医療機器を輸入する場合の注意点

はじめに:仮の相談者から寄せられた相談事例のご紹介

本日は、輸入ビジネスにおいて最も規制が厳しく、かつ専門的な判断が要求される分野の一つである医療機器の輸入について、その法的定義から実務的な許可申請フローまでを網羅的に解説いたします。まずは、当事務所に実際に寄せられる相談内容を模した、以下の架空事例をご覧ください。健康意識の高まりを背景に、ヘルスケア製品を海外から導入しようとする企業様にとって、重要な示唆が含まれています。

【相談者】

神奈川県内で最新の美容機器や健康増進グッズの輸入販売を手掛けるA社 代表取締役 B氏

【相談内容】

「当社はこの度、欧州のメーカーが開発した、微弱な電流を用いて筋肉のコリをほぐし、血行を促進すると謳われているポータブル型のマッサージ器を百台ほど輸入し、自社のECサイトで販売する計画を立てました。当該製品は、欧州では家庭用のリラクゼーション機器として広く一般に販売されており、特別な医療用免許などは不要な製品として扱われています。B氏は、日本国内においてもあくまで美容・健康目的の雑貨として輸入・販売できるものと考え、海外のメーカーと契約を締結いたしました。しかし、いざ日本へ到着し、通関手続きを行おうとしたところ、税関から『この製品はその効能効果から見て、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律、いわゆる薬機法上の医療機器に該当する疑いがある。厚生労働省の確認(確認証の提示)がなければ輸入を許可できない』と指摘され、貨物が保税地域に留め置かれてしまいました。B氏は、医療現場で使用するような本格的な装置ではないにもかかわらず、なぜ医療機器としての規制を受けるのか、また、これからどのような手続きを踏めれば輸入ができるようになるのか、専門的な見地からの詳細な解説を求めています」

このような事例は、美容・健康関連の輸入事業において非常に頻繁に見受けられます。医療機器を輸入する際には、一般的な貨物輸入とは異なる極めて厳格な規制が適用されます。そのため、医療機器の輸入を計画する際には、まず対象となる貨物が医療機器に該当するかどうかを、法令の条文に基づき明確に判断することが重要です。本日は、医療機器に該当する場合の規制内容と該当性判断のポイントについて、薬機法を中心とする法体系に沿って解説いたします。

1 医療機器の法的定義と該当性の判断基準

日本国内において、何が医療機器に該当するかについては、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(以下、薬機法といいます。)において厳密に定義されています。この定義を理解することが、すべての輸入実務の出発点となります。

(薬機法第二条第四項)

この法律で「医療機器」とは、人若しくは動物の疾病の診断、治療若しくは予防に使用されること、又は人若しくは動物の身体の構造若しくは機能に影響を及ぼすことが目的とされている機械器具等(再生医療等製品を除く。)であつて、政令で定めるものをいう。

この条文には、二つの重要な要素が含まれています。

(一)目的性

人または動物の疾病の診断、治療、または予防に使用されることを目的としていること、あるいは、身体の構造または機能に影響を及ぼすことを目的としていることです。ここで注意が必要なのは、実際に効果があるかどうかではなく、輸入者や販売者がそのような効果を謳っているか、あるいは製品の形状や性質からそのように客観的に判断されるかという点です。B氏の事例にある「筋肉のコリをほぐす」「血行を促進する」といった表現は、まさに身体の構造や機能に影響を及ぼす目的を示すものであり、医療機器の定義に合致する可能性が極めて高いといえます。

(二)政令による指定

上記の目的に該当するものであっても、すべての機械器具が医療機器になるわけではありません。薬機法施行令別表第一において、具体的な品目(例えば、家庭用マッサージ器、視力補正用レンズ、手術用メスなど)が細かく指定されています。

例えば、単なる洗顔ブラシであれば医療機器には該当しませんが、皮膚の疾患の治療目的を謳えば医療機器とみなされます。このように、製品の使用目的や宣伝内容(広告表現)は、該当性判断において決定的な役割を果たします。

2 医療機器のリスク分類と実務上の影響

医療機器はそのリスクの程度に応じて、クラス一からクラス四までの四段階に分類されています。輸入者が行うべき手続きや、求められる許可のレベルは、この分類によって大きく異なります。

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医療機器のリスク分類と規制内容の一覧表

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分類|リスクの程度|具体的な製品例|主な規制手続き

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クラス一|一般医療機器(極めて低い)|メス、ピンセット、X線フィルム、鋼製小物|製造販売届出

