このページの目次
「自分は悪くないのに…」輸入代行業者の不正と荷主の責任
「送料を安くしたくてネットで見つけた物流会社に依頼しただけなのに、その会社がインボイスを書き換えてアンダーバリュー(過少申告)を行っていたようです。正規の代金を支払っていたにもかかわらず、税関から問い合わせがあり、私も脱税の共犯として扱われるのでしょうか?」
これは、当事務所に寄せられたアパレルEC事業者様からの切実なご相談の一例です。あなたも今、まさに同じような状況で、強い不安と理不尽さを感じていらっしゃるかもしれません。
結論から申し上げますと、たとえ輸入代行業者が勝手に行った不正であっても、法律上、輸入申告内容の最終的な責任は荷主であるあなたに帰属します。「知らなかった」という主張だけでは、残念ながら責任を免れることは極めて困難です。
しかし、絶望する必要はありません。問題が発覚した直後から、迅速かつ適切な対応を取ることで、重加算税や刑事告発といった最悪の事態を回避できる可能性は十分にあります。この記事では、通関士資格を持つ弁護士の視点から、あなたが今すぐ取るべき行動の全手順を具体的に解説します。
なぜ「知らなかった」では済まされない?荷主責任の法的根拠
なぜ、代行業者の不正の責任を荷主が負わなければならないのでしょうか。その根拠は、関税法における「輸入者」の定義と、日本の「申告納税制度」にあります。
関税法では、関税の納税義務者は「貨物を輸入する者」と定められています。そして、この「輸入する者」とは、名目上の申告者が誰であるかにかかわらず、実質的にその貨物を自己の計算と責任において日本に引き取ろうとする者、すなわち荷主本人を指します。
つまり、あなたが輸入代行業者や通関業者に手続きを委託したとしても、法律上の納税義務者および申告内容の責任者は、あくまで荷主であるあなた自身なのです。この原則があるため、「業者が勝手にやったこと」という言い分は、税関に対しては通用しないのです。
より詳しい「輸入者」の法的定義や責任範囲については、輸入代行や名義貸しにおける法的責任の問題を解説した記事もご参照ください。
アンダーバリューが招く最悪のシナリオ:追徴課税から刑事罰まで
アンダーバリューを放置した場合、どのような事態が待ち受けているのでしょうか。リスクは、単なる税金の追加納付だけにとどまりません。

まず、本来納めるべきだった関税・消費税との差額に加え、ペナルティとして「過少申告加算税」(追徴税額の10%~15%)が課されます。
さらに、税関が悪質、つまり意図的な不正行為(隠蔽や仮装)があったと判断した場合には、過少申告加算税に代わって「重加算税」が課されます。税率は、過少申告の場合は35%、無申告の場合は40%と非常に重いものになります。
そして、最も深刻なのが刑事事件化です。不正に納税を免れた行為は「関税ほ脱罪」という犯罪にあたり、10年以下の拘禁刑若しくは1,000万円以下の罰金(ほ脱額等の10倍が1,000万円を超える場合は、その10倍以下)又は併科が科される可能性があります。また、法人の代表者や従業員が違反行為を行った場合、行為者本人だけでなく、法人自身にも罰金刑が科される「両罰規定」も存在します。不正な輸入が発覚し、関税法違反で刑事告発されれば、事業の存続そのものが危ぶまれる事態に発展しかねません。
【弁護士が解説】刑事告発を回避するための緊急対応3ステップ
税関からの指摘や、代行業者の不正が発覚した今、パニックに陥る気持ちは痛いほど分かります。しかし、ここからの初動対応があなたの未来を大きく左右します。刑事告発という最悪のシナリオを回避するために、以下の3つのステップを冷静かつ迅速に進めてください。
ステップ1:全ての証拠を保全する【取引の正当性を示す】
まず、何よりも先に、あなたの「不正への非関与」を客観的に示すための証拠を全て保全してください。これらは、後の税関調査や交渉において、あなたの主張を裏付ける生命線となります。具体的には、以下の資料を収集・整理してください。
- 輸入代行業者との契約書、利用規約、メールやチャットの履歴
- 正規の価格が記載された商品リスト、発注書、インボイス(自社が業者に送付したもの)
- 正規の金額を送金したことを証明する銀行の振込明細や取引履歴
- 業者から送られてきた不正なインボイス(もしあれば)
これらの証拠は、あなたが業者に対して正しい情報を伝え、正当な対価を支払っていたこと、つまり「騙された側」であることを示す極めて重要な資料です。データの消失などに備え、必ずバックアップを取っておきましょう。
ステップ2:弁護士を通じて「善意」を立証する【不正への非関与を主張】
ステップ1で集めた証拠を基に、税関に対して「善意(=不正を知らなかった、関与していない)」であることを法的に主張していきます。
