楽天市場で二重価格表示を指摘された事例

1 相談内容

ECサイト運営会社の店長から、楽天市場の商品ページで行った二重価格表示について相談を受けた事例です。

同社は楽天スーパーセールに合わせ、目玉商品として、次のような表示を行いました。

通常価格10,000円
セール価格5,000円
50%OFF

ところが、楽天のコンプライアンス部門から「不当な二重価格表示の疑いがある」と警告を受け、商品ページが削除されました。店長は、最悪の場合、違反点数の付与、商品掲載制限、アカウント停止、退店処分につながるのではないかと不安を抱き、相談に来られました。

項目内容
相談者ECサイト運営会社の店長
出店先楽天市場
問題となった表示「通常価格10,000円→セール価格5,000円(50%OFF)」
指摘者楽天コンプライアンス部門
楽天側の対応商品ページ削除
主なリスク有利誤認表示、モール内ペナルティ、措置命令、課徴金
相談者の認識他店も同様の表示をしているのに、なぜ自社だけ指摘されたのか

2 法的見解:販売実績のない「通常価格」は使えない

二重価格表示とは、販売価格と、これより高い価格を併記して、販売価格の安さを強調する表示です。二重価格表示それ自体が直ちに違法になるわけではありません。

しかし、比較対照価格として表示する「通常価格」「当店通常価格」「セール前価格」などが実態と異なる場合、消費者に「通常より大幅に安い」と誤認させるおそれがあり、景品表示法上の不当表示、特に有利誤認表示として問題になります。

消費者庁は、価格表示は商品・サービス選択上最も重要な情報の一つであり、価格表示が適正に行われない場合には消費者の選択を誤らせることになるとして、二重価格表示に関する考え方を示しています。ウェブ

価格表示ガイドラインでは、同一の商品について「最近相当期間にわたって販売されていた価格」を比較対照価格とする場合には、不当表示に該当するおそれはない一方で、そのような価格とはいえない価格を比較対照価格に用いる場合には、内容を正確に表示しない限り、不当表示に該当するおそれがあるとされています。ウェブ

本件で問題となったのは、10,000円という「通常価格」に実績がなかったことです。

3 8週間ルールと2週間要件

過去の販売価格を比較対照価格として使う場合、実務上重要なのが、いわゆる「8週間ルール」です。

一般に、セール開始時点からさかのぼる直近8週間のうち、過半の期間、すなわち4週間以上、その価格で販売されていた場合には、「最近相当期間にわたって販売されていた価格」と評価されやすいとされています。ウェブ

また、これに加えて、当該価格での販売期間が通算2週間以上あること、最後にその価格で販売された日から2週間以上経過していないことも重要です。ウェブ

要件内容
直近8週間の過半セール開始前8週間のうち、過半の期間その価格で販売していたこと
通算2週間以上比較対照価格での販売期間が通算2週間以上あること
最終販売日から2週間以内その価格で最後に販売した日から2週間以上経過していないこと
同一商品であること比較対象価格は同一商品の価格であること
実際の販売価格であること架空の価格や一時的な見せかけ価格ではないこと

楽天市場でも、「当店通常価格」は、最近相当期間にわたって楽天市場のショップにおいて販売されていた価格を指し、直近2週間でその価格での販売実績があることに加え、過去8週間のうち合計4週間その価格で販売実績がある、または販売期間が8週間未満の場合には販売期間の過半かつ2週間以上の販売実績があることが条件と説明されています。ウェブ

4 本件の問題点

E社に販売履歴を確認したところ、10,000円で販売していたのは、セール直前の1週間だけでした。それ以前は、実際には6,000円前後で販売されており、10,000円で継続的に販売していた実績はありませんでした。

つまり、10,000円は実質的には「セール用に作った元値」であり、景品表示法上も、楽天市場のルール上も、比較対照価格として表示するには極めて危険な価格でした。

確認事項実際の状況評価
10,000円での販売期間セール直前の1週間のみ通算2週間要件を満たさない
直近8週間での販売実績過半に満たない8週間ルールを満たさない
通常販売価格実際は6,000円前後10,000円を通常価格とする根拠が弱い
50%OFF表示10,000円を前提に算出消費者に過大な割引感を与える
楽天側対応商品ページ削除モール規約違反として扱われる可能性

