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はじめに:仮の相談者から寄せられた相談事例のご紹介
本日は、輸入ビジネスを志す個人事業主や中小企業の皆様が、最も慎重に検討すべき課題である「輸入してはならない品目」と「輸入が制限されている品目」の法的境界線について詳述いたします。まずは、当事務所に実際に寄せられる相談内容を模した、以下の架空事例をご覧ください。グローバルな取引において、意図せぬ法令違反がどのような事態を招くのか、実務的な視点から非常に重要な示唆が含まれています。
【相談者】
神奈川県内で海外製の高機能家電や健康雑貨の輸入販売を手掛けるA社 代表取締役 B氏
【相談内容】
「当社はこの度、北米のメーカーが開発した、最新のUV除菌機能付き空気清浄機を百台ほど輸入し、国内のECサイトで販売する計画を立てました。当該製品は現地では一般家庭向けに広く普及しており、安全性も高く評価されているものです。B氏は、現地で正規に流通している既製品を輸入するだけであるため、特段の法的な問題はないものと考え、海外メーカーと契約を締結し、全額を前払いいたしました。しかし、日本へ到着した際、税関から『本製品は内蔵されているオゾン発生機能により医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)上の医療機器に該当する疑いがあり、また、無線通信機能が電波法の技術基準に適合している証明(技適マーク)がないため、輸入を認められない』と指摘され、貨物が保税地域に留め置かれてしまいました。B氏は、医療現場で使うような装置ではないのになぜ医療機器扱いになるのか、また、電波法が輸入そのものにどう影響するのか、専門的な見地からの詳細な解説を求めています」
このような事例は、輸入実務における基礎知識の不足が原因で、非常に多く発生しております。輸入ビジネスを行う上で、最も注意すべき法的リスクのひとつが「輸入してはならない品目」(禁制品)の存在です。特に、税関での貨物の差止や行政処分を受ける原因として多いのが、「輸入禁止の品目」や「輸入制限品目」に該当する商品を知らずに輸入しようとしてしまうケースです。本記事では、両者の法的な違いと、輸入事業者として知っておくべきポイントを、関連法令の条文を交えながら解説いたします。
1 関税法に基づく「輸入禁止品目」の法的定義
輸入禁止品目とは、関税法および関係法令により、輸入そのものが厳格に禁止されている貨物のことを指します。これらを輸入しようとすると、税関での即時差止の対象となり、刑事責任を問われることも十分あり得ます。法的な根拠は、関税法第六十九条の十一に明文化されています。
第一項 次に掲げる貨物は、輸入してはならない。
一 阿片、コカイン、ヘロイン、大麻、覚醒剤、向精神薬その他の麻薬(麻薬及び向精神薬取締法に規定するものをいう。)
二 拳銃、小銃、機関銃、砲、これらの銃砲弾及び部品
三 爆発物(火薬類取締法に規定するものをいう。)
四 火薬類(前号に掲げるものを除く。)
五 化学兵器の禁止及び特定物質の規制等に関する法律に規定する特定物質
六 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律に規定する一種病原体等及び二種病原体等
七 貨幣、紙幣、銀行券、印紙、郵券(郵便切手)又は有価証券の偽造品、変造品及び模造品並びに偽造カード
八 公安又は風俗を害すべき書籍、図画、彫刻物その他の物品(わいせつ物等)
九 児童ポルノ(児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律に規定するものをいう。)
十 特許権、実用新案権、意匠権、商標権、著作権、著作隣接権、回路配置利用権又は育成者権を侵害する物品(知的財産権侵害物品)
十一 不正競争防止法に掲げる行為(中略)を組成する物品
これらは、国家の治安・秩序の維持や、国民の健康・安全の確保、さらには産業の健全な発展を保護するために規定されています。B氏の事例にある空気清浄機がもし、偽造されたブランドロゴを付していた場合には、この第十号の知的財産権侵害物品として輸入禁止品目に該当することになります。
2 関税法第七十条に基づく「輸入制限品目」と他法令の証明
一方、輸入制限品目とは、「輸入そのものは禁止されていないが、一定の条件(許可、承認、検査等)を満たさないと輸入できない品目」を指します。実務上、こちらの方が判断が難しく、落とし穴となりやすい領域です。この根拠は関税法第七十条、いわゆる「他法令の証明」規定にあります。
第一項 他の法令の規定により輸出又は輸入に関して許可、承認その他の処分又は検査、検定その他の手続を必要とする貨物については、第六十七条の申告の際、当該許可、承認等を受けていること又は当該検査、検定等を終了していることを税関に証明し、その確認を受けなければならない。
