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0 はじめに
まずは、当事務所に寄せられた具体的な相談事例をご紹介いたします。
「私はフランスから高級なヴィンテージワインを数百本輸入いたしました。しかし、本邦の港に到着して荷卸しをした際、輸送中の温度管理の不手際により一部のボトルで液漏れや品質の劣化が生じていることが判明いたしました。また、数ケースについては梱包の破損によりボトルが割れてしまっています。輸入契約の段階では、これらの不測の事態による値引き等は想定されておりません。このような場合、本来の購入価格のままで関税を支払わなければならないのでしょうか。損傷して価値が下がった分を考慮して、申告価格を下げることは可能でしょうか。法的な根拠と手続きの流れについて詳しく教えてください」
国際貿易においては、輸送中の事故や環境の変化により、貨物が本来の品質を維持できないまま到着することが稀にあります。このような場合、税関への申告価格をどのように設定すべきかは、輸入者にとって大きな関心事です。本稿では、変質又は損傷が生じた貨物の課税価格の決定方法について、法令に基づき詳しく解説いたします。
1 変質又は損傷があった場合の原則的な課税価格の考え方
輸入貨物の課税価格は、原則として実際の取引価格である現実支払価格を基礎として算出されます。しかし、輸入申告の時までに貨物が変質したり損傷したりしている場合には、その価値が低下していることを考慮する必要があります。関税定率法第四条の五の規定によれば、輸入申告時までに変質又は損傷があったと認められる貨物については、変質又は損傷がなかったと仮定して計算される課税価格から、その減価に相当する額を控除した価格を課税価格とすることができます。
この規定の目的は、輸入者が実際に受け取る価値に見合った適正な関税を課すことにあります。
2 適用を受けるための要件と注意点
この例外的な決定方法を適用するためには、いくつかの重要な要件を満たす必要があります。
(1)輸入取引の条件の確認
関税定率法第四条の五の適用を受けるためには、その輸入取引の条件から見て、変質又は損傷が想定外の事態であることが求められます。もし、輸入契約において「一定の割合で破損が生じることを見越してあらかじめ低価格で設定されている」場合や、「現状渡しの条件で、損傷のリスクが買手に全面的に帰属し、かつそれが価格に反映されている」ような場合には、本条の適用はありません。この場合、当初の契約価格そのものが課税価格の基礎となる点に注意が必要です。
(2)輸入申告時までの発生であること
本条が対象とするのは、輸入申告の時までに生じた変質又は損傷です。貨物が日本に到着した後、保税地域等で保管されている間に生じた損傷も含まれます。輸入許可が下りた後に発生した損傷については、別の規定である関税定率法第十条の減税措置の対象となるため、混同しないように整理しておく必要があります。
以下に、適用される条文の違いを整理した比較表を掲載いたします。
【表1 変質又は損傷の発生時期と適用法令の比較】
適用法令/発生時期の区分/課税価格・税額の処理方法
関税定率法第四条の五/輸入申告時まで/減価額を控除して課税価格を決定
関税定率法第十条第一項/輸入許可前(申告後)/算出された関税額から減税
3 減価に相当する額の算定方法
「減価に相当する額」とは、損傷等によって失われた貨物の価値を金額で評価したものです。
これを客観的に証明するためには、合理的かつ妥当な数値を用いる必要があります。実務上、以下の書類が有力な証拠資料となります。
①公認検定機関(サーベイヤー)が発行する損害検定報告書
②損傷部分の修繕に要する費用の見積書や請求書
③保険会社に提出した損害賠償請求の書類 ・売手との間で行われた値引き交渉の記録やクレジットノート
特に、第三者機関である公認検定機関による損害見積書は、税関に対する説明において非常に高い証拠力を持ちます。単に輸入者が主観的に「価値が半分になった」と主張するだけでは認められない可能性が高いです。
4 具体的な申告手続きの流れ
変質又は損傷した貨物を申告する際の実務的なステップは以下の通りです。
【表2 損傷貨物の輸入申告における実務フロー】
ステップ/実施内容/留意事項
1 損傷の発見と確認 貨物の荷卸し時に状態を写真等で記録、証拠の確保が最優先
2 損害額の算定 検定機関への依頼や修理見積の取得 客観的な数値の算出
3 税関への事前相談 決定方法の妥当性について担当官と協議 スムーズな審査のため
4 輸入申告の実施 減価額を控除した価格で申告 備考欄に事情を記載
このプロセスにおいて、当初のインボイス価格からどのように計算して申告価格を導き出したのか、その計算過程を明確に記した資料を添付することが重要です。
5 弁護士へのご相談をご希望の方へ
輸入貨物の変質や損傷に伴う課税価格の決定は、事実関係の立証と法令の解釈が複雑に絡み合う領域です。当事務所は、代表弁護士が輸出入や通関に関する国家資格である通関士資格を保有しており、法務と実務の両面からサポートを提供することが可能です。特に、高額な貨物や精密機器、品質変化の判断が難しい食品・化学品等の事案において、以下のような業務を通じて貴社のビジネスを支援いたします。
①関税定率法第四条の五の適用が可能かどうかのリーガルオピニオンの作成
②税関当局に対する合理的かつ説得力のある説明資料の構築支援
③公認検定機関や通関業者との連携による証拠資料の整備
④税関からの価格否認や更正処分に対する不服申立てや訴訟対応
⑤輸送契約や保険契約と連動した、トータルでの損害回避アドバイス
輸入通関上のトラブルや、損傷貨物の取り扱いに関してご不安な点がありましたら、ぜひお気軽に当事務所までご相談ください。専門的な知見に基づき、適正な納税と貴社の利益保護のために尽力いたします。
【お問合せは、こちらから】
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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら)
(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定
本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。

