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「税関に確認したのに…」事後調査で指摘、よくある相談事例
「輸入する前に、税関の相談窓口へ行って、貨物の写真や資料を見せながらHSコードを確認したんです。『この商品は〇〇番(関税率0%)で問題ないでしょうか』と尋ねたら、担当の相談官は『ええ、おそらくそれで大丈夫でしょう』と。公的な機関の回答ですから、当然それを信じてずっとそのコードで申告していました。ところが先日、税関の事後調査が入り、調査官は全く違う見解を示したのです。『この商品は××番(関税率3.5%)に分類されるべきだ』と。過去数年分に遡って、多額の追徴税額と、さらにペナルティである過少申告加算税まで課すと言われています。慌てて『事前に相談しています』と反論しても、『相談の記録はこちらには一切ありません』の一点張りで、全く取り合ってもらえません…」
これは、当事務所に実際に寄せられるご相談の中でも、特に切実で、そして頻繁に発生する典型的なケースです。税関という国の機関の助言に従ったにもかかわらず、数年後に異なる判断が示され、多額の追徴課税を求められることがあります。このような場合、輸入事業者にとって大きな負担となります。
しかし、ここで諦めてはいけません。確かに、一度下された税関の判断(更正処分)を覆し、追徴される本税そのものをゼロにすることは極めて困難です。しかし、ペナルティとして課される「過少申告加算税」については、免除を勝ち取れる可能性が残されています。
なぜ税関の口頭回答は覆されるのか?2つの決定的理由
多くの方が「なぜ公的機関の回答が、後から来た担当者の意見で簡単に覆されてしまうのか」と強い憤りを感じるのも無理はありません。しかし、この現象は税関の怠慢や担当者個人の問題ではなく、通関行政が持つ構造的な理由に基づいています。その核心は、次の2点に集約されます。

理由1:口頭回答に「法的拘束力」はないという原則
最も重要な原則は、税関相談官による口頭での回答には、法的な拘束力が一切ないという点です。これは、あくまで税関職員がその場で提供できる範囲での「参考意見」や「サービスの一環」に過ぎません。
行政機関の決定には「公定力」という強い効力が認められており、たとえその決定に誤りがあったとしても、正式な手続き(不服申立てや訴訟)によって取り消されない限り、有効なものとして扱われます。事後調査の結果として税関長が行う更正処分は、この公定力を持つ正式な行政処分です。一方で、事前の口頭回答は非公式な見解に過ぎないため、正式な行政処分である更正処分と見解が異なった場合、後者が優先されるのが法律上のルールなのです。
このルールは、行政手続きの公平性や安定性を保つために設けられています。もし口頭の回答に法的拘束力を持たせてしまうと、担当者による見解の相違や記憶違いによって課税の公平性が損なわれるリスクがあるため、このような厳格な運用がなされているのです。
理由2:「言った言わない」を証明できない記録の不存在
口頭回答が抱えるもう一つの致命的な欠陥は、そのやり取りを客観的に証明する公式な記録が一切残らない点です。相談者側がどれだけ正確な情報を提供し、税関職員が明確な回答をしたと認識していても、そのやり取りを証明する公的な議事録や録音データは存在しません。
そのため、事後調査の段階で「事前に相談し、指示を仰いだ」と主張しても、税関側は「そのような記録は存在しません」と回答するしかなく、議論は水掛け論に終わってしまいます。もちろん、ご自身で相談日時や担当者名、やり取りを詳細にメモしておくことは非常に重要ですが、残念ながらそれだけでは法的な証拠として税関の公式見解を覆すほどの力を持つことは難しいのが現実です。
このように、口頭回答は「法的拘束力」と「記録」という、法的主張に不可欠な2つの要素を欠いているため、事後調査でいとも簡単に覆されてしまうのです。このリスクを抑える有効な方法は、文書による回答を得る「事前教示制度」を活用することです。その詳細については文書による事前教示制度の活用方法の記事で詳しく解説しています。
参照:税関「事前教示制度について」
【本題】加算税を免れるための「正当な理由」という反論
追徴本税の支払いが避けられないとしても、決して全てを諦める必要はありません。特に、理不尽なペナルティである「過少申告加算税」については、法律で免除が認められるケースがあります。その鍵となるのが、関税法に定められた「正当な理由」の存在を主張することです。