第二項 前項の確認を受けられない貨物については、輸入を許可しない。
この「他の法令」には、薬機法、食品衛生法、電波法、植物防疫法、家畜伝染病予防法など、多岐にわたる法律が含まれます。主な輸入制限品目と、対応する法令の例を以下の表にまとめました。
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主要な輸入制限品目と関係法令一覧表
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品目カテゴリー|該当する主な法律|必要とされる手続の概要
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医薬品・化粧品|薬機法|製造販売業許可、外国製造業者認定、薬監証明
医療機器|薬機法|クラス分類に応じた承認・認証・届出、技適確認
食品・食器|食品衛生法|食品等輸入届出書の提出、必要に応じた自主検査
無線・電子機器|電波法・電気用品安全法|技適マークの付与、PSEマークの表示
植物・木材|植物防疫法|輸出国の植物検疫証明書、国内での輸入検疫
動物・肉製品|家畜伝染病予防法|輸出国の検査証明書、家畜防疫官の検査
希少動植物|ワシントン条約(外為法)|輸出国の輸出許可証、経済産業省の輸入承認
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B氏の事例にある空気清浄機は、オゾン発生機能が「疾病の治療や予防」を連想させる効能として謳われている場合、薬機法上の医療機器としての制限を受けます。また、Wi-FiやBluetoothを内蔵している場合は、電波法上の技術基準適合証明が必要となります。これらをクリアし、税関に対して「他法令の証明」を行わない限り、輸入許可は下りません。
3 輸入制限品目における具体的な法的リスクの深掘り
制限品目を正しく処理しないまま輸入を強行しようとした場合、単なる手続きの遅延に留まらない、甚大な不利益が生じます。
(一)薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)のリスク
医療機器や化粧品を無許可で輸入・販売した場合、薬機法第八十四条に基づき、三年以下の懲役若しくは三百万円以下の罰金、またはその併科という厳しい刑罰が科されます。さらに、法人に対しては高額な罰金刑が科される両罰規定も存在します。
(二)電波法のリスク
技適マークのない無線機器を輸入し、国内で使用させる(または販売する)ことは、不法電波の発生を招く恐れがあるため、電波法に基づき厳しく規制されます。特に、最近の「スマート家電」はほぼすべてがこの規制対象になり得るため、IT関連の輸入業者は細心の注意が必要です。
(三)食品衛生法のリスク
食品だけでなく、乳幼児用のおもちゃや、直接食品に触れる容器・包丁なども対象となります。これらについて届出を怠ると、食品衛生法に基づき全貨物の廃棄または積み戻し(海外への返送)が命じられ、仕入れ費用がすべて無駄になるだけでなく、行政処分の対象となります。
4 「知らなかった」では済まされない法的責任(過失の推定)
税関での差止や廃棄命令、追徴課税などの制裁は、輸入者の故意・過失を問わず課されます。実務上、「他の業者が輸入していたから大丈夫だと思った」、「海外のメーカーが安全だと言った」、「ECサイトで普通に販売されていた」、といった認識は法的には一切通用いたしません。
第六十九条の十一第一項第一号から第六号までに掲げる貨物を輸入した者は、十年以下の懲役若しくは三千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
第六十九条の十一第一項第七号から第十一号までに掲げる貨物(知的財産侵害物品等)を輸入した者は、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
輸入業者は、自らが「輸入の主体」として、その貨物の性質を完全に把握する義務を負っています。この義務を怠ることは、法的には「過失」があるものとみなされ、場合によっては「未必の故意」として刑事罰の対象となる可能性すらあります。
5 輸入実務における該否判定フローとチェックリスト
B氏のような事態を未然に防ぐために、事業者が構築すべき標準的な確認フローを以下に提示いたします。
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輸入貨物法的妥当性確認フロー
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ステップ一:製品の全成分・機能の特定
メーカーから成分表(MSDS)、仕様書、回路図等を取り寄せる
ステップ二:関税法第六十九条の十一(禁止品目)の照合
