輸入事後調査の準備について

はじめに:仮の相談者から寄せられた相談事例のご紹介

ECサイトの利用の拡大、副業の拡大によって、輸入を事業として行う企業、個人は増加傾向にあります。通常の輸入に関しては、日本は申告納税方式が採用されておりますので、問題のある申告を行っていた場合でも輸入許可が下りてしまうことがあるのですが、そのような問題のある申告を取り締まり、事業者間の公平や法秩序を維持するために、輸入事後調査という税関による調査が行われております。まずは、当事務所に実際に寄せられた相談内容を模した、以下の架空事例をご覧ください。

【相談者】

千葉県内で海外ブランドの雑貨やアパレルを輸入販売するA社 代表取締役 B氏。

【相談内容】

「当社は数年前から欧州やアジアのメーカーと直接契約し、自社サイトで商品の販売を行っております。これまでは通関業者に書類を渡し、特に問題なく輸入許可を得てきました。しかし先日、税関から輸入事後調査を実施するという通知が届きました。調査官からは、過去三年度分の輸入申告に関わる帳簿や銀行の送金記録、メーカーとの契約書などを準備するように言われています。当社は小規模な組織であり、日々の業務に追われて書類の整理が追いついておらず、一部の古いメールやチャットでのやり取りも削除してしまいました。もし資料が不足していたり、申告価格に誤りがあると判断されたりした場合、どのようなペナルティがあるのでしょうか。また、今からどのような準備をすべきでしょうか。

B氏は、これまでの申告がすべて適正であったと確信していますが、裏付けとなる資料の不備が法的な不利益に繋がることを非常に危惧しています」

このような事態は、輸入ビジネスに従事するすべての事業者にとって、避けては通れないリスクの一つです。適正な輸入申告価格を維持し、税関の調査に冷静に対応するためには、日頃からの法的な備えが不可欠です。以下、輸入事後調査の重要性と実務的な対応策について詳しく解説いたします。

1 輸入通関時の資料等は適切に保管する必要があります

輸入事後調査は、要するに、輸入申告が適切に行われていたかどうか、より具体的には適切な税番や申告価格で申告されていたか、ということを輸入通関時の資料や、送金関連資料、また、契約関連資料を踏まえて判断していくことになります。そのため、仮に適切に申告をしていたとしても裏付けとなる資料を適切に保管していない場合には、調査を行う税関の立場からすると適切な申告を行っていたかどうかを判断することができません。以上を踏まえ、まずは必要な資料を常日頃から保管しておくことが非常に重要です。これは、そもそも輸入事業者は上記の資料を保管する法的な義務がありますので当然のことではありますが、なかなか実現できていない事業者も多く存在する印象です。関税法第九十四条では、輸入者の帳簿備付け義務について以下のように規定されています。

(関税法第九十四条 帳簿の備付け等)

①貨物を輸出し、又は輸入しようとする者(中略)は、当該貨物の品名、数量及び価額その他財務省令で定める事項を記載した帳簿を備え付け、かつ、当該帳簿及び当該輸出入に関し作成し又は受領した書類(中略)を保存しなければならない。

②前項の帳簿及び書類の保存期間は、当該貨物の輸出又は輸入の許可の日(中略)の翌日から七年間(書類にあつては、五年間又は七年間として財務省令で定める期間)とする。

このように、法令上、輸入者には厳格な記録保存義務が課されています。特に、仕入書(インボイス)だけでなく、実際の支払額を証明する送金記録や、価格決定の根拠となる契約書などは、事後調査において最も重視される資料です。資料の不備は、単なる管理不足として片付けられるものではなく、関税法上の義務違反として扱われる可能性がある点に十分注意が必要です。

2 輸入事後調査対応の準備は日常的に行う必要があります

輸入事後調査の準備については、日常的に行うことが非常に重要です。といいますのも、数年間にわたる関連資料を一度に収集整理しようとすると、それだけで大量の時間が必要となり、日常の業務に支障が生じます。また、一部の記録に関しては数年単位の保管しかされていないこともあり、いざ輸入事後調査が入ることになった場合には、既に資料がどこにも存在しないということにもなりかねません。また、通常の取引についても、例外的な取引が発生する場合は相当程度ありますが、都度適切にメモを取っておかないと、事後的になぜそのような例外的な取り扱いをすることになったのか記憶が不明瞭となってしまう場合もあります。日常的に多数の取引を行っていると、例外的な対応といってもそれなりの分量となってしまいますので、記憶を頼りにすることは非常にリスクがある点にはご留意ください。

