TikTokでバズった曲を使ったら警告文が届いた場合の対応

TikTokやInstagramリールでは、流行している楽曲に合わせて店舗紹介や商品紹介を行う動画が多く投稿されています。

美容室、飲食店、アパレルショップ、クリニックなどでも、スタッフが踊る動画、施術風景を見せる動画、ビフォーアフターを見せる動画などに人気曲を付けて投稿し、集客につなげているケースがあります。

しかし、アプリ内で選べる楽曲であっても、企業アカウントが自社の宣伝目的で使用する場合には、著作権や原盤権の問題が生じることがあります。

今回は、美容室チェーンから相談を受けた事例をもとに、TikTokやInstagramリールで商用利用不可の音源を使用してしまった場合の対応と、今後のSNS運用で注意すべきポイントを解説します。

相談内容:アプリ内の曲を使っただけなのに、権利者から内容証明が届いた

美容室チェーンの広報担当であるLさんから、次のようなご相談を受けました。

TikTokやInstagramリールで、お店の宣伝動画を投稿しています。
流行っているJ-POPや洋楽に合わせてスタッフが踊ったり、カットモデルを見せたりする動画がバズり、集客につながっていました。
ところが先日、音楽著作権管理団体やレコード会社から内容証明が届き、「商用利用における無断使用である。過去の動画も含めて使用料と損害賠償を支払え」と請求されました。
TikTokのアプリ内にある曲を使っただけなのに、なぜ違反になるのでしょうか。
みんな使っていると思うのですが、当社だけ問題になるのでしょうか。

Lさんとしては、「TikTokやInstagramのアプリ内で選べる曲だから、自由に使ってよい」と考えていました。

しかし、SNS上で楽曲を利用する場合、個人の非営利利用と、企業の広告・宣伝利用では、権利処理の考え方が大きく異なります。

企業アカウントの投稿は「商用利用」と評価されやすい

今回の最大の問題は、美容室チェーンの公式アカウントで、自社店舗の宣伝動画として楽曲を使用していた点です。

個人ユーザーが、趣味でダンス動画や日常動画を投稿する場合と、企業が集客・採用・ブランディングのために動画を投稿する場合では、利用目的が異なります。

企業アカウントが次のような目的で動画を投稿する場合、商用利用と評価されやすくなります。

  • 店舗やサービスの宣伝
  • 商品・メニューの紹介
  • 来店予約への誘導
  • 採用広報
  • キャンペーン告知
  • ブランド認知の向上
  • 広告配信や投稿のブースト

TikTokの公式ヘルプでも、一般的な音楽ライブラリを商用利用することはできず、動画広告、ブランドコンテンツ、商業的なオーガニック投稿には商用音楽ライブラリを使用する必要があると説明されていますウェブ。

つまり、アプリ内で選べる楽曲であっても、「個人が楽しむ投稿」と「企業が宣伝に使う投稿」では、使える範囲が異なるということです。

「アプリ内で選べる曲」でも広告利用まで許されるとは限らない

TikTokやInstagramなどのプラットフォームは、JASRACやNexToneなどの著作権管理団体と包括的な利用許諾契約を結んでいる場合があります。

そのため、一定の範囲では、ユーザーが個別にJASRAC等へ申請しなくても、アプリ内の楽曲を使って動画を投稿できる仕組みになっています。

しかし、この仕組みには限界があります。

第一に、包括契約がカバーするのは、主に作詞家・作曲家の著作権です。
市販のCD音源や配信音源には、著作権とは別に、レコード会社や実演家が持つ原盤権・著作隣接権が関係します。

第二に、プラットフォーム上で使える楽曲であっても、企業の広告・宣伝利用までは許諾されていない場合があります。

JASRACが管理するのは作詞者・作曲者の著作権であり、レコード会社が持つ原盤権や実演家の権利は別の権利です。市販音源を動画に使う場合には、JASRAC等への手続だけでは足りず、レコード会社などへの許諾が必要になることがありますウェブ。

