債務の相殺と輸入申告価格

はじめに:仮の相談者からの相談事例

本日は、輸入取引における課税価格の決定において、買手が売手の債務を肩代わりしたり、相殺を行ったりした場合の法的な取り扱いについて解説いたします。まずは、当事務所に寄せられた具体的な相談内容を模した、以下の架空事例をご覧ください。輸入実務において、継続的な取引がある企業様にとっては、非常に重要かつ見落としやすい内容となっております

【相談者】

大阪府内で海外ブランドの輸入卸売業を営む株式会社ライト 代表取締役 A氏

【相談内容】

「当社は、イタリアの家具メーカーであるB社から定期的に製品を輸入しております。前回の取引において、B社から届いた貨物の一部に破損があり、B社に対して40万円の損害賠償債権が発生いたしました。B社はその支払いを認めたものの、送金の手間を省くため、今回の取引代金100万円からその40万円を差し引き、残りの60万円だけを支払ってほしいと提案してきました。

当社はこの提案を受け入れ、実際に60万円を海外送金いたしました。通関業者には、B社から送られてきた60万円のインボイス(仕入書)を提出し、そのまま60万円を輸入申告価格として申告いたしました。しかし、佐藤氏は、本来の商品の価値は100万円であることを知っており、この申告方法で問題がないのか不安に感じています。もし税関の事後調査で指摘を受けた場合、どのような責任を問われるのでしょうか。また、正しい申告価格はどのように算出されるべきなのか、専門的な見地からのアドバイスを求めています。」

このような事例は、国際ビジネスの現場では珍しくありません。迅速、円滑な取引のために債権債務を相殺等して実際にやり取りする代金を増減させるという対応が行われております。しかし、関税法および関税定率法の観点からは、実際に送金した金額だけを申告することは、重大な過少申告に該当する可能性が極めて高いといえます。本記事では、専門的な知見に基づき、買手が売手の債務の一部を肩代わりした場合の輸入申告価格の考え方を詳しく解説いたします。

1 買手が売手の債務の一部を肩代わりした場合の輸入申告価格

結論から申し上げますと、実際の売買代金が100万円である以上は、100万円を輸入申告価格として取り扱うことが必要です。たとえ実際に送金した金額が相殺後の60万円であっても、関税の課税対象となる貨物の価値は、相殺前の総額(100万円)に基づかなければなりません。

【現実支払価格の定義と法的根拠】

輸入申告価格の決定にあたっては、関税定率法第4条第1項に規定される「現実支払価格」を正しく理解する必要があります。

関税定率法第4条(課税価格の決定の原則)

第1項 輸入貨物の課税価格は、当該輸入貨物に係る輸入取引がされたときに別表の規定により計算される価格(以下取引価格という。)とする。ただし、その取引価格が次に掲げる費用を含んでいないときは、その含まれていない限度において、当該費用をこれに加算するものとする。

ここで言う取引価格の基礎となるのが現実支払価格ですが、これについては関税定率法基本通達4-2(現実支払価格)において詳細に規定されています。

関税定率法基本通達4-2(現実支払価格)

(1) 法第4条第1項に規定する現実支払価格とは、輸入貨物に係る輸入取引につき、買手が売手に対し又は売手のために、当該輸入貨物の対価として直接又は間接に現実に支払った又は支払うべき総額をいう。

直接の支払いだけでなく、間接的な支払いも含まれるという点が極めて重要です。売買代金としては100万円だが、売主が買主に対して有するその他の債務40万円分を相殺させ、60万円のみを売買代金として買主が売主に対して支払うということが行われることがありますが、この相殺された40万円分は、売手のために買手が債務を免除した、あるいは肩代わりした「間接的な支払い」に該当いたします。

仮に、インボイス等の書類上の数字を調整したとしても、実際の商品の価値が100万円である場合には100万円を商品価格として取り扱う必要がある点には十分ご注意ください。

2 相殺取引と課税価格の関係性を整理した実務表

実務において混乱しやすい相殺取引の構成を以下の表にまとめました。社内でのチェックリストとしてご活用ください。

【債務相殺がある場合の課税価格算定表】

項目名|金額の内容|課税価格への算入要否

契約上の総額|商品の本来の売買価格|全額算入する

直接支払額|実際に海外送金した金額|算入する

相殺・肩代わり額|債務の免除や相殺分|算入する(間接支払)

値引き額|純粋な商慣習上の値引き|算入しない

課税価格(申告額)|上記直接及び間接支払の合計|合計額を申告する

このように、送金額イコール申告価格ではないという事実を、実務担当者は正しく認識しなければなりません。単に帳簿上の数字を追うだけでは、知らず知らずのうちに脱税行為に加担してしまうリスクがあります。

3 輸入を継続的に行う場合に留意すべき様々な規制

貨物の輸入に関する規制は、主として関税法や関税定率法等に規定されておりますが、なかなか通常の感覚では理解できない部分も多いといえます。

上記1の説明内容についても、通常の感覚では、輸入申告価格は、単に商品価格を申告すればよいのではないか、と考えるところですが、正確な理解はむずかしいといえます。

この他にも、例えば、貨物の輸入の際に、何らかのロイヤリティを売手や第三者に対して支払う場合、当該ロイヤリティについては、輸入申告価格に加算しなければならないというのが原則です。

【ロイヤリティ加算の法的根拠】

(関税定率法第4条第1項第4号)

