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輸入取引における一括加算申告制度

2021-03-25

0 はじめに

輸入ビジネスを展開する企業にとって、関税の適切な納税はコンプライアンス遵守の観点から極めて重要です。特に、輸入貨物の課税価格を決定する際には、仕入書(インボイス)に記載された価格だけでなく、輸入者が無償で提供した金型の費用や意匠権の使用料など、様々な加算要素を考慮しなければなりません。

これらの費用を個々の貨物に案分して申告する作業は煩雑になりがちですが、これを効率化する仕組みとして「一括加算」という制度が存在します。本稿では、実務担当者が直面しやすい課題を踏まえ、一括加算制度の概要から具体的な適用要件、法的根拠に至るまで、専門的な視点から解説いたします。

1 相談事例

相談者:株式会社C(日本国内の家電製品輸入販売会社)

担当者:貿易部 高橋様(仮名)

相談内容:「当社では、ベトナムの製造委託先に対して、製品製造用の金型を無償で提供しています。この金型の製作費用は数千万円に上りますが、対象となる製品は今後2年間にわたり、数百回に分けて輸入される予定です。税関からは、金型費用を各輸入申告の際に加算するように指導を受けていますが、毎回の輸入数量に応じて費用を案分して計算するのは事務負担が非常に大きく、誤入力のリスクも懸念しています。何か効率的に申告できる方法はないでしょうか。また、その際の注意点についても教えてください」

2 一括加算制度の定義と基本的な概念

一括加算とは、複数の輸入原因に基づいて輸入される貨物に関わる加算要素の額を、特定の輸入貨物の課税価格に一括して算入することができる制度です。

通常、関税定率法第4条第1項の規定に基づき、輸入貨物の課税価格を決定する際には、買手が無償または安価で提供した物品や役務の費用(生産支援費用)などの加算要素がある場合、原則としてその費用を個々の輸入貨物の数量や価格に応じて案分し、それぞれの輸入申告時に加算しなければなりません。しかし、取引が長期にわたる場合や輸入回数が極めて多い場合、この按分計算は実務上大きな負担となります。そこで、事務負担の軽減と申告の正確性を確保するために、特定の要件を満たす場合に限り、便宜上、特定の回(例えば初回の輸入時など)の申告に全額をまとめて加算することが認められています。これが一括加算制度という仕組みになります。

3 一括加算が認められる費用とその要件

一括加算の対象となる費用は、その性質によって大きく二つのカテゴリーに分類され、それぞれ適用要件が異なります。

(1)関税定率法第4条第1項第3号に掲げる費用

これは、輸入者が輸入貨物の生産に関連して直接または間接に、無償または安価で提供した物品や役務の費用を指します。

具体的には、以下のものが該当します。

① 輸入貨物に組み込まれている材料、部分品またはこれらに類するもの

② 輸入貨物の生産のために使用された工具、金型、ダイスまたはこれらに類するもの

③ 輸入貨物の生産の過程で消費された材料

④ 輸入貨物の生産に関する技術、設計、工案、工芸および意匠(日本国内で開発されたものを除く)

【これらの費用について一括加算が認められるための要件】

輸入者から希望する旨の申し出があり、かつ、課税上その他特に支障がないと認められるとき

(2)上記以外の費用(ロイヤリティ、運賃、保険料など)

関税定率法第4条第1項第1号、第2号、第4号および第5号に規定される費用も、一定の条件下で一括加算が可能です。

① 運賃および保険料

② 仲介手数料

③ 容器や包装の費用

④ ロイヤリティ(特許権、商標権の使用料など)

⑤ 売手に帰属する収益

【これらの費用について一括加算が認められるための要件】

「輸入者から希望する旨の申し出があり、かつ、課税上その他特に支障がないと認められるとき」という条件に加え、「個々の輸入貨物への案分が困難と認められるもの」である必要があります

4 一括加算の手続きと包括評価申告の重要性

一括加算を利用するためには、単に輸入申告時に合計額を入力するだけでは足りません。原則として、あらかじめ「包括評価申告書」を税関長に提出し、その承認を得ておく必要があります。

包括評価申告とは、同一の相手方との間で同一の内容の取引が継続的に行われる場合に、一定期間(原則2年間)の輸入申告において適用される評価の基礎事項をあらかじめ申告しておく制度です。一括加算を希望する旨は、この包括評価申告書の中で明示することになります。

【一括加算適用のための実務フロー表】

|ステップ|実施事項|留意事項|

|1 費用の把握|加算すべき総額の確定|契約書や領収書に基づき正確に算出|

|2 案分の検討|個別の貨物への案分可否を確認|案分が困難な理由を明確にする|

|3 包括評価申告|税関への申告書の提出|一括加算を希望する旨を記載|

|4 税関の審査|提出書類の審査と受理|追加資料の提出を求められる場合あり|

|5 輸入申告|特定の貨物の申告時に加算|包括評価申告の受理番号を入力|

|6 書類の保存|根拠資料の7年間保存|事後調査への備えとして必須|

5 一括加算制度を利用するメリットとデメリット

本制度は便利ではありますが、利用にあたっては利点と欠点の両方を理解しておく必要があります。

(1)メリット

① 事務負担の軽減:毎回の輸入申告ごとに複雑な案分計算を行う必要がなくなる点

② 計算ミスの防止:分母(輸入予定数量)の変動に伴う単価計算の誤りを回避できる点

③ 納税管理の簡素化:多額の加算要素を早期に納税することで、後々の管理が楽になる点

(2)デメリット

① 資金繰りへの影響:将来輸入される貨物の分まで関税・消費税を先払いすることになるため、キャッシュフローを圧迫する可能性がある点

② 過払いのリスク:輸入計画が中止になった場合、一括して支払った税金の還付手続き(更正の請求)が必要となり、手続きが非常に煩雑である点

③ 厳格な立証責任:一括加算の対象となる費用の総額が確定していることを証明する高い透明性が求められる点

6 事後調査におけるリスクと対応策

税関による事後調査において、評価申告(一括加算を含む)は重点的な確認項目となります。不適切な処理が発覚した場合、多額の追徴課税を課される恐れがあります。

【よくある指摘事例】

① 一括加算した費用の総額に、一部の付随費用(設計変更費など)が含まれていなかったケース

② 包括評価申告の有効期限が切れているにもかかわらず、一括加算を継続していたケース

③ 一括加算を適用した貨物とは別のルートで同一の金型を使用した製品を輸入し、二重計上または申告漏れが生じたケース

これらに対する防御策としては、法的な裏付けを持った書面作成と、経理データとの整合性のチェックが不可欠です。特に、関税定率法施行令第1条の5(加算要素の細目)に基づく費用の範囲設定には専門的な判断が求められます

7 まとめ

一括加算制度は、輸入実務における事務負担を軽減し、申告の透明性を高める有効な手段です。しかし、その適用には関税法および関税定率法の深い理解と、税関との適切なコミュニケーションが欠かせません。特に、生産支援費用やロイヤリティの取り扱いは、一歩間違えると巨額の過少申告に繋がりかねないリスクを秘めています。自社の取引が一括加算の要件を満たすのか、あるいは包括評価申告をどのように進めるべきかについて、確かな知見に基づいた判断が必要となります

【弁護士へのご相談をご希望の方へ】

当事務所の代表弁護士は、輸出入および通関手続きに関する国家資格である「通関士」の資格を有しております。法的なアドバイスだけでなく、実際の申告実務や事後調査の現場に即した具体的なアドバイスを提供することが可能です。

「一括加算を利用したいが手続きが不安だ」、「過去の加算申告に誤りがないかチェックしてほしい」、「税関から事後調査の通知が来たので立ち会ってほしい」といったご要望がございましたら、どうぞご遠慮なく当事務所までお問い合わせください。

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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら

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本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

輸入取引における評価申告制度

2021-03-24

0 はじめに

輸入取引を継続的に行っている企業や個人事業主の方々にとって、税関への適正な申告は事業の根幹を支える重要な責務の一つとなります。その中でも「評価申告」という制度は、輸入貨物の課税価格を正しく決定するために極めて重要な役割を果たしています。

しかしながら、その内容の複雑さから、正しく理解されないまま申告漏れが生じてしまうケースも少なくありません。本稿では、評価申告の基本的な仕組みから、具体的な手続き、そして申告を怠った際のリスクについて、実例を交えながら詳細に解説いたします。

1 相談事例

相談者:A株式会社(日本国内の精密機械輸入販売業者)

担当者:物流管理部 佐藤様(仮名)

