美容クリニックのホームページやInstagramでは、施術前後の変化を示す「ビフォーアフター写真」や症例写真が、集患上重要な役割を果たすことがあります。
しかし、ビフォーアフター写真は、医療広告ガイドライン上、特に注意が必要な広告表現です。
必要な説明が不足したまま掲載していると、保健所から「医療広告ガイドライン違反の疑いがある」として、修正指導や掲載中止を求められることがあります。
今回は、実際に美容外科クリニックから相談を受けた事例をもとに、ビフォーアフター写真を削除せず、医療広告ガイドラインに適合する形で掲載を継続するための対応方法を解説します。
このページの目次
相談内容:保健所から「ビフォーアフター写真を修正・削除するように」と指導された
美容外科クリニックを開業して3年になるI医師から、次のようなご相談を受けました。
ホームページやInstagramに、二重整形や鼻整形などの症例写真を多数掲載していました。
ところが先日、管轄の保健所から連絡があり、「医療広告ガイドライン違反の疑いがあるため、直ちに修正するか、掲載を中止してください」と指導を受けました。
特に「詳しい説明のないビフォーアフター写真は禁止です」と言われています。
しかし、症例写真をすべて削除すると、新規患者の問い合わせが大きく減ってしまうのではないかと不安です。
写真を残したまま、適法に修正する方法はないのでしょうか。
美容医療では、患者が施術を検討する際に症例写真を参考にするケースが多くあります。
そのため、ビフォーアフター写真をすべて削除することは、クリニックの集患に大きな影響を与えかねません。
もっとも、医療広告ガイドラインに違反した状態で掲載を続けると、行政指導にとどまらず、報告命令、立入検査、中止命令などにつながるリスクもあります。
ビフォーアフター写真は「全面禁止」ではない
医療広告ガイドラインでは、治療等の内容や効果について患者に誤認を与えるおそれのあるビフォーアフター写真は、原則として広告できないものとされています。
もっとも、ビフォーアフター写真がすべて禁止されているわけではありません。
術前・術後の写真に、通常必要とされる治療内容、費用、主なリスク・副作用等の詳細な説明を付すことで、広告として掲載できる場合があります。
つまり、問題は「ビフォーアフター写真を載せていること」自体ではなく、写真だけを掲載し、治療内容・費用・リスク・副作用などの重要情報を十分に説明していないことにあります。
今回の違反ポイント:写真の下に「二重埋没法」としか書かれていなかった
I医師のクリニックのホームページを確認したところ、症例写真の下には、次のような簡単な記載しかありませんでした。
二重埋没法
このような表示では、患者にとって次の情報が分かりません。
- どのような施術なのか
- 費用はいくらかかるのか
- 治療期間や通院回数はどの程度か
- どのようなリスクや副作用があるのか
- 腫れや内出血、左右差などが生じる可能性があるのか
特に自由診療の美容医療では、費用やリスク・副作用に関する情報が不足すると、患者が施術内容や効果を誤認するおそれがあります。
そのため、写真の直下に施術名だけを記載する方法は、医療広告ガイドライン上、非常にリスクの高い掲載方法です。
解決策:症例写真ごとに必要情報を追記する
今回のケースでは、症例写真をすべて削除するのではなく、各症例写真の近くに必要な説明を追記する方針を取りました。
必要な情報を別ページにまとめて掲載するだけでは、患者が症例写真を見た際に十分な情報を確認できない可能性があります。
そのため、症例写真のすぐ近くに、患者が見落とさない形で情報を表示することが重要です。
具体的には、各症例写真の下に、以下のような項目を追加しました。
症例写真に併記すべき表示例
施術名
○○式二重埋没法
施術の説明
医療用の糸を使用して、まぶたに二重のラインを形成する施術です。切開を伴わず、患者様のまぶたの状態に応じてデザインを行います。
施術の価格
88,000円(税込)
※モニター価格を表示する場合には、通常価格・適用条件・追加費用の有無も併記します。
治療期間・回数
通常1回の施術です。
施術後の経過確認のため、必要に応じて再診を行う場合があります。
主なリスク・副作用
腫れ、内出血、痛み、感染、左右差、糸の露出、ラインの消失、再施術が必要となる可能性があります。
効果や経過には個人差があります。
ポイントは「リスク・副作用」を正直に書くこと
美容医療の広告では、どうしても「きれいになった」「変化が分かりやすい」といったメリットを前面に出しがちです。
しかし、医療広告ガイドライン上は、良い結果だけを強調し、リスクや副作用を小さく扱うことは問題となり得ます。
ビフォーアフター写真を掲載する場合には、治療内容や費用だけでなく、主なリスク・副作用も分かりやすく表示する必要があります。
特に美容医療では、以下のような記載漏れが起こりやすいため注意が必要です。
- 「腫れ」「内出血」だけでなく、感染や左右差なども記載しているか
- ダウンタイムの目安を記載しているか
- 効果には個人差があることを記載しているか
- 未承認医薬品・未承認医療機器を使用する場合に必要な説明をしているか
- モニター価格を表示する場合に、通常価格や条件を明示しているか
「ネガティブな情報を書くと患者が離れるのではないか」と考えて記載を避けると、かえって医療広告ガイドライン違反のリスクが高まります。
InstagramやSNSの症例写真にも注意が必要
今回のクリニックでは、ホームページだけでなくInstagramにも多数の症例写真が掲載されていました。
SNS投稿であっても、医療機関名や施術内容が分かり、患者の来院を誘引する内容であれば、医療広告として規制対象になり得ます。
そのため、Instagramの症例投稿についても、少なくとも次の点を確認する必要があります。
- 写真だけを掲載していないか
- 施術内容、費用、治療期間・回数、リスク・副作用を記載しているか
- 投稿文の中で効果を断定していないか
- 「必ず変わる」「誰でも自然に仕上がる」などの誇大表現がないか
- 写真を加工・修正していないか
- ハッシュタグやプロフィール欄の記載を含めて、全体として誤認を招かないか
ホームページを修正しても、SNSに違反表示が残っていると、引き続き指導対象となる可能性があります。
サイト全体の広告表現も併せてチェック
保健所から指導を受けた場合、問題はビフォーアフター写真だけとは限りません。
今回も、ホームページ全体を確認したところ、次のような表現が見つかりました。
NG表現1:「地域No.1」「最高峰の技術」
「地域No.1」「最高峰」「トップクラス」「最高水準」などの表現は、他の医療機関と比較して自院が優れていると受け取られる可能性があります。
客観的な根拠がないまま使用すると、比較優良広告や誇大広告として問題となるおそれがあります。
修正例
修正前
地域No.1の美容外科クリニック
最高峰の技術で理想の二重を実現
修正後
二重施術に対応している美容外科クリニックです。
患者様のまぶたの状態やご希望を踏まえ、施術方法をご提案します。
NG表現2:「キャンペーン!今だけ半額」
「今だけ半額」「期間限定キャンペーン」「大幅割引」などの表現は、医療広告において慎重な検討が必要です。
価格の安さを過度に強調すると、患者の冷静な判断を妨げる広告と評価される可能性があります。
また、モニター価格やキャンペーン価格を掲載する場合には、通常価格、適用条件、期間、追加費用の有無などを明確に表示する必要があります。
修正例
修正前
今だけ半額キャンペーン実施中!
