リスト規制と該非判定について

はじめに:仮の相談者から寄せられた相談事例のご紹介

本日は、日本の輸出管理制度の根幹をなすリスト規制と、その適正な運用に不可欠な該非判定について詳しく解説いたします。まずは、当事務所に実際に寄せられる相談内容を模した、以下の架空事例をご覧ください。高度な技術や製品を海外に展開しようとする企業様にとって、避けては通れない重要な局面が示されています。

【相談者】

都内で産業用ドローン及び高精度センサーの開発販売を行うA社 代表取締役 B氏

【相談内容】

当社はこの度、自社で独自開発した測量用ドローン及びその制御ソフトウェアを、東南アジアのインフラ建設プロジェクト向けに輸出する契約を締結いたしました。当該ドローンは市販品よりも長時間の飛行が可能で、精度の高いGPSユニットを搭載しております。B氏は、民生用の建設資材として輸出するものであるため、軍事転用の意図はなく、特段の制限はないものと考えておりました。しかし、物流業者から、当該製品が外国為替及び外国貿易法(以下、外為法といいます。)上のリスト規制に該当する可能性があるため、該非判定書を提出するように求められました。B氏は、自社の製品がなぜ規制の対象になり得るのか、また、もし無許可で輸出してしまった場合にどのような法的責任を負うことになるのかを正確に把握したいと考えております。特に、貨物だけでなく技術(ソフトウェア)の提供も含まれるため、複雑な法令の解釈について専門的な見地からの詳細な解説を求めています。

このような事例は、日本の優れた技術力を保有する中小企業において、近年非常に多く見受けられます。様々な技術革新によって、現代社会は人やモノの行き来がこれまでになく自由に行われている状況です。しかしながら、そのような中でも国際平和及び安全の観点から、大量破壊兵器等の拡散防止や通常兵器の過剰な蓄積を抑制するための国際的な輸出管理レジームが存在します。日本国内においても、これらの国際的な合意を踏まえて独自の安全保障貿易管理制度を設けております。本日は、その中心的な制度であるリスト規制について解説いたします。

1 リスト規制の定義と法的根拠について

リスト規制とは、国際的な合意を踏まえ、武器並びに大量破壊兵器等(核兵器、化学兵器、生物兵器、ミサイル)及び通常兵器の開発、製造、使用等に用いられるおそれの高いものを法令等でリスト化して、そのリストに該当する貨物や技術を輸出や提供する場合には、経済産業大臣の許可が必要になる制度です。この制度は、特定の国や地域に対する経済制裁とは異なり、貨物のスペック(機能や仕様)に注目して一律に網をかける点に特徴があります。

リスト規制の直接的な法的根拠は、外為法第四十八条第一項にあります。

(外国為替及び外国貿易法第四十八条第一項)

国際的な平和及び安全の維持を妨げることとなると認められるものとして政令で定める特定の地域を仕向地とする特定の種類の貨物の輸出をしようとする者は、政令で定めるところにより、経済産業大臣の許可を受けなければならない。

この規定を受けて、具体的にどのような貨物が規制されるかを定めているのが、輸出貿易管理令(以下、輸出令といいます。)です。

(1)規制対象貨物の分類

規制対象となる貨物は、輸出令別表第一の一の項から十五の項までに体系的に分類されています。

一の項:核兵器、核燃料物質、原子炉等

二の項:化学製剤の原料、細菌製剤の調製装置等

三の項:ロケット、無人航空機、それらの製造装置等

四の項:火薬、爆薬、それらの製造装置等

五の項から十五の項:先端材料、材料加工工作機械、エレクトロニクス、電子計算機、通信、センサー、航法装置、海洋関連、航空宇宙関連等の汎用品(通常兵器の開発等に転用可能なもの)

B氏のA社が扱っているドローンは三の項(無人航空機)に、高精度センサーは七の項(航法装置)や十の項(航空宇宙関連)に該当する可能性を慎重に検討しなければなりません。

(2)規制対象技術の分類

貨物(モノ)の輸出だけでなく、技術(ノウハウやソフトウェア)の提供も同様に規制の対象となります。その根拠は外為法第二十五条第一項にあります。

(外国為替及び外国貿易法第二十五条第一項)

国際的な平和及び安全の維持を妨げることとなると認められるものとして政令で定める特定の技術を特定の外国において提供し、又は特定の外国の居住者に提供することを目的とする取引をしようとする者は、政令で定めるところにより、経済産業大臣の許可を受けなければならない。

この具体的なリストは、外国為替令(以下、外為令といいます。)別表の一の項から十五の項に規定されています。A社のドローン制御ソフトウェアは、この外為令別表の規定に抵触する可能性があるため、貨物と併せて技術提供の許可についても確認が必要となります。

(3)詳細なスペックを規定する省令

輸出令や外為令の別表は項目名のみを掲げているため、実際にどの程度の性能(解像度や処理速度、周波数など)を超えると規制対象になるかについては、経済産業省令である「輸出貿易管理令別表第一及び外国為替令別表の規定に基づき貨物又は技術を定める省令」(以下、貨物等省令といいます。)において極めて詳細に規定されています。実務上は、この貨物等省令の数値を一つずつ自社の製品仕様と照らし合わせる作業が不可欠となります。