相談内容:「当社では、アメリカに拠点を置く親会社から精密部品を継続的に輸入しております。これまで、関税の申告は仕入書(インボイス)に記載された価格に基づいて行ってきました。しかし、今期から親会社に対して、部品の輸入価格とは別に、技術提供に対する『ロイヤリティ』や、製造に使用する金型の費用を別途支払うことになりました。このような場合、これまでの申告方法のままで問題ないのでしょうか。また、税関から『評価申告が必要ではないか』とのアドバイスを受けたのですが、具体的にどのような手続きを行えばよいのか、また、申告を行わない場合にどのようなペナルティがあるのかについて詳しく教えてください」

2 評価申告の定義と基本的な仕組み

評価申告とは、輸入貨物の関税を算出する基礎となる「課税価格」が、仕入書に記載された価格だけでは正しく計算できない場合に、その計算の根拠となる事項を税関に対して申告する制度を指します。 関税の額は、原則として「課税価格」に「関税率」を乗じて算出されます。この課税価格を決定するためのルールは、関税定率法第4条以下に厳格に定められています。

多くの輸入取引では、仕入書の価格がそのまま課税価格の基礎となりますが、特定の費用が仕入書価格に含まれていない場合や、売手と買手の間に特殊な関係がある場合には、別途の計算が必要となります。 評価申告の根拠となる法令は、関税法第7条および関税法施行令第4条となります。関税法第7条では、輸入申告の際に課税標準となるべき数量や価格を申告しなければならないと定めており、その具体的な方法として評価申告が位置付けられています。

3 評価申告が必要となる具体的なケース

評価申告が必要となるのは、主に「現実支払価格」に加算すべき費用がある場合や、原則的な課税価格の決定方法(取引価格による方法)が適用できない場合です。具体的なケースとしては以下の通りとなります

(1)加算要素がある場合

関税定率法第4条第1項各号に基づき、以下の費用が輸入価格に含まれていない場合には、これらを加算して課税価格を算出しなければなりません

① 運賃および保険料(輸入港到着までのもの)

② 仲介手数料や手数料(買付手数料を除く)

③ 容器や包装の費用

④ 買手が無償または安価で提供した物品や役務の費用(生産支援費用)

⑤ ロイヤリティ(特許権、意匠権、商標権などの使用料)

⑥ 売手に帰属する収益(リセール・プロシード)

(2)特殊関係がある場合

輸入取引における売手と買手の間に、親子会社関係や一定の出資関係などの「特殊関係」がある場合です。この関係が取引価格に影響を及ぼしていると判断される場合には、仕入書価格をそのまま課税価格として認めることができず、別の方法で算定する必要があります。

(3)特別な事情がある場合

取引に際して、価格を決定できないような条件が付されている場合や、輸入後の貨物の処分に制限がある場合なども含まれます

4 評価申告の種類と手続

評価申告には、大きく分けて「個別評価申告」と「包括評価申告」の2種類が存在します。輸入取引の実態に合わせて、適切な方法を選択することが求められます。

【評価申告の種類と比較表】

|項目|個別評価申告|包括評価申告|

|適用範囲|輸入申告ごとに行う申告|同一の内容の取引が継続する場合の申告|

|提出時期|輸入(納税)申告の際|輸入申告の前にあらかじめ提出|

|有効期間|当該輸入申告のみ有効|原則として受理の日から2年間|

|メリット|取引ごとに正確な判断が可能|毎回の書類提出の手間を軽減できる|

|デメリット|輸入の都度書類作成が必要|取引内容に変更があれば変更届が必要|

|主な利用場面|スポット取引や内容が頻繁に変わる場合|親子会社間の継続的なロイヤリティ契約等|

個別評価申告は、文字通り輸入申告のたびに評価申告書を提出する方法です。

一方で、包括評価申告は、あらかじめ税関から承認を受けることで、有効期間内(通常2年間)であれば、個別の申告時に評価申告書の提出を省略できる制度です。

5 評価申告を怠った際のリスクとペナルティ

評価申告が必要であるにもかかわらず、これを適切に行わずに適切な輸入申告ができていなかった場合、税関の事後調査などによって指摘を受けることになります。その際のリスクは極めて大きく、以下のような不利益を被る可能性があります

(1)追徴課税の発生

本来支払うべきであった関税および消費税の不足分を一括で納付しなければなりません。特にロイヤリティなどの支払額が大きい場合、数年分を遡って徴収されるため、企業のキャッシュフローに甚大な影響を与えることになります

(2)付帯税の賦課

不足税額に加えて、過少申告加算税(原則10%、悪質な場合は重加算税35%〜40%)が課せられます。また、納期限からの経過日数に応じて延滞税も発生します

(3)企業の社会的信用の失墜

コンプライアンス遵守が求められる現代において、税務申告の不備は企業イメージの低下に直結します

6 実務上の留意点とアドバイス

評価申告を行うにあたっては、以下の点に特に注意が必要です

(1)契約書の精査

ロイヤリティ契約や技術援助契約を締結する際は、その内容が輸入貨物とどのように関連しているかを明確に把握する必要があります。関税定率法施行令などにおいて、加算すべきロイヤリティの範囲が定められていますが、その解釈には専門的な知識が不可欠です

(2)無償提供資産の把握

買手が売手に対して、原材料や金型、デザインなどを無償または安価で提供している場合、その費用を適切に課税価格に算入しなければなりません。これを「生産支援費用(アシスト)」と呼びますが、会計上の減価償却費などを基に計算を行うため、経理部門との連携が重要となります

(3)包括評価申告の有効活用

継続的な取引がある場合は、包括評価申告を行うことで実務負担を大幅に軽減できます。ただし、契約内容に変更があった場合や、有効期間が満了する前には、遅滞なく手続きを行う必要があります

(4)事後調査への備え

税関による事後調査は、通常5年から10年に一度の頻度で行われます。

その際、評価申告の妥当性が厳しくチェックされます。申告の根拠となった資料や計算書類は、法定の期間(原則7年間)適切に保存しておくことが法律で義務付けられています

7 まとめ

評価申告は、輸入取引における適正な納税を実現するための不可欠なプロセスです。特に近年、グローバル企業の取引形態が複雑化しており、単純な仕入書価格だけでは判断できないケースが増加しています。関税法や関税定率法といった専門性の高い法律に基づいた判断が必要となるため、少しでも不安がある場合には、専門家への相談を強くお勧めいたします。

弁護士へのご相談をご希望の方へ 当事務所の代表弁護士は、輸出入および通関手続に関する国家資格である「通関士」の資格を保有しております。

法務と実務の両面から、輸出入トラブルや通関手続きに関する幅広いご相談に対応することが可能です。輸出入や通関手続にお悩みやご不明な点がございましたら、どうぞご遠慮なく当事務所までお問い合わせください。

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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら

(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定

本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

輸入取引における「売手」と「買手」

2021-03-23

0 はじめに

まずは、当事務所に寄せられた具体的な相談事例をご紹介いたします。

「私は国内でアパレルショップを経営しております。この度、イタリアのメーカーから直接商品を購入することになりましたが、実際の契約手続きや代金の支払いは、香港にある仲介会社を通じて行っています。貨物はイタリアから日本へ直送されますが、インボイス(仕入書)の発行元は香港の会社です。この場合、税関への輸入申告において、誰を『売手』とし、誰を『買手』として申告すべきなのでしょうか。また、仲介手数料が発生している場合、それも課税価格に含まれるのでしょうか。正しい申告を行わなかった場合、後日税関の事後調査で指摘を受けるのではないかと不安を感じております。専門的な視点から、売手と買手の正確な認定基準について詳しく教えてください」

このような複雑な商流を伴う取引は、現代の国際貿易において決して珍しいものではありません。しかし、輸入通関の土台となる課税価格を決定するためには、まず「誰と誰の間の取引が、法的な輸入取引に該当するのか」を正確に見極める必要があります。

本日は、関税定率法に基づく売手と買手の考え方について、具体例を詳しく解説いたします。

1 原則的な課税価格の決定方法と売手・買手の定義

輸入貨物の課税価格を算出する際の最も基本的なルールは、関税定率法第四条第一項に定められています。

「輸入貨物の課税価格は、当該輸入貨物の輸入取引(買手が本邦に住所、居所、事務所、事業所その他これらに準ずるものを有しない者であるものを除く。)がされた場合において、買手により売手に対し又は売手のために、当該輸入貨物につき現実に支払われた又は支払われるべき価格に、その含まれていない限度において運賃等の額を加算した価格とする」 この条文が示す通り、課税価格は「買手」から「売手」へ支払われる価格がベースとなります。したがって、実務の第一歩として、この両者を正しく特定することが不可欠である点

