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1 相談内容
ゲームアプリ開発会社のプロデューサーから、新作ゲームのSNS広告に使用したAI生成イラストについて相談を受けた事例です。
同社は、新作ゲームのプロモーション用に画像生成AIを利用し、キャラクター風のイラストを作成しました。その画像をSNS広告として配信したところ、ユーザーから次のような指摘が相次ぎました。
- 「人気アニメの〇〇のキャラにそっくり」
- 「これはトレースではないか」
- 「AIで既存キャラをパクったのでは」
- 「ゲーム会社として権利意識が低すぎる」
プロデューサーとしては、特定の作品名やキャラクター名をプロンプトに入力したわけではなく、既存作品を模倣する意図もなかったため、「依拠性がない以上、著作権侵害ではないのではないか」と考えていました。
| 項目 | 内容 |
| 相談者 | ゲームアプリ開発会社のプロデューサー |
| 問題となった素材 | 画像生成AIで作成したキャラクターイラスト |
| 利用媒体 | SNS広告 |
| 発生した問題 | 人気アニメのキャラクターに似ているとの指摘・炎上 |
| 会社側の認識 | 特定作品を模倣する意図はなかった |
| 主なリスク | 著作権侵害、差止請求、損害賠償、炎上、ブランド毀損 |
2 法的見解:AI生成物でも、著作権侵害の判断枠組みは変わらない
AI生成物であっても、人間が描いたイラストであっても、著作権侵害の基本的な判断枠組みは同じです。
文化庁の資料では、あるコンテンツの作成や利用が既存の著作物の著作権侵害となるかは、そのコンテンツを人が作成したか、AIにより生成されたかにかかわらず、既存の著作物との「類似性」と「依拠性」があるかによって判断されるとされています。
類似性とは、既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得できることをいいます。単に「雰囲気が似ている」「作風が似ている」「アイデアが共通している」というだけでは足りず、創作的表現が共通しているかが問題になります。
依拠性とは、既存の著作物に接して、それを自らの作品の中に用いることです。AI生成物についても、この要件は不要になるわけではありません。
| 要件 | 意味 | 本件での確認ポイント |
| 類似性 | 既存著作物の表現上の本質的特徴を直接感得できるか | キャラの髪型、衣装、配色、ポーズ、装飾、表情等が創作的に共通するか |
| 依拠性 | 既存著作物に接して、それを利用したといえるか | プロンプト、参考画像入力、担当者の認識、AI学習データ、生成過程 |
| 利用行為 | 複製、公衆送信、翻案等に当たるか | SNS広告として配信したこと |
| 権利制限 | 私的使用等に当たるか | 広告利用であり、通常は私的利用とはいえない |
3 「AIが勝手に似せた」は安全な反論ではない
本件で最も注意すべきなのは、「AIが勝手に生成したので当社に責任はない」という説明が、法的にも広報的にも安全とはいえない点です。
文化庁の資料では、AI生成物の場合の依拠性について、次のように整理されています。
- AI利用者が既存の著作物を認識していた場合
- AI利用者は既存の著作物を認識していないが、当該既存著作物がAI学習に用いられていた場合
- AI利用者が既存著作物を認識しておらず、かつAI学習にも用いられていなかった場合
このうち、AI利用者が既存の著作物を認識していなくても、その著作物がAI学習に用いられていた場合には、通常、依拠性があると推認されるという考え方が示されています。
また、AI利用者が既存著作物を認識していたといえる事情として、既存の著作物そのものを画像入力する場合や、既存作品のタイトル・キャラクター名などの特定の固有名詞をプロンプトに入力する場合が挙げられています。
| 事情 | 依拠性リスク |
| 既存キャラ画像を画像入力した | 非常に高い |
| 作品名・キャラ名・作家名をプロンプトに入れた | 高い |
| 担当者が既存作品を参考資料として共有していた | 高い |
| 生成物が既存作品と高度に類似している | 依拠性推認のリスク |
| AIの学習データに既存作品が含まれていた可能性 | 依拠性が推認される可能性 |
| プロンプトや生成過程を保存していない | 反論が困難 |
| 画像検索・類似性確認をしていない | 過失・管理不備と評価されやすい |
そのため、会社側が「プロンプトでは指定していない」と説明できたとしても、それだけでリスクがなくなるわけではありません。少なくとも、生成過程、プロンプト、使用したAIサービス、参考資料、社内レビュー履歴を確認し、既存作品との類似性を慎重に検討する必要があります。