このような表示を見た消費者は、「通常は10,000円で販売されている商品が、今だけ5,000円で買える」と理解します。しかし、実際には10,000円で販売されていた実績が十分でなければ、その割引率は実態よりも大きく見せていることになります。

5 「他店もやっている」は理由にならない

相談者は、「他の店舗も同じような表示をしている」と話していました。

しかし、他店が同じような表示をしているように見えても、実際には販売実績を満たしている可能性があります。また、仮に他店も違反しているとしても、自社の違反が免責されるわけではありません。

ECモールでは、競合店からの通報、ユーザーからの問い合わせ、モール側の自動検知、セール前審査などによって、不当表示が発見されることがあります。特に大型セール時は、モール側も行政処分や消費者トラブルを避けるため、監視を強化する傾向があります。

したがって、「業界慣行」「他店もやっている」「売上のために必要」という理由で、実績のない通常価格を表示することは非常に危険です。

6 楽天への弁明と改善報告

楽天市場などのプラットフォームでは、景品表示法違反の疑いがある表示に対して、行政処分に至る前に自主的に商品ページの削除、掲載制限、違反点数、契約解除等の対応を行うことがあります。

楽天市場の二重価格表示に関する解説でも、違反がある場合、ランキング掲載制限、検索順位低下、媒体掲載制限、一時的な改装中措置、違反金徴収、契約解除などにつながり得るとされています。ウェブ

本件では、楽天側に対して、言い訳を重ねるのではなく、事実を認めたうえで、原因分析と再発防止策を提出する方針を取りました。

対応項目内容
事実確認販売履歴を確認し、10,000円での販売実績が不足していたことを認定
違反可能性の認識二重価格表示ルールの理解不足を説明
原因分析担当者の知識不足、販売実績確認フローの不存在を整理
即時対応問題表示の削除、同種表示の全件点検
改善計画二重価格表示チェックシートの導入
再発防止セール前に法務・責任者承認を必須化
証跡保存販売履歴、価格変更履歴、承認記録を保存

楽天側への報告では、次のようなトーンを取りました。

当社において販売実績を再確認した結果、当該商品について比較対照価格として表示した10,000円の販売実績が、貴社ルールおよび価格表示ガイドライン上求められる水準を満たしていない可能性があることを確認しました。
当社の確認体制が不十分であったことを重く受け止め、当該表示を停止し、同種商品の表示についても全件点検を行います。
今後は、二重価格表示チェックシートに基づき、販売実績を確認できた商品に限り、責任者承認を経てセール表示を行う運用に改めます。

ポイントは、「知らなかった」「他店もやっている」と反論するのではなく、モール側が安心できる具体的な改善策を示すことです。

7 行政処分リスク

今回は楽天からの警告で済みましたが、同じ表示が消費者庁や都道府県の調査対象になれば、措置命令や課徴金納付命令のリスクがあります。

景品表示法に違反した場合、措置命令により、一般消費者に与えた誤認の排除、再発防止策、同様の違反行為を行わないことなどが命じられる可能性があります。また、課徴金納付命令の対象となる場合、課徴金対象期間の売上額に一定率を乗じた金額が課されることがあります。ウェブ

2024年10月施行の改正景品表示法では、確約手続の導入、課徴金制度の見直し、優良誤認表示や有利誤認表示に対する直罰規定の新設なども整備されています。

EC事業者にとって、景品表示法違反は単なる広告表現の問題にとどまりません。モール内評価、検索順位、セール参加資格、アカウント継続、社名公表、課徴金に直結し得る重大なリスクです。