(1)売手及び買手の本質的な意義

輸入取引における売手及び買手とは、単に書類上に名前が記載されている者ではなく、「実質的に自己の計算と危険負担の下に輸入取引をする者」を指します。

具体的には、以下のような役割と責任を負っているかどうかが判定の基準となります。

①自ら輸入貨物の品質、数量、価格、納期などの取引条件を交渉し、決定していること

②貨物の瑕疵(不良品)や数量不足、輸送中の事故、あるいは代金の回収不能といった経済的なリスクを自らの責任で負担していること

典型的な取引では、海外の輸出者が売手、日本の輸入者が買手となりますが、必ずしも「荷送人=売手」「荷受人=買手」とは限らない点に注意が必要です。

(2)具体例:仲介者が介在する場合の判定

冒頭の相談事例のように、メーカーと国内業者の間に仲介者が入る場合、その仲介者が単なる「代理人」なのか、それとも自らリスクを負う「売手」なのかによって、課税価格の計算根拠が変わります。仲介者が在庫リスクを負わず、単に手数料を受け取って取引を仲介しているだけであれば、売手は元のメーカー、買手は国内業者となります。この場合、買手から売手に支払われる代金が課税価格の基礎となります。

2 「輸入(申告)者」と「売手・買手」の関係

実務において混同されやすい概念に「輸入(申告)者」があります。輸入者とは、関税法上の用語であり、一般的には保税地域から貨物を引き取ろうとする者を指します。

(1)輸入者の資格

輸入者には、売手であっても買手であってもなることができます。

例えば、海外の売手が自ら輸入手続きを行い、日本国内の倉庫まで貨物を届ける(DDP条件など)場合、売手が輸入者となることもあります(税関事務管理人等の適正な手続をとる必要はあります。)。しかし、誰が輸入者であるかに関わらず、課税価格の算出の基礎となるのは、常に「輸入取引における売手と買手の間の取引価格」である点には注意が必要です。

(2)連続する転売取引がある場合

貨物が日本に到着するまでの間に、A社(外国)からB社(外国)、さらにB社からC社(日本)へと転売が繰り返されることがあります。この場合、どの取引が「本邦に到着させるために行われた輸入取引」に該当するかを判定しなければなりません。基本的には、日本への輸出を目的として締結された最後の売買契約が輸入取引とみなされます。この判定を誤ると、不当に低い価格や、逆に過大な価格で申告してしまうリスクが生じるため、慎重な検討が求められる点

以下に、売手と買手の認定における主要な確認項目を整理した図表を掲載いたします。

【表1 売手・買手の認定における判断基準】

項目名/具体的な確認内容/判定への影響

取引交渉の主体/価格や数量を誰が決定しているか/主導権を持つ者が当事者となる

代金の支払義務/誰が売手に対して送金を行うか/支払う者が買手となる

貨物の損傷リスク/輸送中の事故の損失を誰が被るか/リスク負担者が当事者となる

瑕疵担保責任/不良品の返品や交換を誰が要求するか/責任を追求する者が買手となる

転売の有無/輸入後に誰が誰に対して販売するか/最終的な輸出目的取引を特定する

3 実務上のトラブル事例と法的リスク

売手や買手の認定を誤った状態で輸入申告を継続すると、後日の税関事後調査において多額の追徴課税を受ける可能性があります。

(1)価格の過少申告リスク

例えば、実際には買手が売手のために別途負担している費用があるにもかかわらず、インボイスに記載された表面上の金額だけで申告してしまった場合、それは過少申告とみなされます。関税法に基づき、不足分の関税・消費税に加え、過少申告加算税や延滞税が課されることとなる点

(2)特殊関係の影響

売手と買手の間に、親子会社のような「特殊関係」がある場合、その関係によって取引価格が恣意的に低く設定されていないかが厳しくチェックされます。関税定率法第四条第二項の規定により、特殊関係が価格に影響を与えていると判断された場合、実際の取引価格を課税価格として認めてもらえないことがあります。

【表2 輸入取引に関連する各主体の役割比較】

呼称/法的な定義や役割/課税価格決定における位置付け

売手/自己の計算とリスクで貨物を販売する者/価格の受領者であり計算の基礎

買手/自己の計算とリスクで貨物を購入する者/価格の支払者であり計算の主体

荷送人/貨物の発送手続きを行う実務上の主体/必ずしも売手とは限らない

荷受人/貨物の受け取りを行う実務上の主体/必ずしも買手とは限らない

輸入(申告)者/税関に対して輸入の申告を行う者/買手または売手等がなり得る

4 弁護士へのご相談をご希望の方へ

輸入貨物の課税価格の決定は、単なる事務的な手続きではなく、複雑な法令が絡み合うプロセスです。当事務所は、代表弁護士が輸出入や通関に関する国家資格である通関士資格を保有しており、貿易実務で生じるトラブルに対して、アドバイスを提供することが可能です。

特に、以下のような課題でお困りの際には、お気軽にお問い合わせください。

①複雑な仲介取引や連続取引における「売手」及び「買手」の正確な法制度上の認定

②税関の事後調査に対する立ち会いおよび法的な主張の構成

③特殊関係にある企業間の取引価格の妥当性に関するリーガルオピニオンの作成

④関税法違反等で貨物が差し押さえられた場合の権利救済手続き

⑤国際売買契約書の作成・レビューを通じた、通関リスクの未然防止

輸入手続き上の疑問や不安を放置することは、将来的な経営リスクを抱え続けることと同義です。少しでもご不安な点がありましたらお気軽にお問い合わせください。

【お問合せは、こちらから】

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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら

(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定

本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

輸入申告時の外国為替相場の決定ルール

2021-03-22

0 はじめに

まずは、当事務所に寄せられた具体的な相談事例をご紹介いたします。

「私はアメリカから精密機械を継続的に輸入している商社の担当者です。昨今の急激な為替変動に頭を悩ませております。先日、輸入申告を行った際、申告当日のニュースで報じられていた実勢のドル円相場と、税関への申告に用いられた換算レートが大きく乖離していることに気づきました。社内の経理担当者からは、なぜ実際の市場レートではなく別のレートが適用されているのか、その法的な根拠と仕組みを説明するように求められています。また、為替予約を締結している場合であっても、税関への申告には公示された相場を使用しなければならないのでしょうか。専門的な視点から、正しい通貨換算のルールを教えてください」

輸入ビジネスにおいて、貨物の代金が外国通貨で表示されている場合、その価格を日本円に換算する工程は避けて通れません。この換算に用いられる相場は、実は申告当日の市場相場とは異なる独自のルールに基づいて決定されています。本稿では、輸入申告価格等の通貨換算に用いられる外国為替相場の仕組みについて、法令の規定を交えながら解説いたします。

1 通貨換算の原則的な考え方

輸入貨物の課税価格を決定する際、仕入書(インボイス)に表示された外国通貨を本邦通貨(日本円)へ換算する必要が生じます。この換算に用いるべき相場については、関税定率法第四条の七において、以下のように明確に規定されています。

「課税価格を計算する場合において、外国通貨により表示された価格の本邦通貨への換算は、その輸入貨物の輸入申告の日(保税蔵置場等に置かれた貨物に係る承認の日等を含む)における外国為替相場によるものとする」

この規定により、輸入者は自分に都合の良い日の相場を任意に選択することはできず、必ず輸入申告の日という特定の時点を基準とした相場を用いなければならないという法的義務が課されています。

2 税関長が公示する相場の具体的な仕組み

それでは、「輸入申告の日における外国為替相場」とは具体的にどのような数値を指すのでしょうか。その詳細な取り扱いについては、関税定率法施行規則第一条において次のように定められています。

「法第四条の七に規定する外国為替相場は、輸入申告の日の属する週の前々週における実勢外国為替相場の当該週間の平均値に基づき、税関長が公示する相場とする」

実務において「公示相場」と呼ばれるこの数値は、以下の三つのステップを経て決定されます。

(1)前々週の市場相場の平均を算出

例えば、ある週の月曜日から日曜日までの銀行間為替市場における実勢相場の平均値を計算いたします。

(2)税関長による公示

上記で算出された平均値が、翌々週(すなわち来週の次の週)の一週間を通じて適用されるレートとして、事前に公示されます。

(3)一週間固定での適用

一度公示された相場は、その週の月曜日から日曜日まで変更されることなく適用されます。そのため、申告当日に市場で急激な円安や円高が進んだとしても、申告に用いるレートは変動いたしません。