そのため、「アプリ内にある曲だから使ってよい」という理解は危険です。

著作権と原盤権は別の権利

音楽利用で特に誤解が多いのが、著作権と原盤権の違いです。

楽曲には、少なくとも次のような権利が関係します。

1. 楽曲の著作権

作詞家や作曲家が持つ権利です。
歌詞やメロディーなど、音楽の著作物そのものに関する権利です。

LegalOnナレッジでも、音楽の著作物は、音によって表現されている著作物であり、楽曲や楽曲を伴う歌詞等が含まれると整理されていますLegalOnナレッジ。

2. 原盤権・著作隣接権

レコード会社やアーティスト、演奏者などが持つ権利です。
同じ楽曲でも、どの音源を使うかによって、原盤権者が異なります。

例えば、同じ曲であっても、次のように権利関係は変わります。

  • 有名アーティストのCD音源
  • ライブ音源
  • カラオケ音源
  • 自社で演奏・録音した音源
  • ロイヤリティフリー音源
  • 商用楽曲ライブラリの音源

JASRAC等に著作権の利用許諾を得ても、市販音源をそのまま使う場合には、原盤権者から別途許諾を得る必要があることがあります。

今回のように、J-POPや洋楽の市販音源を美容室の宣伝動画に使った場合、権利者から見れば「自社の楽曲・音源を無断でCMに使われた」と受け止められる可能性があります。

権利者からの請求に対する初動対応

Lさんの会社に届いた内容証明では、過去の動画を含めて、使用料と損害賠償が請求されていました。

このような通知が届いた場合、最初に行うべきことは、次の対応です。

1. 指摘された動画を確認する

まず、どの動画が、どの楽曲・音源について、どの権利者から問題視されているのかを確認します。

確認すべき事項は、次のとおりです。

  • 投稿したSNS
  • 投稿日時
  • アカウントの種類
  • 使用した楽曲名
  • 使用した音源の出所
  • 再生回数
  • 広告配信の有無
  • 商品・店舗・サービスの宣伝性
  • 権利者が主張している権利の内容
  • 請求額の算定根拠

通知書に書かれている金額をそのまま受け入れるのではなく、請求の根拠を精査する必要があります。

2. 問題動画を速やかに削除・非公開にする

権利侵害の可能性がある動画については、早急に削除または非公開にします。

今回のケースでは、指摘された動画だけでなく、過去に投稿した動画のうち、J-POP、洋楽、市販音源、流行曲を使っているものをすべて確認し、権利処理が確認できないものは削除しました。

著作権侵害がある場合、権利者は侵害の停止や予防を求めることができます。LegalOnナレッジでも、著作権者や著作隣接権者は、侵害者または侵害のおそれがある者に対し、侵害の停止または予防を請求できると整理されていますLegalOnナレッジ。

したがって、問題がある動画を放置したまま交渉することは避けるべきです。

3. 過去動画を棚卸しする

SNS運用では、過去に投稿した動画がそのまま残っていることが多くあります。

そのため、1本だけ対応しても、同じ問題が別動画で再発する可能性があります。

今回のケースでは、過去投稿を次のように分類しました。

  • 商用利用可能な音源を使っている動画
  • アプリ内の一般楽曲を使っている企業宣伝動画
  • 外部から取り込んだ市販音源を使っている動画
  • 流行曲に合わせたスタッフのダンス動画
  • 広告配信に利用した動画
  • 他SNSへ転用した動画

権利処理が確認できない動画は、削除または差し替え対象としました。

使用料・損害賠償請求への交渉

届いた請求書には、再生回数などを前提とした高額な使用料が記載されていました。

そこで、弁護士が代理人として介入し、次の観点から交渉を行いました。

1. 故意に無断利用したものではないこと

Lさんの会社は、楽曲を無断で使ってよいと開き直っていたわけではなく、アプリ内で選択できる楽曲であることから、商用利用も許されると誤認していました。

もちろん、誤認があれば責任を免れるとは限りません。
しかし、悪質な権利侵害ではないこと、指摘後直ちに削除したこと、再発防止策を講じたことは、和解交渉上重要な事情になります。