四 当該輸入貨物に係る特許権、実用新案権、意匠権、商標権その他これらに類するもの(中略)の使用の対価として買手により直接又は間接に支払われる費用であつて、当該輸入貨物に関連し、かつ、当該輸入貨物の輸入取引の条件として買手により直接又は間接に支払われるもの。

加算せずに輸入申告を行う場合には、過少申告となり、事後的に刑事罰や追徴課税が行われることとなります。特に、商品の代金とは別ルートで国内の権利会社や海外の親会社に支払っているロイヤリティは、税関の事後調査において最も厳しく追及される項目の一つです。

他にも、買手が負担する容器の費用や包装の費用、あるいは製造のために無償提供した金型の費用なども、課税価格に算入しなければなりません。これらを知らずに放置することは、企業にとって極めて大きな法的リスクを抱え込むことを意味いたします。

4 不適切な輸入申告に伴う厳格なペナルティ

正しい価格で申告を行わなかった場合、関税法に基づく厳しい制裁が待っています。特に相殺によって申告価格を低く見せる行為は、悪質な「アンダーバリュー」とみなされる危険性があります。

(1)追徴課税および加算税の賦課

税関の事後調査で過少申告が発覚した場合、不足税額の徴収に加え、過少申告加算税が課されます。

関税法第12条の2(過少申告加算税)

税関長は、更正(中略)があった場合には、当該納税義務者に対し、不足税額に100分の10(一定額を超える部分は100分の15)を乗じて計算した金額に相当する過少申告加算税を課する。

(2)重加算税の適用リスク

意図的に相殺後の金額で申告書類を作成し、本来の取引総額を隠蔽したと判断された場合、さらに強力な重加算税が課されます。

関税法第12条の4(重加算税)

事実を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告をしていたときは、過少申告加算税に代え、不足税額に100分の35(一定の場合は40)を乗じた重加算税を課する。

(3)刑事罰の可能性

偽りその他不正の行為により関税を免れた場合、懲役や罰金が科される可能性もあります(関税法第110条)

一度、税関のブラックリストに掲載されると、その後の輸入において全件検査の対象となるなど、ビジネスのスピードが著しく低下し、企業の社会的信用も大きく毀損されることとなります。

5 専門家による事前リーガルチェックの重要性

他にも、輸入特有の規制は多数ありますので、可能であれば、輸入を継続的に行う最初の段階で事業計画が法的に問題ないかどうかを事前にリーガルチェックすることをお勧めいたします。また、もし既に輸入を開始しているという場合には、一度ビジネスの仕組みが問題ないかどうかを確認いただくことをお勧めします。

専門家の視点を入れることによる具体的なメリットは、以下の通りです。

一 契約書の不備の発見

売買契約書において、債務の相殺やロイヤリティの支払いがどのように規定されているかを精査し、関税評価上のリスクを事前に排除いたします。

二 適切な申告フローの構築

通関業者に対し、どのような証拠書類(相殺前のインボイスや送金証明書)を提出すべきか、適正な実務手順を指導いたします。

三 事後調査への備え

税関が事後調査に来た際、どのように説明すれば法的整合性が保たれるかを準備しておくことで、不当な加算税の賦課を防ぎます。

四 節税とコンプライアンスの両立

法令の範囲内で、加算する必要のない費用を適切に切り分け、無駄な納税を抑えつつ完璧なコンプライアンスを実現いたします。

6 弁護士へのご相談をご希望の方へ

弊事務所は、税関事後調査を含む税関対応や輸出入トラブル、広告関連法務を中心に企業法務を幅広く扱っております。代表弁護士は、輸出入や通関に関する国家資格である通関士資格を有しており、法務と実務の両面から強力なサポートを提供することが可能です。

弁護士でありながら通関士の専門知識を併せ持つことで、単なる法令の解釈に留まらず、税関当局がどのような視点で調査を行い、どのような書類を重視するかといった実践的なアドバイスを提供することが可能です。

【当事務所が提供できる主なサポート】

一 輸入取引における課税価格算定のリーガルアドバイス

二 税関事後調査への立ち会いおよび当局との法的な交渉

三 ロイヤリティ契約や代理店契約のリーガルチェック

四 不当な更正処分に対する不服申立てや税関訴訟の代理

お困りの点等ございましたら、まずはお気軽にお問い合わせいただけますと幸いです。不必要なペナルティを回避し、貴社の輸入ビジネスをより強固なものにするお手伝いをいたします。

7 まとめ:適正な関税評価がビジネスの安定を支える鍵

輸入ビジネスにおけるコンプライアンスは、単なる守りではありません。正しい法的知識に基づき、適正な申告を継続することは、税関からの信頼を獲得し、ひいては円滑な物流を実現することに繋がります。

企業としては、輸入する貨物の内容や取引相手に支払う代金のみを気にしておけばよく、それ以外の手続面のことはほとんど気にしていない場合も多いものと思われます。しかしながら、このような姿勢には大きなリスクがあると言わざるを得ません。

通関手続きや貨物の運送などの手続き面について、専門家に任せることは非常に有用ですが、企業としてもそれらの点について最低限の知識を持ち、各手続において重要な点については逐一確認をとる等の対応が必要です。

正しい法令知識に基づき、一つひとつの取引を精査すること。その地道な作業こそが、グローバルビジネスを安定させ、企業の成長を守る唯一の道です。当事務所は、貴社の良きパートナーとして、その専門性を最大限に発揮してサポートを継続してまいります。

【お問合せは、こちらから】

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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら

(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定

本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

 

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