この制度は、輸入者が事前に納税額を予測しやすくし、また全国の税関で統一的な課税を行うための安定性を確保することを目的としています。

【表1 為替相場の決定スケジュールと適用時期の概念】

対象期間の区分/期間の内容/実施される事項

計算基準期間/輸入申告の日の属する週の前々週/実勢相場の週間平均値を算出

公示期間/輸入申告の日の属する週の前週/税関長が次週の適用相場を公示

適用期間/輸入申告の日の属する週/公示された相場を一律に適用

3 通貨の種類による算出基準の違い

公示相場を決定するための基礎となる市場データの参照先も、法令によって細かく規定されています。これは、公正な価格評価を維持するための重要な基準です。

(1)アメリカドルの場合

本邦の外国為替市場における銀行間の直物取引の中心相場(翌々営業日渡し)が基準となります。

(2)アメリカドル以外の通貨の場合

ニューヨーク外国為替市場等における銀行間の直物取引の中心相場に類するアメリカドルの相場により裁定した相場が用いられます。

以下に、主要な通貨ごとの算出の基礎となる市場を整理いたしました。

【表2 通貨別の換算基準市場一覧】

通貨の種類/参照される主要な市場/相場の種類

アメリカドル/東京外国為替市場/銀行間直物取引中心相場

欧州ユーロ/ニューヨーク外国為替市場等/対ドルの裁定相場

中国人民元/ニューヨーク外国為替市場等/対ドルの裁定相場

その他指定通貨/主要な国際為替市場/対ドルの裁定相場

4 実務上の留意点と為替予約の取り扱い

輸入実務において特によくある誤解の一つが、為替予約との関係です。

企業が銀行と為替予約を締結し、実際に支払う際の円貨額が確定していたとしても、税関への申告においてはその予約レートを使用することは認められません。

(1)為替予約レートの否認

関税評価制度は、あくまで客観的な基準に基づくべきであるという国際的なルール(関税評価協定)に準拠しています。特定の企業が締結した個別の予約レートを認めてしまうと、納税者間での公平性が保てなくなるため、必ず公示相場を用いなければならないという点

(2)端数処理の規定

為替換算の結果、一円未満の端数が生じた場合には、関税定率法施行規則等に基づき、通常は小数点以下二位までを算出してそれ未満を切り捨てる等の詳細な処理ルールが存在いたします。

(3)公示相場の確認方法

公示相場は、各税関の窓口に掲示されるほか、財務省税関の公式ウェブサイトにおいても公開されています。輸入者は申告前に、必ず当該週の正しいレートを確認しておく必要があります。

5 弁護士へのご相談をご希望の方へ

為替相場の適用という一見単純なルールであっても、大規模な取引や長期的な契約においては、わずかな認識の相違が多額の納税額の差となって現れます。

当事務所は、代表弁護士が輸出入や通関に関する国家資格である通関士資格を保有しており、法務と実務の双方からサポートを提供することが可能です。

具体的には、以下のような課題に対して専門的な知見を提供いたします。

①為替変動リスクを考慮した適正な関税申告価格の算定支援

②特殊な通貨や、公示相場が存在しないマイナー通貨での取引への対応

③税関による事後調査において、過去の換算レートの妥当性を指摘された際の弁護

④包括的な評価申告制度を活用した、為替処理の効率化とコンプライアンスの強化

⑤為替予約やデリバティブ取引と関税評価の整合性に関するリーガルオピニオン

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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら

(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定

本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

個人的使用に供される輸入貨物の課税価格

2021-03-21

0 はじめに

まずは,当事務所に寄せられた具体的な相談事例をご紹介いたします。

「私は海外の高級ブランドの公式オンラインサイトから,自分自身で使用するために五十万円の腕時計を購入いたしました。個人輸入の場合,実際に支払った小売価格をそのまま申告するのではなく,卸売価格に引き下げて関税を計算できるという特例があると聞きました。この特例は,どのような場合に適用されるのでしょうか。また,知人へのプレゼントとして輸入する場合や,帰国時に別送品として送る場合でも適用されるのか教えてください。さらに,商売目的の輸入とみなされないための注意点についても,専門的な見地から詳しく解説をお願いいたします」

個人の趣味や生活のために海外から物品を輸入するケースは,電子商取引の普及により飛躍的に増加しております。このような個人的な使用を目的とした輸入については,一般の商業輸入とは異なる特別な課税価格の算定方法が認められています。本稿では,関税定率法に基づく個人的使用の特例について,法令の規定を交えて詳しく解説いたします。

1 課税価格決定の原則的ルール

輸入貨物の課税価格は,原則として,その貨物の輸入取引がされた場合において,買手から売手に対し現実に支払われた,または支払われるべき価格である「決定価格」に基づいて算出されます。

これは関税定率法第四条第一項に規定されている原則です。通常の商業取引では,卸売段階で購入された貨物は卸売価格,小売段階で購入された貨物は小売価格をベースとして課税価格を決定いたします。しかし,個人が自分自身の生活で使用するために小売価格で購入した貨物に対し,そのままの価格で課税することは,商業目的で大量に輸入する業者との比較において,税負担が重くなりすぎるという懸念があります。

2 個人的に使用する貨物の課税価格の特例

そこで,関税定率法第四条の六第二項等において,個人的な使用に供される貨物に係る課税価格決定の特例が設けられています。

(1)特例の対象となる貨物

本条の対象となるのは,以下のいずれかに該当する貨物です。

①本邦に入国する者が携帯して輸入する貨物

②その輸入取引が小売段階によるものと認められる貨物で,輸入者の個人的な使用に供されると認められるもの

③日本に居住する者に寄贈される貨物で,その寄贈を受ける者の個人的な使用に供されるもの

これらは,たとえ小売価格で購入されたものであっても,その課税価格は「通常の卸売取引の段階でされたとした場合の価格」により決定することとされています。

(2)通常の卸売取引の段階の意義

ここでいう通常の卸売取引の段階とは,国内の卸売業者が再販売等の商業目的のために,輸入貨物と同種の貨物を輸入する場合の取引段階を指します。

実務上,税関ではこの「卸売価格」を算出する際,実際の小売価格に「〇.六」を乗じた金額,すなわち小売価格の六十パーセントを課税価格とする運用を行っています。

以下に,特例が適用される具体的なケースを整理した流れを掲載いたします。

【表1 個人特例の適用対象となるケース一覧】

区分の詳細/具体的な形態/課税価格の計算方法

携帯品 海外旅行の帰国時に本人が持ち帰る荷物 小売価格の六十パーセント

別送品 入国後に届くように別途送付した荷物 小売価格の六十パーセント

通信販売 海外サイトから自分用に直接購入した物品 小売価格の六十パーセント

個人依頼 海外の知人に頼んで小売店で買ってもらった物 小売価格の六十パーセント

寄贈品 海外から個人的なプレゼントとして届く荷物 小売価格の六十パーセント

3 適用範囲に関する詳細な法的定義

この特例の適用範囲については,関税定率法施行令や基本通達において詳細に定義されています。

(1)携帯品と別送品の取り扱い

「本邦に入国するものにより携帯して輸入される貨物」には,関税定率法施行令第十四条に規定される手続きを経て,別送して輸入される貨物も含まれます。

これは,帰国時に空港で「別送品申告書」を提出することで,後から届く荷物についても本人の携帯品と同様の特例が受けられる仕組みです。

(2)通信販売等の小売取引

「その他その輸入取引が小売取引の段階によるものと認められる貨物」とは,一般消費者が海外のインターネットサイトを通じて購入する場合や,海外の知人に依頼して店舗で購入してもらう場合を指します。

(3)寄贈品の取り扱い

自分でお金を払って購入したものではなく,海外の親族や友人から無償で送られてきた寄贈品であっても,それが個人的な使用目的であれば,卸売価格への引き下げが適用されます。この場合,貨物の市場価値(小売価格相当)の六十パーセントが課税価格となります。

4 実務上の留意点とリスク管理

この特例は非常に有利な制度ですが,適用にあたっては厳格な条件があります。

(1)個人的使用の認定

最も重要なのは「個人的な使用に供される」と認められるかどうかという点です。

輸入した貨物を日本国内で販売する目的がある場合や,事業のために使用する場合は,たとえ一個の輸入であっても「商業輸入」とみなされ,特例は適用されません。卸売価格への引き下げが認められず,実際の購入価格全額に対して課税されます。

