このページの目次
0 はじめに
まずは、当事務所に寄せられた具体的な相談事例をご紹介いたします。
「私は国内でアパレルショップを経営しております。この度、イタリアのメーカーから直接商品を購入することになりましたが、実際の契約手続きや代金の支払いは、香港にある仲介会社を通じて行っています。貨物はイタリアから日本へ直送されますが、インボイス(仕入書)の発行元は香港の会社です。この場合、税関への輸入申告において、誰を『売手』とし、誰を『買手』として申告すべきなのでしょうか。また、仲介手数料が発生している場合、それも課税価格に含まれるのでしょうか。正しい申告を行わなかった場合、後日税関の事後調査で指摘を受けるのではないかと不安を感じております。専門的な視点から、売手と買手の正確な認定基準について詳しく教えてください」
このような複雑な商流を伴う取引は、現代の国際貿易において決して珍しいものではありません。しかし、輸入通関の土台となる課税価格を決定するためには、まず「誰と誰の間の取引が、法的な輸入取引に該当するのか」を正確に見極める必要があります。
本日は、関税定率法に基づく売手と買手の考え方について、具体例を詳しく解説いたします。
1 原則的な課税価格の決定方法と売手・買手の定義
輸入貨物の課税価格を算出する際の最も基本的なルールは、関税定率法第四条第一項に定められています。
「輸入貨物の課税価格は、当該輸入貨物の輸入取引(買手が本邦に住所、居所、事務所、事業所その他これらに準ずるものを有しない者であるものを除く。)がされた場合において、買手により売手に対し又は売手のために、当該輸入貨物につき現実に支払われた又は支払われるべき価格に、その含まれていない限度において運賃等の額を加算した価格とする」 この条文が示す通り、課税価格は「買手」から「売手」へ支払われる価格がベースとなります。したがって、実務の第一歩として、この両者を正しく特定することが不可欠である点
(1)売手及び買手の本質的な意義
輸入取引における売手及び買手とは、単に書類上に名前が記載されている者ではなく、「実質的に自己の計算と危険負担の下に輸入取引をする者」を指します。
具体的には、以下のような役割と責任を負っているかどうかが判定の基準となります。
①自ら輸入貨物の品質、数量、価格、納期などの取引条件を交渉し、決定していること
②貨物の瑕疵(不良品)や数量不足、輸送中の事故、あるいは代金の回収不能といった経済的なリスクを自らの責任で負担していること
典型的な取引では、海外の輸出者が売手、日本の輸入者が買手となりますが、必ずしも「荷送人=売手」「荷受人=買手」とは限らない点に注意が必要です。
(2)具体例:仲介者が介在する場合の判定
冒頭の相談事例のように、メーカーと国内業者の間に仲介者が入る場合、その仲介者が単なる「代理人」なのか、それとも自らリスクを負う「売手」なのかによって、課税価格の計算根拠が変わります。仲介者が在庫リスクを負わず、単に手数料を受け取って取引を仲介しているだけであれば、売手は元のメーカー、買手は国内業者となります。この場合、買手から売手に支払われる代金が課税価格の基礎となります。
2 「輸入(申告)者」と「売手・買手」の関係
実務において混同されやすい概念に「輸入(申告)者」があります。輸入者とは、関税法上の用語であり、一般的には保税地域から貨物を引き取ろうとする者を指します。
(1)輸入者の資格
輸入者には、売手であっても買手であってもなることができます。
例えば、海外の売手が自ら輸入手続きを行い、日本国内の倉庫まで貨物を届ける(DDP条件など)場合、売手が輸入者となることもあります(税関事務管理人等の適正な手続をとる必要はあります。)。しかし、誰が輸入者であるかに関わらず、課税価格の算出の基礎となるのは、常に「輸入取引における売手と買手の間の取引価格」である点には注意が必要です。
(2)連続する転売取引がある場合
貨物が日本に到着するまでの間に、A社(外国)からB社(外国)、さらにB社からC社(日本)へと転売が繰り返されることがあります。この場合、どの取引が「本邦に到着させるために行われた輸入取引」に該当するかを判定しなければなりません。基本的には、日本への輸出を目的として締結された最後の売買契約が輸入取引とみなされます。この判定を誤ると、不当に低い価格や、逆に過大な価格で申告してしまうリスクが生じるため、慎重な検討が求められる点