8 二重価格表示チェックシートの導入

E社には、今後、セール前に必ず確認するチェックシートを導入しました。

チェック項目確認内容
商品同一性比較対照価格とセール価格の商品が同一か
比較対照価格の種類当店通常価格、メーカー希望小売価格、参考小売価格等のどれか
販売履歴直近8週間の価格推移を確認したか
販売期間比較対照価格で過半期間販売していたか
2週間要件通算2週間以上その価格で販売していたか
最終販売日最後にその価格で販売した日から2週間以上経過していないか
セール期間二重価格表示を継続できる期間を確認したか
証跡保存RMS販売履歴、価格変更ログ、スクリーンショットを保存したか
承認者店長または法務担当が承認したか
代替表現要件を満たさない場合の別表現を検討したか

あわせて、セール後も二重価格表示を継続しすぎないよう、セール期間中も8週間ルールを満たし続けているかを確認する運用にしました。セール開始時点で条件を満たしていても、長期間セールを続けると、過去8週間の過半がセール価格での販売期間になり、通常価格を比較対照価格として表示し続けることが難しくなるためです。ウェブ

9 二重価格に頼らない販促表現への転換

E社には、今後のセール戦略として、二重価格表示に過度に依存しない販促方法を提案しました。

危険な表示例問題点代替表現例
通常価格10,000円→5,000円通常価格の実績が必要スーパーセール期間中 5,000円
50%OFF元値の根拠が必要期間限定特別価格
当店通常価格より半額通常価格の販売実績が必要クーポン利用で5,000円
メーカー希望小売価格10,000円公表された希望小売価格が必要ポイント○倍対象
業界最安値競合価格調査が必要送料無料・即日発送

二重価格表示を使わなくても、販促手法はあります。

  • クーポン配布
  • ポイント還元
  • 送料無料
  • セット販売
  • 期間限定特別価格
  • 数量限定販売
  • レビュー特典
  • リピーター限定割引
  • メルマガ限定クーポン
  • ポイントアップキャンペーン

これらの表現も景品表示法やモール規約に注意する必要はありますが、販売実績のない通常価格を作って「50%OFF」と表示するより、リスクを大幅に下げられます。

10 解決結果

本件では、E社が速やかに問題表示を削除し、楽天側に対して販売実績不足を認めたうえで、具体的な改善計画を提出しました。その結果、退店処分には至らず、当該商品ページの削除と改善指導にとどめる方向で収束しました。

さらに、E社ではセール前の広告表示チェックを顧問弁護士と行う運用に切り替え、販促カレンダー、クーポン企画、ポイント施策、LP表現を事前に確認する体制を整えました。

対応結果
問題表示の削除即時対応
楽天への改善報告再発防止策を提出
退店処分回避
同種商品の点検全商品ページを確認
チェックシート導入セール前の確認を義務化
販促戦略二重価格依存からクーポン・ポイント施策へ移行
顧問契約広告表示・セール企画を継続的に確認

11 弁護士のコメント

EC事業者にとって、「通常価格10,000円→5,000円」「50%OFF」という表示は非常に強い訴求力があります。しかし、その元値に販売実績がなければ、消費者に実際以上のお得感を与える表示になり、景品表示法上もモール規約上も大きなリスクになります。

特に楽天市場などのモールでは、景品表示法違反の疑いがある店舗を放置すれば、モール全体の信頼にも関わります。そのため、モール側は出店者に対して厳格なチェックとペナルティを課します。

「他店もやっている」「セールでは普通」という感覚ではなく、販売履歴を根拠に説明できるかが重要です。二重価格表示を行う場合は、必ず販売実績、価格変更履歴、販売期間、スクリーンショットを保存し、社内で承認を取ってから掲載すべきです。

一方で、売上を作るために必ず二重価格表示を使わなければならないわけではありません。クーポン、ポイント還元、期間限定特別価格、送料無料など、法的リスクを抑えながら訴求できる方法はあります。

EC事業では、広告表現の一つのミスが、商品ページ削除、セール参加停止、アカウント停止に直結します。セール前の表示チェックを仕組み化することが、売上を守るための最も現実的なリスク管理です。

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