(2)数量と頻度のチェック

同一の物品を短期間に大量に輸入したり,頻繁に輸入を繰り返したりしている場合,税関から販売目的を疑われる可能性があります。この際,個人的な使用であることを客観的に説明できないと,一般の商業通関として扱われるリスクがある点

(3)虚偽申告の禁止

関税を安くするために,実際よりも低い価格をインボイスに記載させたり,個人的な贈り物と偽って商業貨物を輸入したりすることは,関税法違反(脱税)に問われる重大な違法行為です。

以下に,個人輸入と商業輸入の主な違いを比較表としてまとめました。

【表2 個人輸入と商業輸入の比較】

比較項目/個人的な使用(特例適用)/商業目的・販売目的(原則通り)

課税価格のベース/小売価格の六十パーセント/実際の取引価格(卸売価格等)

法令の適用条文/関税定率法第四条の六第二項/関税定率法第四条第一項

他法令の規制/一部免除や緩和がある場合あり/食品衛生法や薬機法等が厳格に適用

必要書類/インボイスや領収書等/インボイス,契約書,各種許認可証等

5 弁護士へのご相談をご希望の方へ

個人的な使用を目的とした輸入であっても,高額な物品や希少な貨物を取り扱う場合には,税関との見解の相違が生じることが少なくありません。特に,個人輸入を装った商業輸入ではないかという疑義をかけられた場合,適切な法的主張を行わなければ,多額の追徴課税や加算税を課される恐れがあります。当事務所は,代表弁護士が輸出入や通関に関する国家資格である通関士資格を保有しております。法律の専門家としての知見と,通関実務の視点を融合させ,以下のような課題に対して強力なサポートを提供いたします。

①輸入貨物が「個人的な使用」に該当するかどうかの法的な判定と助言

②税関による事後調査や確認に対する適切な説明資料の作成支援

③別送品申告の不備や手続き上のミスに関する救済

④商業輸入とみなされた場合の更正処分に対する不服申立て手続き

⑤海外の販売店とのトラブルや契約上の問題解決

輸出入や通関上のトラブルでお悩みの方,あるいはご自身の輸入手続きが適正かどうか不安を感じておられる方は,ぜひお気軽に当事務所までご相談ください。通関士の資格を持つ弁護士だからこそできるリーガルサービスをご提供いたします。

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(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定

本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

変質又は損傷した輸入貨物の課税価格の決定

2021-03-15

0 はじめに

まずは、当事務所に寄せられた具体的な相談事例をご紹介いたします。

「私はフランスから高級なヴィンテージワインを数百本輸入いたしました。しかし、本邦の港に到着して荷卸しをした際、輸送中の温度管理の不手際により一部のボトルで液漏れや品質の劣化が生じていることが判明いたしました。また、数ケースについては梱包の破損によりボトルが割れてしまっています。輸入契約の段階では、これらの不測の事態による値引き等は想定されておりません。このような場合、本来の購入価格のままで関税を支払わなければならないのでしょうか。損傷して価値が下がった分を考慮して、申告価格を下げることは可能でしょうか。法的な根拠と手続きの流れについて詳しく教えてください」

国際貿易においては、輸送中の事故や環境の変化により、貨物が本来の品質を維持できないまま到着することが稀にあります。このような場合、税関への申告価格をどのように設定すべきかは、輸入者にとって大きな関心事です。本稿では、変質又は損傷が生じた貨物の課税価格の決定方法について、法令に基づき詳しく解説いたします。

1 変質又は損傷があった場合の原則的な課税価格の考え方

輸入貨物の課税価格は、原則として実際の取引価格である現実支払価格を基礎として算出されます。しかし、輸入申告の時までに貨物が変質したり損傷したりしている場合には、その価値が低下していることを考慮する必要があります。関税定率法第四条の五の規定によれば、輸入申告時までに変質又は損傷があったと認められる貨物については、変質又は損傷がなかったと仮定して計算される課税価格から、その減価に相当する額を控除した価格を課税価格とすることができます。

この規定の目的は、輸入者が実際に受け取る価値に見合った適正な関税を課すことにあります。

2 適用を受けるための要件と注意点

この例外的な決定方法を適用するためには、いくつかの重要な要件を満たす必要があります。

(1)輸入取引の条件の確認

関税定率法第四条の五の適用を受けるためには、その輸入取引の条件から見て、変質又は損傷が想定外の事態であることが求められます。もし、輸入契約において「一定の割合で破損が生じることを見越してあらかじめ低価格で設定されている」場合や、「現状渡しの条件で、損傷のリスクが買手に全面的に帰属し、かつそれが価格に反映されている」ような場合には、本条の適用はありません。この場合、当初の契約価格そのものが課税価格の基礎となる点に注意が必要です。

(2)輸入申告時までの発生であること

本条が対象とするのは、輸入申告の時までに生じた変質又は損傷です。貨物が日本に到着した後、保税地域等で保管されている間に生じた損傷も含まれます。輸入許可が下りた後に発生した損傷については、別の規定である関税定率法第十条の減税措置の対象となるため、混同しないように整理しておく必要があります。

以下に、適用される条文の違いを整理した比較表を掲載いたします。

【表1 変質又は損傷の発生時期と適用法令の比較】

適用法令/発生時期の区分/課税価格・税額の処理方法

関税定率法第四条の五/輸入申告時まで/減価額を控除して課税価格を決定

関税定率法第十条第一項/輸入許可前(申告後)/算出された関税額から減税

3 減価に相当する額の算定方法

「減価に相当する額」とは、損傷等によって失われた貨物の価値を金額で評価したものです。

これを客観的に証明するためには、合理的かつ妥当な数値を用いる必要があります。実務上、以下の書類が有力な証拠資料となります。

①公認検定機関(サーベイヤー)が発行する損害検定報告書

②損傷部分の修繕に要する費用の見積書や請求書

③保険会社に提出した損害賠償請求の書類 ・売手との間で行われた値引き交渉の記録やクレジットノート

特に、第三者機関である公認検定機関による損害見積書は、税関に対する説明において非常に高い証拠力を持ちます。単に輸入者が主観的に「価値が半分になった」と主張するだけでは認められない可能性が高いです。

4 具体的な申告手続きの流れ

変質又は損傷した貨物を申告する際の実務的なステップは以下の通りです。

【表2 損傷貨物の輸入申告における実務フロー】

ステップ/実施内容/留意事項

1 損傷の発見と確認 貨物の荷卸し時に状態を写真等で記録、証拠の確保が最優先

2 損害額の算定 検定機関への依頼や修理見積の取得 客観的な数値の算出

3 税関への事前相談 決定方法の妥当性について担当官と協議 スムーズな審査のため

4 輸入申告の実施 減価額を控除した価格で申告 備考欄に事情を記載

このプロセスにおいて、当初のインボイス価格からどのように計算して申告価格を導き出したのか、その計算過程を明確に記した資料を添付することが重要です。

5 弁護士へのご相談をご希望の方へ

輸入貨物の変質や損傷に伴う課税価格の決定は、事実関係の立証と法令の解釈が複雑に絡み合う領域です。当事務所は、代表弁護士が輸出入や通関に関する国家資格である通関士資格を保有しており、法務と実務の両面からサポートを提供することが可能です。特に、高額な貨物や精密機器、品質変化の判断が難しい食品・化学品等の事案において、以下のような業務を通じて貴社のビジネスを支援いたします。

①関税定率法第四条の五の適用が可能かどうかのリーガルオピニオンの作成

②税関当局に対する合理的かつ説得力のある説明資料の構築支援

③公認検定機関や通関業者との連携による証拠資料の整備

④税関からの価格否認や更正処分に対する不服申立てや訴訟対応

⑤輸送契約や保険契約と連動した、トータルでの損害回避アドバイス

輸入通関上のトラブルや、損傷貨物の取り扱いに関してご不安な点がありましたら、ぜひお気軽に当事務所までご相談ください。専門的な知見に基づき、適正な納税と貴社の利益保護のために尽力いたします。

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(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定

本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

製造原価に基づく課税価格の決定

2021-03-12

0 はじめに

まずは、当事務所に寄せられた具体的な相談事例をご紹介いたします。

「私は、海外にある関連会社で特別に設計された特殊工作機械を輸入しようとしています。この機械は受注生産品であるため、本邦において同種の貨物や類似の貨物の輸入実績が全くありません。また、輸入後の国内販売価格を基礎とした計算を行おうにも、自社で直接使用する設備であるため、国内での転売予定もありません。このような場合、どのような方法で課税価格を算定すべきでしょうか。海外の生産者からは製造原価に関する詳細なデータ提供を受けることが可能ですが、これを利用した申告は認められるのでしょうか。また、その際の具体的な計算方法や法的根拠についても詳しく教えてください」