ここで重要なのは、決して独断で対応しないことです。あなた自身が「知らなかった」と感情的に訴えても、客観的な証拠に乏しいと判断されれば、単なる言い逃れと見なされかねません。税関調査の対応には、法律と実務の両面からの専門的な知見が不可欠です。
弁護士、特に通関実務に精通した弁護士が代理人として介入することで、収集した証拠を法的に整理し、税関担当者に対して「荷主には不正の意図がなかった」ことを論理的に説明することが可能になります。税関がどの点を重視し、どのような説明を求めているのかを的確に把握し、交渉を有利に進めるためには専門家のサポートが極めて有効です。税関調査における弁護士と通関業者の役割の違いを正しく理解し、最適な専門家を選択することが重要です。

ステップ3:自主的に修正申告を行う【ペナルティを最小化】
「善意」の主張と並行して、判明した納税不足額については、自主的に修正申告を行うべきです。税関から更正処分を受ける前に自ら誤りを正すことは、ペナルティを最小限に抑え、刑事告発のリスクを大幅に低減させる上で決定的に重要です。
税関の調査通知を受ける前に自主的に修正申告を行えば、原則として過少申告加算税は課されません。さらに、一定の要件を満たせば、この過少申告加算税自体が課されないケースもあります。
何よりも、自主的な修正申告は、あなたのコンプライアンス意識の高さと真摯な反省の態度を税関に示す強力なメッセージとなります。これは、悪質性が低いと判断され、刑事告発を回避するための重要な要素となるのです。「逃げる」のではなく、「正しく向き合う」。それが最善の防御策であることを覚えておいてください。過少申告加算税が課されない「正当な理由」についても、専門家と相談しながら主張を組み立てることが可能です。
参照:1307 加算税制度の概要について(カスタムスアンサー)
「格安輸入代行」に潜む罠と、今後の再発防止策
今回の問題を乗り越えた後、二度と同じ過ちを繰り返さないために、問題の根本原因にも目を向ける必要があります。なぜ、このような事態に陥ってしまったのでしょうか。
なぜ「輸入代行」は危険なのか?税関が問題視する構造的リスク
「輸入代行」という言葉は、特にEC事業者にとって身近なものかもしれません。しかし、近年の税関の運用は非常に厳格化しており、「輸入代行」というビジネスモデルそのものが、不正の温床になりやすい構造的リスクを抱えていると問題視されています。
かつては広く利用されていた形態ですが、責任の所在が曖昧になりがちで、名義貸しやアンダーバリューといった違法行為に利用されやすいことから、税関は監視を強めています。「昔は大丈夫だった」「他の人もやっている」という安易な考えは、もはや通用しないと認識すべきです。そもそも通関業者任せの体制自体に、大きな経営リスクが潜んでいるのです。
信頼できるパートナー(通関業者)を選ぶためのチェックリスト
今後の輸入ビジネスにおいては、安易な「代行業者」ではなく、法令を遵守する正規の「通関業者」をパートナーとして選ぶことが不可欠です。信頼できる業者を見極めるために、以下の点を必ず確認してください。
- 通関業の許可番号をウェブサイト等に明記しているか?
- 料金体系が明確で、関税・消費税の内訳をきちんと説明してくれるか?
- 契約前に、通関業務に関する正式な委任状(通関委任状)を求めてくるか?
- 「もっと安くできる」などと、アンダーバリューを示唆するような違法な提案をしてこないか?
- 可能であれば、セキュリティ管理と法令遵守の体制が整備されたAEO認定通関業者であるか?
目先のコスト削減に目を奪われず、コンプライアンスを重視する姿勢こそが、長期的にあなたの事業を守ることに繋がります。万が一、契約した通関業者のミスで追徴課税が発生した場合の責任追及についても、正しい知識を持っておくことが重要です。
まとめ:アンダーバリュー問題は、迅速な初動と専門家への相談が鍵
輸入代行業者のアンダーバリューに巻き込まれた場合、荷主であるあなたにも重い責任が問われるという厳しい現実があります。
しかし、これまで解説してきたように、
1.取引の正当性を示す証拠を速やかに保全し、
2.弁護士を通じて「善意」を論理的に立証し、
3.自主的に修正申告を行う
という適切な初動対応を取ることで、刑事告発という最悪のシナリオは回避できる可能性が飛躍的に高まります。
これらの法的手続きや税関との交渉は、極めて専門性が高く、精神的な負担も大きいものです。一人で抱え込まず、一刻も早く専門家へご相談ください。特に、通関士資格を併せ持つ弁護士であれば、法律と通関実務の両面から、あなたの状況に最適な解決策を提示できます。例えば、税関事後調査の通知が来る前の事前準備が、結果を大きく左右することもあります。
問題を最小限に食い止め、大切な事業を守り抜くために、まずは勇気を出して専門家の扉を叩いてください。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。

