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1 相談の背景
相談者は、健康食品販売会社の代表取締役であるB社長です。
B社は、自社開発のサプリメントをECサイトで販売していました。もともとは、健康維持や栄養補給を目的とした一般的な健康食品として販売していましたが、競合商品が増え、広告費も高騰する中で、売上が伸び悩んでいました。
そこでB社長は、ランディングページの訴求力を高めるため、広告表現を次第に強めていきました。最初は「毎日の健康をサポート」「年齢に負けない体づくり」といった表現でしたが、反応が良くないことから、やがて次のような表現を使うようになりました。
・免疫力を高めて癌細胞を攻撃する
・糖尿病の数値が下がる
・高血圧が改善する
・医師も注目する成分
・薬に頼らず病気を根本から改善
B社長自身も、これらの表現が薬機法上問題になり得ることは、薄々認識していました。しかし、「同じような広告を出している会社は他にもある」「注意が来たら修正すればよい」「健康被害が出ているわけではない」と考え、販売を続けていました。
ところがある日、警察署の生活安全課から電話がありました。
「御社のサプリメント広告について確認したいことがあります。任意でお話を伺いたいので、警察署まで来ていただけますか。」
B社長は、行政からの指導や広告媒体の審査落ち程度は想定していましたが、警察から直接連絡が来るとは考えていませんでした。「逮捕されるのか」「会社の商品は販売できなくなるのか」「取引先や従業員に知られたらどうなるのか」と不安になり、刑事事件対応を含めて弁護士に相談しました。
2 法的見解:健康食品でも「医薬品的効能効果」をうたうと薬機法違反になり得る
健康食品やサプリメントは、薬機法上、医薬品として承認されたものではありません。したがって、一般食品として販売する限り、医薬品のような疾病の治療・予防効果を表示することはできません。
問題となるのは、健康食品であるにもかかわらず、広告で医薬品的な効能効果を標ぼうした場合です。行政解釈上、ある物が医薬品に該当するかどうかは、成分本質、形状、表示された使用目的・効能効果・用法用量、販売方法、販売時の説明などを総合して判断されます。広告上、「がんに効く」「アトピーが治る」などの医薬品的効能効果を表示すれば、効能効果を有しない物であっても医薬品に該当すると判断され得ます。
健康食品で、病気の治療や予防に用いられることを目的とするような広告を出すと、その商品は薬機法上「未承認医薬品」と評価され、未承認医薬品の広告を禁止する薬機法第68条に違反する可能性があります。薬機法第68条は、承認を受けていない医薬品等について、その名称、製造方法、効能、効果または性能に関する広告を禁止しています。
B社のLPでは、「癌細胞を攻撃する」「糖尿病の数値が下がる」といった具体的な疾病名と治療・改善効果が表示されていました。これは単なる健康維持表現ではなく、疾病の治療・予防効果をうたう表現です。そのため、薬機法第68条違反が強く疑われる状況でした。
さらに、薬機法第68条違反は、単なる行政指導で終わる問題ではありません。未承認医薬品の広告を行った場合、2年以下の拘禁刑または200万円以下の罰金、またはその併科の対象となります。また、法人の業務に関して代表者や従業員が違反行為をした場合、法人にも罰金刑が科され得ます。
つまり、警察から連絡が来た段階では、「注意されたら直せばよい」という局面ではなく、刑事事件として捜査が進んでいる可能性を前提に対応する必要がありました。
3 警察から連絡が来たときの危険性
薬機法違反の広告については、行政機関による監視・指導だけでなく、悪質性が高いと判断されれば刑事事件化することがあります。
特に、次のような事情がある場合には、警察が動くリスクが高まります。
| リスク要素 | 本件での該当状況 |
| 具体的な疾病名を表示している | 癌、糖尿病などを明示 |
| 治療・予防・改善効果を断定している | 攻撃する、数値が下がる等の表現 |
| LPで広く一般消費者に表示している | EC販売用LPとして公開 |
| 売上獲得目的が明確 | 広告から購入導線に誘導 |
| 違法性を認識しながら継続した疑い | 社長が問題性を薄々認識 |
| 健康被害のおそれがある分野 | 疾病治療の機会を失わせる可能性 |
