メタバース広告の法的リスク―企業がまず押さえるべき広告規制・アバター・知的財産の基本

0 はじめに

メタバースと呼ばれる仮想空間は、ゲームやエンターテインメントの領域を超え、企業の広告、販売促進、採用活動、イベント開催、店舗出店の場として急速に活用が広がっています。
現実世界では実現しにくい演出を行えること、国境や物理的距離を越えてユーザーと接点を持てること、若年層やデジタルネイティブ層に自然な形でブランドを訴求できることなどから、メタバースは新たなマーケティングチャネルとして注目されています。

もっとも、メタバースが「仮想空間」であるからといって、法律の適用を免れるわけではありません。むしろ、現実世界を前提として設計された法制度を、デジタル空間にどのように適用するのかという難しい問題が生じます。
広告表示、アバター、仮想店舗、NFT、スクリーンショット、動画配信、ユーザー生成コンテンツなど、メタバース広告には複数の法領域が交錯します。

本記事では、前編として、企業がメタバース内で広告活動を行う場合にまず押さえておきたい、広告規制、アバター利用、知的財産権に関する法的リスクを整理します。

1 メタバース広告にも景品表示法・薬機法等は適用される

メタバース内では、仮想ビルの壁面、イベント会場、アバターの衣装、バーチャル店舗、デジタルサイネージなど、さまざまな場所に広告を表示することができます。
現実世界でいえば、屋外看板、店舗広告、イベント協賛、プロダクトプレイスメントが一体化したような広告手法が可能になります。
では、メタバース内のバーチャル看板は、現実世界の屋外広告物法の規制を受けるのでしょうか。

一般に、屋外広告物法は現実の土地、建物、工作物等に掲出される広告物を想定した制度です。そのため、純粋な仮想空間内に表示される広告について、直ちに同法が適用されるとは考えにくい場面が多いといえます。
しかし、ここで注意すべきなのは、「屋外広告物法がそのまま適用されにくい可能性がある」ということと、「広告規制が一切及ばない」ということは全く別だという点です。

メタバース内の広告であっても、商品・サービスの品質、内容、価格、効果、実績等について消費者に訴求する以上、景品表示法の規制対象となり得ます。
たとえば、合理的根拠がないにもかかわらず、次のような表示を行う場合には注意が必要です。
①「業界No.1」
②「必ず痩せる」
③「誰でも短期間で高収入」
④「最先端技術で確実に効果が出る」
⑤「利用者満足度第1位」

これらの表示について、客観的な根拠がない場合には、優良誤認表示や有利誤認表示の問題が生じる可能性があります。
特にメタバース広告では、没入感の高い演出が可能です。アバターが商品を使用して劇的に変化する、仮想空間上で効果を視覚的に誇張する、ゲーム的な演出によって実際以上の効能を印象付けるといった広告表現は、ユーザーに強い印象を与える一方で、表示規制上のリスクも高まります。
また、健康食品、化粧品、医薬部外品、医療機器、医療サービス等に関する広告であれば、薬機法や医療広告規制にも注意が必要です。

メタバース内でアバターがサプリメントを飲んで急激に痩せる、肌が一瞬で若返る、病気が治るといった演出を行う場合、それが現実の商品・サービスの広告と結びついているのであれば、単なるファンタジー表現では済まされない可能性があります。
さらに、メタバースは国境を越えて利用されるため、どの国の広告規制が問題となるかも検討が必要です。少なくとも、日本国内の消費者に向けて日本語で広告を行い、日本国内で商品・サービスを提供する場合には、日本の消費者保護法規を前提としたチェックが不可欠です。

2 アバターを広告に使う場合の肖像権・パブリシティ権

メタバース広告の大きな特徴の一つが、アバターの活用です。
企業キャラクター、インフルエンサー、バーチャル店員、タレントを模した3Dモデル、ユーザー参加型キャンペーンなど、アバターは広告表現の中心的な素材となります。
もっとも、アバターを使用する場合には、次のような複数の権利が問題となります。
①肖像権
②パブリシティ権
③著作権
④商標権
⑤不正競争防止法上の利益
⑥名誉権
⑦プライバシー権

