した後、相当程度の期間経過後に税関が貨物の輸入申告が適切に行われたかどうかを輸入者の事業所等で調査することがあります。これは、輸入許可を迅速に下す代わりに、後からじっくりと書類を精査して、税金の取りこぼしがないかを確認する仕組みです
調査は通常、5年に一度程度の頻度で行われることが多く、過去数年分の取引データがすべてチェックの対象となります。調査官は企業の会計帳簿や銀行の送金記録、輸出者との契約書、さらにはメールのやり取りまで精査します。そこで「申告漏れ」が発見されると、過去に遡って不足税額を徴収されることになります。
このような調査があることを踏まえて、具体的にどのような点に注意しておく必要があるかというと、それは、ビジネスの内容ごとに大きく異なります。特に、輸入者側から輸出者側に対して原材料の一部を無償で提供している場合や知的財産権に絡む問題がある場合等では注意が必要です。
3 課税価格に加算すべき要素と関税定率法第4条の重要性
具体的なビジネスの内容を踏まえて、どのような内容を特に注意すべきかを把握した上で、輸入関連の法令に照らして適切となるように、日々のビジネスの内容を精査していくといった作業が必要となります。ここで重要となる規定の一つが、関税定率法第4条です。
実務上、特に見落とされやすいのは、いわゆる「輸入価格の算出に関わる支援(アシスト)」に関する費用です。日本から金型を送って製品を作らせている場合や、原材料を無償で提供している場合、その金型の償却費や原材料の調達費用を、インボイス上の製品価格に上乗せして申告しなければなりません。
また、ロイヤリティについても同条第1項第4号に規定があります。
これらは、商品の代金とは別のルートで支払われることが多いため、通関業者が把握することは不可能です。輸入者側で明確な管理体制が整っていない限り、ほぼ確実に申告漏れが発生します。
4 輸入者が行うべきセルフチェック
社内のコンプライアンス体制を構築し、各部門間の情報共有を円滑にすることがリスク回避の第一歩となります。
【輸入申告価格の適正性確認表】
項目(カテゴリ)|具体的な確認内容|関連部署(情報源)|
原材料の無償支給|輸出者へ生地、部品、資材を無償で送っていないか|製造・物流部門|
金型・工具の提供|製品製造のための金型や設計図を無償提供していないか|開発・生産管理|
ロイヤリティ支払|商標権やデザイン権料を別途送金していないか|法務・経理部門|
運送関連費用の負担|輸入港までの運賃や保険料を輸入者が別途支払っていないか|物流・海外営業|
買付手数料の区別|代理店への支払いが「買付手数料」に該当するか精査したか|調達・購買部門|
特別な関係の有無|輸出者と親子会社などの資本関係はないか|経営企画・総務|
このような視点を用いて、定期的に社内監査を実施することが推奨されます。特に新しく取引を開始する際には、契約書の段階でこれらの費用負担がどのようになっているかを精査しなければなりません。
5 申告漏れに対する厳格なペナルティ
法令を遵守しなかった場合、経済的なダメージだけでなく、社会的信用の失墜も招きます。関税法には、以下のような附帯税の規定があります。
①関税法第12条の2(過少申告加算税)
納税義務者が納税申告をした後において、修正申告が行われた場合、又は更正があった場合には、当該納税義務者に対し、その修正申告又は更正により納付すべき税額の100分の10(一定の金額を超える部分は100分の15)に相当する過少申告加算税を課する。
これに加え、悪質と判断された場合には重加算税が課されます。
②関税法第12条の4(重加算税)
納税義務者がその税額の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告をしていたときは、当該納税義務者に対し、過少申告加算税に代え、その額の計算の基礎となるべき税額に100分の35の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する。
重加算税が課されると、その後の輸入において全件検査の対象となるなど、ビジネスのスピードが著しく低下するリスクがあります。適正な申告を維持することは、スムーズな物流を確保するための必要経費とも言えます。
6 実務上の対策:フォワーダーとの連携強化
専門家に任せることは非常に有用ですが、企業としてもそれらの点について最低限の知識を持ち、各手続において重要な点については逐一確認をとる等の対応が必要です。
具体的には、以下の3点を実施することをお勧めいたします。
①インボイス以外の費用が発生している場合は、必ず通関業者等の専門家に事前に相談することです。ロイヤリティの支払いがある場合や、原材料を支給している場合、それを通関業者に伝えれば、彼らは適切な加算計算を行ってくれます。
②契約書の作成段階で、関税評価上の問題を検討することです。契約書に「デザイン料は別途支払う」と記載があれば、それは課税対象になる可能性が非常に高いです。法務部門と物流部門が連携し、契約内容が税関申告にどのような影響を与えるかを常に検討すべきです
③税関から問い合わせがあった際には、独断で回答せず、専門家の助言を仰ぐことです。事後調査の際の不用意な回答が、事実の隠蔽とみなされ、重加算税の対象となってしまうケースも少なくありません。
7 弁護士へのご相談をご希望の方へ
当事務所では、代表弁護士が、輸出入や通関に関する国家資格である通関士資格を有しており、輸出入トラブルや通関トラブルに関するご相談を幅広く取り扱っております。
弁護士でありながら通関実務の現場を知る専門家として、法的な解釈のみならず、実際の通関申告書の作成プロセスや税関当局との交渉戦略についても、具体的なアドバイスを提供することが可能です。
ご相談いただいたビジネスの内容を踏まえ、日々の業務においてどのような点を注意すべきかを整理するといったサービスもご提供しております。具体的には、以下のようなサポートを行っております。
①輸入契約書のリーガルチェックおよび関税評価の適正化アドバイス
②税関事後調査に対する事前模擬調査の実施と改善案の提示
③不当な更正処分に対する不服申立てや税関訴訟の代理
④社内向け通関コンプライアンス研修の実施
日々の業務で貨物の輸入を頻繁に行っているものの、輸入・通関に関して把握できていない等ご不安な点等ございましたら、ご遠慮なく当事務所までご相談ください。
8 輸入ビジネスの持続可能性を高めるために
輸入ビジネスの成功は、良い商品を安く仕入れることだけではありません。その背後にある法的義務を誠実に果たし、国家の税務当局との信頼関係を維持することも、経営者の重要な責務です。
企業としては、輸入する貨物の内容や取引相手に支払う代金のみを気にしておけばよく、それ以外の手続面のことはほとんど気にしていない場合も多いものと思われます。しかしながら、このような姿勢には大きなリスクがあると言わざるを得ません。
事後調査で指摘を受けてから後悔するのではなく、日常の業務フローの中に法的チェック機能を組み込むことが、結果として最もコストパフォーマンスの良い経営判断となります
適切な知識を持ち、適正な申告を行うことで、貴社の輸入ビジネスがより強固なものとなるよう、当事務所はサポートいたします。
もし貴社において、現在の通関体制に少しでも不安をお持ちであれば、まずは現状の取引内容を整理し、潜在的なリスクを洗い出すところから始めましょう。
【お問合せは、こちらから】
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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら)
(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定
本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。