輸入貨物の課税価格は、原則として買手が実際に支払う価格に基づきますが、相談者のように原則的な方法が適用できない局面は多々あります。

本日は、そのような際の例外的な算定方法の一つである、製造原価に基づく課税価格の決定方法について解説いたします。

1 製造原価に基づく課税価格の決定方法の概要

輸入貨物の課税価格を決定する際、原則的な方法(関税定率法第4条)や、同種・類似の貨物を用いる方法(同法第4条の2)、国内販売価格に基づく方法(同法第4条の3第1項)によっても決定できない場合に検討されるのが、製造原価に基づく方法です。

この方法は、関税定率法第4条の3第2項に規定されています。実務上、この手法は「構成価格による評価」とも呼ばれ、生産コストを積み上げて価値を算出する非常に客観性の高い手法といえます。

2 国内販売価格に基づく方法との適用順位

関税評価のルールには、適用すべき順番が法律で定められています。

関税定率法第4条の3の規定によれば、原則として「国内販売価格に基づく方法」が「製造原価に基づく方法」よりも優先されます。

しかし、同条第3項には重要な例外規定があります。

輸入しようとする者が税関長に対して、製造原価に基づく方法を優先して適用したい旨を申し出た場合には、その順位を逆転させることが可能です。相談事例のように、国内での転売予定がなく国内販売価格の把握が困難な一方で、製造原価のデータが明確である場合には、この順位逆転の申し出を行うことが実務上有効な選択肢の一つとなります。

【表1 課税価格決定方法の適用順位と選択】

方法の名称/基本的な適用順位/選択の可否

国内販売価格に基づく方法(第4条の3第1項)/第四順位(優先適用)/原則通り

製造原価に基づく方法(第4条の3第2項)/第五順位(後位適用)/輸入者の申し出により優先可

3 製造原価に基づく算定の具体的な構成要素

製造原価に基づく方法では、以下の要素をすべて合算して課税価格を算出いたします。この計算式は関税定率法第4条の3第2項の規定を基礎としています。

【表2 製造原価に基づく課税価格の計算構成要素】

要素の区分/具体的な内容/算出の根拠

(A)製造原価 原材料費、労務費、容器・包装費、補助的な物品の費用等 生産者の商業帳簿

(B)利益・経費 生産国における同類の貨物の販売に係る通常の利潤及び一般経費 生産国の標準的数値

(C)輸送費用等 輸入港までの運賃、保険料その他運送に関連する費用 実際の支払費用

(1)製造原価(A)の範囲

製造原価には、単なる材料費だけでなく、輸入貨物の容器の費用や包装に要する費用が含まれます。さらに、関税定率法第4条第1項第3号に規定される、買手が無償または低価格で提供した金型、工具、原材料などの「アシスト」に要する費用も、生産者が負担している場合には算入しなければなりません。

また、本邦で開発された技術、設計、意匠等の費用であっても、生産者がこれを負担した場合には、当該負担額も原価の一部として構成されます。これらの数値は、原則として生産者の商業帳簿に基づいて確認されることとなります。

(2)通常の利潤及び一般経費(B)

これには、輸入貨物が属する「同類の貨物」について、生産国において本邦への輸出のために販売される際に通常付加される利益と経費が含まれます。ここでいう「同類の貨物」は、輸入貨物と同一の国から輸入されたものに限定されます。

(3)運賃等(C)

最後に、当該貨物が本邦の輸入港に到着するまでの運賃及び保険料を加算いたします。これにより、輸入港に到着した時点での貨物の総価値が確定されます。

4 実務上の留意点と証拠書類の重要性

製造原価に基づく方法は、生産者の協力が不可欠な手法です。税関は申告の妥当性を確認するため、生産者の商業帳簿や会計資料の提示を求めることがあります。

もし、生産者が企業秘密を理由にデータの提供を拒んだり、提供された資料が国際的に認められた会計原則に合致していなかったりする場合には、この方法を採用することは認められません。そのため、事前の契約段階から、関税評価のために必要な情報提供を受けられる体制を整えておくことが肝要です。

5 弁護士へのご相談をご希望の方へ

当事務所の代表弁護士は、法律の専門家であると同時に、輸出入や通関手続きに関する唯一の国家資格である通関士資格を保有しております。

製造原価に基づく課税価格の算定は、関税法や関税定率法のみならず、会計実務や国際的な関税評価協定への深い理解が求められる専門性の高い領域です。当事務所では、以下のような高度な法的サービスを提供しております。

①国内販売価格法と製造原価法のどちらが有利か、または適用可能かの法的検討

②税関長に対する適用順位逆転の申し出に関する手続き代行

③海外生産者から提供された原価データの妥当性検証と税関への説明

④製造原価に含めるべきアシスト費用の正確な按分計算の助言

⑤税関による事後調査において、算定根拠を論理的に防衛するための法的サポート

輸出入や通関上のトラブル、特に特殊な貨物の価格評価でお悩みがある場合には、当事務所までお気軽にご相談ください。通関士の視点と弁護士の知見を融合させ、貴社の円滑な通関と適正な納税を全面的に支援いたします。

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同種又は類似貨物と課税価格の決定方法

2021-03-08

0 はじめに

まずは、当事務所に寄せられた具体的な相談事例をご紹介いたします。

「私は海外の取引先から、キャンペーン用のノベルティとしてロゴ入りの特注バッグを無償で提供してもらうことになりました。無償で提供される物品であるため、輸入取引の際の売買価格というものが存在しません。通関業者に相談したところ、実際の取引価格がない場合は、同種の貨物や類似の貨物の価格を基にして申告する必要があるとの説明を受けました。しかし、ロゴ入りの特注品であるため、全く同じ商品は市場に存在しないように思われます。このような場合、どのような基準で比較対象となる貨物を選定し、課税価格を算定すればよいのでしょうか。法令に基づいた具体的な判断基準を教えてください」

輸入通関における課税価格は、原則として買手が売手に実際に支払う取引価格に基づきます。しかし、無償貨物や委託販売貨物など、取引価格が存在しない場合には、関税定率法第四条の二以下の規定により、別の方法で価値を評価しなければなりません。

本日は、その代表的な手法である同種又は類似の貨物の価格を用いる方法について解説いたします。

1 同種の貨物に係る取引価格による決定

原則的な決定方法(現実支払価格による方法)が適用できない場合、まず検討されるのが同種の貨物の取引価格を用いる手法です。

(1)同種の貨物の定義

関税定率法第四条の二第一項における同種の貨物とは、当該輸入貨物の生産国で生産されたもので、形状、品質及び社会的評価を含むすべての点で当該輸入貨物と同一であるものを指すと解されています。具体的には、以下の条件をすべて満たす必要があります。

①輸入貨物の本邦への輸出の日、またはこれに近似する日に本邦へ向けて輸出されたものであること

②輸入貨物の生産国と同一の国で生産されたものであること

③形状や品質、社会的評価において、外見上の微細な差異を除き、実質的に同一の貨物であること。

例えば、同一メーカーが製造した同一型番の電気製品などは、まさに同種の貨物の典型例といえます。

(2)近接する日の解釈

法令にいう近接する日については、関税定率法基本通達において、輸入貨物の輸出の日から遡り、またはその日以後において、価格を変動させるような経済的状況の変化がない期間内とされています。実務上は、市場価格の変動が激しい商品を除き、前後一ヶ月程度が目安とされることが一般的です。

2 類似の貨物に係る取引価格による決定

同種の貨物の取引価格が存在しない場合に、次なる選択肢として検討されるのが類似の貨物です。

(1)類似の貨物の定義

関税定率法第四条の二第一項における類似の貨物とは、輸入貨物の生産国で生産されたもので、すべての点で同一ではないが、同様の形状及び材質を有し、かつ、同様の機能を有し、商業上の交換が可能なものを指します。

具体例を挙げれば、異なるメーカーが製造した同程度のスペックを持つ汎用的な電子部品や、デザインは異なるものの素材や機能、ブランド価値が同等であるアパレル製品などがこれに該当する可能性があります。