薬物、武器、知財侵害、わいせつ物等に該当しないか確認する
ステップ三:関税法第七十条(他法令)の該当性調査
薬機法、食品衛生法、電波法、PSE法等の対象範囲を精査する
ステップ四:宣伝・広告内容のリーガルチェック
効能効果を謳う場合、それが医療機器等に該当しないか確認する
ステップ五:専門家または行政機関への事前相談
不透明な場合は、税関や各省庁の窓口に「事前照会」を行う
ステップ六:必要書類の完備と通関指示
許可証、届出書の写しを揃え、通関業者に詳細な指示を出す
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6 不適切な管理に伴う二次的被害とレピュテーションリスク
法令違反の影響は、金銭的な制裁や刑事罰に留まりません。
(一)全件検査の対象(通関のブラックリスト化)
一度、禁止品目や制限品目の不適切な輸入を試みた履歴が税関のシステムに残ると、その後のすべての輸入貨物に対して「開梱検査」が行われるようになります。これにより、納期の遅延や保管料の増大など、物流コストが跳ね上がり、ビジネスの競争力を著しく損なうことになります。
(二)社会的信用の失墜
行政処分や刑事罰の事実は、厚生労働省や経済産業省、警察のウェブサイト等で公表されることがあります。取引銀行からの融資停止や、大手販売プラットフォームからのアカウント停止処分を招くことになり、事実上の事業停止に追い込まれるリスクがあります。
(三)賠償責任の連鎖
輸入した製品が原因で消費者に健康被害が生じたり、電波障害が発生したりした場合、製造物責任法(PL法)に基づき、輸入業者がメーカーと同等の損害賠償責任を負うことになります。
7 対策としての事前確認と専門家の関与の重要性
輸入したい商品が「禁止」されているものか又は「制限」されているものか、そしてどのような許可・検査が必要なのかといったことを、契約締結前に調査することが極めて重要です。特にリスクの高い品目(医薬品・美容関連・電子機器・希少素材など)については、法令に精通した弁護士や専門家の助言を受けることで、トラブルを未然に防ぐことができます。
当事務所は、代表弁護士が輸出入や通関に関する唯一の国家資格である通関士資格を有しており、法務と実務の両面から強力なサポートを提供することが可能です。弁護士でありながら通関実務の深い知見を持つことで、単なる法令の解釈に留まらず、税関当局がどのような視点で調査を行い、どのような証拠書類を重視するかという、実地に基づいたアドバイスを提示することができます。
【当事務所が提供できる主な支援内容】
一 製品仕様に基づいた精緻な「輸入禁止・制限品目」の該否判定
二 薬機法、食品衛生法、電波法等に関わる業許可の取得支援および体制構築
三 海外メーカーとの売買契約書における法的リスクヘッジ(表明保証等)の策定
四 税関での輸入差し止め時における法的交渉および認定手続への対応
五 税関事後調査に対する事前シミュレーションおよび調査当日の立ち会い
六 社内輸入管理体制(ICP)の策定および従業員向けコンプライアンス研修
8 まとめ:適正な管理こそがグローバルビジネスを安定させる唯一の道
本日は、輸入ビジネスの死命を制する「禁制品・制限品目」の法的リスクについて解説いたしました。B氏のようなケースであっても、当初から正しい法令知識に基づき、製品のカテゴリーを判定し、必要な証明書類を整えていれば、法的リスクを回避しつつ、最新の製品を安全に日本市場へ届けることが可能でした。
企業としては、輸入する貨物の内容や取引相手に支払う代金のみを気にしておけばよく、それ以外の手続面のことはほとんど気にしていない場合も多いものと思われます。しかしながら、このような姿勢には大きなリスクがあると言わざるを得ません。通関手続きや法的権利の確認について、専門家に任せることは非常に有用ですが、企業としてもそれらの点について最低限の知識を持ち、各手続において重要な点については逐一確認をとる等の対応が必要です。
正しい法令知識に基づき、一つひとつの取引を精査すること。その地道な努力が、貴社のグローバルビジネスを安定させ、不測の事態から会社を守ることに繋がります。当事務所は、貴社の良きパートナーとして、その専門性を最大限に発揮して、安定した海外展開や新規事業の立ち上げをサポートし続けます。適正な通関こそが、グローバルビジネスを安定させる唯一の道です。
【お問合せは、こちらから】
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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら)
(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定
本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。