2. テレビCMと同じレートで算定することが相当か

権利者側は、企業の宣伝利用であることを理由に、高額な広告利用料を前提とした請求をしていました。

しかし、SNS投稿の実態、投稿期間、広告配信の有無、再生回数、地域性、店舗規模などを踏まえると、テレビCMと同じようなレートで算定することが相当とは限りません。

そこで、Web動画広告としての相場、投稿実態、早期削除、再発防止策などを踏まえ、包括的な和解金での解決を提案しました。

3. 再発防止策を提示する

権利者との交渉では、単に金額を争うだけでなく、今後同じ問題を起こさない体制を示すことも重要です。

今回のケースでは、次の再発防止策を提示しました。

  • 商用利用不可音源を使った過去動画の削除
  • 企業アカウントで使用できる音源ルールの策定
  • 投稿前チェックフローの導入
  • 商用楽曲ライブラリまたは権利処理済み音源のみ使用する運用への変更
  • スタッフ向けSNS研修の実施
  • 外部制作会社との契約条項の見直し

その結果、当初請求額から大幅に減額された和解金で解決することができました。

今後はTikTokの商用楽曲ライブラリを使う

TikTokで企業が音楽を使えないわけではありません。

TikTokには、企業やブランドが商用利用できる楽曲を集めた「商用音楽ライブラリ」が用意されています。TikTokの公式ヘルプでも、商用音楽ライブラリは商用利用が許可された多数の楽曲を集めたライブラリであり、動画広告、ブランドコンテンツ、商業的な投稿では商用音楽ライブラリを使用する必要があると説明されていますウェブ。

そのため、L社には、今後のTikTok運用について次のルールを設けるよう助言しました。

  • 企業アカウントでは、原則として商用楽曲ライブラリ内の音源のみ使用する
  • 一般楽曲ライブラリの流行曲は使用しない
  • スタッフ個人の感覚で音源を選ばない
  • 広告配信に使う動画は、必ず事前に法務・広報責任者が確認する
  • TikTokで使える音源を、InstagramやYouTubeショートにそのまま転用しない
  • 他SNSにも投稿する場合は、プラットフォーム横断で使える権利処理済み音源を使用する

特に注意すべきなのは、TikTokで商用利用できる音源であっても、そのままInstagramやYouTubeショートで使えるとは限らない点です。

プラットフォームごとに音源のライセンス条件は異なるため、1本の動画を複数SNSに投稿する場合は、最初から複数媒体で利用可能な音源を選ぶ必要があります。

Instagramリールでも同様に注意が必要

Instagramでも、ビジネスアカウントや企業の宣伝投稿では、利用できる楽曲が制限されることがあります。

Instagramの音楽機能も、個人利用と商用利用で扱いが異なります。
ビジネスアカウントで一般の人気楽曲を使った投稿を行うと、動画のミュート、削除、アカウント制限、権利者からの請求につながる可能性があります。

Instagramで企業が音楽を利用する場合は、次のような対応が必要です。

  • Instagram上で商用利用可能な音源を選ぶ
  • Metaの提供する商用利用可能な音源を確認する
  • 外部のロイヤリティフリー音源を使用する
  • 自社で制作したオリジナル音源を使用する
  • 有名曲を使う場合は、著作権・原盤権の許諾を個別に取得する

「TikTokで使えたからInstagramでも使える」という運用は避けるべきです。

有料素材サイトやオリジナル音源の活用

企業アカウントで安全にSNS動画を運用するには、次のような音源を使うことが現実的です。

1. 商用利用可能なSNS公式ライブラリ

TikTokであれば商用音楽ライブラリを利用します。
InstagramやFacebookでは、ビジネス利用に対応した公式音源やサウンドコレクションを確認します。

ただし、利用できる範囲は各プラットフォーム内に限定される場合があります。

2. 有料素材サイトの音源

Audiostock、Artlist、Epidemic Soundなど、商用利用ライセンスが明確な音源サービスを利用する方法です。

この場合も、次の点を確認する必要があります。

  • SNS投稿に使えるか
  • Web広告に使えるか
  • 店舗広告に使えるか
  • 複数媒体で使えるか
  • 利用期間の制限があるか
  • クレジット表記が必要か
  • 二次利用や編集が認められるか

「ロイヤリティフリー」と書かれていても、利用範囲に制限があることがあります。

3. 自社オリジナル音源

最も安全性が高いのは、自社でオリジナル音源を制作する方法です。

美容室チェーンであれば、ブランドイメージに合う短いジングルやBGMを制作し、TikTok、Instagram、YouTube、Web広告で共通利用することも考えられます。