クラス二|管理医療機器(比較的低い)|家庭用マッサージ器、電子体温計、MRI装置|指定管理医療機器認証

クラス三|高度管理医療機器(高い)|コンタクトレンズ、透析器、人工骨、人工透析装置|製造販売承認(厚労省/PMDA)

クラス四|高度管理医療機器(極めて高い)|心臓ペースメーカー、人工心臓弁、ステント|製造販売承認(厚労省/PMDA)

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B氏が輸入しようとしているマッサージ器は、家庭用であっても通常はクラス二の「管理医療機器」に該当いたします。クラス一以外は、第三者認証機関による認証や、厚生労働大臣(独立行政法人医薬品医療機器総合機構:PMDAが実務を担当)による承認が必要となり、多大な時間と費用がかかることを覚悟しなければなりません。

3 医療機器を輸入するために必要な業許可と認定

医療機器に該当すると判断された場合、単に輸入申告をするだけでは不十分です。輸入を継続的に行う事業者として、以下の法的資格を取得していることが前提となります。

(1)医療機器製造販売業許可

医療機器を日本市場に流通させる責任を負う者としての許可です(薬機法第二十三条の二第一項)。輸入業者は、海外から仕入れた製品を自らの責任で日本国内に放流するため、この製造販売業許可が必須となります。

(一)総括製造販売責任者の設置

品質管理(GQP)および安全管理(GVP)の基準を遵守するための責任者を置かなければなりません。

(二)品質管理基準(GQP)への適合

製品の受入試験や不適合品の管理が適正に行われる体制が求められます。

(三)製造販売後安全管理基準(GVP)への適合

販売後の不具合情報の収集や、必要に応じた回収(リコール)の体制が整っている必要があります。

(2)医療機器製造業登録

海外から届いた医療機器を保管し、日本語のラベルを貼付したり、添付文書を封入したりする場所(包装・表示・保管)についても、製造業の登録が必要となります(薬機法第二十三条の二の三第一項)。

(3)外国製造業者認定

製造元が海外にある場合、その製造業者が日本の薬機法に適合した製造体制を持っていることを厚生労働大臣が認定する制度です(薬機法第二十三条の二の四)。製造元の工場図面や品質管理の証明書などを提出し、認定を受けなければ、その工場の製品を輸入することはできません。

4 関税法第七十条(他法令の証明)と輸入通関の実務

輸入者は、税関に対して輸入申告を行う際、関税法上の要件だけでなく、他法令(この場合は薬機法)の要件を満たしていることを証明しなければなりません。

(関税法第七十条 証明又は確認)

第一項 他の法令の規定により輸出又は輸入に関して許可、承認その他の処分又は検査、検定その他の手続を必要とする貨物については、第六十七条の申告の際、当該許可、承認等を受けていること又は当該検査、検定等を終了していることを税関に証明し、その確認を受けなければならない。

具体的には、以下の書類が必要となります。

一 医療機器製造販売業許可証の写し

二 医療機器製造業登録証の写し

三 当該製品に係る製造販売届出書、認証書、または承認書の写し

四 薬機法に基づく確認証(いわゆる薬事監視を通ったことを示す書類)

B氏の事例のように、これらの準備なしに輸入を試みた場合、税関は「確認が取れない貨物」として輸入を許可しません。無理に国内へ持ち込もうとすれば、無許可輸入として厳しい処罰の対象となります。

5 医療機器該当性を判断する際の実務的注意点

医療機器に該当するか否かの判断は、輸入者が自ら行うのではなく、専門家や規制当局と連携して慎重に進めるべきです。以下のステップを踏むことが、法的リスクを回避する王道です。

(1)使用目的と表示内容(ラベリング)の徹底的な確認

製品の説明書、仕様書、カタログ、さらには海外メーカーのウェブサイトに記載された使用目的が、薬機法上の定義に該当するかどうかを精査します。特に「肌の再生」「痩身効果」「痛みの緩和」といったキーワードは、一発で医療機器または医薬品としての規制対象となります。

(2)類似製品の規制状況の調査

日本国内で既に同様の機能を持つ製品がどのように販売されているかを調査します。PMDAのデータベース(情報検索システム)を活用し、同じ一般名称やクラス分類で登録されているものがないかを確認しましょう。

(3)行政機関への事前相談

判断が曖昧な場合には、厚生労働省や、各都道府県の薬務課に直接問い合わせ、見解を得ることが可能です。この際、製品の図面、成分表、回路図、期待される効果の根拠資料などを詳細に準備しておく必要があります。

