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1 はじめに―相談事例
輸入実務において、一つの製品がどのような素材で構成され、どのような状態(完成品か未完成品か)で提示されるかによって、適用されるHS符号(税番)は大きく変動いたします。まずは、関税率表の解釈に関する通則の理解が不可欠となる具体的な相談事例をご紹介いたします。
【相談者】
スポーツ・ホビー用品輸入販売業者 R社 物流管理部長
【相談内容】
「当社ではこのたび、海外のメーカーから新型の電動アシスト自転車を輸入することになりました。この製品は輸送コストを抑えるため、タイヤやハンドル、バッテリーなどが取り外された『未帰属・未組み立て』の状態で一つの梱包に収められています。 また、この自転車には専用のキャリングケースと、メンテナンス用の工具、清掃用洗剤のボトルがセットになっています。 関税率表を確認したところ、自転車本体の項、個々の部品の項、あるいはセット品としての項など、複数の候補が考えられます。また、未組み立ての状態であっても『自転車』として申告して良いのか、あるいはバラバラの部品として申告すべきなのか判断に迷っております。 さらに、専用ケースの価値も高く、これらを一つの税番にまとめて良いのか、それとも個別に分けるべきなのかも不明確です。関税率の誤りは事後調査での追徴リスクに直結するため、所属決定の根本的なルールを詳しく教えてください」
このような複雑な物品の分類を世界共通のルールで統一的に行うために定められているのが、関税定率法別表の解釈に関する通則です。本日は、通則1から通則6までをすべて統合し、実務における判断の指針を徹底的に解説してまいります。
2 関税率表の解釈に関する通則の全体像
関税率表の適用について、世界中で統一的な運用を確保するための分類解釈の原則が通則です。これは単なるガイドラインではなく、法的拘束力を持つルールであり、通関実務において最も優先されるべき判断基準となります。
3 通則1 項の規定と注の最優先原則
通則1は、分類の出発点であり、かつ最も重要な原則です。
通則1の内容 「部、類、節の表題は、単に参照上の便宜のために設けたものである。この表の適用に当たつては、物品の所属は、項の規定及びこれに関係する部又は類の注の規定に従い、かつ、これらの項又は注に別段の規定がある場合を除くほか、通則2以下の原則に従つて決定する」
実務上のポイントは、部や類のタイトル(表題)だけで判断してはならないという点です。例えば、第15部(卑金属及びその製品)という表題があっても、第15部の「注」において特定の物品が除外されている場合、その物品は第15部には分類されません。
「項(4桁の数字)の文言」と、各部や各類に付されている「注(ノート)」の規定こそが法的な決定権を持っており、通則2以下のルールは、これらで解決できない場合に初めて登場する補助的なもの。
4 通則2 未完成品・未組み立て品及び混合物の扱い
通則2は、項の規定を拡張し、物品の状態や構成材料の変化に対応するためのルール。
(1)通則2(a)-未完成品及び未組み立て物品
「各項に記載するいずれかの物品には、未完成の物品で、提示の際に完成した物品としての重要な特性を有するものを含むものとし、また、完成した物品(この原則により完成したものとみなす未完成の物品を含む。)で、提示の際に組み立ててないもの及び分解しているものを含む」
相談事例の電動自転車のように、バラバラの状態で輸入されても、組み立てれば自転車としての機能を果たすことが明らかな場合、それは部品の集合体ではなく「自転車」として分類されます。また、塗装前の自転車のフレームであっても、重要な特性を有していれば自転車として扱われる。
(2)通則2(b)-材料又は物質の混合及び結合
「各項に記載するいずれかの材料又は物質には、当該材料又は物質に他の材料又は物質を混合し又は結合した物品を含むものとし、また、特定の材料又は物質から成る物品には、一部が当該材料又は物質から成る物品を含む。二以上の項に属するとみられる物品の所属は、通則3の原則に従つて決定する」
