通関業者任せは非常に危険です

はじめに:仮の相談者から寄せられた相談事例のご紹介

本日は、多くの輸入事業者が陥りがちな「通関業者への丸投げ」という極めて危うい実務慣行と、それに伴う法的リスクについて詳述いたします。まずは、当事務所に実際に寄せられる相談内容を模した、以下の架空事例をご覧ください。専門家に委託しているという安心感が、いかに脆いものであるかを示す重要な教訓が含まれています。

【相談者】

神奈川県内で海外製の高機能スポーツ用品やウェアの輸入卸売業を営むA社 代表取締役 B氏

【相談内容】

「当社は創業以来十年間、大手通関業者C社にすべての輸入通関手続きを委託してまいりました。B氏は、通関士は国家資格を持つプロフェッショナルであるから、提出したインボイスの内容を正しく読み取り、最適なHSコード(税番)を選択して申告してくれているものと完全に信頼しておりました。ところが先日、税関による輸入事後調査が行われ、過去三年間にわたる輸入申告において、特定のウェアのHSコードが誤っており、本来課されるべき関税率が不当に低く適用されていたと指摘されました。その結果、数千万円の不足税額に加え、過少申告加算税と延滞税の支払いを命じられたのです。B氏は通関業者に対し『プロとして間違った申告をしたのだから責任を取ってほしい』と抗議しましたが、通関業者からは『当社は提供されたインボイスに基づき、一般的な解釈で申告したに過ぎない。最終的な納税義務と申告内容の確認責任は輸入者にある』と突っぱねられてしまいました。B氏は、なぜ多額の手数料を払って専門家に頼んでいるのに、自社がすべての責任を負わなければならないのか、また、このような事態を未然に防ぐにはどうすればよかったのか、専門的な見地からの詳細な解説を求めています」

このような事例は、輸入実務の現場において日常的に発生しております。輸入ビジネスにおいては、自主通関を行っている方もいるでしょうが、多くの企業は通関手続を通関業者に委託しています。そして、通関業者に所属し実際に通関手続を行うのが「通関士」です。しかしながら、すべてを通関業者や通関士に「丸投げ」してしまうことには、重大なリスクがあります。本日は、通関実務における「業者任せ」に潜むリスクと、輸入者として必要な対応について、関連法令に基づき解説いたします。

1 輸入申告における「納税義務者」の法的定義と責任の所在

まず、通関手続きを外部に委託しても、法律上の責任がどこに帰属するかを明確にする必要があります。日本の関税制度は、輸入者が自ら税額を計算して申告する「申告納税方式」を採用しています。

(関税法第七条 申告)

貨物を輸入しようとする者は、その貨物の品名並びに数量及び価額その他必要な事項を税関長に申告しなければならない。

この条文における「申告しなければならない者」とは、原則として輸入者本人を指します。通関業者は、あくまで「輸入者の代理人」として手続きを代行しているに過ぎません。したがって、申告納税方式の下では、申告内容の正確性を担保する最終的な責任は納税義務者である輸入者に帰属いたします。

(関税法第九条 納税義務者)

関税を納付すべき者は、当該貨物を輸入する者とする。

通関士には適切に通関業務を行う義務がありますが、これは行政上の義務や委託契約上の善良な管理者の注意義務(善管注意義務)を定めるものであり、税関に対する「納税義務」そのものを肩代わりするものではありません。仮に通関業者が誤ったHSコードを適用したり、価格・数量を誤って申告したりしても、それによって発生した追徴課税や罰金等は、法的にはすべて輸入者が負担することになります。

2 通関実務における「丸投げ」が招く具体的リスクの分析

多くの輸入者は「専門家に頼んでいるから大丈夫」と思いがちですが、実務上の情報格差(インフォメーション・アシンメトリー)が以下の深刻なリスクを引き起こします。

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輸入者と通関業者の認識の乖離(リスク対照表)

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項目|輸入者の思い込み(誤解)|通関業者の実情(現実)

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商品の詳細理解|写真一枚で商品の材質や機能を理解してくれる|インボイスの品名だけでは詳細は不明