以下に、売手と買手の認定における主要な確認項目を整理した図表を掲載いたします。
【表1 売手・買手の認定における判断基準】
項目名/具体的な確認内容/判定への影響
取引交渉の主体/価格や数量を誰が決定しているか/主導権を持つ者が当事者となる
代金の支払義務/誰が売手に対して送金を行うか/支払う者が買手となる
貨物の損傷リスク/輸送中の事故の損失を誰が被るか/リスク負担者が当事者となる
瑕疵担保責任/不良品の返品や交換を誰が要求するか/責任を追求する者が買手となる
転売の有無/輸入後に誰が誰に対して販売するか/最終的な輸出目的取引を特定する
3 実務上のトラブル事例と法的リスク
売手や買手の認定を誤った状態で輸入申告を継続すると、後日の税関事後調査において多額の追徴課税を受ける可能性があります。
(1)価格の過少申告リスク
例えば、実際には買手が売手のために別途負担している費用があるにもかかわらず、インボイスに記載された表面上の金額だけで申告してしまった場合、それは過少申告とみなされます。関税法に基づき、不足分の関税・消費税に加え、過少申告加算税や延滞税が課されることとなる点
(2)特殊関係の影響
売手と買手の間に、親子会社のような「特殊関係」がある場合、その関係によって取引価格が恣意的に低く設定されていないかが厳しくチェックされます。関税定率法第四条第二項の規定により、特殊関係が価格に影響を与えていると判断された場合、実際の取引価格を課税価格として認めてもらえないことがあります。
【表2 輸入取引に関連する各主体の役割比較】
呼称/法的な定義や役割/課税価格決定における位置付け
売手/自己の計算とリスクで貨物を販売する者/価格の受領者であり計算の基礎
買手/自己の計算とリスクで貨物を購入する者/価格の支払者であり計算の主体
荷送人/貨物の発送手続きを行う実務上の主体/必ずしも売手とは限らない
荷受人/貨物の受け取りを行う実務上の主体/必ずしも買手とは限らない
輸入(申告)者/税関に対して輸入の申告を行う者/買手または売手等がなり得る
4 弁護士へのご相談をご希望の方へ
輸入貨物の課税価格の決定は、単なる事務的な手続きではなく、複雑な法令が絡み合うプロセスです。当事務所は、代表弁護士が輸出入や通関に関する国家資格である通関士資格を保有しており、貿易実務で生じるトラブルに対して、アドバイスを提供することが可能です。
特に、以下のような課題でお困りの際には、お気軽にお問い合わせください。
①複雑な仲介取引や連続取引における「売手」及び「買手」の正確な法制度上の認定
②税関の事後調査に対する立ち会いおよび法的な主張の構成
③特殊関係にある企業間の取引価格の妥当性に関するリーガルオピニオンの作成
④関税法違反等で貨物が差し押さえられた場合の権利救済手続き
⑤国際売買契約書の作成・レビューを通じた、通関リスクの未然防止
輸入手続き上の疑問や不安を放置することは、将来的な経営リスクを抱え続けることと同義です。少しでもご不安な点がありましたらお気軽にお問い合わせください。
【お問合せは、こちらから】
・・・・・・・・・・・
執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら)
(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定
本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

有森FA法律事務所の代表弁護士、有森文昭です。東京大学法学部および法科大学院を卒業後、都内の法律事務所での経験を経て、当事務所を開設いたしました。通関士や行政書士の資格も有し、税関対応や輸出入トラブル、労働問題など、依頼者の皆様の多様なニーズにお応えしています。初回相談から解決まで一貫して対応し、依頼者の最良のパートナーとして、共に最適な解決策を追求してまいります。

