輸入代行取引における売手及び買手の認定

はじめに:相談事例

本日は、輸入代行業者や輸出代行業者を利用する場合の、関税法上の売手及び買手の特定という重要な論点について解説いたします。まずは、当事務所に寄せられた具体的な相談内容を模した事例をご紹介いたします。

【相談者】

地方都市で輸入雑貨のセレクトショップを営む株式会社C 代表取締役 D氏

【相談内容】

「当社は、中国の仕入先から商品を輸入する際、現地の買い付けや日本への配送手配をすべて輸入代行業者であるE社に依頼しています。インボイスの作成や税関への申告手続もE社が提携する通関業者が行っており、インボイス上の買手欄にはE社の名前が記載されています。私は、代行業者にすべて任せているので、自分は関税法上の輸入者ではないと考えていました。

ところが先日、税関から事後調査の連絡がありました。調査官からは、輸入代行業者は単なる代行であり、実質的な買手は株式会社Cではないかと問われています。もし当社が買手と認定された場合、代行業者に支払った手数料などが課税価格に含まれていないとして、過去の輸入分について追徴課税を受ける可能性があると聞き、大変困惑しています。代行業者を利用していても、当社が法的責任を負う買手になるのでしょうか」

このような事例は、近年の海外取引の活発化に伴い、中小企業や個人事業主の方々の間で非常に多く見受けられます。輸出入を代行業者に一任しているからといって、法的責任から免れるわけではないという点について、専門的な見地から詳しく解説いたします。

1 輸出入代行取引における売手及び買手の定義

従来、輸出入といえば、商社や規模の大きな会社が中心になって行うものと考えられていました。しかしながら、インターネットを利用すれば世界中とつながることが可能であるため現在では、中小企業や、ひいては一個人までが幅広く輸出入を業として行うことが日常となっております。

ここで、貨物を輸出入する際には、貨物の課税価格の決定のために売手及び買手を特定することが必須ですが、輸出代行業者や輸入代行業者を利用する場合には、誰が売手、買手に該当するのかわからない、というご質問をいただくことがあります。

【売手、買手の法的定義】

売手、買手とは、実質的に自己の計算と危険負担に基づいて輸入取引を行う者のことを指します。より具体的には、輸入貨物の品質、数量、価格等を自らの責任により決定し、貨物の欠陥や数量不足等の取引上の危険を負担する者のことを指します。

根拠となる法令及び通達は以下の通りです。

(関税定率法基本通達4-1(3) 輸入取引の当事者)

輸入取引の売手及び買手とは、当該輸入取引において、実質的に自己の計算と危険負担(貨物の滅失、損傷、品質不良等の危険及び価格の変動等の危険をいう。)に基づいて当該輸入取引を行う者をいう。

輸出代行業者や輸入代行業者については、形式的な名称だけで判断することは難しいですが、通常は、単に輸出や輸入の手続の代行業務を行うだけであり、実質的に自己の計算と危険負担に基づいて輸入取引を行うことはありません。

そのため、売手、買手はそれぞれ売買契約の当事者が該当することとなります。

2 実質的な買手と認定されるための具体的な判断基準

代行業者を利用している場合でも、以下の要素を総合的に考慮し、誰が実質的な買手であるかが判断されます。単に契約書上の名義が代行業者であっても、実態が伴わなければ、依頼主が買手とみなされます。

(1)価格の決定権

代行業者が提示した価格をそのまま受け入れているのか、それとも依頼主が海外の仕入先と直接、あるいは代行業者を通じて価格交渉を行い、最終的な価格を決定しているかという点。

(2)品質・数量の指定

どのような仕様の貨物を、どれだけの数量輸入するかを最終的に誰が指示しているかという点。代行業者が自らの在庫として確保したものを販売しているのではなく、依頼主の注文に応じて動いている場合は、依頼主が買手となります。

(3)リスクの帰属

貨物が輸送途中で破損した場合や、届いた商品に不具合があった場合、その損失を誰が最終的に負担するかという点。代行業者が全額を保証し、依頼主には一切の損失が及ばないような特殊な契約でない限り、実質的なリスクは依頼主が負っていると判断されます。

(4)利益の帰属

貨物を国内で販売した際に得られる利益、あるいは販売できなかった際の損失が誰の会計に計上されるかという点。

3 買手認定に関する実務的確認表

以下の表は、輸入取引における当事者の役割を整理したものです。ワードデータにコピーして、自社の取引形態が代行に該当するか、あるいは直接の売買に該当するかを確認する際の参考にしてください。

【代行業者利用時における実質的当事者の判定基準表】

確認事項|代行業者の役割|依頼主(貴社)の役割|実質的な買手|

--------|--------|--------|--------|

注文の決定|依頼を伝達するのみ|品目、数量、時期を決定|依頼主|

価格の交渉|指示に基づき交渉代行|予算を決定し合意する|依頼主|

支払の流れ|資金を中継するのみ|原資を全額負担する|依頼主|

不良品の責任|仕入先への交渉を代行|最終的な損失を負担する|依頼主|

販売後の利益|手数料のみを受け取る|転売利益のすべてを得る|依頼主|

4 代行業者利用時における課税価格の注意点

輸入代行業者を利用している場合、買手の認定に伴って最も問題となるのが「代行手数料」の扱いです。

輸入や輸出を継続的に業として行う場合には、ご注意ください。貨物の輸入や輸出に関する規制は、関税法や関税定率法等に規定されておりますが、なかなか通常の感覚では理解できない部分も多く、知らずに輸出入を行うと予想外の対応を事後的に強いられる場合もございます。