これは、例えば「プラスチック製の容器」という項がある場合、それが100パーセントプラスチックである必要はなく、少量のゴムや金属が結合されていても、依然としてプラスチック製品の項に含まれ得るということを示しています。これにより所属が複数の項にまたがる場合に、次の通則3へと進むことになります。
5 通則3-二以上の項に属するとみられる物品の決定
物品が複数の項に該当しそうな場合、以下の(a)から(c)の順序で判断します。
(1)通則3(a)-特殊な限定による優先
「最も特殊な限定をして記載をしている項が、これよりも一般的な記載をしている項に優先する」
例えば、航空機用はじゅうたんを輸入する場合、「航空機の部分品」という一般的な項よりも、「じゅうたん」という具体的な項が優先されます。
(2)通則3(b)-重要な特性による決定
(a)で決まらない混合物や小売用のセット品については、当該物品に「重要な特性(エッセンシャル・キャラクター)」を与えている要素で分類します。相談事例のセット品であれば、自転車本体が重要な特性を持っているため、付属の洗剤や工具も含めて、セット全体を自転車の項に分類できる可能性がある。
(3)通則3(c)-数字上の配列における最後
(a)および(b)でも決まらない場合、候補に挙がった項のうち、最も大きな数字の項(後ろにある項)に分類するという法的な割り切りです。
6 通則4-類似性による分類
通則1から3を尽くしても所属が決定できない、新開発の未知の製品などに適用される極めて稀なルール。
通則4の内容 「通則1から3までの原則によりその所属を決定することができない物品は、当該物品に最も類似している物品が属する項に属する」
7 通則5-ケースその他これらに類する容器及び包装の扱い
(1)通則5(a)-特定の物品を収納する容器
写真機用ケース、楽器用ケース、銃用ケースなどの特定の物品用に作られた容器は、以下の条件を満たせば中身の物品に含まれます。
・特定の物品を収納するために特に製作されている
・長期間の使用に適している
・通常その物品と共に販売される
ただし、容器自体が物品に重要な特性を与えている場合は適用されません。
(2)通則5(b)-包装材料及び包装容器
通常、その物品の包装に使用される材料(段ボールやプラスチック袋等)は中身に含まれます。ただし、反復使用に適することが明らかな容器(高圧ガス用シリンダー等)には適用されず、容器単独で分類される。
8 通則6-号の所属決定
通則6は、項(4桁)の下の「号(サブヘディング)」を決定するためのルールです。
通則6の内容 「項のうちのいずれの号に物品が属するかは、号の規定及びこれに関係する号の注の規定に従い、かつ、前記の原則を準用して決定するものとし、この場合において、同一の水準にある号のみを比較することができる」
一重ダッシュ(ー)の号は一重ダッシュの号同士でのみ比較し、二重ダッシュ(ーー)は二重ダッシュ同士でのみ比較するという階層構造の厳守を求めています。
9 実務活用ガイド―通則の適用判断一覧表
通則1から6までの役割と実務上の判断基準を体系化いたしました。
【関税率表の解釈に関する通則1~6の完全体系表】
|通則|分類のステップ|具体的な判断基準および留意点|
|通則1|絶対優先の原則|項の文言と部・類の注を最優先する。表題に惑わされないこと。|
|通則2(a)|不完全・未組立|重要な特性があれば未完成品も完成品として扱う。未組立品も含む。|
|通則2(b)|混合・結合物|異物が混ざっていても特定の材料の項に含め得る。複数項にまたがる端緒。|
|通則3(a)|特殊性の優先|より具体的・詳細に物品を記述している項を選択する。| |通則3(b)|本質的特性|セット品などは、価格・重量・役割で最も重要な構成要素で分類する。|
|通則3(c)|配列の最後|(a)(b)で決まらない際の最終手段。数字が最大の項を採用する。|
|通則4|類似性の原則|いずれの規定にも当てはまらない場合、最も似ている物品の項に従う。|
|通則5(a)|専用容器|楽器ケース等の特定物品用容器は中身と一体。容器主体の場合は別。|
|通則5(b)|包装材料|通常の使い捨て包装は中身と一体。反復使用容器は単独で分類。|
|通則6|号の細分類|号の文言と号の注に従う。同一階層(ダッシュ数)のみを比較。|
10 実務上の重要留意事項
(1)部・類の注(ノート)の精査