薬機法上の広告該当性は、一般に、顧客を誘引する意図が明確であること、特定の商品名が明らかであること、一般人が認知できる状態であること、という要件を満たす場合に認められます。インターネットサイト、折込チラシ、商品パッケージなど、媒体を問わず広告に該当し得ます。
B社のLPは、商品名を明示し、購入ボタンへ誘導し、一般消費者が閲覧できる状態にありました。そのため、薬機法上の広告に該当することはほぼ避けられません。
また、「本当に効果があると思っていた」「実際に愛用者の声がある」といった説明は、薬機法第68条違反の成否を左右する決定的な反論にはなりにくい点にも注意が必要です。未承認医薬品の広告規制では、虚偽・誇大であるかどうか以前に、承認を受けていない医薬品的効能効果を広告すること自体が問題となるためです。第68条は、虚偽・誇大ではなく事実であっても違法となる点に注意が必要とされています。
4 初動対応:広告停止と販売自粛
弁護士が最初に指示したのは、問題となっているLPの即時停止です。
警察が警戒するのは、証拠隠滅と違反行為の継続です。違法表現を含む広告を出し続け、販売も継続していれば、「反省していない」「再犯のおそれがある」「証拠を隠す可能性がある」と評価され、逮捕・勾留のリスクが高まります。
そこで、B社では、次の対応を直ちに実施しました。
| 対応 | 内容 |
| LPの停止 | 問題表現を含むランディングページを非公開化 |
| 広告配信の停止 | リスティング広告、SNS広告、アフィリエイト広告を停止 |
| 販売の一時自粛 | 該当商品の新規販売・出荷を停止 |
| 在庫の隔離 | 出荷可能在庫を封印し、販売再開まで管理 |
| 広告データの保全 | LP、広告文、配信履歴、売上データを保存 |
| 関係者ヒアリング | 誰が広告を作成・承認したかを確認 |
| 再発防止準備 | 広告審査フローの見直しに着手 |
ここで重要なのは、広告を削除するだけでなく、証拠保全も行うことです。警察から問い合わせを受けた後に、LPや広告データを完全に消去してしまうと、証拠隠滅と疑われるおそれがあります。そのため、外部公開は停止しつつ、社内ではスクリーンショット、HTMLデータ、広告配信履歴、修正履歴を保存しました。
そのうえで、弁護士から警察の担当者へ連絡し、問題広告はすでに停止し、販売も一時自粛していること、社長は出頭に応じる意思があること、関係資料も任意に提出する用意があることを伝えました。
この対応により、逃亡や証拠隠滅のおそれが低いことを示し、身柄拘束を避ける方向で交渉する土台を作りました。
5 取調べ対応:認めるべき事実と争うべき評価を分ける
警察署への出頭にあたっては、弁護士が事前にB社長と打ち合わせを行いました。
取調べで最も避けるべきなのは、場当たり的な弁解です。たとえば、明らかなLP表現が残っているにもかかわらず、「知らなかった」「自分は関与していない」「本当に効果があるから問題ない」といった説明をすると、反省がない、責任逃れをしている、悪質性が高いと受け取られる可能性があります。
一方で、すべてを無限定に認めることも適切ではありません。刑事事件では、どの広告を誰が作成したのか、社長がどの程度関与していたのか、故意の内容、販売数量、健康被害の有無、組織的な隠蔽の有無などが重要になります。
そこで、B社長には次の方針を助言しました。
【取調べ対応の基本方針】
・LPに問題表現が掲載されていた事実は争わない
・代表者として確認不足があったことは認める
・薬機法上問題がある可能性を認識しながら放置した点は反省を示す
・ただし、消費者をだまして金銭を詐取する意図はなかったことを説明する
・健康被害の申告がないこと、苦情対応履歴を整理して示す
・広告停止、販売自粛、再発防止策を具体的に説明する
弁護士からは、B社長の出頭意思、広告停止済みであること、販売を一時停止していること、会社として資料提出に協力することを警察に伝えました。あわせて、身柄拘束を伴わない在宅事件として捜査を進めるよう求めました。
6 行政対応も並行して行う
薬機法違反は、刑事事件としての捜査だけでなく、行政対応も問題になります。
未承認医薬品広告については、厚生労働省や都道府県が違反の疑いを探知した場合、調査を開始し、必要に応じて行政指導を行います。指導に従わない場合には、弁明の機会を経たうえで、違反広告の中止、再発防止措置、公衆衛生上の危険防止措置などを内容とする措置命令が出されることがあります。
B社では、警察対応と並行して、管轄の保健所・都道府県薬務課への対応も行いました。
具体的には、次の資料を整理しました。
| 資料 | 目的 |