2 該非判定の重要性と実務上の進め方について

実務上は、リスト規制に該当する貨物や技術に該当するかどうかを判断するために、該非判定が非常に重要となります。該非判定とは、自社の貨物や技術が、前述した輸出令別表第一や外為令別表の各項、及び貨物等省令で定められたスペックに合致するかどうかを客観的に判定する作業を指します。

(1)慎重かつ厳格な判定の必要性

この該非判定を慎重にかつ厳格に行わずに間違った対応を取ってしまった場合には、無許可輸出等の違法行為に該当することになってしまいますので十分ご注意ください。たとえ意図的ではなく、単なる過失や見落としであったとしても、外為法違反としての法的責任を免れることはできません。税関での輸出申告の際、該非判定書が不備であれば、輸出は許可されず、最悪の場合、貨物の差し押さえや調査の対象となります。

(2)仕入元等との連携

自社で全ての仕様を把握できない場合、該非判定を行う際には、仕入元や部品メーカー等にも協力してもらう必要があります。製品の製造、購入の段階から適切な取り扱いを行うことが重要です。部品メーカーから「項目別対照表」や「パラメータシート」と呼ばれる資料を取り寄せ、自社製品としての最終的な該非を決定するプロセスを確立すべきです。

(3)該非判定の具体的な流れ

該非判定を進める際の標準的なフローを以下の表にまとめました。ワードデータ等に貼り付けてそのまま実務のチェックリストとしてご活用いただけます。

【該非判定実務フロー図】

ステップ|実施事項|確認すべき主な資料

--------|----------------|------------

一 品目特定|輸出する貨物や提供する技術を特定する|図面、カタログ、仕様書

二 項番抽出|輸出令別表第一、外為令別表の該当項番を絞り込む|経済産業省発行の解釈指針

三 スペック比較|貨物等省令の数値基準と製品スペックを対照する|検査成績書、技術データ

四 判定書作成|判定結果を「該当」または「非該当」として書面化する|項目別対照表、パラメータシート

五 承認・保存|社内の責任者が内容を承認し、法定期間保存する|社内管理規定(ICP)

B氏の事例では、ドローンの最大飛行距離、最大離陸重量、自律飛行能力の有無、及びセンサーの測定精度を、貨物等省令の三の項や七の項の基準値と厳密に比較しなければなりません。一つでも基準値を超えていれば該当となります。

3 みなし輸出管理(技術提供管理)の最新動向について

リスト規制において近年特に重要性を増しているのが、みなし輸出管理です。これは、物理的に海外へ貨物を送る場合だけでなく、日本国内において非居住者(外国人留学生や短期滞在の研究者等)に技術を提供する場合も、海外への輸出と同様に許可を必要とする制度です。

(1)特定類型制度の導入

二〇二二年五月からは、居住者であっても外国の政府や企業から強い影響を受けている者(特定類型該当者)に技術を提供する場合にも、経済産業大臣の許可が必要となりました。A社が日本国内で外国籍の技術者を雇用している場合や、海外企業との共同研究を行っている場合には、このみなし輸出の規制が適用される可能性があり、貨物の輸出とは別の次元での管理が求められます。

(2)ソフトウェアの提供形態

ソフトウェアの提供については、CD-ROM等の物理的なメディア(キャリアメディア)による輸出だけでなく、インターネットを通じたダウンロード、電子メールへの添付、さらにはクラウドサーバーへのアップロードも、外為法上の役務取引として規制の対象となります。

4 法令違反に伴う深刻なペナルティと企業リスク

事業として輸出や輸入に従事している以上は、知らなかったでは済まされませんので、自社の事業に関する輸出や輸入に関連した法規制については十分注意する必要があります。万が一、リスト規制に違反して無許可で輸出を行った場合には、以下のような極めて厳しい罰則が科されることとなります。

(1)刑事罰の内容

個人に対しては懲役または罰金、法人に対しては極めて高額な罰金が科されます。

(外国為替及び外国貿易法第六十九条の六)

第四十八条第一項の規定による許可を受けないで、輸出令別表第一の一の項から十五の項までの中の特定の貨物を輸出した者は、十年以下の懲役若しくは二千万円以下の罰金に処し、又はこれらを併科する。

また、対象となる貨物の価格の五倍が二千万円を超える場合には、その価格の五倍以下の罰金に処せられるという規定もあり、巨額の罰金が企業の経営を直接圧迫することになります。

(2)行政処分の衝撃

経済産業大臣により、一定期間(最長で三年間)の輸出禁止処分や技術提供の禁止処分が下されることがあります。これは企業にとって営業機会の完全な喪失を意味し、海外の顧客との信頼関係は完全に崩壊いたします。貿易に従事する企業にとって、三年の業務停止は事実上の倒産宣告に等しい重大な打撃です。