例えば、貨物の輸入のために現地でパートナーに動いてもらう場合、パートナーに支払う委託料については、課税価格に加算しなければならない場合も多く、加算せずに輸入申告を行う場合には、過少申告となり、事後的に追徴課税が行われることとなります。

具体的には、以下の点に留意が必要です。

(1)買付手数料の非加算

依頼主の代理人として動く代行業者に支払われる「買付手数料」は、一定の要件を満たせば課税価格に算入する必要はありません。しかし、これが実質的に売手の代理人としての性格を持つ場合や、仲介料とみなされる場合は加算対象となります。

(2)費用の計上漏れ

代行業者が現地で負担した保管料、検査費用、ラベル貼り費用などを、依頼主が別途精算している場合、これらが「現実支払価格」の一部、あるいは「加算要素」として申告に含まれていなければなりません。

5 法的責任の所在と罰則のリスク

個人で副業として輸出入を行う方も増えておりますが、輸出入の代行業者を利用したとしても、一切輸出入に関係ないということにはなりませんのでご注意ください。税関が最終的な法的責任を問うのは、実質的な輸入者である依頼主です。

不適切な申告が行われた場合の主なリスクは以下の通りです。

一 追徴課税および加算税の発生

事後調査により過少申告が発覚した場合、不足税額の徴収に加え、過少申告加算税が課されます。仮に意図的な隠蔽や仮装があるとみなされれば、35パーセントから40パーセントという極めて重い重加算税が課されることになります。

二 社会的信用の失墜

一度、重加算税の対象となると、その後の輸入申告において全件検査の対象となるなど、ビジネスのリードタイムに大きな悪影響を及ぼします。また、法令遵守体制に疑義を持たれることで、金融機関等からの評価にも影響しかねません。

三 輸入禁止や差止めのリスク

原産地表示の偽装や知的財産権の侵害、他法令への抵触などが代行業者の不手際によって生じた場合でも、その責任は輸入者が負います。貨物の没収や廃棄、さらには刑事罰の対象となる可能性も否定できません。

6 専門家によるリーガルチェックの重要性

輸出入特有の規制は多数ありますので、可能であれば、輸出入を継続的に行う最初の段階で事業計画が法的に問題ないかどうかをリーガルチェックすることをお勧めいたします。

特に以下のタイミングでのご相談が効果的です。

(1)新しい代行業者と契約する際

契約書の内容が、関税法上の売手・買手の定義と整合しているか。また、責任の分担が明確になっているかを確認する必要があります。

(2)取引規模が拡大した際

個人の趣味の範囲を超え、ビジネスとして本格的に展開する場合、過去の申告漏れが累積して巨額の追徴リスクとなっている可能性があります。事後調査が入る前に、自主的な点検を行うべきです。

(3)税関から問い合わせがあった際

税関からお尋ねが届いたり、事後調査の通知があったりした場合は、独断で回答せず、専門家の助言を仰ぐべきです。最初の回答がその後の調査の方向性を決定づけます。

7 弁護士へのご相談をご希望の方へ

弊事務所は、税関事後調査を含む税関対応や輸出入トラブルを中心に企業法務を幅広く扱っております。代表弁護士は、輸出入や通関に関する国家資格である通関士資格を有しており、法務と実務の両面から強力なサポートを提供することが可能です。

当事務所が提供できる主なサービスは以下の通りです。

一 輸入代行・輸出代行契約書のリーガルチェックおよび作成

二 関税課税価格の適正性診断(プリ・オーディット)

三 税関事後調査における立ち会いおよび交渉

四 不当な課税処分や貨物差止めに対する不服申立て

代行業者を利用しているから自分は安全だという思い込みは、グローバルビジネスにおいては非常に危険な落とし穴となります。実質的な当事者としての自覚を持ち、法的な備えを万全にすることが、貴社のビジネスを長期的に守る唯一の道です。

お困りの点等ございましたら、まずはお気軽にお問い合わせいただけますと幸いです。

結びに代えて:適正な通関こそがビジネスを安定させる

輸入取引における売手及び買手の特定は、単なる手続の問題ではなく、貴社のビジネスの根幹に関わる法的判断です。複雑な代行取引のスキームを正確に分析し、将来的なリスクを摘み取っておくことは、成長を続ける企業にとって不可欠な投資といえます。

正しい法令知識に基づき、透明性の高い取引体制を構築すること。それが、税関からの信頼を獲得し、ひいては円滑な物流を実現することに繋がります。当事務所は、貴社の良きパートナーとして、その専門性を最大限に発揮してサポートを継続してまいります。

適正な通関こそが、グローバルビジネスを安定させる唯一の道です。

【お問合せは、こちらから】

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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら

(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定

本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

 

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