通則1に従い、分類の鍵は常に「注」にあります。例えば、第64類(履物)の注には、アスベスト製の履物や中古の履物を除外する旨が記載されている。これを見落とすと、通則3を適用する以前に誤った分類をしてしまうことになる。
(2)小売用セットの厳格な要件
通則3(b)を適用する「セット」には、WCO(世界関税機構)の解説により以下の三条件が必要。
1.二以上の異なる物品で構成されている
2.特定の目的のために共に使用される
3.再包装せずに直接販売される形態である これらを満たさない場合、一括分類は認められず、個別に申告しなければなりません。
11 弁護士へのご相談をご希望の方へ
関税率表の所属決定は、単なるカタログの照合作業ではなく、関税法及び関税定率法に基づいた高度な法的解釈を伴う専門的業務。特に、通則2(a)の「重要な特性」の有無や、通則3(b)のセット品の判断、さらには通則5の容器の随伴性の判断を誤ると、税関から申告不備を指摘され、多額の追徴課税や加算税といったペナルティを課されるリスクが生じます。
当事務所は、代表弁護士が輸出入や通関に関する国家資格である通関士資格を保有しており、法務と実務の両面から一貫したサポートを提供できる強みを持っております。
弁護士に相談をした方がよいかお悩みの方もいらっしゃるものと存じますが、お悩みをご相談いただくことで、以下のようなメリットを提供し、お悩み解消の一助となることができます。
・最新の関税率表及びWCO解説に基づいた、論理的で強固な分類根拠の構築
・複雑なセット商品や未組み立て製品に関する、税関との事前教示手続きのサポート
・事後調査において分類の妥当性を問われた際の、法的な論理構成による不服申立ての代理
・社内の輸出入コンプライアンス体制を強化するための、分類マニュアルの整備支援
輸出・輸入や通関に関するトラブル、税関事後調査を含む税関対応等でお悩みの場合には、ご遠慮なく当事務所までご相談ください。法律の専門家であり、かつ通関実務の専門家でもある当事務所が、貴社のグローバルビジネスを法的な側面から全力でバックアップいたします。
12 まとめ
本日は、関税率表の解釈に関する通則1から通則6までの全容について解説いたしました。
すべての分類の土台となる通則1、製品の状態を定義する通則2、複数候補から最適解を導く通則3、類似性を探る通則4。そして容器や号の分類を精緻化する通則5と6。これらの原則は、パズルのように組み合わさって一つの適正な税番を導き出します。
特に、グローバルなサプライチェーンの中で流通する多機能製品や、輸送効率を求めた未組み立て品、意匠を凝らした専用パッケージなどは、その分類一つで関税コストが大きく変動いたします。通則の文言一つ一つを精査し、客観的な事実に基づいた判断を行うことが、企業の信頼性を守ることにも繋がります。
本記事の包括的な解説が、皆様の輸出入実務における正確な税番決定の一助となれば幸いです。もし判断に迷うような複雑な案件や、税関との見解相違が予想される案件がございましたら、一人で悩まずに専門家への相談を検討することをお勧めいたします。
【通則1から6の理解における重要ポイントの再確認】
・通則1が最優先であり、項の文言と注が法的な決定権を持つこと
・通則2(a)により、未組み立て品も完成品として分類されること
・通則3は(a)>(b)>(c)の厳格な順序で適用すること
・通則5により、専用ケースは中身に含めるのが原則であること
・通則6は同一階層(ダッシュ数)の号のみを比較すること
・通則の適用にあたっては常に客観的な証拠資料(カタログ等)が必要であること
適正な分類と納税を通じて、健全で透明性の高い貿易ビジネスを実現していきましょう。
【お問合せは、こちらから】
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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら)
(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定
本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。