「正当な理由」とは、簡単に言えば、「納税者が過少申告するに至ったことについて、納税者に責任があるとは言えない特別な事情」を指します。そして、税関の指導・教示に従った結果、申告が過少となった場合は、この「正当な理由」に該当する可能性が十分にあるのです。
では、記録が残っていない口頭のやり取りを根拠に、どのようにして「正当な理由」を主張し、立証していくのでしょうか。そのための具体的なステップを解説します。より詳しい解説は、過少申告加算税と「正当な理由」の記事もご覧ください。
ステップ1:当時の状況を客観的証拠で再構築する
「記録がない」という税関の主張に対し、我々は「状況証拠」を積み重ねることで反論の土台を築きます。公式な記録が存在しなくても、「相談した」という事実を推認させる間接的な証拠を集め、当時の状況を可能な限り詳細に再現することが極めて重要です。
弁護士がご依頼を受けた際、まずお願いするのは以下のような資料の収集です。
- 社内メール:税関に相談する前後の、上司や同僚とのやり取り。「〇月〇日に税関へ確認に行ってきます」「税関で確認した結果、HSコードは〇〇番で良いとのことでした」といった内容のメールは強力な証拠となり得ます。
- 相談時に持参した資料:商品の写真、仕様書、カタログ、サンプルなど、税関職員に見せたもの一式。これらを提示することで、いかに具体的かつ正確な情報を提供しようと努めたかを示せます。
- 手帳や業務日誌の記録:相談した日付、対応した税関の部署名、職員の氏名(覚えていれば)、質疑応答の要旨などを記したメモ。手書きの生々しい記録は、主張の信憑性を高めます。
- 同席者の証言:もし相談に同席した社員がいれば、その方の記憶や証言も重要な証拠となります。
- 通話履歴や交通費の精算記録:税関に電話した記録や、税関の庁舎を訪れた際の交通費の精算書なども、相談の事実を裏付ける間接的な証拠になります。
これらの証拠を時系列に沿って整理し、一つのストーリーとして再構築することで、「納税者として、我々は確かにあの時、税関に相談したのだ」という主張に説得力を持たせることが、税関の処分に対する不服申立ての第一歩となります。

ステップ2:「納税者の責めに帰すべからざる事情」を主張する
ステップ1で集めた証拠をもとに、法的な主張を組み立てます。ここでのゴールは、単に「相談した」と事実を述べることではありません。「今回の過少申告は、我々納税者の責任(帰責性)に帰すべきではない」と論理的に主張することです。
具体的には、以下の要素を盛り込んだ意見書や主張書を作成し、税関に提出します。
- 誠実な情報提供:我々は、判断に必要と思われる十分な資料(仕様書、写真など)を税関に提示し、誠実に質問を行った。
- 税関からの示唆:その結果、税関職員からHSコードについて特定の示唆(「おそらくそれで大丈夫」など)を得た。
- 合理的な信頼:公的機関である税関の職員から得られた見解を、一民間企業である我々が信頼し、それに基づいて申告を行ったことは、極めて合理的かつ当然の行動である。
- 帰責性の不存在:したがって、結果的に申告内容が誤りであったとしても、その原因は税関側の示唆にあり、納税者として最大限の注意を払った我々に、その責任を問うことは酷である。
この論理構成は、過去の国税不服審判所の裁決例などでも認められることがある、正当な主張です。感情的に「理不尽だ」と訴えるのではなく、収集した客観的証拠に基づき、冷静かつ論理的に「納税者としての義務は果たした」ことを主張する。これが、不服申立てや審査請求における交渉の王道です。
本税と加算税の支払額シミュレーション
「正当な理由」の主張が認められ、加算税が免除されることの金銭的なインパクトは決して小さくありません。具体的な数字でその重要性を確認してみましょう。
例えば、事後調査によって指摘された追徴本税(関税)の額が500万円だったとします。
| 加算税が課された場合 | 加算税が免除された場合 | |
|---|---|---|
| 追徴本税 | 500万円 | 500万円 |
| 過少申告加算税 | 50万円(原則10%) | 0円 |
| 総支払額(本税+加算税) | 550万円 | 500万円 |
※延滞税は別途発生します。
このケースでは、加算税が免除されることで、支払額に50万円もの差が生まれます。追徴税額が大きくなればなるほど、この差はさらに拡大します。この50万円は、本来であれば支払う必要のなかったペナルティです。諦めずに「正当な理由」を主張することは、キャッシュフローを守るための重要な経営判断と言えるでしょう。なお、輸入通関における加算税制度には様々な種類があり、状況によって税率も変動します。
