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はじめに:仮の相談者から寄せられた相談事例のご紹介
本日は、輸出入ビジネスを展開する上で避けては通れない、帳簿書類の保存義務と電子帳簿保存法(以下、「電帳法」といいます。)への対応について詳しく解説いたします。まずは、当事務所に寄せられた具体的な相談内容を模した、以下の架空事例をご覧ください。デジタルトランスフォーメーション(DX)が進む現代の貿易実務において、多くの事業者が直面している課題が示されています。
【相談者】
都内で海外製アパレル小物のECサイトを運営しているA社 代表取締役 B氏
【相談内容】
当社はこれまで、海外の仕入先からメールの添付ファイル(PDF)でインボイス(仕入書)を受け取り、それを印刷してファイリングすることで保存してきました。しかし、昨今の電子帳簿保存法の改正により、電子データで受け取ったものは電子データのまま保存しなければならないと聞き、非常に困惑しています。当社の実務担当者は、単にパソコンのフォルダに保存しておくだけでよいのか、あるいは特別なシステムを導入しなければならないのか、具体的な方法が分からず不安を感じています。また、税関の事後調査が入った際、電子データの保存が不適切であるとして、申告価格の正当性を疑われたり、青色申告の承認を取り消されたりするリスクはないのでしょうか。電子帳簿保存法と関税法の関係性を踏まえた、実務上の明確な指針を求めています。
このような事例は、輸入や輸出を業とする個人、法人の間で増加傾向にあります。事業者は、該当の貨物に関する品名、数量及び価格等を記載した帳簿を備え付け、帳簿、書類及び電子データを保存する義務を負います。ただ、実際のところ、このような各書類の保存を適切に行うことができていない事業者も多く存在するように思います。また、一概に電子データといっても、どのようなデータとすべきか、よくわからない、保存方法が分からない等、実務としての対応に不安がある方も多いのではないでしょうか。本日は、よくある疑問点について、税関の実務上の考え方をご紹介いたします。
1 輸出入者における帳簿書類の保存義務と法的根拠
輸出入を事業として行う場合、その根拠となる資料を一定期間保存することが法律で義務付けられています。まずは、関税法における基本的な規定を確認しましょう。
①貨物を輸出し、又は輸入しようとする者(中略)は、当該貨物の品名、数量及び価額その他財務省令で定める事項を記載した帳簿を備え付け、かつ、当該帳簿及び当該輸出入に関し作成し又は受領した書類(中略)を保存しなければならない。
②前項の帳簿及び書類の保存期間は、当該貨物の輸出又は輸入の許可の日(中略)の翌日から七年間(書類にあつては、五年間又は七年間として財務省令で定める期間)とする。
この規定に基づき、インボイス、パッキングリスト、運賃明細書、保険料明細書、契約書、そして支払いを証明する銀行の送金記録などは、原則として七年間の保存が必要です。そして、令和六年度からの電帳法の本格運用に伴い、これらの保存を電子的に行う際の要件がより厳格化されました。
2 電子帳簿保存法が輸出入実務に与える影響
電帳法は、大きく分けて三つの区分で構成されています。
一 電子帳簿・電子書類の保存(任意)
自らが会計ソフト等で作成した帳簿や決算書類をデータのまま保存するもの。
二 スキャナ保存(任意)
紙で受け取った領収書やインボイスをスキャンしてデータで保存するもの。
三 電子取引のデータ保存(義務)
メールの添付ファイルやクラウドサービスを通じて受け取ったインボイスなどの電子データを、データのまま保存するもの。
B氏の事例のように、メールでインボイスを受け取る行為は「電子取引」に該当いたします。これまではプリントアウトした紙での保存も認められていましたが、現在は、適切な検索要件と真実性の確保(タイムスタンプの付与や訂正削除の防止に関する事務処理規定の備付け等)を満たした形でのデータ保存が義務付けられています。
3 実務上のよくある疑問点と税関の考え方
電子データ保存の実務について、当事務所によく寄せられる疑問点と、税関の執務上の指針(通達)等に基づく考え方を整理いたします。
① 書類をスキャンする際のプリンタやモニターの性能について