まず、実在する人物の容ぼうを精巧に再現したアバターを無断で作成・使用する場合、肖像権侵害が問題となります。
たとえば、芸能人、スポーツ選手、インフルエンサー、経営者、専門家など、特定の人物と分かるようなアバターを本人の許諾なく制作し、広告に登場させることは大きなリスクを伴います。

特に、著名人やタレントを模したアバターを広告に使用する場合には、パブリシティ権の問題が生じます。
パブリシティ権とは、人の氏名・肖像等が有する顧客吸引力を排他的に利用する権利をいいます。著名人に似せたアバターを広告塔として使用し、商品やサービスの販売促進に利用する場合、本人の許諾がなければパブリシティ権侵害と評価されるリスクがあります。
一方で、アバターそのものに、現実の自然人と同じ意味での肖像権やパブリシティ権が当然に認められるわけではありません。

アバターのデザインは、創作性があれば著作物として保護される可能性がありますが、そのアバターを操作しているユーザー本人とは別個の権利関係を持ち得ます。
たとえば、あるユーザーが市販のアバターデータを購入して利用している場合、そのアバターの著作権は制作者に残っていることがあります。この場合、ユーザーが自由に広告利用を許諾できるとは限りません。

したがって、企業が広告キャンペーンでアバターを使う場合には、少なくとも次の点を確認する必要があります。
①アバターのデザインについて、誰が著作権を有しているか
②広告利用、商用利用、二次利用、改変利用が許諾されているか
③実在の人物に似ていないか
④タレント、インフルエンサー、VTuber等を想起させないか
⑤ユーザー投稿アバターを広告に転用する場合、その同意を取得しているか
⑥アバターの利用が本人の名誉、信用、プライバシーを侵害しないか

また、一般ユーザーのアバターであっても、その背後には現実の利用者が存在します。
アバターを揶揄する広告、ユーザーの行動を誤認させる演出、本人の社会的評価を低下させるような表示は、名誉毀損やプライバシー侵害、不法行為の問題を生じさせる可能性があります。
メタバース上であっても、ユーザーの人格的利益への配慮は欠かせません。

3 仮想土地・仮想店舗・広告枠に「所有権」はあるのか

メタバース広告では、企業が仮想空間内の土地、建物、店舗、広告枠、イベントスペースなどを購入または利用するケースがあります。
中には、高額な費用を投じてバーチャル店舗を構築したり、NFTと結びついた仮想不動産を取得したりする事例もあります。
しかし、日本法上、メタバース内の土地や建物、広告枠について、民法上の「所有権」が当然に認められるわけではありません。
民法上の所有権は、原則として有体物、すなわち物理的に存在する物を対象とする権利です。仮想オブジェクトやデジタルデータは無体物であり、物理的な「物」ではありません。
この点は、企業にとって極めて重要です。

メタバース内の店舗や広告枠について「購入した」と表現されることがありますが、法的には、プラットフォーム運営者との契約に基づいて一定期間・一定範囲で利用できる地位を取得しているにすぎない場合が多いと考えられます。
そのため、次のようなリスクが生じます。
①プラットフォームがサービスを終了した場合、仮想店舗や広告枠が消滅する
②利用規約の変更により、広告表示の条件が変更される
③アカウント停止により、店舗や広告スペースにアクセスできなくなる
④仮想空間内のデータを他のプラットフォームに移行できない
⑤NFTを保有していても、著作権や商用利用権までは取得していない
⑥「土地」や「建物」と表現されていても、現実の不動産のような排他的支配が認められない

したがって、企業がメタバースに出店・広告出稿する場合には、利用規約や個別契約を精査することが不可欠です。
特に、次の事項は重点的に確認すべきです。
①サービス終了時の取扱い
②データのエクスポート可否
③広告枠の変更・撤去権限
④利用停止事由
⑤返金・補償の有無
⑥知的財産権の帰属
⑦二次利用の可否
⑧準拠法・裁判管轄

「高額の費用を支払ったから所有しているはずだ」という感覚は、メタバース上では危険です。
企業が取得しているのは、所有権ではなく、契約上の利用権である可能性が高いという前提で、契約上の保護をどこまで確保できるかを検討する必要があります。

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