参照:税関「関税法基本通達 69-5(「正当な理由」があると認められる場合)の(3)」(PDF)
二度と失敗しないための、盤石な通関体制構築マニュアル
今回の苦い経験を未来への糧とし、二度と同じ轍を踏まないためには、社内の通関管理体制を根本から見直す必要があります。精神論ではなく、明日から実行できる具体的なアクションプランを3つご紹介します。こうした貿易ビジネスを「通関リスク」から守る方法を社内に根付かせることが重要です。
原則:口頭での確認は「参考意見」と心得る
まず最も重要なのは、社内全体の意識改革です。「税関への口頭相談で得られた回答は、あくまで参考意見であり、輸入申告の正式な根拠としてはならない」という原則を、社内の通関業務マニュアルの冒頭に明記し、全担当者が遵守するルールとして徹底してください。
口頭での相談は、あくまで大まかな方向性や論点を整理するための「予備調査」と位置づけます。このマインドセットの転換こそが、将来のすべてのリスクを回避するための基礎となります。通関業者任せにせず、自社でリスクを管理する意識を持つことが不可欠です。
実践:重要案件は必ず「文書による事前教示」を取得する
口頭回答のリスクを抑える有効な方法が「文書による事前教示制度」の活用です。この制度を利用すれば、税関からHSコードや関税評価などについて、文書による公式な回答を得ることができます。
この文書回答(事前教示回答書)は、発行から原則として3年間、税関実務上尊重されるため、法的安定性が格段に高まります。特に、以下のようなケースでは、必ず事前教示を取得するようにしてください。
- 新規で取り扱う商品
- 取引単価が高額な商品
- HSコードの解釈が複数考えられる複雑な商品
- 継続的に大量輸入する予定の商品
申請には所定の様式(関税法関係[C様式]など)に従った照会書の作成が必要ですが、その手間を補って余りあるメリットがあります。輸入取引における事前教示制度の活用は、将来の数百万、数千万円の追徴リスクを未然に防ぐための、最も費用対効果の高い投資です。
記録:すべての相談は「記録化」を義務付ける
とはいえ、実務上、すべての案件で事前教示を取得するのは現実的ではないかもしれません。やむを得ず口頭で相談する場合には、そのリスクを最小限に抑えるための防御策として、相談内容の「記録化」を社内ルールとして義務付けてください。
具体的には、以下のような項目を記載した簡単な報告フォーマットを準備します。
- 相談日時
- 対応部署・担当者名
- 相談方法(対面、電話など)
- こちらからの質問内容(要旨)
- 税関からの回答内容(要旨)
- 提示した資料の一覧
相談後は必ずこのフォーマットに記入し、上長や関係部署にメールで共有します。これにより、相談内容が社内の公式な記録として保存され、万が一の際に「ステップ1」で解説した証拠の一つとして活用できます。こうした記録を適切に管理することは、電子帳簿保存法への対応という観点からも重要です。
税関との交渉が困難な場合は、専門家への相談も一考を
ここまで解説してきた対策は、いずれも法的な知識と交渉の経験を要します。税関に対して、自社だけで「正当な理由」を整理して主張し、適切な結果を目指すには、法的知識と実務経験が必要です。
もし、税関との交渉が難航している、あるいは、どのように主張を組み立てれば良いか分からないという場合には、一人で抱え込まず、通関・貿易法務に精通した専門家にご相談ください。
私たち通関士資格をもつ弁護士は、以下のような点で貴社のお力になることができます。
- 法的主張の構築:客観的な証拠に基づき、過去の裁決例なども踏まえた、説得力のある意見書・主張書を作成します。
- 税関との交渉対応:貴社の代理人として、税関の調査官に対し、法的な観点から必要な主張・説明を行います。
- 不服申立て手続きの代理:更正処分に不服がある場合、再調査の請求や審査請求といった法的な不服申立て手続きを迅速かつ適切に進めます。
税関の事後調査で指摘を受けたとしても、すぐに修正申告に応じる必要はありません。それは、反論の機会を自ら放棄することを意味します。絶望的な状況に思えても、専門家の目から見れば、反撃の糸口が残されているケースは少なくありません。まずは一度、現状をお聞かせください。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。