輸入事後調査において税関が特に注視するのは、関税定率法第四条に基づく課税価格の決定の適正性です。

(関税定率法第四条 課税価格の決定の原則)

第一項 輸入貨物の課税価格は、当該輸入貨物に係る輸入取引がされたときに別表の規定により計算される価格(以下取引価格という。)とする。ただし、その取引価格が次に掲げる費用を含んでいないときは、その含まれていない限度において、当該費用をこれに加算するものとする。

この加算要素の申告漏れは、事後調査で最も多く指摘されるポイントの一つです。例えば、輸入者が海外のメーカーに対して無償で原材料や金型を提供している場合(アシスト費用)、あるいは商品の販売に関連してロイヤリティを支払っている場合、これらは輸入申告価格に加算しなければなりません。これらの支払いは商品のインボイスには記載されないことが多いため、輸入者が自覚的に管理していないと、意図せずとも過少申告となってしまいます。

3 輸入者が常備すべき資料の一覧

どのような資料をどのように保管すればよいか、ということから漏れがないように整理していく必要があります。

【輸入事後調査対応・保存義務資料チェックリスト】

保存対象資料|法定保存期間|具体的な内容および留意点

--------|--------|--------

仕入書(インボイス)|7年間|数量、単価、決済条件(インコタームズ)が明記されたもの。

契約書|7年間|基本売買契約書、個別契約書、代理店契約書、ライセンス契約書等。

運賃明細書・保険料明細|7年間|輸入港到着までの海上運賃、航空運賃、海上保険料の領収書等。

送金証明書(TT受領書等)|7年間|銀行の海外送金依頼書控え、決済完了を証明する書類。

価格算出根拠書類|7年間|加算要素(アシスト、ロイヤリティ)の計算根拠を示した内部資料。

包装費・仲介手数料領収書|7年間|輸入者が負担した包装費用や、買付代理人以外の仲介者に支払った手数料。

会計帳簿一式|5年間または7年間|総勘定元帳、仕訳帳、現預金出納帳、仕入台帳等。

電子メール・通信記録|要検討|価格交渉や例外的な値引きの経緯が記されたやり取り。

これらの資料を、申告番号(許可番号)ごとに紐付けて整理しておくことが、事後調査を円滑に進めるための鉄則です。資料が散逸していると、調査官に対して適切な説明ができず、本来払う必要のない追徴課税を課されるリスクを招きます。

4 不適切な申告に伴う法的リスクとペナルティ

間違った輸入申告価格を申告してしまうと、つまるところ脱税と同じ状況となってしまいますので輸入申告価格は慎重に算定することが必要です。このような検討を経ることなく間違ってしまうと、数十%にのぼる追徴税や、最悪のケースでは刑事事件化されてしまう場合もあります。関税法では、過少申告に対する罰則が厳格に定められています。

(関税法第十二条の二 過少申告加算税)

税関長は、更正(中略)があった場合には、当該納税義務者に対し、不足税額に百分の十(一定額を超える部分は百分の十五)を乗じて計算した金額に相当する過少申告加算税を課する。

さらに、事実を隠蔽したり仮装したりした場合には、極めて重い重加算税が課されることになります。

(関税法第十二条の四 重加算税)

事実を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告をしていたときは、過少申告加算税に代え、不足税額に百分の三十五を乗じた重加算税を課する。

B氏の事例のように、申告価格の根拠を説明できない、あるいは意図的に特定の費用を除外して申告していたとみなされた場合、これらの加算税に加えて延滞税も課されることとなり、企業のキャッシュフローに甚大なダメージを与える結果となります。

5 関税評価における加算要素の具体的な判断基準

輸入事後調査で特に否認されやすい項目について、より専門的な視点で解説いたします。これらは通常の商慣習では費用と認識されていても、関税評価上は貨物の価格の一部とみなされるものです。

(一)買手による無償提供費用(アシスト)

輸入者が海外の製造者に材料、部分品、金型、工具、デザイン、図面などを無償または値引きして提供した場合、その費用は課税価格に加算しなければなりません。特に日本から送った古い金型であっても、その残存価値や輸送費用を加算する必要がある点に注意が必要です。

(二)ロイヤリティ(権利使用料)

輸入貨物の特許権、意匠権、商標権などの使用料を買手が支払う場合、それが輸入取引の条件として支払われるものである限り、課税価格に算入されます。支払先が売手以外の第三者である場合でも、加算が必要となるケースが多く、高度な法的判断が求められます。