(2)商業上の交換可能性

ここで重要なのは、単に機能が似ているだけでなく、市場において代替品として取引される程度に社会的評価や品質が同等であるという点でしょう。例えば、極めて高いブランド価値を持つ高級時計と、機能は同じでもブランドのない普及品の時計は、類似の貨物として扱うことはできません。

【表1 同種の貨物と類似の貨物の比較】

| 項目 | 同種の貨物 | 類似の貨物 |

| 生産国 | 当該輸入貨物と同一の国 | 当該輸入貨物と同一の国 |

| 形状及び品質 | すべての点で同一 | 同様の形状及び材質 |

| 機能 | 同一 | 同一の機能を有する |

| 社会的評価 | 同一 | 同等の社会的評価 |

| 商的交換性 | 完全に交換可能 | 商業上の交換が可能 |

3 取引価格の優先順位と適用ルール

比較対象となる価格が複数存在する場合、関税定率法及び同法基本通達に基づき、以下の順位に従って適用する価格を決定します。

(1)同種と類似の優先関係

同種の貨物に係る取引価格と類似の貨物に係る取引価格の双方が存在する場合、必ず同種の貨物の価格を優先して採用しなければなりません。

(2)生産者の優先関係

輸入貨物の生産者が製造した貨物の価格と、別の生産者が製造した貨物の価格がある場合は、前者を優先します。これは、生産コストや利益率の構造が近いと考えられるためです。

(3)最小価格の原則

上記の手順によっても、なお複数の有効な取引価格が競合する場合には、それらの価格のうち最小のものを課税価格として採用するというルール これは、納税者に不利にならないように配慮された規定であると同時に、恣意的な価格選定を防ぐ役割も果たしています。

【表2 比較対象価格の選定フロー】

| 手順 | 判断基準 | 決定される価格 |

| 1 | 同種の貨物の有無を確認 | ある場合は優先的に採用 |

| 2 | 同一生産者の有無を確認 | 同一生産者の価格を優先 |

| 3 | 複数の候補が残る場合 | 最も低い価格を採用 |

| 4 | 同種がない場合に類似を確認 | 類似の貨物で上記1から3を適用 |

4 実務上の留意点と証拠書類

この方法を適用するためには、比較対象となる貨物の取引価格が、税関において既に「原則的な決定方法」により適正に決定されたものである必要があります。

したがって、単に他社のカタログ価格やインターネット上の販売価格を提示するだけでは不十分です。実際にその価格で輸入許可が下りた実績を示すインボイスの写しや、輸入許可書の内容を確認できる資料が求められるため、独力で適切な比較価格を見つけ出すことは容易ではありません。

5 弁護士へのご相談をご希望の方へ

輸入貨物の課税価格の決定方法は、関税評価協定に基づく極めて専門的な領域です。

特に同種や類似の貨物を選定するプロセスにおいては、貨物の物理的な特徴だけでなく、市場における商的な地位や評価といった定性的な分析も必要となります。当事務所の代表弁護士は、法律の専門家であるとともに、通関実務の国家資格である通関士資格を保有しております。税関との見解の相違が生じやすい関税評価の問題に対し、法的なロジックと実務的なデータの双方からサポートを提供いたします。

具体的には、以下のような業務を通じて貴社の貿易ビジネスを支えていきます。

①無償貨物等の特殊事案における、法令に基づいた適切な課税価格の事前算定

②税関に対する事前教示制度の活用による、通関時のトラブル防止

③事後調査において申告価格の妥当性を指摘された際の、意見書の作成及び当局との交渉

④不当な更正処分がなされた場合の、行政不服審査法に基づく審査請求等の権利救済手続

輸出入や通関に関するトラブル、あるいは課税価格の評価に不安をお持ちの経営者や担当者の方は、ぜひお気軽に当事務所までご相談ください。

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原則的な方法で課税価格を決定できない場合

2021-03-05

0 はじめに

まずは、当事務所に寄せられた具体的な相談事例をご紹介いたします。

「私は海外のメーカーから新製品の試作サンプルを無償で提供してもらうことになりました。代金の支払いが一切発生しない無償貨物であるため、税関への申告価格はゼロ円、つまり無税で通関できると考えてよいでしょうか。また、もしその貨物が親会社から送られてくるものである場合、親子間の特殊な関係性が申告価格に影響を及ぼすという話を聞きましたが、具体的にどのような法的リスクがあるのか教えてください」

このようなご相談は、特にグローバル企業の日本支社や、研究開発を行う企業様から寄せられます。無償貨物であっても、関税法上の評価は必ず必要であり、原則的な申告方法が使えない場合のルールを正しく理解しておくことは、コンプライアンス遵守の観点から非常に重要です。

 

1 課税価格決定の原則とそれが適用されない場合

通常、輸入貨物の課税価格は、関税定率法第4条第1項の規定に基づき、実際の輸入取引において支払われる価格(決定価格)に運賃等を加算して算出されます。

しかし、輸入取引によらない貨物や、関税定率法第4条第2項に掲げられる特定の事情がある場合には、この原則的な決定方法を用いることができません。その場合には、同法第4条の2から第4条の4に規定される代替的な決定方法(同種・類似貨物の取引価格の参照や、国内販売価格からの逆算など)へ移行することとなります。

 

2 輸入取引によらない輸入貨物の具体例

一般的な輸入取引とは、居住者が買手となり、非居住者が売手となって、貨物を本邦に到着させるために行われる売買契約を指します。

以下のようなケースは、そもそも売買が存在しないため、原則的な決定方法(第4条第1項)を適用することができない貨物となります。

(1)無償貨物

冒頭の事例のようなサンプル品、修理のための無償代替品、あるいは寄贈品などが該当します。取引価格がゼロであっても、税関はその貨物の市場価値に基づいた客観的な価格での申告を求めます。

(2)本支店間の移送貨物

同一の法人格を持つ海外の本店から日本の支店へ、在庫の補充などのために送られる貨物です。これは法律上の売買契約には該当しないため、内部的な振替価格ではなく、別途法的な評価を行う必要があります。

(3)委託販売のために輸入される貨物

輸入時点ではまだ価格が確定しておらず、日本国内で販売された後に売上を精算する形式の取引です。

(4)賃貸借契約に基づき輸入される貨物

レンタルやリースによって輸入される貨物は、所有権の移転を伴う売買ではないため、取引価格が存在しません。

 

【表1 輸入取引によらない代表的な貨物一覧】

| 貨物の種類 | 具体的な事例 | 理由 |

| 無償貨物 | 新商品の展示用サンプルや無償交換部品 | 代金の支払いが発生しないため |

| 本支店間移送 | 外国本店から日本支店への商品移送 | 同一法人内の移動で売買がないため |

| 委託販売貨物 | 国内での販売後に代金が確定する取引 | 輸入時に確定した取引価格がないため |

| 賃貸借貨物 | 期間限定のイベント用機材のレンタル | リース契約で売買ではないため |

| 滅却目的貨物 | 廃棄を目的とした輸入で費用を売手が負担 | 買手から売手への支払いがないため |

 

3 特別な事情がある輸入貨物

売買契約に基づく輸入であっても、価格の客観性が疑われる以下の4つの場合には、実際の取引価格を申告価格として採用することができません(関税定率法第4条第2項各号)。

(1)買手による輸入貨物の処分又は使用の制限

例えば、輸入した貨物を特定の研究機関にのみ譲渡することを義務付け、一般市場への転売を禁止しているようなケースです。このような制限が価格に影響を及ぼしている場合、その価格は市場価値を正しく反映していないとみなされます。

(2)条件又は対価の付随

「他の古い貨物を引き取ることを条件に、新しい貨物の価格を割り引く」といった契約です。このように、その貨物単体以外の要素によって価格が左右されている場合は、取引価格をそのまま使用することはできません。

(3)売手に帰属する収益

輸入後に貨物を転売した際、その利益の一部が「ロイヤリティ」や「収益の分与」として売手へ戻される契約であり、かつその額が輸入時点で確定できない場合です。

(4)特殊関係による取引価格への影響

親子会社や提携企業の間での取引(特殊関係)があり、それによって価格が相場より著しく低く設定されている場合です。これは税関が最も厳しくチェックする項目の一つです。

【表2 特別な事情の該当要件と具体例】

| 法的要件 | 具体的なシチュエーション | 影響 |

| 処分使用の制限 | 特定の展示会場以外での使用を禁じた場合 | 取引価格の客観性が損なわれる点 |

| 条件対価の付随 | 別の契約の成否によって価格が変動する場合 | 価格がその貨物本来の価値ではない点 |

| 売手帰属の収益 | 転売利益の一定割合を後日支払う合意 | 事後支払額が不明で価格未確定な点 |

| 特殊関係の影響 | 親子会社間で恣意的な低価格を設定 | 独立価格比準法等での再評価が必要な点 |

 