| 問題広告の写し | どの表現が問題となったかを把握する |
| 広告停止の記録 | 違反状態を解消したことを示す |
| 販売自粛の記録 | 再発・継続販売のおそれがないことを示す |
| 販売数量・売上データ | 影響範囲を確認する |
| 苦情・健康被害申告の有無 | 消費者被害の有無を整理する |
| 再発防止策 | 今後の広告審査体制を説明する |
| 改訂後広告案 | 法令遵守型の販売再開案を示す |
行政対応では、単に「広告を消しました」と報告するだけでなく、なぜ違反表現が掲載されたのか、誰が広告を承認したのか、今後どのように広告審査を行うのかを説明することが重要です。
7 再発防止策の構築
B社では、刑事・行政対応と並行して、広告審査体制を抜本的に見直しました。
健康食品の広告では、病名、治療、予防、改善、数値の変化、医師の推薦、体験談、ビフォーアフターなどが特に問題になりやすい表現です。広告担当者が売上を優先し、薬機法の知識がないままLPを作成すると、同じ問題が繰り返されます。
そこで、次の再発防止策を導入しました。
| 施策 | 内容 |
| NG表現リストの作成 | 病名、治療、改善、予防、数値低下などの禁止表現を明文化 |
| 広告審査フロー | LP、SNS広告、メルマガ、同梱チラシを公開前に法務確認 |
| 外部専門家レビュー | 新規LP・大型キャンペーンは弁護士または薬事専門家が確認 |
| 承認権限の明確化 | マーケティング担当者単独で公開できない仕組みに変更 |
| アフィリエイト管理 | ASP・アフィリエイター向けに禁止表現を通知 |
| 証跡保存 | 広告案、修正履歴、承認記録を保存 |
| 社内研修 | 経営陣・広告担当者・CS担当者へ薬機法研修を実施 |
| 定期監査 | 公開中広告を定期的に棚卸し、違反表現を点検 |
特にアフィリエイト広告では、広告主自身が作成していない記事やランキングサイトに、医薬品的効能効果が記載されることがあります。薬機法の広告規制は「何人も」を対象としており、広告に関与する幅広い主体が規制対象になり得るため、広告主としても外部媒体を放置することは危険です。
8 解決結果
B社長は、弁護士の助言に従い、問題広告を即時停止し、販売を一時自粛し、警察への任意出頭にも誠実に応じました。
取調べでは、LP上の問題表現を認め、代表者として確認不足があったことを反省する一方、組織的な詐欺ではないこと、健康被害の申告がないこと、すでに広告停止と販売自粛を行っていること、再発防止策を進めていることを説明しました。
その結果、B社長は逮捕・勾留を免れ、在宅事件として捜査が進められました。最終的には略式手続による罰金刑で処理され、代表者が長期間不在となる最悪の事態は避けることができました。
会社としては大きな信用ダメージを受けましたが、販売停止中にパッケージ、LP、広告表現、アフィリエイト運用を全面的に見直し、法令を遵守した表現にリニューアルしました。その後、再発防止策を社内規程として整備し、広告公開前の審査体制を導入したうえで、事業を再開しました。
9 弁護士のコメント
薬機法違反は、「広告を直せば済む」問題ではありません。
健康食品やサプリメントで、癌、糖尿病、高血圧、アトピー、うつ、不眠などの具体的疾病名を出し、治療・予防・改善効果をうたう広告は、未承認医薬品の広告として薬機法第68条違反となるリスクがあります。違反した場合には、行政指導や措置命令だけでなく、刑事罰の対象にもなります。
警察から連絡が来た段階では、すでに広告のスクリーンショット、LPのURL、販売実績、決済情報などが確認されている可能性があります。その状態で、自己判断でLPを削除し、資料を消し、説明を先延ばしにすると、証拠隠滅や反省なしと見られるおそれがあります。
対応の基本は、次の3点です。
① 問題広告を直ちに停止し、販売継続を止める
② 証拠は消さずに保全し、弁護士を通じて捜査機関に協力する
③ 再発防止策を具体化し、行政対応も並行して進める
薬機法違反が疑われる広告は、売上を伸ばすどころか、代表者の逮捕、法人処罰、商品回収、広告停止、取引先離れ、会社の信用低下につながる重大リスクです。警察や行政から連絡があった場合は、個人で対応しようとせず、刑事事件と薬機法実務の双方に対応できる専門家に直ちに相談することが、会社と代表者を守るために不可欠です。

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