修正後
モニター価格:88,000円(税込)
通常価格:132,000円(税込)
対象条件:症例写真の掲載に同意いただける方
適用期間:2026年○月○日から2026年○月○日まで
追加費用の有無:診察料・麻酔代を含みます。
NG表現3:患者の体験談をホームページに掲載している
美容医療では、患者の口コミや体験談を掲載したくなることがあります。
しかし、医療広告では、患者の主観または伝聞に基づく、治療等の内容または効果に関する体験談の広告は禁止されています。
仮に内容が事実であっても、治療効果に関する体験談を自院のホームページやSNSに掲載することは避けるべきです。
修正方針
- 治療効果に関する体験談はホームページから削除する
- 「二重になって人生が変わりました」などの主観的感想は掲載しない
- 口コミサイトの内容を自院HPに転載しない
- Googleマップ等の口コミへの誘導も、表示方法によっては慎重に検討する
- 接遇や設備に関する一般的な感想であっても、治療効果と結び付かないよう注意する
保健所への改善報告も重要
ホームページやSNSの修正が完了した後は、保健所に対して改善内容を報告しました。
今回のケースでは、弁護士が以下の内容を整理した改善報告書を作成しました。
- 指摘を受けた掲載箇所
- 修正前の表示内容
- 修正後の表示内容
- 医療広告ガイドライン上の検討内容
- 今後の再発防止策
- SNS投稿を含めた確認体制
単に「修正しました」と伝えるだけではなく、法令・ガイドラインを理解したうえで、適切に対応したことを示すことが重要です。
その結果、今回のケースでは、追加の立入検査や中止命令に進むことなく、行政指導への対応を完了することができました。
美容クリニックが医療広告で注意すべきチェックポイント
美容クリニックのホームページやLP、SNSを運用する際には、少なくとも以下の点を確認する必要があります。
- ビフォーアフター写真に、治療内容・費用・治療期間・回数・リスク・副作用を併記しているか
- 症例写真の近くに必要情報を表示しているか
- 費用を「○円〜」だけで表示していないか
- リスクや副作用を小さすぎる文字で表示していないか
- 写真の加工・修正により効果を強調していないか
- 「No.1」「最高」「絶対安全」などの表現を使っていないか
- 患者の体験談を掲載していないか
- SNS投稿も医療広告ガイドラインに適合しているか
- モニター価格やキャンペーン価格の条件を明確にしているか
- 保健所から指導を受けた場合の対応記録を残しているか
まとめ:ビフォーアフター写真は「削除」ではなく「適法な表示設計」が重要
美容クリニックのビフォーアフター写真は、医療広告ガイドライン上、慎重な対応が必要です。
しかし、必要な情報を適切に表示すれば、症例写真を活用しながら、患者にとって有益な情報提供を行うことは可能です。
重要なのは、次の3点です。
- 写真ごとに、治療内容・費用・治療期間・回数・リスク・副作用を分かりやすく表示すること
- 「地域No.1」「最高峰」「今だけ半額」など、誤認や過度な誘引につながる表現を避けること
- 保健所から指導を受けた場合には、速やかに修正し、改善報告まで丁寧に行うこと
美容医療の広告は、集患上重要である一方、医療広告ガイドライン、医療法、景品表示法、薬機法など、複数の規制が関係します。
自己判断で対応すると、修正したつもりでも違反状態が残ってしまうことがあります。
ホームページ、LP、Instagram、リスティング広告などを制作・公開する段階から、広告法務に詳しい弁護士によるチェックを受けることが、クリニック経営の安定につながります。

有森FA法律事務所は、「広告表現に不安があるけれど、何から始めていいか分からない」という方々の力になりたいと考えています。インターネット広告やSNSの普及で、広告に関する法律リスクも多様化してきました。広告チェックに関しては、全国からのご相談に対応しており、WEB会議や出張相談も可能です。地域を問わず、さまざまなエリアの事業者様からご相談をいただいています。身近な相談相手として、お気軽にご連絡ください。