4 商用広告での利用はリスクが高い
今回のAI生成画像は、社内検討用ではなく、SNS広告として外部に配信されていました。
文化庁の資料でも、AI生成物の生成自体が適法に行える場合でも、生成物をさらに利用しようとする場合には、著作権侵害を生じさせないか確認する必要があるとされています。特に、生成物の利用段階では、インターネットを介した送信等が既存著作物の権利侵害となり得ます。
ゲーム会社の広告画像は、単なる社内利用よりも、次の点でリスクが大きくなります。
| リスク | 内容 |
| 拡散性 | SNS広告は短時間で広範囲に拡散する |
| 商用性 | ゲームの集客・売上に直結する |
| 権利者の反応 | アニメ・ゲーム業界ではキャラクター権利管理が厳格 |
| ユーザー感情 | ファンコミュニティが敏感に反応する |
| 証拠化 | 炎上投稿や広告画像がスクリーンショットで残る |
| 二次被害 | 不買運動、レビュー荒らし、メディア報道につながる |
5 炎上対応:法的反論より先に広告を止めるべき
本件では、法的に著作権侵害が成立するかどうかの判断には時間がかかります。一方で、炎上は即時に拡大します。
ユーザーが「そっくりだ」と感じ、SNS上で比較画像が拡散されている状態で、会社が「法的には問題ありません」と強気に反論すると、かえって「開き直っている」「反省していない」と受け止められるおそれがあります。
そこで、F社には、次の対応を助言しました。
- 問題のSNS広告を即時停止する
- 広告画像を公式サイト・LP・アプリ内告知等からも削除する
- プロンプト、生成履歴、社内レビュー資料を保全する
- 類似性について社内外で再確認する
- 必要に応じて権利者側への説明・連絡を検討する
- 公式リリースで再発防止策を示す
この段階では、侵害を全面的に認める必要はありません。しかし、少なくとも、既存作品との類似性を指摘されたことを重く受け止め、ユーザーや関係者に不安・不快感を与えたことについて説明する必要があります。
6 謝罪・説明リリースの方針
F社には、次のトーンでリリースを作成するよう助言しました。
| 記載事項 | 内容 |
| 事実関係 | プロモーション画像に画像生成AIを使用したこと |
| 意図の説明 | 特定の作品・キャラクターを模倣する意図はなかったこと |
| 類似性指摘への対応 | 指摘を受け、広告配信を停止したこと |
| チェック体制の不備 | 既存作品との類似性確認が十分でなかったこと |
| 謝意・お詫び | ユーザーおよび関係者に不快感・不安を与えたことへの謝罪 |
| 再発防止 | AI生成物の利用ルール、確認フロー、レビュー体制を整備すること |
| 今後の対応 | 当該画像を使用しないこと、キャラクターデザインを変更すること |
7 リリース文案
当社が配信した新作ゲームのプロモーション画像について、既存作品のキャラクターとの類似性を指摘するご意見を多数いただいております。
当該画像は、制作工程の一部に画像生成AIを利用して作成したものです。当社として、特定の作品またはキャラクターを模倣する意図はなく、社内確認においてもそのような指示を行った事実は確認されておりません。
もっとも、広告素材として公開するにあたり、既存作品との類似性に関する確認が十分でなかった点は否定できず、ユーザーの皆様および関係者の皆様にご不安・ご不快の念をおかけしたことをお詫び申し上げます。
当社は、当該画像を使用した広告配信を停止し、今後当該画像を使用いたしません。また、対象キャラクターのビジュアルについては改めて制作・確認を行います。
今後は、生成AIを利用した素材制作に関する社内ガイドラインを整備し、既存作品との類似性確認、制作過程の記録保存、法務確認を徹底することで、再発防止に努めてまいります。
このようなリリースは、著作権侵害を全面的に自認するものではありません。一方で、ユーザーの懸念を軽視せず、会社として広告停止と再発防止に動いていることを示すものです。
8 強気に出る場合のリスク
F社が「法的に問題ない」と強く主張し続けた場合、次のリスクがありました。
| リスク | 内容 |
| 炎上拡大 | ユーザーから「開き直り」と受け止められる |
| 権利者対応 | 権利者が差止請求・警告書・声明を出す可能性 |
| メディア化 | ゲームメディアやまとめサイトで拡散 |
| 不買運動 | 事前登録・課金意欲の低下 |
| 採用・取引影響 | イラストレーター、声優、IPホルダーとの関係悪化 |
| 訴訟リスク | 類似性・依拠性が争点化し、長期化 |
| 証拠不利 | プロンプトや生成過程を保存していない場合、説明が困難 |
