税関職員による調査権限の法的根拠

1 はじめに―相談事例

輸出入ビジネスを営む企業にとって、税関は常に身近な存在ですが、ある日突然、税関から調査の連絡が入ったとしたら、多くの担当者は不安を感じるのではないでしょうか。まずは、当事務所に寄せられる具体的な相談事例を想定してみます。

【相談者】

機械部品輸出入業 S商事株式会社 物流管理部長

【相談内容】

「当社では長年、アジア諸国を中心に精密機械部品の輸出入を行っております。先日、税関の担当部署から一本の電話があり、過去2年分の輸出取引に関して、帳簿書類の検査を行いたいとの連絡を受けました。 当社としては法令を遵守している自負はありますが、税関職員が具体的にどこまでの権限を持って調査に来るのか、どのような書類を準備すべきなのかがわからず困惑しております。 また、この調査を拒否することはできるのでしょうか。もし申告漏れや手続きの不備が見つかった場合、どのような法的リスクがあるのか、専門的な見地から詳しく教えてください。特に、税関職員が持つ質問権や検査権の範囲について正しく理解しておきたいと考えております」

このような不安は、適正な申告を心がけている企業であっても抱くのが当然です。税関職員による調査権限は、関税法という法律によって厳格に定められております。本記事では、輸出入者にとって避けて通れない税関職員の調査権限について、その法的背景から実務上の対応策まで詳しく解説いたします。

2 税関職員の調査権限の基本的枠組み

税関職員が輸出入者に対して質問を行い、あるいは帳簿を検査する権限は、関税等に関する法律の円滑な執行を確保するために認められたものです。

(1)調査権限の目的と性質

この権限の主な目的は、輸出入貨物の適正な通関を確保し、関税等の徴収を公平かつ確実に行うことにあります。関税法第105条第1項第4号の2および第6号がその直接的な根拠規定となります。

重要なのは、この権限が行政上の目的を達成するための「任意調査」の枠組みにあるという点です。関税法第105条第4項では、以下のように規定されております。

関税法第105条第4項 「第1項又は第2項の規定による質問又は検査の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解してはならない」

これは、税関職員が持つ一般的な調査権限が、あくまで行政指導や行政処分のための基礎資料を収集するためのものであり、令状に基づく強制捜査(犯則事件の調査)とは法的に峻別されていることを意味しております。

(2)対象となる関係者の範囲

税関職員が質問や検査を行うことができる相手方は、単に輸出入申告を行った本人だけではありません。条文上は「その他の関係者」という広範な表現が用いられております。

【調査対象となる主な関係者一覧】

|区分|具体的な対象者|

|直接の当事者|輸出者、輸入者|

|実質的な依頼主|当該輸出入の委託者|

|手続きの代行者|通関業務を取り扱った通関業者|

|物流関係者|貨物の運送人、倉庫業者、船舶・航空機の運営者|

|契約の相手方|当該貨物の買受人、売渡人|

|その他の関係者|貨物の製造者、金融機関、保険会社等|

このように、貨物の流れに関わる非常に広い範囲の者が調査対象となり得るため、企業としては自社だけでなく、取引先との関係性も含めた書類管理が求められることになります。

3 輸出された貨物に係る調査権限の詳細

輸出貨物に関しては、特に安全保障貿易管理や関税の還付等の観点から、適正な手続きが行われたかどうかが精査されます。

(1)輸出調査の根拠条文

関税法第105条第1項第4号の2には、輸出貨物に係る調査権限が以下のように定められております。

関税法第105条第1項第4号の2 「輸出された貨物について、その輸出者、その輸出に係る通関業務を行つた通関業者、当該輸出の委託者その他の関係者に質問し、又は当該貨物についての帳簿書類(その作成又は保存に代えて電磁的記録の作成又は保存がされている場合における当該電磁的記録を含む。次号及び第6号において同じ。)を検査すること」