紙の書類をスキャナ保存する場合や、電子データを画面で確認する場合、どのような設備が必要になるのでしょうか。規則上は、電磁的記録は、ディスプレイ等に出力して視認できるような状態である必要があります。プリンタやディスプレイの性能や設置すべき台数について必要要件はありません。ただし、関税法施行規則第八条の三第一項第二号及び同条第四項第四号において、電磁的記録は「速やかに出力することができる」ことが要件とされている点には注意が必要です。つまり、税関の事後調査などで調査官から「この申告番号のインボイスを見せてください」と言われた際、数分以内に画面に表示し、必要に応じて鮮明にプリントアウトできる状態でなければなりません。
② 該当のデータを複数の媒体で保存することができるかどうか
保存するデータ量が増大した場合の管理方法についての疑問です。原則として、データに関する検索機能については、関係帳簿書類を保存すべきこととなる期間内の関税関係帳簿書類に係るデータを通じて任意の範囲を指定して条件設定を行い検索ができる必要があります。これは関税法施行令第八十三条第六項(同第八項)、および関税法基本通達一二の二-一二や通達九四の二-二八に規定されています。
しかしながら、法定の保存期間を通じて一元的に検索をすることが困難であることについて合理的な理由があるときには、該当のデータを複数の媒体(例えば年度ごとに分かれたハードディスクや光学メディアなど)で保存することができるとされています。例えば、データ量が膨大である等、複数の保存媒体で保存せざるを得ない場合等が、『合理的な理由』に該当すると考えられております。ただし、媒体を分けたとしても、各媒体内での検索性は維持されていなければなりません。
③ データは、事務所内のサーバーで保存する必要があるかどうか
リモートワークの普及やクラウド利用の拡大に伴う疑問です。電磁的記録については、ディスプレイや書面に、法定の要件に従った状態で速やかに出力することができることが義務付けられているのみであり、データが保存されたサーバの設置場所についての決まりはありません。そのため、自社内に物理サーバーを置く必要はなく、クラウドサービスを利用することも可能ですし、海外にサーバーが置かれていても問題ありません。これは関税法基本通達九四の二-七の注書きにも明記されています。重要なのはサーバーの物理的な場所ではなく、日本の事務所からいつでもアクセスし、出力できる状態にあるかという点です。
4 電帳法対応において輸出入者が備えるべき要件の整理
電帳法(特に電子取引)を遵守するために、輸出入者が最低限整えるべき要件を以下の表にまとめました。ワードデータ等に貼り付けて、社内のコンプライアンス管理にご活用ください。
【電子帳簿保存法(電子取引)における輸出入者の対応要件一覧】
要件の区分|具体的な内容|実務上の対応例
--------|----------------|------------
真実性の確保|データが改ざんされていないことの証明|タイムスタンプの付与、または訂正削除の防止に関する事務処理規程の備付け。
可視性の確保|誰もが視認・出力できる状態の維持|カラーモニター、プリンターの設置、操作説明書の備付け。
検索機能の確保|必要なデータを即座に抽出できること|「取引年月日」「取引金額」「取引先」の三項目で検索できる仕組みの構築。
速やかな出力|税関調査等の際に遅滞なく提示できること|インターネット環境の整備、担当者の習熟。
保存期間の遵守|法定期間(原則七年)のデータ保持|バックアップの実施、メディアの劣化防止。
特に検索機能の確保については、単にファイル名に情報を入れるだけでなく、エクセル等で索引簿を作成するか、電帳法対応の文書管理システムを利用することが推奨されます。B氏のA社においても、まずは「事務処理規程」を作成し、取引内容を一覧化する仕組みを作ることから始めるべきでしょう。
5 適正な保存が行われていない場合の法的リスク
輸入や輸出の手続きに関しては様々なルールが存在しますので十分注意が必要です。正確にルールを把握しない場合には、思わぬトラブルに巻き込まれる可能性があり、事業の存亡にかかわりかねません。帳簿書類の保存が不適切であると判断された場合、以下のようなリスクが生じます。
一 関税評価の否認と追徴課税
税関事後調査において、インボイスや支払記録のデータが保存されていない場合、申告した課税価格(申告価格)の妥当性が証明できなくなります。その結果、税関長によって課税価格が更正され、多額の関税・消費税の不足分に加え、過少申告加算税(一〇%~一五%)や重加算税(三五%)が課されるリスクがあります。
二 青色申告承認の取消し