ただし、外部作曲家や制作会社に依頼する場合は、契約書で次の点を明確にしておく必要があります。

  • 著作権の譲渡または利用許諾の範囲
  • 原盤権の帰属
  • SNS、Web広告、店内放送などでの利用可否
  • 利用期間
  • 利用地域
  • 改変・編集の可否
  • 第三者権利を侵害していないことの保証

「踊ってみた」動画には振付の権利も関係する

音源だけでなく、振付にも注意が必要です。

スタッフが流行曲に合わせて踊る動画では、楽曲の権利だけでなく、振付が著作物として保護される可能性があります。

特に、有名アーティストのダンス、ミュージックビデオの振付、ダンスチャレンジとして広まっている振付を、企業アカウントが店舗宣伝に使う場合には、次の点を確認する必要があります。

  • 振付が創作性のある著作物と評価される可能性
  • 振付師や所属事務所が利用を管理しているか
  • 商用利用が許諾されているか
  • 企業広告での利用が禁止されていないか
  • 楽曲だけでなくダンス自体がブランドの宣伝に使われていないか

「みんなが踊っているから使ってよい」とは限りません。
個人の投稿として黙認されているものでも、企業広告として使うと権利者から問題視される可能性があります。

外部制作会社に依頼する場合の注意点

SNS動画の制作を外部会社に依頼している場合でも、権利侵害が起きれば、企業アカウントの運営者である広告主が請求を受けることがあります。

そのため、制作委託契約では、少なくとも次の内容を定める必要があります。

  • 使用する楽曲・効果音・画像・映像素材は権利処理済みのものに限定する
  • 商用利用可能な範囲を事前に確認する
  • TikTok、Instagram、YouTube、広告配信など利用媒体を明記する
  • 第三者の著作権、著作隣接権、肖像権、パブリシティ権を侵害しないことを保証させる
  • 権利者から請求を受けた場合の対応・補償義務を定める
  • 納品時に利用素材一覧とライセンス情報を提出させる

「制作会社に任せていた」という説明だけでは、権利者への対応として不十分になることがあります。

企業SNS運用で確認すべきチェックポイント

企業がTikTokやInstagramリールで動画を投稿する場合、少なくとも次の点を確認する必要があります。

  • 企業アカウントで一般楽曲ライブラリの人気曲を使っていないか
  • 商用利用可能な音源であることを確認しているか
  • TikTokの商用音楽ライブラリ内の楽曲を使っているか
  • InstagramやYouTubeへ転用してもよい音源か
  • 市販音源やCD音源を外部から取り込んでいないか
  • JASRAC等の著作権だけでなく原盤権も確認しているか
  • 広告配信やキャンペーン投稿に使用していないか
  • スタッフが個人感覚で流行曲を選んでいないか
  • 振付やダンスにも権利リスクがないか
  • 投稿前のチェックフローがあるか
  • 過去動画の棚卸しを行っているか
  • 外部制作会社との契約で権利保証を取っているか
  • 権利者から通知が届いた場合の対応フローがあるか

まとめ:企業SNSでは「アプリで選べる曲=自由に使える曲」ではない

TikTokやInstagramでは、多くの楽曲がアプリ内で簡単に選べるため、自由に使えるように見えます。

しかし、企業アカウントが店舗や商品の宣伝のために楽曲を使う場合、それは商用利用と評価される可能性があります。
個人ユーザーの非営利投稿では問題になりにくい利用でも、企業の広告・宣伝投稿では、著作権、原盤権、著作隣接権、振付の権利などが問題になります。

特に注意すべきポイントは、次の3つです。

  1. アプリ内で選べる楽曲でも、企業の広告利用まで許されているとは限らない
  2. JASRAC等の著作権処理だけでは足りず、原盤権の許諾が必要になる場合がある
  3. TikTokで使える音源を、InstagramやYouTubeなど他のSNSに転用できるとは限らない

SNS運用を個人の感覚で行うと、後から権利者から高額な請求を受けることがあります。

企業アカウントで動画を投稿する場合は、商用利用可能な音源を使う、投稿前に権利チェックを行う、外部制作会社との契約で権利処理を明確にするなど、プロとしての権利管理体制を整えることが重要です。

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