HSコードの決定|節税になる最適な税番を自動的に選んでくれる|無難、または過去の類似申告に従う

価格の適正性|別途支払っているロイヤリティ等も考慮してくれる|インボイスに記載のない支払いは把握不能

他法令の確認|薬機法や電波法の該当性もチェックしてくれる|専門外の規制については輸入者の指示待ち

事後調査の責任|間違えたら通関業者が責任を持って補償してくれる|責任は輸入者にあり、賠償は限定的

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(一)HSコード(統計品目番号)の誤分類リスク

HSコードの決定は、関税率表の解釈に関する通則(通則1から6)に基づき行われますが、その判断には商品の詳細なスペック、材質、用途、さらには製造工程の知識が不可欠です。B氏の事例のように、ウェアの材質が合成繊維なのか綿なのか、あるいは機能性素材なのかによって、数パーセントから十パーセント以上の税率の差が生じます。通関業者が不正確な情報に基づき低い税率のコードを適用し、それが事後調査で否認された場合、過少申告と判断されます。

(二)課税価格(関税評価)の確認不足リスク

関税は「輸入取引の価格」に対して課されますが、インボイス価格にロイヤリティ、金型代、あるいは無償提供した原材料の費用(加算要素)が含まれていない場合、それらを別途申告しなければなりません。

(関税定率法第四条 課税価格の決定の原則)

(前略)その価格に含まれていない限度において、次に掲げる費用の額を加算した価格とする。(以下、運賃、保険料、ロイヤリティ等が列挙される)

通関業者は、輸入者から「別途ロイヤリティを支払っている」との申告がない限り、インボイス通りの価格で申告を進めます。これが事後調査で発覚すると、意図的な隠蔽でなくても、多額の追徴課税が発生いたします。

(三)輸入制限・禁止品目の見落としリスク

薬機法、電波法、植物防疫法などの「他法令」の規制対象か否かの判断は、関税法第七十条に基づき厳格に行われます。通関業者は、明らかに医療機器に見える製品であれば指摘してくれますが、美容家電や食品添加物が含まれるサプリメントなど、境界線が曖昧な製品については、輸入者が事前に当局の確認を取っていない限り、そのまま申告されてしまうことがあります。その結果、輸入差止や全件廃棄という莫大な損害を被ることになります。

3 「プロへの委託」を「法的防御」に繋げるための実務的アクション

通関業者は、あくまでも輸入者が提供した情報に基づいて申告手続を行います。この限界を理解し、輸入者として以下の五つの基本動作を徹底することが、トラブルを最小限に抑える唯一の道です。

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輸入者が実施すべき通関業者管理チェックリスト

(ワードデータ等に貼り付けて標準作業手順書としてご活用ください)

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アクション項目|具体的な実施内容|法的な重要性

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詳細情報の提供|商品仕様書、成分表、カタログ、写真を業者へ事前に送付する|正確な品目分類(HSコード)の担保

税率根拠の確認|なぜそのHSコードになったのか、根拠(通則等)を業者に問う|過少申告の回避と予見可能性の向上

他法令の事前照会|輸入前に厚生労働省や経済産業省、あるいは弁護士へ該否を確認する|関税法第七十条(他法令の証明)の遵守

評価申告の指示|ロイヤリティや無償支給品の有無を明確に業者へ伝える|関税定率法第四条(加算要素)の適正申告

事後確認の徹底|輸入許可書を一枚ずつチェックし、申告価格や税番を再確認する|誤り発見時の「修正申告」によるペナルティ免除

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特に重要なのは、通関後の書類保管と再確認です。関税法第九十四条に基づき、輸入者は帳簿書類を七年間保存する義務があります。

(関税法第九十四条 帳簿の備付け等)

輸入者は、輸入許可の日から七年間、輸入貨物に関する帳簿及び書類を保存しなければならない。

許可書の内容を放置せず、自社の仕入価格と相違ないか、適用税率に違和感がないかを確認し、もし誤りを発見した場合は、税関の調査が入る前に「修正申告」を自主的に行うことで、過少申告加算税を免除させることが可能です。

4 不適切な管理に伴う深刻なペナルティと社会的責任

申告内容に誤りがあった場合、輸入者は単なる不足税額の支払いだけでは済まない、多重的な制裁を受けることになります。

(一)過少申告加算税

(関税法第十二条の二)