特にゲーム・アニメ領域では、法的結論だけでなく、ファンコミュニティの信頼が重要です。たとえ最終的に著作権侵害とまでは認定されない場合でも、炎上対応を誤ると、作品や会社のブランドに長期的なダメージが残ります。
9 今後のAI利用ガイドライン
F社では、今後も生成AIを活用したい意向があったため、社内ガイドラインを策定しました。
(1)禁止事項
| 禁止事項 | 理由 |
| 既存作品名・キャラクター名・作家名をプロンプトに入れる | 依拠性を推認されやすい |
| 既存キャラクター画像を画像入力する | 依拠性・類似性リスクが高い |
| 「〇〇風」「特定作家風」等の指定をする | 作風・表現模倣トラブルの原因 |
| 生成物を確認せず広告・SNSに使用する | 類似性・権利侵害を見落とす |
| プロンプトや生成履歴を削除する | 後日説明できなくなる |
| 主要キャラクターやキービジュアルにAI生成物をそのまま使う | 権利関係・著作物性・ブランド面のリスクが高い |
(2)利用時の必須フロー
| ステップ | 内容 |
| 1 | 利用目的を分類する:社内検討用か、外部公開用か |
| 2 | 使用するAIサービスの利用規約・商用利用条件を確認する |
| 3 | プロンプト、生成日時、生成結果、編集履歴を保存する |
| 4 | 生成物をGoogle画像検索、SNS検索、画像類似検索で確認する |
| 5 | 法務・知財担当が既存作品との類似性を確認する |
| 6 | 広告・キービジュアル等の重要素材は人間のイラストレーターに再制作させる |
| 7 | 公開後の指摘窓口と削除判断フローを決めておく |
(3)AI利用を避けるべき素材
| 素材 | 理由 |
| メインキャラクター | 作品の核となるため、権利帰属・独自性が重要 |
| キービジュアル | 広告露出が大きく、炎上時の影響が大きい |
| 課金アイテム画像 | 商用利用性が高く、紛争時の損害が大きい |
| コラボ企画素材 | 他社IPとの関係で特に慎重な確認が必要 |
| 長期利用予定の素材 | 将来の権利関係が不安定になりやすい |
10 解決結果
F社は、問題となったSNS広告を即時停止し、当該画像を今後使用しないことを決定しました。あわせて、公式リリースで、AI生成画像を使用した事実、特定作品を模倣する意図はなかったこと、類似性確認が不十分だったこと、再発防止策を公表しました。
結果として、一定の批判は残ったものの、「悪意あるパクリ」としての炎上は沈静化し、ゲーム本体への影響を最小限に抑えることができました。その後、問題となったキャラクタービジュアルは人間のイラストレーターにより再制作し、社内の法務・知財レビューを経て公開しました。
| 対応 | 結果 |
| SNS広告停止 | 炎上拡大を抑制 |
| 公式リリース | 意図の否定と再発防止を説明 |
| 画像差替え | 類似性リスクを排除 |
| プロンプト等の保全 | 将来の説明資料を確保 |
| 社内ガイドライン策定 | AI利用のルールを明確化 |
| 法務レビュー導入 | 外部公開素材の事前確認を義務化 |
11 弁護士のコメント
生成AIは、ゲーム開発や広告制作において強力なツールです。しかし、特にキャラクターイラストの領域では、既存作品との類似性が問題になりやすく、法的リスクと炎上リスクが重なります。
「AIが勝手に作った」「プロンプトで指定していない」という説明だけでは、十分な防御になりません。文化庁の整理でも、AI生成物については、既存著作物との類似性と依拠性があれば、通常の著作権侵害と同様に問題となり得ます。
企業がAI生成物を外部公開・広告利用する場合には、少なくとも次の対応が必要です。
- プロンプトと生成履歴を保存する
- 特定作品名・キャラ名・作家名を入力しない
- 既存画像を画像入力しない
- 画像検索・類似性チェックを行う
- 主要ビジュアルは人間のクリエイターによる制作・修正を入れる
- 法務・知財部門の確認を経てから公開する
- 炎上時の停止・説明・差替えフローを事前に決めておく
AIは便利ですが、商用利用する以上、「AIだから責任が軽くなる」わけではありません。むしろ、生成過程が見えにくいからこそ、企業側には記録保存、確認体制、説明責任が求められます。

有森FA法律事務所は、「広告表現に不安があるけれど、何から始めていいか分からない」という方々の力になりたいと考えています。インターネット広告やSNSの普及で、広告に関する法律リスクも多様化してきました。広告チェックに関しては、全国からのご相談に対応しており、WEB会議や出張相談も可能です。地域を問わず、さまざまなエリアの事業者様からご相談をいただいています。身近な相談相手として、お気軽にご連絡ください。