(2)輸出調査が実施される主な理由

輸出後の調査は、多くの場合、以下の事由が発生した際に行われます。

・輸出許可を受けた貨物が、実際には許可内容と異なるスペックであった疑いがある場合

・リスト規制品などの戦略物資が、正当な手続きを経ずに輸出された懸念がある場合

・輸出に伴う消費税の免税や還付手続きの正当性を確認する場合

・他法令(外為法、文化財保護法等)による輸出制限の遵守状況を確認する場合

輸出者は、貨物がすでに日本国外に存在する場合であっても、国内に残された契約書、仕入書(インボイス)、船積み書類(B/L)、製造仕様書などを提示する義務を負います。

4 輸入された貨物に係る調査(事後調査)の詳細

輸入貨物に関しては、特に「申告納税方式」が採用されていることから、輸入者が自ら計算して申告した内容が正しいかどうかを確認するための「輸入事後調査」が極めて重要な役割を果たします。

(1)輸入事後調査の根拠条文

関税法第105条第1項第6号には、輸入貨物に係る調査権限が以下のように定められております。

関税法第105条第1項第6号 「輸入された貨物について、その輸入者、その輸入に係る通関業務を取り扱つた通関業者、当該輸入の委託者、当該輸入された貨物を買い受けた者その他の関係者に質問し、又は当該貨物(既に消費され、又は使用されたものを除く。)若しくは当該貨物についての帳簿書類を検査すること」

(2)事後調査の実施形態

輸入事後調査は、原則として税関職員が輸入者の事務所や本店を訪れて実施されます。事前の通知が行われるのが一般的ですが、調査の目的を達成するために必要がある場合には、事前通知なしに調査が開始されることも理論上は否定されません。

【調査のポイント】

・価格申告の妥当性(ロイヤリティや無償供与資材などの加算要素が正しく含まれているか)

・品目分類(HSコード)の適正性(実行関税率表に基づき正しい関税率が適用されているか)

・原産地規則の遵守(経済連携協定(EPA)等の特恵税率の適用が正当か)

(3)不適正な申告が発覚した場合の是正

調査の結果、申告額が不足していた場合には「修正申告」の勧奨が行われます。輸入者がこれに応じない場合には、税関長による「更正」という行政処分が行われます。この際、不足税額に加えて過少申告加算税や延滞税といった附帯税が課されることになり、大きな経営的ダメージとなる可能性があります。

5 調査権限の行使に対する輸入者の義務と権利

税関職員の調査権限は任意調査の性質を持つものの、輸入者には法律上の協力義務が課されており、これを無視することはできません。

(1)受忍義務と拒否した場合のペナルティ

関税法には、調査を拒否したり虚偽の陳述を行ったりした場合の罰則規定が存在します。

関税法第114条の2第1項第16号および第17号

「第105条第1項又は第2項の規定による税関職員の質問に対して答弁せず、若しくは偽りの陳述をし、又はこれらの規定による職務の執行を拒み、妨げ、若しくは忌避した者」は、「1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する」

このように、調査を拒否することは刑事罰の対象となり得るため、輸入者は事実上、調査を受け入れる義務を負っております。

(2)輸入者側に認められる権利

一方で、調査は無制限に行われるものではありません。

・調査の目的に関係のない私的な領域への立ち入りを拒む権利

・提示を求められた書類が、調査対象の貨物と無関係であることを説明し、提出を控える権利

・専門家(弁護士や通関士)の立ち会いを求める権利

【税関調査の一般的な流れ】

1.税関からの調査通知 (電話または文書により、調査の日時、場所、対象貨物、対象期間等が伝えられる)

2.事前準備 (申告書類、インボイス、帳簿、契約書、価格決定根拠資料等の整理)

3.実地調査の実施 (税関職員による質問への回答、書類の原本確認、必要に応じた現物確認)

4.調査結果の説明 (指摘事項の有無、評価申告や分類に関する税関の見解の提示)

5.是正手続き (指摘事項がある場合、修正申告の実施または更正通知の送達)

6.調査の終結 (適正と認められた場合は、その旨の通知をもって完了)