電帳法の要件を満たさない保存は、国税当局の判断により青色申告の承認が取り消される原因となり得ます。これにより、法人税上の優遇措置(欠損金の繰越控除等)が受けられなくなるという、甚大な経済的損失を被る可能性があります。
三 過料の適用
電帳法に違反し、適切に電子取引データの保存が行われていなかった場合には、会社法上の過料の対象となる可能性も指摘されています。
正確にルールを把握し、適切な輸入、輸出手続を行うことがビジネス上非常に重要ですので、万一、手続やルールに不安がある場合には、専門家にご相談ください。
6 関税評価と電子データの連動性
輸出入における「価格」の決定は、単にインボイスの数字を転記するだけではありません。関税定率法第四条に基づき、加算要素(運賃、保険料、ロイヤリティ、アシスト費用等)を適切に反映させる必要があります。これらの加算要素に関するやり取りも、現代では多くが電子メールやSラック等のチャットツールで行われています。
第一項 輸入貨物の課税価格は、当該輸入貨物に係る輸入取引がされたときに別表の規定により計算される価格(以下取引価格という。)とする。
税関の事後調査では、メインのインボイスだけでなく、その背後にある価格交渉のプロセスや、別途支払われた費用の有無を確認するために、電子データの提示を求められます。電帳法対応を単なる「形式的なデータ保存」と捉えるのではなく、自社の申告の正当性を証明する「エビデンス管理」として位置づけることが、グローバルビジネスを安定させる鍵となります。
7 当事務所による総合的な輸出入法務サポート
輸入や輸出を事業として(あるいは副業として)行っている法人、個人の方は非常に多くおり、増加傾向にあります。しかし、その実務を支える法規制は日々複雑化しています。当事務所は、代表弁護士が輸出入や通関に関する国家資格である通関士資格を有しており、法務と実務の両面から強力なサポートを提供することが可能です。
弁護士でありながら通関実務の深い知見を持つことで、単なる電帳法の解釈に留まらず、税関当局がどのような視点で調査を行い、どのような電子データの提示を求めてくるかといった、実践的なアドバイスを提示することができます。
当事務所が提供できる具体的な支援内容
一 電子帳簿保存法に対応した「関税関係書類事務処理規程」の作成支援。
二 輸出入実務における電子データの検索要件・真実性確保の体制構築。
三 税関事後調査への立ち会いおよび電子データを用いた申告の正当性立証。
四 外為法、関税法に基づく帳簿備付け義務の適正化診断。
五 輸出入トラブルに伴う損害賠償請求および交渉代理。
特に、B氏のようなEC事業者様に対しては、受注データや海外送金データと輸入申告データをいかに紐付けて保存するかという、DX時代の貿易管理体制の構築を専門的にサポートいたします。
まとめ:適正な管理こそがグローバルビジネスの安定を支える唯一の道
本日は、電子帳簿保存法を踏まえた輸出入関係書類の保存実務について解説いたしました。デジタル化は業務効率を高める大きなチャンスですが、一方で法的な要件を満たさない運用は致命的なリスクを招きかねません。
企業としては、輸入する貨物の内容や取引相手に支払う代金のみを気にしておけばよく、それ以外の手続面のことはほとんど気にしていない場合も多いものと思われます。しかしながら、このような姿勢には大きなリスクがあると言わざるを得ません。通関手続きや貨物の運送などの手続き面について、専門家に任せることは非常に有用ですが、企業としてもそれらの点について最低限の知識を持ち、各手続において重要な点については逐一確認をとる等の対応が必要です。
正しい法令知識に基づき、一つひとつの取引を精査し、その証拠を適切にデジタル保存すること。その地道な努力が、貴社のグローバルビジネスを安定させ、不測の事態から会社を守ることに繋がります。当事務所は、貴社の良きパートナーとして、その専門性を最大限に発揮して、安定した海外展開をサポートし続けます。
適正な通関こそが、グローバルビジネスを安定させる唯一の道です。
【お問合せは、こちらから】
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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら)
(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定
本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。