4 法令上の根拠規定の解説

実務においては、関税定率法基本通達4-1(1)や、同4-1の2において、どのような状態がこれらの例外に該当するかが極めて細かく定義されています。

例えば、特殊関係がある場合であっても、その関係が取引価格に影響を及ぼしていないことを輸入者が立証できれば、原則的な方法を維持できる場合があります。この立証には、製造原価や同業他社の利益率など、膨大なデータの提示が必要となります。

 

5 弁護士へのご相談をご希望の方へ

輸入貨物の課税価格の決定は、単なる算数ではなく、法的なロジックの構築そのものです。当事務所の代表弁護士は、法律の専門家であるとともに、通関士の資格も保有しております。 特に、以下のような複雑な事案において、貴社のリーガルリスクを減少させるためのサポートを提供いたします。

①税関から「価格が低すぎる」と指摘された際の妥当性の主張

②親子会社間の移転価格と関税評価の整合性に関するアドバイス

③無償貨物や委託販売における適切な評価申告書の作成支援

④税関事後調査に対する立ち会いと、法的な見解書の提出

 

輸入通関における価格決定の問題は、一度誤ると過去数年分にわたる追徴課税を招くリスクがあります。少しでも不安を感じられた際は、ぜひお気軽に当事務所までお問い合わせください。

 

【お問合せは、こちらから】

 

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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら

 

(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定

本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

郵便物の輸出(輸入)通関手続について

2021-02-25

0 はじめに

まずは、当事務所に寄せられた具体的な相談事例をご紹介いたします。

「私は個人事業主として海外から希少なアンティーク時計や宝飾品を輸入し、国内で販売しております。これまでは安価な品物が中心だったため、税関から届くハガキに従って税金を支払うだけでスムーズに荷物を受け取ることができていました。しかし先日、一梱包で価格が30万円を超える商品を輸入した際、税関からこれまでとは異なる複雑な案内が届き、輸入申告が必要である旨の指摘を受けました。郵便物であっても、金額によって手続きがこれほど大きく変わるとは思わず、どのように対応すべきか困惑しております。また、将来的にこれらの商品を海外のコレクターへ輸出する際の手続きについても、正確な法的根拠を知っておきたいと考えております」

国際郵便を利用した物品の送付は非常に簡便な手段ですが、相談者の方のように一定の金額を超える場合には、通常の貨物と同様の厳格な通関手続きが求められます。

以下では、郵便物の輸出入に関する法的な枠組みと実務上の留意点を解説いたします。

 

1 郵便物の輸出通関手続き

郵便物を利用して物品を輸出する場合、その価格や性質によって手続きが二分されます。

(1)輸出郵便物の簡易手続きと法的根拠

輸出される郵便物のうち、課税価格が20万円以下のもの、または価格に関わらず寄贈物品であるものについては、輸出通関の迅速性を確保する観点から簡易的な手続きが認められています。

この根拠となるのは、関税法第七十六条です。

 

(2)20万円を超える場合の輸出申告

前述の通り、課税価格が20万円を超える郵便物(寄贈物品を除く)については、輸出者は自ら、または通関業者に委託して輸出申告を行う必要があります。

この手続きにおいては、関税法第六十七条に基づき、貨物の品名、数量、価格その他必要な事項を税関長に申告し、必要な検査を経て輸出許可を得なければなりません。

以下に、輸出郵便物の手続きの区分を整理した図表を掲載いたします。

 

【表1 輸出郵便物の手続き区分一覧】

貨物の区分/適用される手続き/申告の要否

課税価格が20万円以下/簡易手続き(関税法76条)/輸出申告不要

寄贈物品(価格不問)/簡易手続き(関税法76条)/輸出申告不要

20万円超の一般物品/一般通関手続き(関税法67条)/輸出申告必要

 

2 郵便物の輸入通関手続き

輸入においても、輸出と同様に課税価格の「20万円」という境界線が極めて重要な意味を持ちます。

(1)輸入郵便物の簡易手続きと免除規定

輸入される郵便物のうち、課税価格が20万円以下のものについては、原則として輸入者は個別の輸入申告を行う必要がなく、郵便事業者が税関に提示するだけで手続きが進みます。

もっとも、特定の郵便物については価格に関わらず、または高額な場合に輸入申告が義務付けられています。具体的に輸入申告が必要となるのは、主に以下のケースです。

①課税価格が20万円を超えるもの(ただし寄贈物品等で、税関長において課税価格の把握や所属区分の判断が容易であると認めるものを除きます)

②課税価格が20万円以下であっても、EPA税率の適用を受けようとするもの ここで注意が必要なのは、輸出とは異なり、輸入においては「寄贈物品」であっても、課税価格を把握することが困難な場合などは、一般の輸入申告を求められる可能性がある点です。

(2)輸入申告が必要な場合の具体的な流れ

課税価格が20万円を超え、輸入申告が必要と判断された郵便物については、名宛人に対して郵便事業者から「外国から到着した郵便物の通関手続のお知らせ」という案内文書が送付されます。この通知を受け取った名宛人は、以下のいずれかの方法を選択して手続きを進めることになります。

①自分自身で税関窓口へ出向き、または輸出入申告システム(NACCS)を利用して輸入申告を行う

②日本郵便株式会社または民間の通関業者に手続きを委託する

輸入申告の際には、仕入書(インボイス)や運賃明細、保険料明細などの価格根拠資料を提出し、関税、消費税、地方消費税を正しく計算して納付する必要があります。

 

【表2 輸入郵便物における輸入申告の要否判定】

| 区分 | 課税価格 | 申告の要否 |

| 一般の商流品 | 20万円以下 | 申告不要 |

| 一般の商流品 | 20万円超 | 申告必要 |

| EPA適用希望物品 | 価格不問 | 申告必要 |

| 税関長が指定する物品 | 価格不問 | 申告必要 |

 

3 専門的知見に基づく実務上のアドバイス

郵便物通関において特に留意すべきは「課税価格の算定」です。

関税定率法第四条では、輸入貨物の課税価格は「当該輸入貨物に係る輸入取引がされた時の価格(決定価格)に、当該輸入貨物が輸入港に到着するまでの運賃、保険料その他一切の費用を加算した価格」と定義されています。

郵便物の場合、物品自体の代金だけでなく、国際送料や保険料も合算した金額が「20万円」を超えているかどうかが判断基準となります。この計算を誤ると、意図せず無申告の状態となり、後日、過少申告加算税や延滞税などの附帯税が課されるリスクがあります。

また、関税法では、税関長が郵便物の内容を確認するために、名宛人に対してインボイス等の書類の提出を求めることができると定められています。書類の不備や価格の過少申告が疑われると、貨物の引き渡しが大幅に遅れるだけでなく、税関による厳しい調査の対象となることもあります。

さらに、輸入してはならない貨物(関税法第六十九条の十一)についても注意が必要です。 知的財産権を侵害する物品、例えばブランド品のコピー商品などを郵便で輸入しようとした場合、たとえ一個であっても没収の対象となります。郵便物通関は簡易的である反面、税関のX線検査や開披検査が非常に効率的に行われており、違法物品の検挙率は非常に高いのが現状です。

特に、一時期違法薬物を郵便で輸入しようと試みて検挙されるケースが多数存在しました。このようなことは絶対にやめてください。

 

4 弁護士へのご相談をご希望の方へ

当事務所は、代表弁護士が輸出入や通関手続きに関する国家資格である通関士資格を保有しております。単なる法律の解釈にとどまらず、実際の通関現場で行われている実務慣行や、税関当局の考え方を踏まえたアドバイスが可能です。

例えば、以下のような事項でお困りの際に、サポートを提供いたします。

①課税価格の決定(評価申告)に関する税関との見解の相違

②実行関税率表上の所属区分(HSコード)の判定に関する助言

③税関事後調査に対する立ち会いおよび対応方針の策定

④関税法違反等で貨物が差し押さえられた場合の権利救済

④効率的な輸出入管理体制(ガバナンス)の構築

郵便物や一般貨物を問わず、輸出入に関してご不明な点や、税関とのトラブル、あるいは将来的な法的リスクを回避するための対策についてのご相談がありましたら、どうぞお気軽に当事務所までお問い合わせください。

 

【お問合せは、こちらから】

 

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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら

 

(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定

本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

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