6 実務における具体的な準備書類

税関職員が検査権を行使する際、必ずといっていいほど提示を求められる帳簿書類をまとめました。ワードデータ等にコピーして社内チェックリストとして活用できる形式です。

【税関調査で準備すべき主要書類リスト】

|書類カテゴリー|具体的な書類名称|

|通関関係書類|輸入許可書、輸出許可書、仕入書(インボイス)|

|物流関係書類|船荷証券(B/L)、航空貨物運送状(AWB)、梱包明細書(P/L)|

|取引関係書類|売買契約書、代理店契約書、価格交渉の記録(メール等)|

|支払関係書類|送金控(海外送金依頼書)、銀行の決済記録、領収書|

|評価関係書類|ロイヤリティ契約書、原材料の無償提供記録、金型費用の支払証明|

|物流費関係書類|運賃明細書、保険料領収書、輸入諸掛明細書|

これらの書類は、貨物の輸入許可の日の翌日から原則として5年間(帳簿については7年間)保存する義務があります。調査は過去に遡って行われるため、常に整理された状態で保存しておくことが、円滑な調査対応の鍵となります。

7 弁護士へのご相談をご希望の方へ

税関職員による調査権限は、法的に強力な裏付けを持っております。しかし、その範囲や解釈を巡っては、輸入者と税関の間で見解が対立することも少なくありません。特に、高額な追徴課税が予想される事後調査においては、初期段階での適切な法的対応がその後の結果を大きく左右します。

当事務所は、代表弁護士が輸出入や通関に関する国家資格である通関士資格を有しており、輸出・輸入や通関上のトラブルに関するご相談を幅広くお受けしております。弁護士としての法的知識と、通関士としての実務的な視点を融合させることで、貴社の権利を最大限に守るためのサポートを提供することが可能です。

弁護士に相談をした方がよいかお悩みの方もいらっしゃるものと存じますが、お悩みをご相談いただくことで、以下のようなメリットを提供し、お悩み解消の一助となることができます。

・税関職員による質問が権限の範囲内にあるかを精査し、不当な要求を牽制すること。

・提示する書類の範囲を法的に整理し、余計な指摘を受けるリスクを最小限に抑えること。

・事後調査において、貴社の申告が正当であることを法的な論理構成をもって説明すること。

・万が一、更正処分等の不利益な処分を受けた際、不服申立て(審査請求)等の法的救済手段を迅速に講じること。

輸出・輸入や通関に関するトラブル、税関事後調査を含む税関対応等でお悩みの場合には、ご遠慮なく当事務所までご相談ください。法律の専門家であり、通関実務の専門家でもある当事務所が、貴社のビジネスを法的な側面から全力でバックアップいたします。

8 まとめ

税関職員による調査権限は、関税法第105条に基づき、適正かつ公平な通関を実現するための強力な手段として位置づけられております。輸出調査においても、輸入事後調査においても、職員には質問権と検査権が与えられており、これに対して輸出入者は協力する義務を負っております。

しかし、その調査はあくまで行政目的の範囲内に限定されるべきものであり、犯罪捜査とは厳格に区別されなければなりません。輸入者側も単に受動的に調査を受けるだけでなく、自らの権利を正しく理解し、適正な法的手続きが踏まれているかを確認する姿勢が重要です。

本記事の解説が、読者の皆様の税関調査に対する理解を深め、円滑な事業運営の一助となれば幸いです。不測の事態に直面した際、あるいは日頃のコンプライアンス体制に不安を感じた際は、迷わずに専門家へ相談することをお勧めいたします。

【税関職員の調査権限に関する重要ポイントの再確認】

・関税法第105条が権限の直接的な根拠であること

・輸出貨物、輸入貨物の双方に対して調査権限が及ぶこと

・通関業者や関係者も調査の対象に含まれること ・犯罪捜査のために認められたものではないこと(任意調査の原則)

・正当な理由のない拒否や虚偽の陳述には罰則があること

・帳簿書類の適切な保存が、調査対応における最大の防御策であること

適正な申告と誠実な調査対応を通じて、貴社の国際貿易ビジネスがより強固なものとなることを願っております。

【お問合せは、こちらから】

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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら

(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定

本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

 

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