納税申告をした後、修正申告又は更正があったときは、不足税額の百分の十(または十五)に相当する過少申告加算税を課する。

(二)延滞税

(関税法第十二条)

納期限までに税金が完納されない場合、利息に相当する延滞税が課されます。これは、輸入時からの期間が長くなるほど雪だるま式に増大いたします。

(三)重加算税

事実を隠蔽したり仮装したりしたと判断された場合(アンダーバリューなど)、過少申告加算税に代えて、不足税額の三十五パーセントから四十パーセントという極めて重い重加算税が課されます。

(四)通関スピードへの悪影響

一度不適切な申告を繰り返した輸入者は、税関のシステムにおいて「ハイリスク企業」としてフラグが立てられます。その後の全輸入貨物に対して開梱検査が行われるようになり、通関リードタイムの増大と、それに伴う保管料の発生、さらには取引先への納期遅延という、ビジネス上の致命的なダメージに直結いたします。

(五)AEO認定の剥奪または取得不能

特定輸入者(AEO)などの認定を受け、物流の効率化を目指している企業にとって、法令違反の履歴は認定の取消事由となります。

5 弁護士の活用場面と当事務所のサポート体制

「通関の専門家=通関士」と思われがちですが、法的トラブルや高度な法解釈、さらには当局との折衝に関しては弁護士の領域です。法令違反のリスクを防ぐには、通関士との連携とあわせて、法務面からの確認が不可欠です。当事務所は、代表弁護士が通関士資格を保有しているという稀有な専門性を活かし、通関業者には踏み込めない以下の領域において、輸入事業者を全面的にサポートしております。

一 税関調査(事後調査)および不服申立てへの対応支援

税関からの照会や調査が入った際、当局の主張が法的に妥当であるかを検証し、輸入者の権利を守るための論理的な反論、修正申告の交渉を代行いたします。

二 通関業者との高度なコミュニケーションサポート

輸入者と通関業者の間の「情報の橋渡し」を行い、法的にリスクの高い品目について、どのような証拠書類(鑑定書や当局回答書)を揃えるべきかを具体的に指示いたします。

三 契約書、インボイス、ライセンス契約の法的精査

関税評価上の「加算要素」の有無を精査し、将来の追徴課税を未然に防ぐための契約構造の提案や、表明保証条項の策定を行います。

四 輸入スキーム全体のリスク診断

新規ビジネスの立ち上げに際し、薬機法、食品衛生法、電波法、ワシントン条約などの複雑なクロスボーダー規制を網羅的にチェックし、安全な輸入ルートを構築いたします。

通関士や業者に任せていても、最終的な責任は輸入者に帰属します。トラブルが発生してから「業者がやったことだ」と主張しても、法的な救済は得られません。「お任せ」で済ませず、自社でも内容を理解・確認し、必要に応じて弁護士のリーガルチェックを組み込む姿勢が、現代の輸入ビジネスには求められています。

6 まとめ:適正な通関こそがビジネスを安定させる唯一の道

本日は、通関業者との適切な距離感と、輸入者に課せられた重い法的責任について解説いたしました。B氏のようなケースであっても、当初から正しい法令知識に基づき、通関業者に対して詳細な情報を能動的に提供し、かつ専門家によるダブルチェックを受けていれば、数千万円の追徴という事態は防ぐことが可能でした。

企業としては、輸入する貨物の内容や取引相手に支払う代金のみを気にしておけばよく、それ以外の手続面のことはほとんど気にしていない場合も多いものと思われます。しかしながら、このような姿勢には大きなリスクがあると言わざるを得ません。

正しい法令知識に基づき、一つひとつの取引を精査すること。その地道な努力が、貴社のグローバルビジネスを安定させ、不測の事態から会社を守ることに繋がります。当事務所は、貴社の良きパートナーとして、その専門性を最大限に発揮して、安定した海外展開や新規事業の立ち上げをサポートし続けます。

適正な通関こそが、グローバルビジネスを安定させる唯一の道です。

【お問合せは、こちらから】

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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら

(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定

本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

 

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