(三)仲介手数料および買付手数料

売手と買手の間を仲介する者に支払う手数料は加算要素となります。一方で、専ら買手のために動く「買付代理人」に支払う手数料は、一定の厳しい条件を満たせば加算不要となります。この区分を誤り、本来加算すべき仲介料を加算せずに申告しているケースが非常に多く見受けられます。

(四)運賃および保険料

日本国内の輸入港に到着するまでの運賃と保険料は課税対象です。航空便での緊急輸入の際、その高い運賃を適切に申告に含めているか、あるいは包括的な保険契約を結んでいる場合に、各取引に適切に按分して申告しているかが問われます。

6 輸入事後調査当日の流れと対応のポイント

輸入事後調査は、通常二名から三名の調査官が輸入者の事務所を訪問し、数日間にわたって実施されます。当日の対応を誤ると、不必要な疑念を抱かれる原因となります。

一 誠実な対応と事実関係の説明

調査官の質問に対しては、帳簿等の資料に基づき正確に回答することが基本です。記憶が不明瞭な点については、安易に推測で答えるのではなく、後ほど資料を確認して回答する旨を伝え、正確性を期すべきです。

二 資料の提示

求められた資料は迅速に提示できるよう、前述のチェックリストに基づき整理しておく必要があります。資料の提示を拒否したり、隠蔽したりする行為は、重加算税の賦課や罰則の対象となり得るため、絶対に行ってはなりません。

三 法的根拠に基づく反論

税関の指摘内容が法令の解釈と異なると判断される場合には、関税法や関税定率法の規定に基づき、論理的に反論を行うことが重要です。ここで弁護士や通関士といった専門家の支援があることが、企業の正当な権利を守る鍵となります。

四 修正申告の要否

調査の結果、申告漏れが判明した場合には、修正申告を行うことになります。調査の完了を待たずに自主的に修正申告を行うことで、加算税の負担を軽減できる場合もあるため、早期の検討が推奨されます。

7 弁護士による事後調査対応の有用性

弊事務所では、輸入事後調査の準備から実際の対応まで幅広く対応しております。代表弁護士は、輸出入や通関に関する唯一の国家資格である通関士資格を有しており、法務と実務の両面から強力なサポートを提供することが可能です。

【当事務所が提供できる主なサポート】

一 事前の内部監査(プレ・オーディット)

事後調査が行われる前に、貴社の過去の輸入申告をサンプリング調査し、加算要素の漏れや税番の誤りがないかをチェックいたします。潜在的なリスクを事前に把握し、必要であれば自主的な修正申告を指導することで、ペナルティを最小限に抑えます。

二 帳簿保存体制の構築支援

関税法第九十四条に基づく法定書類の整理・保管方法について、貴社の実務に即した具体的なアドバイスを行います。デジタル化への対応や、インボイスと送金記録の紐付けルールの策定などを支援いたします。

三 調査当日の立ち会い

税関職員が事務所を訪問する際、弁護士が立ち会い、調査官との質疑応答をサポートいたします。法的な観点から適切な説明を行い、不当な指摘に対しては即座に法的根拠に基づいた反論を行います。

四 当局との交渉および不服申立て

調査の結果下された更正処分や過少申告加算税の賦課に対し、納得がいかない場合には、税関長に対する再調査の請求や財務大臣に対する審査請求といった不服申立て手続きを代理いたします。

8 まとめ:適正な通関こそがビジネスを安定させる唯一の道

本日は、輸入事後調査の概要と、輸入者が備えるべき法的な義務について解説いたしました。B氏のようなケースであっても、日頃から透明性の高い記録管理を行い、専門家のアドバイスを受けて体制を整えていれば、事後調査は恐れるべきものではありません。

企業としては、輸入する貨物の内容や取引相手に支払う代金のみを気にしておけばよく、それ以外の手続面のことはほとんど気にしていない場合も多いものと思われます。しかしながら、このような姿勢には大きなリスクがあると言わざるを得ません。通関手続きや貨物の運送などの手続き面について、専門家に任せることは非常に有用ですが、企業としてもそれらの点について最低限の知識を持ち、各手続において重要な点については逐一確認をとる等の対応が必要です。

正しい法令知識に基づき、一つひとつの取引を精査すること。その地道な努力が、貴社のグローバルビジネスを安定させ、不測の事態から会社を守ることに繋がります。当事務所は、貴社の良きパートナーとして、その専門性を最大限に発揮して、安定した海外展開をサポートし続けます。

適正な通関こそが、グローバルビジネスを安定させる唯一の道です。

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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら

(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定

本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

 

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