6 医療機器の法定表示と添付文書の義務

医療機器として適法に輸入できた後も、販売に際しては厳格な表示義務が課されます。

(薬機法第六十三条 医療機器の直接の容器等の記載事項)

一 製造販売業者の氏名又は名称及び住所

二 名称

三 製造番号又は製造記号

四 厚生労働大臣の指定するものにあつては、その使用の期限

五 その他厚生労働省令で定める事項

また、原則としてすべての医療機器に「添付文書」の同梱または電磁的方法による提供が義務付けられており、これには使用上の注意、禁忌、操作方法などを日本語で正確に記載しなければなりません。海外の取扱説明書をそのまま翻訳するだけでは不十分であり、日本の安全基準に合致した内容に再構成する必要があります。

7 法令違反に伴う深刻なペナルティと社会的制裁

医療機器の無許可輸入や、雑貨を装った不正販売は、人の生命や健康に直結するため、極めて重い罰則が科されます。

(一)刑事罰の内容

(薬機法第八十四条)

次の各号のいずれかに該当する者は、三年以下の懲役若しくは三百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

一 第二十三条の二第一項(製造販売業の許可)の規定に違反した者

(中略)

五 第二十三条の二の五第一項(製造販売の承認)の規定に違反した者

さらに、法人に対しては、薬機法第九十条に基づき、さらに高額な罰金刑が科される「両罰規定」が存在します。

(二)行政処分

経済産業大臣による輸入禁止措置に加え、厚生労働大臣による業務停止命令や許可の取消処分が下されます。一度許可を取り消されると、長期間にわたり再取得ができず、企業の継続は困難となります。

(三)社会的信用の失墜

法令違反の事実は公表され、「未承認の医療機器を販売した悪質な業者」という評価が定着します。これにより、金融機関からの融資停止や、大手取引先からの契約解除を招くことになります。

8 専門家による法的サポートの重要性と当事務所の役割

医療機器該当性の判断は、医学的知識と法学的知識の両面を必要とする高度に専門的な作業です。輸入者は、商材のポテンシャルだけでなく、その法的重みを正しく理解しなければなりません。当事務所は、代表弁護士が輸出入や通関に関する唯一の国家資格である通関士資格を併せ持っており、薬機法と関税法の双方の視点から、隙のないサポートを提供することが可能です。

【当事務所が提供できる主な支援内容】

一 輸入予定製品の精緻な医療機器該当性鑑定およびクラス分類の特定。

二 医療機器製造販売業許可および製造業登録の取得支援、体制構築。

三 外国製造業者認定の申請代行、および海外メーカーへの英文説明資料の作成。

四 品目ごとの製造販売届出・認証・承認申請のコンサルティング。

五 薬機法および景品表示法に適合した広告表現のリーガルチェック。

六 税関での輸入差し止め時における当局との法的交渉、および確認証の取得。

七 社内コンプライアンス研修およびGQP/GVP体制の定期監査。

弁護士でありながら通関実務の知見を持つことで、単なる法令の解釈に留まらず、税関当局や薬務当局がどのような視点で調査を行い、どのような証拠書類を重視するかという、実地に基づいたアドバイスを提示することができます。

9 まとめ:適正な管理こそがヘルスケアビジネスの信頼を支える

本日は、医療機器の輸入における薬機法の規制とその実務的な対応策について解説いたしました。B氏のようなケースであっても、当初から正しい法令知識に基づき、製品のカテゴリーを正しく判定し、必要な業許可を得ていれば、法的リスクを回避しつつ、最新の技術を安全に日本市場へ届けることが可能でした。

企業としては、輸入する貨物の内容や取引相手に支払う代金のみを気にしておけばよく、それ以外の手続面のことはほとんど気にしていない場合も多いものと思われます。しかしながら、このような姿勢には大きなリスクがあると言わざるを得ません。医療機器の輸入は、単なるビジネスの枠を超え、国民の健康と安全を維持するための公的な秩序の一部を担っています。

正しい法令知識に基づき、一つひとつの取引を精査すること。その地道な努力が、貴社のグローバルビジネスを安定させ、不測の事態から会社を守ることに繋がります。当事務所は、貴社の良きパートナーとして、その専門性を最大限に発揮して、安定した海外展開や新事業の立ち上げをサポートし続けます。適正な通関こそが、グローバルビジネスを安定させる唯一の道です。

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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら

(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定

本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

 

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