(3)社会的信用の失墜

法令違反の事実は経済産業省のホームページ等で公表されます。これにより、金融機関からの融資停止や、既存の取引先からの契約解除を招くことになります。コンプライアンスを重視する現代のグローバル市場において、一度ついた不名誉なレッテルを剥がすことは極めて困難です。

5 輸入業務における留意点と税関事後調査

日本は貿易大国ですが、輸出のみならず輸入に関しても様々な法規制が存在します。輸入に関しては、基本的には申告納税方式が採用されておりますが、輸入後には輸入事後調査等が存在しておりますので、安易に間違った申告をすることは絶対に避ける必要があります。

(1)適正な課税価格の申告

輸入申告価格を意図的に低く申告するアンダーバリューなどは、明確な脱税に該当いたします。関税法上、不正な手段で関税を免れた場合には刑事罰が科されます。

(関税法第百十条 関税を免れる罪)

偽りその他不正の行為により、関税を免れ、又は関税の還付を受けた者は、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれらを併科する。

(2)他法令の確認義務

品目によっては関税法以外の法律(他法令)による規制を受ける場合があります。例えば、食品衛生法、家畜伝染病予防法、薬機法などの許可や検査が必要であり、これらを怠って輸入することは禁じられています。

(3)事後調査への対応

税関の事後調査では、過去数年分の取引書類や会計帳簿が精査されます。輸出管理と同様に、輸入業務においても法令遵守の証拠を残しておくことが、自社を守る唯一の手段となります。

6 専門家によるリーガルチェックと体制構築の重要性

これらの法規制は変更になることも多いので、定期的に自社に関連する法規制を確認いただく必要があることは改めてご留意ください。国際情勢の変化に伴い、規制対象品目や仕向地の制限は頻繁にアップデートされます。なかなか自社で法規制を確認することが難しい場合には、適宜専門家を含めてご相談等いただくことを強くお勧めいたします。

当事務所では、輸出入に関するコンプライアンス体制(ICP:内部輸出管理プログラム)の策定支援を行っております。

【内部輸出管理体制の評価指標一覧】

評価カテゴリー|確認すべき具体的な内容|管理上のポイント

--------|----------------|------------

組織体制|輸出管理の責任者が任命されているか|社長直轄の体制を推奨

該非判定|技術者と法務担当者が連携しているか|ダブルチェックの徹底

取引審査|顧客が「需要者リスト」に載っていないか|エンドユースの確認

出荷管理|税関への申告前に許可証を確認しているか|誤出荷防止のロック機能

監査・教育|定期的な社内監査と社員教育があるか|全社的な意識の醸成

保存管理|関係書類を法定期間保存しているか|七年間の保存義務の遵守

7 弁護士への相談をご希望の方へ

当事務所は、代表弁護士が輸出入や通関に関する唯一の国家資格である通関士資格を有しており、輸出・輸入や通関上のトラブルに関するご相談を幅広くお受けしております。弁護士でありながら通関実務の深い知見を持つことで、単なる法令の解釈に留まらず、現場の実態に即した具体的なアドバイスを提示することが可能です。

【当事務所が提供できる主なサポート内容】

一 A社製品の精緻な該非判定支援および判定書のリーガルチェック

二 経済産業省への個別輸出許可申請、役務取引許可申請の代理および折衝

三 社内輸出管理マニュアル(ICP)の策定、社内教育研修の講師派遣

四 外国ユーザーリストや懸念取引に関するリスク審査の代行

五 税関事後調査に対する事前シミュレーションおよび調査当日の立ち会い

六 外為法や関税法に関する最新の法令改正情報の提供および実務への反映支援

輸出入や通関に関するトラブル、税関事後調査を含む税関対応等でお悩みの場合には、ご遠慮なく当事務所までご相談ください。事前教示制度の利用や、もし万が一法令違反の疑いを指摘された場合の当局対応についても、迅速かつ適切にサポートいたします。

まとめ:適正な輸出入管理がグローバルビジネスを安定させる唯一の道

安全保障貿易管理は、一企業の利益を超えて、日本及び国際社会全体の安全を守るための重大な責務です。B氏のようなケースにおいても、事前に対象製品の該非判定を行い、必要であれば適切な輸出許可を得ることで、合法かつ安全に海外展開を進めることができます。

企業としては、輸出する貨物の内容や取引相手に支払う代金のみを気にしておけばよく、それ以外の手続面のことはほとんど気にしていない場合も多いものと思われます。しかしながら、このような姿勢には大きなリスクがあると言わざるを得ません。通関手続きや貨物の運送などの手続き面について、専門家に任せることは非常に有用ですが、企業としてもそれらの点について最低限の知識を持ち、各手続において重要な点については逐一確認をとる等の対応が必要です。

正しい法令知識に基づき、一つひとつの取引を精査すること。その地道な努力が、貴社のグローバルビジネスを安定させ、不測の事態から会社を守ることに繋がります。当事務所は、貴社の良きパートナーとして、その専門性を最大限に発揮して、安定した海外展開をサポートし続けます。

適正な通関こそが、グローバルビジネスを安定させる唯一の道です。

【お問合せは、こちらから】

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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら

(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定

本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

 

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